説明

高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドを用いたスクリーニング方法

【課題】SMYDファミリータンパク質を用いた実験系において、高酵素発現変異ポリペプチドを用いて、より効率的にヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節剤をスクリーニングすること。
【解決手段】被検物質の存在下、SMYDファミリーに属するタンパク質をコードするアミノ酸配列において、SETドメインよりN末端側のアミノ酸の、1位のMetから連続して少なくとも1以上のアミノ酸が欠失し、かつSETドメイン外のアミノ酸の、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されていてもよいアミノ酸配列からなり、かつ野生型タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異ポリペプチド、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質、及びメチル基供与体をインキュベーションし、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を測定する、ヒストンメチルトランスフェラーゼ調節剤のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節剤のスクリーニング方法に関する。より詳しくは、高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドを用いたスクリーニング法に関する。
【背景技術】
【0002】
SMYDタンパク質は、亜鉛フィンガー、MYNDドメイン、SETドメインを持つタンパク質である。SMYDタンパク質として、SMYD1(配列番号:2)、SMYD2(配列番号:4)、SMYD3(配列番号:6)、SMYD4(配列番号:8)、SMYD5(配列番号:10)の5つのタンパク質が知られている。(以下、これら5つのタンパク質を総称して「SMYDファミリータンパク質」と称することもある。)SMYD3は、大腸癌や肝癌で遺伝子発現が増加すること、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を持つことが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
ヒストンとは、真核細胞の核内に広く存在し、DNAとイオン結合している塩基性タンパク質である。DNAはヒストンとの規則的な結合により折りたたまれ、ヌクレオソームを形成する。さらに、ヌクレオソームの繰り返し構造がらせん状につながりクロマチンとよばれる高次構造を形成する。ヒストンは、通常H1(分子量22,000)、H2A(分子量13,700)、H2B(分子量13,700)、H3(分子量15,700)、H4(分子量11,200)からなる。特に、H3及びH4は高く保存されている。ヒストンの特定のアミノ酸側鎖はメチル化、アセチル化、ADPリボシル化、リン酸化等の多様な修飾が起こることが知られており、クロマチンの高次構造形成や遺伝子発現調節、細胞周期制御等と深く関わっている。特に、ヒストンH3のN末端から4番目のリジン(H3K4)のメチル化、特にトリメチル化により、クロマチン凝縮が阻害され、転写活性化されることが知られている(非特許文献1及び2参照)。
【0004】
SMYD3はヒストンH3のN末端から4番目のリジンのトリメチル化を行い、転写を活性化させる。その結果、細胞増殖が起こり、癌化することが示唆されている(非特許文献3参照)。このことから、SMYD3に関与するヒストンメチルトランスフェラーゼ抑制剤は、転写活性化を抑制し、癌の予防剤又は治療剤として使用することができることが考えられる。しかし、野生型のSMYD3タンパク質は、従来報告されている試験管内の酵素アッセイ系では非常に弱い活性しか示さないために、SMYD3に関与するヒストンメチルトランスフェラーゼ抑制剤のスクリーニング方法には使用することができない状態にあった。
【特許文献1】国際公開第03/027143号パンフレット
【非特許文献1】Grewal, et al., サイエンス(Science)第293巻、1150−1155頁(2001)
【非特許文献2】Santos-Rosa, et al., ネイチャー(Nature)第419巻、407−411頁(2002)
【非特許文献3】Nakamura, et al., ネイチャー セル バイオロジー(Nat. Cell Biol.)第6巻、731−740頁(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、SMYDファミリータンパク質を用いた実験系において、高酵素活性変異ポリペプチドを用いて、より効率的にヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節剤をスクリーニングすることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
SMYD3は公知のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を持つ酵素である。しかし、試験管内の酵素アッセイ系で、該酵素を用いてスクリーニングを試みても、その活性は非常に小さく、野生型のSMYD3タンパク質を用いてヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節剤をスクリーニングすることは非常に困難であった。
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、配列番号:6の1位のMetから428位のSerまでのアミノ酸配列において、N末端より45アミノ酸(配列番号:6の1位のMetから45位のArgまでのアミノ酸)が欠失したSMYD3変異ポリペプチド(3XFLAG-SMYD3-Δ1タンパク質)、及びN末端より99アミノ酸(配列番号:6の1位のMetから99位のProまでのアミノ酸)が欠失したSMYD3変異ポリペプチド(3XFLAG-SMYD3-Δ2タンパク質)が野生型SMYD3タンパク質の約3〜10倍という高い酵素活性を持つという驚くべき知見を見出した。また、C末端より175アミノ酸(配列番号:6の251位のLysから428位のSerまでのアミノ酸)が欠失したSMYD3変異ポリペプチド(3XFLAG-SMYD3-Δ4タンパク質)では、野生型SMYD3タンパク質と同等の活性値であることを確認した。以上のことから、SMYD3のN端を欠失させることがヒストンメチルトランスフェラーゼの活性上昇には重要であること、SETドメインよりC端側はヒストンメチルトランスフェラーゼ活性に影響を与えないことが示唆された。よって、N端を欠失させたSMYD3変異ポリペプチドを用いることにより、効率よくヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節剤をスクリーニングする方法を提供することができる。
【0008】
