説明

高耐熱樹脂組成物

【課題】耐熱性、剛性、成形品光沢およびフォギング性に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル(A)75〜99質量%、平均粒子径5μm以下の無機フィラー(B)0.5〜15質量%、および芳香族ビニル化合物と不飽和ジカルボン酸イミド誘導体とを構成単量体として含む共重合体(C)0.5〜10質量%を含有する。また、本発明の樹脂組成物は、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との合計量100質量部に対して、更に、スチレン系熱可塑性エラストマー(D)0.1〜10質量部を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ランプ周辺部品等、高温下で長期間用いられる材料としては、これまで主に、不飽和ポリエステル樹脂、バルクモールディングコンパウンド(BMC)等の熱硬化性樹脂、またはアルミニウム製のものが広く使用されてきた。熱硬化性樹脂はアルミニウムと比較して軽量である点で優れているが、それでも比重が2.0を超えるためにいっそうの軽量化が求められている。また、熱硬化性樹脂を用いる場合に特有の、成形品後処理作業の煩雑さや、粉塵などによる作業環境汚染などの問題もある。そのため、自動車ランプ周辺部品等、高温下で長期間用いられる材料としては、上述の熱硬化性樹脂やアルミニウム製のものから、ポリエーテルイミドや高耐熱ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂への材料の転換が進んでいる。
【0003】
ポリフェニレンエーテル樹脂は、機械的物性、電気的特性、耐酸性、耐アルカリ性、耐熱性に優れると共に、比較的低比重であり、吸水性が低く、且つ寸法安定性が良好である等の多様な特性を有している。そのため、家電製品、OA機器、事務機、情報機器や自動車などの材料として、幅広く利用されている。今後、自動車ランプ周辺部品のような高い耐熱性や剛性が要求される用途において、ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量が高い比率で設計された樹脂組成物のよりいっそうの需要増が見込まれている。
【0004】
こうした用途に用いる材料としては、高い耐熱性と共に、高剛性、成形品光沢(輝度感)や、更には、フォギングが生じ難いという特性が要求される場合が少なくない。ここで、フォギングとは、熱源近くの高温条件下で使用されることで、樹脂材料から発せられる、曇りガス成分によるレンズ等の曇りのことをいう。
【0005】
これまでに、ポリフェニレンエーテル系樹脂を用いてなる、耐熱性および耐加水分解性に優れた自動車ランプ部品に関する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、ポリフェニレンエーテルを特定量含む樹脂組成物において、樹脂組成物中のゲル分や炭化物等の異物を低減することで、優れた鮮映性を有するランプリフレクター部品を得る技術も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂に、芳香族ビニル化合物と不飽和ジカルボン酸イミド誘導体とを構成単位として含む共重合体成分を配合した樹脂組成物によって、流動性と低アウトガス性とのバランスを改良した技術も開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−320495号公報
【特許文献2】特開平9−167511号公報
【特許文献3】国際公開第WO2009/060917号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の先行技術文献に記載された技術を用いて得られる材料は、耐熱性や、剛性と成形品光沢とのバランスや、高温条件下でのフォギング特性の面で、必ずしも充分ではなかった。
【0010】
そこで、本発明は、高い耐熱性および剛性と、成形品光沢との良好なバランスを有し、更には、高温条件下でのフォギング特性にも優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、ポリフェニレンエーテル樹脂に、特定の平均粒子径を有する無機フィラーと、芳香族ビニル化合物と不飽和ジカルボン酸イミド誘導体とを構成単量体として含む共重合体とを、配合した樹脂組成物により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明は、以下の通りである。
【0013】
[1]
ポリフェニレンエーテル(A)75〜99質量%、
平均粒子径5μm以下の無機フィラー(B)0.5〜15質量%、および
芳香族ビニル化合物と不飽和ジカルボン酸イミド誘導体とを構成単量体として含む共重合体(C)0.5〜10質量%
を含有する樹脂組成物。
【0014】
[2]
前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との合計量100質量部に対して、更に、スチレン系熱可塑性エラストマー(D)0.1〜10質量部を含有する、[1]に記載の樹脂組成物。
【0015】
[3]
前記(A)成分の還元粘度(クロロホルム溶媒を用いて30℃で測定)が、0.25〜0.43dl/gである、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
【0016】
[4]
前記(B)成分が、カオリンクレイ、アルミナ水和物および炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]〜[3]のいずれかに記載の、樹脂組成物。
【0017】
[5]
前記(B)成分が、平均粒子径0.5μm以下の無機フィラーである、[1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0018】
[6]
前記(C)成分の重量平均分子量が70000〜250000である、[1]〜[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0019】
[7]
前記(C)成分のガラス転移温度(DSC法)が165℃以上である、[1]〜[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0020】
[8]
前記(C)成分が、スチレン重合ブロックとフェニルマレイミド重合ブロックとを含有する共重合体である、[1]〜[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0021】
[9]
前記(C)成分が、スチレン重合ブロックとフェニルマレイミド重合ブロックと、更に無水マレイン酸重合ブロックとを含有する共重合体である、[1]〜[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0022】
