説明

高速炉

【課題】運転初期の炉停止余裕を十分確保することができ、ボイド管の破損時に入る反応度を小さくすることを可能とし、冷却材温度を一定とすることができ、反射体の変形防止を有効に図ることができるようにする。
【解決手段】原子炉容器の炉心部に六角管状のラッパ管1を配置し、このラッパ管内に円筒状の制御棒案内管3を挿入し、この制御棒案内管に沿って制御棒4を昇降し得るようにした高速炉において、ラッパ管と制御棒案内管とのギャップ部8に、中性子吸収材9を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速炉(高速増殖炉)に係り、特に運転初期段階における反応度を安定的に制御することができる高速炉の炉心、制御棒棒および中性子吸収構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核燃料集合体で構成される高速炉の炉心は、炉心バレルにより周囲から被覆して保護されており、その外側には炉心の反応を制御する反射体が炉心を囲うように設けられている。反射体は上方の反射体駆動軸によって上下方向に駆動されるように構成されており、反射体の外側周囲には隔壁が設けられている。隔壁の外側周囲には遮蔽体が設けられている。隔壁は上方に延びており、隔壁の外側には、電磁ポンプ及び中間熱交換器が上方から吊持されている。電磁ポンプと隔壁との間はシールベローズによってシールされ、中間熱交換器の上方には、崩壊熱除去コイルが設けられ、崩壊熱の静的直接除去システム(PRACS:Primary Reactor Auxiliary Cooling System)として作動するようになっている。これらの全てが原子炉容器内に収納されており、この原子炉容器はガードベッセル内に収納されている。
【0003】
また、高速炉は約20mの縦長であるため、電磁ポンプが止まった場合でも大きな自然循環流量が得られると共に、崩壊熱を原子炉容器からガードベッセルに輻射で伝熱し、さらにガードベッセルの外側は空気が自然通風で流れるようにしているため、直接外に熱を伝えて除去する原子炉自然放熱システム(RVACS:Reactor Vessel Auxiliary Cooling System)として作動する。高速炉は、原子炉容器の寿命(30年)中の中性子照射量が1023nvt(E>0.1MeV)を超え、従来のステンレス鋼の使用限界を超えるため、材料は高クロム鋼に限定される。高速炉は、炉心を囲った反射体を徐々に移動することにより、燃焼していない炉心を少しずつ燃焼させ10年以上の長期間燃料を燃焼し続けることができる。また、燃料交換は、炉心の上方に位置する電磁ポンプおよび中間熱交換器を外して行うことができる。
【0004】
原子炉冷却材は炉心を冷却し、加熱された後(〜500℃)に、炉心の上方の電磁ポンプで駆動され、中間熱交換器で2次冷却材と熱交換し、再び炉心に導かれる。さらに、原子炉を停止させる際には、炉心の上部に設けられている中性子吸収棒を中性子吸収棒保持棒から外して落下させるか、または、反射体を降下させる方法があるが、両炉停止系が不作動の場合にも、負の温度係数による固有の停止特性により原子炉を停止させることができる。
【0005】
中性子吸収および中性子吸収棒保持棒は、上部プラグにより吊持され、中心を垂直方向に延ばされ、炉心上部に位置している。また、中性子吸収棒は案内管に格納されおり、延長棒と中性子吸収棒保持棒とを連結して保持している。反射体の上部にはボイド管が設置されており、ボイド管により冷却材を排除することにより反射体の価値を高めている。
【0006】
従来、運転時における反応度を安定的に制御するために、種々の提案がされている。例えば、簡素な構成で高速炉の制御可能な燃焼反応度を増大させ、水没時の未臨界性の確保と核燃料の反応度寿命の長期化を図る技術(特許文献1参照)、ナトリウム等の冷却材流量低下時に負の反応度が自動的に投入されることにより炉心の安全性を向上する技術(特許文献2参照)、制御棒にカムユニットを適用して炉心反応度を確実に行う技術(特許文献3参照)、中央部分が空洞部となるように多数の燃料集合体を束ね、全体として円環状に配設する技術(特許文献3参照)等が知られている。
【特許文献1】特開平5−52979号公報
【特許文献2】特開平8−201562号公報
【特許文献3】特開平5−196771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の技術では、主として通常運転における長期寿命化等に着目されている。しかし、炉心の長寿命化のために運転初期の余剰反応度を大きくすると、炉停止の余裕が小さくなるという問題がある。
【0008】
