説明

魚の活きしめ採血方法および装置

【課題】ブリ、カンパチ、ヒラマサ、マグロ等の大型魚であっても活きしめと血抜き作業を自動化することができ、同時に従来と比べて多量の血液を脱血可能とする技術の提供。
【解決手段】 心機能を生かしたままの状態で魚を活きしめ採血する方法であって、
魚の頭部が尾部より下方となる姿勢とする工程、魚体の側面からエラを貫通して切断刃により延髄および延髄近傍の動脈血管を切断する切断工程、魚の口を開いて固定する工程、切断箇所を含む魚の頭部を筒状の魚体収納部で覆って閉空間を構成し、当該閉空間に負圧を生ぜしめて血液を吸引収集する採血工程、を含む魚の活きしめ採血方法並びに当該方法を実施するための装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚の活きしめ採血方法および装置に関し、より具体的にはカツオ、マグロ、サケ、ブリ、カンパチなどの魚を刃物で即殺するとともに魚の血液を吸引収集する採血方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カツオ、マグロ、プリ、カンパチ、サケなどの活魚は、より鮮度を保つために魚が生きているうちに即殺し、血を抜く、活きしめ(活きじめ)といわれる処理が従来から行われている。カツオ、マグロ、プリ、カンパチおよびサケなど魚類の肉は、牛や豚など家畜の肉に比べて高度不飽和脂肪酸が多いため、健康保持に有効な食品としての評価が高まっている。また、魚の鮮度を高品位に保つためには、活きしめと血抜きを行うことが欠かせない。
この血抜処理は魚の用途に応じて異なり、通常、魚の急所であるえらと胸ひれの間と、尾ひれの付け根の2か所を中骨まで包丁によって切り込みを入れて血抜きしているが、例えばプリ、カンパチ、ヒラマサ等の大型の魚にあっては高鮮度を維持するために魚の頭部を背の方向から中骨まで切断して血抜きすると共に、中骨内の神経を抜く方法も行われている。
従来、熟練した作業員が包丁、錐、手鉤等で魚の延髄を切断あるいは破壊することにより活きしめ、さらに魚の血管を切断することにより血抜きを行っていたが、力の強い大型魚の処理において怪我のリスクが高く、多数の魚処理による疲労も大きい。また、処理速度も遅かった。
【0003】
例えば、船上におけるカツオの活きしめ脱血による鮮度向上については、一本釣りされたカツオを、船上で活きしめ脱血後ブライン凍結した場合と、そのまま凍結した場合の魚肉を比較すると活きしめした場合は肉色がマグロ肉のように明赤色であり、皮下の肉はマグロのトロの風味がしたのと報告がある(非特許文献1参照)。この活きしめと血抜きは、特に大型魚の場合はできるだけ手早く実施したい作業である。すなわち、船上に引き上げた魚は激しくあばれるため、打撲による内出血があり、アデノシン三リン酸(ATP)を消費し、乳酸が増加してpH値の低下を招くなどにより、肉品質が低下してしまう問題があるが、船上での自動化処理はいまだ実現されていない。
【0004】
魚類や畜肉類の鮮度低下の原因は、死後の体内に残存する自己分解酵素群や腐敗微生物によるものといわれており、魚類や獣類などの食肉中の血液を確実に放出し、酸化防止や食味改善用の灌流液を血管内に注入することも行われている。例えば特許文献1には、血液流出用の第一灌流液及び酸化、食味を改善する第二灌流液を食肉動物の心臓動脈から圧力注入し、血液は心臓静脈から体外に流出させ、さらには電気パルスを断続的に発生させることにより血液の流れを活発にし、血液を体外に効率よく流出させる灌流装置により体内の血液を効率良く確実に放出し、十分に鮮度低下を防止することが提案されている。しかしながら、この技術は、食肉の改善には有用であっても、血液中には血液以外の種々の成分が含有されるため血液を原料として利用するのには適しておらず、電気パルスによる脱血効果がどの程度あるかも不明である。
【0005】
活きしめの自動化装置としては、例えば特許文献2に、魚が横に寝た状態で供給されるテーブルと、テーブル上に供給された魚を定位させる手段と、魚に対して同時に進退される2本の刃物とを備えており、この2本の刃物のうち1本は、テーブル上に定位される魚の鰓部から頭部側に刃先が位置しており、他の1本は、テーブル上に定位される魚の鰓部から喉部側に刃先が位置していることを特徴とする魚の生けしめ装置が提案されている。しかしながら、この提案では血管の切断位置を考慮しておらず、また魚の口腔に血が溜まるという問題を解決するものではないことから、魚の脱血を効率的に行うことはできない。
【0006】
特許文献3には、針先を進退させることにより活魚の急所を破壊してしめるようにした活魚の活きしめ方法において、搬送路途中の活魚の背と腹の位置関係が搬送方向に対してあらかじめ設定した位置関係と逆の状態にある時、搬送路途中の床部と天井部の相互の位置を逆転して活魚の背と腹の位置関係を反転させることにより、全ての活魚を同一向きに位置決めさせてしめる方法および装置と、同装置において尾部を位置決めした状態で尾部のあらかじめ定めた位置まで針先を進退させる血抜き部を備えることが提案されている。しかしながら、この提案はベルトコンベア上の魚の尾部から自然流血することを期待するものであり、魚の脱血を効率的に行うことはできない。
【0007】
ところで、鉄補給素材として、ヘム鉄、すなわち、ヘモグロビン(Hb)中のヘム部を多量に含む「ヘム鉄」が、体内での鉄吸収が良いので有用とされている。近年、栄養事情は良くなったが逆に微量元素のアンバランスが指摘されているが、特に、女子の鉄分の不足者は、実に40〜50%になるとの報告もあり、鉄分を補う食品又は素材の開発が急務といえる。血液中のHbは、鉄を多量に含み、無機質の鉄と区別され、有機質鉄と呼ばれている。有機質鉄は無機質鉄と比較し、消化・吸収に勝れ、また、他の物質(例えばカフェイン等)による吸収の阻害がなく、鉄の補給に好適と考えられている(非特許文献2)。ヘム鉄を利用するに当たっては、例えば、溶血したヘモグロビンをpH10以上、又は3以下に維持しながら、70℃以上の温度に保持し、その後プロテアーゼで酵素分解した後、酵素を失活させ、分解液のpHを5〜6に調整することにより得られる等電点沈澱物をヘム鉄として回収あるいは酵素分解後、限外濾過法により回収した水に可溶なヘム鉄を安価に製造する方法を提供することが提案されている(特許文献4)。