また、SETドメインがヒストン内のリジンをメチル化するヒストンメチルトランスフェラーゼの活性中心であることが示唆されている(Nat. Cell Biol.、Vol. 6、731−740(2004))ことから、SMYD3以外のSMYDタンパク質であるSMYD1、SMYD2、SMYD4、SMYD5もヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有している可能性が高い。そのため、SMYD1、SMYD2、SMYD4、SMYD5についても、SMYD3と同様に欠失変異体を作製することによって、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を容易に測定することができ、効率よくヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節剤をスクリーニングすることができると考えられる。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)被検物質の存在下、
SMYDファミリータンパク質をコードするアミノ酸配列において、SETドメインよりN末端側のアミノ酸の、1位のMetから連続して少なくとも1以上のアミノ酸が欠失し、かつSETドメイン外のアミノ酸の、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されていてもよいアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYDファミリータンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異ポリペプチド、
ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質、及び
メチル基供与体
をインキュベーションし、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を測定することを特徴とする、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節剤のスクリーニング方法、
(2)該変異ポリペプチドが、配列番号:6の1位のMetから428位のSerまでのアミノ酸配列において、1位のMetから191位のGlnまでのアミノ酸の、1位のMetから連続して少なくとも1以上のアミノ酸が欠失し、かつ1位のMetから191位のGlnまでのアミノ酸、及び242位のMetから428位のSerまでのアミノ酸の、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されていてもよいアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するものである、(1)記載のスクリーニング方法、
(3)該変異ポリペプチドが、配列番号:6の2位のGluから192位のGluまでのいずれかのアミノ酸から始まり、241位のAspから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するものである、(2)記載のスクリーニング方法、
(4)該変異ポリペプチドが、配列番号:6の46位のGlyから192位のGluまでのいずれかのアミノ酸から始まり、241位のAspから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するものである、(2)記載のスクリーニング方法、
(5)該変異ポリペプチドが、配列番号:6の100位のAspから192位のGluまでのいずれかのアミノ酸から始まり、241位のAspから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するものである、(2)記載のスクリーニング方法、
(6)該変異ポリペプチドが、配列番号:6の46位のGlyから100位のAspまでのいずれかのアミノ酸から始まり、241位のAspから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するものである、(2)記載のスクリーニング方法、
(7)該変異ポリペプチドが、配列番号:6の46位のGlyから100位のAspまでのいずれかのアミノ酸から始まり、251位のLysから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するものである、(2)記載のスクリーニング方法、
(8)該ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質が、ヒストンH3又はそのN末端から4番目のリジンのメチル化部位を有する断片である、(1)〜(7)いずれかに記載のスクリーニング方法、
(9)該メチル基供与体がS-アデノシル-L-メチオニンである、(1)〜(8)いずれかに記載のスクリーニング方法、
(10)該メチル基供与体がメチル基が標識されたS-アデノシル-L-メチオニンである、(9)記載のスクリーニング方法、
(11)該メチル供与体が放射性標識されたものであり、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質に転移したメチル基の放射能を測定することにより該ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を測定する、(10)記載のスクリーニング方法、
(12)メチル化部位に特異的な抗体を使用することにより、該ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を免疫学的に測定する、(1)〜(8)いずれかに記載のスクリーニング方法、
(13)SMYDファミリータンパク質をコードするアミノ酸配列において、SETドメインよりN末端側のアミノ酸の、1位のMetから連続して少なくとも1以上のアミノ酸が欠失し、かつSETドメイン外のアミノ酸の、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されていてもよいアミノ酸配列からなり、かつ野生型タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異ポリペプチドを含有する、(1)〜(12)いずれかに記載の方法に使用するためのスクリーニング用キット、
(14)SMYDファミリータンパク質をコードするアミノ酸配列において、SETドメインよりN末端側のアミノ酸の、1位のMetから連続して少なくとも1以上のアミノ酸が欠失し、かつSETドメイン外のアミノ酸の、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されていてもよいアミノ酸配列からなり、かつ野生型タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する、(1)〜(12)のいずれかに記載の方法に使用するためのスクリーニング用キット、に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスクリーニング方法によって、SMYDファミリータンパク質が関与するヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節剤を効率よくスクリーニングすることができる。なお、SMYD3に関与するヒストンメチルトランスフェラーゼ抑制剤は、癌、免疫疾患等の予防剤・治療剤として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書において使用される用語は、特に言及する場合を除いて、当該分野で通常用いられる意味で用いられる。以下に特に本明細書で用いられる用語について説明する。
