説明

魚節

【課題】少なくとも従来製法によって製造した魚節以上の肉質香を有する、肉質香の強い魚節を工業的に安定かつ簡便に提供する。
【解決手段】フラネオールを45ppb以上且つメチオナールを30ppb以上、を魚節の3%だし中に含有させる。当該方法は、熱風又は遠赤外線を用いた高温加熱を煮熟工程後、燻付け工程後、かつ、乾燥工程前に高温加熱を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉質香の高い魚節に関し、より詳細には、短時間で大量に肉質香が高い魚節を製造する方法、及び、当該魚節若しくは風味原料(当該魚節の加工品)を配合した調味料又は食品に関する。さらにまた、本発明は、魚節の焙乾及び加熱装置、並びに、魚節の肉質香判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鰹節の香りの特徴の一つに肉質香がある。現在、鰹節の製造方法における工程の一部である「焙乾」では、大量生産・省力化が可能な焼津式、急造庫式が主流であるが、大量生産であるが故に出来上がりの鰹節の肉質香のバラつきが大きいのが現状である。
【0003】
一方、「焙乾」の伝統製法である手火山式は職人が鰹節の状態を観察しながら手作業で作製するため、前者に比べると比較的肉質香が強い鰹節を均一に作製することが可能である。しかし、バラつきを完全に無くすことは困難であり、さらに、手作業であるが故に品質が安定していないものも多かった。また、直火で燻す方式である手火山式で製造する鰹節は職人が小さい火床で、長時間をかけて製造するため、大量生産が不可能であり、かつ労力がかかる。
【0004】
焙乾工程においては鰹の肉の均一な乾燥を図るため、いわゆる「あん蒸」と呼ばれる工程が取られている。しかし、このあん蒸工程が長期間におよぶため、焙乾工程全体として、通常2週間〜1ヶ月を要することがある。
【0005】
上記のように鰹節の製造には時間がかかる。鰹節の製造時間を短縮するために、煮熟後の鰹を適度な大きさのフレーク状にし、バランスの取れた香りの節を短時間で製造する方法がある(例えば、特許文献1参照)。さらに、乾燥と燻付けを分けて考え、適当な条件で燻付けを行った後に乾燥を行い、製造時間を短縮する鰹節の焙乾方法及び装置が報告されている。(例えば、特許文献2参照)
【0006】
魚節の焙乾工程において、乾燥、燻付けを独立して行うことで、製造時間を短縮し、かつ、燻煙の質を制御する技術が報告されている。なお、この技術は食品に適宜、好ましい燻煙風味を付与できるだけでなく、ベンツピレン等の有害物質を低減することも可能である。(例えば、特許文献4参照)
【0007】
魚節の製造工程において、乾燥時間の短縮のために遠赤外線加熱の利用を行ったものもある。(例えば、特許文献3参照)但し、遠赤外線加熱により肉質香を向上させたという報告はない。
【0008】
一方で、鰹節の肉質香に関する成分分析を行っている例はあるものの、その定量や肉質香に寄与する成分に関する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−58003号公報
【特許文献2】特開平7−50986号公報
【特許文献3】特開2002−58420号公報
【特許文献4】WO2007/142086号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、従来の製法では肉質香が強い節を大量に安定して生産することは困難であった。また、強い肉質香に寄与する香気成分も分かっていなかった。従って、本発明の目的は、上記の問題点に鑑み、少なくとも従来製法によって製造した魚節以上の肉質香を有する、肉質香の強い魚節を工業的に安定かつ簡便に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、これらの課題を解決すべく、手火山式製法による肉質香の強い鰹節の香気成分解明に向けて鋭意研究した結果、肉質香が強い鰹節にはメチオナールとフラネオールが多く含まれていることを発見し、これらメチオナールとフラネオールが好ましい肉質香の成分であることを見出した。
【0012】
また、更に鋭意研究の結果、メチオナールとフラネオールが3%だし中にある一定の濃度で含まれることにより、より肉質香が増強されることを見出すと共に、従来の魚節の製法における煮熟工程後に施される焙乾工程を燻付け工程と乾燥工程とに確実に分離し、燻付け工程後、かつ、乾燥工程前に、熱風又は遠赤外線を用いた高温加熱を行うことで、上記両成分が確実に増量し、より強い肉質香を持つ魚節を工業的に安定かつ簡便に製造出来ることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
すなわち、本発明の一つの視点において、魚節の工業的製造方法は、フラネオールを45ppb以上且つメチオナールを30ppb以上、好ましくはフラネオールを75ppb以上且つメチオナールを50ppb以上、より好ましくはフラネオールを75ppb以上且つメチオナールを60ppb以上を、魚節の3%だし中に含有させることを特徴とする。この範囲に包含される含有量のフラネオール及びメチオナールを魚節の3%だし中に含むことにより、肉質香が強い魚節を提供することができる。具体的には、熱風又は遠赤外線を用いた高温加熱を煮熟工程後に施すことによって、良好な肉質香を醸し出す成分であるメチオナール及びフラネオールを増強することができ、特に、燻付け工程と乾燥工程とに確実に分離し、燻付け工程後、かつ、乾燥工程前に熱風又は遠赤外線を用いた高温加熱を行うことが好ましい。熱風加熱は、熱風温度が80℃〜160℃の温度条件で10分〜150分であることが好ましい。遠赤外線加熱は、遠赤外線温度が80℃〜150℃の温度条件で48時間未満であることが好ましく、さらには、120℃〜150℃の温度条件で、10分〜180分行うことがより好ましい。