【0008】
非特許文献3には、魚の心室に隣接して動脈球が存在することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3710578号公報
【特許文献2】特許第3421662号公報
【特許文献3】特許第2885686号公報
【特許文献4】特公平1−24137号公報
【非特許文献1】海洋水産エンジニアリング 2007年1月号第80〜85頁
【非特許文献2】機能性食品の開発展望;pp258−267、シーエムシー刊(東京)、1988
【非特許文献3】魚類解剖学大図鑑(図説編)186頁、平成6年2月28日緑書房発刊
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
活きしめ後に血抜きを行う作業は従来から行われていたが、塩水中に血液を流出させるなど、血液の再利用を念頭においたものではなかった。これまで、魚類から得られる血液の量は少量であることから、血抜き作業により放出される血液の回収することの動機付けもなかったが、魚血を低コストで大量に回収できるのであれば、魚血を利用したいという潜在的なニーズがあることが予想される。
また、従来の血抜き方法においては、魚から充分な量の血液を抜き取ることはできなかった。さらには、魚血を混ざりものの少ない状態で採りだし、例えば、ヘム鉄などの製剤の原料として利用することも、本発明が解決すべき課題である。
【0011】
そこで、本発明は、ブリ、カンパチ、ヒラマサ、マグロ等の大型魚であっても活きしめと血抜き作業を自動化することができ、同時に従来と比べて多量の血液を脱血可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従来のように魚に傷を付け血抜きをする方法においては、短時間で脱血を行うために、魚を塩水中に投入したり灌流液を注入したりすることが行われていた。しかしながら、このような方法によって得られた魚血をヘム鉄などの製剤の原料として利用するためには、回収・精製のための多大な労力が必要とされる。
他方、魚に傷を付け自然流血をさせれば混ざりものの少ない魚血を得られることができるが、時間がかかりすぎるし、凝固して流出がとまるという問題がある。
発明者は当初、魚の切削部に負圧を生じせしめることにより短時間で血液を吸引することを試みたが口腔内に血が溜まるなどの問題があり、吸引力を強めると血管が潰れて吸引ができないという問題に直面した。発明者は、更なる鋭意工夫の結果、口を開いて固定し、心臓のポンプ作用と負圧による吸引を併用することにより、充分な量の血液を短時間で採血することを実現し、本発明の創作をなした。
【0013】
本発明は、下記の[1]ないし[4]の魚の活きしめ採血方法を要旨とする。
[1]心機能を生かしたままの状態で魚を活きしめ採血する方法であって、魚の頭部が尾部より下方となる姿勢とする工程、魚体の側面からエラを貫通して切断刃により延髄および延髄近傍の動脈血管を切断する切断工程、魚の口を開いて固定する工程、切断箇所を含む魚の頭部を筒状の魚体収納部で覆って閉空間を構成し、当該閉空間に負圧を生ぜしめて血液を吸引収集する採血工程、を含む魚の活きしめ採血方法。
[2]上記の切断工程において、延髄近傍の動脈血管が動脈球であることを特徴とする[1]の魚の活きしめ採血方法。
[3]上記の採血工程において、8秒以上吸引収集をすることを特徴とする[1]または2の魚の活きしめ採血方法。
[4]上記の魚が、ブリ、カンパチ、サケ、マグロ、カツオを含む紡錘型の魚であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかの魚の活きしめ採血方法。
【0014】
また、本発明は、下記の[5]の魚血および[6]の魚を要旨とする。
[5][1]ないし[4]のいずれかの魚の活きしめ採血方法により得られた魚血。
[6][1]ないし[4]のいずれかの魚の活きしめ採血方法により活きしめ採血された魚。
【0015】
本発明は、下記の[7]ないし[13]の魚の活きしめ採血装置を要旨とする。
[7]魚が投入される開口および吸引口を有し、少なくとも魚の頭部を覆う筒状の魚体収納部と、魚体収納部に収納された魚体の側面に切断刃を入刀して動脈球と延髄および延髄近傍の動脈血管を切断する切断装置と、魚体を押さえつける押部材を有する押さえ手段と、魚体収納部の吸引口と連通する採血装置とを備えた魚の活きしめ採血装置であって、魚体収納部が、開口が上方に位置するように倒立する第一位置と開口が下方に位置するように傾倒する第二位置を有し、第一位置において切断および採血をし、第二位置において採血後の魚を排出することを特徴とする魚の活きしめ採血装置。
[8]魚体収納部内の魚の胴部を押さえる押さえ手段を備えることを特徴とする[7]の魚の活きしめ採血装置。
[9]投入された魚を滑落させる定常位置および下方に傾動して魚体を落下させる落下位置を有する可動板と、可動板上を滑落する魚体を所定の位置で駐止させる魚体駐止具と、駐止された魚体を可動板に対して魚体を押さえつける押さえ手段と、駐止された魚体の側面に切断刃を入刀して延髄および延髄近傍の動脈血管を切断する切断装置とを含んで構成されるしめ部;魚体が投入される開口および吸引口を有し、少なくとも魚の頭部を覆う筒状の、複数の魚体収納部と、魚体収納部の位置を投入位置、採血位置、排出位置の順に切り替える位置切替機構とを含んで構成される採血部;魚体収納部の吸引口と連通する採血装置を備える魚の活きしめ採血装置であって、魚体収納部の投入位置において、可動板上からしめられた魚が、開口が上方に位置するように倒立した魚体収納部に投入され、魚体収納部の採血位置において、魚体収納部内の魚から採血をし、魚体収納部の排出位置において、魚体収納部が傾倒されて内部の魚を排出することを特徴とする魚の活きしめ採血装置。
