説明

高転移性胃癌マーカー

【課題】本発明の課題は、高転移性胃癌の判定法及びそのためのキット、並びに、高転移性胃癌抑制剤のスクリーニング方法を提供することにある。
【解決手段】ヒト胃癌細胞株から、高度の腹膜転移能を持つ高転移型ヒト胃癌培養細胞株を作製し、転移能獲得前と獲得後の株とのmRNA発現を、エクソンマイクロアレイを用いて網羅的に比較検討した。その結果、DNAJC12(DnaJ(Hsp40) homolog, subfamily C, member 12)、ULBP1(UL16 binding protein 1)、及びXAF1(XIAP associated factor-1)の新規エクソン配列を同定し、これらの新規エクソンDNA配列によりコードされる領域を含むスプライシングバリアントが高転移性株において特異的に強く発現することを見い出した。さらに、ULBP1の新規バリアントは胃癌細胞だけでなく、膵癌、大腸癌、又は乳癌細胞においても発現することを見い出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃癌、膵癌、大腸癌、及び、乳癌の判定法とそのためのキット、並びに、上記癌の抑制剤のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、死亡原因の第一位となっている癌においては、その発生機序、診断法、治療法が進歩したにもかかわらず、未だに多くの進行癌を治療できないのが現状である。これを改善するためには、新しい早期診断法と治療法の開発が必要とされている。なかでも胃癌は、日本と東南アジアでは消化管で最も多くみられる悪性腫瘍であり、癌死亡率では、胃癌が世界で第2位を占めている。胃癌の予後は、診断技術や胃癌の治療法の発達により改善しているが、進行癌の治癒的切除の後に起こる再発の主原因は腹膜播種である。胃漿膜にまで浸潤した胃癌の予後は、5年生存率が35%と低い。また、進行胃癌術後の腹膜播種再発においてはいまだに有効な治療法がなく、5年生存率は5%以下と報告されている。胃癌細胞のこのような悪性の特性のうちで、腹膜への転移は特に複雑な現象であり、多くのステップと多くの遺伝子が関与している。胃癌の腹膜播種には、接着分子、アポトーシス関連遺伝子および他の遺伝子が深く関与しているという報告があるが、胃癌の転移のメカニズム解明には、さらなる研究が必要であるとされている。
【0003】
胃癌腹膜播種又は腹腔内遊離癌細胞の検出のため、特異性の高い新規マーカーを同定する方法としては、被験者から生体試料を採取するステップと、アルデヒドデヒドロゲナーゼ又はドーパデカルボキシラーゼの少なくとも一方の存在を被検者の生体試料から検出するステップと、アルデヒドデヒドロゲナーゼ又はドーパデカルボキシラーゼの少なくとも一方が存在する場合には、胃癌由来の転移癌細胞が前記試料中に含まれている可能性が高いと判断するステップとを含む方法により、胃癌由来の転移癌細胞を検出し、これらを胃癌由来の転移癌細胞のマーカーとして使用することによって、胃癌患者の腹膜転移の有無を迅速かつ確実に検出することができ、腹腔内癌化学療法を適用すべきかの決定のための有力な材料を提供することができる方法(例えば、特許文献1)が開発されている。
【0004】
また、新規な腫瘍マーカーを提供するものであって、既知のI型コラーゲンのC端非3重鎖テロペプチド(ICTP)の変動をマーカーにすることを特徴とする、進行胃癌、特にスキルス胃癌の適切な診断マーカー(例えば、特許文献2)や、従来のRLGS法に比較して少量のDNAサンプルを用い簡便で、迅速、安価に癌患者の予後が良好か否かを診断することのできる技術を確立するものであって、癌部または非癌部組織検体より得られたDNA繰り返し配列中に存在する脱メチル化DNA数を測定し、その割合に基づいて、肝細胞癌、神経膠芽腫、骨髄腫、胃癌、膵臓癌、脳腫瘍、大腸癌、肺細胞癌、腎癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌及び白血病といった癌疾患の予後が良好か否かを判断する方法(例えば、特許文献3)が知られている。
【0005】
さらに、転移性結腸直腸癌あるいは原発性および/または転移性の胃癌または食道癌をスクリーニング・診断するための試薬、キットおよび方法や、その患者を処置するためにインビボでイメージングするための化合物や組成物、その治療や予防のための薬物、遺伝子療法薬およびアンチセンス化合物を運搬するための組成物、ワクチンおよび方法(例えば、特許文献4)や、細胞の生体エネルギー的指数を作成するため、構造タンパク質およびミトコンドリアの呼吸(それぞれ例えば、hsp60やチトクロームオキシダーゼのサブユニットIおよびIV)に関して、ミトコンドリアの生体エネルギー的機能のタンパク質(H−ATP合成酵素のβ−触媒サブユニットなど)の発現についての研究を使用すること、そしてグリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素およびピルビン酸キナーゼMなどの細胞の解糖経路のタンパク質の発現に関連する前記ミトコンドリア生体エネルギー指数(β−ATPase/hsp60比;β−ATPase/COXI比;β−ATPase/COXIV比)を使用することからなる、細胞の代謝性マーカーの研究に基づいて、癌の検出、進行の解析、および悪性腫瘍を予後診断するための方法(例えば、特許文献5)等が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでに様々な腫瘍マーカーが開発されているが、擬陽性が多く初期癌の検出が困難であるなど改善の余地が多く残されている。本発明の課題は、高転移性胃癌をはじめとする各種癌のマーカーとなりうる遺伝子を同定し、癌の判定法及びそのためのキットや、癌抑制剤のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
癌細胞には、旺盛な増殖能を有するだけでなく、血液あるいはリンパ液の流れにのって遠く離れた組織に転移する転移能を有するものが存在し、このような高転移性癌は、最終的には予後不良を引き起こす要因となる。本発明者らは、高い転移能を有する癌細胞に、何らかの遺伝子の「スプライシングパターンの変化」が関与していると仮定し、ヒト胃癌細胞株MKN45から、高度の腹膜転移能を持つ高転移型ヒト胃癌培養細胞株MKN45P14GAを作製し、転移能獲得前と獲得後の株とのmRNA発現を、エクソンマイクロアレイを用いて網羅的に比較検討した。その結果、DNAJC12(DnaJ(Hsp40) homolog, subfamily C, member 12)の新規エクソンとして配列番号1に示されるDNA配列を、ULBP1(UL16 binding protein 1)の新規エクソンとして配列番号2〜8に示されるDNA配列を、XAF1(XIAP associated factor-1)の新規エクソンとして配列番号9及び10に示されるDNA配列を同定し、さらに、これらの3つの遺伝子の新規エクソンDNA配列によりコードされる領域を含むスプライシングバリアントが高転移性株において特異的に強く発現することを見い出した。さらに、本発明者らは、胃癌、膵癌、大腸癌、乳癌について、それぞれ十数種類の株化細胞を用いて検討を行い、上記ULBP1の新規スプライシングバリアントが、胃癌細胞だけでなく、膵癌、大腸癌、又は乳癌細胞にも発現することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、(1)配列番号1に示されるDNA配列によりコードされる領域を含むことを特徴とするDNAJC12(DnaJ(Hsp40) homolog, subfamily C, member 12)のスプライシングバリアントや、(2)配列番号2〜8のいずれかに示されるDNA配列によりコードされる領域を含むことを特徴とするULBP1(UL16 binding protein 1)のスプライシングバリアントや、(3)配列番号9及び/又は10に示されるDNA配列によりコードされる領域のうち、少なくとも1以上を含むことを特徴とするXAF1(XIAP associated factor-1)のスプライシングバリアントに関する。
【0010】
また本発明は、(4)胃癌患者から採取した生体試料における、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現を検出することを特徴とする高転移性胃癌の判定法や、(5)患者から採取した生体試料における、上記(2)に記載のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現を検出することを特徴とする胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌の判定法や、(6)スプライシングバリアントが、配列番号3に示されるDNA配列によりコードされる領域を含むULBP1のスプライシングバリアントであることを特徴とする上記(5)記載の判定法や、(7)スプライシングバリアントのmRNAの発現を検出することを特徴とする上記(4)〜(6)のいずれかに記載の判定法や、(8)胃癌患者から採取した生体試料に含まれる、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現を検出するための、プライマーセット若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えることを特徴とする高転移性胃癌の判定用キットや、(9)患者から採取した生体試料に含まれる、上記(2)に記載のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現を検出するための、プライマーセット若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えることを特徴とする胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌の判定用キットや、(10)スプライシングバリアントが、配列番号3に示されるDNA配列によりコードされる領域を含むULBP1のスプライシングバリアントであることを特徴とする上記(9)記載の判定用キットに関する。
