説明

魚類の体色・肉質改善剤及び体色・肉質の改善方法

【課題】主として養殖魚類の体表色及び肉質を改善する。
【解決手段】この発明の体色・肉質改善剤は、多種類の生物を灰化して抽出した生物ミネラルと、該生物ミネラルの含有成分と略同一の成分になるように配合された配合ミネラルの少なくとも一方を含有し、魚類に経口摂取させることにより体表色の悪化を抑制し、可食部の歩留まりを高くしつつ過酸化脂質含有量を抑制させて魚類の体色・肉質を改善するものであって、魚類の輸送に際して用いるもの以外である。
前記ミネラルは飼料又は飲用水へ添加して用いるほか、少なくともナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムに加え数種の微量ミネラルを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、食用養殖魚および観賞用魚類等の魚類の体表色の悪化を抑制する飼料および抑制方法、かつ可食部の歩留まりを高くしつつ過酸化脂質含有量が抑制された肉質に改善する魚類の体色・肉質改善剤及び体色・肉質の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類の体色については、ニシキゴイなどの観賞用魚類の体色・模様の鮮明化に加えて、食用となる養殖魚についても、マダイの体側部の鮮赤色や眼の上部および鰭にみられる青系蛍光色の鮮明化、シマアジ体側部の黄色い帯やヒラメ無眼側のくすみのない白色等、体色改善を求められる魚種や改善部位も増えている。一方、肉質では旨味や食感の低下、身割れの発生、日持ちの低下、血合筋の変色等、様々な品質に関する要望がある。魚類、特に養殖魚は過食や餌中に含まれるビタミンやミネラルなどの微量必須成分の過不足、運動不足等によって、外見、体色や肉色の悪化、旨味や食味・食感の低下が生じやすい。
【0003】
また、養殖魚は天然魚と比較して腹腔に多量の脂肪を蓄積しているため、食味を落としている一因とされているほか、体重に対する内臓の重量比が高く可食部の歩留まりが低い。さらに、内臓や肉質部に多量の脂質や糖を蓄積、あるいは体各部の脂質や糖の代謝機構に乱れが生じたりすることで、病気に掛かりやすくなり、可食部の肉質やその保存性が悪くなる等の問題も起こっている。
【0004】
特にドライタイプの配合飼料を投与して育成した魚では、外観、体色の悪さ、肉質の低下が生じやすい傾向にあり、健全な食用養殖魚、観賞用魚類等の魚類の育成に基づく適切な品質の改善、向上が望まれている。
【0005】
上記問題を改善するものとして、特許文献1、特許文献2に示す体色改善剤、特許文献3、特許文献4に示す肉質改善剤が公知になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−176799号公報(米ぬか:フェルラ酸)
【特許文献2】特開2007−000152号公報(トウガラシ)
【特許文献3】特開2008−125511号公報(クコの実:ゼアキサンチン)
【特許文献4】特開2008−173044号公報(ローズヒップ)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらに示すものは米ぬかやトウガラシ、クコの実、ローズヒップなどを原材料とし、それらを直接あるいはそれらに含まれる成分の一部を高効率に抽出し摂取させるものであるが、たとえ食品添加物として認可されており人間に対して経口摂取等の安全性が確認されている成分であるとしても、あくまで人間に対する安全性のみの検証であり、魚類が本来摂取しない物であるため、魚類にとっては必ずしも安全であるとは言いきれない。
【0008】
また、これらの成分を摂取、蓄積した魚類を最終的に人間が食する訳であるが、このように人間への直接的な経口摂取に関する安全性が確認されている成分であっても、これを魚類を介して(濃縮された成分を)人間が摂取する場合の安全性に関しては十分な知見があるとは言いがたい。さらにこれらは全て有機物である、あるいは有機物を含んでいるため、劣化しやすく、品質維持・保存にも難点がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決し、魚類が元来栄養素として必要とするミネラルを効率よく摂取でき、体表色の悪化を抑制し、かつ可食部の歩留まりを高くしつつ過酸化脂質含有量が抑制された肉質に改善できる剤を提供することを目的とする。
