説明

高誘電性エラストマー組成物およびその製造方法、並びに高周波用電子部品

【課題】燃焼合成により低コストで得られ、粒子径分布を広くすることができ、高充填化することができる優れた誘電特性を有する高誘電性セラミックスを配合した高誘電性エラストマー組成物およびその製造方法、並びにこの材料を用いた高周波用電子部品を提供する。
【解決手段】エラストマーに、少なくともSr、Li、Ti、O、Ndを構成元素として含む高誘電性セラミックスを配合してなる高誘電性エラストマー組成物であり、上記高誘電性セラミックスが、モル組成比で SrO:16 、Li2O:x 、Nd23:y 、Re23:(12−y)、TiO2:63 (ReはNd以外の希土類元素、8 ≦x≦ 14、 10 ≦y≦ 12 )であって、比表面積が 0.01〜2 m2/g のTi粉末と、イオン結合性物質と、SrCO3 と、Li2CO3 と、Nd23 とを少なくとも含む反応原料を用いて、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高誘電性エラストマー組成物、特に高周波域に使用されるアンテナ等の電子部品、センサー、電界緩和が求められる電子部品などに用いることができる高誘電性のエラストマー組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、コードレスフォン、RFID等に用いるパッチアンテナ、電波望遠鏡やミリ波レーダ等のレンズアンテナ等の目覚しい普及、衛星通信機の著しい発達に伴い、通信信号の周波数の高周波化および通信機の一層の小型化が望まれている。
通信信号の周波数および通信機の大きさは、例えば、通信機内部に組み込まれたアンテナ基板の比誘電率が高くなると、より一層の高周波化および小型化が図れる。比誘電率は、誘電体内部の分極の程度を示すパラメータであり、アンテナ材料に用いられる高誘電性エラストマー組成物の比誘電率が高いほど、電子部品回路を伝播する信号の波長は短くなり、信号は高周波化する。従って、比誘電率の高い電子部品を使用できれば、高周波化ひいては回路の短縮化および通信機等の小型化が図れる。
【0003】
高誘電性エラストマー組成物を製造するには、エラストマーに高誘電性セラミックス粉末を配合するのが一般的である。上記用途等に使用される高誘電性セラミックスとして、組成式が、w・Li2O−x・CaO−y・A23 −z・TiO2 ただし、AはSm,Ndのいずれかから選択されるものであり、また、上記各w,x,y,zが、0.0モル%<w≦25.0モル%、0.0モル%≦x≦50.0モル%、0.0モル%<y≦30.0モル%、0.0モル%<z≦80.0モル%の範囲で表せるマイクロ波用誘電体磁器組成物が知られている(特許文献1参照)。この組成物は、w・Li2O−x・CaO−y・A23 −z・TiO2 100 重量部に対して、マンガン酸化物、ビスマス酸化物、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化錫のいずれかから選択される1つを 10 重量部以下含有せしめて得られている。また、一般式xMO−yLa23−zTiO2(M=Sr、Ca; x:y:z= 1:2:4、2:2:5、1:2:5または1:4:9)のセラミックス誘電体組成物等が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
上記のような高誘電性セラミックスを得るためには、従来、1000℃から 2000℃前後に加熱できる炉を用いて外部加熱を行なわなくてはならなかった。このため、セラミックスの合成には、膨大なエネルギーと大型の加熱機構を必要とし、これが製造コストを高くする原因となっている。よって、このような製造工程を経た市販品の誘電性セラミックス粉末を使用する場合、高誘電性エラストマー組成物のコストが高くなるという問題がある。
【0005】
これに対して外部加熱を行なわない誘電性セラミックスの安価な製造方法として、燃焼合成法(自己伝播高温合成( self propagating high temperature synthesis:SHS ))によるセラミックス粉末の合成が提案されている。該方法は、金属間化合物やセラミックスの生成時の発熱を利用するものであり、化合物の構成元素となる粉体をよく混合して圧粉体をつくり、その一部に高熱を与えると着火して、生成熱を発しながら合成反応が進行することで焼結体を得る方法である。
本発明者らは、燃焼合成方法を利用して得られるCaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2 系の誘電体セラミックスや、この誘電体セラミックス(高誘電性セラミックス)をエラストマーに配合した高誘電性エラストマー組成物等について出願を行なっている(特願2005−282394、特願2005−359842)。
【0006】
しかしながら、CaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2 系の高誘電性セラミックスであっても、そのモル組成比によっては、エラストマーに配合したときの比誘電率が上述した近年の用途に対応するためには必ずしも十分でない場合がある。
【特許文献1】特開平8−109064号公報
【特許文献2】特表2005−520773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題に対処するためになされたもので、燃焼合成により低コストで得られ、粒子径分布を広くすることができ、高充填化することができる優れた誘電特性を有する高誘電性セラミックスを配合した高誘電性エラストマー組成物およびその製造方法、並びにこの材料を用いた高周波用電子部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の高誘電性エラストマー組成物は、エラストマーに、少なくともSr、Li、Ti、O、Ndを構成元素として含み燃焼合成法により得られる高誘電性セラミックスを配合してなる高誘電性エラストマー組成物であって、上記高誘電性セラミックスは、モル組成比で SrO:16 、Li2O:x 、Nd23:y 、Re23:(12−y)、TiO2:63 (ReはNd以外の希土類元素、8 ≦x≦ 14、 10 ≦y≦ 12 )であることを特徴とする。
【0009】
上記高誘電性セラミックスは、比表面積が 0.01〜2 m2/g のTi粉末と、酸素供給源となるイオン結合性物質と、SrCO3 と、Li2CO3 と、Nd23 とを少なくとも含む反応原料においてそれぞれの粉末を、該高誘電性セラミックスが上記モル組成比となる割合で配合し、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により得られることを特徴とする。
【0010】
上記反応原料であるTi粉末の一部を、TiO2 粉末に置き換えて配合することを特徴とする。
また、上記反応原料に、BaCO3 と、ZrO2 とが含まれることを特徴とする。
なお、各元素記号は、それぞれSr(ストロンチウム)、Li(リチウム)、Ti(チタン)、O(酸素)、Nd(ネオジム)、Zr(ジルコニウム)、Ba(バリウム)である。
【0011】
本発明の高誘電性エラストマー組成物の製造方法は、エラストマーに、少なくともSr、Li、Ti、O、Ndを構成元素として含み燃焼合成法により得られる高誘電性セラミックスを配合してなる高誘電性エラストマー組成物の製造方法であって、反応原料粉末として少なくとも、比表面積が 0.01〜2 m2/g のTi粉末と、酸素供給源となるイオン結合性物質と、SrCO3 と、Li2CO3 と、Nd23 とを、得られる高誘電性セラミックスがモル組成比で SrO:16 、Li2O:x 、Nd23:y 、Re23:(12−y)、TiO2:63(ReはNd以外の希土類元素、8 ≦x≦ 14、 10 ≦y≦ 12 )となる割合で配合する工程と、上記所定割合で配合された配合物を、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により反応させる工程と、上記燃焼合成反応により得られた反応生成物を粉砕する工程と、上記粉砕された粉末を水で洗浄して高誘電性セラミックスを得る工程と、得られた高誘電性セラミックスをエラストマーに配合する工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の高周波用電子部品は、高誘電性エラストマー組成物を電子部品材料として用いる、周波数 100 MHz 以上の電気信号を取り扱うための高周波用電子部品であって、この高誘電性エラストマー組成物が上記記載の高誘電性エラストマー組成物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高誘電性エラストマー組成物は、モル組成比で SrO:16 、Li2O:x 、Nd23:y 、Re23:(12−y)、TiO2:63 (ReはNd以外の希土類元素、8 ≦x≦ 14、 10 ≦y≦ 12 )であり燃焼合成法により得られる高誘電性セラミックスを、エラストマーに配合してなるので、7〜40 の比誘電率を有する高誘電性エラストマー組成物が容易に得られる。