【0011】
さらに本発明は、(11)高転移型ヒト胃癌細胞を、被検物質の存在下で培養し、該培養細胞における、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現量を測定し、被検物質の非存在下における場合と比較・評価することを特徴とする高転移性胃癌抑制剤のスクリーニング方法や、(12)高転移型ヒト胃癌細胞が、MKN45P14GAであることを特徴とする上記(11)記載のスクリーニング方法や、(13)胃癌細胞、膵癌細胞、大腸癌細胞、又は乳癌細胞を、被検物質の存在下で培養し、該培養細胞における、上記(2)に記載のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現量を測定し、被検物質の非存在下における場合と比較・評価することを特徴とする胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌の抑制剤のスクリーニング方法や、(14)スプライシングバリアントが、配列番号3に示されるDNA配列によりコードされる領域を含むULBP1のスプライシングバリアントであることを特徴とする上記(13)記載の判定用キットや、(15)スプライシングバリアントのmRNAの発現量を検出することを特徴とする上記(11)〜(14)のいずれかに記載のスクリーニング方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により同定された、DNAJC12、ULBP1、及びXAF1の新規スプライシングバリアントは高転移性胃癌のマーカーとなりうる。さらに、本発明のULBP1の新規バリアントは胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌のマーカーとなりうるものであり、これらのスプライシングバリアントの発現を検出することにより胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌の判定が可能である。さらに、胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌細胞における上記スプライシングバリアントの発現量を指標として、胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌の抑制剤のスクリーニングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】DNAJC12(DnaJ(Hsp40) homolog, subfamily C, member 12)の新規スプライシングパターンを示すとともに、PCRに用いたプライマー(矢印)の位置及びPCRの結果を示す図である。
【図2】ULBP1(UL16 binding protein 1)の新規エキソン領域を示すとともに、PCRに用いたプライマー(矢印)の位置及びPCRの結果を示す図である。
【図3】ULBP1の7種類の新規スプライシングパターン(sv2〜sv8)を示すとともに、PCRに用いたプライマー(矢印)の位置及びPCRの結果を示す図である。
【図4】XAF1(XIAP associated factor-1)の新規スプライシングパターンを示すとともに、PCRに用いたプライマー(矢印)の位置及びPCRの結果を示す図である。
【図5】本発明のDNAJC12、ULBP1(sv2又は3)及びXAF1の新規スプライシングバリアントの、正常胃組織及び株化胃癌細胞における発現をRT−PCRにより検討した結果を示す図である。図中、NTCはテンプレートのないネガティブコントロールを示す。
【図6】本発明のDNAJC12、ULBP1(sv2又は3)及びXAF1の新規スプライシングバリアントの、正常膵臓組織及び株化膵癌細胞における発現をRT−PCRにより検討した結果を示す図である。
【図7】本発明のDNAJC12、ULBP1(sv2又は3)及びXAF1の新規スプライシングバリアントの、正常大腸組織及び株化大腸癌細胞における発現をRT−PCRにより検討した結果を示す図である。図中、NTCはテンプレートのないネガティブコントロールを示す。
