説明

魚釣用電動リール

【課題】 本発明は魚釣用電動リールに関し、スプール駆動モータの保護を図り、併せてリール全体を大型化,重量化することなく、スプール駆動モータのモータ性能を十分に引き出しての高,低速の自動変速を可能とした電動リールを提供することを目的とする。
【解決手段】 リール本体に回転自在に支持されたスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータと、スプールの駆動系に装着され、スプールへのスプール駆動モータの動力伝達状態を高速動力伝達状態と低速動力伝達状態とに切換え可能な機械式変速装置を備えた電動リールに於て、上記スプール駆動モータまたは当該スプール駆動モータへの電力供給部に温度検出手段を装着し、当該温度検出手段の検出結果に基づき、前記機械式変速装置を高速動力伝達状態または低速動力伝達状態に自動的に切換え可能としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リール本体に回転自在に支持したスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータを備えた魚釣用電動リールに関する。
【背景技術】
【0002】
船釣り等、一般に深場の魚層を対象とした魚釣りを行う場合、スプール駆動モータの駆動でスプールを回転させて釣糸の巻取りを行う魚釣用電動リール(以下、「電動リール」という)が広く使用されている。
そして、昨今の電動リールには、釣場の状況(例えば、対象魚の大きさや種類,魚とのファイトやヒット数)に応じた釣糸の巻取り操作を行うべく、スプールの駆動系(スプール駆動モータの回転をスプールに伝達する動力伝達経路)に、スプールへのスプール駆動モータの動力伝達状態を高速動力伝達状態と低速動力伝達状態とに切り換える機械式変速装置が備えられており、特許文献1,2には、リール本体に装着した切換え部材の手動変速操作で、機械式変速装置を高速動力伝達状態と低速動力伝達状態とに切換え可能とすると共に、実釣時の負荷に応じて機械式変速装置を高速と低速とに自動的に変速できるようにしたものが開示されている。
【0003】
即ち、特許文献1の従来例は、遊星歯車減速機構とドラグの如き摩擦制動機構とで機械式変速装置を構成したもので、遊星歯車減速機構の歯車の一部に摩擦制動機構の摩擦部材を噛合し、実釣時の負荷に応じ摩擦部材を止めたり滑らせてこれに噛合する歯車を回転/停止させることで、スプールに伝達される減速比を変えてスプールの巻取り速度を自動的に高速と低速とに変速させるものである。
【0004】
また、特許文献2に開示された機械式変速装置は、スプール駆動モータの動力伝達経路に高速用減速歯車機構と低速用減速歯車機構を装着し、手動操作でスプール駆動モータの回転方向を切り換えて両減速歯車機構のいずれか一方を選択的に動力伝達可能とすると共に、釣糸の張力を測定する張力測定装置(例えば、スプールの軸受部に歪みゲージを装着してなるもの)を装着し、計測した張力に応じ、スプール駆動モータの回転方向を制御してスプールの巻取り速度を高速と低速とに自動的に変速させるものである。
【特許文献1】特許第3159637号公報
【特許文献2】特許第3537363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし乍ら、特許文献1の従来例は、遊星歯車減速機構と摩擦制動機構をリール本体の側板内に収容,装着する構造上、リール全体が大型化,重量化して魚釣り操作性が劣ると共に、摩擦部材の摩耗の影響で自動変速の切換え条件が安定しないといった欠点が指摘されている。
一方、特許文献2の従来例では、釣糸にかかる張力が小さくても、高速での巻取りや長時間の継続的な使用等でスプール駆動モータが異常過熱することがあり、スプール駆動モータの焼損防止を図り乍ら、モータ性能を十分に引き出しての自動変速が行えない等の課題が残されていた。
【0006】
本発明は斯かる実情に鑑み案出されたもので、スプール駆動モータの保護を図り、併せてリール全体を大型化,重量化することなく、スプール駆動モータのモータ性能を十分に引き出しての高,低速の自動変速を可能とした電動リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる目的を達成するため、請求項1に係る発明は、リール本体に回転自在に支持されたスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータと、スプールの駆動系に装着され、スプールへのスプール駆動モータの動力伝達状態を高速動力伝達状態と低速動力伝達状態とに切換え可能な機械式変速装置を備えた電動リールに於て、上記スプール駆動モータまたは当該スプール駆動モータへの電力供給部に温度検出手段を装着し、当該温度検出手段の検出結果に基づき、前記機械式変速装置を高速動力伝達状態または低速動力伝達状態に自動的に切換え可能としたことを特徴とする。
