説明

高耐熱の断熱吸音材

【課題】高い断熱性と吸音性を有する屈曲可能で比較的安価な断熱吸音材であって、特に厳しい航空機の新規要求仕様に適合する航空機用の断熱吸音材を提供する。
【解決手段】高温強度を1000℃以上で維持する高耐熱性の無機繊維40〜80%と、有機繊維20〜60%とを均一に混綿し、得た綿状素材を熱処理することによって全体をマット化して厚さが8〜50mmであり、この有機繊維は、無機繊維40〜80%に対して、融点が200℃以上である耐熱性の有機繊維10〜50%と、低融点の有機繊維10〜25%とで構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い断熱性と吸音性を有する屈曲可能で比較的安価な断熱吸音材に関し、特に厳しい航空機の新規要求仕様に適合する断熱吸音材に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では、鉄道車両用の吸音材として、特公昭63−19622号公報に開示するように、ガラスウールやロックウールに少量の有機性樹脂を含浸し、板状に成形した断熱性の吸音材を使用していた。この吸音材は、含浸させる樹脂が可燃性であると燃焼時に有毒ガスを発生し、軽量でないので車両重量が増加しやすい。この点を改良した実公平6−47715号公報では、アクリル焼成の耐炎繊維ラップをニードルパンチングし、さらにアクリル焼成耐炎繊維のニードルフェルトまたは織布からなる表面シートを貼り合わせている。この吸音材は、比較的軽量であるので車両の重量増加が少なく、高耐熱性が必要でない新幹線車両を含む日本の鉄道車両において採用されている。
【0003】
また、自動車用の吸音材には、従来、ガラスウールの表面にアルミシートを貼着したものを用いていた。この吸音材は、エンジンルームにおいて相当に高温になる排気マフラーの付近に設置すると、高温には耐えても吸音性が不十分であった。このため、特開昭59−227442号では、高軟化点を有する短繊維を合成繊維の不織布に散布した後にニードリングを施し、得た耐熱性の表皮材を接着剤を介してガラスウールの表面に積層し、さらに加熱・加圧で成形している。この吸音材は、仕様繊維の融点がいずれも300℃以下であるため、高温耐熱性が要求されるエンジンルームに用いるには表皮材の耐熱性が不足する。また、特開2006−138935号に開示の吸音材は、熱溶融温度または熱分解温度が370℃以上の耐熱性有機繊維を含有する繊維シートからなる表皮材と、同様の耐熱性有機繊維を含有する厚さ2〜100mmの不織布とを積層している。この吸音材は、自動車用途においてほぼ満足すべき耐熱性を有している。
【特許文献1】特公昭63−19622号公報
【特許文献2】実公平6−47715号公報
【特許文献3】特開昭59−227442号公報
【特許文献4】特開2006−138935号公報
【特許文献5】特開2005−335279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
断熱性の吸音材を航空機に用いる場合には、事故が発生した際の被害人数の多さおよび危険性の高さを考慮して、一般の鉄道車両用または自動車用の吸音材に比べて、耐熱・断熱性に対する要求が非常に厳しい。航空機用の吸音材は、主たる不織布が通常のガラスウールやロックウールまたは耐熱性有機繊維からなり、該不織布の表面に積層する表皮材についても同様の素材であった。このため、この吸音材は、断熱温度と耐熱性の点で航空機に関する不織布の要求仕様に適合させることは難しい。
【0005】
一方、特開2005−335279号は、自動車、電車、航空機などの内装に用いる易成形性の吸音材であると開示し、該吸音材では不織布の片面に表皮材が積層され、この表皮材に樹脂バインダーを含有している。この吸音材は、成形性の点では有効であっても、有機繊維の不織布を用いる点では前記と同様であり、航空機に関する不織布の新規要求仕様に適合させることは不可能である。
【0006】
本発明は、従来の吸音材に関する高温断熱性の問題点を改善するために提案されたものであり、特に高い断熱性および吸音性によって安全性の高く且つ比較的安価な断熱吸音材を提供することを目的としている。本発明の他の目的は、高い断熱性および吸音性を達成するとともに、設置場所に応じて屈曲可能な断熱吸音材を提供することである。本発明の別の目的は、航空機に関する不織布の新規要求仕様に適合する航空機用の断熱吸音材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る断熱吸音材は、ガスバーナーの炎を5分間当接する燃焼試験においてマット材に穴が開かず、この燃焼試験の際にマット背面に手をかざすことができる。本発明の断熱吸音材は、高温強度を1000℃以上で維持する高耐熱性の無機繊維40〜80%と、混綿前にあらかじめ難燃剤で処理した有機繊維20〜60%とを均一に混綿する。得た綿状素材を熱処理することによって全体をマット化し、この断熱吸音材の厚さは8〜50mmである。