【0010】
但し、本発明者等はこの発明の完成に先立ち、本発明に用いるミネラルを経口摂取させ又はミネラル水溶液に浸漬することにより、水生動物をストレスを解消又は予防しながら輸送する方法につき特願2009−101033号として特許出願している。このため本発明は魚介類等の輸送時に適用される該出願の発明と重複する部分をその対象から除くものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の魚類の体色・肉質改善剤は、第1に多種類の生物を灰化して抽出した生物ミネラルと、該生物ミネラルの含有成分と略同一の成分になるように配合された配合ミネラルの少なくとも一方を含有し、魚類に経口摂取させることにより体表色の悪化を抑制し、可食部の歩留まりを高くしつつ過酸化脂質含有量を抑制させて魚類の体色・肉質を改善するものであって、魚類の輸送に際して用いるもの以外であることを特徴としている。
【0012】
第2に、前記ミネラルを飼料又は飲用水へ添加して用いることを特徴としている。
【0013】
第3に、前記ミネラルが少なくともナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムに加え数種の微量ミネラルを含むことを特徴としている。
【0014】
また上記体色・肉質改善剤を用いた本発明の方法は、多種類の生物を灰化して抽出した生物ミネラルと、該生物ミネラルの含有成分と略同一の成分になるように配合された配合ミネラルの少なくとも一方を含有し、魚類に経口摂取させることにより体表色の悪化を抑制し、可食部の歩留まりを高くしつつ過酸化脂質含有量を抑制させて魚類の体色・肉質を改善する方法であって、魚類の輸送に際して適用される方法以外であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
以上のように構成される本発明によれば魚類が元来栄養素として必要とするミネラルを効率よく摂取でき、かつ免疫機能の向上やストレスを軽減させる作用をもつ生物ミネラル又は配合ミネラルを飼料に添加して経口摂取することにより、魚類の健全な育成と疾病の予防または治療を可能にしつつ、体色・肉質を改善させることができるという効果がある。
【0016】
具体的には次のような効果を奏するものである。
(1)魚類の体表色を本来その魚類が持つ色彩や鮮明度に保持できるので鑑賞魚や食用魚の外観による品質向上が期待でき、このことは食用魚類にとっては肉質や健康度の品質指標にもなるため養殖魚の高品質高価格化の実現にもなる。
(2)魚類では生物ミネラルの使用により体重、体調共に増加するのに少なくとも肥満度や内臓重量は低下し、可食部の歩留まりの上昇のほか、食感や味覚上での品質向上にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に用いた生物ミネラルを分析電子顕微鏡により定性分析した結果を示す図である。
【図2】本発明に用いた生物ミネラルをPIXE(荷電粒子X線放射化分析:Particle Induced X-ray Emission)法により定性分析した結果を示す図である。
【図3】生物ミネラルの投与がカンパチ筋肉中の総脂質および過酸化脂質含量に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】生物ミネラルの投与がカンパチ筋肉中のタンパク質および非タンパク(エキス)態窒素含量に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5】生物ミネラルを経口投与したヒラメと通常飼育したヒラメにストレスを負荷した後の、それぞれのヒラメの血漿中のコルチゾル濃度の経時変化を示すグラフである。