【0008】
そして、請求項2に係る発明は、リール本体に回転自在に支持されたスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータと、スプールの駆動系に装着され、スプールへのスプール駆動モータの動力伝達状態を高速動力伝達状態と低速動力伝達状態とに切換え可能な機械式変速装置を備えた電動リールに於て、釣糸の巻取りで回転する回転体の回転速度を検出する回転速度検出手段を備え、当該回転速度検出手段の検出結果に基づき、前記機械式変速装置を高速動力伝達状態または低速動力伝達状態に自動的に切換え可能としたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、リール本体に回転自在に支持されたスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータと、スプールの駆動系に装着され、スプールへのスプール駆動モータの動力伝達状態を高速動力伝達状態と低速動力伝達状態とに切換え可能な機械式変速装置を備えた電動リールに於て、上記スプール駆動モータのモータ駆動回路に熱動子を装着し、当該熱動子の動作を基に、前記機械式変速装置を高速動力伝達状態または低速動力伝達状態に自動的に切換え可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
各請求項に係る発明によれば、スプール駆動モータの保護を図り乍ら、リール全体を大型化,重量化することなくモータ性能を十分に引き出しての高,低速の自動変速が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1乃至図6は請求項1に係る発明の一実施形態を示し、図1に於て、1はリール本体3のフレーム、5,7は当該フレーム1の左右に取り付く側板で、両側板5,7間にスプール軸9を介してスプール11が回転可能に支持されている。
スプール軸9はスプール11の軸心を貫通し、その側板5側の一端が、フレーム1に一体的に取り付く第1のセットプレート13に軸受15を介して回転可能に支持されている。そして、この一端側に、後述する動力伝達機構17のスプール軸駆動歯車19が回り止め嵌合されている。
【0012】
スプール11は、スプール駆動モータ21の駆動とハンドル23の巻取り操作で巻取り方向に回転して釣糸が巻回されるようになっており、スプール駆動モータ21は、スプール11前方のフレーム1に一体成形された筒状のモータケース25内に収納されている。
そして、側板5側のリール本体3内に、特許文献2に開示された従来例と同一構造の機械式変速装置27と第1の遊星歯車減速機構29、そして、前記スプール軸駆動歯車19を含む複数の歯車からなる動力伝達機構17が、スプール駆動モータ21のモータ軸31とスプール軸9との間に順次装着されており、スプール駆動モータ21の回転力が機械式変速装置27,遊星歯車減速機構29,動力伝達機構17で変速/減速されて、スプール軸9に伝達されるようになっている。
【0013】
図2は機械式変速装置27と遊星歯車減速機構29の拡大断面図、図3及び図4は機械式変速装置27と遊星歯車減速機構29,動力伝達機構17の歯車の回転方向を説明する模式図を示し、図中、33はモータ軸31に回り止め嵌合されたピニオンで、スプール駆動モータ21は正逆両方向へ回転可能に構成され、これに伴い、図3及び図4に示すようにピニオン33も正,逆両方向へ回転する。
【0014】
そして、上記ピニオン33に低速用減速歯車機構35の低速用歯車37と、高速用減速歯車機構39の高速用歯車41が個別に噛合しており、機械式変速装置27は、この低速用減速歯車機構35と高速用減速歯車機構39とで構成されている。
低速用歯車37と高速用歯車41は、その外径が同一でピニオン33とのギヤ比が同一に設定されており、図2及び図3に示すように低速用歯車37は、第1の回転軸43に一方向クラッチ45を介して回転可能に支持され、高速用歯車41は、第2の回転軸47に一方向クラッチ49を介して回転可能に支持されている。そして、第1の回転軸43は、フレーム1と遊星歯車減速機構29のキャリア51との間に軸受53,55を介して回転可能に支持され、第2の回転軸47は、前記セットプレート13の内側に配された第2のセットプレート57とフレーム1との間に軸受59,61を介して回転可能に支持されている。
【0015】
而して、上記一方向クラッチ45,49は、力を伝達するその回転方向が互いに逆向きに設定されており、低速用歯車37側の一方向クラッチ45は、低速用歯車37が逆転(図3に於ける反時計回りの回転;以下、同様)すると、その楔作用で低速用歯車37の回転力を回転軸43に伝達し、低速用歯車37が正転(図4に於ける時計回りの回転;以下、同様)すると、その回転力を回転軸43に伝達しないように構成されている。
