説明

魚類感染症予防製剤、魚類用餌、菌株、魚類感染症予防方法

【課題】
抗生物質を過剰に用いずに、魚類感染症の発生を予防する手段を提供すること。
【解決手段】
本発明では、魚類の消化管内乳酸菌で、胆汁酸抵抗性及び抗菌活性を有した乳酸菌を少なくとも含有した魚類感染症予防製剤を提供する。例えば、Lactococcus lactis、Lactococcus raffinolactis、Lactobacillus fuchuensis、Streptococcus iniaeなど、淡水魚類における消化管内の優占乳酸菌や、免疫活性化作用の強い菌種であって、胆汁酸抵抗性及び抗菌活性を有した乳酸菌は、本発明に係る魚類感染症予防製剤として、有効である。これらの乳酸菌は、魚類のプロバイオティクス乳酸菌として、適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類のプロバイオティクス乳酸菌に関する。より詳細には、Lactococcus lactis、Lactococcus raffinolactis、Lactobacillus fuchuensis、Streptococcus iniae、のいずれか若しくは複数の乳酸菌を少なくとも含有した魚類感染症予防製剤、前記魚類感染症予防製剤を含有する魚類用餌、菌株、コイヘルペスウイルスなど魚類感染症の予防方法、などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトや家畜・家禽などにおいて、「プロバイオティクス」が注目されている。
「プロバイオティクス(probiotics)」は、抗生物質(antibiotics)と対比される言葉であり、腸内微生物のバランスを改善することによって宿主に有益な作用を示す生きた微生物及びそれを含む食品と定義される。
例えば、プロバイオティクスとして用いられている乳酸菌には、健康促進作用、免疫力向上作用などがあると考えられており、また、抗生物質を用いないため、安全性が高いという利点がある。
【0003】
養殖漁業などでは、高密度養殖に伴う魚類感染症の集団発生を抑制する観点などから、抗生物質などの薬剤が用いられている場合が多い。
養殖魚類に抗生物質を用いることは、食の安全性や環境保全の観点から、あまり好ましくない。
従って、魚類においても、抗生物質を過剰に用いずに、魚類感染症の集団発生を予防する手段が必要である。
【0004】
加えて、今般、コイヘルペスウイルスが流行し、コイの養殖業は、壊滅的な打撃を受けた。それにもかかわらず、コイヘルペスウイルスに対する有効な予防手段がほとんど見出されていない。
従って、コイヘルペスウイルスの感染・流行を防御する手段が早急に必要である。
【0005】
本発明に係る先行技術として、例えば、次の文献が開示されている。
特許文献1には、ヒトに用いるプロバイオティクス乳酸菌が、特許文献2には、酵母を用いる養魚飼料が、それぞれ記載されている。
【特許文献1】特開2002−335953号公報
【特許文献2】特開平8−163980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の通り、魚類においても、抗生物質を過剰に用いずに、魚類感染症の発生を予防する手段が必要である。特に、コイヘルペスウイルスなどの感染・流行を防御する手段が早急に必要である。
【0007】
そこで、本発明は、抗生物質を過剰に用いずに、魚類感染症の発生を予防する手段を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、淡水魚類における消化管内の優占乳酸菌叢を検討した結果、淡水魚類における消化管内の優占乳酸菌は、Lactococcus lactis(以下、Lc.lactisとする)、Lactococcus raffinolactis(以下、Lc.raffinolactisとする)、Streptococcus iniae(以下、St.iniaeとする)などであることを新規に見出した。
また、魚類の消化管内乳酸菌で、胆汁酸抵抗性及び抗菌活性を有した乳酸菌は、魚類の免疫力向上に有効であることを新規に見出した。
【0009】