【0014】
本発明の別の視点によると、本発明は、上記方法により製造された鰹節などの魚節である。また、更に別の視点によると、本発明は、当該魚節を含む風味原料(当該魚節の加工品)、或いは、当該魚節若しくは風味原料を配合した調味料又は食品であり、例えば、めんつゆ、抽出だし、エキス等の調味料、節配合の調味料、スープ、レトルト食品、冷凍食品等の食品を提供することができる。
【0015】
本発明のまた別の視点によると、本発明の魚節の焙乾及び高温加熱装置(ないしシステム)は、少なくとも、燻煙を発生させて生利節に燻付けする手段と、熱風加熱又は遠赤外線加熱により該生利節を高温加熱処理する手段と、燻付けないし高温加熱された生利節を乾燥させる手段とを備えることを特徴とする。本発明の装置において、燻付け、高温加熱及び乾燥工程の各条件、具体的には、各工程の温度及び処理時間等を設定することで、これらの製造工程を機械的に制御することができ、それによって魚節の短時間で効率的な工業的製造方法が確立され、肉質香の強い魚節を安定供給し、簡便に大量生産ができる。また、本発明の装置では、特に、高温加熱の条件を適宜設定することで、消費者のニーズに合致した肉質香の魚節を提供することができる。
【0016】
また、本発明の更なる別の視点によると、本発明は、魚節の肉質香の判定方法であり、魚節の3%だし中に含有するメチオナール及びフラネオールの含量を判定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、肉質香が高い魚節の提供が工業的製法により可能であり、魚節の3%だし中に、肉質香に寄与する好ましい含有量のメチオナール及びフラネオールを含むことができる魚節を提供できる。しかも、本発明では肉質香と燻香のバランスを自由自在に変化させることが可能であり、幅広い消費者のニーズに合わせた魚節の開発、提供が可能である。また、本発明の肉質香が高い魚節は、従来に比して、工業的に製造することが可能であり、少なくとも、燻付け、高温加熱及び乾燥工程を一つの装置内(ないしシステム上)で施すことができる。当該装置を採用することによって、燻付け、高温加熱及び乾燥工程の各条件、例えば、温度及び時間等を適宜設定することで、これらの各工程を制御することができ、当該装置内での各工程作業が自動化できるために、煮熟後の魚節の製造工程が効率的かつ省力化され、さらに短時間で魚節の大量生産が可能である。また、本発明では、メチオナール及びフラネオールの含量の高い、良好な肉質香を有する鰹節などの魚節、当該魚節を含む風味原料(当該魚節の加工品)、或いは、当該魚節若しくは風味原料を配合した調味料又は食品を提供することができ、例えば、抽出だし、エキス等の調味料、節配合の調味料、スープ、レトルト食品、冷凍食品等の食品として提供することができる。さらに本発明では、魚節の肉質香の判定方法を提供することができ、魚節の3%だし中に含有するメチオナール及びフラネオールの含量を判定して、魚節の肉質香を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1における肉質香の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明による肉質香の高い魚節について、高温加熱手段としての熱風加熱又は遠赤外線加熱を用いた鰹節の製造法について紹介するが、本発明は以下の製造法に何ら制限されるものではなく、また鰹節の他に宗田鰹節、鯖節、まぐろ節、いわし節及びあじ節など他の魚節にも適用できることは言うまでもない。
【0020】
なお、本明細書で定義するところの魚節の「工業的製造方法」とは、魚節の製造方法の煮熟後の工程において、従来の手火山式などの熟練職人の経験に頼るような魚節の状態を観察しながら手作業で作製するような製造方法ではなく、煮熟後の工程の条件(例えば、温度及び時間等)を本発明の特定の装置(ないしシステム)に適宜設定することにより、その工程を制御し自動化できることで煮熟後の工程が効率的かつ省力化され、短時間で大量生産できる製造方法である。つまり、非効率な人的作業(例えば、手火山式での手作業)の介入を避け、煮熟後の工程に機械的な自動化工程を施して魚節を製造する方法である。本発明においては、具体的に、煮熟後の燻付け、高温加熱及び乾燥工程の各条件(つまり、温度及び時間等)を本発明の焙乾及び高温加熱装置(ないしシステム)に設定することで、これらの各工程作業が制御可能であり、一連の工程(燻付け、高温加熱及び乾燥)を施すことができる装置内(ないしシステム上)で効率的になされる魚節の製造を行うことを意味する。但し、本発明の魚節の「工業的製造方法」において、煮熟後の工程で人的作業があっても、それは各工程間で必要不可欠な装置(ないしシステム)の操作上ないし取扱上の作業が主であり、本発明においては従来の手火山式で行うような手作業は少なく、人的作業を最小限に抑えられる。
【0021】
本発明の魚節は、フラネオールを45ppb以上且つメチオナールを30ppb以上、好ましくはフラネオールを75ppb以上且つメチオナールを50ppb以上、より好ましくはフラネオールを75ppb以上且つメチオナールを60ppb以上、を魚節の3%だし中に含有する。この範囲に包含される含有量のフラネオール及びメチオナールを魚節の3%だし中に含むことにより、肉質香が強い魚節を提供することができる。ここでいう3%だし中のフラネオール及びメチオナールの含有量とは、粉砕した鰹節を90℃で20分煮出し、最終的に100重量部の水に対して魚節が5重量部になるように調整し、そこから魚節を取り除いたものを測定し、得られた値を0.6倍し、3%だしの値として濃度換算したものである。