[10]魚体収納部の内径に、魚の口を開いて固定する口角当接部材を設けたことを特徴とする[7]ないし[9]のいずれかの魚の活きしめ採血装置。
[11]切断刃の刃先が、V字形であることを特徴とする[7]ないし[10]のいずれかの魚の活きしめ採血装置。
[12]魚体の長さ方向に沿って切断刃の位置を調節可能なことを特徴とする[7]ないし[11]のいずれかの魚の活きしめ採血装置。
[13]上記の魚が、紡錘型の魚であることを特徴とする[7]ないし[12]のいずれかの魚の活きしめ採血装置。
【0016】
また、本発明は、下記の[14]の魚血および[15]の魚を要旨とする。
[14][7]ないし[13]のいずれかの魚の活きしめ採血装置を用いて得られた魚血。
[15][7]ないし[13]のいずれかの魚の活きしめ採血装置を用いて活きしめ採血された魚。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、活魚の活きしめと脱血処理を高速かつ安全に行うことができる。
また、減圧吸引により魚体から大量の血抜きを行うことで、血の残量が少ない優れた魚を提供することが可能となる。
さらには、高純度の魚血を汚染が少ない状態で得られるので、例えばヘム鉄などの製剤原料として優れた原料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態を、ブリなどの紡錘型の養殖魚の活きしめ採血装置の例で説明する。
本発明の魚の活きしめ採血装置は、魚が投入される開口および吸引口を有し、少なくとも魚の頭部を覆う筒状の魚体収納部と、魚体収納部に収納された魚体の動脈球と対向する位置に設けられた切断刃を魚体の側面から入刀して動脈球と延髄を切断する切断装置と、魚体を押さえつける押部材を有する押さえ手段と、魚体収納部の吸引口と連通する採血装置と、を主要な構成要素とする。魚体収納部は、開口が吸引口より上方に位置する第一位置と開口が下方に位置するように傾倒する第二位置を有し、第一位置において切断および採血をし、第二位置において採血後の魚を排出する。
【0019】
魚体収納部の内部形状は、魚体を収容するのに十分な大きさを有すればよいが、魚の活動を制限するためには魚体と内壁の間には余裕を設けることは好ましくない。したがって、捕獲時期における平均的な魚の大きさに合わせて魚体収納部を複数作製し、捕獲時期に応じて異なるサイズのものを着脱して使用することが好ましい。
また、魚体収納部の内部形状は、魚体とできるだけ一致させることが好適であり、例えば周方向(水平方向)の断面形状を楕円形状とし、周方向と直交する方向(鉛直方向)の断面を円錐台形状ないし漏斗形状とすることが開示される。そうすることにより魚体収納部内で魚が反転したり飛び出したりすることを確実に防ぐことができる。たとえ、養殖魚であっても魚体の大きさには個体差があるため、可動の部材により魚体を押さえつけ、或いは挟持する押さえ手段を設けることが好ましい。押さえ手段が進入する窓を魚体収納部に設けてもよい。
魚体収納部は、魚体全体を収納する必要はなく、魚体収納部の開口から魚体の半分以上が露出していてもよい。特に魚の延髄を切断してから魚体収納部に収納する場合には、魚の運動を抑止する必要はない。むしろ、魚体収納部を傾倒して魚を排出するためには、魚体収納部は必要以上に深くしない方がよい。他方で、吸引採血を行うためには頭部を覆う必要があり、切断箇所も含めて頭部を覆うことが好ましく、エラも含めて頭部を覆うことがより好ましい。
【0020】
本発明の活きしめ採血装置への魚の投入は人手で上方から投入してもよいし、受入槽からシューターを用いてもよい。ここで、魚体収納部には、魚体の側面が切断刃と当接する姿勢で魚を収納する必要があることに留意すべきであるが、魚の投入は、左右の側面のいずれかが上面となるように行えばよい。ブリのような紡錘型の魚は、魚体の左側面が上面となる場合と右側面が上面となる場合で動脈球の幅方向(長さ方向と直交する方向)の位置はそれほど変わらないからである。
【0021】
本実施の形態では、魚体収納部に設けた窓に切断刃を進入させ、切断刃により魚の延髄および延髄近傍の心臓よりも口先側の動脈血管を切断する。延髄を切断することにより全身の動きを停止させて魚が苦悶することを防止し、苦悶による筋肉中のATPの消費を最小限に抑えることができる。この目的を実現するためには延髄が切断されればよく、延髄よりも固い脊髄骨は完全に切断しなくともよい。心臓よりも口先側の動脈血管を切断することの技術的意義は、心臓のポンプ作用により血液を効率よく体外に排出することにあり、好ましくは動脈球を切断する。すなわち、延髄ないし脊髄が切断されてもしばらくは心機能が生きており、切断された血管の断面から血液が送出され続ける。本発明では、活きしめられた魚が即座に塩水が貯留された船倉に投入される訳ではないため、吸引採血の間も心機能は損なわれない。
魚体の大きさに応じて最適な箇所を切るように、切断刃の位置を上下および/または左右に可動に構成するのが好ましく、切断刃も魚体の大きさに応じて複数のサイズのものを作製しておくのが好ましい。
切断刃の刃先を上面から見た形状がV字形ないしU字形になるよう形成するのが好ましく、より好ましくはV字形に形成する(V字形ないしU字形の頂部が尾側となるように配置する。)。固い脊椎骨を刃の谷の部分に誘導して脊椎骨の近くの腹の深い部分に位置する動脈球を確実に切断するためであり、そのような観点からは特許文献2に開示されるようなカーブが緩やかな弓なり状は好ましくない。