そこで、本発明では、魚類の消化管内乳酸菌で、胆汁酸抵抗性及び抗菌活性を有した乳酸菌を少なくとも含有した魚類感染症予防製剤を提供する。
【0010】
例えば、Lc.lactis、Lc.raffinolactis、St.iniaeなど、淡水魚類における消化管内の優占乳酸菌や、Lactobacillus fuchuensis(以下、Lb.fuchuensisとする)など免疫活性化作用の強い菌種で、かつ、胆汁酸抵抗性及び抗菌活性を有した乳酸菌は、本発明に係る魚類感染症予防製剤として、有効である。
【0011】
前記乳酸菌種のうち、胆汁酸抵抗性及び抗菌活性を有した乳酸菌株の一例として、例えば、Lc.lactis h−2株(受領番号FERM AP−20473)、Lb.fuchuensis K−11株(受領番号FERM AP−20472)、St.iniae I−1株(受領番号FERM AP−20474)が挙げられる。
【0012】
これらの乳酸菌を、例えば、魚類用餌に含有(添加・配合など)させ、魚類に投与することにより、免疫を賦活させ(補体価上昇、貪食細胞活性化など)、また、飼料効率を上昇させることができる。即ち、本発明により、免疫能を高めることができるため、抗生物質を過剰に用いずに、魚類感染症の発生を予防できる可能性がある。特に、本発明は、コイヘルペスウイルスなど魚類感染症の感染・流行を予防・防御できる可能性がある。
【0013】
以下、本発明に係る用語の定義づけを行う。
【0014】
「乳酸菌」は、炭水化物を分解して乳酸を生成することにより、エネルギーを獲得する細菌を全て包含する。即ち、乳酸菌は、十数属にまたがる多くの菌種の総称であり、例えば、グラム陽性桿菌のLactobacillus属、グラム陽性球菌のStreptococcus属なども全て含まれる。
なお、「消化管内乳酸菌」は、消化管内で分離可能な乳酸菌である。
【0015】
「魚類感染症」は、コイヘルペスウイルスなどウイルス感染症のほか、細菌、真菌、寄生虫など、魚類に感染することにより、発症する疾病を全て包含する。
【0016】
「胆汁酸抵抗性」は、胆汁酸存在下で生存可能であることである。
【0017】
「抗菌活性」は、一般的な病原細菌などに対して抗菌作用を有することをいう。なお、本発明に係る抗菌活性は、一部の病原細菌に対して抗菌作用を有する場合も包含される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る乳酸菌には、魚類に対する免疫賦活作用があるため、魚類感染症の予防に有効である。
【実施例1】
【0019】
実施例1及び実施例2では、淡水魚における消化管内優占乳酸菌の検討を行った。
【0020】
魚類は、哺乳動物などと異なり、変温動物である。そのため、環境変化、例えば、水温の変化が、魚類消化管内の微生物叢に大きく影響することが予測された。そこで、実施例1では、夏季及び冬季における、淡水魚消化管内の優占乳酸菌叢の解析を行った。
【0021】
実験手順の概要を次に示す。
まず、養魚場のコイを夏季及び冬季にそれぞれ捕獲し、捕獲したコイの消化管を摘出した後、消化管内容物1g(湿重量)を滅菌生理食塩水10mlに懸濁し、各段階(10〜10倍)に希釈した。
次に、この希釈液を、乳酸菌培地(GYP−BCP寒天培地)に塗布し、嫌気性培養システムアネロパック(登録商標、三菱瓦斯化学株式会社製、以下同じ)を用いて、20℃又は30℃、24時間、嫌気培養した。
そして、生えてきたコロニーをランダムに分離した後、16SrDNA解析(公知方法、以下同じ)により、菌種の同定を行った。
【0022】
その結果、夏季に採取したコイ消化管における乳酸菌優占種は、Lc.lactis、冬季に採取したコイ消化管における乳酸菌優占種は、Lc.raffinolactisであった。
【実施例2】
【0023】
次に、実施例2では、淡水魚消化管内における優占乳酸菌の通年変化について、検討した。
【0024】
養魚場のコイを、4月から翌3月まで、一ヶ月ごとに捕獲し、捕獲したコイの消化管を摘出した後、消化管内の一般細菌数と乳酸菌数、及び乳酸菌叢を解析した。また、コイ捕獲時に、養魚場の水も採取し、その水中一般細菌数、水中乳酸菌数についても、解析した。
【0025】
結果を図1に示す。