[10]
前記(C)成分が、芳香族ビニル化合物40〜68質量%と、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体32〜60質量%と、共重合可能な化合物0〜20質量%と、から得られる共重合体である、[1]〜[9]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0023】
[11]
前記(D)成分が、少なくとも2個のスチレン重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとを含むブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体である、[2]に記載の樹脂組成物。
【0024】
[12]
前記(D)成分が、官能化スチレン系熱可塑性エラストマーである、[2]に記載の樹脂組成物。
【0025】
[13]
荷重たわみ温度(ISO75に準拠、フラットワイズ法、荷重1.80MPa)が165℃以上である、[1]〜[12]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0026】
[14]
ISO6452に準拠した方法により下記フォギング試験を行った後のガラス板のヘイズ値が2.0%以下である、[1]〜[13]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0027】
<フォギング試験>
前記樹脂組成物から得られるペレットまたは成形品60gをガラス製サンプル瓶に入れて、前記サンプル瓶をガラス板で蓋をして190℃で24時間加熱することにより、前記ガラス板に曇り(フォギング)を発生させる。
【0028】
[15]
[1]〜[14]のいずれかに記載の樹脂組成物から得られる自動車ランプ周辺部品。
【0029】
[16]
[1]〜[14]のいずれかに記載の樹脂組成物から得られる自動車ランプリフレクター部品。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、高い耐熱性と剛性とを有し、成形品光沢に優れ、更には、高温下でのフォギング性にも優れた樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0032】
[樹脂組成物]
本実施の形態に係る樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル(A)75〜99質量%、平均粒子径5μm以下の無機フィラー(B)0.5〜15質量%、および芳香族ビニル化合物と不飽和ジカルボン酸イミド誘導体とを構成単量体として含む共重合体(C)0.5〜10質量%を含有する。
【0033】
ポリフェニレンエーテル樹脂(A)、平均粒子径5μm以下の無機フィラー(B)、および芳香族ビニル化合物と不飽和ジカルボン酸イミド誘導体とを構成単量体として含む共重合体(C)を、上記のとおり特定比率で含有する樹脂組成物は、高い耐熱性と剛性とを有し、成形品光沢に優れ、更には高温下でのフォギング性にも優れる。以下、各構成成分について詳細に説明する。
【0034】
<ポリフェニレンエーテル(A)>
本実施の形態に用いるポリフェニレンエーテル(A)は、下記式(1)(下記一般式(1)の〔a〕および〔b〕をまとめて、「式(1)」とも表す。)を繰り返し単位とし、構成単位が一般式(1)の〔a〕または〔b〕からなる単独重合体(ホモポリマー)、あるいは共重合体(コポリマー)であることが好ましい。
【0035】
【化1】

【0036】
【化2】

上記式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、並びにハロゲンおよび水素などの一価の残基であることが好ましい。但し、かかる場合、R5およびR6が同時に水素である場合を除く。また、前記アルキル基のより好ましい炭素数は1〜3であり、前記アリール基のより好ましい炭素数は6〜8であり、前記一価の残基の中でもより好ましくは水素である。なお、上記(1)の〔a〕および〔b〕における繰り返し単位数については、ポリフェニレンエーテル(A)の分子量分布により様々であるため、特に制限されることはない。
【0037】
ポリフェニレンエーテル(A)の単独重合体としては、以下に制限されないが、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテルおよびポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられ、中でも原料入手の容易性や加工性の観点からポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが好ましい。
【0038】
ポリフェニレンエーテル(A)の共重合体としては、以下に制限されないが、例えば、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、2,6−ジメチルフェノールとo−クレゾールとの共重合体、および2,3,6−トリメチルフェノールとo−クレゾールとの共重合体といった、ポリフェニレンエーテル構造を主体とするものが挙げられる。中でも、原料入手の容易性と加工性との観点から2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、物性改良の観点から2,6−ジメチルフェノール90〜70質量%と2,3,6−トリメチルフェノール10〜30質量%との共重合がより好ましい。
【0039】
また、ポリフェニレンエーテル(A)は、本実施の形態に所望の効果を逸脱しない限度で、他の種々のフェニレンエーテル単位を部分構造として含んでいてもよい。かかるフェニレンエーテル単位としては、以下に制限されないが、例えば、特開平01−297428号公報および特開昭63−301222号公報に記載されている、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテル単位や、2−(N−アルキル−N−フェニルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテル単位が挙げられる。
【0040】
また、ポリフェニレンエーテルの主鎖中にジフェノキノン等が少量結合していてもよい。さらに、ポリフェニレンエーテルの一部または全部を、アシル官能基とカルボン酸、酸無水物、酸アミド、イミド、アミン、オルトエステル、ヒドロキシおよびカルボン酸アンモニウム塩よりなる群から選択される1種以上とを含む官能化剤と反応(変性)させることにより官能化ポリフェニレンエーテルとしてもよい。
【0041】