【0022】
本発明による魚節は、少なくとも、生の節用原料魚(例えば、カツオ)の解凍、生切り、籠立て、煮熟、燻付け及び乾燥を含む工程のうち、煮熟後の燻付けから乾燥に至る工程において、熱風又は遠赤外線による高温加熱を施すことで好ましい肉質香が強い魚節(例えば、鰹節)を安定かつ簡便な方法で大量に製造することが可能である。なお、必要に応じて、煮熟後の段階で、燻付け前に乾燥及びあん蒸を含むこともあるため、本明細書で言うところの煮熟(工程)には煮熟直後の乾燥及びあん蒸を含んでもよい。この本発明による魚節の製造工程のうち、煮熟以前の工程(即ち、解凍、生切り、籠立て、煮熟(乾燥及びあん蒸含む))は従来の手法であるため、これらの手法の概要以外は、特に詳述しない。したがって、本発明においては、煮熟後の燻付けから乾燥に至る工程で高温加熱を施すことにより、肉質香の高い魚節を製造することができるため、以下に、まず、本発明における肉質香の高い魚節を作製可能な熱風又は遠赤外線による高温加熱法について説明する。
【0023】
本発明における高温加熱を熱風により行う場合、その熱風発生方法については公知の方法を採用することができ、魚節の異風味、有害成分の原因とならなければ、熱源の種類及び熱風循環法は問わないが、温度制御が容易であるLPG、LNG等のガスを熱源とし、乾燥均一化のために並行流を交互に切り替える方法が好ましい。
【0024】
高温加熱を熱風により行う場合、その温度は、好ましくは80℃〜160℃であり、さらに好ましくは80℃〜130℃である。熱風加熱の時間は温度に依存し、例えば100℃で熱風加熱する場合は、加熱する原魚の状態にもよるが、10〜150分程度施せばよく、節用原料魚の種類、煮熟後の節用原料魚の状態及び加熱状態、又は熱風加熱に用いる装置などの様々な条件に応じて適宜選択すればよい。なお、高温加熱を熱風加熱により行う場合、当該熱風加熱にその後の乾燥を含んでもよい。
【0025】
また、本発明における高温加熱を遠赤外線により行う場合、遠赤外線発生方法については公知の方法を採用することができ、例えば、セラミックなどを加熱し遠赤外線を発生させる手法であり、発生した遠赤外線を魚にあて節用原料魚を加熱する方法を採用することができる。遠赤外線による加熱方法は、一般に市販されている遠赤外線加熱装置を用いてよい。例えば、代表的な方法として、バッチ式遠赤外線加熱、パネル式ヒーター、セラミックボールによる加熱、コンベア式の加熱などを採用する様々な遠赤外線加熱装置が市販されているが、以下に記載の本発明における遠赤外線加熱条件を満たす装置であればよく、装置の規格、仕様、形式又は機種に制限なく適宜使用することができる。
【0026】
本発明においては、燻付け、高温加熱及び乾燥の一連の工程が「工業的製造方法」に施される形態であれば、特に制限されないが、本発明を効率的に実施する上で、例えば、従来の燻付け及び乾燥を施す焙乾工程で用いる装置に、上記熱風加熱又は遠赤外線加熱装置を組み込んだ装置とすることができる。或いは、燻付け、高温加熱及び乾燥手段の操作を一体化した仕様に改良した装置とすることもできる。即ち、少なくとも、燻付け、高温加熱及び乾燥手段を備える焙乾及び高温加熱装置(ないしシステム)とすることで、より効率的かつ省力化され、さらに短時間で魚節の大量生産ができる。
【0027】
高温加熱を遠赤外線加熱により行う場合、その温度は熱源の温度を示し、例えば、上記遠赤外線加熱装置を用いる場合、その装置の熱源ヒーター温度を意味する。つまり、遠赤外線加熱の温度は遠赤外線加熱装置の加熱炉の設定温度であり、当該加熱炉内の雰囲気温度でもある。遠赤外線加熱の温度は、好ましくは、80〜150℃であり、より好ましくは120〜150℃である。80〜150℃の範囲内では、遠赤外線加熱の効果を有する。温度を上げすぎると焦げた香りが発現しやすいことから、肉質香向上の効果は見られるが、焦げた香りにマスキングされてしまい、肉質香を感じ難い傾向にある。また、遠赤外線加熱の時間は温度にも依存する。すなわち、遠赤外線加熱の時間は温度に応じて選択すればよい。例えば、遠赤外線加熱を120℃〜150℃で行う場合は、10〜180分程度で施せばよく、節用原料魚の種類、煮熟後の節用原料魚の状態及び加熱状態、又は遠赤外線加熱に用いる装置などの様々な条件に応じて適宜選択すればよい。さらにまた、遠赤外線加熱は、節用原料魚の内部温度が80℃(±2℃)以上になる加熱条件で照射することが好ましい。内部温度は、例えば、生切り工程で切断された魚片の中心部を、温度センサーなどの温度計測器によって測定することで遠赤外線加熱の温度を調節することができる。魚の内部温度が80℃(±2℃)以上になる加熱条件を測定すると、遠赤外線温度が120℃程度の場合では約25〜30分、遠赤外線温度が150℃程度の場合は約20分で内部温度は80℃に達し、この場合の遠赤外線加熱の温度は120℃〜150℃程度であり、好ましくは120℃程度である。内部温度の上限値は節用原料魚の水分値が0になるまでは100℃以上になることはなく、内部温度が100℃を超えてしまった場合にはコゲ香が発生し、好ましい魚節にならないために、遠赤外線の加熱温度に応じて加熱時間を調節すればよい。したがって、遠赤外線加熱を120℃〜150℃で行う場合は、遠赤外線の加熱時間は、好ましくは10〜60分、より好ましくは30〜50分である。また、遠赤外線加熱は、80℃〜150℃で48時間未満まで施されることができる。
【0028】