【図6】生物ミネラルを経口投与、または水溶性生物ミネラル末の水溶液への浸漬処理しつつ擬似輸送試験を行った際の、ネオンテトラ体内の血漿中コルチゾル濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、魚類が元来栄養素として必要とするミネラルを効率よく摂取でき、かつ免疫機能を向上させる作用をもつ生物ミネラル又は配合ミネラルを魚類に経口摂取させることにより、体色・肉質を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
なお魚類とは、例えば海面養殖魚であるブリ(ハマチ)、タイ(マダイ・イシダイ)、ヒラメ、トラフグ、カンパチ、シマアジ、ヒラマサ等、淡水養殖魚であるウナギ、コイ、フナ等の養殖魚やおよび錦鯉、キンギョ、グッピー、ネオンテトラなどの観賞魚のことである。
【0020】
上記ミネラルは、生物ミネラルと配合ミネラルの内の一方のみから構成してもよいし、両方から構成してもよい。上記生物ミネラルは多種類の生物を灰化して抽出したものであり、上記配合ミネラルは上記生物ミネラルの含有成分と略同一の成分になるように配合されたものである。
【0021】
このミネラルを全体に対して0.005〜5%の割合で添加する。例えば飼料(餌)にミネラルを添加して混合した混合飼料1kgには0.05〜50gのミネラルが含有される。この添加飼料を魚類に与えることにより、魚類に上記ミネラルを経口摂取させる。1日あたりの給餌回数は複数回で概ね2〜3回とし、これを数日間から数十日間繰返す。魚類が飽食状態となるように、毎回、魚類に餌を与えてもよい。
【0022】
なお、上記ミネラルを魚類に直接経口摂取させてもよい。
【0023】
このようにして、上記ミネラルを摂取した魚類は、体内あるいは体表面における直接的な酸化反応の抑制、ストレスの軽減、種々の生体防御機能の向上等により、体色・肉質を改善させることが可能になる。
【0024】
次に、上記生物ミネラルの生産方法及び成分について詳述する。生物ミネラルの主成分は、多種類でそれぞれが生物体中に微量に存在する元素からなる主として野生生物由来のミネラルである。
【0025】
魚介類等の動物や海草・海藻類、陸上の植物等の多種類の生物を灰化して上記生物ミネラルを抽出する方法は古くから特開昭51−121562号、特公昭61−8721号、特公平6−92273号等に示される方法が知られている。また上記のように灰化抽出した生物ミネラルは、加熱によって気化又は昇華された元素を除き、灰化した生物が含有する成分を全て含んでいる。
【0026】
原料としては野草類(クズ、イタドリ、ドクダミ、ヨモギ等)、樹木枝葉類(マツ枝葉、ヒノキ枝葉、スギ枝葉、イチョウ葉等)、海藻類(ホンダワラ、コンブ等)、竹、熊笹、苔類、シダ類、シジミ、カニ殻等のできるだけ人工的に育成されたものではなく、自然の条件下で育った野性のものが、多様なミネラル成分を比較的多量に含む点で望ましい。これらの原料を原材料毎に洗浄及び天日乾燥後、200〜2000℃の温度下で1次的に灰化させ、さらにその灰化物を同様に加熱して残存未燃焼有機物を除去する2次加熱工程を経て、粗粉砕後20メッシュの篩にかけて選別し、再度の過熱・放冷後、金属探知機による金属除去工程を経て、微粉砕して上記生物ミネラルを得る。
【0027】
多種類の原料を用いることにより、ミネラル成分の種類を豊富にし、生物ミネラルを生産毎に概ね同一の成分とすることができる。また上記灰化物は多種類の乾燥原料を予め得ようとする所定のミネラルバランスに対応した配分量で混合して灰化してもよいが、原料毎に灰化したものを後で略等量ずつ又は上記所定のミネラルバランスを考慮して適量ずつ配合して用いてもよい。後者の方法によれば、生産毎に得られる生物ミネラルの成分がより均一化される。上記方法によって得られた生物ミネラルの定性データは図1、図2に示す通りである。
【実施例1】
【0028】
<生物ミネラルの経口投与による体色の改善実験>
