説明

高純度炭酸ジメチルの製造方法

高純度炭酸ジメチルの製造方法であって、以下の工程、
1ppmより高い塩素含有量を有する少なくとも一つの市販グレードの炭酸ジメチルを、+6℃〜-5℃の範囲の冷却温度、0.5℃/時〜2℃/時の範囲の冷却速度で操作して冷却にかけて、固体炭酸ジメチルを得る工程、
前記固体炭酸ジメチルを、-5℃〜+6℃の範囲の加熱温度、l℃/時〜5℃/時の範囲の加熱速度で操作して第一の加熱にかけて、固体炭酸ジメチル及び予定した量の液体炭酸ジメチルを含む混合物を得る工程、
前記液体炭酸ジメチルを前記混合物から分離する工程、
前記固体炭酸ジメチルを20℃〜40℃の範囲の加熱温度で操作して第二の加熱にかけて、液体炭酸ジメチルを得る工程であって、前記液体炭酸ジメチルが99.99%より高い純度及び1ppm以下の塩素含有量を有する工程、
を含む方法、及び
得られた炭酸ジメチルのリチウム電池の電解質の製造のための有機溶媒としての使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高純度炭酸ジメチルの製造方法に関する。
【0002】
具体的には、本発明は高純度炭酸ジメチルの製造方法に関し、特定の温度条件及び特定の冷却、加熱速度の下で操作して炭酸ジメチルを冷却、加熱サイクルにかけることを特徴とする。
【背景技術】
【0003】
前記の炭酸ジメチルはエレクトロニクス産業における有機溶媒として、具体的にはリチウム電池の電解質の製造のための有機溶媒として、特に有用である。
【0004】
本発明はまた、上述の方法から得られた炭酸ジメチルのエレクトロニクス産業における有機溶媒としての、具体的にはリチウム電池の電解質の製造のための有機溶媒としての使用に関する。
【0005】
炭酸ジアルキルは、精製化学製品、医薬品、プラスチック材料の合成のための重要な中間体であり、合成の潤滑剤、溶媒、可塑剤、有機ガラス用のモノマー、ポリカーボネートを含む様々なポリマーとして有用であることが知られている。
【0006】
特に、その低い毒性及び低い反応性の結果、炭酸ジメチル(DMC)は、溶媒の存在を必要とする多数の用途において環境影響の小さい流体として、例えばエレクトロニクス産業において使用されるフッ素を含む溶媒の置換分として、使用され得る。
【0007】
エレクトロニクスにおける用途、特にリチウム電池の電解質の製造のための溶媒としての用途には、高純度、すなわち99.99%より高い純度、の炭酸ジメチルの使用が必要であることが知られている。
【0008】
この点で、高純度の炭酸ジメチルの製造方法が技術的に知られている。
【0009】
例えば、中国特許出願第1944392号には高純度の炭酸ジメチルの精製方法が記載されており、その方法は以下の工程、
市販グレードの炭酸ジメチルを4℃の温度(すなわち、炭酸ジメチルの融点に一致する温度)まで冷却して、結晶性固体を得る工程、
結晶性固体が予定した量に達したときに冷却を停止して固体/液体混合物を得る工程、
前記固体/液体混合物中の液体を除去して結晶性固体を得る工程、
前記結晶性固体を加熱して液体の産物、すなわち99.99%より高い純度を有する炭酸ジメチル、を得る工程、
を含む。上記の方法で得た炭酸ジメチルは、リチウム電池の電解質の製造のための溶媒として有用であるとされている。
【0010】
韓国特許出願KR713141号には高純度の炭酸ジメチルを得る方法が記載されており、その方法は以下の工程、
アルキレン炭酸塩をメタノールとエステル交換して得た、質量で少なくとも85%の炭酸ジメチルを含む出発物質を、室温から-5℃〜-25℃の範囲の温度まで、0.05℃/分〜0.7℃/分の範囲の冷却速度で冷却して、溶媒無しで結晶体を得る工程、
前記結晶化から得た結晶を、10℃〜20℃の範囲の温度まで、0.1℃/分〜0.5℃/分の範囲の加熱速度で加熱して、前記結晶を部分的に融解すると同時に前記結晶中の不純物を除去して、少なくとも99%より高い純度を有する炭酸ジメチルを得る工程、
を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記の手順は、得られた炭酸ジメチル中に存在する塩素の量への言及がなされていない。
【0012】
本件出願人は、高純度、すなわち99.99%より高い純度、に加えて、1ppm以下の塩素含有量を有する炭酸ジメチルの製造方法を発見することを課題として考察してきた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本件出願人は、炭酸ジメチルを冷却、加熱サイクルにかけ、特定の温度条件及び特定の冷却、加熱速度の下で操作することにより、99.99%より高い純度(すなわち高純度)を有するのみでなく、1ppm以下の塩素含有量を有する炭酸ジメチルを得ることができることを発見した。この高い純度及び極めて低い塩素含有量(すなわち1ppm以下)は、前記炭酸ジメチルを、エレクトロニクス産業における有機溶媒として、具体的にはリチウム電池の電解質の製造のための有機溶媒として特に安定にする。
【0014】
従って、本発明の目的は高純度の炭酸ジメチルの製造方法に関し、その方法は以下の工程、
1ppmより高い、好ましくは10ppm〜100ppmの範囲、の塩素含有量を有する少なくとも一つの市販グレードの炭酸ジメチルを、+6℃〜-5℃の範囲、好ましくは+5℃〜-3℃の範囲の冷却温度、0.5℃/時〜2℃/時の範囲、好ましくは0.8℃/時〜1.5℃/時の範囲の冷却速度で操作して冷却にかけて、固体炭酸ジメチルを得る工程、
