説明

髪菜細胞の培養と髪菜多糖の抽出をリンクさせて行うための方法

【課題】髪菜細胞の培養と髪菜多糖の抽出をリンクさせて行うことを可能とする。
【解決手段】本発明は、髪菜細胞の培養と髪菜多糖の抽出をリンクさせて行うための方法を開示し、髪菜多糖を髪菜の藻体からしか抽出できなかった問題を解決した。髪菜の藻体から髪菜細胞を分離し、それを培地に加え、培養及び精製により髪菜細胞種を得る。その細胞種を拡大培養してから液体懸濁培養し、その培養液から髪菜多糖を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養技術、特に髪菜細胞の培養技術及び髪菜多糖の抽出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
髪菜(Nostoc flagelliforme)は陸生の藍藻であり、多糖類、アミノ酸及び微量元素を豊富に含み、高価な食品として古くから多くの人に好まれている。近年、髪菜の薬用価値がますます重視されている。髪菜の熱水抽出物には抗腫瘍活性がある。髪菜多糖により生体の免疫力が増強することが実験的に実証されている。髪菜多糖は、エンベロープを有するいくつかのウイルス、例えばI型単純ヘルペスウイルス、ヒトサイトメガロウイルス及びインフルエンザウイルスなどに対して、抗ウイルス活性を有している。
【0003】
従来、髪菜多糖は、髪菜の藻体から抽出されている。髪菜多糖の生産並びに一部の機能性食品及び薬物の製造開発には、大量の髪菜が原料として必要とされる。髪菜はこれまでに人工的な栽培及び生産の方法が確立されていない。そのうえ、髪菜の生態環境と地理的分布は特殊であり、主に砂漠−半砂漠草原地帯で生育する。また、髪菜の生長は遅く、天然に存在しているその量には限りがある。髪菜が無制限に大量に採集されたために、髪菜資源の破壊は著しく、枯渇寸前である。中国の寧夏は髪菜の主要産地の1つであるが、調査によると、20世紀60年代では髪菜生育面積が約360.7万hであったのに対し、80年代の中期で173.3万hまで減り、20世紀90年代末には100万h以下である。髪菜の生産量は、70年代の1h当たり3〜7.5kgから今では1h当たり0.1kgにまで減少している。非合理的な髪菜の採集のせいで髪菜の生育地の植生の破壊も著しく進行しており、砂漠化など生態環境は悪化の一途をたどっている。この局面に鑑みて、中国政府は2000年7月より髪菜の採集、加工及び販売を全面的に禁止した。そのため、髪菜を原料として髪菜多糖を生産することは実施不可能になった。髪菜多糖は非常に将来性のある生物活性物質であるが、その開発及び生産は原料の供給源を失ったために困難な展開を迎えている。
【0004】
なお、本発明にかかる先行技術文献としては以下の特許文献1,2が挙げられる。
【特許文献1】中国特許公開第1392245号明細書
【特許文献2】中国特許公開第1530439号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、髪菜多糖が髪菜の藻体からしか抽出できなかった現状に対し、髪菜から分離して得られる髪菜細胞を培養し、その培養物及び培養液から髪菜多糖を抽出することにある。あるいは、髪菜細胞の培養物及び培養液を機能性食品又は薬物を生産するための原料として直接に用いることにある。これにより、原料問題による髪菜多糖の応用に対する制約が抜本的に解決されうる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明では以下の技術的手段を講じた。
1.髪菜細胞の分離及び精製:
少量の髪菜を計量して三角フラスコに入れ、髪菜の表面を消毒及び洗浄する。その後、酵素分解法又は機械分離法により髪菜の藻体から髪菜細胞を分離する。酵素分解法では、濾過及び除菌済みの分離析出用酵素溶液30mlに無菌条件下で髪菜を加える。そして、120rpmの回転数で1〜2時間振盪した後に濾過し、その濾過液を遠心して髪菜細胞を収集する。一方、均質法では、適量の生理食塩水又は培地に髪菜を加え、ガラスホモジナイザーを用いて十分にホモジナイズしてホモジネートを回収する。