【図8】本発明のDNAJC12、ULBP1(sv2又は3)及びXAF1の新規スプライシングバリアントの、正常乳腺織及び株化乳癌細胞における発現をRT−PCRにより検討した結果を示す図である。図中、NTCはテンプレートのないネガティブコントロールを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において、スプライシングバリアントとは、ゲノムDNAの一次転写産物である不均質核内RNA(hnRNA)から、イントロンを切除し、エクソン配列を連結して最終的なmRNA分子を形成するスプライシング過程において、異なるパターンのスプライシングが起こることにより産生される、特定のDNA配列によりコードされる領域を含む異なるmRNA、その逆転写物である異なるcDNA、及びそれらの翻訳産物である異なるアミノ酸配列を有するタンパク質を意味し、スプライスバリアントとしての異なるmRNAは、異なるエクソン・イントロン配列構造、また、場合によっては、異なる転写開始位置をもつこともあり、そのため、異なるスプライシングバリアントmRNAからは、異なるcDNAが逆転写され、また、異なるアミノ酸配列を有するタンパク質が翻訳される。上記mRNAは、上記タンパク質の製造やmRNAのアンチセンス鎖からなるスプライシングバリアント検出用プローブの作製に有用であり、上記cDNAは上記タンパク質の製造やスプライシングバリアント検出用プライマーセットの作製に有用であり、上記タンパク質は、スプライシングバリアント検出用抗体作製用の抗原として有用である。
【0015】
本発明のDNAJC12のスプライシングバリアントとしては、配列番号1に示されるDNA配列によりコードされる領域を含むものであれば特に制限されないが、例えば、図1に示すように、配列番号1に示されるDNA配列によりコードされる領域を含む新規スプライシングバリアントを具体的に例示することができる。また、本発明のULBP1のスプライシングバリアントとしては、配列番号2〜8のいずれかに示されるDNA配列によりコードされる領域を含むものであれば特に制限されないが、例えば、図3に示すように、配列番号2〜8に示されるDNA配列によりコードされる領域を含む新規スプライシングバリアントを具体的に例示することができる。また、本発明のXAF1のスプライシングバリアントとしては、配列番号9及び/又は10に示されるDNA配列によりコードされる領域を含むものであれば特に制限されないが、例えば、図4に示すように、配列番号9及び10に示されるDNA配列によりコードされる領域を含む新規スプライシングバリアントを具体的に例示することができる。
【0016】
本発明の高転移性胃癌の判定法としては、胃癌患者から採取した生体試料における、上記本発明のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現を検出することにより高転移性胃癌を判定する方法であれば特に制限されるものではないが、好ましくは、本発明のスプライシングバリアントのうち、2以上の異なる遺伝子のスプライシングバリアントの発現を検出することにより高転移性胃癌を判定する方法、より好ましくは、本発明のスプライシングバリアントのうち、3つの異なる遺伝子のスプライシングバリアントの発現を検出することにより高転移性胃癌を判定する方法である。より具体的には、胃癌患者から採取した血清、胃癌組織等の生体試料中における、本発明のスプライシングバリアントの発現を検討し、少なくとも1以上の発現が検出された場合に、高転移性胃癌であると判定する。ここで、高転移性胃癌とは、肝臓や腹膜やリンパ節など胃以外の他の臓器・組織に転移する悪性胃癌を意味するものである。また、本発明の胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌の判定法としては、患者から採取した生体試料における、上記本発明のULBP1のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現を検出することにより胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌を判定する方法であれば特に制限されるものではないが、本発明のULBP1のスプライシングバリアントのうち、ULBP1sv2又は3を検出することが好ましい。より具体的には、患者の胃、膵臓、大腸、又は、乳腺組織から採取した生体試料中における、本発明のULBP1スプライシングバリアントの発現を検討し、少なくとも1以上の発現が検出された場合に、胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌であると判定する。上記プライシングバリアントの発現を検討する方法としては、RNA−FISH法や、RT−PCR法や、ノーザンブロット法等のスプライシングバリアントのmRNA発現を検出する方法であっても、ELISA法や、免疫染色法や、ウエスタンブロット法等のスプライシングバリアントのタンパク発現を検出する方法であってもよく、複数の検出方法を組み合わせて行うことがより好ましい。