また、この高誘電性エラストマー組成物を電子部品材料として用いる、周波数 100 MHz 以上の電気信号を取り扱うための高周波用電子部品は、より高周波化、小型化および低コスト化が図れる。
【0014】
本発明の高誘電性エラストマー組成物の製造方法は、反応原料粉末として少なくとも、比表面積が 0.01〜2 m2/g のTi粉末と、酸素供給源となるイオン結合性物質と、SrCO3 と、Li2CO3 と、Nd23 とを、得られる高誘電性セラミックスがモル組成比で SrO:16 、Li2O:x 、Nd23:y 、Re23:(12−y)、TiO2:63(ReはNd以外の希土類元素、8 ≦x≦ 14、 10 ≦y≦ 12 )となる割合で配合した後、燃焼合成反応により得られる高誘電性セラミックスを、エラストマーに配合するので、外部加熱で製造した従来の高誘電性セラミックスを用いる方法と比較して、低コストで高誘電性エラストマー組成物を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明においてエラストマーに配合する高誘電性セラミックスは、少なくともSr、Li、Ti、O、Ndを、必要に応じて、Re(Nd以外の希土類元素)、BaおよびZrを構成元素として含む、SrO−Li2O−Nd23−Re23−TiO2 系の高誘電性セラミックスであり、燃焼合成法により得られる。該高誘電性セラミックスは、そのモル組成比をSrO:16 、Li2O:x 、Nd23:y 、Re23:(12−y)、TiO2:63 (8 ≦x≦ 14、 10 ≦y≦ 12 )とすることで、優れた誘電特性を有している。
燃焼合成法としては、比表面積が 0.01〜2 m2/g のTi粉末と、酸素供給源となるイオン結合性物質と、SrCO3 と、Li2CO3 と、Nd23 とを少なくとも含む反応原料においてそれぞれの粉末を、該高誘電性セラミックスが上記モル組成比となる割合で配合し、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成反応を行なう方法が挙げられる。
以下に該高誘電性セラミックスを得る工程を説明する。
【0016】
本発明に用いるTi粉末は、微粉末であることが好ましく、比表面積が 0.01〜2 m2/g である。燃焼波が伝播し、かつ取り扱いやすい好ましい比表面積の範囲は 0.1〜0.6 m2/g である。比表面積が 0.01 m2/g 未満の場合、発熱源となる金属粉未と酸素供給源となるイオン結合性物質(過酸化物)との接触面積が少ないため、燃焼波が伝播せず、高誘電性セラミックスが合成できない場合がある。また、比表面積が 2 m2/g をこえる金属粉未は極めて活性であり、取り扱いが困難となるため好ましくない。また、Ti粉末に代えて水素化Ti粉末を使用することもできる。本発明において、金属粉未の比表面積は、BET法により測定された値をいう。
【0017】
本発明に用いるTi粉末は平均粒子径が同一であっても、比表面積が異なると反応性に差が認められた。すなわち、球状よりも比表面積が大きくなる形状の金属粉末を用いると燃焼合成反応がより速やかに進行した。比表面積が大きくなる形状としては、球状粒子表面に複数の凹凸が形成された粒子、粒子全体としていびつな形状の粒子、またはこれらの組み合わせがある。
本発明に使用できる平均粒子径としては 150μm 以下、好ましくは 0.1〜100μm である。150μm をこえると、他の原材料との混合が十分でなくなり、燃焼波が伝播しない場合が生じる。表面に凹凸が形成された粒子またはいびつな形状の平均粒子径の測定方法は、画像解析法が好ましい。
【0018】
また、Ti粉末の一部を置き換えて配合することができるTiO2 粉末は、燃焼合成反応において反応希釈剤として働き、TiO2 粉末の配合量を調整することで断熱火炎温度を制御できる。具体的には、TiO2 の配合割合を上げると、反応の進行速度が低下し、断熱火炎温度が下がる。
また、一般に金属単体とするためには精製が必要であり、例えば、Ti粉末はコストが高いので、該Ti粉末とTiO2 粉末とを併用することにより、コスト削減を図れるという効果も有する。
ただし、該TiO2 粉末を多量に使用すると、反応生成物への不純物の混入のおそれがあり、また、後述の実施例等に示すように所定量をこえて使用すると燃焼波が伝播しなくなるので、コスト面、反応に必要な断熱火炎温度等を考慮して、併用することが好ましい。
【0019】
本発明の高誘電性セラミックスの一部を構成するTiは、上記のTi金属粉末およびTiO2 粉末から供給される。合成時における、これらの粉末の配合量は、上記モル組成比に従い決定される。
【0020】