【0012】
本発明において使用される「変異ポリペプチド(本明細書中、高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドともいう)」とは、野生型のSMYDファミリータンパク質をコードするアミノ酸配列において、SETドメインよりN端側のアミノ酸の、1位のMetから連続して少なくとも1以上のアミノ酸が欠失し、かつ野生型SMYDファミリータンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異体をいう。ここで野生型のSMYDファミリータンパク質をコードするアミノ酸配列としては、SMYD1では配列番号:2のアミノ酸配列からなるポリペプチド、SMYD2では配列番号:4のアミノ酸配列からなるポリペプチド、SMYD3では配列番号:6のアミノ酸配列からなるポリペプチド、SMYD4では配列番号:8のアミノ酸配列からなるポリペプチド、SMYD5では配列番号:10のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0013】
上記、「1位のMetから連続して少なくとも1以上のアミノ酸が欠失した変異体」とは、例えば、N末端から10以上のアミノ酸が欠失した変異体、20以上のアミノ酸が欠失した変異体、30以上のアミノ酸が欠失した変異体、40以上のアミノ酸が欠失した変異体、45以上のアミノ酸が欠失した変異体、99以上のアミノ酸が欠失した変異体等を意味する。なお、SETドメインよりC端側のアミノ酸配列は、欠失していてもよい。
【0014】
例えば、SMYD3の場合は、(1)配列番号:6の1位のMetから428位のSerまでのアミノ酸配列において、1位のMetから191位のGlnまでのアミノ酸の、1位のMetから連続して少なくとも1以上のアミノ酸が欠失し、かつ1位のMetから191位のGlnまでのアミノ酸、及び242位のMetから428位のSerまでのアミノ酸の、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されていてもよいアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異体である。より具体的には、(2)配列番号:6の2位のGluから192位のGluまでのいずれかのアミノ酸から始まり、241位のAspから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異体、(3)配列番号:6の46位のGlyから192位のGluまでのいずれかのアミノ酸から始まり、241位のAspから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異体、(4)配列番号:6の100位のAspから192位のGluまでのいずれかのアミノ酸から始まり、241位のAspから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異体、(5)配列番号:6の46位のGlyから100位のAspまでのいずれかのアミノ酸から始まり、241位のAspから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異体、(6)配列番号:6の46位のGlyから100位のAspまでのいずれかのアミノ酸から始まり、251位のLysから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異体、又は上記変異体と実質的に同様の性質を有するもの等が挙げられる。より具体的には、下記実施例にて使用される、野生型SMYD3タンパク質のN端から45アミノ酸が欠失したSMYD3Δ1及びN端から99アミノ酸が欠失したSMYD3Δ2等が挙げられる。
【0015】
本明細書において、「SETドメイン」とは、メチルトランスフェラーゼ活性を持つ酵素群が持つSETドメインと呼ばれる領域の中で特に保存されている配列を意味する。SMYD1では配列番号:2の194位のGlyから254位のAspまでのアミノ酸配列を意味する。SMYD2では配列番号:4の193位のHisから242位のAspまでのアミノ酸配列を意味する。SMYD3では配列番号:6の192位のGluから241位のAspまでのアミノ酸配列を意味する。SMYD4では配列番号:8の536位のSerから571位のHisまでのアミノ酸配列を意味する。SMYD5では配列番号:10の188位のGlyから237位のAspまでのアミノ酸配列を意味する。
【0016】
「SETドメイン外のアミノ酸」とは、SETドメインよりN末端側のアミノ酸及びSETドメインよりC末端側のアミノ酸を意味する。たとえば、SMYD3では配列番号:6の1位のMetから191位のGlnまでのアミノ酸、及び242位のMetから428位のSerまでのアミノ酸が該当する。
【0017】
高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドは、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(1989)(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Current Protocols in Molecular Biology(1994)(Wiley−Interscience)等に記載された方法等を用い、例えば、以下の方法により、作製することができる。
【0018】
ヒトの脳、心臓、骨格筋、ひ臓、腎臓、肝臓、小腸、胎盤、これら組織由来のヒト正常細胞、ヒト臍帯静脈内皮細胞より、常法によりcDNAライブラリーを作製することによって、SMYDファミリータンパク質をコードするDNAを取得する。また、オリゴヌクレオチドをセンスプライマー及びアンチセンスプライマーとして用い、これらDNAに相補的なmRNAを発現している細胞のmRNAから調製したcDNAを鋳型として、PCRを行うことによっても、目的とするSMYDファミリータンパク質をコードするDNAを調製することができる。こうして得られたSMYDファミリータンパク質をコードするDNAを適切な制限酵素で切断することにより、高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドをコードするDNAを得ることができる。
【0019】
さらに、アミノ酸配列に基づいて、高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドをコードするDNAを化学合成することによって、調製することができる。DNAの化学合成は、チオホスファイト法を利用した島津製作所社製のDNA合成機、フォスフォアミダイト法を利用したパーキン・エルマー社製のDNA合成機model392等を用いて行うことができる。
【0020】
上記の方法で得られた高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドのDNAを適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換え体DNA(発現用プラスミド)を作製する。該発現用プラスミドを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより、高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドを生産する形質転換体を得ることができる。