図の横軸は各月を表し、縦軸は細菌数(Bacterial counts)を対数で表す。
図中、(a)はコイ消化管内の一般細菌数、(b)はコイ消化管内の乳酸菌数、(c)は水中一般細菌数、(d)は水中乳酸菌数の結果を表す。
図中、下の表は、乳酸菌叢を表す。表中の数字は、消化管内乳酸菌における各菌種の割合(%)を示し、カッコ書きの数字は、水中乳酸菌における各菌種の割合を示す。
なお、表中の各菌種は、それぞれの菌株が、16SrDNA解析において、各菌種の下のカッコ書きに示した割合以上の相同性を有した場合、その菌株を同じ菌種であると判断した。
【0026】
その結果、図1に示す通り、コイ消化管における夏季の乳酸菌優占種は、Lc.lactis、コイ消化管における冬季の乳酸菌優占種は、Lc.raffinolactisであることが確認できた。
【0027】
なお、本発明者らが、別途、Lc.lactis及びLc.raffinolactisの増殖温度を検討した結果、水温15℃前後を境にして、高温域ではLc.lactis、低温域ではLc.raffinolactisが、それぞれ、良好な生育をすることが明らかになった。この実験結果は、両菌種の増殖好適温度の違いが、魚類消化管内における季節ごとの乳酸菌叢の変化の主な原因となっていることを示唆する。
【実施例3】
【0028】
実施例3では、プロバイオティクス乳酸菌候補株の選択を行った。プロバイオティクス乳酸菌候補株の選択は、淡水魚の消化管内に存在する乳酸菌の中から、胆汁酸抵抗性を有し、抗菌活性を有する菌株を選択することにより行った。実験手順の概要を以下に示す。
【0029】
(1)まず、養魚場のコイを夏季及び冬季にそれぞれ捕獲し、捕獲したコイの消化管を摘出した後、消化管内容物1g(湿重量)を滅菌生理食塩水で希釈した。
【0030】
(2)次に、胆汁酸抵抗性を有する菌株を分離した。実験では、胆汁酸の主要成分である、コール酸を用いた。
前記手順において調製した希釈液を、3mM及び2mMのコール酸(Sigma社製、以下同じ)を含む乳酸菌培地(GYP−BCP寒天培地)にそれぞれ塗布し、嫌気性培養システムアネロパックを用いて、20℃、24時間、嫌気培養した。
なお、冬季に捕獲したコイにおける消化管内容物の希釈液は、コール酸を含まないGYP−BCP寒天培地にも塗布した。そして、生えてきた乳酸菌の中で、2mM以上のコール酸に対して耐性を示す菌株を分離した。
【0031】
(3)次に、前記手順により、コール酸耐性菌株として分離された菌株について、直接法(Direct Method、公知方法)により、下記指示菌に対する抗菌活性の有無を調べた。
まず、前記手順で分離した菌株を、MRS寒天培地、LB寒天培地にそれぞれ爪楊枝でスポットした後、30℃、24時間、嫌気培養した。
次に、スポットした寒天培地上に、指示菌を含んだ軟寒天(寒天0.8%)4mlを重層した後、37℃、18時間、嫌気培養(LB寒天培地では好気培養)し、ハロー形成の有無で抗菌活性を確認した。
指示菌(Indicator strain)には、次の8種類の菌株を用いた。Aeromonas salmonicida JCM7874(下記表1において、「T1」とした)、Atypical Aeromonas salmonicida(同じく「T2」とした)、Aeromonas hydrophila JCM1027(同じく「T3」とした)、Aeromonas caviae JCM1060(同じく「T4」とした)、Aeromonas sobria JCM2139(同じく「T5」とした)、Aeromonas jandaei JCM8316(同じく「T6」とした)、Aeromonas enteropelogenes JCM8355(同じく「T7」とした)、Enterococcus faecalis JCM7783(同じく「T8」とした)。
【0032】
以上の手順により、淡水魚の消化管内に存在する乳酸菌の中から、胆汁酸抵抗性を有し、抗菌活性を有する菌株10種を分離した。分離した菌株を表1に示す。
【表1】

【0033】
表中、「Strain」の欄は、菌株を表す。菌株名の右上に「T」が付されているものは、その菌種の基準株(Type strain)を表す。即ち、表1では、本実験で分離した菌株10種と、それらの菌株が属する菌種の基準株8種が記載されている。