本発明に用いる酸素供給源となる物質としては、加熱により酸素を発生させるイオン結合性物質が配合される。該イオン結合性物質としては、KClO3、NaClO3、NH4ClO3 等の塩素酸塩類、KClO4、NaClO4、NH4ClO4 等の過塩素酸塩類、NaClO2 などの亜塩素酸塩類、KBrO3 などの臭素酸塩類、KNO3、NaNO3、NH4NO3 等の硝酸塩類、NaIO3、KIO3 等のよう素酸塩類、KMnO4、NaMnO4・3H2Oの過マンガン酸塩類、K2Cr27、(NH42Cr27 等の重クロム酸塩類、NaIO4 などの過よう素酸塩類、HIO4・2H2Oなどの過よう素酸類、CrO3 などのクロム酸類、NaNO2 などの亜硝酸塩類等が挙げられる。
これらの中で過塩素酸塩類、塩素酸塩類、亜塩素酸塩類が好ましく、繰り返し純水で洗浄することで副生成物であるNaCl、KClを除去できるNaClO4、KClO4 を用いることがより好ましい。さらにコストの面で有利なNaClO4 を用いることが特に好ましい。なお、過塩素酸塩類の場合、生成する炭酸ガスがガス化するため、合成粉末には残存しない。
【0021】
本発明において配合する上記イオン結合性物質は、分子内部から放出できる酸素原子により、酸化されていないTi金属を酸化してTiO2 にすることができる量(最低必要量)以上を配合する。
【0022】
本発明の高誘電性セラミックスの一部を構成するSr供給源としてはSrCO3 粉末を、Li供給源としてはLi2CO3 粉末をそれぞれ用いる。これら金属炭酸塩を用いることにより取り扱い性に優れる。
合成時におけるSrCO3 粉末の配合量は、上記モル組成比に従い決定される。例えばTi金属粉末およびTiO2 を合わせて 63 モル配合する場合は、SrCO3 粉末を 16 モル配合する。
また、合成時におけるLi2CO3 粉末の配合量も、上記モル組成比に従い決定される。例えばTi金属粉末およびTiO2 を合わせて 63 モル配合する場合は、Li2CO3 粉末をxモル(8 ≦x≦ 14)配合する。より好ましくは 9 ≦x≦ 13であり、最も好ましくは x=12 である。
【0023】
希土類元素であるNdおよびRe(Nd以外の希土類元素)の供給源としては、それぞれの酸化物(Nd23 等)粉末を使用する。Reとしては、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)が挙げられる。これらの中で工業的に特に重要となるのは、La、Pr、Sm等である。
また、本発明における高誘電性セラミックスのReは、Nd以外の上記希土類元素が1種単独であっても、2種以上を混合したものであってもよい。
【0024】
合成時における、これらのNd23 粉末およびRe23 粉末の配合量は、上記モル組成比に従い決定される。例えばTi金属粉末およびTiO2 を合わせて 63 モル配合する場合は、Nd23 粉末およびRe23 粉末は合わせて 12 モル配合する。
ここで、Nd23 粉末の配合量をyモル、Re23 粉末の配合量を(12−y)モルとすると、y≧10であることが好ましく、最も好ましくは y=12 である。
【0025】
また、本発明における高誘電性セラミックスは、その構成元素としてBaおよびZrを微量含むことが好ましい。Ba元素を微量配合することにより、骨格となるSrの位置にイオン半径の大きいBaが入り込むため、比誘電率は大きくなる。Tiよりもイオン半径の大きいZrを微量配合すると、格子間隔が広がり、比誘電率が向上する。
【0026】
このBa供給源としては、BaCO3 粉末を、Zr供給源としてはZrO2 粉末をそれぞれ用いる。なお、BaCO3 粉末に代えてBaO2 粉末を用いることもできる。
合成時における、これらの微量元素源となる各粉末の配合量は、例えばTi金属粉末およびTiO2 を合わせて 63 モル配合する場合は、それぞれ 0.01〜5 モル配合する。より好ましくは、それぞれ 0.18 モル配合する。
【0027】
本発明の高誘電性セラミックスの最適組成は、モル組成比でSrO:16、Li2O:12、Nd23:12、TiO2:63、BaO:0.18、ZrO:0.18 である。
該最適組成とする場合の各反応原料は、SrCO3:Li2CO3:Nd23:TiO2+Ti粉末:BaCO3:ZrO2=16:12:12:63:0.18:0.18 のモル比で配合する。なお、NaClO4 等のイオン結合性物質は最低必要量以上を適量配合する。
【0028】
本発明において上記の最適組成の高誘電性セラミックスを得るための燃焼合成反応の一例を下記反応式(1)〜(4)に示す。
【化1】

TiO2 粉末を用いない(1)式の場合、反応が急激過ぎて合成粉末の回収が困難となるおそれがある。また、(4)式のようにTi粉末に置き換えるTiO2 粉末が多すぎると、上述したように燃焼波が伝播しなくなる等のおそれがある。