【0021】
宿主細胞としては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等、目的とする遺伝子を発現できるものであればいずれも用いることができる。発現ベクターとしては、上記宿主細胞において自立複製が可能、又は染色体中への組込みが可能で、高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドをコードする遺伝子の転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが用いられる。
【0022】
「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されたアミノ酸配列」とは、例えば、(A)アミノ酸配列中の1又は2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(B)アミノ酸配列に1又は2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(C)アミノ酸配列に1又は2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(D)アミノ酸配列中の1又は2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、又は(E)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有するタンパク質が挙げられる。アミノ酸配列が挿入、欠失又は置換されている場合、その挿入、欠失又は置換の位置としては、特に限定されない。但し、本発明に使用される高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドは、欠失、付加、挿入又は置換によっても、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するポリペプチドである。例えば、配列番号:2、4、6、8及び10に記載のアミノ酸配列と少なくとも60%以上の相同性を有する部分ペプチド、好ましくは80%以上の相同性を有する部分ペプチド、さらに好ましくは、95%以上の相同性を有する部分ペプチドを挙げることができる。高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドのアミノ酸配列の欠失、付加、挿入又は置換は、出願前周知技術である部位特異的変異誘発法により実施することができる。
【0023】
SMYDファミリータンパク質のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性は、本発明のスクリーニング方法に使用する測定方法を用いて測定することが可能である。該測定方法に関しては、後述する。
【0024】
「野生型SMYDファミリータンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するか否かは、例えば、以下の様に確認することができる。
高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチド、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質及びメチル基供与体を接触させ、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を測定し、同一の条件における野生型SMYDファミリータンパク質のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性と比較することにより、調べることができる。たとえば、実施例3に記載の方法などに従って比較し、決定することができる。
【0025】
「ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質」とは、ヒストン、例えば、ヒストンH3、N末端から4番目のリジンのメチル化部位を有するヒストンH3ペプチドの断片等が挙げられる。該ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質には、ラベル化抗体認識タグが付加していてもよい。
【0026】
「メチル基供与体」としては、メチオニン、S-アデノシル-L-メチオニン(SAM)、デカルボキシS-アデノシル-L-メチオニン(dcSAM)およびそれぞれの標識ラベル体等が挙げられる。該メチル基供与体は、標識でラベルされていてもよい。
【0027】
本発明は、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節剤のスクリーニング方法に関する。該スクリーニング方法は、被検物質である化合物又はその塩の存在下、高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドによるヒストン内のリジンのメチル化を検出又は測定することを1つの特徴とする。例えば、被検物質である化合物又はその塩の存在下、高酵素活性型SMYD3変異ポリペプチドによるヒストンH3のN末端から4番目のリジンのメチル化を検出又は測定することによって本発明を利用することができる。ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性に対する被検物質による影響は、被検物質の非存在下における活性を対照として調べるのが好適である。
【0028】
また、本発明のスクリーニング方法は、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節剤の候補化合物の薬理評価に用いることができる。
【0029】
本発明のスクリーニング方法としては、具体的には、
(A)被検物質の存在下、高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチド、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質及びメチル基供与体を接触させる工程、並びに、
(B)前記ステップ(A)の後、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を測定し、被検物質の非存在下での高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドのヒストンメチルトランスフェラーゼ活性と比較する工程を含む、該活性を調節する作用を有する化合物又はその塩のスクリーニング方法が挙げられる。
【0030】
前記工程(A)の「接触」は、高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチド、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質及びメチル基供与体の本来の機能を妨げない溶液中において、被験物質、高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチド、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質及びメチル基供与体とを混合し、適切な反応条件、例えば、適切な反応温度、反応時間の下、維持する(すなわち、反応させる)ことによって行われ得る。
【0031】