【0007】
少量の髪菜細胞又はホモジネートをBG11培地に加え、培地のpHを7.5〜8.0に調整する。そして、3000ルクスの光を照射しながら24〜28℃の培養温度で30〜40日間培養を行う。培養後、顕微鏡で培養物を観察し、培養物の形態が典型的な念珠状を示している培養容器を選び出す。その培養容器から培養液を吸引してプレート上に塗布し、光を照射しながら5〜7日間培養を行う。その後、純粋な髪菜藻のコロニーをそこから選び出し、それを液体培地に入れ替えて培養する。かくして髪菜細胞種は得られる。細胞種は弱光下、12〜15℃の温度で保存され、40〜60日ごとに入れ替えされる。あるいは、冷凍乾燥保存法により長期に保存される。
【0008】
2.細胞の培養:
髪菜細胞種を培地に加え、培地のpHを7.2〜7.6に調整する。そして、3000ルクスの光を照射しながら24〜28℃の培養温度で13〜15日間培養を行う。
【0009】
3.細胞の収集:
培養液を濾過又は遠心することにより髪菜細胞を得る。得られた髪菜細胞を自然風乾、天日干し又は加熱乾燥する。
【0010】
4.髪菜粗多糖の抽出:
細胞培養液を遠心又は濾過し、その上澄液又は濾過液を濃縮し、アルコール沈殿法で髪菜粗多糖を抽出する。
【0011】
本発明の利点は、髪菜多糖の生産に細胞培養法を利用したことにより、髪菜の藻体からしか多糖類を抽出できなかった現状を変えたことにある。髪菜細胞種は長期保存が可能であり、拡大培養によって直接に髪菜多糖の生産に使用することができる。従って、野生の髪菜資源を消費せず、髪菜の生育地の生態環境を破壊しないで済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
1.培地の作成:
1500〜2500mg/LのNaNO、40〜60mg/LのKHPO、70〜75mg/LのMgSO・7HO、58〜60mg/LのNaSiO・9HO、35〜38mg/LのCaCl・2HO、2.86mg/LのHBO、1.8mg/LのMnCl・4HO、0.2mg/LのZnSO・7HO、0.08mg/LのCuSO・5HO、0.4mg/LのNaMoO・2HO、0.01mg/LのCoCl、1.0mg/LのEDTA・2Na、及び4.8mg/LのFeSO・7HOを含有する培地を作成した。
【0014】
2.髪菜細胞の分離
(1)酵素分解法: 髪菜1gを計量して三角フラスコに入れ、髪菜の表面を消毒及び無菌水で洗浄した。その後、濾過及び除菌済みの分離析出用酵素溶液50mlに無菌条件下で髪菜を加えた。酵素溶液には、ペクチナーゼ0.5%、マンニトール0.8%、デキストラン硫酸カリウム1%が含まれている。三角フラスコをシェーカーの上に置き、回転速度120rpm、ストローク長4〜5cm、温度25℃の条件で2時間酵素分解した。その間、30分おきに酵素液を交換した。2時間後、酵素分解液を800メッシュの金網に通し、濾過液を回転速度3000rpmで15分間遠心し、髪菜細胞を収集した。
【0015】
(2)均質法: 髪菜0.5gを計量し、髪菜の表面を滅菌後、ガラスホモジナイザーに移し、約30mlの無菌生理食塩水又は培地を加えてから、無菌条件下で十分にホモジナイズした。得られたホモジネートを培地に加え、髪菜細胞の培養及び精製を行った。
【0016】
3.細胞の精製:
培地を使って3回洗浄した後の髪菜細胞を培地に加え、その培地のpHを8.0に調整した。そして、3000ルクスの光を照射しながら25℃の培養温度で60日間培養を行った。培養後、顕微鏡で培養物を観察し、培養物の形態が典型的な念珠状を示している培養容器を選び出した。その培養容器から培養液を吸引してプレート上に塗布し、光を照射しながら5〜7日間培養を行った。その後、純粋な髪菜藻のコロニーをそこから選び出し、それを液体培地に入れ替えて培養した。かくして得られる髪菜細胞種を500ルクスという弱光下、12〜15℃の温度で保存し、1カ月ごとに入れ替えした。あるいは、冷凍乾燥保存法により長期保存した。
【0017】
4.細胞の培養:
髪菜細胞種をまず拡大培養し、次に5〜15%の接種量で光反応器に入れ、pHを7.2〜7.6に調整した。光を照射しながら25℃の培養温度で14〜16日間にわたって液体懸濁培養を行った。
【0018】
5.髪菜粗多糖の抽出:
細胞培養液を遠心又は濾過し、その上澄液又は濾過液を70℃で回転蒸発させて10分の1にまで濃縮した。濃縮液の5倍の体積の95%アルコールを加え、アルコールで5〜8時間析出した。その後、遠心分離により沈殿を収集し、沈殿物を無水アルコールで洗浄した。これを真空冷凍乾燥させることにより、粗抽出物として髪菜粗多糖が得られた。
【0019】
実施例1で得られた粗抽出物(実施例)及び野生髪菜からの粗抽出物(比較例)の抗ウイルス活性を以下のように測定した。
まず、宿主細胞に対する各粗抽出物の毒性を評価するべく、次のようにして50%細胞増殖抑制濃度(CG50)を求めた。
【0020】
(1)1穴あたり1×10個の宿主細胞を96穴プレートに入れて24時間培養する。
(2)希釈した検体(粗抽出物)を含んだ培地(5%牛胎児血清加MEM)に培地を交換する。
【0021】
(3)72時間後にトリプシンで細胞を剥がし、トリパンブルー染色後、生細胞数を計測する。
(4)検体添加区及び検体非添加区で計測される生細胞数からCG50を算出する。
【0022】
次に、ウイルスの増殖に対する粗抽出物の阻害作用を評価するべく、次のようにして50%ウイルス増殖阻害濃度(IC50)を求めた。
(1)宿主細胞を48穴プレートで単層培養する。
【0023】
(2)検体の存在下又は非存在下、0.1プラーク形成単位の1型単純ヘルペスウイルスを宿主細胞に室温で1時間感染させる。
(3)ウイルス液を除去し、牛胎児血清不含MEM培地で宿主細胞を3回洗浄する。
【0024】
(4)希釈した検体を含んだ培地(2%牛胎児血清加MEM)を用いて、ウイルス感染後の宿主細胞を37℃で24時間培養する。
(5)10倍希釈系列を作成し、別途に35mmディッシュで培養した細胞を用いてプラークアッセイを行う。
【0025】
(6)検体添加区及び検体非添加区で計測されるプラーク数からIC50を算出する。
このようにして求められたCG50及びIC50、並びにCG50をIC50で除することにより求められる選択指数(CG50/IG50)を表1に示す。表1に示すように、選択指数の値は比較例に比べて実施例の方が大きく、実施例1の粗抽出物は、野生髪菜からの粗抽出物に比べて高い抗ウイルス活性を示すことが分かった。これは、実施例1の粗抽出物には、野生髪菜からの粗抽出物に比べて、酸性多糖(ノストフラン)が多く含まれるためと考えられる。
【0026】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
髪菜細胞の培養と髪菜多糖の抽出をリンクさせて行うための方法であって、
野生の髪菜の表面を消毒及び洗浄の後、その髪菜から髪菜細胞を分離する工程と、
髪菜細胞を培地に加えし、培養及び精製により髪菜細胞種を得る工程と、
髪菜細胞種を拡大培養し、その後さらに培地に加えて培養を行うことにより髪菜細胞培養液を得る工程と、
髪菜細胞培養液を遠心又は濾過し、その上澄液又は濾過液から髪菜多糖を抽出する工程と
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
髪菜からの髪菜細胞の分離が酵素分解法又は機械分離法により行われる特徴とする請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2007−259738(P2007−259738A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87904(P2006−87904)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(506104655)天津科技大学 (2)
【出願人】(593206964)マイクロアルジェコーポレーション株式会社 (17)
【Fターム(参考)】