【0029】
上記反応原料をそれぞれ所定割合で配合する工程において、過塩素酸ナトリウム等と、Ti粉末とを直接接触させると発火、爆発等の危険がある。よって、Ti粉末は予め安定な金属炭酸塩(SrCO3 等)と予備混合して安定な中間原料とした後、過塩素酸ナトリウム等と混合することが好ましい。
上記予備混合に用いる撹拌機は、タンブラー、ヘンシェルミキサ、ボールミル、乳鉢と乳棒等を用いた混合等特に制限されることなく使用できる。また、得られた中間原料に、過塩素酸ナトリウム等を加えての混合に用いる撹拌機は、撹拌翼と撹拌機壁面とのクリアランスが十分にあり、Ti粉末と、過塩素酸ナトリウム等とに撹拌によるせん断力の加わることの少ないヘンシェルミキサや撹拌翼のないボールミル等を使用することが好ましい。
【0030】
混合粉末は、るつぼに投入して燃焼合成を行なうが、そのるつぼの材質としては好ましくは非酸化物である炭素、炭化珪素、窒化珪素等が使用できる。これらの中で炭素材が反応容器材料としての熱伝導性と形状加工性とに優れているので好ましい。
混合粉末をるつぼへ投入する方法としては、混合粉末をパウダーベット状に敷き詰めたり、敷き詰めた後圧縮したり、ペレット状に押し固めたものをるつぼへ投入する方法等が使用できる。
【0031】
上記所定割合で配合された配合物(混合粉末)を燃焼合成法により反応させる。燃焼合成法の条件について、反応系の断熱火炎温度は 1500℃以上である。1500℃以上であれば、燃焼波が伝播するからである。
燃焼合成はチャンバー内で行なうが、その雰囲気としては、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、Ar(アルゴン)、Kr(クリプトン)等の希ガス雰囲気が好ましい。なお、反応生成物の誘電特性を劣化させなければ、窒素ガス、炭酸ガス雰囲気等を利用することも可能である。また、酸素分圧を制御可能であれば、酸素ガスを使用することも可能である。
燃焼合成を開始させるための混合粉末への着火方法は、金属粉が着火発熱可能となる方法であれば特に限定されない。カーボンフイルムを着火発熱させて熱源とし、混合粉末に接触させて着火発熱させる方法が取り扱いに優れているので好ましい。燃焼合成反応は、約 1〜60 秒で終了する。
【0032】
反応生成物は、るつぼ中において塊状である。該反応生成物の粉砕は、平均粒径が 100μm 以下となる粉砕方法であれば特に限定されず、ジェットミル、ボールミル、乳鉢と乳棒等で行なうことができる。平均粒径が 100μm をこえると、後工程の洗浄工程での洗浄が十分でなくなり、副生成物であるイオン結合性塩が残留しやすくなる。
【0033】
粉砕工程後の微粉末には、副生成物であるイオン結合性塩が含まれる。例えばNaClO4 を原料に用いた場合はNaClが、KClO4 を原料に用いた場合はKClがそれぞれ生成する。これらの塩は上述のように水で洗浄することで除去できる。
塩類が燃焼合成反応後の合成粉末に存在すると焼結性が阻害される。焼結性を阻害しない程度まで塩類を減らす基準としては、洗浄液の電気伝導率が 150μS/cm 以下である。すなわち洗浄回数、洗浄量の如何にかかわらず、上記合成粉末を水で洗浄したとき洗浄後の洗浄水の電気伝導率が 150μS/cm 以下であればよい。
【0034】
以上の工程により比誘電率が 140 以上、誘電正接が 0.01 未満、温度係数が -150 ppm/℃ 以下(−10℃〜70℃の温度範囲で、25℃を基準)の高誘電性セラミックス粉末(合成粉末)が得られる。
本発明に使用できる高誘電性セラミックス粉末の平均粒子径は 0.01μm〜100μm 、好ましくは 0.1μm〜20μm 、さらに好ましくは、0.1μm〜2μm である。平均粒子径が 0.01μm 未満になると、粒子重量が軽量なため計量時に飛散したり、あるいは嵩が大きいので混合機の容積を大きくしたりする可能性があり好ましくない。また、100μm をこえると、エラストマー内での誘電特性のばらつきを引き起こすおそれがあるので好ましくない。
洗浄後の粉末を、乳鉢と乳棒、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機でさらに微細化することで、平均粒子径を上記の 2μm 以内、標準偏差(3σ値)を 5μm 以内に調整できる。標準偏差(3σ値)がこの範囲内であると、粒子径の分布が広くなりエラストマーへの高充填化が可能となる。
【0035】