また、切断刃の開放した側面の形状もV字形になるよう形成するのが好ましい。
【0022】
本発明の装置で特徴的なのは、活きしめ後に吸引採血を行う点にある。ここで、重要なのは、魚の口を開いたままで吸引を行うことである。倒立させた魚の口が閉じた状態で吸引を行うと、動脈血管の切断面に直接に吸引力を作用させることができず、また口腔内に魚血が溜まってしまうからである。延髄切断により即殺された魚は、そのままでは口を閉めたままの状態となるため、本発明では口角近傍62を押圧することで活魚の口を開き、そのまま固定している(図4参照)。
吸引装置による吸引力は、魚の血管ないしは心臓が潰れない程度の吸引力を作用させる必要があり、そのため充分な量の血液を採血するためには数秒を超える時間吸引を行うことが必要であり、例えば吸引時間が8秒以上であることが好ましい。ここで、吸引は1箇所で行ってもよいし、複数箇所で順次行ってもよいが、複数箇所で行う場合には各箇所の合計時間が8秒以上となるように構成することが好ましい。
【0023】
以上に説明した本実施の形態の活きしめ採血装置は、ブリなどの大型魚の養殖漁業船に設置し、捕獲した養殖魚を直ちに活きしめと血液の回収処理を船上で自動化することができる。この装置によれば、大型魚の活きしめを効率よく行えると共に、魚の血液を凝固防止剤、灌流液などの不純物を含ませることなく回収することが可能である。
【0024】
以下では、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
本実施例の活魚の採血装置は、養殖されたブリを活きしめすると同時に採血するためのものである。この装置は、図1〜3に示すように構成され、活魚を収容する魚体収納部1と、切断装置4と、保持装置5と、採血装置7と、を主要な構成要素とする。最初に本実施例の装置の構成を説明し、続いて作動等を説明する。
【0026】
《構成》
魚体収納部1は、活魚が頭から投入されるホッパー形の部品であり、頭部保持部2と、胴体保持部3とから構成される。魚体収納部1は、紡錘型の魚の投入された際の保持性を高めるために水平方向の断面が楕円状となる形状をしている。魚体収納部1の内径は、処理をする魚体の平均的な大きさに合わせて作製した。魚体収納部1は、魚を投入するための第一位置(図1の符号1)と、魚を排出するための第二位置(図1の符号1’)を取り、いずれの位置にあるかは接触センサ13,14により検知される。本実施例では、魚体収納部1が第一位置で鉛直に倒立させる構成としたが、活魚の頭部が尾部より下方となるのであれば、第一位置で任意の角度をもって倒立させる構成としてよい。魚体収納部1は、洗浄等のメンテナンスが容易なように着脱可能に構成した。
【0027】
頭部保持部2は、活魚頭部を嵌め込み可能となるように下方に向けて先細りした筒状をしており、その上端に設けられた開口21と、その下端に設けられ、採血装置7と閉空間により連通された吸引口22と、一対の切断刃用窓23と、一対の口角当接部材25とを有する。一対の切断刃用窓23は、切断刃41が進入するための窓で、切断刃41の上下方向の位置を調節可能なように、上下方向に幅をもって形成されている。口角当接部材(スペーサ)25は、倒立した活魚の口角部分に当接し、倒立した活魚を支持するための部材であり、例えば弾性部材や金属により構成される。活魚の自重により口角部分を押圧することで活魚の口を開かせる作用をする(図5参照)。これにより、口から流出した血が吸引時に活魚の口腔内部に溜まることを防ぐことができる。発明者は当初、口角当接部材を環状のゴム部材により構成したがうまく口を開かなかったため、対向する一対のゴム部材を口角62の位置に配置する構成とした。なお、一対の口角当接部材25の位置をねじ部材等により調節可能に構成してもよい。
【0028】
胴体保持部3は、頭部保持部2の部位であり、側周面を切り欠いて側部開口31,32が形成されている。側部開口31,32は、後述する一対の押部材33,34が頭部保持部2内に進入するための通路となる。また、側部開口31,32は、魚体のえらが覆い隠される側周面の深さを確保できるように設けられている。側部開口31,32は、全方向に枠のある窓の形状とするのではなく、排出方向の枠が開放された形状(例えばコの字形状)とするのが好ましい。排出時にエラが引っかかるのを防止するためである。
【0029】
切断装置4は、あらかじめ定められた位置で切断刃41を水平方向に進退自在に高速移動させることができ、これにより魚体の心臓よりも口先側の動脈血管を切断する。切断刃41は、魚体と当接する刃の部分が図2に示すようにV字形になっており、また切断刃41の本体もV字形の頂部が上方になるよう折り曲げて構成されている(図1の窓23の形状)。切断刃41の進退移動距離(ストローク)は調節自在であり、最伸長時には遠い方の窓23に切断刃41を到達させることもできる。切断装置4は、上下方向に(魚体の長さ方向に)切断刃41の位置を調節可能に構成されている。これは魚体の大きさに応じて最適な切断箇所が異なるためである。本実施例では、ブリの動脈球を切断できるように、口先から例えば100〜140mmの間に切断刃41が位置するよう調節可能としている。最適な切断位置の詳細については後述する。
【0030】
押さえ手段5は、魚体収納部1に投入された活魚の胴部を狭着する一対の押部材33,34と、押部材33,34を進退動するエアシリンダ35,36とを有する。押部材33,34は、魚体に損傷を与えないように弾性をもって構成することが好ましく、本実施例では弾性体を魚体側面のカーブに沿って湾曲させた2枚の金属板で狭着する構成とした。また、押部材33,34は、回動軸37,38を介してエアシリンダ35,36と接続されているため、魚体の大きさに個体差があっても対応することが可能となっている。
【0031】
