説明

魚釣り用リール

【課題】たとえバックラッシュが発生しても糸ふけの発生を防止でき、また、スプールに制動力をかけることに起因する諸問題を一挙に解消した魚釣り用リールを提供する。
【解決手段】魚釣り用リールは、リール本体3と、両側がリール本体3に正逆回転可能に支持されるスプール2と、リール本体3上のスプール2の前方に位置する糸通し孔5を有する糸ガイド50とを備えており、スプール2に対して糸通し孔5を介して糸1を導出入させる。前記リール本体3には、スプール2と糸通し孔5との間に、スプール2の回転と連動する糸導出機構7を配置して、スプール2より繰り出された糸1を糸通し孔5へ送り込んで導出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スプールを両側より支えるタイプの魚釣り用リールに関し、特に、スプールに巻かれた糸が緩んで絡みつくのを防止する機能を有する魚釣り用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、魚釣り用リールとして、スピニングリールとベイトリール(両軸リール)とが知られている。図5に示すベイトリールは、糸1の導出入方向(図中、矢印aで示す。)とスプール2の正逆回転方向(図中、矢印bで示す。)とが一致するもので、スプール2はリール本体3の側壁3a,3b間に正逆回転可能に支持されている。リール本体3の一側部にハンドル4が設けられ、このハンドル4を回すと、スプール2が回動してスプール2に糸1が巻き付けられる。ハンドル4とスプール2との間には図示しないクラッチ機構が介在しており、このクラッチ機構が外れてハンドル4とスプール2とが切り離されると、スプール2は回転自由となり、糸1の放出動作が可能となる。
スプール2の前方には糸通し孔5が位置し、スプール2より繰り出された糸1は糸通し孔5を介して導出されるとともに、導出された糸1は糸通し孔5よりスプール2上に導入される。
【0003】
上記した構成のベイトリールでは、キャスティング時、スプール2からの糸1の繰出し速度が糸通し孔5からの糸1の導出速度より速くなる現象(この現象を「バックラッシュ」という。)が生じるおそれがある。このバックラッシュが生じると、スプール2に巻かれた糸1が緩んで絡みつき(この現象を「糸ふけ」という。)、スプール2に糸1を巻き取るのが困難となる。バックラッシュは、主として、ルアーや餌などが着水して糸の引っ張り力が急に低下したとき、スプール2が惰性でそれまでの高速回転を続けることによって起こる。
【0004】
このバックラッシュの発生を防止するのに、スプール2の惰性回転を制限するためのブレーキ機構を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この種のブレーキ機構が組み込まれた魚釣り用リールでは、リール本体3の側部に制動力を調整するためのつまみ10が設けられており、キャスティングの前に、対象とする魚や仕掛けなどの状況に応じてつまみ10を操作して所望の制動力に設定する。
【0005】
【特許文献1】特開平11−75643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
糸の放出時にスプール2に制動力をかけると、着水後のスプール2の惰性回転が抑えられので、バックラッシュの発生は防止できるが、その反面、着水前にもスプール2に制動力がかかるため、仕掛けの飛距離が落ちるという問題がある。また、着水後に浮力の作用を受けて糸1の引っ張り力が低下すると、スプール2にかかる制動力が糸1の引っ張り力に打ち勝つため、ルアーや餌が所望の水深まで達しないという問題もある。さらに、糸巻き時には、スプールにかかる制動力が円滑かつ迅速な巻取り操作を阻害するおそれがあり、これを防止するのにつまみ5を操作して制動力を解除する必要があり、操作が煩雑となる。
【0007】
この発明は、上記問題に着目してなされたもので、たとえバックラッシュが発生しても糸ふけの発生を防止でき、また、スプールに制動力をかけることに起因する諸問題を一挙に解消した魚釣り用リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による魚釣り用リールは、リール本体と、両側が前記リール本体に正逆回転可能に支持されるスプールと、リール本体上のスプールの前方に位置する糸通し孔とを備えており、スプールに対して糸通し孔を介して糸を導出入させるものである。前記リール本体には、スプールと糸通し孔との間に、スプールの回転と連動する糸導出機構を配置して、スプールより繰り出された糸を糸通し孔へ送り込んで導出させる。