【0016】
一方、これとは逆に高速用歯車41側の一方向クラッチ49は、高速用歯車41が正転すると、その楔作用で高速用歯車41の回転力を回転軸47に伝達し、高速用歯車41が逆転すると、その回転力を回転軸47に伝達させないように構成されている。
そして、第1の回転軸43に小歯車63が回り止め嵌合されると共に、第2の回転軸47に大歯車65が回り止め嵌合されて、これらは互いに噛合している。そして、回転軸43の突出端側に、遊星歯車減速機構29の太陽歯車67が回り止め嵌合されている。
【0017】
図2に示すように遊星歯車減速機構29は、上記太陽歯車67と、セットプレート57と太陽歯車67との間に配置されて、セットプレート57に形成された内歯69と太陽歯車67とに夫々噛合する複数の遊星歯車71とを備え、遊星歯車71は支軸73を介してキャリア51に回転可能に支持され、キャリア51は軸受75,77を介してセットプレート13,57との間で回転可能に支持されている。
【0018】
そして、キャリア51に、動力伝達機構17の駆動歯車79が回り止め嵌合されている。
図1及び図3に示すように動力伝達機構17は、前記スプール軸駆動歯車19と上記駆動歯車79、そして、スプール軸駆動歯車19と駆動歯車79との間に配置されてこれらに噛合する大歯車81とで構成されている。そして、図2に示すように大歯車81は、セットプレート13に設けた筒状の支持部83に軸受85を介して回転可能に支持されているが、大歯車81の中央に設けた筒状部86の内周には、セットプレート57に軸支された一方向クラッチ87の外輪89が回り止め嵌合されており、ハンドル23の巻取り操作時に当該一方向クラッチ87の楔作用で大歯車81の回転が阻止されて、その反力でハンドル23の駆動力が、後述する遊星歯車減速機構(動力伝達機構)91を介してスプール11に伝達されるようになっている。
【0019】
そして、図1に示すようにスプール軸9は、スプール11の中央を貫通してその他端側が側板7内に突出し、その突出端に、スプール駆動モータ21の駆動力とハンドル23操作の回転力をスプール11に伝達させる第2の遊星歯車減速機構91が装着されている。
従来と同様、この遊星歯車減速機構91は、スプール軸9の突出端に取り付けられた太陽歯車93とこれに噛合する複数の遊星歯車95、そして、スプール11の一端に刻設された内歯歯車97等からなり、内歯歯車97に遊星歯車95が噛合している。そして、遊星歯車95は支軸99を介してキャリア101に取り付けられており、キャリア101はスプール11に取り付けたブラケット103に嵌合し、軸受105を介してスプール軸9に回転可能に支持されている。
【0020】
また、図1中、23は既述した釣糸巻取り操作用のハンドルで、当該ハンドル23は側板7に回動可能に挿着したハンドル軸107の側板外突出端に連結されており、ハンドル軸107にはラチェット109が側板7内で固着され、更にドライブギヤ111が回転可能に取り付けられている。そして、ドライブギヤ111とハンドル軸107は、ハンドル軸107に装着した周知のドラグ装置113で摩擦結合されており、ドラグ装置113はドラグ力調節レバー115の操作でドラグ力が調節できるようになっている。
【0021】
そして、既述したようにハンドル23の巻取り操作時に、一方向クラッチ87の楔作用でスプール軸駆動歯車19に噛合する大歯車81の回転が阻止されるため、ハンドル23の回転力が前記遊星歯車減速機構91からスプール11に伝達されて、スプール11が巻取り方向に回転するようになっている。
また、図示しないが上記ラチェット109には、周知の図示しないばねで付勢された係止爪が係止しており、斯様にラチェット109に係止爪が係止してスプール11の逆転止めが図られている。
【0022】
更に本実施形態に係る電動リール117には、既述した機械式変速装置27に加え、特許第2977978号公報で開示された電動リールと同様の電気式変速装置が装着されており、図1に示すようにハンドル23側の側板7の側部前方に形成された筒状部119に、レバー形状のモータ出力調節体(以下、「パワーレバー」という)121が、リール本体3の前後方向へ所定の角度(例えば、125°の範囲)に亘って回転操作可能に取り付けられている。
【0023】
パワーレバー121は、筒状部119に内蔵されたポテンショメータ123の操作軸125に連結されており、図5に示すようにパワーレバー121の回転操作によるポテンショメータ123の抵抗値の変化が、リール本体3上部の制御ボックス127内に装着したマイクロコンピュータ129に入力されている。