採血装置7は、吸引装置(図示せず)により頭部保持部2内に負圧(例えば、0.024MPa)を生ぜしめ、魚体から流出する血液の吸引を行うものである。パイプ71を通過する血液は、空気に触れた瞬間固まってゼリー状となり、その状態で採血タンク72に収納され、空気のみが吸気用流路73を介して吸入される。本実施例では採血量と処理効率の観点から吸引時間を12秒間とした。
【0032】
《作動》
エアシリンダ16は伸長し、エアシリンダ15は収縮状態となって、魚体収納部1が第一位置(図1の符号1)に配置される。この状態で、捕獲された活魚を頭部を下にして開口21から投入すると、窓23,23の位置に設けられた魚体検知センサ9(図示せず)が魚体の投入を検知し、これにより押部材33,34が進出して魚体の胴部を挟持して、その運動を抑止させる。一定時間経過後、エアシリンダ42が作動することで切断刃41が進出され、切断刃41が動脈球を切断するとともに延髄を切断してブリが即殺されることで活きしめが完了する。続いて、採血装置7が作動して負圧状態で12秒間、脱血(採血)が行われる。この際、ブリの口角62が口角当接部材25により押圧され、口は開いたままの状態である。採血が終わるとエアシリンダ15が伸長し、エアシリンダ16が伸縮した状態となり、魚体収納部1が第二位置(図1の符号1’)に配置され、処理後の魚体6が排出される。第二位置では吸引口22とパイプ71との連通は機械的に遮断される。
【0033】
《切断位置および切断刃の形状》
本実施例では、水平方向往復動する切断刃41を魚体のエラにほぼ直角に当て、そのままエラを貫通して動脈球を切断するとともに延髄を切断する4〜5kgクラスのブリの場合、動脈球の大きさは2cm前後あるため、切断対象とすることは比較的容易である。もっとも、養殖魚の成長に応じて、口先からの動脈球の位置が変わるため、切断刃41の高さ方向の位置は魚体の口先から例えば100〜140mmの間で調節可能に構成してある。例えば、約4kgのブリの場合口先から120〜125mmの間に調節するのがよく、約5.5kgのブリの場合口先から125〜130mmの間に調節するのがよい。
切断刃41を魚体の側面にほぼ直角に当てるのは、背側からは太くて頑強な脊椎骨があるため動脈球を的確に切断することができず、また腹側から切断すると商品価値のあるカマの部分に傷を付けることとなるためである。そこで本実施例では、動脈球はエラの裏側に位置するため、商品価値の無いエラに切断刃41を貫通させて動脈球を切断することとした。
切断刃41の刃先は、魚体に当接する部分の上面から見た形状がV字形に形成されている。このような切断刃41により切断された魚体6の刃進入面も図4に示すようにV字形状となる。切断刃41の幅(V字の両端を結んだ長さ)は、商品価値のあるカマの部分に傷を付けない程度(例えば90〜100mm)とする必要があるが、逆に幅を狭くし過ぎると動脈球が切断されないこととなるため、魚体の大きさに応じて複数の切断刃を用意し、交換自在とすることが好ましい。切断刃41のストロークは、魚体の反対側のエラに到達する程度(例えば150mm)に設定した。動脈球を切断するとともに延髄を確実に切断するという要件を満たす必要があり、またエラの血液も採取できるからである。
以上に説明した切断刃41を口先から130mmの位置に調節し、約5.5kgのブリ数尾を本機にて処理し、解剖を行ったところ、動脈球および延髄が切断されていることを確認することができた。
【0034】
《脱血テスト》
実施例1の装置と、比較機により脱血効果を比較した。
比較機は、特許文献2に開示されるのと同様の活きしめ装置であるが、切断刃が1枚のみである点で特許文献2の装置とは相違する。比較機の切断刃は、開放した側面の形状が略U字形となっている。比較機は、吸引装置を備えておらず、塩水中に魚血を流出させることのみにより脱血を行う。
2008年9月の某日の水揚げ魚体の中から無作為に30尾を選び(連続した活きしめ処理の間に順次選別)、被験群と比較群に15尾ずつ割り当てた。ここでは、実施例1の装置で活きしめした魚体15尾は、速やかにオレンジ色の200Lタンクに入れ、比較機で活きしめした魚体15尾は、速やかにブルー色の200Lタンクに入れた。なお、各タンクにはシャーベットアイスと海水の混合物が貯留されている。
加工場にて各タンクから魚体を取り出し、10秒間水切りをしてから、魚体重を測定したところ、被験群の平均体重は3.99kgであり、比較群の平均体重は3.97kgであり、ほぼ同じであることが確認できた。
【0035】
次に、それぞれの群について、採血液および血水中の鉄含量を算出した。鉄含量の分析は「ICP発光分析法」指定で、外部機関に依頼した。
被験群につき、実施例1の装置により得られた1尾あたりの採血液の量は、75.7gであり、鉄含量は0.0201gであった。比較群につき、比較機は採血機能を有しないため、得られた採血液の量は0gであった。
また、被験群につき、「鉄濃度×液量」で血水中の鉄含量を算出したところ、鉄含量は0.12gであり、1尾あたりに換算すると鉄含量は0.0083gとなった。比較群につき、「鉄濃度×液量」で血水中の鉄含量を算出したところ、鉄含量は0.13gであり、1尾あたりに換算すると鉄含量は0.0092gとなった。被験群と比較群では、血水中の鉄濃度・鉄含量はほぼ同量であった。
被験群につき、採血液中の鉄含量と血水中の鉄含量を合算すると、1尾あたりの合計鉄含量は0.0284gとなった。比較群につき、血水中の鉄含量を算出すると、1尾あたりの合計鉄含量は0.0092gとなった。血液に含まれている鉄量が「266ppm」であるとの仮定をおき、合計鉄含量から1尾あたりの換算血液量を算出したところ、被験群では106.8gとなり、比較群では34.6gとなった。
以上の結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
《品質テスト1および2》
実施例1の装置と、比較機により処理をしたブリの品質を比較した。比較機は、前述の脱血テストで用いたものと同じである。