【0009】
上記した構成の魚釣り用リールにおいて、キャスティング時、スプールの糸の繰出し速度が糸通し孔からの糸の導出速度より速くなる現象(バックラッシュ)が生じても、糸導出機構がスプールより繰り出された糸を糸通し孔へ強制的に送り込んで導出させるので、スプールに巻かれた糸が緩んで絡みつく現象が生じることがない。
【0010】
典型的なベイトリールでは、前記の「糸通し孔」は、通常、レベルワインド機構の糸ガイドに設けられている。このレベルワインド機構は、スプール内に糸を均一に巻くためのもので、糸の巻取り時、糸ガイドがスプールと平行に往復動する。
【0011】
この発明の好ましい実施態様においては、前記糸導出機構は、糸を外周面に沿わせて前記糸通し孔へ導く駆動ローラと、駆動ローラの外周面の糸が接する位置に押し付けられる従動ローラと、前記スプールと駆動ローラとの間に介在しスプールの回転を駆動ローラに伝達して連動させる動力伝達機構とを含んでいる。
【0012】
上記の「動力伝達機構」は例えば歯車や伝動ベルトを用いて構成することができる。また、「駆動ローラ」は糸が滑り易い摩擦力の小さな外周面に、一方「従動ローラ」は糸が滑りにくい摩擦力の大きな外周面に、それぞれ形成するのが望ましい。そのような構成にすると、スプールより繰り出された糸が駆動ローラと従動ローラとの間で生じる引っ張り力により引っ張られて糸通し孔へ送り込まれる。もし、前記糸の送り込み動作にスプールからの糸の繰出し動作が追随できないときは、糸に対して前記駆動ローラが空回りして糸が滑るので、糸が過度に引っ張られることはない。
【0013】
この発明の好ましい実施態様では、前記糸導出機構は、一定時間当たりの糸通し孔への糸の送り込み量がスプールの糸の繰出し量以上となるように設定され、糸の放出に伴って糸通し孔への糸の送り込み量がスプールの糸の繰出し量を越える状態になったとき、その差に相当する量だけ糸の滑りを生じさせている。
糸導出機構を前記した駆動ローラと従動ローラとで構成する場合、例えば、スプールの回転数と駆動ローラの回転数とを1対2に設定し、一方、スプールの径と駆動ローラの径とを2対1に設定すると、スプールに糸が目一杯巻かれた状態では糸の送り込み量と糸の繰出し量とはほぼ一致するが、糸がスプールより繰り出されるに従って糸の送り込み量が糸の繰出し量を上回るので、駆動ローラが空回りして糸の滑りが生じる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によると、スプールの糸の繰出し速度が糸通し孔からの糸の導出速度より速くなる現象(バックラッシュ)が生じても、糸導出機構がスプールより繰り出された糸を糸通し孔に送り込んで導出させるので、スプールに巻かれた糸が緩んで絡みつくという糸ふけ現象の発生を防止することができる。また、糸ふけ現象の原因となるバックラッシュの発生を防止するためにスプールに制動力をかける必要がないので、制動力をかけることに起因する諸問題、すなわち、仕掛けの飛距離が落ちたり、ルアーや餌が所望の水深まで到達しなかったり、円滑かつ迅速な糸の巻取り操作が行えなかったりするなどの問題は生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1および図2は、この発明の一実施例である魚釣り用リールの構造を示している。
図示例の魚釣り用リールはベイトリールであって、スプール2がリール本体3のフレーム30内に両側より正逆回転可能に支持されている。前記フレーム30は、対向する2枚の側板31a,31bと、各側板31a,31bを一定間隔保持した状態で一体に固定する複数本の連結軸32とで構成されている。
【0016】
前記スプール2は、図3に示すように、胴部20の両端にフランジ部21,21が設けられたもので、フランジ部21,21間の胴部20上に糸1が巻き取られるようになっている。スプール2の胴部20内には、スプール2を回動自由に支持するための支持軸22が挿通されている。この支持軸22は両端部が側板31a,31bに軸受を介して支持されている。
【0017】