そして、マイクロコンピュータ129のCPUは、パワーレバー121の変位量に応じたパルス信号のデューティ比として、モータ駆動電流通電時間率をスプール駆動モータ21のモータ駆動回路130中に接続したパワーモス(スィッチング素子)131で可変制御して、スプール駆動モータ21のモータ出力を増減調節するようになっている。
【0024】
一方、図1に示すように側板7の側部後方には、側板7内に装着された周知のクラッチ機構133を操作するクラッチレバー135が下方向へ押圧操作可能に取り付けられており、当該クラッチレバー135の押圧操作で、クラッチ機構133がクラッチON状態からクラッチOFF状態に切り換わるようになっている。
そして、このクラッチOFF状態でハンドル23を巻取り方向へ回転させると、図示しない周知の復帰機構を介してクラッチ機構133がクラッチON状態に復帰するように構成されており、このクラッチレバー135とハンドル23のクラッチON/OFFの切換え操作でスプール11が釣糸巻取り状態と釣糸繰出し状態とに切り換わって、スプール11へのスプール駆動モータ21やハンドル23の回転力が伝達/遮断されるようになっている。
【0025】
また、図1中、137はスプール11の回転数とその回転方向を検出する回転検出手段で、当該回転検出手段137は、セットプレート13に装着されたホール素子やリードスイッチからなる回転検出センサ139と、これに対向してスプール11の一端側周縁部に固着された複数のマグネット141とで構成されており、図5に示すように回転検出センサ139はマイクロコンピュータ129のCPUに接続されている。
【0026】
而して、CPUは、特開平5−103567号公報で開示された糸長計測プログラムと同様、回転検出センサ139から出力されるスプール11の正転,逆転の判定信号を取り込んで釣糸の繰出しか巻取りかを判定すると共に、回転検出センサ139から取り込むスプール11の回転パルス信号をカウントして、この計数値を基にマイクロコンピュータ129のROMに記憶された糸長計算式を演算実行するようになっている。
【0027】
そして、CPUはその演算結果(糸長)を、制御ボックス127の操作パネル143上に設けた表示器145に表示させるようになっており、釣人は斯かる表示を確認し乍ら、所定の水深に仕掛けを繰り出したり、ハンドル23やパワーレバー121の操作で釣糸を巻き取ることが可能である。
更に、図6に示すように操作パネル143上には、表示器145に隣接してハンドル23側にリセットスイッチ147と棚メモスイッチ149が上下に装着され、また、反ハンドル23側に変速HI/LOWスイッチ151が装着されており、図5に示すようにこれらのスイッチ147,149,151はマイクロコンピュータ129に接続されている。
【0028】
棚メモスイッチ149は棚位置の設定に使用するもので、既述したように釣糸の繰出しや巻取りに伴い、CPUは回転検出センサ139から取り込むスプール11の回転パルス信号を基に糸長を求めて表示器145に表示させるが、図6に示すように表示器145の上カラ表示部153に水面からの仕掛けの水深が、そして、棚カラ表示部155に棚からの仕掛けの距離が上下2段に並列して大きく表示されるようになっている。
【0029】
そして、実釣の開始時に、釣糸が竿先から水面まで繰り出された処で釣人がリセットスイッチ147を操作すると、上カラ表示部153の表示値が「0.0」にリセットされるようになっている。
この後、釣人が釣糸を繰り出していくと、スプール11の回転に伴い、CPUで演算,計測された糸長値が上カラ表示部153に表示されるが、釣糸が例えば95.5m繰り出された処で釣人が棚メモスイッチ149を操作すると、棚カラ表示部153に「0.0」が表示されて棚位置が設定され、以後、図6に示すように棚位置から例えば15mの釣糸の巻取りに伴う仕掛けの距離と水面からの繰出し量(水深)が、棚カラ表示部153と上カラ表示部155に夫々表示されるようになっている。
【0030】
次に、変速HI/LOWスイッチ151の機能について説明すると、既述した機械式変速装置27は、変速HI/LOWスイッチ151の手動操作で低速用減速歯車機構35による低速状態(LOW)と、高速用減速歯車機構39による高速状態(HI)とに交互に切り換わるようになっている。
即ち、マイクロコンピュータ129は、変速HI/LOWスイッチ151が操作されると、先ず、スプール駆動モータ21の回転力を高速用減速歯車機構39を介して高速状態でスプール11に伝達させるべく、モータ駆動回路130に指令を送出して、図4の如くスプール駆動モータ21を逆転方向へ駆動させるようになっている。
【0031】
この場合、スプール駆動モータ21は、パワーレバー121の操作量に応じたモータ出力で駆動し、パワーレバー121がモータ停止状態にあるとき、変速HI/LOWスイッチ151を操作してもスプール駆動モータ21は駆動しない。