前記固体炭酸ジメチルを、-5℃〜+6℃の範囲、好ましくは-3℃〜+5℃の範囲の加熱温度、l℃/時〜5℃/時の範囲、好ましくは1.5℃/時〜4℃/時の範囲の加熱速度で操作して第一の加熱にかけて、固体炭酸ジメチル及び予定した量の液体炭酸ジメチルを含む混合物を得る工程、
前記液体炭酸ジメチルを前記混合物から分離して固体炭酸ジメチルを得る工程、
前記固体炭酸ジメチルを20℃〜40℃の範囲、好ましくは25℃〜35℃の範囲の加熱温度で操作して第二の加熱にかけて、液体炭酸ジメチルを得る工程であって、前記液体炭酸ジメチルが99.99%より高い純度及び1ppm以下の塩素含有量を有する工程、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、上記の方法の間の冷却液の温度及び炭酸ジメチルの温度の傾き(trend)を示す。縦軸は℃単位の温度を示し、横軸は時間単位の時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書及び以下の特許請求の範囲において、数値範囲の記述は、別に特定しない限りは、常に端の値を含む。
【0017】
本明細書及び以下の特許請求の範囲において、「市販グレード」とは98%〜99.95%の範囲の純度を有する炭酸ジメチルをいう。
【0018】
本明細書及び以下の特許請求の範囲において、「冷却温度」とは本発明の方法において用いられる冷却液の温度をいう。
【0019】
本明細書及び以下の特許請求の範囲において、「加熱温度」とは本発明の方法において用いられる冷却液の温度をいう。
【0020】
本発明の好ましい態様によると、前記冷却は1時間〜20時間の範囲、好ましくは5時間〜15時間の範囲の時間で実施され得る。
【0021】
本発明の好ましい態様によると、前記第一の加熱は2時間〜10時間の範囲、好ましくは3時間〜8時間の範囲の時間で実施され得る。
【0022】
本発明の好ましい態様によると、前記第一の加熱は、前記冷却にかけられた市販グレードの炭酸ジメチルが-2℃以上、好ましくは-1.8℃〜-1℃の範囲の温度に達したときに開始し得る。
【0023】
本発明の好ましい態様によると、前記液体炭酸ジメチルは、前記第一の加熱後に得られた混合物中に、出発材料としての市販グレードの炭酸ジメチルの総質量に関して質量で15%〜30%の範囲、好ましくは18%〜25%の範囲の量で存在し得る。
【0024】
出発材料としての市販グレードの炭酸ジメチル中に含まれる塩素は、一般に前記第一の加熱後に得られる混合物中に存在する液体炭酸ジメチル中に残ることに注意すべきである。
【0025】
本発明の好ましい態様によると、前記第一の加熱後に得られる混合物中に存在する液体炭酸ジメチルは、4ppm以上、好ましくは40ppm〜500ppmの範囲の塩素含有量を有する炭酸ジメチルである。
【0026】
固体炭酸ジメチルからの液体炭酸ジメチルの分離は、共に前記第一の加熱後に得られる混合物中に存在するが、前記液体炭酸ジメチルを上述の方法に用いられる装置から排出することによって実施される。
【0027】
上記方法は、例えば熱交換器、特にフィン付きチューブを備え付けた熱交換器のような技術的に知られている装置中で実施され得る。
【0028】
本発明はまた、上記の方法によって得られた炭酸ジメチルの、エレクトロニクス産業における有機溶媒として、特にリチウム電池の電解質の製造のための有機溶媒としての使用に関連する。
【0029】
本発明及びその態様をより理解するために、いくつかの実例となる非限定的な例を以下に提供する。
【実施例1】
【0030】
99.9%の純度及び15ppmの塩素含有量を有する4450kgの市販グレードの炭酸ジメチルを、フィン付きチューブを備え付けた熱交換器へ外殻(shell)側から供給した。これに対し、チューブ側は、フィン付きチューブの内側にある冷却液の温度を制御できる冷却装置に繋げる。
【0031】
供給の間、冷却液は22℃に保った。30分後、供給の最後に冷却液を20分で4.5℃の温度まで冷やして、炭酸ジメチルをこの温度で30分間放置した。
【0032】
続いて1℃/時の冷却速度で操作して冷却液を更に7時間で-2.5℃の温度まで冷やして、炭酸ジメチルをこの温度で3時間放置した。最後に、炭酸ジメチルは-1.5℃の温度に達して固体の形になる。
【0033】
続いて、3.5℃/時の加熱速度で操作して冷却液を2時間で4.5℃の温度まで加熱し、炭酸ジメチルをこの温度で5時間放置して、液体炭酸ジメチル(出発材料としての炭酸ジメチルの総質量に関して質量で22.4%)及び固体炭酸ジメチルを含む混合物を得た。70ppmの塩素含有量を有する液体炭酸ジメチルを、熱交換器から排出した。
【0034】
それから冷却液を40分間で30℃の温度まで加熱し、炭酸ジメチルをこの温度で4時間放置して、液体炭酸ジメチルを得た。99.99%の純度及び1ppm未満の塩素含有量を有するこの液体炭酸ジメチルを、熱交換器から排出した。
【0035】
純度はガスクロマトグラフ分析によって決定し、塩素含有量は標準ASTM D4929-07 (Method B)によって決定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度炭酸ジメチルの製造方法であって、以下の工程、
1ppmより高い塩素含有量を有する市販グレードの炭酸ジメチルを、+6℃〜-5℃の範囲の冷却温度、0.5℃/時〜2℃/時の範囲の冷却速度で操作して冷却にかけて、固体炭酸ジメチルを得る工程、
前記固体炭酸ジメチルを、-5℃〜+6℃の範囲の加熱温度、l℃/時〜5℃/時の範囲の加熱速度で操作して第一の加熱にかけて、固体炭酸ジメチル及び予定した量の液体炭酸ジメチルを含む混合物を得る工程、