スプール2の前方位置には、スプール2に対して糸1を導出入させる糸通し孔5を有する糸ガイド50が配置されている。この糸ガイド50は、側板31a,31b間にスプール2と平行に設けられたガイド筒52と、ガイド筒52内に回転自由に支持されたウォーム軸53とでレベルワインド機構51を構成している。このレベルワインド機構51は公知であり、詳細な説明は省略するが、前記ウォーム軸53が回動することによりウォーム軸53に噛み合った糸ガイド50がガイド筒52に沿って往復動するものである。
【0018】
前記糸ガイド50には糸1が挿通される前記糸通し孔50が前後方向に設けられている。糸の放出時にはスプール2より繰り出された糸1は糸ガイド50の糸通し孔5を介してリール本体3の外部へ導出される。また、糸の巻取り時にはガイド筒52に沿って糸ガイド50が往復動することにより糸ガイド50の糸通し孔5を介してリール本体3に導入された糸1がスプール2のフランジ21,21間に均一に巻かれる。なお、図3において、54は糸ガイド50と一体にスプール2と後述する駆動ローラ70との間を往復動する糸1の補助ガイドである。この補助ガイド54はリング形状をなし、そのリング内に糸1が挿通されている。
【0019】
前記側板31aの外側には取付板33が配備され、駆動機構6を組み込むための空間が形成されている。この取付板33と側板31aとは一定間隔保持した状態で連結軸34により一体固定されている。
前記駆動機構6は、側板31aおよび取付板33に両端部が回動自由に支持された駆動軸60と、取付板33の外側へ突出させた前記駆動軸60に連結されたハンドル4と、駆動軸60上に装着された駆動歯車61と、前記スプール2に一体に設けられた従動歯車62と、前記レベルワインド機構51のウォーム軸53に装着された従動歯車63とを含んでいる。前記駆動歯車61は各従動歯車62,63にそれぞれ噛み合っており、ハンドル4の回転によりその回転力がスプール2およびレベルワインド機構51に伝達される。
なお、説明を簡略化するために図示を省略しているが、駆動軸60と駆動歯車61との間または駆動歯車61と従動歯車62,63との間にはレバー操作で作動するクラッチ機構が組み込まれている。このクラッチ機構によってハンドル4に対してスプール2およびレベルワインド機構51が連繋されたり切り離されたりする。
【0020】
前記スプール2と糸ガイド50との間には、スプール2より繰り出された糸1を糸ガイド50の糸通し孔5へ送り込んで導出させる糸導出機構7が設けられている。
前記糸導出機構7は、図3および図4に示すように、糸1を外周面に沿わせて前記糸ガイド50の糸通し孔5へ導く駆動ローラ70と、駆動ローラ70の外周面の糸1が接する位置に押し付けられる従動ローラ71と、前記スプール2と駆動ローラ70との間に介在しスプール2の回転を駆動ローラ70に伝達して連動させる動力伝達機構9とを含んでいる。
【0021】
前記駆動ローラ70は、スプール2の前方位置にスプール2と平行に配備され、その両端部は両側板31a,31bにそれぞれ回動可能に支持されている。駆動ローラ70は合成樹脂材によりスプール2と一致する長さに形成されたもので、駆動ローラ70の外周面は糸1が滑り易い摩擦力の小さな外周面となっている。
【0022】
前記従動ローラ71は、スプール2の前方位置であって駆動ローラ70の上方位置にスプール2および駆動ローラ70と平行に配備されている。従動ローラ71の両端はアーム72,72の先端に回動自由に支持されている。各アーム72の基端部は両側板31a,31b間に支持された枢軸73に支持されている。アーム72,72間には中間軸74が設けてあり、この中間軸74にコイルばねより成るばね75を作用させて従動ローラ71を駆動ローラ70に向けて付勢している。
前記ばね75の基端はばね圧の調整が可能なばね調整機構8のばね受け板81に支持されている。このばね受け板81はねじ軸82上に配備され、つまみ83によりねじ軸82を回動すると、ばね受け板81が昇降動作してばね圧が調整される。
【0023】
前記従動ローラ71は合成樹脂製の筒軸体71aの外周面にシリコンゴム製のカバー体71bを被覆して形成され、糸1が滑りにくい摩擦力の大きな外周面となっている。
前記駆動ローラ70は糸1が滑り易い摩擦力の小さな外周面に形成され、一方、従動ローラ71は糸1が滑りにくい摩擦力の大きな外周面に形成されているので、スプール2より繰り出された糸1は駆動ローラ70と従動ローラ71との間で生じる引っ張り力により引っ張られて糸通し孔5へ送り込まれる。もし、糸1の送り込み動作にスプール2からの糸の繰出し動作が追随できないときは、糸1に対して前記駆動ローラ70が空回りして糸1が滑るので、糸1が過度に引っ張られることはない。