次に、本発明における高温加熱(熱風又は遠赤外線加熱)を施すタイミングを説明する。熱風又は遠赤外線による高温加熱は、例えば、鰹などの節用原料魚を煮熟した後の工程であれば特に制限されるものではないが、煮熟後の焙乾工程を燻付け工程と乾燥工程とに確実に分離し、鰹生利節に先に燻付けを行い、燻付け直後に、熱風又は遠赤外線による高温加熱を行うことが好ましい。生利に直接燻付けを行うと、煙質によっては魚節に酸味等の異味がつく恐れがあるため、燻付け前に適宜乾燥を行って良く、また高温加熱後にも含有水分量低減のために適宜乾燥を行って良い。このように、従来の手法に従い行った煮熟後に、燻付け、熱風又は遠赤外線による高温加熱、乾燥という順序で鰹節を製造すると、肉質香が高い魚節の作製が可能である。さらに、焙乾工程を確実に、燻付けと乾燥工程とに分けることにより、燻煙の量を調整することができ、肉質香発現に最小の煙を導入することが可能となる。燻煙成分は肉質香の発現を促進する一方で、肉質香をマスキングするため、燻煙成分の量を制御することも本発明にとって非常に重要な要素である。
【0029】
さらに、本発明において高温加熱を熱風又は遠赤外線で施した場合、製造時間の短縮にもつながる。従来の魚節の製造方法、例えば、鰹節の製造方法で採用している遠赤外線加熱を施す工程では、特許文献3に記載のように、乾燥の目的で、少なくとも48時間以上もの加熱時間を必要とし、長ければ96時間にも亘る加熱が必要であったが、本発明の製造方法における遠赤外線加熱を施す工程は、数時間程度の加熱でよく、上述したように、節用原料魚の内部温度が80℃(±2℃)以上になる温度条件で10〜180分の加熱で十分であり、従来の手法と比較して、格段に短縮した製造時間を達成する。また、本発明の魚節の製造方法において、遠赤外線加熱を施す工程を長時間にしても、48時間以上の加熱によってコゲ臭や劣化臭が発生するために、48時間以上の長時間の加熱は肉質香を改善することもなく、大量生産にも適していない。
【0030】
なお、本発明においては、上述したように、少なくとも、燻付け、高温加熱及び乾燥手段を備える装置(ないしシステム)を採用することで、燻付け、高温加熱及び乾燥における温度条件や時間を適宜設定することによって各工程を自動的に制御でき、効率的に煮熟後の工程を実施できる。したがって、この一連の工程では、製造時間の短縮化がなされ、効率的で大量生産に適した製造ができる。
【0031】
本発明の好ましい実施態様において、本発明による魚節は、その製造工程において、生の節用原料魚(例えば、鰹)を解凍、生切り、籠立て、煮熟(必要に応じて乾燥、あん蒸)、燻付け、熱風又は遠赤外線による高温加熱及び乾燥の順序で行うことである。製造作業を効率化するために、生切りを省略する場合もあるが、本発明の工程においては、従来の手法で用いられている、解凍、生切りを行ったほうが、より有効成分が発現しやすく、肉質香が高い魚節(例えば、鰹節)が提供できる。したがって、本発明の魚節の製造工程では、まず、魚節の製造方法の一般的な手法に従って、節用原料魚(鰹、宗田鰹、鯖、まぐろ、いわし、あじなど)を解凍し、頭、腹皮、内臓を除去して、例えば、3枚に下ろした片身をそれぞれ背側と腹側に身割りして、計4つに生切りにし、籠立てを経て、煮熟し、煮熟魚を得る。ここまでの工程を時経的に説明すると、例えば、原料魚を早朝に解凍した場合、その日の昼頃に煮熟が完了する。その後、煮熟魚は、例えば、後述するようなほぐしを施され、次いで、燻付け及び上述した熱風又は遠赤外線による高温加熱を施される。煮熟後であれば、燻煙成分の過剰付着防止や含有水分量調整等の必要に応じ、いずれの工程前後にも乾燥工程を追加してよい。また、製造フローが複数日にまたがる場合はあん蒸工程を入れてよく、次工程が燻付けの場合は、表面に浸潤した水分に燻煙が過剰付着するのを防止するため、燻付け前に乾燥を行うことが好ましい。本発明においては、煮熟後、後述のようなほぐしを行い(夕方まで)、燻付け前に乾燥及びあん蒸を施す(翌早朝まで)ことが好ましい。その後、表面に浸潤した水分を蒸発させるために再度短時間の乾燥を行った後、燻付け、高温加熱及び乾燥は、本発明の装置(ないしシステム)で夫々2時間程度施されて、燻付け開始後から約6時間後(この日の昼頃)には荒節としての本発明の魚節の製造が完了する。このように、本発明では短時間の工業的製造方法で、通常2週間〜1ヶ月を要していた手火山式と同等又はそれ以上の肉質香(メチオナールとフラネオール)を有する魚節が製造できる。
【0032】
また、本発明による製造方法では、節用原料魚を煮熟した後、この煮熟魚の肉身部分について、筋隔面が露出するように、かつ長さ4〜20cmになるようにほぐしてもよい。この“ほぐし”処理により、製造工程のスケールを小規模化でき、乾燥時間が短縮されるだけでなく、製造される魚節の香りバランスを保持しつつ香りや風味を強化することができる。これは、煮熟魚の肉身部分をほぐして魚節の表面積を大きくし、燻煙成分を多く付着させると同時に、ゼラチン質が多いといわれる筋隔面を露出させることにより、ピラジン類が多く生成することを可能にしている。したがって、煮熟魚のほぐし方としては、筋隔面を露出させるようにすることと併せて長さ4〜20cmになるようにほぐすことによって、香りのバランスを最も良い状態にさせることができる。なお、長さ4〜20cmになるようにほぐされた煮熟魚の肉身部分は、好ましくは、煮熟魚の肉身部分全体の30重量%以上であれば良く、必ずしも全ての煮熟魚の肉身部分を4〜20cmになるようにほぐさなくても良い。本発明の製造方法においては、例えば、冷凍鰹を解凍し、頭部、内臓等を除去したのち、煮熟して煮熟魚を得、これを常温下で放冷したのち、肉身部分を、長さが4〜20cmで、筋隔面が露出するようにほぐす。筋隔面を露出しやすくするためには、煮熟魚の魚体中心温度は30℃以上の状態を保持することが好ましく、この状態であれば、機械的にほぐすことも可能である。一方、煮熟魚の魚体中心温度が30℃以下になると、魚体が硬くなり、ほぐす工程で折れやすくなったり、微小な肉片が多数発生したりするので、注意が必要である。また、ほぐし後の長さが20cmを越えるくらい大きなものになると、その後の燻煙付着による燻煙臭強化の効果が弱まるため好ましくない。なお、本発明による製造方法でほぐしを行わない場合でも肉質香の強化は可能であり、熱風又は遠赤外線による高温加熱の温度と時間はほぼ同じ条件で効果を奏することが分かっている。また、ほぐしを行わなかった場合は、熱風又は遠赤外線による高温加熱後に乾燥時間が5時間程度延長される。