表中、「16SrRNA」は、分離した菌株の16SrRNA解析(公知方法、以下同じ)の結果と、その菌株が属する菌種の基準株の16SrRNA解析の結果とを比較した場合における、RNA配列の相同性の割合を表す。
表中、「DNA−DNA」は、分離した菌株から抽出したtotalDNAと、その菌株が属する菌種の基準株から抽出したtotalDNAとをハイブリダイゼーションさせ、ハイブリダイゼーションした割合を求めた値である。即ち、これらの値は、分離した菌種と、その菌株が属する菌種の基準株とのDNA配列の相同性の指標となる。
表中、「Indicator strain」は、抗菌活性の検討に用いた指示菌を表す。「++」は、指示菌の阻害された領域が4mmよりも大きかった場合、「+」は、指示菌の阻害された領域が4mm以下であった場合、「−」は、その菌株による指示菌の阻害が見られなかった場合、をそれぞれ表す。
【0034】
表1に示した分離株10種のうち、プロバイオティクス乳酸菌候補株として、次の5種を選択した。
(1)Lc.lactis h−2(図2〜図4において、「h−2」とした)、
(2)Lc.raffinolactis h−47(同じく「h−47」とした)、
(3)Enterococcus pseudoavium h−50(同じく、「h−50」とした)、
(4)St.iniae I−1(同じく「I−1」とした)、
(5)Lb.fuchuensis K−11(同じく「K−11」とした)。
【0035】
上記菌株を、プロバイオティクス乳酸菌候補株として選択した理由は、次の通りである。
Lc.lactis h−2は、実施例1及び実施例2に示す通り、Lc.lactisが淡水魚消化管における夏季の乳酸菌優占種であるため、選択した。
Lc.raffinolactis h−47は、実施例1及び実施例2に示す通り、Lc.raffinolactisが、淡水魚消化管における冬季の乳酸菌優占種であるため、選択した。
本発明に係る補充試験において、コイの幼魚における乳酸菌優占種が、St.iniaeの場合があることが分かった。そこで、St.iniae I−1を、プロバイオティクス乳酸菌候補株として選択した。
Lb.fuchuensis K−11は、表1に示す通り、各種魚病病原菌に対して、抗菌活性を有していたため、プロバイオティクス乳酸菌候補株として選択した。
【実施例4】
【0036】
実施例4から実施例6では、実施例3で選択したプロバイオティクス乳酸菌候補株をコイ幼魚に経口投与し、体重増加量(飼料効率)、補体価、貪食細胞の活性化、の3項目に関し、それらの乳酸菌候補株の作用を調べた。
【0037】
実施例4は、体重増加量(飼料効率)に関する実験である。
【0038】
実験手順の概要は次の通りである。
まず、乳酸菌添加餌を作製した。菌体を生理食塩水で懸濁し、市販の飼料(「ドライペレットP5」、坂本飼料株式会社製)に、飼料1g当たり菌体数10個になるように添加した後、60分間自然乾燥した。
次に、コイ幼魚(実験開始時の体重が40〜50g)10匹に、作製した乳酸菌添加餌(餌量は魚体重の3%とした)を、56日間毎日与えた後、魚体重を測定し、飼料効率を取得した。
飼料効率は、(乳酸菌投与期間中の魚体重増加量)÷(投与期間中の摂餌量)×100(%)の計算式により求めた。
【0039】
結果を図2に示す。
図中、左側のグラフは、実験開始時におけるコイ幼魚の消化管内優占種がSt.iniaeであった場合の飼料効率を、右側のグラフは、実験開始時におけるコイ幼魚の消化管内優占種がLc.raffinolactisであった場合の飼料効率を、それぞれ表す。
各グラフにおいて、横軸は添加した乳酸菌菌株の種類を、縦軸は飼料効率を表す。なお、「Cont」はコントロール(市販の飼料のみを与えた場合の結果)を表す。
【0040】
その結果、図2に示す通り、左側のグラフ(コイ幼魚の消化管内優占種がSt.iniaeであった場合)では、Lb.fuchuensis K−11を添加した場合に、飼料効率の増加が確認され、右側のグラフ(コイ幼魚の消化管内優占種がLc.raffinolactisであった場合)では、全ての候補菌株において、飼料効率の増加が確認された。