品質テスト1は、脱血テストとは異なる2008年9月の某日に水揚げして翌日にテスト室に到着したものを対象とし、品質テスト2は、品質テスト1とは異なる9月の某日に水揚げして翌日に前記テスト室に到着したものを対象に行った(いずれも氷蔵で輸送した後5℃で貯蔵)。
脱血部位の確認は、実施例に係る処理魚(実施例品)についてのみ行った。脱血部位の確認にはラウンドを用い、その魚体重は、品質テスト1では5.4kg、品質テスト2では4.3kgであった。品質評価には実施例品および比較機に係る処理魚(比較品)のフィレーを各々3枚ずつ用いた。
【0038】
(品質テスト1および2の方法)
前記テスト室到着日の午後に、品質テスト1では研究員12名,品質テスト2では研究員8名で刺身の官能評価を行った。官能評価は比較品を基準とした「比較評価」として行なった。
また、テクスチャーおよび遠心ドリップの評価については、品質テスト1は水揚げ翌々日、品質テスト2は水揚げ翌日(前記テスト室到着日の午後)に測定した。テクスチャーは、レオナーII(山電社製)を用いて測定した。遠心ドリップは、普通筋5gを1500rpmで20分間遠心分離して得られるドリップの肉重量比を比較した。
【0039】
(品質テスト1および2の結果)
官能評価の結果は、表2に示すとおりである。表2を見ると分かるように、実施例品の方が比較品と比べ「歯ごたえ」の点で優れていることが確認できた。ここで、他の2つの項目については顕著な差異は認められないが、逆の見方をすれば、高品質として評判の高い比較品と比べ「歯ごたえ」以外の点では同等以上の品質を保ちながら、「歯ごたえ」を改善することができたといえる。
テクスチャー評価の結果は、図9(A)に示すとおりである。同図から実施例品の方が若干硬い傾向にあることが確認できる。
遠心ドリップ評価の結果は、図9(B)に示すとおりである。同図から実施例品の方が遠心ドリップが少ない傾向にあることが確認できる。
【0040】
【表2】

【0041】
《品質テスト3》
実施例1の装置と、比較機により処理をしたブリの品質を比較した。比較機は、前述の脱血テストで用いたものと同じである。
品質テスト3は、2008年11月24日に水揚げして翌25日に前記テスト室に到着したものを対象に行った。
比較機に係る処理魚(以下、「通常区」という。) と実施例に係る処理魚 (以下、「採血区」という。) のそれぞれ6尾のラウンドを用い、各々の供試魚のしめ部位の確認を行ってから品質評価試験に供した。各試験区の魚体重は、通常区が5.95±0.21kg、採血区が5.68±0.12kgであった。
品質テスト3では、(1)刺身の官能評価と、(2)血合筋の色調変化比較を実施した。
【0042】
(1)刺身の官能評価
官能評価には前記テスト室と食品分析センターのパネル24名が参加した。評価のための提示サンプルとして、各供試魚の右半身背側から厚さ8mmの刺身15枚を調製し、パネル1人につき各試験区当たり3枚ずつ提示した。官能評価は味や匂いの好ましさについては、各々のサンプルについて評価する「絶対評価」で行なった。評価尺度としては例えば「好き、嫌いのどちらともいえない」を「0点」とし、「非常に好き」を「3点」、「非常に嫌い」を「−3点」とする7点法で行なった。
色調や硬さなどについては通常区品を基準とする「比較評価」で行なった。評価尺度としては例えば、「通常区品と同じ」評価を「0点」とし、「(うま味の強さが)非常に強い」を「3点」「(うま味の強さが)「非常に弱い」を「−3点」とする7点法で行なった。外観に関する評価項目以外は主に醤油無しで評価したが、「脂乗り」、「脂の量の好ましさ」および「総合評価」については醤油無しと醤油有りの場合で評価した。評価した項目の中で「うまみの強さ」に危険率1%以下で有意差が認められた。代表的評価結果を表3に「評価値の平均値±SD」で示す。
【0043】
【表3】

* 危険率1%以下で有意差あり
【0044】
(2)血合筋の色調変化比較
血合筋の色調は、色彩色差計(ミノルタ製CR−300)を用いて、刺身調製後1時間と5℃にて24時間保存後に測定し、色差(△E*ab)を算出した。
刺身調製から1時間後の血合筋の色調に関し、各試験区間の色差(△E*ab)は0.5であり、極めて僅かに異なる程度であった(下記表4参照)。また、各試験区とも5℃下、24時間保存後に同程度の色調変化を呈しており、刺身調製1時間後の血合筋の色調を基準としたときの24時間後の色差(△E*ab)は通常区で5.7、採血区で6.0であった(下記表4参照)。
【0045】
【表4】

【0046】
以上のように、実施例1の活きしめ採血装置によれば、比較機と比べ約3倍量の血液を魚体から抜き取り可能であることが確認できた。また、本実施例の装置は、魚体収納部が倒立する構造上のため小型であり、小型の漁船に搭載することも可能である(例えば図3の幅は約1.4m、高さは約1.5m)。また、本実施例の装置により活きしめ採血処理をしたブリに官能評価を行ったところ、従来装置により活きしめ処理をしたブリと比べ、少なくとも、「歯ごたえ」および「うまみの強さ」において特に優れていることが確認できた。
【実施例2】
【0047】
実施例2の装置は、6尾の魚(例えばブリ)を同時に収納することのできる活きしめ採血装置である。
本実施例の装置では、しめ工程が行われるしめ部203と採血工程(脱血工程)が行われる採血部204とが別途に設けられている。最初に本実施例の装置の構成を説明し、続いて作動等を説明する。
【0048】
《構成》
しめ部203は、定常位置および排出位置を有する可動板231と、可動板上の魚を押さえつける押さえ板232と、魚の頭部を受け入れて駐止する魚体駐止具233と、魚体検知センサ234と、切断刃235を有する切断装置とを備える。