【0008】
本発明に係る他の断熱吸音材は、高温強度を1000℃以上で維持する高耐熱性の無機繊維40〜80%と、有機繊維20〜60%とを均一に混綿する。得た綿状素材の少なくとも片面に難燃性樹脂を付与するとともに全体がマット化され、この断熱吸音材の厚さは8〜50mmである。
【0009】
本発明の断熱吸音材において、前記の有機繊維は、無機繊維40〜80%に対して、融点が200℃以上である耐熱性の有機繊維10〜50%と、低融点の有機繊維10〜25%とで構成すると望ましい。耐熱性の有機繊維は、ポリエステル繊維および/またはナイロン繊維であり、さらに高捲縮繊維または潜在捲縮繊維であると好ましい。
【0010】
本発明の断熱吸音材において、高耐熱性の無機繊維は、シリカ繊維、Sガラス繊維、炭化ケイ素繊維、ホウ素繊維、アルミナシリケート繊維、チタン酸アルカリ繊維、セラミック繊維の単独または混合体であり、特にシリカ繊維であると好ましい。また、本発明の断熱吸音材について、それぞれの原料繊維を混綿する前に、あらかじめ撥水剤で処理することも可能である。
【0011】
本発明の断熱吸音材をさらに詳細に説明すると、主成分である高耐熱性の無機繊維は、全量の40〜80重量%であることが望ましい。高耐熱性の無機繊維は、全量の40重量%未満であると、他の成分が耐熱性の有機繊維であるならば、高い耐熱・断熱性に関して航空機の新規要求仕様に適合させることが困難になる。一方、全量の40重量%以上使用すると、航空機の新規要求仕様に適合させるために好適であって一般的に経済的にも有利であるが、80重量%を超えると断熱吸音材の屈曲性を欠く。
【0012】
本発明の断熱吸音材に関して、主成分である高耐熱性の無機繊維は、高温強度を1000℃以上で維持することを要する。熱溶融温度について、Sガラスは1493℃およびEガラスは1121℃であるが、Eガラス繊維は約800℃で高温強度が急激に低下するので、ガラス繊維のうちでSガラス繊維だけが使用可能である。また、ニッケル繊維、タングステン繊維やチタン繊維などの金属繊維および炭素繊維は、高い熱溶融温度の点では使用可能であっても、金属繊維および炭素繊維は一般に熱伝導率が高いので、吸音材の断熱性が低くなってしまう。さらに、ステンレススチール繊維は、融点1050℃であっても700〜800℃に長時間加熱すると脆化する。
【0013】
したがって、好適な高耐熱性の無機繊維として、シリカ繊維、Sガラス繊維、炭化ケイ素繊維、ホウ素繊維、アルミナシリケート繊維、チタン酸アルカリ繊維、セラミック繊維の単独または混合体が例示できる。金属繊維は、高耐熱性の無機繊維の一部としてならば、素材として添加できる可能性が残っている。この無機繊維について、特に、シリカ繊維を主体として用いると、コストと物性の点で好ましい。
【0014】
シリカ繊維は、一般にシリカガラス繊維とも称し、原繊維から可溶性成分や有機分を除去した後に焼成する。例えば、シリカ繊維として、Eガラス、ソーダシリカガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダライム系ガラスなどの短繊維をブロー法によって製造し、この短繊維を酸処理して可溶性成分を溶出してから焼成してシリカ骨格を形成させると、例えばシリカ分は約95%以上に達する。一般に、シリカ繊維の原繊維として、アルカリ含有率1%以下のボロンシリケートガラスであるEガラス繊維を用いると、コストと物性の点で好ましい。
【0015】
本発明の断熱吸音材において、有機繊維は全量の20〜60重量%添加され、該有機繊維を混綿前にあらかじめ難燃剤で処理するか、または得た綿状素材の少なくとも片面に難燃性樹脂を付与することが必要である。このような付加処理を行うことにより、耐熱性にすぎない有機繊維を含んだ断熱吸音材の耐熱性を向上させることができ、航空機に関する新規要求仕様に適合させることが可能になる。
【0016】