前記「高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチド、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質及びメチル基供与体の本来の機能を妨げない溶液」としては、例えば、リン酸緩衝化生理的食塩水(PBS)、HEPESバッファー、Trisバッファー等の溶液が挙げられる。好ましくは、Trisバッファーが挙げられる。
【0032】
また、前記「適切な反応条件」としては、特に限定されないが、例えば、前記溶液中、pH6.0〜10.0、好ましくは、pH7.0〜9.0、さらに好ましくは、pH7.5〜8.5、さらに好ましくはpH8.3で、通常、10℃から50℃、好ましくは20℃〜40℃、より好ましくは25℃〜37℃、さらに好ましくは30℃、通常、1分間〜3時間、好ましくは3分間〜2時間、より好ましくは5分間〜1時間30分間、さらに好ましくは1時間維持すること等が挙げられる。
【0033】
前記被検物質としては、化合物又はその塩が挙げられる。なお、本明細書においては、前記化合物又はその塩は、低分子化合物、高分子化合物、ポリペプチド又はその誘導体、核酸又はその誘導体等を含む。かかる被検物質は、天然物質であってもよく、非天然物質であってもよい。ポリペプチドの誘導体としては、修飾基を付加して得られた修飾ポリペプチド、アミノ酸残基を改変することにより得られたバリアントポリペプチド等が挙げられる。また、核酸の誘導体としては、修飾基を付加して得られた修飾核酸、塩基を改変することにより得られたバリアント核酸、ペプチド核酸等が挙げられる。核酸としては、SMYDファミリータンパク質をコードする遺伝子に対するRNAiを誘発しうるsiRNA、アンチセンス鎖RNA、リボザイム等も含まれる。
【0034】
本発明において、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を測定する方法としては、特に限定されず、当該分野において、一般的に、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を測定する方法として知られている方法を使用することができる。例えば、(1)標識されたメチル基供与体を使用する方法、(2)メチル化部位に特異的な抗体を使用する方法等が挙げられる。
【0035】
(1)標識されたメチル基供与体を使用する方法は、検出可能なラベル、例えば、放射活性又は発色性ラベルで標識されたメチル基供与体を使用し、メチル基の基質への移行時に該標識を定量することによって行うことができる。
放射活性ラベルとしては、14C、3H等が挙げられる。放射活性ラベルで標識されたメチル基供与体を使用する場合、メチル基を基質に移行させ、直接定量することができる。定量法としては、シンチレーション計数法又はオートラジオグラフィー法等が挙げられる。
発色性ラベルとしてはクマリン誘導体、例えば、7-アミノ-4-メチルクマリン又は7-アミノ-4-トリフルオロメチルクマリン等が挙げられる。発色性ラベルで標識されたメチル基供与体を使用する場合、高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドによるメチル基の基質への移行時に、メチル基供与体は色を変え、これを定量することができる。定量法としては、分光法等が挙げられる。
【0036】
(2)メチル化部位に特異的な抗体を使用する方法は、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質を、高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドによるメチル化時に、特異的抗体によって認識し得るエピトープとして使用し、メチル化を定量することによって行うことができる。
該方法に有用な抗体としては、例えば、Anti-H3K4-tri-methyl 抗体ab8580 (abcam社)、Anti-H3K4-tri-methyl 抗体 05-745(アップステート社)、Anti-H3K4-tri-methyl 抗体07-473(アップステート社)、Anti-H3K4mono-di-tri-methyl抗体05-791(アップステート社)等が挙げられる。また、該抗体は、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質、例えばヒストンH3のN末端から4番目のリジンを含むペプチド断片を抗原として使用し、標準方法に従ってポリクローナル又はモノクローナル抗体を作製することによって得ることができる。かかる抗体は、慣用の酵素(例えば、ペルオキシダーゼ等)、蛍光色素、放射性物質、アビジン若しくはビオチン等で標識されていてもよい。定量法としては、当業者に公知の種々のアッセイ形式が存在する。例えば、Harlow及びLane,Anti bodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988に記載の方法を使用することができる。例えば、ELISA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法等を挙げることができる。
【0037】
その他、蛍光消光(Resonance Energy Transfer、"RET")アッセイを使用してヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を測定することもできる。ドナーを上記メチル化部位に特異的な抗体に結合させ、アクセプターを、上記メチル化部位を含まない部分を認識する抗体又はヒストンに付加されたタグを認識する抗体と結合させる。ドナー及びアクセプターの組み合わせとしては、ユウロピウム(Eu)とアロフィコシアニン(APC)、EuとCy5等が挙げられる。蛍光をフルオロメーター内で、励起波長および発出波長で測定する。被検物質がヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節作用を有する場合、試験物質の存在しない対照サンプルと比較して検出可能シグナルが変化する。例えば、被検物質がヒストンメチルトランスフェラーゼ抑制作用を有する場合、試験物質の存在しない対照サンプルと比較して検出可能シグナルが低下する。
【0038】
上記方法により、種々の被験物質の存在下における高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドのヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を測定することによって、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節能を有する物質を選抜するスクリーニングを行うことができる。例えば、被験物質下における活性が、被検物質非存在下における活性より有意な上昇又は減少を示す物質を、ヒストンメチルトランスフェラーゼ亢進能又は抑制能を有する物質として選抜することができる。このように選抜された物質はヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節剤(つまり、ヒストンメチルトランスフェラーゼ亢進剤又は抑制剤)の有効成分として使用され得る。
【0039】