本発明の形態の樹脂組成物において、ポリフェニレンエーテル(A)の含有量は、75〜99質量%であり、80〜95質量%であることが好ましく、85〜95質量%であることがより好ましい。ポリフェニレンエーテル(A)の含有量を前記範囲内とすることにより、得られる樹脂組成物は、高い耐熱性と剛性とを有し、成形品光沢に優れ、更には高温下でのフォギング性にも優れる。
【0042】
ポリフェニレンエーテル(A)の還元粘度は、0.25〜0.45dl/gが好ましく、より好ましくは0.25〜0.43dl/gであり、特に好ましくは0.25〜0.35dl/gの範囲である。ポリフェニレンエーテル(A)の還元粘度は、充分な機械物性の観点から0.25dl/g以上が好ましく、成形加工性の観点から0.45dl/g以下が好ましい。なお、本実施の形態において、還元粘度は、クロロホルム溶媒を用いて30℃で測定し、得られた値である。なお、異なる還元粘度を有するポリフェニレンエーテルを混合して用いる場合は、混合した後の還元粘度が上記の範囲であることが好ましい。
【0043】
ポリフェニレンエーテル(A)における残留揮発分は、成形品の表面外観改良の観点から0.6質量%以下が好ましい。より好ましくは0.4質量%以下であり、特により好ましくは0.1質量%以下である。ここで、前記残留揮発分が0.6質量%以下であるポリフェニレンエーテルは、以下に制限されないが、例えば、ポリフェニレンエーテル重合後の乾燥温度や乾燥時間を調節することによって、好適に製造できる。前記乾燥温度としては、例えば、40〜200℃が挙げられ、好ましくは80〜180℃、より好ましくは120〜170℃である。乾燥効率の観点から、40℃以上での乾燥が好ましく、融着や熱劣化の観点から200℃以下での乾燥が好ましい。前記乾燥時間としては、例えば、0.5〜72時間が挙げられ、好ましくは2〜48時間、より好ましくは6〜24時間である。ポリフェニレンエーテルにおける残留揮発分を比較的短時間で除去しようとすると、高温で乾燥させる必要がある。かかる場合には、熱による劣化を防止するため、窒素雰囲気中での乾燥や真空乾燥機による乾燥が好適である。なお、本実施の形態において、残留揮発分は、真空乾燥機180℃で3時間乾燥した後の質量の減少割合(元の質量に対して減少した質量の割合)として示される。
【0044】
重合後の乾燥によって、ポリフェニレンエーテルにおける残留揮発分を低減させ、上記した残留揮発分の範囲内にするためには、重合に悪影響を及ぼさず、環境にも殆ど悪影響を及ぼさず、且つ比較的沸点が低くて揮発させやすい重合溶剤を予め用いて重合させることが好ましい。前記重合溶剤としては、以下に制限されないが、例えばトルエンが挙げられる。
【0045】
ポリフェニレンエーテル(A)の製造方法をより具体的に説明すると、例えば、公知の重合方法により、還元粘度が上記の範囲内であるポリフェニレンエーテルを重合した後、得られたポリマーを、真空乾燥機などを用いて充分に乾燥することによって、残留揮発分が上記の範囲内であるポリフェニレンエーテルを製造できる。なお、上記した好ましい重合溶剤以外のものを使用しても、乾燥を充分に行なうことにより、残留揮発分が上記の範囲内であるポリフェニレンエーテルを製造することができる。
【0046】
<平均粒子径5μm以下の無機フィラー(B)>
本実施の形態に用いる無機フィラー(B)は、フォギング特性の改良と、耐熱性、剛性および成形品外観のバランス改良との観点から、平均粒子径が5μm以下のものが用いられる。無機フィラー(B)の平均粒子径は、好ましくは0.01〜5μmの範囲であり、より好ましくは0.02〜2μmの範囲であり、更により好ましくは0.05〜0.7μmの範囲である。無機フィラー(B)は、平均粒子径0.5μm以下の無機フィラーであることが特に好ましい。本実施の形態に係る樹脂組成物において、無機フィラー(B)の平均粒子径は、剛性向上の観点から0.01μm以上とすることが好ましく、後述の(C)成分との併用によって成形品の外観を充分に保持する観点から5μm以下とする。なお、本実施の形態において、平均粒子径は、レーザー光回折測定法により測定して得られた値である。具体的には、無機フィラー(B)を、ヘキサメタリン酸溶液中、超音波洗浄装置で10分間分散させ、マイクロトラック粒度分析計(MT−3000II〔登録商標〕、日機装社製)を用いて粒度分布の中心粒径D50%を求めて、得られた値を平均粒子径とする。
【0047】
無機フィラー(B)の具体例としては、シリカ、ワラストナイト、アルミナ、アルミナ水和物、タルク、マイカ、クレイ類、酸化チタン、硫化亜鉛、亜鉛華、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム等が挙げられる。無機フィラー(B)は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
無機フィラー(B)として、好ましくは、カオリンクレイ、アルミナ水和物、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウムであり、より好ましくは、カオリンクレイ、アルミナ水和物および炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種であり、特に好ましくはカオリンクレイ、炭酸カルシウムである。
【0049】
本実施の形態に係る樹脂組成物において用いられる、無機フィラー(B)は、成形品の表面外観を保持する観点から、シラン化合物によって表面処理することが好ましい。無機フィラー(B)の表面処理に用いられるシラン化合物は、通常のガラスフィラーやミネラルフィラー等を表面処理するために用いられるものである。
【0050】
前記シラン化合物の具体例としては、以下に制限されないが、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシランやγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン化合物;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシラン化合物;ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイドやγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のイオウ系シラン化合物;γ−アミノプロピルトリエトキシシランやN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物が挙げられる。シラン化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。粉体原料としての取扱いが容易であり、且つ本実施の形態に所望の効果である成形品光沢の保持を充分に発揮しうるという観点から、好ましいシラン化合物はイオウ系シラン化合物であり、より好ましいシラン化合物はメルカプトシラン化合物である。