また、反射体のボイド管では破損した場合に冷却材が侵入し、反応度が挿入される可能性がある。また、反射体は炉心からの中性子束及びγ線により発熱しており、その発熱を適切に除熱する必要がある。
【0009】
さらに、反射体にはシリコンカーバイド等の炭素系材料により反射体の反応度を高めることができ、その場合には冷却材流れから被覆する必要があり、缶の変形を防止する必要がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、運転初期の炉停止余裕を十分確保することができ、ボイド管の破損時に入る反応度を小さくすることを可能とし、冷却材温度を一定とすることができ、反射体の変形防止を有効に図ることができる高速炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、請求項1に係る発明では、原子炉容器の炉心部に六角管状のラッパ管を配置し、このラッパ管内に円筒状の制御棒案内管を挿入し、この制御棒案内管に沿って制御棒を昇降し得るようにした高速炉において、前記ラッパ管と前記制御棒案内管とのギャップ部に、中性子吸収材を設置したことを特徴とする高速炉を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、制御棒案内管の外側に、従来設けられていなかった中性子吸収材を固定配置することにより、出力を抑制することができ、炉心の長寿命化のために運転初期の余剰反応度を大きくする場合においても、運転初期の炉停止余裕を十分確保することができる。したがって、ボイド管の破損時に入る反応度を小さくすることが可能となり、温度を一定とすることができ、反射体の変形を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る高速炉の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
[第1実施形態(図1、図2)]
図1は、本発明の第1実施形態を示すもので、制御棒構成を示す縦断面図である。図2は、図1のA−A線に沿う拡大断面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態では、原子炉容器の炉心部に配置される六角管状のラッパ管1を備えている。このラッパ管1は、長尺な縦長管状のものであり、上下端部が開口した構成となっている。ラッパ管1の下端開口には冷却材流入口2が開口している。このラッパ管1内に円筒状の制御棒案内管3が同心配置で挿入され、制御棒案内管3内には制御棒4が挿入されている。制御棒4の上端は、図示省略の制御棒駆動機構から垂下する垂直な駆動軸5に、連結部6を介して連結された延長棒7を介して、昇降可能に吊下されている。
【0016】
このような構成において、ラッパ管1と制御棒案内管3との間に形成されているギャップ部8に、中性子吸収体9が設置されている。この中性子吸収体9は、中性子吸収材として多数のハフニウム板10を適用したものである。すなわち、図2に拡大して示すように、ラッパ管1の内周面に沿う横断面六角形の外側被覆缶11と、制御棒4を覆うように配置された横断面円形の内側被覆缶12との間に、多数のハフニウム板10が放射状に配列して設けられている。本実施形態では、これらの被覆缶11,12および中性子吸収材としてのハフニウム板10の全体が一体型として構成された場合を示している。なお、図2に示すように、制御棒4は、制御棒被覆管13内に多数の吸収棒14を収納した構成となっている。
【0017】
また、ラッパ管1の下端の冷却材入口内には、制御棒案内管3とギャップ部8に設置された中性子吸収体9とに冷却材を供給する冷却材流路15が形成されている。そして、冷却材流路15にはオリフィス16が形成され、このオリフィス16によって冷却材が配分され、ラッパ管1と制御棒案内管3との間の中性子吸収体9側に向けて流れるようになっている。このようにして、制御棒4の吸収棒14とハフニウム板10からなる中性子吸収材がそれぞれ冷却される。なお、以上の構成を有する制御棒集合体は、燃料交換機で取り扱うことができる。
【0018】
本実施形態によれば、固定した中性子吸収体9を制御棒案内管3の外側に配置することにより、固定状態で設置することができる。そして、制御棒案内管3の外側には、従来設けられていなかったハフニウム板10からなる中性子吸収材を固定配置することにより、出力を抑制することができ、炉心の長寿命化のために運転初期の余剰反応度を大きくする場合においても、運転初期の炉停止余裕を十分確保することができる。したがって、ボイド管の破損時に入る反応度を小さくすることが可能となり、温度を一定とすることができ、中性子反射体の変形防止に対しても効果がある。なお、中性子吸収体9への冷却材流量はオリフィス16によって調整することができる。