【0017】
本発明の高転移性胃癌の判定用キットとしては、上記本発明のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現を検出するためのプライマーセット若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えた高転移性胃癌の判定用キットであれば特に制限されるものではないが、好ましくは、上記本発明のスプライシングバリアントのうち、2以上の異なる遺伝子のスプライシングバリアントの発現を同時に検出するためのプライマーセット若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えた判定用キット、より好ましくは、上記本発明のスプライシングバリアントのうち、3つの異なる遺伝子のスプライシングバリアントの発現を同時に検出するためのプライマーセット若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えた判定用キットである。また、本発明の胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌の判定用キットとしては、上記本発明のULBP1スプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現を検出するためのプライマーセット若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えたものであれば特に制限されるものではないが、本発明のULBP1のスプライシングバリアントのうち、ULBP1 sv2又は3の発現を検出するためのプライマーセット若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えた判定用キットであることが好ましい。
【0018】
上記本発明のスプライシングバリアントの発現を検出するためのプライマーセットとして、具体的には、DNAJC12のスプライシングバリアントの発現を検出するためのプライマーセットとして配列番号11及び12に示される塩基配列からなるプライマーセットや、配列番号13及び14に示される塩基配列からなるプライマーセットや、配列番号15及び16に示される塩基配列からなるプライマーセットを、ULBP1のスプライシングバリアントの発現を検出するためのプライマーセットとして配列番号17及び18に示される塩基配列からなるプライマーセットを、XAF1のスプライシングバリアントの発現を検出するためのプライマーセットとして配列番号19及び20に示される塩基配列からなるプライマーセットや、配列番号21及び22に示される塩基配列からなるプライマーセットを、それぞれ好適に例示することができる。
【0019】
上記本発明のスプライシングバリアントの発現を検出するためのプローブとしては、例えば、DNAJC12のスプライシングバリアントの発現を検出するためのプローブとして配列番号1に示される塩基配列に相当するRNAとハイブリダイズしうるアンチセンス鎖の全部又は一部からなるプローブを、ULBP1のスプライシングバリアントの発現を検出するためのプローブとして配列番号2〜8のいずれかに示される塩基配列に相当するRNAとハイブリダイズしうるアンチセンス鎖の全部又は一部からなるプローブを、XAF1のスプライシングバリアントの発現を検出するためのプローブとして配列番号9又は10に示される塩基配列に相当するRNAとハイブリダイズしうるアンチセンス鎖の全部又は一部からなるプローブを、それぞれ好例として挙げることができるが、プローブとして成立する程度の長さ(少なくとも20ベース以上)を有するものが好ましく、例えば、これらのプローブは、5’側又は3’側、又はその両方に、上記RNAと一部に相補的ではない配列を含んでも、これらとハイブリダイズできる限り、プローブとして用いることができ、また、検出しやすいように、任意の配列を付加したものを用いることもできる。
【0020】
上記標識物としては、ペルオキシダーゼ(例えば、horseradish peroxidase)、アルカリフォスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ−ス−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、アポグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素、フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、H 、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体、ビオチン、アビジン、又は化学発光物質を挙げることができる。