而して、斯様にスプール駆動モータ21が逆転すると、既述した変速装置27の構成から、図4に示すようにピニオン33に噛合する低速用歯車37と高速用歯車41が共に正転し、高速用減速歯車機構39側の一方向クラッチ49の楔作用で高速用歯車41の回転が回転軸47に伝わる。そして、低速用減速歯車機構35側の一方向クラッチ45は低速用歯車37の回転を回転軸43に伝えず、回転軸47が、モータ軸31の回転速度とピニオン31と高速用歯車41とのギヤ比に対応した回転速度で高速用歯車41と共に正転する。
【0032】
このように回転軸47が正転すると、図4に示すようにこれに回り止め嵌合された大歯車65が正転し、これと噛合する小歯車63が逆転するため、小歯車63が回り止め嵌合された回転軸43が逆転し、この時、回転軸47の回転速度は大歯車65と小歯車63とのギヤ比に対応した大きさだけ増幅されて小歯車63から回転軸43に伝えられる。
従って、回転軸43は低速状態より速い速度で回転し、増幅されたスプール駆動モータ21の回転力が回転軸43から太陽歯車67へと伝達され、遊星歯車減速機構29,動力伝達機構17を介してスプール軸9へと伝達される。
【0033】
そして、パワーレバー121の操作でモータ出力が増減調節されて、スプール駆動モータ21の回転力が高速用減速歯車機構39を介してスプール11に伝達され、パワーレバー121をモータ停止状態に操作した後、パワーレバー121を再度操作しても、変速HI/LOWスイッチ151を操作しない限り、スプール駆動モータ21の回転力は高速用減速歯車機構39を介してスプール11に伝達されるようになっている。
【0034】
一方、この高速状態で変速HI/LOWスイッチ151を操作すると、マイクロコンピュータ129は、モータ駆動回路130に指令を送出してスプール駆動モータ21を一旦停止させた後、図3の如く正転させるようになっている。
而して、斯様にスプール駆動モータ21が正転すると、ピニオン33に噛合する低速用歯車37と高速用歯車41が共に逆転するが、一方向クラッチ45のみが低速用歯車37の回転を回転軸43に伝えるため、回転軸43はモータ軸31の回転速度及びピニオン33と低速用歯車37とのギヤ比に対応して、低速用歯車37と共に図4の高速状態より遅い速度で回転し、このスプール駆動モータ21の回転力が回転軸43から太陽歯車67へと伝達され、遊星歯車減速機構29,動力伝達機構17を介してスプール軸9へと伝達される。
【0035】
そして、この場合も、パワーレバー121の操作でモータ出力が増減調節されて、スプール駆動モータ21の回転力が低速用減速歯車機構35を介してスプール11に伝達され、パワーレバー121をモータ停止状態に操作した後、パワーレバー121を再度操作しても、変速HI/LOWスイッチ151を操作しない限り、スプール駆動モータ21の回転力が低速用減速歯車機構35を介してスプール11に伝達されるようになっている。
【0036】
このように機械式変速装置27は、図3の低速状態にあるとき、変速HI/LOWスイッチ151の操作で、正転方向に駆動していたスプール駆動モータ21が図4の如く逆転方向へ駆動して高速状態に切り換わり、また、逆に機械式変速装置27が図4の高速状態にあるとき、変速HI/LOWスイッチ151の操作で、逆転方向に駆動していたスプール駆動モータ21が図3の如く正転方向へ駆動して低速状態に切り換わる。
【0037】
また、図6に示すように表示器145の左下には、HI/LOW表示部157が設けられており、変速HI/LOWスイッチ151による機械式変速装置27の高速状態と低速状態の切換えが、HI/LOW表示部157に「HI」,「LOW」の文字で表示されるようになっている。
そして、本実施形態は上述の如き構成に加え、スプール駆動モータ21の焼損防止を図り乍ら、モータ性能を十分に引き出しての自動変速を可能とするため、図5に示すようにモータ駆動回路130中のパワーモス131に温度センサ159を直接取り付けたことを特徴としており、温度センサ159で検出された温度信号は、図示しない増幅器を介してマイクロコンピュータ129に入力されている。
【0038】
而して、マイクロコンピュータ129のROMには、スプール駆動モータ21の焼損危険温度(例えば70℃)に対応して設定した設定温度(例えば50℃)が予め記憶されている。
一般的にスプール駆動モータ21は、パワーレバー121の操作で高出力で駆動して、その駆動力が高速用減速歯車機構39からスプール11に伝達されて釣糸が高速で巻き取られている場合や、高速用減速歯車機構39を介してスプール駆動モータ21が長時間継続的に使用されているときに異常過熱する虞がある。
【0039】