有機繊維をあらかじめ難燃剤で処理する場合には、断熱吸音材の難燃性、特に断熱吸音材の表面での延焼性を改良できる。難燃処理で用いる薬剤は特に限定されず、リン窒素系などの難燃剤の水系ディスパージョンを用いることができ、加工性の点から水系のものを用いると好ましい。有機繊維を難燃処理する際には、例えば、市販の水系のリン系難燃剤などをスプレーなどによって所定量付与した後に有機繊維を十分乾燥させ、有機繊維の乾燥が不十分であるとカード性が悪くなる。
【0017】
添加する有機繊維として、融点が200℃以上である耐熱性の有機繊維を全量の10〜50重量%有することが望ましい。マット加工時に溶融しない耐熱性の有機繊維が10〜50重量%存在すると、該断熱吸音材に適切な屈曲性と柔軟性を付与できる。また、カード通過性などによるカード形成度合いが良くなり、原料の歩留まりが向上する。耐熱性の有機繊維が全量の10重量%未満であると、適当な屈曲性と柔軟性を付与できず、一方、全量の50重量%を超えると断熱吸音材の耐熱性が低下し、航空機に関する新規要求仕様に適合させるのが困難になる。
【0018】
好適な耐熱性の有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維の単独または混合体が例示できる。さらに、この有機繊維が高捲縮繊維または潜在捲縮繊維であると、いっそう嵩高い断熱吸音材を得ることができる。
【0019】
添加する有機繊維には、さらに低融点の有機繊維が全量の10〜25重量%含まれることが望ましい。低融点の有機繊維を均一に混綿することにより、これが次工程の熱処理によって溶融されて綿状素材のマット化を達成するので、この熱処理は該有機繊維の融点よりも高い温度で行うことを要する。低融点の有機繊維が10重量%未満であると、硬綿状のマット材を得ることが困難になり、一方、25重量%を超えると、耐熱性が低下するとともに断熱試験時に発煙やガスが発生しやすく、航空機に関する吸音材の新規要求仕様に不合格になってしまう。
【0020】
この低融点の有機繊維は、一般に、融点が110〜150℃前後であるポリエステル、ポリプロピレン、アクリルのような熱可塑性繊維またはこれらの複合繊維などである。好ましくは、低融点の有機繊維と高融点の有機繊維との複合繊維が芯鞘型や並列型などの2層型であり、熱処理時の加熱温度で低融点の有機繊維だけが溶融し、その温度で高融点の有機繊維は形状を維持できるから、繊維自体の原形が保たれることで綿状素材のマット化を確実に達成できる。
【0021】
無機繊維および有機繊維からなる原料繊維について、あらかじめ撥水剤で処理してから、カードウェブを形成することも可能であり、この撥水処理を前記の難燃処理と同時に行うことも可能である。原料繊維をあらかじめ撥水処理しておくと、綿状素材を後から撥水処理する場合よりも嵩高な素材を得ることができる。ここで用いる撥水剤は特に限定されず、水系または溶剤系であるフッ素系やシリコーン系などの撥水剤を用いることができ、加工性の点から水系のものを用いると好ましい。原料繊維を撥水処理する際には、例えば、市販の水系のフッ素系撥水剤をスプレーなどによって所定量付与した後に、原料繊維を十分乾燥させ、カード機に通してウェブを完成させる。この際に、原料繊維の乾燥が不十分であると、カード性が不良になるので注意すべきである。
【0022】
有機繊維の予備的難燃処理の代わりに、得た断熱吸音材の片面または両面に、スプレー、ロールコーティングまたはディッピングなどによって難燃性樹脂を施してもよい。この難燃加工に用いる樹脂バインダーは、一般に、ポリエステルやアクリルのような耐熱性の熱可塑性樹脂の水性ディスパージョンにリン系難燃剤を加え、さらに界面活性剤を加えて安定化させる。塗布される樹脂の量は、0.5〜50g/mであり、好ましくは2〜20g/mである。塗布された樹脂は、次工程の熱処理によって乾燥して断熱吸音材のマット化を促進する。
【0023】
原料繊維の予備的撥水処理の代わりに、マット化のための溶融熱処理の前または後に、得た硬綿状のマット材を撥水加工してもよく、用いる撥水剤は無機および/または有機の市販品であり、例えば、水性のフッ素樹脂である。この撥水加工は、スプレー、ロールコーティングまたはディッピングなどのいずれによって行ってもよい。この撥水加工は、前記の難燃加工と同時に行うこともできる。
【0024】
得た断熱吸音材は、厚さが8〜50mmであると好ましい。この厚さが8mm未満であると、厚みが薄すぎるので自動車や航空機などへの内装作業が煩雑になり、厚さが50mmを超えると、断熱吸音材を曲げにくくなるので内装作業がやはり難しくなる。マット化した断熱吸音材について、さらにニードルパンチング、毛焼きまたはカレンダーによって表面平滑化処理を施すことが可能である。特に、ニードルパンチングで処理すると、断熱吸音材の強度を向上させることができるので好ましい。