【0021】
本発明の高転移性胃癌抑制剤のスクリーニング方法としては、高転移型ヒト胃癌細胞を、被検物質の存在下で培養し、該培養細胞における、上記本発明のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現量を測定し、被検物質の非存在下における場合と比較・評価する方法であれば特に制限されないが、好ましくは、上記本発明のスプライシングバリアントのうち、2以上の異なる遺伝子のスプライシングバリアントの発現量を同時に測定する工程を含むスクリーニング方法、より好ましくは、上記本発明のスプライシングバリアントのうち、3つの異なる遺伝子のスプライシングバリアントの発現を同時に測定する工程を含むスクリーニング方法である。また、本発明の胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌の抑制剤のスクリーニング方法としては、胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌細胞を、被検物質の存在下で培養し、該培養細胞における、本発明のULBP1スプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現量を測定し、被検物質の非存在下における場合と比較・評価する方法であれば特に制限されないが、ULBP1のスプライシングバリアントのうち、ULBP1 sv2又は3の発現を比較・評価する方法であることが好ましい。より具体的には、胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌細胞株を、抗癌剤、抗癌候補物質、低分子化合物、天然有機高分子物質、天然の動植物の抽出物、ペプチドなどの被検物質の存在下で培養し、該培養細胞における、少なくとも1以上の本発明のスプライシングバリアントの発現量を測定し、スプライシングバリアントの発現量が、被検物質非存在下における場合と比べて有意に減少しているとき、被検物質は胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌抑制剤として有用である可能性があるといえる。上記本発明のスクリーニング方法に、高転移型ヒト胃癌細胞を用いることにより高転移性胃癌抑制剤のスクリーニングを行うことができる。上記高転移型ヒト胃癌細胞としては、高い転移能を有するヒト胃癌由来の細胞であれば特に制限されるものではないが、例えば、ヒト胃癌培養細胞株(MKN45)を、マウスへの移植を繰り返すことにより作製した、高度の腹膜転移能を持つヒト胃癌培養細胞株(MKN45P14GA)を、好例として挙げることができる。また、上記スプライシングバリアントの発現量を測定する方法としては、RT−PCR法や、リアルタイムPCR法や、ノーザンブロット法等のスプライシングバリアントのmRNA発現量を測定する方法であっても、ELISA法や、ウエスタンブロット法等のスプライシングバリアントのタンパク発現量を測定する方法であってもよく、複数の測定方法を組み合わせて行うことがより好ましい。
【0022】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
1.細胞培養
ヒト胃癌培養細胞株(MKN45)と、同細胞株からマウスへの移植を繰り返すことにより作製した、高度の腹膜転移能を持つヒト胃癌培養細胞株(MKN45P14GA)とを、それぞれ5%FBSを含むRPMI1640培地で培養した。
【0024】
2.エクソンアレイによる解析
各培養細胞より全RNAを抽出し、Whole Transcript Sense Target Labeling and Control Reagents (Affymetrix社製)を用いてmRNAの精製、逆転写およびラベル化を行い、GeneChip Exon Array System for Human (Affymetrix社製)によるエクソンレベルでの網羅的遺伝子発現解析を行った。得られたアレイデータの解析はPartek Genomics Suite(Partek社製)を用いて行い、MKN45とMKN45P14GAにおける遺伝子発現パターンの違いを比較検討した。
【0025】
3.スプライシングパターン解析
上記の結果から、MKN45とMKN45P14GAにおいて異なるスプライシングパターンの存在が示唆された遺伝子に関して、RT−PCRを行い、シークエンスを確認した。その結果、DNAJC12、ULBP1、XAF1の3遺伝子について、MKN45P14GA(高転移能を有する細胞株)においてのみ強い発現が認めれれる新規なスプライシングバリアントの存在することが明らかとなった。上記の遺伝子のスプライシングパターンを図1〜4に示すとともに、DNAJC12の新規エクソンの配列を配列番号1に、ULBP1の新規エクソンの配列を配列番号2〜8に、XAF1の新規エクソンの配列を配列番号9及び10にそれぞれ示す。
