説明

高級脂肪酸金属塩ブロック

【課題】滑剤としての機能を損なうことなく、製造や使用に際して割れや欠けがなく、また、使用に際して、その磨耗量を調整することができ、かくして、ブロックの寿命を調整することもできる高級脂肪酸金属塩ブロックを提供する。
【解決手段】ヒドロキシ基を有していてもよい高級脂肪酸の金属石鹸であって、この高級脂肪酸金属石鹸における金属種が周期律表第2族元素、第12族元素又は第13族元素である高級脂肪酸金属石鹸100重量部に対して、酸性リン酸エステルの金属塩0.01〜10重量部を含有させてなる高級脂肪酸金属塩ブロックであって、上記酸性リン酸エステルの金属塩における金属種が周期律表第1族元素、第2族元素、第12族元素又は第13族元素の金属である高級脂肪酸金属塩ブロックが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高級脂肪酸金属塩ブロックに関し、詳しくは、静電複写機等の事務機やその他の精密機器等に高級脂肪酸金属石鹸の微粉末を滑剤として供給するために用いられる高級脂肪酸金属塩ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
静電複写機等の事務機において、滑剤、研磨剤、クリーニング助剤、現像助剤等として高級脂肪酸金属石鹸の微粉末が用いられている。このような高級脂肪酸金属石鹸の微粉末は、予め、高級脂肪酸金属石鹸をブロックとし、これをブラシにて削って微粉末として、事務機の必要箇所に所定量ずつ、供給する方式が採用されている。
【0003】
このような高級脂肪酸金属石鹸のブロックは、一般に、金属石鹸の微粒子を加熱溶融した後、所望形状の型中に注入し、冷却固化する溶融固化法によって製造されている。しかし、高級脂肪酸金属石鹸は、このような冷却固化の過程において収縮が大きく、特にアスペクト比の大きいブロックや異形のブロックの場合には、その冷却固化の過程においてクラックが生じ、割れるという問題がある。更に、従来、知られている高級脂肪酸金属石鹸のブロックは、機械的強度が非常に小さいので、使用時の応力や温度変化等によって、容易にひび・欠けや割れが発生する問題もある。
【0004】
そこで、これまで、このような問題を解決するために、例えば、高級脂肪酸金属石鹸100重量部にバインダーとして高級脂肪酸20〜50重量部を配合してなるブロックが提案されている(特許文献1参照)。しかし、このようなブロックは、バインダーとして多量の高級脂肪酸を含むので、この高級脂肪酸を配合した高級脂肪酸金属石鹸をブロックに成形する際に脂肪酸の熱劣化による着色や、金型等の成形器具の腐食を招来する問題がある。また、得られるブロックの硬度が低いので、使用時、その消耗が激しいという問題もある。
【0005】
また、高級脂肪酸金属石鹸100重量部にこれとは炭素原子数の異なる別の高級脂肪酸塩50重量部を配合してなるブロックも提案されている(特許文献2参照)。しかし、このようなブロックも、同様に、硬度が低いので、使用時、その消耗が激しいという問題がある。
【0006】
更に、高級脂肪酸金属石鹸100重量部とこれとは金属種の相違する別の高級脂肪酸金属石鹸100重量部の混合物からなるブロックが提案されている(特許文献3参照)。このようなブロックも、上述したブロックと同様、その硬度が低いので、使用時、その消耗が激しく、また、製造時の割れや欠けの発生も殆ど改善されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−110196号公報
【特許文献2】特開平10−110197号公報
【特許文献3】特開平10−110177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、潤滑剤としての機能を損なうことなく、製造や使用に際して割れや欠けがなく、また、硬度が高く、使用時、消耗が少なく、長寿命を有し、しかも、その磨耗量を調整することができ、かくして、ブロックの寿命を調整することもできる高級脂肪酸金属塩ブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、炭素原子上にヒドロキシ基を有していてもよいアルキル基の炭素原子数が7〜30の高級脂肪酸の金属石鹸であって、この高級脂肪酸金属石鹸における金属種が周期律表第2族元素、第12族元素又は第13族元素である高級脂肪酸金属石鹸100重量部に対して、