可動板231は、魚体206の投入時および活きしめ時は伸長したエアシリンダ(図示せず)により定常位置にあり、魚体206を排出する時はエアシリンダの収縮により下方に傾動して排出位置となる。可動板231に隣接する両側面には図示しないガイド板が設けられており、可動板231上を滑落する魚体206を魚体駐止具233に案内する。
押さえ板232は魚体側面のカーブに沿って湾曲した押さえ面を有し、投入時は収縮したエアシリンダにより上方の待機位置にあり、活きしめ時はエアシリンダの伸長により下方に魚体206を押さえつける。なお、本実施例では押さえ手段を上下方向のみから挟持する構成としているが、左右方向からも挟持する構成としてもよい。
魚体中駐止具233は、傾斜した可動板231上を滑落する魚体206を駐止させる。魚体検知234は、魚体206が魚体中駐止具233に到達ことを検知する。切断刃235は、実施例1と同じV字形状の刃先を有し、可動板231と対向して設けられており、エアシリンダにより進出動して魚体の所望の箇所を切断する。
【0049】
採血部204は、魚体の頭部を収納する6つの魚体収納部241と、魚体収納部241を所定の角度をもって間欠回転させる回転機構242と、所定の位置にある複数の魚体収納部241に負圧を生ぜしめる負圧室243とを備える。
魚体収納部241は、一対の口角当接部材を有する点は実施例1と同様であるが、胴体保持部に相当する部位がなく、頭部保持部に相当する部位のみを備える点で実施例1と相違する。胴体保持部が不要なのは、既にしめ部203で魚は延髄を切断され運動が抑止されているからである。
魚体収納部241は、採血工程中、6つの位置をとる。すなわち、図7に示すように、最初に投入位置241Aをとり、次に第一の採血位置241B、第二の採血位置241C、第三の採血位置241D、第四の採血位置241Eを順番に取り、最後に排出位置241Fをとる。投入位置241Aでは、斜め上方から可動板231上を滑り落ちる魚体206が投入される(図6参照)。第一ないし第四の採血位置B〜Eでは、各3秒間(計12秒間)、負圧による採血が行われる。排出位置においては、魚体収納部241が傾倒し(図6の符号241’)、魚体206が排出される。
回転機構242は、6つの魚体収納部241を60度ずつ回転させるための駆動系である。3秒間隔で回転して6つの魚体収納部241の位置変えを行う。なお、回転機構242を間欠式ではなく、スムーズに連続して魚体収納部241を回転させるように構成してもよい。
負圧室243は、常時負圧とされており、採血位置241B〜241Eにある魚体収納部と流体的に連通される。投入位置241Aおよび排出位置241Fでは、負圧室243と魚体収納部241との連通は機械的に遮断される。
【0050】
採血装置207は、吸引装置(図示せず)により魚体収納部241内に負圧を生ぜしめ、魚体から流出する血液の吸引を行う。パイプ271を通過する血液は、空気に触れた瞬間固まってゼリー状となり、その状態で採血タンク272に収納され、空気のみが吸気用流路273を介して吸入される。吸気用流路273は、図示しない複数台の吸引装置に接続される。なお、1台の吸引装置に複数の活きしめ採血装置を接続してもよいが、複数台の吸引装置を設けて耐障害性を高めることが好ましい。
【0051】
図8は、本実施例の活きしめ採血装置を船の上に4台載置した状態を示すものである。各活きしめ採血装置からは、活きしめ工程および採血工程を経た活魚が、3秒ごとに1尾排出される。好ましくは、活きしめ採血装置の排出位置にシューターを設けて、自動で船倉282に処理後の活魚が投入されるようにする(図8では不図示)。
【0052】
《作動》
大量の魚の中から1尾ずつしめ部203へ人手で投入する。この際、魚体206の側面が上下方向に向いている必要があるが、左側面が上でもよいし右側面が上となってもよい。可動板231上を滑落する魚体206が魚体駐止具233で駐止されると、魚体検知センサ234が魚体の存在を知らせる信号を発信する。これにより、収縮したエアシリンダにより上方の待機位置にあった押さえ板232が、エアシリンダの伸長により可動板上の魚を押さえつけ、魚体は側面が上下方向を向いた状態で制止される。続いて切断刃241が下降し、動脈球を切断するとともに延髄を切断する。続いて可動板231が下方に傾倒した排出位置となり、魚体収納部241Aに活きしめされた魚体206が投入される。投入時に魚体収納部は241Aにあり、順番に241B→241C→241D→241E→241Fの位置をとる。241B〜Eの位置では、各3秒間、負圧吸引による採血が行われる。そして、241Fの位置で魚体収納部が傾倒され、魚体206が外部へ排出される。
【0053】
以上の構成を備える本実施例の活きしめ採血装置によれば、大量の活魚を高速で活きしめ、脱血することができる。また、魚の血液を大量に高純度で収集することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、任意の魚に適用可能であるが、体長が概ね均一な紡錘型(fusiform)の魚の大量処理において格別の効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1に係る魚の活きしめ採血装置の要部側面図である。
【図2】実施例1に係る魚の活きしめ採血装置の上面図である。
【図3】実施例1に係る魚の活きしめ採血装置の魚体(尾叉長70cm)投入時の正面図である。
【図4】活魚の切断部位等を説明するための図面である。
【図5】実施例1に係る魚体収納部の上面図である。
【図6】実施例2に係る魚の活きしめ採血装置の側面図である。
【図7】実施例2に係る魚の活きしめ採血装置の上面図である。
【図8】実施例2に係る魚の活きしめ採血装置を4台配置した際の上面図である。
【図9】(A)実施例1に係る魚のテクスチァーのテスト結果、(B)実施例1に係る魚の遠心ドリップのテスト結果である。
【符号の説明】
【0056】
1 魚体収納部
1’ 魚体収納部(第二位置)
2 頭部保持部
3 胴体保持部