観賞魚として、鮮やかな浅葱色(あさぎいろ:薄い藍色)をベースに、朱(赤)と白の模様が美しいキンギョ(朱文金)を、また養殖魚として、マダイ、シマアジ、ヒラメを用いて、表1に示した生物ミネラルの投与試験を実施した。
【0029】
【表1】

【0030】
<結果>
市販の飼料を投与した群に比べて、同飼料に0.25%の割合で生物ミネラルを添加した飼料を投与した群では、3週間後には、肉眼的に朱文金の色模様がくっきりと出るようになったほか、ヒラメ無眼側の黒化率が著しく低下することが分かった(表2)。また、生物ミネラル投与から数日以内でも、マダイの眼の上部および鰭にみられる青系蛍光色が鮮明化したり、シマアジ体側部の黄色い帯が明瞭になったりすることが認められた。
【0031】
【表2】

【0032】
<考察>
生物ミネラルには、高い還元性があることから、体内あるいは体表面における直接的な酸化反応の抑制効果、メラニン合成に関与するチロシナーゼの活性抑制効果、ストレス軽減効果があることを確認しており(実施例4,5参照)、これら負因子の影響を除去または軽減することで体色の改善に寄与しているものと考えられる。
【実施例2】
【0033】
<生物ミネラルの経口投与による肉質の改善実験1>
陸上に設置したかけ流し方式の3水槽に、平均体重約400gの養殖ブリを30尾ずつ収容し、それぞれに市販の飼料(EP)のみを投与(対照群)、同飼料に表1に示した生物ミネラルを0.25%の割合で混合したものを投与(低濃度群:生物ミネラルの日間投与量は50mg/kg体重)、同飼料に2.5%の割合で混合したものを投与(高濃度群:生物ミネラルの日間投与量は500mg/kg体重)して、39日間の飼育試験を行った。給餌は1日2回、それぞれ飽食量を与えることとした。
【0034】
<結果>
魚の成長速度、筋肉の脂質含量および脂肪酸組成に統計的な有意差は認められなかったが、低濃度群や高濃度群は、対照群に比べて、赤筋内の過酸化脂質含量が有意に少なく、その量は生物ミネラルの投与量に依存して減少することが明らかとなった。また、肉眼的観察ではあるものの、低濃度群や高濃度群は、対照群に比べて内臓脂肪蓄積量も少ないことが分かった。
【実施例3】
【0035】
<生物ミネラルの経口投与による肉質の改善実験2>
海面養殖生け簀で飼育されている平均体重1200gのカンパチ(各群約5600尾)を対象とし、生物ミネラルの投与が、魚の成長速度(体重、体長)、肥満度、比内臓重量、比肝臓重量、体側部背側筋肉の含水率、タンパク質、非タンパク態窒素、総脂質、コレステロール、脂肪酸組成、過酸化脂質含有量等に及ぼす影響を調べるとともに、官能評価試験を行った。対照群には、成長に合わせて生餌・マッシュ・EPの混合比を変えた餌を週に2〜3回の頻度で投与し、ミネラル群には同餌に生物ミネラルを0.05〜0.06%の割合で添加した餌を同じく週に2〜3回の頻度で与えて(生物ミネラルの月間投与量は400〜700mg/kg体重),100日間飼育した。
【0036】
<結果>
カンパチでの試験結果として、体重、体長、肥満度、比内臓重量、比肝臓重量のデータを表3に、筋肉の総脂質やおよび過酸化脂質の含量の比較データを図3に、筋肉のタンパク質や非タンパク態窒素(ヌクレオチド類、遊離アミノ酸類、トリメチルアミンオキサイド、尿素、ベタイン等の総和量)の含量を図4に示した。
【0037】
これらの結果をまとめると、魚の成長速度、肥満度、筋肉の含水率やコレステロール含量には差がないものの、比内臓重量の低下に加え、筋肉の総脂質や過酸化脂質の含量が減少(図3)し、一方で、筋肉のタンパク質や非タンパク態窒素(ヌクレオチド類、遊離アミノ酸類、トリメチルアミンオキサイド、尿素、ベタイン等の総和量)の含量が増加(図4)することが分かった。
【0038】
また、組織的学的観察でも、個々の筋繊維が太くなる傾向がみられた。これは、生物ミネラルの投与により、魚の可食部の歩留まりが上昇することに加えて、筋肉に歯応えがでたり、必要以上の脂がつかず、旨味も高まったりすることを暗示する。
【0039】