【実施例5】
【0041】
続いて、実施例5は、補体価に関する実験である。
【0042】
実験手順の概要は次の通りである。
まず、実施例4と同様の手順で乳酸菌添加餌を作製した。
次に、コイ幼魚(実験開始時の体重が40〜50g)に、作製した乳酸菌添加餌(餌量は魚体重の3%とした)を毎日与え、飼育した後、乳酸菌添加餌投与開始の3、7、14、28、42、56、63日後に、魚を2匹ずつ捕獲し、その魚の心臓部より、注射器で血液を採取した。なお、乳酸菌添加餌投与開始の63日目に血液を採取した個体に関しては、乳酸菌添加餌投与開始の56日目に乳酸菌投与を中止し、その後の7日間は、市販の飼料のみを与えた。
次に、採取した血液の血清を用いて、公知方法により、補体価(ACH50;50%hemolytic unit of alternative complement)を測定した。
【0043】
結果を図3に示す。
図中、左側のグラフは、前記と同様、実験開始時におけるコイ幼魚の消化管内優占種がSt.iniaeであった場合の補体価を、右側のグラフは、実験開始時におけるコイ幼魚の消化管内優占種がLc.raffinolactisであった場合の補体価を、それぞれ表す。
各グラフにおいて、横軸は乳酸菌の添加時からの日数(days)を、縦軸は補体価(ACH50)を表す。なお、「Control」はコントロール(市販の飼料のみを与えた場合の結果)を表す。
【0044】
その結果、図3に示す通り、St.iniae I−1では、補体価の上昇が見られた。但し、乳酸菌投与の63日後(7日間投与を中止したもの)では、補体価が、コントロールとほぼ同じ値に減少したこと。このことは、投与中止後に継続的な効果は得られないことを示す。その他、Lb.fuchuensis K−11でも、補体価の上昇が見られた。
【実施例6】
【0045】
続いて、実施例6は、貪食細胞の活性化に関する実験である。
【0046】
実施例6では、NBT(ニトロブルーテトラゾリウム塩)還元法により、貪食細胞における活性酸素産生能を測定し、貪食細胞の活性化を測定した。
ザイモザン(オプソニン化ザイモザン)は、貪食細胞を刺激し、NBTの貪食を促進する。NBTは貪食細胞内に取り込まれた後、貪食細胞内の活性酸素により、青色のホルマザンに還元される。そこで、ザイモザンを用いてNBTを貪食細胞に取り込ませ、貪食細胞内で生成されたホルマザン量を吸光度により取得することにより、活性酸素産生量を測定でき、貪食細胞の活性化を測定できる。
そこで、実施例5と同様の手順で採取した血液を、ザイモザン−NBT溶液で処理した後、630nmの吸光度を測定することにより、貪食細胞の活性化を調べた。
【0047】
結果を図4に示す。
図中、左側のグラフは、前記と同様、実験開始時におけるコイ幼魚の消化管内優占種がSt.iniaeであった場合の補体価を、右側のグラフは、実験開始時におけるコイ幼魚の消化管内優占種がLc.raffinolactisであった場合の補体価を、それぞれ表す。
各グラフにおいて、横軸は乳酸菌の添加時からの日数(days)を、縦軸「OD at 630nm」は630nmにおける吸光度を表す。なお、「Control」はコントロール(市販の飼料のみを与えた場合の結果)を表す。
【0048】
図4に示す通り、Lc.lactis h−2を餌に添加した場合、貪食細胞の活性化が見られた。
【実施例7】
【0049】
実施例7では、実施例4から実施例6の実験結果に基づき、上記菌株が、コイヘルペスウイルスに対する抵抗性を上昇させる作用があるかどうか、調べた。
【0050】
実験手順の概要を以下に示す。
まず、乳酸菌添加餌を作製した。Lc.lactis h−2、Lb.fuchuensis K−11、St.iniae I−1、を生理食塩水で懸濁し後混合し、市販の飼料(「ドライペレットP5」、坂本飼料株式会社製)に、飼料1g当たり菌体数がそれぞれ10個になるように添加し、自然乾燥させた。
次に、コイヘルペスウイルスを感染させる50日前から毎日、コイ幼魚(実験開始時の体重が70〜80g)に、乳酸菌添加餌(魚体重の1%量)を与え、飼育した。