【0051】
本実施の形態に用いる無機フィラー(B)の含有量は、0.5〜15質量%の範囲内であり、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは3〜8質量%の範囲内である。無機フィラー(B)の含有量は、剛性と耐熱性との改良、フォギング特性改良の観点から0.5質量%以上が好ましく、成形品の表面外観を充分保持する観点から15質量%以下が好ましい。
【0052】
<芳香族ビニル化合物と不飽和ジカルボン酸イミド誘導体とを構成単量体として含む共重合体(C)>
本実施の形態に係る樹脂組成物において、芳香族ビニル化合物と不飽和ジカルボン酸イミド誘導体とを構成単量体として含む共重合体(以下、単に「芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体」という場合がある)とは、芳香族ビニル化合物と不飽和ジカルボン酸イミド誘導体とを含む単量体を共重合して得られる共重合体である。
【0053】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、樹脂組成物の熱安定性の観点から、スチレンが好ましい。芳香族ビニル化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0054】
不飽和ジカルボン酸イミド誘導体としては、例えば、マレイミド誘導体が挙げられる。マレイミド誘導体としては、例えば、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−アルキルマレイミド;N−フェニルマレイミド、N−トルイルマレイミド、N−キシリールマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−クロロフェニルマレイミド、N−メトキシフェニルマレイミド、N−ブロモフェニルマレイミド等のN−アリールマレイミド等が挙げられる。その中でも、樹脂組成物の耐熱性と成形品外観との観点から、N−フェニルマレイミドが好ましい。
【0055】
不飽和ジカルボン酸イミド誘導体は1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0056】
本実施の形態に用いる芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体は、樹脂組成物の耐熱性と成形品外観改良との観点から、芳香族ビニル−マレイミド系共重合体であることが好ましい。
【0057】
本実施の形態に用いる芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体は、芳香族ビニル化合物および不飽和ジカルボン酸イミド化合物以外に、共重合可能な他の化合物(以下単に「共重合可能な化合物」とも記す。)が共重合されていてもよい。
【0058】
共重合可能な化合物としては、特に限定されず、不飽和ジカルボン酸無水物、共重合可能なビニル化合物等が挙げられる。
【0059】
不飽和ジカルボン酸無水物としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラゴン酸、アコニット酸等の無水物が挙げられ、共重合体の重合度の制御の観点から、無水マレイン酸が好ましい。
【0060】
共重合可能なビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;メチルアクリル酸エステル、エチルアクリル酸エステル等のアクリル酸エステル化合物;メチルメタクリル酸エステル、エチルメタクリル酸エステル等のメタクリル酸エステル化合物;アクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸化合物;アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド等の化合物が挙げられる。これらの中でも、樹脂組成物の耐熱性、成形品外観の観点から、アクリロニトリルが好ましい。
【0061】
本実施の形態に係る樹脂組成物において、上記(A)成分との混和性、および上記(B)成分との親和性改良の観点から、共重合可能な他の化合物として、特に好ましいのは、無水マレイン酸である。
【0062】
芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体の製造方法としては、
(1)芳香族ビニル化合物と、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体と、必要に応じて、共重合可能な化合物とを共重合させる方法。
【0063】
(2)芳香族ビニル化合物と、不飽和ジカルボン酸無水物と、必要に応じて、共重合可能な化合物を共重合させた後、アンモニアおよび/または第一級アミンを反応させて酸無水物基をイミド基に変換させる方法等が挙げられる。
【0064】
上記(2)の製法で用いるアンモニアや第一級アミンは、無水または水溶液のいずれの状態でもよい。第一級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等のアルキルアミン;アニリン、トルイジン、クロロアニリン、メトキシアニリン、トリブロモアニリン等の芳香族アミン等が挙げられる。これらの中でも、樹脂組成物の耐熱性の観点から、アニリンが好ましい。上記(2)の製法では、イミド基へ変換されずに酸無水物基が残ることも問題はないので、酸無水物基を共重合体中へ導入することができる。
【0065】
本実施の形態において、共重合させる方法としては、公知の重合方法を用いることができる。上記(1)の製法の場合は、例えば、懸濁重合、乳化重合、溶液重合、塊状重合等が挙げられる。
【0066】
芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体は、スチレン重合ブロックとフェニルマレイミド重合ブロックとを含有する共重合体であることが好ましく、スチレン重合ブロックとフェニルマレイミド重合ブロックと、更に無水マレイン酸重合ブロックとを含有する共重合体であることがより好ましい。芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体がこのような共重合体であると、上記(B)成分の無機フィラーとの親和性がいっそう改良される傾向にあり、好ましい。
【0067】
芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体としては、例えば、スチレン/N−フェニルマレイミド共重合体、スチレン/N−フェニルマレイミド/無水マレイン酸共重合体、スチレン/N−フェニルマレイミド/アクリロニトリル共重合体等が好適に使用できる。
【0068】
芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体としては、芳香族ビニル化合物40〜68質量%と、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体32〜60質量%と、共重合可能な化合物0〜20質量%と、から得られる共重合体であることが好ましい。より好ましくは芳香族ビニル化合物40〜64.99質量%と、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体35〜59.99質量%と、共重合可能な化合物0.01〜20質量%と、から得られる共重合体である。さらに好ましくは、芳香族ビニル化合物40〜64.9質量%と、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体35〜59.9質量%と、共重合可能な化合物0.1〜20質量%と、から得られる共重合体である。
【0069】
上記芳香族ビニル化合物の割合が40質量%以上であることにより、ポリフェニレンエーテル(A)との相容性が良好となり、ペレット生産性、衝撃強度等が良好な樹脂組成物とすることができる。
【0070】
上記不飽和ジカルボン酸イミド誘導体の割合が32質量%以上であることにより、耐熱性、衝撃強度に優れる樹脂組成物とすることができる。
【0071】
上記の共重合可能な化合物の割合が20質量%以下であることにより、耐熱性に優れ、熱安定性が良好な樹脂組成物とすることができる。
【0072】
本実施の形態において、芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体の重量平均分子量は、70000〜250000の範囲であることが好ましい。
【0073】
芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体の重量平均分子量は、樹脂組成物のフォギング特性の観点から70000以上が好ましく、樹脂組成物の流動性の観点から250000以下が好ましい。より好ましくは100000〜250000の範囲であり、さらにより好ましくは100000〜200000の範囲である。
【0074】
芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体は、1種の芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体でもよく、重量平均分子量が異なる2種以上の芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド重合体を組み合わせた混合物であってもよく、その際、その混合物の重量平均分子量が70000〜250000の範囲であることが好ましい。
【0075】
本実施の形態において、重量平均分子量は、ポリスチレンを標準試料として換算した分子量であり、テトラヒドロフランを溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により算出できる。
【0076】
本実施の形態において、芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体は、樹脂組成物の耐熱性の観点から、ガラス転移温度が165℃以上であることが好ましい。芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体のガラス転移温度は、より好ましくは、165℃以上250℃以下であり、さらに好ましくは180℃以上250℃以下である。また、樹脂組成物の成形加工性の観点から、芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体のガラス転移温度は250℃以下であることが好ましい。
【0077】
本実施の形態において、芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体のガラス転移温度は、JIS K−7121に従って示差走査熱量測定(DSC)により測定できる。
【0078】
本実施の形態に用いる芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体(C)の含有量は、0.5〜10質量%の範囲内であり、好ましくは1〜8質量%であり、より好ましくは2〜6質量%の範囲内である。芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体(C)の含有量は、成形品外観の改良およびフォギング特性改良の観点から、0.5質量%以上が好ましく、耐熱性、耐衝撃性を充分保持する観点から15質量%以下が好ましい。
【0079】
<スチレン系熱可塑性エラストマー(D)>
本実施の形態の樹脂組成物は、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との合計量100質量部に対して、更に、スチレン系熱可塑性エラストマー(D)0.1〜10質量部を含有することが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマー(D)を前記範囲で含有することにより、上記(A)成分と、上記(C)成分との混和性が改良されて、成形品外観や機械物性が改良される傾向にあり、好ましい。
【0080】
スチレン系熱可塑性エラストマー(D)とは、スチレン重合体ブロックと共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(以下「共役ジエン重合体ブロック」ということもある)とを有するブロック共重合体である。前記共役ジエン重合体ブロックとしては、以下に制限されないが、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(エチレン・ブチレン)、ポリ(エチレン・プロピレン)およびビニル−ポリイソプレンが挙げられる。前記共役ジエン重合体ブロックは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
ブロック共重合体を構成する繰り返し単位の配列の様式は、リニアタイプでもラジアルタイプでもよい。また、スチレン重合体ブロックおよび共役ジエン重合体ブロックにより構成されるブロック構造は二型、三型および四型のいずれであってもよい。中でも、本実施の形態に所望の効果を充分に発揮し得る観点から、好ましくは、ポリスチレン−ポリ(エチレン・ブチレン)−ポリスチレン構造で構成される三型のリニアタイプの水添ブロック共重合体である。なお、水添された共役ジエン重合体ブロック中に30質量%を超えない範囲でブタジエン単位が含まれてもよい。
【0082】
また、前記(D)成分として、スチレン系熱可塑性エラストマーに、カルボニル基やアミノ基などの官能基を導入してなる、官能化スチレン系熱可塑性エラストマーを用いてもよい。
【0083】