そこで、CPUは、スプール駆動モータ21の駆動力が高速用減速歯車機構39を介してスプール11に伝達されているとき(スプール駆動モータ21が図4の如く逆転方向へ駆動しているとき)、前記設定温度と温度センサ159からの検出結果を比較し、検出結果が設定温度に達していると判定すると、モータ駆動回路130に指令を送出してスプール駆動モータ21を正転方向へ反転させるようになっており、斯様にスプール駆動モータ21が正転方向へ反転すると、既述したように機械式変速装置27が高速用減速歯車機構39による高速状態から、低速用減速歯車機構35による低速状態に自動的に切り換わることとなる。そして、この自動変速によって、前記HI/LOW表示部157の表示が「HI」から「LOW」に切り換わるようになっている。
【0040】
そして、斯かる低速状態から機械式変速装置27の高速状態への復帰は、既述した変速HI/LOWスイッチ151の手動操作で行うように構成されている。
本実施形態に係る電動リール117はこのように構成されているから、クラッチレバー135のクラッチOFF操作で釣糸がスプール11から繰り出され、また、ハンドル23の巻取り方向への回転操作やクラッチレバー135のクラッチON操作でクラッチ機構133がクラッチON状態に復帰して、パワーレバー121によるスプール駆動モータ21の巻取り駆動やハンドル23の巻取り操作でスプール11に釣糸が巻回され、釣糸の繰出しや巻取りに伴い、回転検出手段137の検出値を基に糸長が計測されて表示器145に表示されるが、既述したように変速HI/LOWスイッチ151の手動操作で、機械式変速装置27が低速用減速歯車機構35による低速状態と高速用減速歯車機構39による高速状態とに切り換わる。
【0041】
そして、既述したように、パワーレバー121の操作で駆動制御されるスプール駆動モータ21の駆動力が、低速用減速歯車機構35を介して遊星歯車減速機構29,動力伝達機構17,スプール軸9,遊星歯車減速機構91へと伝達されると、スプール11は低速で回転し、また、スプール駆動モータ21の駆動力が、高速用減速歯車機構39を介して遊星歯車減速機構29,動力伝達機構17,スプール軸9,遊星歯車減速機構91へと伝達されると、スプール11は高速で回転する。
【0042】
また、スプール駆動モータ21の駆動力が高速用減速歯車機構39を介してスプール11に伝達されているとき、CPUは、ROMに設定,記憶した設定温度と温度センサ159からの検出結果を比較し、検出結果が設定温度以上であると判定すると、モータ駆動回路130に指令を送出してスプール駆動モータ21を反転させる。
而して、斯様にスプール駆動モータ21が反転すると、機械式変速装置27は高速用減速歯車機構39による高速状態から低速用減速歯車機構35による低速状態に自動的に切り換わって、スプール駆動モータ21の異常過熱による焼損が防止される。
【0043】
このように本実施形態は、スプール駆動モータ21の温度が設定温度(50℃)に達した処で、機械式変速装置27によるスプール駆動モータ21の動力伝達状態を高速状態から低速状態に切り換えるように構成したので、スプール駆動モータ21の異常過熱による焼損防止を図ってその保護を図り乍ら、特許文献1,2の従来例に比し、リール全体を大型化,重量化することなく、モータ性能を十分に引き出しての高,低速の自動変速が可能となった。
【0044】
尚、本実施形態では、パワーモス131に温度センサ159を直接取り付けたが、スプール駆動モータ21に温度センサ159を直接取り付けて同様なモータ制御を行ってもよく、斯かる実施形態によっても、所期の目的を達成することが可能である。
図7は請求項2の一実施形態に係る電動リールの制御ブロック図を示し、本実施形態は、釣糸の巻取り速度を基に前記機械式変速装置を切り換えてスプール駆動モータの保護を図ったもので、マイクロコンピュータの制御プログラムを除き、その他の構成は図1の実施形態と同一であるため、それらについての説明は省略し、同一のものは同一符号を以って表示する。
【0045】
図7中、129-1は制御ボックス127内に装着されたマイクロコンピュータで、前記マイクロコンピュータ129と同様、マイクロコンピュータ129-1のCPUは、釣糸の繰出しや巻取りに伴い、回転検出センサ139から取り込むスプール11の回転パルス信号を基に糸長を求めて表示器145に表示し、また、棚メモスイッチ149の操作で棚位置を設定したりパワーレバー121の操作に応じモータ出力を制御したり、変速HI/LOWスイッチ151の手動操作でスプール駆動モータ21を正逆両方向へ回転させて、機械式変速装置27を低速用減速歯車機構35による低速状態(LOW)と、高速用減速歯車機構39による高速状態(HI)とに交互に切り換えるように構成されているが、CPUは、更にタイマ161で計測した単位時間当たりのスプール11の回転数から、釣糸の巻取り速度を演算,計測するようになっている。