【0019】
[第2実施形態(図3〜図5)]
図3は、本発明の第2実施形態を示すもので、制御棒構成を示す縦断面図である。図4は、図3のB−B線に沿う拡大断面図であり、図5は作用説明図である。
【0020】
図4に示すように、本実施形態では、ギャップ部8に設置される中性子吸収体9が周方向に沿って複数体に分割されている。図4に示した例では、ラッパ管1に沿う各角部から分割され、例えば図1に示した中性子吸収体9を6体に分けた分割体9aとして構成されている。そして、各分割体9aには、図3に示すように、それぞれ上方からワイヤ17が接続されおり、これらのワイヤ17で吊上げ可能となっている。
【0021】
図3には、図1で省略した上部案内管18が示されている。ワイヤ17は、この上部案内管18内に挿通されている。また、案内管の分割体9aが挿通する上部案内管18の下端位置には、例えばピン状の進退式止め部材19aを有するストッパ19が設けられている。そして、図5に示すように、ラッパ管1からワイヤ17によって引上げた中性子吸収材の分割体9aを、ストッパ19によって吊り下げた高さ位置に停止させ、上部案内管18内に保持できるようになっている。
【0022】
このような本実施形態によれば、必要な中性子吸収量に応じて中性子吸収体9の分割体9aを制御棒4の上方に移動させて冷却材からの中性子吸収量を調整することができる。したがって、高速炉運転が例えば初期運転から通常運転に移行して出力を高めるような場合等に適宜対応することができ、実用性の高いものとすることができる。
【0023】
ここでは中性子吸収材を周方向に6分割した例を示したが、中性子吸収量の調整を容易とする構成が実現される限り、分割数はこれに限定されない。なお、他の構成については、第1実施形態と同様であるから、図に第1実施形態と同一符号を付して説明を省略する。
【0024】
[第3実施形態(図6、図7)]
図6は、本発明の第3実施形態を示すもので、高速炉の炉心構造を示す縦断面図である。図7は、図6のC−C線に沿う拡大断面図である。
【0025】
図6および図7に示すように、原子炉容器の炉心20の周囲に反射体21が設置されており、この反射体21の上部に、中性子吸収用のボイド管(キャビティ管)22が設置されている。このボイド管22は、軸方向および周方向の少なくともいずれかの方向に複数分割された構成となっている。本実施形態では、このボイド管22が、図6に示すように、軸方向に3個に分割され、図7に分割線(鎖線)で示すように、周方向に2つに分割され、計6個の分割体22aとされている。これらのボイド管22は反射体駆動軸23により吊下される構成となっている。なお、各分割体22aには冷却材流路孔24が形成されている。
【0026】
このような本実施形態の構成によると、原子炉容器の炉心20の周囲に設置される反射体21を分割することにより、各分割体22aの反応度を小さくすることができ(図示の例では1/6)、ボイド管22の破損時の対応としての利点を得ることができる。なお、かかる利点を得るために反射体21を分割する具体的構成については図示したものには限定されず、軸方向、周方向それぞれに分割する構成に代えて、例えば軸方向または周方向のいずれかの方向に複数分割する構成としてもよい。
【0027】
[第4実施形態(図8、図9)]
図8は、本発明の第4実施形態を示すもので、高速炉の炉心構造を示す縦断面図である。図9は、図8のD−D線に沿う拡大断面図である。
【0028】
図8および図9に示すように、本実施形態では、原子炉容器の炉心20の周囲に反射体21が設置されている。この反射体21の構成要素には、冷却材流路孔24が径方向に分割して配置されている。この反射体21の冷却材流路孔24は、炉心の内周側ほど密に、または出力に依存して内側ほど大径に形成されている。
【0029】
このような構成によると、発熱が大きい炉心側では冷却材流路孔24の密度を高め、相対的に発熱が小さい外周側では冷却材流路孔24の密度が低いことから、反射体21全体として、温度の均一化が図れるようになる。
【0030】
[第5実施形態(図10〜図13)]
図10は、本発明の第5実施形態を示すもので、高速炉の炉心構造を示す縦断面図である。図11は、図10のE−E線に沿う拡大断面図である。図12は、図11の「イ」部を拡大して示す拡大図であり、図13は、図12の「ロ」部をさらに拡大して示したものである。
【0031】
図10〜図12に示すように、本実施形態では、反射体21の構成要素が、炭素系材料である例えばシリコンカーバイドまたはグラファイトを適用したブロック30を集合配列して構成されている。すなわち、シリコンカーバイドまたはグラファイト等は鉄等に比して中性子の反射性が高いので、中性子反射特性を高めることができる。これらのブロック30には冷却材流路孔24が形成されている。