前記カルボニル基は、不飽和カルボン酸またはその官能的誘導体で変性することにより導入される。不飽和カルボン酸またはその官能的誘導体の例としては、以下に制限されないが、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ハロゲン化マレイン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、およびエンド−シス−ビシクロ[2,2,1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、並びにこれらジカルボン酸の無水物、エステル化合物、アミド化合物およびイミド化合物、更にはアクリル酸およびメタクリル酸、並びにこれらモノカルボン酸類のエステル化合物およびアミド化合物が挙げられる。中でも、成形品の表面外観を保持し、且つ耐衝撃性を付与する観点から、好ましくは無水マレイン酸である。
【0084】
上記のアミノ基は、イミダゾリジノン化合物やピロリドン化合物などをスチレン系熱可塑性エラストマーと反応させることにより導入させる。
【0085】
前記(D)成分は、少なくとも2個のスチレン重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとを含むブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体であることが好ましい。前記(D)成分がこのような水添ブロック共重合体であると、よりいっそう、耐衝撃性が改良される傾向にあり、好ましい。
【0086】
なお、本実施の形態において、「主体とする」とは、全体に対して、主体となる対象を50質量%以上含むことをいい、好ましくは70質量%以上含むことをいい、より好ましくは80質量%以上含むことをいう。
【0087】
本実施の形態の樹脂組成物には、耐衝撃性の付与と、更なるフォギング性改良の観点から、スチレン系熱可塑性エラストマー(D)を、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との合計量100質量部に対して、0.1〜10質量部添加することが好ましい。
【0088】
スチレン系熱可塑性エラストマー(D)の添加量は、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との合計量100質量部に対して、より好ましくは0.5〜5質量部の範囲であり、更により好ましくは1〜5質量部の範囲である。前記スチレン系熱可塑性エラストマー(D)は、耐衝撃性付与とフォギング性改良との観点から0.1質量部以上添加することが好ましく、充分な剛性および耐熱性の観点から10質量部以下添加することが好ましい。
【0089】
[その他の添加剤]
本実施の形態に係る樹脂組成物には、必要に応じて、更に、芳香族燐酸エステル系の難燃剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤および熱安定剤などの安定剤、並びに着色剤および離型剤などを添加してもよい。
【0090】
[樹脂組成物の特性]
本実施の形態に係る樹脂組成物は、自動車ランプ周辺部品等の使用時において、レンズ等の周辺透明部品への曇り発生を防止して、充分透明性を保持する観点から、ISO6452に準拠した方法により下記フォギング試験を行った後のガラス板のヘイズ値が2.0%以下であることが好ましく、より好ましくは1.0%以下であり、更により好ましくは0.5%以下である。
【0091】
<フォギング試験>
前記樹脂組成物から得られるペレットまたは成形品60gをガラス製サンプル瓶に入れて、前記サンプル瓶をガラス板で蓋をして190℃で24時間加熱することにより、前記ガラス板に曇り(フォギング)を発生させる。
【0092】
また、本実施の形態に係る樹脂組成物は、耐熱性の観点から、荷重たわみ温度(ISO75に準拠、フラットワイズ法、荷重1.80MPa)が165℃以上であることが好ましく、175〜195℃であることがより好ましく、180〜195℃であることが更に好ましい。
【0093】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施の形態に係る樹脂組成物は、例えば、前記(A)成分、前記(B)および前記(C)、必要に応じて他の成分を含有する原料成分を溶融混錬することにより製造することができる。前記樹脂組成物を製造するための溶融混錬の条件については、特に制限されないが、本実施の形態に所望の効果を充分に発揮し得る樹脂組成物を得るという観点から、例えば、ZSK25二軸押出機(独国Werner&Pfleiderer社製、バレル数10、スクリュー径25mm、L/D=44、ニーディングディスクL:2個、ニーディングディスクR:6個、およびニーディングディスクN:2個を有するスクリューパターン)を用いた場合に、シリンダー温度270〜340℃、スクリュー回転数150〜450rpm、およびベント真空度11.0〜1.0kPaの条件で溶融混練することが好適である。
【0094】
本実施の形態に係る樹脂組成物の製造方法として、二軸押出機を用いることによって大量且つ安定的に樹脂組成物を調製できる。
【0095】
[成形品]
上述の樹脂組成物を用いることにより、剛性、耐熱性および、成形外観に優れる成形品を得ることができる。
【0096】
上述の樹脂組成物を用いて成形品を製造する場合の成形方法としては、以下に制限されないが、例えば、射出成形、押出成形、真空成形および圧空成形が好適に挙げられる。
【0097】
また、上述の樹脂組成物を用いて得られる成形品は、剛性、耐熱性および、成形外観に優れ、且つ高温下でのフォギング性に優れているという観点から、特に自動車ランプ周辺部品(ランプエクステンション、ランプリフレクター、ランプレンズホルダー用途等)に好適に用いることができる。
【0098】
本実施の形態に係る自動車ランプ周辺部品、例えば、自動車ランプリフレクター部品は、上述の樹脂組成物から得られる。
【実施例】
【0099】
以下、本実施の形態を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
【0100】
実施例および比較例に用いた物性の測定方法および原材料を以下に示す。
【0101】
[物性の測定方法]
各物性の測定に用いたテストピースとしては、以下のとおり成形して得られた成形片を切削して作製した80mm×10mm×4mm厚みの試験片を用いた。
【0102】
実施例および比較例で得られた樹脂組成物のペレットを120℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した。乾燥後の樹脂組成物を、射出成形機(IS−80EPN、東芝機械社製)により成形し、ISO 3167、多目的試験片A型の成形片を得た。当該射出成形条件は、射出速度200mm/秒、保圧50MPa、射出+保圧時間20秒、冷却時間20秒、シリンダー温度330℃、金型温度120℃とした。