【0046】
そして、マイクロコンピュータ129-1のROMには、以下の設定条件[1],[2]が設定,記憶されている。
設定条件[1]
スプール駆動モータ21の駆動力が高速用減速歯車機構39を介してスプール11に伝達されているとき(スプール駆動モータ21が図4の如く逆転方向へ駆動しているとき)、例えば0.5m/s以下の巻取り速度が所定時間(10s)継続すると、スプール駆動モータ21を反転させて機械式変速装置27を高速状態から低速状態に切り換える。
【0047】
設定条件[2]
スプール駆動モータ21の駆動力が低速用減速歯車機構35を介してスプール11に伝達されているとき(スプール駆動モータ21が図3の如く正転方向へ駆動しているとき)、例えば1m/s以上の巻取り速度が所定時間(10s)継続すると、スプール駆動モータ21を反転させて機械式変速装置27を低速状態から高速状態に切り換える。
【0048】
而して、マイクロコンピュータ129-1のCPUは、実釣時に演算,計測している巻取り速度と上記設定条件[1],[2]とを比較して、計測値が各設定条件[1],[2]に一致すると、スプール駆動モータ21の回転制御を行って、機械式変速装置27を高速動力伝達状態または低速動力伝達状態に自動的に切り換えるようになっている。
このように本実施形態は、釣糸の巻取り速度を基に、機械式変速装置を高速状態と低速状態とに交互に切り換えてスプール駆動モータ21の保護を図ったもので、本実施形態によっても、特許文献1,2の従来例に比し、リール全体を大型化,重量化することなく、モータ性能を十分に引き出しての高,低速の自動変速が可能となる。
【0049】
尚、図7の実施形態では、タイマ161で計測した単位時間当たりのスプール11の回転数から、釣糸の巻取り速度を演算,計測したが、タイマ161で計測した単位時間当たりの釣糸の巻取り量から、釣糸の巻取り速度を演算,計測してもよい。
図8は請求項3の一実施形態に係る電動リールのモータ駆動回路を示し、以下、本実施形態を図面に基づいて説明するが、図1の実施形態と同一のものは同一符号を以って表示する。
【0050】
図に於て、163はスプール駆動モータ21のモータ駆動回路165に接続されたマイクロコンピュータのCPUで、図1の実施形態と同様、CPU163は、変速HI/LOWスイッチ151の手動操作でスプール駆動モータ21を正逆両方向へ回転させて、機械式変速装置27を低速用減速歯車機構35による低速状態(LOW)と、高速用減速歯車機構39による高速状態(HI)とに交互に切り換えるように構成されている。
【0051】
即ち、図示するようにモータ駆動回路165中には、4つのパワーモスP1,P2,P3,P4が装着されると共に、パワーモスP1とスプール駆動モータ21との間に熱動子(例えば、ヒューズ部材)167が組み込まれている。
そして、変速HI/LOWスイッチ151を操作すると、先ず、CPU163は、パワーモスP1,P2をONにしてパワーモスP3,P4をOFFにするように構成されており、斯様にパワーモスP1,P2,P3,P4がON/OFF制御されると、熱動子167を介してスプール駆動モータ21に電流が通電されてスプール駆動モータ21が図4の如く逆転方向へ駆動するため、その駆動力が前記高速用減速歯車機構39を介してスプール11に伝達されるようになっている。
【0052】
また、斯かる高速状態で変速HI/LOWスイッチ151が操作されると、CPU163は、パワーモスP1,P2をOFFにしてパワーモスP3,P4をONにするように構成されており、斯様にパワーモスP1,P2,P3,P4がON/OFF制御されると、逆方向の電流がスプール駆動モータ21に通電されてスプール駆動モータ21が図3の如く正転方向へ駆動するため、その駆動力が前記低速用減速歯車機構35を介してスプール11に伝達されるようになっている。
【0053】
そして、高速用減速歯車機構39による高速状態下で、過負荷状態が所定以上連続すると、前記熱動子167の内部が開放状態となってスプール駆動モータ21への通電が停止するようになっている。そして、パワーモスP1と熱動子167との間には電圧検出器R1が装着されており、電圧検出器R1がスプール駆動モータ21への通電停止を検出すると、CPU163は、パワーモスP1,P2をOFFにしてパワーモスP3,P4をONに切り換えるように構成されており、斯様にパワーモスP1,P2,P3,P4がON/OFF制御されると、既述したように機械式変速装置27による動力伝達状態が高速状態から低速状態に自動的に切り換わることとなる。
【0054】
また、斯かる低速状態から機械式変速装置27の高速状態への復帰は、変速HI/LOWスイッチ151の手動操作で行うようになっている。