また、燃焼合成で得られた合成粉末の結晶構造をさらに安定させたり、微量な不純物を除去して誘電特性を向上させるため、仮焼することが好ましい。仮焼処理条件は、高誘電性セラミックス中に残存する未反応物や不純物の含有量にもよるが、仮焼温度は断熱火炎温度の 1500℃以下の 850〜1200℃が好ましく、仮焼時間は 0.5〜3 時間が好ましい。高誘電性を保ち、未反応物や不純物の含有量を減らすには、仮焼条件の低温領域で、長時間仮焼することが好ましい。
【0036】
上記燃焼合成法により製造した高誘電性セラミックス粉末を、エラストマーに配合して比誘電率が 7〜40 の高誘電性エラストマー組成物を得る。
本発明に使用できるエラストマーとしては、天然ゴム系エラストマーおよび合成ゴム系エラストマーが挙げられる。
天然ゴム系エラストマーとしては、天然ゴム、塩化ゴム、塩酸ゴム、環化ゴム、マレイン酸化ゴム、水素化ゴム、天然ゴムの二重結合にメタクリル酸メチル、アクリロニトリル、メタクリル酸エステル等のビニルモノマーをグラフトさせてなるグラフト変性ゴム、窒素気流中でモノマー存在下に天然ゴムを粗錬してなるブロックポリマー等を挙げることができる。これらは、天然ゴムを原料とするものの他、合成cis-1,4-ポリイソプレンを原料としたエラストマーを挙げることができる。
【0037】
合成ゴム系エラストマーとしては、イソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンターポリマー、クロロスルホン化ポリエチレンゴム等のポリオレフィン系エラストマー、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー(SBS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)等のスチレン系エラストマー、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、ナイロン12、ブチルゴム、ブタジエンゴム、ポリノルボルネンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等を挙げることができる。
【0038】
上記エラストマーは、1種類または2種類以上混合して用いることができる。また、エラストマーの持つ弾力性を損なわない範囲内で熱可塑性樹脂の1種または2種を配合して用いることができる。本発明のエラストマーとして天然ゴム系エラストマーおよび/または合成非極性エラストマーの中から選ばれる1種または2種以上を用いた場合には電気絶縁性に優れた高誘電性エラストマーを得ることができるので、特に絶縁性の要求される用途に好ましく用いることができる。
合成非極性のエラストマーとしては、エチレンプロピレンゴム、イソブチレンゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム等を挙げることができる。特に、エチレンプロピレンゴムは誘電正接が極めて低いので、アンテナ等の電子部品やセンサーの用途には好ましく用いることができる。
【0039】
高誘電性セラミックスの配合割合は、高誘電性エラストマー組成物の比誘電率を 7〜40 に維持でき、かつ、アンテナなどの電子部品とできる成形性を保持できる量である。例えば、エラストマー 100 重量部(phr)に対して、高誘電性セラミックスが 300〜1500 重量部(phr)配合できる。
【0040】
本発明においては、本発明の効果を妨げない範囲で(1)エラストマーとセラミックス粉末の界面の親和性や接合性を向上させ、機械的強度を改良するために、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ジルコニアアルミネート系カップリング剤等のカップリング剤を、(2)電極形成のためのメッキ性を改良するために、タルク、ピロリン酸カルシウム等の微粒子性充填剤を、(3)熱安定性を一層改善するために酸化防止剤を、(4)耐光性を改良するために紫外線吸収剤等の光安定剤を、(5)難燃性を一層改善するためにハロゲン系もしくはリン系等の難燃助剤を、(6)耐衝撃性を改良するために耐衝撃性付与剤を、(7)潤滑性を改良するために滑剤、揺動性改良剤(固体潤滑剤、液体潤滑剤)を、(8)着色するために染料、顔料などの着色剤を、(9)物性を調整するために可塑剤、硫黄やパーオキサイド等の架橋剤を、(10)加硫を進めるための加硫促進剤をそれぞれ配合することができる。
【0041】
また、本発明の高誘電性エラストマー組成物には、本発明の効果を妨げない範囲内でガラスファイバー、チタン酸カリウムウィスカ等のチタン酸アルカリ金属繊維、酸化チタン繊維、ホウ酸マグネシウムウィスカやホウ酸アルミニウムウィスカ等のホウ酸金属塩系繊維、ケイ酸亜鉛ウィスカやケイ酸マグネシウムウィスカ等のケイ酸金属系繊維、カーボンファイバ、アルミナ繊維、アラミド繊維等の各種有機または無機の充填剤を併用できる。