【0032】
なお、シリコンカーバイドまたはグラファイトからなる反射体21は表面保護のため、その表面側が、例えばステンレス鋼製の板からなる被覆缶31によって被覆されている。そして、この被覆缶31の端部の接合部は、図13に示すように、板材の折り曲げによる接合部32によって重合した構成とされており、これにより、接合部32に照射変形あるいは熱変形等の負荷により荷重が作用した場合に、板材の摺動によって容易に吸収されるようになっている。このように、シリコンカーバイド等からなるブロック30の被覆缶31においては、炉心側の被覆材の照射変形による伸び変形をこの摺動部分において吸収することにより、反射体21の変形を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る高速炉の第1実施形態を示す縦断面図。
【図2】図1のA−A線に沿う拡大断面図。
【図3】本発明の第2実施形態を示す制御棒構成を示す縦断面図。
【図4】図3のB−B線に沿う拡大断面図。
【図5】本発明の第2実施形態の作用説明図。
【図6】本発明の第3実施形態を示す高速炉の炉心構造を示す縦断面図。
【図7】図6のC−C線に沿う拡大断面図。
【図8】本発明の第4実施形態を示す高速炉の炉心構造を示す縦断面図。
【図9】図8のD−D線に沿う拡大断面図。
【図10】本発明の第5実施形態による炉心構造を示す縦断面図。
【図11】図10のE−E線に沿う拡大断面図。
【図12】図11の「イ」部を拡大して示す拡大図。
【図13】図12の「ロ」部を拡大して示す拡大図。
【符号の説明】
【0034】
1‥ラッパ管、2‥冷却材流入口、3‥制御棒案内管、4‥制御棒、5‥駆動軸、
6‥連結部、7‥延長棒、8‥ギャップ部、9‥中性子吸収体、9a‥分割体、
10‥ハフニウム板、11,12‥被覆缶、13‥制御棒被覆管、14‥吸収棒、
15‥冷却材流路、16‥オリフィス、17‥ワイヤ、18‥上部案内管、
19a‥止め部材、19‥ストッパ、20‥炉心、21‥反射体、22‥ボイド管、
22a‥分割体、23‥反射体駆動軸、24‥冷却材流路孔、30‥ブロック、
31‥被覆缶。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉容器の炉心部に六角管状のラッパ管を配置し、このラッパ管内に円筒状の制御棒案内管を挿入し、この制御棒案内管に沿って制御棒を昇降し得るようにした高速炉において、前記ラッパ管と前記制御棒案内管とのギャップ部に、中性子吸収材を設置したことを特徴とする高速炉。
【請求項2】
前記ギャップ部に設置される中性子吸収材として、ハフニウムを適用した請求項1記載の高速炉。
【請求項3】
前記ラッパ管内には、前記制御棒案内管および前記中性子吸収材に冷却材を供給する冷却材流路を形成し、この冷却材流路に前記冷却材を配分するオリフィスを設けた請求項1記載の高速炉。
【請求項4】
前記ギャップ部に設置される中性子吸収材を周方向に分割した請求項1記載の高速炉。
【請求項5】
分割した前記中性子吸収材を上方からワイヤで吊上げ可能とした請求項4記載の高速炉。
【請求項6】
分割した前記中性子吸収材を吊上げた位置に停止させるストッパを設けた請求項5記載の高速炉。
【請求項7】
前記原子炉容器の炉心部周囲に反射体を設置し、この反射体の上部に、軸方向および周方向の少なくともいずれかの方向に複数分割されたボイド管を設置した請求項1記載の高速炉。
【請求項8】
前記反射体の構成要素に、冷却材流路孔を径方向に分割して配置した請求項7記載の高速炉。
【請求項9】
前記反射体の冷却材流路孔は、内周側ほど密に、または出力に依存して内側ほど大径とした請求項8記載の高速炉。
【請求項10】
前記反射体の構成要素として、シリコンカーバイドまたはグラファイトを適用した請求項7記載の高速炉。
【請求項11】
前記反射体の構成要素をステンレス鋼板からなる被覆体で被覆した請求項10記載の高速炉。
【請求項12】
前記被覆体の接合部に折り込み部を設け、この折り込み部を介して前記被覆体を摺動可能な構成とした請求項11記載の高速炉。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−337215(P2006−337215A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163346(P2005−163346)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)