【0025】
本発明の断熱吸音材において、無機繊維の織布またはフェルトからなる表面シートをマット材に不燃性樹脂で貼り合わせてもよい。この表面シートは、ガラス繊維、炭素繊維またはセラミック繊維などからなり、マット材自体は前記と同様である。この表面シートを貼り合わせると、航空機または鉄道車両への施工時に裁断したり折り曲げても、マット材からガラス繊維などの繊維粉末の落下が少なくなるので作業が容易になる。
【0026】
航空機に用いる新規要求仕様のマット材の耐火性(FAR25.856(b)に規定)は、4分間で背面熱量が2W/cm以下であり、耐熱温度は規定されていないが、FAR25.856(b)に既定の条件を充足させるため、約1100℃で4分間耐えることを要する。本発明の断熱吸音材は、より厳しい航空機に関する不織布の新規要求仕様にも適合している。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る断熱吸音材は、マット材の主成分が高耐熱性の無機繊維であって有機成分が耐熱性であることにより、ほぼ完全に不燃性であり且つ断熱性と吸音性が高く、各種の自動車や鉄道車両用の吸音材として使用できることはもとより、より厳しい航空機に関する不織布の新規要求仕様にも適合している。本発明の断熱吸音材は、より厳しい航空機の新規要求仕様に適合することにより、自動車、鉄道車両、航空機などに取り付けた際に従来よりも安全性が高くなり、航空機用として多量に納品することが期待できるうえに、鉄道車両に関して英国規格に準拠する諸外国における高速鉄道の車両にも十分に適用できる。
【0028】
本発明の断熱吸音材は、比較的剛直な高耐熱性の無機繊維に対して比較的柔軟な耐熱性の有機繊維を添加し、吸音材の設置の際に屈曲させることが可能である。本発明の断熱吸音材では、低融点の有機繊維を少量均一に混綿することにより、熱処理だけで全体が均一なマット材に加工でき、後加工時に構成繊維が折損することが少ない。本発明の断熱吸音材は、柔軟で扱いやすいマット材であり、施工時に裁断したり屈曲させても繊維脱落が少なく、作業環境を悪化させることが少ない。
【実施例1】
【0029】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下では、断熱吸音材の製造について説明する。
【0030】
原料繊維には、高耐熱の無機繊維としてシリカ繊維を、耐熱性の有機繊維として高捲縮ポリエステル繊維(東レ製)を、低融点の有機繊維として芯鞘型の低融点ポリエステル繊維(商品名:サフメット、東レ製)をそれぞれ用いた。シリカ繊維には、水系のフッ素系撥水剤を乾燥後の繊維への付着量で1重量%となるようにスプレーにより付与した後、加熱によって水分率が2重量%以下となるように乾燥処理した。また、高捲縮ポリエステル繊維および低融点ポリエステル繊維は、前記と同じ水系のフッ素系撥水剤と、ポリエステル樹脂をバインダーとするリン窒素系難燃剤の水系デイスパージョンとを、それぞれ付着量で3重量%ずつとなるようにスプレーによって付与した後に、同様に水分率で2重量%以下となるように乾燥処理した。
【0031】
これらの薬剤処理したシリカ繊維65%、高捲縮ポリエステル繊維15%、低融点ポリエステル繊維20%を混綿し、カーディングによって目付250g/mのウェブを形成した。ついで針深さ6mm、針密度7本/cmの条件で両面をニードルパンチ加工した後に、170℃で3分間熱処理して厚さ20mmの硬綿状のマット素材を得た。得たマット素材の耐熱性、撥水性、延焼性を評価したところ、いずれも合格レベルである。
【実施例2】
【0032】
原料繊維には、高耐熱の無機繊維としてシリカ繊維を、耐熱性の有機繊維として潜在捲縮ポリエステル繊維(ユニチカ製)を、低融点の有機繊維として芯鞘型の低融点ポリエステル繊維(商品名:サフメット、東レ製)をそれぞれ用いた。それぞれの繊維には、水系のフッ素系撥水剤を乾燥後の繊維への付着量で1重量%となるようにスプレーにより付与した後、加熱によって水分率が2重量%以下となるように乾燥処理した。
【0033】