(a)一般式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1は炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜24のアリール基を示す。)で表される酸性リン酸エステルの金属塩と
(b)一般式(II)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R2及びR3はそれぞれ独立に炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜24のアリール基を示し、又はR2及びR3は共同して形成する環構造の有機基を示す。)で表される酸性リン酸エステルの金属塩
とから選ばれる少なくとも1種の酸性リン酸エステルの金属塩0.01〜10重量部を含有させてなる高級脂肪酸金属塩ブロックであって、上記酸性リン酸エステルの金属塩における金属種が周期律表第1族元素、第2族元素、第12族元素又は第13族元素の金属である高級脂肪酸金属塩ブロックが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明による高級脂肪酸金属塩ブロックは、上記高級脂肪酸金属石鹸100重量部に対して、上記酸性リン酸エステル金属塩を0.01〜10重量部の範囲で含有させてなるものであって、その微粉末が滑剤としての機能が何ら損なわれることなく、製造時及び使用時に割れや欠けがなく、また、硬度が高く、使用時、消耗が少なく、長寿命を有する。更に、高級脂肪酸金属石鹸に配合する酸性リン酸エステル金属塩の量や種類によって、使用時におけるブロックの磨耗量を調整することができ、かくして、ブロックの寿命を調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による高級脂肪酸金属塩ブロックは、高級脂肪酸金属石鹸を基剤とし、これに酸性リン酸エステルを添加剤として含有させてなるものである。
【0016】
本発明による高級脂肪酸金属塩ブロックにおいて、基剤は、炭素原子上にヒドロキシ基を有していてもよいアルキル基の炭素原子数が7〜30の高級脂肪酸の金属石鹸であって、この高級脂肪酸金属石鹸における金属種が周期律表第2族元素、第12族元素又は第13族元素である高級脂肪酸金属石鹸である。
【0017】
このような高級脂肪酸金属石鹸を構成する高級脂肪酸の脂肪族アルキル基は、ヒドロキシ基を有していてもよい炭素原子数7〜30、好ましくは、11〜22を有するものであって、直鎖状でも、分岐鎖状でもよい。従って、高級脂肪酸金属石鹸を構成する高級脂肪酸の好ましい具体例として、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、12−ヒドロキシステアリン酸等を挙げることができる。特に、本発明によれば、高級脂肪酸金属石鹸を構成する高級脂肪酸は、ステアリン酸、パルミチン酸、12−ヒドロキシステアリン酸及びベヘン酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
また、高級脂肪酸金属石鹸を構成する金属種の好ましい具体例として、例えば、周期律表第2族のマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、第12族の亜鉛、第13族のアルミニウム等を挙げることができる。特に、本発明によれば、基剤高級脂肪酸金属石鹸はカルシウム石鹸、マグネシウム石鹸、亜鉛石鹸及びアルミニウム石鹸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
従って、本発明において、高級脂肪酸金属石鹸の好ましい具体例として、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸マグネシウム、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム等を挙げることができる。
【0020】
更に、本発明によれば、基剤高級脂肪酸金属石鹸における金属種が2価又は3価であるときは、その塩基性塩も高級脂肪酸金属石鹸に含まれる。しかし、本発明において、基剤は、これら例示に限定されるものではない。
【0021】
本発明による高級脂肪酸金属塩ブロックにおいて、酸性リン酸エステルの金属塩は、
(a)一般式(I)
【0022】
【化3】

【0023】
(式中、R1は炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜24のアリール基を示す。)で表される酸性リン酸エステルの金属塩と
(b)一般式(II)
【0024】