【0042】
本発明の高誘電性エラストマー組成物の成形方法としては、特に制限がなく、各種の混合成形方法を用いることができる。例えば、2軸押し出し機で混錬して製造する方法などが好適に用いられる。直ちに射出成形や押し出し成形等により成形品としてもよいし、ペレットや棒状物、板状物等の成形用材料としてもよい。
【0043】
本発明の高誘電性エラストマー組成物は、燃焼合成法で得られた上述の高誘電性セラミックスを配合するので、安価でかつ誘電特性に優れる。そのため、このエラストマー組成物を用いた 100 MHz で作動する高周波用電子部品は、高周波帯域における信号伝播速度がいっそう速くなったり、波長短縮効果で電子部品の小型化が可能となる。このため、携帯電話、コードレスフォン、RFID等に用いるパッチアンテナ、電波望遠鏡やミリ波レーダ等のレンズアンテナ等に好適である。
【実施例】
【0044】
参考合成例1〜参考合成例6、参考比較例1〜参考比較例5
以下の方法で高誘電性セラミックスを合成した。
各反応原料を表1に示すモル配合比(モル比)でボールミルを用いて 5 時間混合することにより混合粉末を得た。合成装置内のチャンバー内にカーボンるつぼを設置し、混合粉末(100 g )をカーボンるつぼ内に敷き詰め、着火用のカーボンフイルムを混合粉の一部と接触させて、チャンバーを閉じた。真空ポンプを用いて、チャンバー内の残留酸素を減少させた後、アルゴン(Ar)ガスを封入し、チャンバーの内圧を 0.1 MPa とした。
なお、表1中において、Ti金属粉末は住友チタニウム社製TSP−350およびTILOP−150(分級して比表面積を 0.005 m2/g に調整)を、TiO2、SrCO3、CaCO3、Li2CO3、NaClO4、BaCO3、ZrO2 は和光純薬工業社製各試薬を、Nd23 およびSm23 は信越化学工業社製品を、それぞれ用いた。
【0045】
参考合成例1〜参考合成例6および参考比較例1、4、5の組成物について燃焼波が伝播し、燃焼合成法により合成粉末と副生成物(NaCl)が得られた。アルミナ製乳鉢を用いて合成粉末を粉砕し、未洗浄セラミックス粉末を得た。
得られた未洗浄セラミックス粉末を十分水洗し、この粉末に付着したNaClを除去して高誘電性セラミックスを得た。
得られた高誘電性セラミックスについて、容量法により 400 MHz の周波数帯において、−10℃〜70℃の温度範囲で、25℃を基準とする比誘電率およびその温度係数τεr、ならびに誘電正接を測定した。容量法に用いた測定装置はインピーダンスアナライザー:E4991A(アジレント・テクノロジー社製)、電極は16453A(アジレント・テクノロジー社製)をそれぞれ用いた。また、平均粒子径(μm )および粒子径分布(3σ値、μm )を測定した。結果を表1に併記する。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例1〜実施例4
エチレンプロピレンゴム(三井化学社製:EPT−3095)と、燃焼合成により合成したセラミックス粉末(参考合成例5)と、カーボンブラック(東海カーボン社製:シーストS)、加硫促進剤および加工助剤等とをそれぞれ表2に示す配合割合で混合し、加圧ニーダで混練り後、加熱圧縮成形にて、80 mm×80 mm×1.5 mm の成形体を得た。なお、加硫条件は、それぞれ 170℃×20分である。
また、表2中において、プロセスオイルは出光興産社製のPW−380を、酸化亜鉛は井上石炭工業社製のMETA−Z L−40を、ステアリン酸は花王社製のルナックS−30を、老化防止剤は精工化学社製のノンフレックスRD−Gを、加硫促進剤は住友化学社製のソクシノールMを、過酸化物架橋剤は化薬アクゾ社製のカヤクミルD40を、それぞれ用いた。
得られた成形体から、1.5 mm×1.5 mm×80 mm の短冊状試験片を加工し、空洞共振器法を用いて、1、5 GHz の周波数帯で比誘電率および誘電正接を測定した。ここで、比誘電率および誘電正接は 25℃での値である。測定結果を表2に示す。
【0048】
比較例1
エチレンプロピレンゴム(三井化学社製:EPT−3095)100 重量部に対し、燃焼合成により合成したCaO−SrO−Li2O−Re23−TiO2 系のセラミックス粉末(参考比較例1)と、その他の配合剤とをそれぞれ表2に示す配合割合で混合し、加圧ニーダで混練り後、加熱圧縮成形にて、80 mm×80 mm×1.5 mm の成形体を得た。なお、加硫条件は、それぞれ 170℃×20分である。