【0033】
また、燻付け及び乾燥は、当業者によって知られている手法であれば制限はないが、例えば、燻付け、高温加熱及び乾燥は、本発明の「工業的製造方法」(省力化や短時間化など)の観点から、同じ場所(装置内ないし同じシステム上)で行うことができるための装置を用いることが好ましい。即ち、上述したように、少なくとも、燻付け、高温加熱及び乾燥手段を備える装置(ないしシステム)であればよく、従来の燻付け及び乾燥を施す焙乾工程で用いる装置に、上記の高温加熱手段を組み込んだ装置とすることができる。燻付け及び乾燥においては、さらに、煮熟魚を上述したような適切な形状にほぐしたのち、その表面に窒素化合物を含有する動植物抽出液を付着させるような燻付けや乾燥処理を施すことで、さらにピラジン類の生成を促進させ、非常に香りのバランスの良い魚節を提供できる。一般的に、燻付けにおける燻煙の原料は、異臭を発しない植物原料であればよく、ワラ、ヤシガラ、籾殻など、様々な植物が利用可能であるが、ナラ、ブナ、クヌギ、サクラ等が魚の燻煙原料として用いられる。燻煙の発生方法は、薪、チップ、おが粉、スモークウッド、その他乾燥植物などの燻材へ着火する方法、高温の電熱コイル、電気ヒーター、鉄板などの固体及びその放射熱により燻材を加熱する方法、高温ガス、過熱水蒸気などの気体により燻材を加熱する方法、金属と燻煙を摩擦する方法などがあるが、燻材を燃焼させず、かつベンツピレン等の有害物質の発生を抑える425℃以下に制御しやすい、固体及びその放射熱により燻材を加熱する方法が好ましい。乾燥工程は、例えば、上述の高温加熱の場合と同様の熱風乾燥などを用いることができ、高周波乾燥等と組み合わせてもよい。煮熟直後のように煮熟魚の含有水分量が多い場合、乾燥時の熱風温度は、乾燥短時間化のためにはできるだけ高温であることが望ましいが、高温乾燥を続けると、煮熟した魚の表面の過乾燥が生じ、好ましくない焦げ臭が発生する。このことから、乾燥温度を高温から順次下げていくことが必要である。温度の下げ方は時間と共に連続的(経時的)に下げても良いし、段階的に下げてもよい。乾燥温度時間は120℃以上であることが好ましく、より好ましくは140℃以上であり、さらに好ましくは160℃以上の温度である。乾燥開始温度は200℃以上も可能であるが、焦げ臭が発生しやすいため、速やかに温度を下げる必要がある。熱風温度が、120℃未満であると魚の生臭さが残り、また乾燥時間が長時間になり好ましくないが、ある程度乾燥した煮熟魚を更に乾燥させる場合はこの限りでなく、乾燥温度が120℃未満の一定温度で処理することも可能である。上述したように、本発明においては、燻付け及び乾燥が高温加熱と同じ装置内(ないしシステム上)で行うことができる形態であればよく、好ましくは、少なくとも、燻付け、高温加熱及び乾燥手段を備える装置を採用することで、これら工程の温度及び時間条件を適宜設定し、効率的に各工程を制御して、本発明の魚節の大量生産ができる。
【0034】
また本発明の好ましい実施態様は、カツオ、ソウダガツオ、サバ、マグロ、イワシ及びアジから構成される群から選択される節用原料魚を用いた、肉質香が高い魚節を提供できるが、特に好ましくは、節用原料魚に鰹を選択して、肉質香が高い鰹節を提供することができる。
【0035】
さらに本発明の好ましい実施態様は、上記方法により製造された魚節若しくはその加工品(即ち、風味原料)を配合することを特徴とする、風味調味料、又は、抽出だし、エキスなどの調味料、あるいは、スープ、レトルト食品、冷食などの(加工)食品に関する。魚節は粉砕、粉末化、ペースト化などして加工し、そのまま製品化(風味原料)しても良いし、それを調味料や食品に配合しても良い。また、燻製食品そのものではなく、抽出してエキス画分を使用してもよい。一般的に用いられている、燻製食品から内容物を抽出してエキス画分を抽出する方法としては、液化炭酸ガス抽出法、超臨界ガス抽出法、アルコール抽出法、熱水抽出法等がある。得られたエキス画分は液状のまま、あるいは粉末化して用いることができる。粉末化する方法としては、真空乾燥法、凍結乾燥法、スプレードライ法、ドラムドライヤー法、真空ドラムドライヤー法、マイクロ波乾燥法等がある。この際、必要に応じて賦型剤を添加してもよい。添加する賦型剤としては、デキストリン、乳糖、食塩、グルタミン酸ナトリウム、グラニュー糖、ゼラチン等を挙げることができる。
【実施例】
【0036】
次に本発明の効果を具体的な実施例に基づいて説明する。本実施例では、主に節用原料魚にカツオを選択して、鰹節を試作した。鰹節の試作は、従来製法である手火山式(サンプル1)、急造庫式(サンプル2)に加え、本発明独自の製法として焙乾工程を燻付けと乾燥に分離し、遠赤外線加熱(サンプル3)及び熱風加熱(サンプル4)を施す製法で行った。
【0037】
サンプル1は公知の手火山式製法により、2週間から1ヶ月程度の期間で作製された、通常販売されている荒節を用いた。
【0038】
サンプル2はカツオを節用原料魚として用い、急造庫式で鰹節を試作した。冷凍原料を解凍後、頭、内臓等の除去を行い、煮熟して煮熟魚を得た。その後、急造庫式で焙乾を行った。概略すると、煮熟魚を並べた蒸篭を急造庫の1階部分に並べ、地下の火床の薪を燃やし、昼頃から翌朝まで焙乾及びあん蒸(焙乾時の庫内の雰囲気温度は60〜150℃程度)を実施した。その後、同様の焙乾及びあん蒸の工程を、適宜蒸篭の位置を上階(5階まで)に変更しながら7回程度繰り返して荒節を作製した。