【化4】

【0025】
(式中、R2及びR3はそれぞれ独立に炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜24のアリール基を示し、又はR2及びR3は共同して形成する環構造の有機基を示す。)で表される酸性リン酸エステルの金属塩
とから選ばれる少なくとも1種の酸性リン酸エステルの金属塩である。
【0026】
本発明においては、上記一般式(I)で表される酸性リン酸エステルの金属塩と上記一般式(II)で表される酸性リン酸エステルの金属塩は、入手の容易性から、通常、それらの混合物が好ましく用いられるが、しかし、必要に応じて、上記一般式(I)で表される酸性リン酸エステルの金属塩と上記一般式(II)で表される酸性リン酸エステルの金属塩のいずれか一方のみを用いてもよい。
【0027】
上記一般式(I)で表される酸性リン酸エステルにおいて、R1は炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜24のアリール基である。従って、上記一般式(I)で表される酸性リン酸エステルにおいて、R1がアルキル基であるとき、そのようなアルキル基の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、ヘキサコシル基又はオクタコシル基等を挙げることができる。炭素原子数3以上のアルキル基は、直鎖状でも、分岐鎖状でもよい。また、本発明においては、アルキル基は炭素原子数6〜30のシクロアルキル基も含むものとする。このシクロアルキル基は、炭素原子数1〜4のアルキル基を置換基として有していてもよく、従って、具体例として、例えば、シクロペンチル、メチルシクロペンチル、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0028】
また、上記一般式(I)で表される酸性リン酸エステルにおいて、R1がアリール基であるとき、このアリール基は、炭素原子数1〜4のアルキル基を置換基として有していてもよく、従って、上記アリール基の具体例として、例えば、フェニル、トリル、キシリル、ビフェニリル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等を挙げることができる。
【0029】
上記一般式(II)で表される酸性リン酸エステルにおいて、R2及びR3はそれぞれ独立に炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜24のアリール基を示し、又はR2及びR3は共同して形成する環構造の有機基を示す。R2及びR3がそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基であるとき、好ましくは、R2及びR3は同じアルキル基であるか、又は同じアリール基である。また、R2及びR3が共同して環構造の有機基を形成するとき、その環構造を有する有機基は、その環の一部に芳香核や脂環式の炭素環構造を含んでいてもよい。
【0030】
上記一般式(II)で表される酸性リン酸エステルにおいて、R2及びR3がそれぞれ独立にアルキル基であるとき、そのようなアルキル基の具体例として、例えば、前述したと同じく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、ヘキサコシル基又はオクタコシル基等を挙げることができる。炭素原子数3以上のアルキル基は、直鎖状でも、分岐鎖状でもよい。また、本発明においては、アルキル基は炭素原子数6〜30のシクロアルキル基も含むものとする。このシクロアルキル基は、炭素原子数1〜4のアルキル基を置換基として有していてもよく、従って、具体例として、例えば、シクロペンチル、メチルシクロペンチル、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0031】
また、上記一般式(II)で表される酸性リン酸エステルにおいて、R2及びR3がそれぞれ独立にアリール基であるとき、このアリール基は、炭素原子数1〜4のアルキル基を置換基として有していてもよく、従って、上記アリール基の具体例として、例えば、前述したと同じく、フェニル、トリル、キシリル、ビフェニリル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等を挙げることができる。
【0032】