また、筋肉中の過酸化脂質含量の減少は、魚肉の日持ち(品質の保持期間)を良くするとともに、魚のみならず、それを食する人の健康にとっても良い効果をもたらすと考えられる。官能評価試験でも、18人中16人が、生物ミネラルを投与した魚肉に高い評価を与え、その理由として、対照群に比べツヤが良い、少し透明感が勝る、食感が良い(歯応えがある・筋繊維がしっかりしていそう等を含む)、旨味が強い等を挙げている。
【0040】
【表3】

【0041】
<考察>
生物ミネラルの投与が魚の肉質を改善する機構については、生物ミネラルの投与が魚の肝臓や筋肉中の糖、窒素、脂質等の代謝に関連する酵素の活性を変化させていることが挙げられる。
【0042】
次に実施例1で考察した本発明で使用するミネラルの経口投与によるストレス軽減効果について説明する。
【実施例4】
【0043】
「ヒラメ稚魚への生物ミネラルの経口投与による生体防御活性賦活化効果およびストレス軽減効果に関する実験」
<材料及び方法>
1)供試品
本実験では表1に示した成分を有する生物ミネラルを供試品とした。
2)供試魚
ヒラメ(平均体重5.9g、平均体長85mm)200尾を水槽に導入し、1日馴致後、無作為に50尾ずつ4区(水槽)に分けた。その後3日間、表4に示す対照飼料を投与し、試験環境に馴致させ、試験に供した。
3)試験環境
試験用水槽は屋外型陸上養殖用水槽(平面4m×5m×高さ2m)を用いた。水温調節は行わず、海水温のまま水槽に海水を常時流入させた。
4)試験区の設定
供試品を含まない対照飼料を投与する対照区と、供試品を0.25%の割合で対照飼料に配合した飼料を投与するミネラル投与区の計2群を設定した。なお50尾ずつ分けた4水槽に、各試験区を4反復群ずつ割り付けて42日間(6週間)の飼育を行った。投与量は飽食を目安とし、1日の投与を3回以上に分け、残餌状況に応じ投与量を調整した。
<調査項目及び方法>
5)体重、体長
試験区間の成長の差を検証するため、試験終了後の各試験区より10尾ずつ無作為に採取し体重・体長の測定を行った。
6)生体防御活性賦活化効果の確認
生体防御能の向上が図られたか否かを確認するため、飼育6週目の生体防御活性指標として赤血球数、顆粒球数の測定および顆粒球の貪食能、顆粒球の殺菌能を示すNBT(ニトロブルーテトラゾリウム)還元能を測定した。
7)ストレス負荷試験
ストレスの軽減効果を有するかを検証するため、飼育6週目にストレスを負荷しないヒラメ5尾に加え、各区から15尾のヒラメを取り上げ、籠の中に入れた後、空中に引き上げ10分間放置するストレス負荷試験を実施した。これによりエラ呼吸が主体の魚にとっては窒息というストレスが負荷されたことになる。このようにしてストレスを負荷したヒラメは、水槽へ戻してから1、3、20時間後に取り上げ採血を行った。その後、ストレス指標となる血漿中のコルチゾル濃度の測定をコルチゾルEIAキット(OXFORD BIOMEDICAL RESEARCH社製)を用いて行った。なおコルチゾルとはストレスによって間腎腺(哺乳類の副腎皮質に相当する内分泌器官)から分泌されるホルモンでストレスが負荷されるほど値は高くなる。
【0044】
【表4】

【0045】
<結果>
1)体重、体長
試験終了後の各試験区の体重・体長を測定した結果、対照区では平均体重が48.5g、48.3gであるのに対し、ミネラル投与区では62.3g、54.7gであり、生物ミネラル投与区のほうが対照区に比べ平均体重が大きい傾向がみられた。
2)免疫指標
生体防御能の向上が図られたか否かを検証した際のヒラメの飼育6週目の生体防御活性指標を表3に示した。なお、各欄には平均値±標準偏差が示されている。表5より対照区に比べ、ミネラル投与区では、生体防御活性に関係する顆粒球数の増加および顆粒球の貪食能の上昇、顆粒球の殺菌能を示すNBT(ニトロブルーテトラゾリウム)還元能値の上昇が認められた。
3)ストレス負荷試験
ストレスの軽減効果を有するかを検証した際の、ヒラメの血漿中のコルチゾル濃度の測定結果を図5に示した。図5より、空中曝露によるストレス負荷前(0時間)においては、血漿コルチゾル濃度はミネラル投与区が対照区に比べ低値となる傾向を示した。ストレス負荷終了後の回復期間では、1時間後、3時間後および20時間後において、ミネラル投与区の血漿コルチゾル濃度は対照区のそれに対して有意に低い値となることが確認できた。