【0039】
サンプル3はカツオを節用原料魚として用い、高温加熱に遠赤外線を利用して鰹節を試作した。詳細を以下に記す。サンプル2と同様に、冷凍原料を解凍後、頭、内臓等の除去を行い、煮熟して煮熟魚を得た。常温下で放冷後、魚体中心温度が50℃以下に冷めてから、肉身部分を、長さが5〜15cmで、筋隔面が露出するようにほぐした。このとき、筋隔面が露出しやすくするために、煮熟魚の魚体中心温度が30℃以下になるまでに速やかにほぐした。ほぐされた肉身部分(生利)を蒸篭に充填し、120℃で60分乾燥後、ナラを原料とした燻煙で煙付けを15分行った後に遠赤外線による加熱を実施した(加熱条件120℃30分設定、つまり、遠赤外線加熱炉の当該炉から発する加熱温度(炉内の雰囲気温度)を120℃、加熱時間を30分に設定)。その後、イナートガスオーブン(ADVANTEC(株)製PL−50MB型)にて100℃で120分以上乾燥させ、鰹節を試作した。
【0040】
サンプル4はカツオを節用原料魚として用い、高温加熱に熱風加熱を利用して鰹節を試作した。詳細を以下に記す。サンプル2と同様に、冷凍原料を解凍後、頭、内臓等の除去を行い、煮熟して煮熟魚を得た。常温下で放冷後、魚体中心温度が50℃以下に冷めてから、肉身部分を、長さが5〜15cmで、筋隔面が露出するようにほぐした。このとき、筋隔面が露出しやすくするために、煮熟魚の魚体中心温度が30℃以下になるまでに速やかにほぐした。ほぐされた肉身部分(生利)を蒸篭に充填し、160℃で60分、140℃で60分、120℃で120分、110℃で120分、100℃で60分乾燥後、7時間程度あん蒸を施し、更に80℃で40分乾燥後、ナラを原料とした燻煙で煙付けを50分程度行った後に熱風による加熱を実施した(加熱条件100℃150分設定、熱源はLPGガス)。なお、サンプル4の作製において、上記熱風加熱には乾燥工程を含んだ。
【0041】
試作した魚節の官能評価では、粉砕機(池本理化工業(株)製WT150)で6mm角に粉砕し、粉砕した鰹節5重量部に対し水100重量部を加え、90℃で20分煮出し、鰹節を取り除いた後、減少水分を補充し100重量部としたもの(以下5%だしと記載)に水を加え全体で167重量部としたもの(以下3%だしと記載)を評価した。また、メチオナール及びフラネオールの成分含量測定では、5%だしの成分含量を測定後、得られた値を0.6倍し、3%だしの値として濃度換算した。
【0042】
メチオナール、フラネオールの成分含量は特に記載がない限り、以下の条件で分析を行った。
【0043】
また、官能評価は特に記載がない限り、熟練したパネル6名により行った。
【0044】
[メチオナールの分析]
<分析機器>
GC−MS:Agilent社製 LTM付属GC−MS(GC:6890N,MS:5973N)
オートサンプラー(前処理、注入装置):GESTEL社 MPS2
<分析前処理>
5%だし5mlを20mlSPMEバイアルに入れ、50℃に加熱しながら、SPMEファイバー(DVB/PDMS)をヘッドスペース部に45分暴露し、成分を吸着させた。
<GC−MS条件>
カラム:DB−WAX(0.18mm×10M、ID=0.30μm)Agilent社製
注入条件:温度 220℃、モード スプリットレス、注入口圧力 104.7kPa
LTM昇温条件:50℃で0.6分保持後、25℃/分で230℃まで昇温し、230℃で4.2分保持。
MS測定条件:SIMモード;m/z=48にて検出。
[フラネオールの分析]
<分析機器>
GC−MS:Agilent社製 LTM付属GC−MS(GC:6890N,MS:5973N)
オートサンプラー(前処理、注入装置):GESTEL社 MPS2
<分析前処理>
内部標準物質としてホモフロノール(CAS.NO:27538−10−9、東京化成工業(株)製、製品番号:E0428)を用い、5%だし10mlにホモフロノールが5ppmとなるように添加した。この5%だし10mlにエーテル20mlを加え、香り成分を振盪器で20分間抽出し、エーテル層を窒素パージにより濃縮後、セプタム付き2ml容バイアルビンに入れた。
<GC−MS条件>
カラム:Agilent社製 DB−WAX(0.18mm×10M、ID=0.30μm)
注入条件:温度 180℃、モード スプリットレス、注入口圧力 85.4kPa
LTM昇温条件:40℃で1分保持後、15℃/分で230℃まで昇温し、230℃で3分保持。
MS測定条件:SIMモード。フラネオールはm/z=128にて、ホモフロノールはm/z=142にて検出。
【0045】
[実施例1]成分の最適な配合量
【0046】
本実施例1は、魚節だし中にメチオナールとフラネオールがどの程度含まれる場合に肉質香を好ましく感じるかを確認するために行った。具体的には、従来製法である手火山式(大量生産は不可能だが肉質香の強い節を作ることが可能)で作製した節(サンプル1)の3%だし(もしくはその希釈液)に対し、だし中濃度が10ppb〜10000ppbとなるようにメチオナール(CAS.NO:3268−49−3、和光純薬工業(株)製、製品番号:326−41311)の標準溶液(10ppmもしくは100ppm、溶媒はエタノール)を適量添加して肉質香の感じ方の評価を行った。同様にフラネオール(CAS.NO:3658−77−3、和光純薬工業(株)製、製品番号:320−80391)の標準溶液(10ppmもしくは100ppm、溶媒はエタノール)を作製し、だし中濃度が15ppb〜10000ppbとなるように適量添加して肉質香の感じ方の評価を行った。
【0047】