上述したように、一般式(I)又は一般式(II)で表される酸性リン酸エステルにおいて、R1、R2又はR3がそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基である酸性リン酸エステルや、また、そのような酸性リン酸エステルの混合物である酸性リン酸エステルの具体例として、例えば、メチルアシッドホスフェート(モノメチルエステル、ジメチルエステル、又はモノメチルエステルとジメチルエステルとの混合物)、エチルアシッドホスフェート(モノエチルエステル、ジエチルエステル、又はモノエチルエステルとジエチルエステルとの混合物)、イソプロピルアシッドホスフェート(モノイソプロピルエステル、ジイソプロピルエステル、又はモノイソプロピルエステルとジイソプロピルエステルとの混合物)、ブチルアシッドホスフェート(モノブチルエステル、ジブチルエステル、又はモノブチルエステルとジブチルエステルとの混合物)、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート(モノ−2−エチルヘキシルエステル、ジ−2−エチルヘキシルエステル、又はモノ−2−エチルヘキシルエステルとジ−2−エチルヘキシルエステルとの混合物)、イソデシルアシッドホスフェート(モノイソデシルエステル、ジイソデシルエステル、又はモノイソデシルエステルとジイソデシルエステルとの混合物)、ラウリルアシッドホスフェート(モノラウリルエステル、ジラウリルエステル、又はモノラウリルエステルとジラウリルエステルとの混合物)、トリデシルアシッドホスフェート(モノトリデシルエステル、ジトリデシルエステル、又はモノトリデシルエステルとジトリデシルエステルとの混合物)、ステアリルアシッドホスフェート(モノステアリルエステル、ジステアリルエステル、又はモノステアリルエステルとジステアリルエステルとの混合物)、イソステアリルアシッドホスフェート(モノイソステアリルエステル、ジイソステアリルエステル、又はモノイソステアリルエステルとジイソステアリルエステルとの混合物)、オレイルアシッドホスフェート(モノオレイルエステル、ジオレイルエステル、又はモノオレイルエステルとジオレイルエステルとの混合物)、ベヘニルアシッドホスフェート(モノベヘニルエステル、ジベヘニルエステル、又はモノベヘニルエステルとジベヘニルエステルとの混合物)、リン酸フェニル(モノフェニルエステル、ジフェニルエステル、又はモノフェニルエステルとジフェニルエステルとの混合物)、リン酸p−トリル(モノ−p−トリルエステル、ジ−p−トリルエステル、又はモノ−p−トリルエステルとジ−p−トリルエステルとの混合物)、リン酸4−プロピルフェニル(モノ−4−プロピルフェニルエステル、ジ−4−プロピルフェニルエステル、又はモノ−4−プロピルフェニルエステルとジ−4−プロピルフェニルエステルとの混合物)、リン酸n−ブチルフェニル(モノ−n−ブチルフェニルエステル、ジ−n−ブチルフェニルエステル、又はモノ−n−ブチルフェニルエステルとジ−n−ブチルフェニルエステルとの混合物)、リン酸t−ブチルフェニル(モノ−t−ブチルフェニルエステル、ジ−t−ブチルフェニルエステル、又はモノ−t−ブチルフェニルエステルとジ−t−ブチルフェニルエステルとの混合物)、リン酸シクロヘキシル(モノシクロヘキシルエステル、ジシクロヘキシルエステル、又はモノシクロヘキシルエステルとジシクロヘキシルエステルとの混合物)、リン酸4−エチルシクロヘキシル(モノ−4−エチルシクロヘキシルエステル、ジ−4−エチルシクロヘキシルエステル、又はモノ−4−エチルシクロヘキシルエステルとジ−4−エチルシクロヘキシルエステルとの混合物)、リン酸4−n−ブチルシクロヘキシル(モノ−4−n−ブチルシクロヘキシルエステル、ジ−4−n−ブチルシクロヘキシルエステル、又はモノ−4−n−ブチルシクロヘキシルエステルとジ−4−n−ブチルシクロヘキシルエステルとの混合物)、リン酸メチルフェニル等を挙げることができる。
【0033】
更に、前記一般式(II)で表される酸性リン酸エステルにおいて、R2及びR3が共同して環構造の有機基を形成している酸性リン酸エステルの具体例として、例えば、一般式(III)
【0034】
【化5】

【0035】
(式中、R4は水素原子又は炭素原子数1〜8のアルキル基を示し、R5は炭素原子数4〜8のアルキル基を示し、Xは炭素原子数1〜4のアルキリデン基を示す。)で表されるものを挙げることができる。
【0036】