これらの薬剤処理したシリカ繊維65%、潜在捲縮ポリエステル繊維15%、低融点ポリエステル繊維20%を混綿し、カーディングによって目付250g/mのウェブを形成した。ついで針深さ6mm、針密度7本/cmの条件で両面をニードルパンチ加工した後に、綿状素材の両面に、ポリエステル樹脂をバインダーとするリン窒素系難燃材の水系ディスパージョンをスプレーによって付与し、その乾燥重量は10g/mであった。さらに170℃で3分間熱処理して厚さ20mmの硬綿状のマット素材を得た。得たマット素材の耐熱性、撥水性、延焼性を評価したところ、いずれも合格レベルである。
【0034】
比較例1
原料繊維には、高耐熱の無機繊維としてシリカ繊維を20%、耐熱性の有機繊維として高捲縮ポリエステル繊維(東レ製)を60%、低融点の有機繊維として芯鞘型の低融点ポリエステル繊維(商品名:サフメット、東レ製)を20%、それぞれ薬剤処理せずに混綿した。カーディングによって目付250g/mのウェブを形成した。ついで針深さ6mm、針密度7本/cmの条件で両面をニードルパンチ加工した後に、170℃で3分間熱処理して厚さ20mmの硬綿状のマット素材を得た。得たマット素材の耐熱性、撥水性、延焼性を評価したところ、いずれも不合格レベルであった。
【0035】
比較例2
スプレーによるリン窒素系難燃剤を含む樹脂を付与しない以外は、実施例2と同様に処理してマット素材を得た。このマット素材の耐熱性、撥水性は合格レベルであったが、延焼性が不合格レベルであった。
【0036】
各実施例および比較例において、耐熱性の評価は、10cm角以上の大きさのマット材サンプルを水平な架台の上に置き、ガスバーナーの炎が高さ50〜80mmであり、内炎の高さが10〜15mmとなるように調整して、この炎の約10mmの部分が架台上サンプルの下面に当たるように架台またはガスバーナーの高さを調整する。架台上のマット材サンプルのほぼ中央に、ガスバーナーの炎を5分間当て、この5分間の間に、穴あきがなければ耐熱性は合格であり、少しでも穴が開いたら不合格である。
【0037】
また、撥水性の評価は、ASTM C1511−04に準拠し、25cm角のサンプルを水中に15分間沈め、それを取り出してから1分間静置した後に、その重量増加が20g以下のものを合格とし、それ以外は不合格である。また、延焼性の評価は、サンプル表面にガスバーナーの炎を2分間接炎し、炎を離した後の残炎時間が1秒以内のものを合格とし、それ以外は不合格である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバーナーの炎を5分間当接する燃焼試験においてマット材に穴が開かず、この燃焼試験の際にマット背面に手をかざすことができる断熱吸音材であって、高温強度を1000℃以上で維持する高耐熱性の無機繊維40〜80%と、混綿前にあらかじめ難燃剤で処理した有機繊維20〜60%とを均一に混綿し、得た綿状素材を熱処理することによって全体をマット化して厚さが8〜50mmである高耐熱の断熱吸音材。
【請求項2】
ガスバーナーの炎を5分間当接する燃焼試験においてマット材に穴が開かず、この燃焼試験の際にマット背面に手をかざすことができる断熱吸音材であって、高温強度を1000℃以上で維持する高耐熱性の無機繊維40〜80%と、有機繊維20〜60%とを均一に混綿し、得た綿状素材の少なくとも片面に難燃性樹脂を付与するとともに全体がマット化されて厚さが8〜50mmである高耐熱の断熱吸音材。
【請求項3】
前記の有機繊維は、無機繊維40〜80%に対して、融点が200℃以上である耐熱性の有機繊維10〜50%と、低融点の有機繊維10〜25%とで構成している請求項1または2記載の断熱吸音材。
【請求項4】
耐熱性の有機繊維が、ポリエステル繊維および/またはナイロン繊維である請求項3記載の断熱吸音材。
【請求項5】
耐熱性の有機繊維が、高捲縮繊維または潜在捲縮繊維である請求項3または4記載の断熱吸音材。
【請求項6】
高耐熱性の無機繊維が、シリカ繊維、Sガラス繊維、炭化ケイ素繊維、ホウ素繊維、アルミナシリケート繊維、チタン酸アルカリ繊維、セラミック繊維の単独または混合体である請求項1または2記載の断熱吸音材。
【請求項7】
高耐熱性の無機繊維がシリカ繊維である請求項6記載の断熱吸音材。
【請求項8】
それぞれの原料繊維を混綿する前にあらかじめ撥水剤で処理する請求項1または2記載の断熱吸音材。

【公開番号】特開2008−208469(P2008−208469A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43344(P2007−43344)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000136413)株式会社フジコー (26)
【Fターム(参考)】