本発明は、高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドを使用するという特徴を持つスクリーニング方法に関するものであり、検出方法等は公知のものを利用することができるが、特に、莫大な数の化合物をアッセイするスクリーニング、特にハイスループットスクリーニング(HTS)において有用である。本発明を実施すれば、効果的に候補化合物を選択することができる。
【0040】
本発明の「スクリーニングキット」には少なくとも高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチド、該ポリペプチドをコードする遺伝子、該遺伝子を保持してなる核酸構築物、該遺伝子が導入された細胞等のいずれかが含まれている。
【0041】
本発明のスクリーニング用キットとしては、具体的には、
− 高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドを含有してなるキット、
− 高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドをコードする遺伝子を含む核酸構築物を含有してなるキット、
− 高酵素活性型SMYDファミリー変異ポリペプチドをコードする遺伝子が導入された細胞を含有してなるキット、
等が挙げられる。
これらのキットは、リジンがメチル化されたヒストンを特異的に検出する抗体をさらに含有していてもよい。
【0042】
また、各キットには、所望により、検出用試薬、緩衝液、標準物質、本発明のスクリーニング方法を実施するための説明書等を含有させてもよい。
【0043】
本発明のスクリーニング方法により得られた化合物又はその塩は、ヒストンメチルトランスフェラーゼに関連して発症する疾患に対する治療又は予防作用を発揮しうる。例えば、本発明のスクリニーング方法によれば、SMYD3のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性が関与して発症する癌、免疫疾患等に有効な治療剤又は予防剤の候補化合物をスクリーニングすることができる。
【0044】
上記「癌」としては、固形癌、血管腫、血管内皮腫、肉腫、カポシ肉腫及び造血器腫瘍などの種々の悪性新生物が例示され、大腸癌及び肝癌等が包含され、さらにこれら癌の転移をも包含する。
「免疫疾患」としては、例えば、アトピー、喘息、リウマチ、膠原病、アレルギー等が例示される。
【0045】
また、前記スクリーニング方法により得られた化合物又はその塩により、ヒストンメチルトランスフェラーゼに関連する疾患、例えば、SMYD3が関与する癌、免疫疾患等の治療又は予防に用いるための医薬組成物が提供される。
【0046】
上記医薬組成物は、本発明のスクリーニング方法により得られた化合物又はその塩を有効成分として含有することに1つの特徴がある。したがって、該医薬組成物は、ヒストンメチルトランスフェラーゼに関連して発症する疾患に対して、該酵素の活性の抑制を介して作用しうるという優れた効果を発揮する。例えば、本発明の医薬組成物は、癌、免疫疾患等、特に、SMYD3のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性に関連して発症する癌、免疫疾患等に対して、該酵素活性の抑制を介して作用しうるという優れた効果を発揮する。該医薬組成物を癌の治療又は予防に用いる場合は、通常の癌療法、例えば、放射線療法、化学療法、とりわけ腫瘍細胞を事前感応化するためのDNA劣化剤を施すのと同時に、又はその前でも使用できる。
【0047】
上記医薬組成物中における前記化合物又はその塩の含有量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調節することができ、治療上有効量であればよく、低分子化合物又は高分子化合物の場合、例えば、0.0001〜1000mg、好ましくは、0.001〜100mg、ポリペプチド又はその誘導体の場合、例えば、0.0001〜1000mg、好ましくは、0.001〜100mg、核酸又はその誘導体の場合、例えば、0.00001〜100mg、好ましくは、0.0001〜10mgであることが望ましい。
【0048】
上記医薬組成物は、前記化合物又はその塩を安定に保持しうる種々の助剤をさらに含有してもよい。具体的には、有効成分の送達対象となる部位に到達するまでの間に、有効成分が分解することを抑制する性質を呈する薬学的に許容されうる助剤、賦形剤、結合剤、安定剤、緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等が挙げられる。
【0049】
上記医薬組成物の投与形態は、有効成分の種類;投与対象となる個体、器官、局所部位、組織;投与対象となる個体の年齢、体重等に応じて、適宜選択される。前記投与形態としては、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、局所投与等が挙げられる。
【0050】
また、上記医薬組成物の投与量も、有効成分の種類;投与対象となる個体、器官、局所部位、組織;投与対象となる個体の年齢、体重等に応じて、適宜選択される。投与としては、特に限定されないが、有効成分が、低分子化合物又は高分子化合物である場合、前記有効成分の量として、例えば、0.0001〜1000mg/kg体重、好ましくは、0.001〜100mg/kg体重、ポリペプチド又はその誘導体の場合、例えば、0.0001〜1000mg/kg体重、好ましくは、0.001〜100mg/kg体重、核酸又はその誘導体の場合、例えば、0.00001〜100mg/kg体重、好ましくは、0.0001〜10mg/kg体重の1回投与量となるように、1日につき、複数回、例えば、1〜3回投与すること等が挙げられる。
【0051】
本発明を、下記実施例等により説明するが、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例において、遺伝子操作的手法として、特に断らない限り、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(1989)(Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載された方法を用いた。
【実施例1】
【0052】
293T細胞への遺伝子導入
5x107個の293T細胞を、15cm dish(コーニング社)に播腫して一晩培養した。10μgの野生型SMYD3発現用プラスミドベクターpFlag-CMV-SMYD3とN末45アミノ酸が欠失した変異型SMYD3発現用プラスミドベクターp3XFlag-CMV-SMYD3-Δ1、N末99アミノ酸が欠失した変異型SMYD3発現用プラスミドベクターp3XFlag-CMV-SMYD3-Δ2、C末175アミノ酸が欠失した変異型SMYD3発現用プラスミドベクターp3XFlag-CMV-SMYD3-Δ4(浜本ら,2004,Nature cell biol. 6, 731-740)(図1)を、FuGENE6(ロッシュ社)にて添付マニュアルに従い、293T細胞内に遺伝子導入した。
【実施例2】
【0053】
293T細胞からのFLAGタグ付加SMYD3タンパク質の精製
遺伝子導入24時間経過後、培地を取り除き、15mlのPBS(-)(インビトロジェン社)で洗浄する。洗浄液を取り除いて1mlのPBS(-)を加え、セルスクレイパー(コーニング社)により細胞を剥がした後、ポリプロピレン製チューブに回収した。