前記液体炭酸ジメチルを前記混合物から分離して固体炭酸ジメチルを得る工程、
前記固体炭酸ジメチルを20℃〜40℃の範囲の加熱温度で操作して第二の加熱にかけて、液体炭酸ジメチルを得る工程であって、前記液体炭酸ジメチルが99.99%より高い純度及び1ppm以下の塩素含有量を有する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記市販グレードの炭酸ジメチルが10ppm〜100ppmの範囲の塩素含有量を有する、請求項1に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項3】
前記冷却が+5℃〜-3℃の範囲の冷却温度で操作して実施される、請求項1又は2に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項4】
前記冷却が0.8℃/時〜1.5℃/時の範囲の冷却速度で操作して実施される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項5】
前記第一の加熱が-3℃〜+5℃の範囲の加熱温度で操作して実施される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項6】
前記第一の加熱が1.5℃/時〜4℃/時の範囲の加熱速度で操作して実施される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項7】
前記第二の加熱が25℃〜35℃の範囲の加熱温度で操作して実施される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項8】
前記冷却が1時間〜20時間の範囲の時間で操作して実施される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項9】
前記冷却が5時間〜15時間の範囲の時間で操作して実施される、請求項8に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項10】
前記第一の加熱が2時間〜10時間の範囲の時間で操作して実施される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項11】
前記第一の加熱が3時間〜8時間の範囲の時間で操作して実施される、請求項10に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項12】
前記第一の加熱が前記冷却にかけられた市販グレードの炭酸ジメチルが-2℃以上の温度に達したときに開始される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項13】
前記第一の加熱が前記冷却にかけられた市販グレードの炭酸ジメチルが-1.8℃〜-1℃の範囲の温度に達したときに開始される、請求項12に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項14】
前記液体炭酸ジメチルが前記第一の加熱後に得られた混合物中に、出発材料としての市販グレードの炭酸ジメチルの総質量に関して質量で15%〜30%の範囲の量で存在する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項15】
前記液体炭酸ジメチルが前記第一の加熱後に得られた混合物中に、出発材料としての市販グレードの炭酸ジメチルの総質量に関して質量で18%〜25%の範囲の量で存在する、請求項14に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項16】
前記第一の加熱後に得られる混合物中に存在する前記液体炭酸ジメチルが4ppm以上の塩素含有量を有する炭酸ジメチルである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項17】
前記第一の加熱後に得られる混合物中に存在する前記液体炭酸ジメチルが40ppm〜500ppmの範囲の塩素含有量を有する炭酸ジメチルである、請求項16に記載の高純度炭酸ジメチルの製造方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法に基づいて得られた炭酸ジメチルの、エレクトロニクス産業における有機溶媒としての使用。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法に基づいて得られた炭酸ジメチルの、リチウム電池の電解質の製造のための有機溶媒としての使用。

【図1】
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【公表番号】特表2013−510132(P2013−510132A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537453(P2012−537453)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【国際出願番号】PCT/IB2010/002776
【国際公開番号】WO2011/055204
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512115977)ヴェルサリス ソシエタ ペル アチオニ (5)
【Fターム(参考)】