【0026】
4.リアルタイムPCRによる発現量の比較
ヒト胃癌培養細胞(MKN45)と、高転移型ヒト胃癌培養細胞(MKN45P14GA)における、新規スプライシングバリアントの発現量をリアルタイムPCR法により比較した。培養したMKN45及びMKN45P14GAから、全RNAを抽出し、cDNAを合成した。上記3で同定した新規スプライシングバリアント配列を特異的に増幅するように設計したプライマーを用い、合成したcDNAを鋳型としたリアルタイムPCRを行った。DNAJC12のスプライシングバリアントを特異的に増幅するプライマーセットの塩基配列を、配列番号11〜16に、ULBP1のスプライシングバリアントを特異的に増幅するプライマーセットの塩基配列を、配列番号17及び18に、XAF1のスプライシングバリアントを特異的に増幅するプライマーセットの塩基配列を、配列番号19〜22に示す。図1、2及び4に示すように、リアルタイムPCRの結果から、本研究で同定されたDNAJC12、ULBP1及びXAF1の新規スプライシングバリアントは、高転移型胃癌細胞MKN45P14GAに顕著に発現していることが明らかとなった。
【実施例2】
【0027】
(胃癌細胞における新規スプライシングバリアントの発現)
正常胃組織及び各種株化胃癌細胞におけるDNAJC12、ULBP1(sv2又は3)及びXAF1の新規スプライシングバリアントのmRNA発現をRT−PCRにより確認した。株化胃癌細胞としては、MKN45、MKN45P14GA、AZ521、AZ521ASC、MKN1、MKN74、KATOIII、NCI−SNU−16、SNU−16、AGS、Hs746T、NCI−N87、HGC−27を用いた。図5に結果を示すように、ULBP1(sv3)は、検討したほとんどの胃癌細胞において強い発現が認められた。一方、DNAJC12の発現は、MKN45P14GAのみで認められ、他の細胞株では認めれなかった。また、XAF1はほとんどの癌細胞株において、弱い発現が認められたが、正常胃組織においても同程度の弱い発現が認められた。
【0028】
(膵癌細胞における新規スプライシングバリアントの発現)
正常膵臓組織、株化正常膵細胞、及び、各種株化膵癌細胞におけるDNAJC12、ULBP1(sv3)及びXAF1の新規スプライシングバリアントのmRNA発現をRT−PCRにより確認した。株化正常膵細胞としては、ABCRI515を、株化膵癌細胞としては、KP−1N、KP−1NL、KP−3、KP−3L、AsPC−1、BxPC−3、Capan−1、Capan−2、CFPAC−1、HPAF−II、KP−2、KP−4、MIA PaCa−2、PANC−1細胞を用いた。図6に結果を示すように、ULBP1(sv2又は3)は、正常膵臓組織、株化正常膵細では発現が認められなかったが、膵癌細胞においては検討した全ての細胞株において発現が認められた。また、XAF1も、多くの癌細胞株において発現が認められた。一方、DNAJC12の発現は検討した細胞のいずれにも認められなかった。
【0029】
(大腸癌細胞における新規スプライシングバリアントの発現)
正常大腸組織及び各種株化大腸癌細胞におけるDNAJC12、ULBP1(sv2又は3)及びXAF1の新規スプライシングバリアントのmRNA発現をRT−PCRにより確認した。株化大腸癌細胞としては、LOVO、DLD−1、Colo205、SW948、SK−CO−1、HCC−56、LS123、HT115、C170、Colo741、SNU−C1、SW480、SW620細胞を用いた。図7に結果を示すように、ULBP1(sv2又は3)は、正常大腸組織ではほとんど発現が認められなかったが、検討した全ての膵癌細胞株において発現が認められた。一方、DNAJC12の発現は検討した細胞のいずれにも認められなかった。また、XAF1は、HT115にのみ発現が認められた。
【0030】
(乳癌細胞における新規スプライシングバリアントの発現)
正常乳腺組織及び各種株化乳癌細胞におけるDNAJC12、ULBP1(sv3)及びXAF1の新規スプライシングバリアントのmRNA発現をRT−PCRにより確認した。株化膵癌細胞としては、MDA−MB−175−VII、MDA−MB−361、HCC38、T−47D、Hs578T、MFM223,HCC70、UACC−812、UACC−893細胞を用いた。図8に結果を示すように、ULBP1(sv3)は、正常大腸組織では発現が認められなかったが、検討したほとんどの膵癌細胞株において発現が認められた。一方、DNAJC12の発現は検討した細胞のいずれにも認められなかった。また、XAF1はHs578Tにのみ発現が認められた。
【0031】