本発明において、上述したような種々の酸性リン酸エステルの金属塩を構成する金属種は、周期律表第1族元素、第2族元素、第12族元素又は第13族元素の金属であり、好ましくは、第1族元素であるリチウム、ナトリウム、カリウム、第2族元素であるカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、第12族元素である亜鉛又は第13族元素であるアルミニウムである。なかでも、本発明によれば、酸性リン酸エステルの金属塩は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩及びアルミニウム塩から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0037】
従って、本発明によれば、酸性リン酸エステル金属塩の好ましい具体例として、例えば、マグネシウムステアリルアシッドホスフェート、カルシウムステアリルアシッドホスフェート、亜鉛ステアリルアシッドホスフェート、アルミニウムステアリルアシッドホスフェート等を挙げることができる。
【0038】
特に、前記一般式(III)で表される酸性リン酸エステルの金属塩の具体例としては、例えば、ナトリウム塩やアルミニウム塩を挙げることができる。例えば、ナトリウム2,2’−メチレンビス(4,6’−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェートやアルミニウム2,2’−メチレンビス(4,6’−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェートは上記酸性リン酸エステルの金属塩の好ましい具体例の1つである。
【0039】
本発明において、酸性リン酸エステル金属塩における金属種が2価又は3価であるときは、その塩基性塩も酸性リン酸エステル金属塩に含まれる。しかし、本発明において、酸性リン酸エステル金属塩は、上記例示に限定されるものではない。
【0040】
本発明による高級脂肪酸金属塩ブロックは、基剤高級脂肪酸金属石鹸100重量部に対して、上述した酸性リン酸エステルの金属塩を添加剤として0.01〜10重量部の範囲で含有し、好ましくは、基剤と添加剤からなり、後者の割合は、前者100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲である。
【0041】
基剤高級脂肪酸金属石鹸100重量部に対して、添加剤酸性リン酸エステルの金属塩の配合量が0.01重量部より少ないときは、得られるブロックにひびや割れが生じたり、外観が不均一となることがある。他方、10重量部を超えるときは、基剤に添加剤が均一に分散しないことがあり、従って、得られるブロックが白濁したり、外観が悪化することがある。また、得られるブロックの硬度が低くなり、使用時、消耗が大きく、寿命が短い。
【0042】
本発明による高級脂肪酸金属塩ブロックは、高級脂肪酸金属石鹸を主成分たる基剤とし、これに少量の酸性リン酸エステル金属塩を添加剤として配合したものであり、硬度が高く、製造時及び使用時に割れや欠けがなく、また、基剤に配合する添加剤の量や種類によって、使用時における磨耗量を調整し、かくして、ブロック寿命を調整することができる。その理由は以下のように推定される。
【0043】
即ち、基剤高級脂肪酸金属石鹸が溶融状態から冷却されるとき、基剤のみでは、徐々に結晶化せず、結晶成長が不均一であり、従って、結晶度が不均一の結晶を生成して、得られるブロックにひびや割れが生じたり、また、不均一な外観を有することとなる。しかし、本発明に従って、主成分である基剤に前記添加剤を少量配合し、均一に混合して、かくして、得られる混合物は、その溶融状態から冷却されるとき、内部において、上記添加剤が均一に分散された多数の安定な結晶核となって、均一な結晶が形成され、その結果、得られるブロックに割れや欠けが生じないものとみられる。
【0044】
更に、本発明による高級脂肪酸金属塩ブロックは、硬度が高いのみならず、使用時においても、機械的強度にすぐれることから、割れや欠けを生じず、長寿命を有し、しかも、添加剤の量を調節することによって、得られるブロックの硬度を調節して、その磨耗量を調整することができ、かくして、本発明によれば、ブロック寿命を調整することができる。即ち、本発明による高級脂肪酸金属塩ブロックによれば、製造時の成形収率の向上と使用時における長寿命化を実現することができる。
【0045】