【0024】
前記動力伝達機構9は、図4に示すように、スプール2と一体の第1歯車90と駆動ローラ70と一体の第2歯車91とで構成されている。この実施例では、第1歯車90と第2歯車91とはギヤ比が2対1に設定されており、スプール2が1回転する間に駆動ローラ70が2回転する。
また、糸導出機構7は、一定時間当たりの糸通し孔5への糸1の送り込み量がスプール2の糸1の繰出し量以上となるように設定され、糸1の放出に伴って糸通し孔5への糸1の送り込み量がスプール2の糸1の繰出し量を越える状態になったとき、その差に相当する量だけ糸1の滑りを生じさせるようにする。
【0025】
この実施例では、スプール2の直径を駆動ローラ70の直径の2倍に設定し、これによりスプール2に糸1が目一杯巻かれた状態で糸通し孔5への糸1の送り込み量とスプール2の糸1の繰出し量とがほぼ一致するようにしている。その結果、糸1の放出に伴って一致時間当たりの糸通し孔5への糸1の送り込み量がスプール2の糸1の繰出し量を越える状態、すなわち、糸1の送り込み動作にスプール2からの糸の繰出し動作が追随できない状態となり、前記糸1の送り込み量と糸1の繰出し量との差に相当する量だけ糸の滑りが生じる。
【0026】
上記した構成の魚釣り用リールにおいて、キャスティング時、図示しないクラッチ機構によりハンドル4とスプール2およびレベルワインド機構51とを切り離した状態に設定して、スプール2より糸1を繰り出して糸通し孔5より導出させる。このとき、スプール2の糸1の繰出し速度が糸通し孔5からの糸1の導出速度より速くなる現象、すなわち、バックラッシュ現象が生じても、糸導出機構7がスプール2より繰り出された糸1を糸通し孔5へ強制的に送り込んで導出させるので、スプール2に巻かれた糸1が緩んで絡みつく現象、すなわち糸ふけ現象が生じることはない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の一実施例である魚釣り用リールの構造を示す正面図である。
【図2】図1の魚釣り用リールの平面図である。
【図3】糸導出機構を示す図1のA−A線に沿う断面図である。
【図4】動力伝達機構を示す図1のB−B線に沿う断面図である。
【図5】従来の魚釣り用リールの外観を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
1 糸
2 スプール
3 リール本体
5 糸通し孔
7 糸導出機構
9 動力伝達機構
70 駆動ローラ
71 従動ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体と、両側がリール本体に正逆回転可能に支持されるスプールと、リール本体上のスプールの前方に位置する糸通し孔とを備え、スプールに対して糸通し孔を介して糸を導出入させる魚釣り用リールにおいて、前記リール本体には、スプールと糸通し孔との間に、スプールの回転と連動する糸導出機構を配置して、スプールより繰り出された糸を糸通し孔へ送り込んで導出させるようにした魚釣り用リール。
【請求項2】
前記糸導出機構は、糸を外周面に沿わせて前記糸通し孔へ導く駆動ローラと、駆動ローラの外周面の糸が接する位置に押し付けられる従動ローラと、前記スプールと駆動ローラとの間に介在しスプールの回転を駆動ローラに伝達して連動させる動力伝達機構とを含んでいる請求項1に記載された魚釣り用リール。
【請求項3】
前記糸導出機構は、一定時間当たりの糸通し孔への糸の送り込み量がスプールの糸の繰出し量以上となるように設定され、糸の放出に伴って糸通し孔への糸の送り込み量がスプールの糸の繰出し量を越える状態になったとき、その差に相当する量だけ糸の滑りを生じさせている請求項1または2に記載された魚釣り用リール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−75040(P2006−75040A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260803(P2004−260803)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000129633)株式会社クローバー (17)
【Fターム(参考)】