実施例2の結果から、ULBP1の新規スプライシングバリアント(sv2又は3)は、胃癌、膵癌、大腸癌、及び乳癌のマーカーとなりうることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されるDNA配列によりコードされる領域を含むことを特徴とするDNAJC12(DnaJ(Hsp40) homolog, subfamily C, member 12)のスプライシングバリアント。
【請求項2】
配列番号2〜8のいずれかに示されるDNA配列によりコードされる領域を含むことを特徴とするULBP1(UL16 binding protein 1)のスプライシングバリアント。
【請求項3】
配列番号9及び/又は10に示されるDNA配列によりコードされる領域のうち、少なくとも1以上を含むことを特徴とするXAF1(XIAP associated factor-1)のスプライシングバリアント。
【請求項4】
胃癌患者から採取した生体試料における、請求項1〜3のいずれかに記載のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現を検出することを特徴とする高転移性胃癌の判定法。
【請求項5】
患者から採取した生体試料における、請求項2に記載のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現を検出することを特徴とする胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌の判定法。
【請求項6】
スプライシングバリアントが、配列番号3に示されるDNA配列によりコードされる領域を含むULBP1のスプライシングバリアントであることを特徴とする請求項5記載の判定法。
【請求項7】
スプライシングバリアントのmRNAの発現を検出することを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の判定法。
【請求項8】
胃癌患者から採取した生体試料に含まれる、請求項1〜3のいずれかに記載のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現を検出するための、プライマーセット若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えることを特徴とする高転移性胃癌の判定用キット。
【請求項9】
患者から採取した生体試料に含まれる、請求項2に記載のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現を検出するための、プライマーセット若しくはプローブ、又はそれらの標識物を備えることを特徴とする胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌の判定用キット。
【請求項10】
スプライシングバリアントが、配列番号3に示されるDNA配列によりコードされる領域を含むULBP1のスプライシングバリアントであることを特徴とする請求項9記載の判定用キット。
【請求項11】
高転移型ヒト胃癌細胞を、被検物質の存在下で培養し、該培養細胞における、請求項1〜3のいずれかに記載のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現量を測定し、被検物質の非存在下における場合と比較・評価することを特徴とする高転移性胃癌抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項12】
高転移型ヒト胃癌細胞が、MKN45P14GAであることを特徴とする請求項11記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
胃癌細胞、膵癌細胞、大腸癌細胞、又は乳癌細胞を、被検物質の存在下で培養し、該培養細胞における、請求項2に記載のスプライシングバリアントのうち、少なくとも1以上のスプライシングバリアントの発現量を測定し、被検物質の非存在下における場合と比較・評価することを特徴とする胃癌、膵癌、大腸癌、又は乳癌の抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
スプライシングバリアントが、配列番号3に示されるDNA配列によりコードされる領域を含むULBP1のスプライシングバリアントであることを特徴とする請求項13記載の判定用キット。
【請求項15】
スプライシングバリアントのmRNAの発現量を検出することを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−254364(P2009−254364A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79347(P2009−79347)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【Fターム(参考)】