評価は下記基準に基づき、熟練したパネル3名により行った。肉質香の評価結果を図1に示す。比較サンプルとして、従来製法である急造庫式(大量生産は可能だが肉質香の強い節の作製が困難)にて作製した節(サンプル2)、生利に燻付けを行い、その後120℃で30分遠赤外線加熱を施して作製した本発明独自の遠赤外線加熱による節(サンプル3)、生利に燻付けを行い、その後100℃で150分熱風加熱を施して作製した本発明独自の熱風乾燥による節(サンプル4)の評価結果も図1に掲載した。また、サンプル1〜4の成分含量測定結果を表1に掲載した。
<評価基準>
◎ 肉質香がとても強い
○ 肉質香が強い
△ 肉質香がやや弱い
× 肉質香が弱い
【0048】
<表1> サンプル1〜4のメチオナール、フラネオール含量

【0049】
肉質香の評価の結果、図1の太い実線で囲まれた範囲(つまり、評価結果△及び○及び◎を内包する、フラネオール45ppb以上、メチオナール30ppb以上の範囲)で好ましい肉質香を感じ、更に、サンプル1、サンプル3及びサンプル4を含む範囲(つまり、評価結果○及び◎を内包する、フラネオール75ppb以上、メチオナール50ppb以上の範囲)で好ましい肉質香を強く感じ、更には、サンプル3とサンプル4は含むが、従来製法のサンプル1は含まない範囲(フラネオール75ppb以上、メチオナール60ppb以上の範囲)でより好ましい肉質香を強く感じることが判明した。つまり、製法の違いで比較すると、急造庫式にて製造した節(サンプル2)は肉質香が弱く、図1の太い実線で囲まれた範囲外であったが、手火山式で製造した節(サンプル1)、本発明の方法で遠赤外線加熱を採用して作製した節(サンプル3)及び熱風加熱を採用して作製した節(サンプル4)は肉質香が強く、いずれも図1の太い実線で囲まれた範囲内に含まれる結果となった。その中でも、特に、本発明の方法で作製した節(サンプル3及び4)は、より好ましい肉質香を強く感じた。
【0050】
[実施例2]遠赤外線加熱の条件
【0051】
本発明における特徴の一つである遠赤外線加熱の条件を検討するため、煮熟したカツオをほぐして出来た生利に遠赤外線を120℃で10分〜60分施して適切な遠赤外線加熱の条件を確認した。また、長時間遠赤外線加熱を行った場合にどのような節になるか確認するため、赤外線温度80℃で48時間遠赤外線を施して効果を確認した(試作節2)。比較対照として、実施例1のサンプル3を利用した。なお、表3中、サンプル3は試作節1と記す。なお、加熱条件を変えて作製された試作節2の略寸法は縦約10〜13cm、横幅3〜6cm、重量は22〜25gであった。
【0052】
試作した鰹節は粉砕し、3%だしを作製後、下記評価基準に基づいて評価を行った。遠赤外線加熱条件の評価結果を表2、長時間遠赤外線を施した節(試作節2)の評価結果を表3に示す。
【0053】
<表2>遠赤外線の効果確認

【0054】
<評価基準>

【0055】
<表3>長時間遠赤外線加熱の評価

【0056】
上記結果より、遠赤外線加熱を行うことで官能評価が向上することを確認した。また、好ましい遠赤外線加熱の温度及び時間は、120℃においては、時間は10分〜60分程度で実施例1のサンプル1(手火山式にて作製)と同等の肉質香が発現する結果となり、製造に20日程度を有する手火山式と比較すると格段に製造時間を短縮可能と考えられると共に、遠赤外線加熱温度を上げることによって、更なる加熱時間の短縮が可能になることが考えられる。
【0057】
また、80℃で遠赤外線加熱を行った場合(試作節2)、魚体内部温度は40〜80℃未満に留まり、48時間遠赤外線を照射しても肉質香が強い節は作製できないことが分かった。更に、遠赤外線加熱を48時間以上施すと焦げ臭や酸化劣化臭が発生してしまい、肉質香の好ましい節の作製には適さないことも分かった。
【0058】
[実施例3]遠赤外線加熱を行うタイミングの違いによる肉質香向上
【0059】
原料魚を煮熟後、遠赤外線加熱をどのタイミングで行うと好ましい肉質香が発現するかを確認するため、遠赤外線を行うタイミングを変更して試作節3〜7の作製を行った。試作節3〜7の試作は、遠赤外線を施すタイミングが異なるだけで、試作条件は実施例1のサンプル3と同様の条件で行った。遠赤外線加熱のタイミングは以下の表4を参照(試作節3〜7の製造工程の手順は左から右に進む、なお、試作節3は遠赤外線加熱を行わなかった)。作製された各試作節3、4、5、6及び7の略寸法は、夫々、縦幅約10〜12cm、横幅約3〜4cm、重量は約20〜25gであった。
【0060】
実施例1及び2と同様に、表4の試作条件に基づき、試作した鰹節の3%だしを取り、実施例1と同様の下記評価基準に基づき評価を行った。その結果を表4に示す
【0061】
<表4>遠赤外線加熱のタイミングによる肉質香向上の効果

【0062】
<評価基準>

【0063】
表4より、本発明の魚節の製造方法の工程のうち、遠赤外線加熱は煮熟後のいずれのタイミングで行っても効果があることが分かった。また、最も肉質香が向上する条件は、その中でも特に、煮熟工程後、鰹生利節に燻付けを行い、その後、遠赤外線加熱を行い、乾燥を行うという条件(試作節4)であることが分かった。但し、湿潤した生利表面に燻付けを行うと、場合によっては酸味等の発生につながる場合があるので、燻付けの前に適宜短時間の乾燥を加えても良い。
【0064】
[実施例4]カツオ以外の原料魚を用いた魚節の評価
【0065】
カツオ以外の節用原料魚(ソウダガツオ、サバ、イワシ及びアジ)を用い、遠赤外線を利用して魚節を試作した。詳細を以下に記す。
【0066】