本発明による高級脂肪酸金属塩ブロックは、その製造方法において何ら限定されるものではなく、例えば、基剤に所定割合の添加剤を加えてなる混合物を加熱、溶融させた後、所望の金型に注入し、冷却、固化させれば、目的とする高級脂肪酸金属塩ブロックを得ることができる。また、上記混合物を加熱、溶融させた後、一定の圧力と速度で所望の射出成形用金型のキャビティーに射出することによっても、目的とする高級脂肪酸金属塩ブロックを得ることができる。更には、上記混合物を加温した型内に投入し、必要に応じて、減圧及び加温しながら圧縮することによっても、目的とする高級脂肪酸金属塩ブロックを得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。以下において、「部」は重量部を表す。
【0047】
実施例1〜56
表1から表7に示すように、基剤高級脂肪酸金属石鹸に種々の酸性リン酸エステル金属塩を添加剤として配合し、得られた混合物を用いて、下記のようにして、高級脂肪酸金属塩ブロックに成形した。
【0048】
比較例1〜7
表8に示すように、基剤のみを用いて、前記実施例と同様にして、ブロックに成形した。
【0049】
上記実施例及び比較例における各ブロックの製造に際して、ブロックへの成形性と得られたブロックの磨耗性を下記のようにして評価した。結果を表1から表8に示す。
【0050】
各表において、基剤及び添加剤は次のものを意味する。
基剤a:ステアリン酸亜鉛(堺化学工業(株)製SZ−T)
基剤b:12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛(堺化学工業(株)製SZ−120H)
基剤c:ベヘン酸亜鉛(発明者らの合成品)
基剤d:ステアリン酸マグネシウム(堺化学工業(株)製SM−1000)
基剤e:ステアリン酸カルシウム(堺化学工業(株)製SC−100)
基剤f:ステアリン酸アルミニウム(堺化学工業(株)製SA−1000)
【0051】
添加剤A:亜鉛ステアリルアシッドホスフェート(堺化学工業(株)製LBT1830)
添加剤B:ナトリウム2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート(発明者らの合成品)
添加剤C:アルミニウムステアリルアシッドホスフェート(堺化学工業(株)製LBT1813)
添加剤D:カルシウムステアリルアシッドホスフェート(堺化学工業(株)製LBT1820)
添加剤E:マグネシウムステアリルアシッドホスフェート(発明者らの合成品)
添加剤F:亜鉛ステアリルアシッドホスフェート(堺化学工業(株)製LBT−Fine)
添加剤G:ナトリウムジ−p−トリルアシッドホスフェート(和光純薬(株)製)
【0052】
(成形方法)
特開平7−26278号に記載された方法に従って、高級脂肪酸金属石鹸ブロックを成形した。即ち、中央に縦方向に複数の締め付けボルト孔を有する矩形状の厚手のアルミニウム板の表面に上記締め付けボルト孔を挟んで両側に幅5mm、深さ5mm、長さ400mmの溝をそれぞれ5本ずつ計10本刻設して金型とした。この金型10枚と表面にヒーター挿入口を有するヒーター挿入用板3枚と平板1枚とを金型の表面が他の金型の平滑な裏面又は他の板の平滑な裏面に当るようにして組み合わせて並べ、ボルトにて締め付けて、合計100本の高級脂肪酸金属塩ブロックが成形できるように金型の列に組み立てた。この際、ヒーター挿入用板は、それぞれ金型の裏面に当たるようにし、金型の列の一方の端部のヒーター挿入用板にはヒーター挿入孔を被覆するように上記平板を当てた。
【0053】
ヒーター挿入口と冷却機構としての通水路を備えた金型載せ台を水平に配設し、上述したようにして組み立てた金型の列をその溝が鉛直方向に延びるように上記金型載せ台上に据え付け、次に、金型の上、中、下部に各々3本ずつと、更に、断熱用に蓋板と金型載せ台に各々2本ずつ計13本のシーズヒーターを設置した。
【0054】
上記ヒーターにて金型の各部を160〜200 ℃に保ち、別に、180℃で溶融し、脱泡した添加剤と基剤とからなる混合物の溶融液を金型の溝中に注入した後、同じくヒーターにて160℃に保った断熱蓋板を金型の列の上に被せた。注入して30分後、金型載せ台のヒーターによる加熱を停止し、前記通水口に約1L/分の割合で通水を始め、同時に金型の下部のヒーターによる加熱を停止し、更に、1時間毎に中、上部ヒーターによる加熱を順次停止し、その後、金型の全体の温度が40℃以下になるまで放冷した。次いで、金型を開き、高級脂肪酸金属塩ブロックを得た。
【0055】
(評価方法)
成形性
上記成形によって得られた高級脂肪酸金属塩ブロック100本について、成形不良、即ち、外観異常、割れ、ひび・欠け又はボイドが生じたものを不合格品とし、その数を数えた。但し、外観異常、割れ、ひび・欠け又はボイドの成形不良はそれぞれ重複して数えた。
【0056】
磨耗性