得られた成形体について、実施例1と同様の方法で比誘電率および誘電正接を測定した。測定結果を表2に示す。
【0049】
比較例2および比較例3
エチレンプロピレンゴム(三井化学社製:EPT−3095)100 重量部に対し、市販のBaNd2Ti514 系のセラミックス粉末(共立マテリアル社製HF120)と、その他の配合剤をそれぞれ表2に示す配合割合で混合し、加圧ニーダで混練り後、加熱圧縮成形にて、80 mm×80 mm×1.5 mm の成形体を得た。なお、加硫条件は、それぞれ170℃×20分である。
得られた成形体について、実施例1と同様の方法で比誘電率および誘電正接を測定した。測定結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の高誘電性エラストマー組成物は、燃焼合成法により得られる所定組成の高誘電性セラミックスを配合するので、低コストで誘電特性に優れ、携帯電話、コードレスフォン、RFID等に用いるパッチアンテナ、電波望遠鏡やミリ波レーダ等のレンズアンテナ等として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーに、少なくともSr、Li、Ti、O、Ndを構成元素として含み燃焼合成法により得られる高誘電性セラミックスを配合してなる高誘電性エラストマー組成物であって、
前記高誘電性セラミックスは、モル組成比で SrO:16 、Li2O:x 、Nd23:y 、Re23:(12−y)、TiO2:63 (ReはNd以外の希土類元素、8 ≦x≦ 14、 10 ≦y≦ 12 )であることを特徴とする高誘電性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記高誘電性セラミックスは、比表面積が 0.01〜2 m2/g のTi粉末と、酸素供給源となるイオン結合性物質と、SrCO3 と、Li2CO3 と、Nd23 とを少なくとも含む反応原料においてそれぞれの粉末を、該高誘電性セラミックスが前記モル組成比となる割合で配合し、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により得られることを特徴とする請求項1記載の高誘電性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記反応原料であるTi粉末の一部を、TiO2 粉末に置き換えて配合することを特徴とする請求項2記載の高誘電性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記反応原料に、BaCO3 と、ZrO2 とが含まれることを特徴とする請求項2または請求項3記載の高誘電性エラストマー組成物。
【請求項5】
エラストマーに、少なくともSr、Li、Ti、O、Ndを構成元素として含み燃焼合成法により得られる高誘電性セラミックスを配合してなる高誘電性エラストマー組成物の製造方法であって、
反応原料粉末として少なくとも、比表面積が 0.01〜2 m2/g のTi粉末と、酸素供給源となるイオン結合性物質と、SrCO3 と、Li2CO3 と、Nd23 とを、得られる高誘電性セラミックスがモル組成比で SrO:16 、Li2O:x 、Nd23:y 、Re23:(12−y)、TiO2:63(ReはNd以外の希土類元素、8 ≦x≦ 14、 10 ≦y≦ 12 )となる割合で配合する工程と、
前記所定割合で配合された配合物を、断熱火炎温度が 1500℃以上である燃焼合成法により反応させる工程と、
前記燃焼合成反応により得られた反応生成物を粉砕する工程と、
前記粉砕された粉末を水で洗浄して高誘電性セラミックスを得る工程と、
得られた高誘電性セラミックスをエラストマーに配合する工程とを備えることを特徴とする高誘電性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項6】
高誘電性エラストマー組成物を電子部品材料として用いる、周波数 100 MHz 以上の電気信号を取り扱うための高周波用電子部品であって、
前記高誘電性エラストマー組成物が請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の高誘電性エラストマー組成物であることを特徴とする高周波用電子部品。

【公開番号】特開2008−112586(P2008−112586A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293085(P2006−293085)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】