このように本実施形態は、モータ駆動回路165中に熱動子167を装着し、この熱動子167の動作で機械式変速装置27を高速動力伝達状態から低速動力伝達状態に自動的に切り換えてスプール駆動モータ21の保護を図ったもので、既述した各実施形態と同様、本実施形態によっても所期の目的を達成することが可能で、リール全体を大型化,重量化することなく、モータ性能を十分に引き出しての高,低速の自動変速が可能となる。
【0055】
尚、既述した各実施形態は、特許文献2と同様の機械式変速装置27を備えた電動リールに本発明を適用したものであるが、特許文献1に開示された遊星歯車減速機構からなる機械式変速装置(ドラグの如き摩擦制動機構を除いた機械式変速装置)を装着した電動リールに本発明を適用できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】請求項1の一実施形態に係る電動リールの一部切欠き平面図である。
【図2】図1に示す電動リールの要部拡大断面図である。
【図3】機械式変速装置と遊星歯車減速機構,動力伝達機構の歯車の回転方向を説明する模式図である。
【図4】機械式変速装置の歯車の回転方向を説明する模式図である。
【図5】電動リールの制御ブロック図である。
【図6】制御ボックスの平面図である。
【図7】請求項2の一実施形態に係る電動リールの制御ブロック図である。
【図8】請求項3の一実施形態に係る電動リールのモータ駆動回路図である。
【符号の説明】
【0057】
3 リール本体
5,7 側板
9 スプール軸
11 スプール
17 動力伝達機構
19 スプール軸駆動歯車
21 スプール駆動モータ
23 ハンドル
27 機械式変速装置
29,91 遊星歯車減速機構
31 モータ軸
33 ピニオン
35 低速用減速歯車機構
37 低速用歯車
39 高速用減速歯車機構
41 高速用歯車
43,47 回転軸
45,49,87 一方向クラッチ
63 小歯車
65,81 大歯車
67 太陽歯車
79 駆動歯車
117 電動リール
121 パワーレバー
129,129-1 マイクロコンピュータ
130,130-1,165 モータ駆動回路
131,P1,P2,P3,P4 パワーモス
133 クラッチ機構
135 クラッチレバー
137 回転検出手段
145 表示器
147 リセットスイッチ
149 棚メモスイッチ
151 変速HI/LOWスイッチ
157 HI/LOW表示部
159 温度センサ
161 タイマ
163 CPU
167 熱動子
R1 電圧検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に回転自在に支持されたスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータと、スプールの駆動系に装着され、スプールへのスプール駆動モータの動力伝達状態を高速動力伝達状態と低速動力伝達状態とに切換え可能な機械式変速装置を備えた魚釣用電動リールに於て、
上記スプール駆動モータまたは当該スプール駆動モータへの電力供給部に温度検出手段を装着し、当該温度検出手段の検出結果に基づき、前記機械式変速装置を高速動力伝達状態または低速動力伝達状態に自動的に切換え可能としたことを特徴とする魚釣用電動リール。
【請求項2】
リール本体に回転自在に支持されたスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータと、スプールの駆動系に装着され、スプールへのスプール駆動モータの動力伝達状態を高速動力伝達状態と低速動力伝達状態とに切換え可能な機械式変速装置を備えた魚釣用電動リールに於て、
釣糸の巻取りで回転する回転体の回転速度を検出する回転速度検出手段を備え、当該回転速度検出手段の検出結果に基づき、前記機械式変速装置を高速動力伝達状態または低速動力伝達状態に自動的に切換え可能としたことを特徴とする魚釣用電動リール。
【請求項3】
リール本体に回転自在に支持されたスプールを巻取り駆動するスプール駆動モータと、スプールの駆動系に装着され、スプールへのスプール駆動モータの動力伝達状態を高速動力伝達状態と低速動力伝達状態とに切換え可能な機械式変速装置を備えた魚釣用電動リールに於て、
上記スプール駆動モータのモータ駆動回路に熱動子を装着し、当該熱動子の動作を基に、前記機械式変速装置を高速動力伝達状態または低速動力伝達状態に自動的に切換え可能としたことを特徴とする魚釣用電動リール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−246813(P2006−246813A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69502(P2005−69502)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】