【0103】
1.荷重たわみ温度(HDT)
ISO 75に準拠し、フラットワイズ法、1.80MPaでHDTを測定した。
【0104】
評価基準としては、HDTが高い値である程、本用途の材料設計面において有利であると判定した。
【0105】
2.曲げ弾性率
ISO 178に準拠し、測定を行なった。
【0106】
評価基準としては、曲げ弾性率(剛性)が高い値である程、本用途の材料設計面において有利であると判定した。
【0107】
3.光沢(グロス)
グロスメーター(VG7000、日本電色工業社製)を用いて、テストピース中央部を測定角度60°で測定した。
【0108】
評価基準としては、グロスが高い値である程、本用途の材料設計面において有利であると判定した。
【0109】
4.フォギング特性
ISO6452に準拠した方法により下記フォギング試験を行った後のサンプル瓶の口を覆っていた部分のガラス板のヘイズ値を、ヘイズメーター(NDH2000型、日本電色工業社製)を用いて測定した。
【0110】
<フォギング試験>
下記の実施例および比較例で得られた樹脂組成物のペレット60gを、ガラス製サンプル瓶に入れて、前記サンプル瓶をガラス板で蓋をして190℃で24時間加熱することにより、前記ガラス板に曇り(フォギング)を発生させた。
【0111】
評価基準としては、数値が低い値である程揮発ガスによる曇りの発生は少なく、特に2%以下の数値が、実用上問題ないレベルであり、フォギング特性に優れると判定した。
【0112】
[原材料]
<A:ポリフェニレンエーテル>
(A−1)還元粘度(クロロホルム、30℃)0.40dl/gのポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルを用いた(以下、「A−1」という)。
【0113】
なお、本実施例において、還元粘度は、クロロホルム溶媒を用いて30℃で測定した。
【0114】
<B:無機フィラー>
(B−1)平均粒子径3.4μmのタルク(商品名:ハイトロンA〔登録商標〕、竹原化学社製)を用いた(以下、「B−1」という)。
【0115】
(B−2)メルカプトシラン化合物で表面処理された、平均粒子径0.2μmの水簸カオリンクレイ(商品名:Nucap290〔登録商標〕、米国KaMin社製)を用いた(以下、「B−2」という)。
【0116】
(B−3)平均粒子径0.6μmの水酸化マグネシウム(商品名:キスマ5L〔登録商標〕、協和化学工業社製)を用いた(以下、「B−3」という)。
【0117】
(B−4)平均粒子径0.1μmのアルミナ水和物(商品名:ベーマイトC01〔登録商標〕、大明化学工業社製)を用いた(以下、「B−4」という)。
【0118】
(B−5)平均粒子径0.1μmの炭酸カルシウム(商品名:ブリリアント1500〔登録商標〕、白石工業社製)を用いた(以下、「B−5」という)。
【0119】
なお、上記各(B)成分の平均粒子径については、上記各(B)成分を、ヘキサメタリン酸溶液中、超音波洗浄装置で10分間分散させ、マイクロトラック粒度分析計(MT−3000II〔登録商標〕、日機装社製)を用いて粒度分布の中心粒径D50%を求めて、得られた値を平均粒子径とした。
【0120】
<C:芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体>
(C−1)攪拌機を備えたオートクレーブ中に、スチレン60質量部、α−メチルスチレンダイマー0.1質量部、およびメチルエチルケトン100質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した。その後、系内の温度を85℃に昇温し、無水マレイン酸40質量部とベンゾイルパーオキサイド0.15質量部とをメチルエチルケトン200質量部に溶解した溶液を、8時間かけて連続的に添加した。添加後、更に3時間、系内の温度を85℃に保って反応液(共重合体溶液)を得た。反応液(共重合体溶液)の一部をサンプリングして、ガスクロマトグラフィーにより、未反応単量体の定量を行なった結果、重合率はスチレン99質量%、無水マレイン酸98質量%であった。
【0121】
ここで得られた共重合体溶液に、アニリン36質量部、およびトリエチルアミン0.6質量部を加えて、140℃で7時間反応させた。得られた反応液をベント付き二軸押出機に供給し、脱揮してスチレン/N−フェニルマレイミド系共重合体を得た。得られたスチレン/N−フェニルマレイミド系共重合体をC−13NMRにより分析した結果、無水マレイン基のイミド基への転化率は94%であった。このスチレン/N−フェニルマレイミド系共重合体は、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体としてのN−フェニルマレイミド単位を51質量%、スチレン単位を47質量%、無水マレイン酸単位を2質量%含む共重合体であり、これをC−1(以下、「C−1」という)とした。C−1の重量平均分子量(GPC法)は150000であり、C−1のガラス転移温度(DSC法)は202℃であった。
【0122】
なお、本実施例において、芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体の重量平均分子量は、ポリスチレンを標準試料として換算した分子量であり、テトラヒドロフランを溶媒として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により算出した。
【0123】
また、本実施例において、芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体のガラス転移温度は、JIS K−7121に従って示差走査熱量測定(DSC)により測定した。
【0124】
<D:スチレン系熱可塑性エラストマー>
(D−1)クレイトンG1651〔登録商標〕(クレイトンポリマー ジャパン社製)を用いた(以下、「D−1」という)。なお、(D−1)は、スチレン重合ブロック−ブタジエン重合ブロック−スチレン重合ブロックの構造を有して、ブタジエン重合ブロック部分が水素添加されたスチレン系熱可塑性エラストマーであった。
【0125】
[実施例1]
ポリフェニレンエーテル(A−1)93質量部と、無機フィラー(B−1)5質量部と、スチレン/N−フェニルマレイミド系共重合体(C−1)2質量部と、スチレン系熱可塑性エラストマー(D−1)2質量部とを、独国Werner&Pfleiderer社製、バレル数10、スクリュー径25mm、L/D=44のZSK25二軸押出機(ニーディングディスクL:2個、ニーディングディスクR:6個、ニーディングディスクN:2個を有するスクリューパタン)の最上流部(トップフィード)から供給して、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数250rpm、ベント真空度7.998kPa(60Torr)で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物のペレットの各物性を上記方法のとおり測定した。測定結果を下記表1に示す。