5000rpmで5分間遠心した後、上清を取り除いて1mlのCelLytic-M溶液(シグマ社)を加え、懸濁した。その後、細胞懸濁溶液を21Gの注射針を付けたシリンジ(テルモ社)で吸い上げる。10回程度この操作を繰り返して細胞を破砕し、氷上にて30分間静置した。15000rpmで15分間遠心した後、上清を新たなポリプロピレン製チューブに回収した。120μlの50%抗HAアガロースゲル溶液(シグマ社)を上清に加え、ローテーターにより、1時間懸濁した。その後、10000rpmで1分間遠心して、上清を回収した。60μlの50%抗FLAG アガロースゲル溶液(シグマ社)を上清に加え、ローテーターにより2時間懸濁した。その後、10000rpmで1分間遠心して上清を取り除き、抗FLAG アガロースゲルを1mlのPBST緩衝液(組成:PBS(-), 0.1%Triton X-100)で7回洗浄した。抗FLAG アガロースゲルに100μlの溶出溶液(組成:PBS(-), 0.1%Triton X-100, 1mM DTT, 3x FLAG peptide(シグマ社)、Protease inhibitor cocktail(ロッシュ社))を加えて、ローテーターにより1時間懸濁した。その後、10000rpmで1分間遠心して上清を回収した。アガロースゲルに再び100μlの溶出溶液を加えて、ローテーターにより1時間懸濁し、上清を回収した。回収した200μlの上清をフィルター膜100K(ミリポア社)に移し、12000rpmで10分間遠心して、野生型FLAG-SMYD3及び3XFLAG-SMYD3-Δ1,2,4タンパク質の濃縮を行った。精製の状態を検討するために、4-20%SDS-PAGE用グラジエントゲルで泳動して単一の分子として単離されている事を確認した(図2)。
【実施例3】
【0054】
精製酵素を用いた試験管内ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性の定量
12.2 μlの酵素反応液(組成:50mM Tris (pH=9.0)、0.1% Triton X-100、1mM DTT、0.03μg/μl rHistone H3(アップステート社)、5μM S-adenosyl-L-[methyl-3H]methionine ([3H]SAM(アマシャムバイオサイエンス社)) をポリプロピレン製チューブに加え、その後、FLAG-SMYD3及び3XFLAG-SMYD3-Δ1,2,4各酵素溶液(組成:0.1% Triton-X100、167 mM Imidazole in PBS(-))を1μM及び4μMになるように加え、蒸留水で最終容量を20μlとしてよく混合した。なお、表記濃度は全て終濃度である。
30℃で1時間インキュベート後、5μlの反応液を5mMの非標識SAMで前処理を加えたDE81フィルターの中央部に滴下して室温で5分間乾燥させた。DE81フィルターに吸着されていないタンパク質以外の分子を取り除くため、2mlの10%TCA溶液で15分間洗浄した。同様の洗浄操作を3回繰り返した。最後に2mlの95%エタノール溶液で1分間洗浄した後、赤外線ランプ下で10分間乾燥させた。5mlの液体シンチレーションカクテル溶液を加えているバイアル瓶にDE81フィルターを浸した。液体シンチレーションカウンター(パッカード社)によりバイアル瓶中のcpm値を定量する事で、ヒストンメチルトランスフェラーゼであるSMYD3がヒストンH3にトリチウム標識メチル基を転移した程度を測定することが可能となる。その結果、N末より45アミノ酸及び99アミノ酸が欠失した変異型3XFLAG-SMYD3-Δ1,2タンパク質では、全長を発現させている野生型FLAG-SMYD3タンパク質と比較して活性値が約3〜10倍程度上昇している事が確認された(図3 )。一方、C末より175アミノ酸が欠失した変異型3XFLAG-SMYD3-Δ4タンパク質では、野生型FLAG-SMYD3タンパク質と同様の活性値であることが確認された。また、酵素活性によってトリチウム標識メチル基がヒストンH3に転移した程度を検討するために、4-20%SDS-PAGE用グラジエントゲルで泳動後、BASイメージングシステム(富士フィルム)でrHistone H3(アップステート社)のメチル化を検出したところ、シンチレーションカウンターの値とほぼ同等の比活性値を示した(図4)。以上の結果から、野生型SMYD3タンパク質のN末より45アミノ酸もしくは99アミノ酸が欠失する事により、酵素活性が向上することが確認された。同時に、液体シンチレーションカウンター(パッカード社)によりバイアル瓶中のcpm値を測定することでヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を測定することが可能であることが確認された。その結果、SMYD3に関与するヒストンメチルトランスフェラーゼ抑制剤の候補化合物をスクリーニングすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のスクリーニング方法によって、SMYDファミリータンパク質に関与するヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節剤を効率よくスクリーニングすることができる。なお、SMYD3に関与するヒストンメチルトランスフェラーゼ抑制剤は、癌、免疫疾患等の予防剤・治療剤として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】野生型SMYD3タンパク質及びその欠損変異体
【図2】野生型SMYD3タンパク質及びその欠損変異体の精製
【図3】野生型SMYD3タンパク質及びその欠損変異体のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性
【図4】野生型SMYD3タンパク質及びその欠損変異体によるrHistone H3のメチル化
【配列表フリーテキスト】
【0057】
配列番号:1は、野生型SMYD1タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を示す。
【0058】
配列番号:2は、野生型SMYD1タンパク質のアミノ酸配列を示す。
【0059】
配列番号:3は、野生型SMYD2タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を示す。
【0060】
配列番号:4は、野生型SMYD2タンパク質のアミノ酸配列を示す。
【0061】
配列番号:5は、野生型SMYD3タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を示す。
【0062】
配列番号:6は、野生型SMYD3タンパク質のアミノ酸配列を示す。
【0063】
配列番号:7は、野生型SMYD4タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を示す。
【0064】
配列番号:8は、野生型SMYD4タンパク質のアミノ酸配列を示す。
【0065】
配列番号:9は、野生型SMYD5タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を示す。
【0066】
配列番号:10は、野生型SMYD5タンパク質のアミノ酸配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質の存在下、