上述したようにして得られた高級脂肪酸金属塩ブロックを長さ100mmに切断し、その表面を表面性測定機HEIDON 14FW(新東科学(株)製)にて磨耗して、削れた量を電子天秤にて測定し、その測定値を削れ量とした。この測定において、研磨材として住友スリーエム製(株)製スコッチブライトTM不織布表面処理材工業用パッド7447を用い、試験条件を荷重500g、速度6000mm/分、移動距離40mm、往復回数1000回とした。添加剤を配合した基剤から得たブロックの削れ量をR(g)とし、基剤のみから得たブロックの削れ量をR0(g)とするとき、磨耗性をR/R0とした。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
【表7】

【0064】
【表8】

【0065】
表1〜7に示す結果から明らかなように、本発明によれば、成形時に割れやひび・欠け等のような成形不良が生じず、従来に比べて格段に収率よく、高級脂肪酸金属塩ブロックを得ることができる。また、本発明によれば、ブロックの硬度が高く、磨耗が少ないので、長寿命を有する。更に、本発明によれば、基剤への添加剤の配合量を調節することによって、得られるブロックの使用時における磨耗量を調整することができ、これによって、ブロックの寿命を調整することもできる。これに対して、表8に示すように、基剤のみをブロックとし、又は基剤に多量の添加剤を含有させたときは、成形不良が多い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子上にヒドロキシ基を有していてもよいアルキル基の炭素原子数が7〜30の高級脂肪酸の金属石鹸であって、この高級脂肪酸金属石鹸における金属種が周期律表第2族元素、第12族元素又は第13族元素である高級脂肪酸金属石鹸100重量部に対して、
(a)一般式(I)
【化1】

(式中、R1は炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜24のアリール基を示す。)で表される酸性リン酸エステルの金属塩と
(b)一般式(II)
【化2】


(式中、R2及びR3はそれぞれ独立に炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜24のアリール基を示し、又はR2及びR3は共同して形成する環構造の有機基を示す。)で表される酸性リン酸エステルの金属塩
とから選ばれる少なくとも1種の酸性リン酸エステルの金属塩0.01〜10重量部を含有させてなる高級脂肪酸金属塩ブロックであって、上記酸性リン酸エステルの金属塩における金属種が周期律表第1族元素、第2族元素、第12族元素又は第13族元素の金属である高級脂肪酸金属塩ブロック。
【請求項2】
高級脂肪酸金属石鹸における高級脂肪酸がステアリン酸、パルミチン酸、12−ヒドロキシステアリン酸及びベヘン酸から選ばれる少なくとも1種であり、高級脂肪酸金属石鹸を構成する金属種がマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛及びアルミニウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の高級脂肪酸金属塩ブロック。
【請求項3】
酸性リン酸エステルの金属塩を構成する金属種がリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛及びアルミニウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の高級脂肪酸金属塩ブロック。
【請求項4】
酸性リン酸エステルの金属塩がマグネシウムステアリルアシッドホスフェート、カルシウムステアリルアシッドホスフェート、亜鉛ステアリルアシッドホスフェート、アルミニウムステアリルアシッドホスフェート、ナトリウム2,2’−メチレンビス(4,6’−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート及びナトリウムジ−p−トリルアシッドホスフェートから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の高級脂肪酸金属塩ブロック。

【公開番号】特開2010−189515(P2010−189515A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34409(P2009−34409)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】