次に、コイ幼魚の腹腔に、コイヘルペスウイルス溶液200μlを注射した(感染0日目)。
その後、コイヘルペスウイルスを感染させたコイ幼魚を、20〜23℃で飼育し、各水槽の死亡率を測定した。
【0051】
結果を図5に示す。
図中、横軸「Days post infection」は、ウイルス投与(感染)後の日数を、縦軸「Survival rate」は、生存率(%)を、それぞれ表す。
図中、丸点で示された折れ線は、乳酸菌添加餌を与えたもの(投与区)を、四角点で示された折れ線は、乳酸菌添加餌を与えなかったもの(非投与区)を、それぞれ示す。
【0052】
図5に示す通り、乳酸菌投与区は、非投与区と比較して、生存期間が大幅に伸びた。このことは、本発明に係る乳酸菌を投与することにより、コイの免疫能が上昇したことを示し、ウイルスに対する抵抗性が増加したことを示す。
従って、本実験より、魚類感染症に対する、本発明に係る乳酸菌投与の有効性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
コイなどの魚類の餌に本発明に係る乳酸菌を含有させることにより、魚の免疫力を高め、魚病感染症に対する抵抗性を高めることができる。従って、本発明は、抗生物質などを用いずに、魚類感染症などを予防できる可能性がある点で、養殖業界などにおいて、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】コイ消化管内菌叢の通年変化を示す図。
【図2】乳酸菌添加餌を投与した場合の飼料効率を示すグラフ。
【図3】乳酸菌添加餌を投与した場合の補体価を示すグラフ。
【図4】乳酸菌添加餌を投与した場合の貪食細胞の活性化を示すグラフ。
【図5】乳酸菌添加餌を投与した場合の生存率を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類の消化管内乳酸菌で、胆汁酸抵抗性及び抗菌活性を有した乳酸菌を少なくとも含有した魚類感染症予防製剤。
【請求項2】
前記乳酸菌は、Lactococcus lactis、Lactococcus raffinolactis、Lactobacillus fuchuensis、Streptococcus iniae、のいずれか若しくは複数であることを特徴とする請求項1記載の魚類感染症予防製剤。
【請求項3】
前記乳酸菌は、Lactococcus lactis h−2株(受領番号FERM AP−20473)、Lactobacillus fuchuensis K−11株(受領番号FERM AP−20472)、Streptococcus iniae I−1株(受領番号FERM AP−20474)、のいずれか若しくは複数であることを特徴とする請求項1記載の魚類感染症予防製剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項記載の魚類感染症予防製剤を含有する魚類用餌。
【請求項5】
魚類の貪食細胞に対する活性化作用を有するLactococcus lactis h−2株(受領番号FERM AP−20473)。
【請求項6】
補体価上昇作用を有するLactobacillus fuchuensis K−11株(受領番号FERM AP−20472)。
【請求項7】
補体価上昇作用を有するStreptococcus iniae I−1株(受領番号FERM AP−20474)。
【請求項8】
魚類の消化管内乳酸菌で、胆汁酸抵抗性、及び、抗菌活性を有した乳酸菌を、前記魚類に投与する魚類感染症の予防方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−265181(P2006−265181A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86594(P2005−86594)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月25日 社団法人日本生物工学会発行の「生物工学会誌 第82巻 第9号」に発表
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】