冷凍原料魚を解凍後、頭、内臓等の除去を行い、煮熟して煮熟魚を得た。常温下で放冷後、魚体中心温度が50℃以下に冷めてから、肉身部分を、長さが5〜15cmで、筋隔面が露出するようにほぐした。このとき、筋隔面が露出しやすくするために、煮熟魚の魚体中心温度が30℃以下になるまでに速やかにほぐした。ほぐされた肉身部分(生利)を蒸篭に充填し、120℃で60分乾燥後、ナラを原料とした燻煙で煙付けを15分行った後に遠赤外線による加熱を実施した(加熱条件120℃30分設定、つまり、遠赤外線加熱炉の当該炉から発する加熱温度(炉内の雰囲気温度)を120℃、加熱時間を30分に設定)。その後、イナートガスオーブン(ADVANTEC(株)製PL−50MB型)にて100℃で120分以上乾燥させ、魚節を試作した(サバ:試作節8、イワシ:試作節9、アジ:試作節10、ソウダガツオ:試作節11)。試作節8〜11は実施例1と同様の方法で3%だしを作製し、下記評価基準に基づいて市販品(サンプル5〜8)との比較評価を行った。結果を表5に示す。
【0067】
<表5>

【0068】
<評価基準>

【0069】
カツオ同様、ソウダガツオ、サバ、イワシ及びアジを原料として本発明を実施しても、好ましい肉質香が向上する結果となった。具体的には、遠赤外線加熱により雑節特有の生臭みが減少し、肉質香が際立つ効果が得られることが分かった。
【0070】
[実施例5]めんつゆの試作
【0071】
実施例1のサンプル3(本発明の方法で遠赤外線加熱を用いて作製した節)を用いて、表6の配合でめんつゆを試作した。比較対象として、実施例1のサンプル2(従来製法である急造庫式にて作製した節)を用いた。
【0072】
<表6>めんつゆモデルレシピ

【0073】
試作しためんつゆを下記評価基準に基づいて評価した。その結果を表7に示す。
【0074】
<表7>めんつゆ評価結果

【0075】
<評価基準>

【0076】
図1の太い実線で囲まれた範囲内で、特に、より好ましい範囲(フラネオール75ppb以上、メチオナール60ppb以上の範囲)に含まれるサンプル3を用いて試作しためんつゆは好ましい肉質香が強く感じられ、醤油とのバランスも良く、より好ましい結果となった。
【0077】
以上本発明の好ましい実施形態及び実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。より具体的には、本発明の肉質香の高い魚節を様々な手法で加工して調味料としたり、また、これら調味料を食品に配合することにより、スープやレトルト食品などの加工食品を含め、多種多様な食品への転用も容易に可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、魚節の3%だし中に、肉質香に寄与する好ましい含有量のメチオナール及びフラネオールを含むことで、肉質香の高い魚節の提供が可能である。また、煮熟後の工程、特に、燻付け工程と乾燥工程の間に熱風又は遠赤外線による加熱を組合せることにより、短時間で肉質香が強い魚節を大量、かつ安定に製造することが可能であり、更には、熱風又は遠赤外線による加熱の温度及び時間を調整することにより、肉質香の強さを制御することが出来ると共に、燻香の強さも制御が可能である。よって、鰹節の品質を自由自在に調節することが可能であり、消費者のニーズにあった鰹節を作製可能という点で産業上の利用可能性が高く、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚節の3%だし中にフラネオールを45ppb以上且つメチオナールを30ppb以上含有させることを特徴とする魚節の工業的製造方法。
【請求項2】
高温加熱工程を煮熟工程後に施すことを特徴とする請求項1に記載の魚節の工業的製造方法。
【請求項3】
前記高温加熱工程は熱風加熱又は遠赤外線加熱であることを特徴とする請求項2に記載の魚節の工業的製造方法。
【請求項4】
前記熱風加熱は、焙乾を燻付けと乾燥に分離し、燻付け工程後、かつ、乾燥工程前に行うことを特徴とする請求項3に記載の魚節の工業的製造方法。
【請求項5】
前記熱風加熱は、熱風温度が80℃〜160℃の温度条件で10分〜150分であることを特徴とする請求項4に記載の魚節の工業的製造方法。
【請求項6】
前記遠赤外線加熱は、焙乾を燻付けと乾燥に分離し、燻付け工程後、かつ、乾燥工程前に行うことを特徴とする請求項3に記載の魚節の工業的製造方法。
【請求項7】
前記遠赤外線加熱は、遠赤外線温度が80℃〜150℃の温度条件で48時間未満であることを特徴とする請求項6に記載の魚節の工業的製造方法。
【請求項8】
前記遠赤外線加熱は、遠赤外線温度が120℃〜150℃の温度条件で、10分〜180分行うことを特徴とする請求項6に記載の魚節の工業的製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の魚節の工業的製造方法で作製した魚節。
【請求項10】
請求項9に記載の魚節を含むことを特徴とする風味原料。
【請求項11】
請求項9に記載の魚節又は請求項10に記載の風味原料を含むことを特徴とする調味料。
【請求項12】
請求項9に記載の魚節又は請求項10に記載の風味原料を含むことを特徴とする食品。
【請求項13】
少なくとも、燻煙を発生させて生利節に燻付けする手段と、熱風加熱又は遠赤外線加熱により該生利節を高温加熱処理する手段と、燻付けないし高温加熱された生利節を乾燥させる手段とを備えることを特徴とする魚節の焙乾及び高温加熱装置。
【請求項14】
魚節の3%だし中に含有するメチオナール及びフラネオールの含量を判定する魚節の肉質香判定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−217632(P2011−217632A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87883(P2010−87883)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(000114732)ヤマキ株式会社 (16)