【0046】
【表5】

【0047】
<考察>
以上の結果から、ヒラメに生物ミネラルを摂取させることで、空中放置に伴うストレスが軽減、すなわち過剰なストレス応答が抑制され、ストレスに対する免疫機能が向上していることが確認できた。このことから、ストレス負荷を与える時又はその前後に生物ミネラルを摂取させることで、ストレスを軽減されることが可能となると考えられる。
【実施例5】
【0048】
「小型観賞魚(ネオンテトラ)を用いたストレス負荷試験」
<実験方法>
1)供試魚および試験区の設定
ネオンテトラ(平均体重約55mg)5尾を1試料群として,3試料群×4回サンプリング分×3試験区分=240尾を準備した。
試験区は、通常の飼料を体重の2%給餌した対照区、通常の飼料に、表1で示した生物ミネラルを0.1%添加した餌を1日当たり体重の2%給餌した区(ミネラル経口投与区)、生物ミネラルを200ppm添加した水にて3日間飼育した後、振とう時にも生物ミネラルを200ppm添加した状態で実験した区(ミネラル浸漬区)とした。
2)測定項目
観賞魚(ネオンテトラ)へのストレス負荷方法として、24℃、1秒間1回の頻度で,24時間振とう機にて振とう後、振とう終了直後、振とう終了12時間後、24時間後、72時間後に試料(5個体群)を取り上げ、5個体の魚体重量の9倍量の緩衝液(pH7.4の3mmol/LのTris−HCl緩衝液)内ですり潰した後、10,000gで遠心し,上清を2倍量のジエチルエーテルに移し入れて溶解した。その後、エーテルを揮発させ、コルチゾル濃度をコルチゾルEIAキット(Oxford Biomedical Reserch社製)で測定した。
【0049】
<結果および考察>
図6に、振とうストレス負荷に伴う体内コルチゾル含量の経時変化(ストレス負荷前の値を100とした相対値で表示)を示す。ストレス負荷直後およびストレス負荷終了から72時間後では、3区間に差は無かったが、ストレス負荷終了から12時間後においてミネラル経口投与区およびミネラル浸漬区は対照区に比べ低い傾向にあり、特にストレス負荷終了から24時間後においては、ミネラル経口投与区およびミネラル浸漬区において、対照区に比べ有意に低い値が認められた。このことから、ストレス負荷の付与中又はその前後に生物ミネラルを経口投与あるいは水溶性生物ミネラル溶液に浸漬することで、ストレス負荷を受けても回復が早まることが可能となることが示され、その免疫低下や病気発生、生残率の低下が効率よく防げると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多種類の生物を灰化して抽出した生物ミネラルと、該生物ミネラルの含有成分と略同一の成分になるように配合された配合ミネラルの少なくとも一方を含有し、魚類に経口摂取させることにより体表色の悪化を抑制し、可食部の歩留まりを高くしつつ過酸化脂質含有量を抑制させて魚類の体色・肉質を改善するものであって、魚類の輸送に際して用いるもの以外の魚類の体色・肉質改善剤。
【請求項2】
前記ミネラルを飼料又は飲用水へ添加して用いる魚類の体色・肉質改善剤。
【請求項3】
前記ミネラルが少なくともナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムに加え数種の微量ミネラルを含む魚類の体色・肉質改善剤。
【請求項4】
多種類の生物を灰化して抽出した生物ミネラルと、該生物ミネラルの含有成分と略同一の成分になるように配合された配合ミネラルの少なくとも一方を含有し、魚類に経口摂取させることにより体表色の悪化を抑制し、可食部の歩留まりを高くしつつ過酸化脂質含有量を抑制させて魚類の体色・肉質を改善する方法であって、魚類の輸送に際して適用される方法以外の魚類の体色・肉質改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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