4 切断装置
5 押さえ手段(挟持装置)
6 魚体
7 採血装置
8 制御ボックス(制御装置)
9 魚体検知センサ(光電センサ)
11 回動軸
12 受け部
13 接触センサ(第一位置)
14 接触センサ(第二位置)
15,16 エアシリンダ(魚体収納部用)
21 開口
22 吸引口
23 切断刃用窓
25 口角当接部材(スペーサ)
31,32 側部開口
33,34 押部材
35,36 エアシリンダ(押部材用)
37,38 回動軸
41 切断刃
42 エアシリンダ(切断刃用)
61 切り傷
62 口角近傍
71 パイプ
72 採血タンク
73 吸気用流路
203 しめ部
204 採血部
231 可動板
232 押さえ板
233 魚体駐止具
234 魚体検知センサ
235 切断刃
241 頭部保持部
241’ 頭部保持部(第二位置)
241A 魚体収納部(第一採血位置)
241B 魚体収納部(第二採血位置)
241C 魚体収納部(第三採血位置)
241D 魚体収納部(第四採血位置)
241E 魚体収納部(第五採血位置)
241F 魚体収納部(第六採血位置)
242 位置切替機構(回転機構)
243 負圧室
207 採血装置(気液分離装置)
271 パイプ
272 採血タンク
273 吸気用流路
281 受入槽
282 船倉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心機能を生かしたままの状態で魚を活きしめ採血する方法であって、
魚の頭部が尾部より下方となる姿勢とする工程、
魚体の側面からエラを貫通して切断刃により延髄および延髄近傍の動脈血管を切断する切断工程、
魚の口を開いて固定する工程、
切断箇所を含む魚の頭部を筒状の魚体収納部で覆って閉空間を構成し、当該閉空間に負圧を生ぜしめて血液を吸引収集する採血工程、
を含む魚の活きしめ採血方法。
【請求項2】
上記の切断工程において、延髄近傍の動脈血管が動脈球であることを特徴とする請求項1の魚の活きしめ採血方法。
【請求項3】
上記の採血工程において、8秒以上吸引収集をすることを特徴とする請求項1または2の魚の活きしめ採血方法。
【請求項4】
上記の魚が、ブリ、カンパチ、サケ、マグロ、カツオを含む紡錘型の魚であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの魚の活きしめ採血方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの魚の活きしめ採血方法により得られた魚血。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかの魚の活きしめ採血方法により活きしめ採血された魚。
【請求項7】
魚が投入される開口および吸引口を有し、少なくとも魚の頭部を覆う筒状の魚体収納部と、魚体収納部に収納された魚体の側面に切断刃を入刀して動脈球と延髄および延髄近傍の動脈血管を切断する切断装置と、魚体を押さえつける押部材を有する押さえ手段と、魚体収納部の吸引口と連通する採血装置と、を備えた魚の活きしめ採血装置であって、
魚体収納部が、開口が上方に位置するように倒立する第一位置と開口が下方に位置するように傾倒する第二位置を有し、第一位置において切断および採血をし、第二位置において採血後の魚を排出することを特徴とする魚の活きしめ採血装置。
【請求項8】
魚体収納部内の魚の胴部を押さえる押さえ手段を備えることを特徴とする請求項7の魚の活きしめ採血装置。
【請求項9】
投入された魚を滑落させる定常位置および下方に傾動して魚体を落下させる落下位置を有する可動板と、可動板上を滑落する魚体を所定の位置で駐止させる魚体駐止具と、駐止された魚体を可動板に対して魚体を押さえつける押さえ手段と、駐止された魚体の側面に切断刃を入刀して延髄および延髄近傍の動脈血管を切断する切断装置と、を含んで構成されるしめ部(203);
魚体が投入される開口および吸引口を有し、少なくとも魚の頭部を覆う筒状の、複数の魚体収納部と、魚体収納部の位置を投入位置、採血位置、排出位置の順に切り替える位置切替機構と、を含んで構成される採血部(204);
魚体収納部の吸引口と連通する採血装置;
を備える魚の活きしめ採血装置であって、
魚体収納部の投入位置において、可動板上からしめられた魚が、開口が上方に位置するように倒立した魚体収納部に投入され、
魚体収納部の採血位置において、魚体収納部内の魚から採血をし、
魚体収納部の排出位置において、魚体収納部が傾倒されて内部の魚を排出することを特徴とする魚の活きしめ採血装置。
【請求項10】
魚体収納部の内径に、魚の口を開いて固定する口角当接部材を設けたことを特徴とする請求項7ないし9のいずれかの魚の活きしめ採血装置。
【請求項11】
切断刃の刃先が、V字形であることを特徴とする請求項7ないし10のいずれかの魚の活きしめ採血装置。
【請求項12】
魚体の長さ方向に沿って切断刃の位置を調節可能なことを特徴とする請求項7ないし11のいずれかの魚の活きしめ採血装置。
【請求項13】
上記の魚が、紡錘型の魚であることを特徴とする請求項7ないし12のいずれかの魚の活きしめ採血装置。
【請求項14】
請求項7ないし13のいずれかの魚の活きしめ採血装置を用いて得られた魚血。
【請求項15】
請求項7ないし13のいずれかの魚の活きしめ採血装置を用いて活きしめ採血された魚。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−246495(P2010−246495A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101753(P2009−101753)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000222794)東洋水産機械株式会社 (8)
【Fターム(参考)】