【0126】
[実施例2〜5および比較例1〜5]
原料成分の種類および配合割合を表1のとおり変更した以外は実施例1の場合と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物のペレットの各物性を上記方法のとおり測定した。測定結果を下記表1に示す。
【0127】
[比較例6]
(B−1)5質量部を、マイクロエースP−2(日本タルク社製のタルク。平均一次粒子径7μm)5質量部に置き換えた以外は、実施例1の場合と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物のペレットの各物性を上記方法のとおり測定した。測定結果を下記表1に示す。
【0128】
【表1】

表1に示すように、実施例1〜5においては、ポリフェニレンエーテル(A)に、特定の無機フィラー(B)および、芳香族ビニル−不飽和ジカルボン酸イミド共重合体(C)を特定量添加したことによって、耐熱性(HDT)、曲げ弾性率(剛性)、成形品光沢に優れ、フォギング特性にも優れた材料が得られることがわかった。一方、比較例1〜5においては、ポリフェニレンエーテル(A)に添加する成分の内、(B)成分、(C)成分のいずれかが欠けることでフォギンク特性が著しく低下することが明らかとなった。また、比較例6の結果より、平均粒子径が特定の範囲でない無機フィラーを用いた場合、フォギンク特性および成形品光沢性が低下することがわかった。
【0129】
以上のことから、本実施の形態の樹脂組成物は、自動車ランプ周辺部品等、高温条件下で剛性、フォギング特性が要求される用途おいて、好適に使用できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の樹脂組成物は、高い耐熱性を有して、剛性および成形品光沢に優れ、さらにフォギング性等にも優れるため、自動車ランプ周辺部品用途(ランプエクステンション、ランプリフレクター)等において有効に使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテル(A)75〜99質量%、
平均粒子径5μm以下の無機フィラー(B)0.5〜15質量%、および
芳香族ビニル化合物と不飽和ジカルボン酸イミド誘導体とを構成単量体として含む共重合体(C)0.5〜10質量%
を含有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分との合計量100質量部に対して、更に、スチレン系熱可塑性エラストマー(D)0.1〜10質量部を含有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)成分の還元粘度(クロロホルム溶媒を用いて30℃で測定)が、0.25〜0.43dl/gである、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)成分が、カオリンクレイ、アルミナ水和物および炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の、樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)成分が、平均粒子径0.5μm以下の無機フィラーである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)成分の重量平均分子量が70000〜250000である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C)成分のガラス転移温度(DSC法)が165℃以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記(C)成分が、スチレン重合ブロックとフェニルマレイミド重合ブロックとを含有する共重合体である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記(C)成分が、スチレン重合ブロックとフェニルマレイミド重合ブロックと、更に無水マレイン酸重合ブロックとを含有する共重合体である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記(C)成分が、芳香族ビニル化合物40〜68質量%と、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体32〜60質量%と、共重合可能な化合物0〜20質量%と、から得られる共重合体である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記(D)成分が、少なくとも2個のスチレン重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとを含むブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記(D)成分が、官能化スチレン系熱可塑性エラストマーである、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
荷重たわみ温度(ISO75に準拠、フラットワイズ法、荷重1.80MPa)が165℃以上である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
ISO6452に準拠した方法により下記フォギング試験を行った後のガラス板のヘイズ値が2.0%以下である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
<フォギング試験>
前記樹脂組成物から得られるペレットまたは成形品60gをガラス製サンプル瓶に入れて、前記サンプル瓶をガラス板で蓋をして190℃で24時間加熱することにより、前記ガラス板に曇り(フォギング)を発生させる。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の樹脂組成物から得られる自動車ランプ周辺部品。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の樹脂組成物から得られる自動車ランプリフレクター部品。

【公開番号】特開2012−111837(P2012−111837A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261647(P2010−261647)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】