SMYDファミリータンパク質をコードするアミノ酸配列において、SETドメインよりN末端側のアミノ酸の、1位のMetから連続して少なくとも1以上のアミノ酸が欠失し、かつSETドメイン外のアミノ酸の、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されていてもよいアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYDファミリータンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異ポリペプチド、
ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質、及び
メチル基供与体
をインキュベーションし、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を測定することを特徴とする、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性調節剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
該変異ポリペプチドが、配列番号:6の1位のMetから428位のSerまでのアミノ酸配列において、1位のMetから191位のGlnまでのアミノ酸の、1位のMetから連続して少なくとも1以上のアミノ酸が欠失し、かつ1位のMetから191位のGlnまでのアミノ酸、及び242位のMetから428位のSerまでのアミノ酸の、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されていてもよいアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するものである、請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
該変異ポリペプチドが、配列番号:6の2位のGluから192位のGluまでのいずれかのアミノ酸から始まり、241位のAspから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するものである、請求項2記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
該変異ポリペプチドが、配列番号:6の46位のGlyから192位のGluまでのいずれかのアミノ酸から始まり、241位のAspから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するものである、請求項2記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
該変異ポリペプチドが、配列番号:6の100位のAspから192位のGluまでのいずれかのアミノ酸から始まり、241位のAspから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するものである、請求項2記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
該変異ポリペプチドが、配列番号:6の46位のGlyから100位のAspまでのいずれかのアミノ酸から始まり、241位のAspから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するものである、請求項2記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
該変異ポリペプチドが、配列番号:6の46位のGlyから100位のAspまでのいずれかのアミノ酸から始まり、251位のLysから428位のSerまでのいずれかのアミノ酸で終わるアミノ酸配列からなり、かつ野生型SMYD3タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有するものである、請求項2記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
該ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質が、ヒストンH3又はそのN末端から4番目のリジンのメチル化部位を有する断片である、請求項1〜7いずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
該メチル基供与体がS-アデノシル-L-メチオニンである、請求項1〜8いずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
該メチル基供与体がメチル基が標識されたS-アデノシル-L-メチオニンである、請求項9記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
該メチル供与体が放射性標識されたものであり、ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性用基質に転移したメチル基の放射能を測定することにより該ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を測定する、請求項10記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
メチル化部位に特異的な抗体を使用することにより、該ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を免疫学的に測定する、請求項1〜8いずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
SMYDファミリータンパク質をコードするアミノ酸配列において、SETドメインよりN末端側のアミノ酸の、1位のMetから連続して少なくとも1以上のアミノ酸が欠失し、かつSETドメイン外のアミノ酸の、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されていてもよいアミノ酸配列からなり、かつ野生型タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異ポリペプチドを含有する、請求項1〜12いずれかに記載の方法に使用するためのスクリーニング用キット。
【請求項14】
SMYDファミリータンパク質をコードするアミノ酸配列において、SETドメインよりN末端側のアミノ酸の、1位のMetから連続して少なくとも1以上のアミノ酸が欠失し、かつSETドメイン外のアミノ酸の、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入又は置換されていてもよいアミノ酸配列からなり、かつ野生型タンパク質の3倍以上のヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有する変異ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する、請求項1〜12のいずれかに記載の方法に使用するためのスクリーニング用キット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−191843(P2006−191843A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5870(P2005−5870)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】