説明

麦芽アルコール飲料

【課題】
オリゴ糖濃度が十分に高く新たな香味が付与された麦芽アルコール飲料、並びにその麦芽アルコール飲料を容易に且つ確実に得ることが可能な製造方法を提供すること。
【解決手段】
麦芽由来のマルトテトラオースを含み、前記マルトテトラオースの含有比率が、麦芽アルコール飲料全量を基準として1〜5重量%であり、前記マルトテトラオースの含有比率が、グルコース、マルトース、フルクトース、マルトトリオース及びマルトテトラオースの合計量を基準として50重量%以上である、麦芽アルコール飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦芽アルコール飲料及びその製造方法に関するものであり、詳しくは、オリゴ糖を含有する麦芽アルコール飲料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビール、発泡酒などの麦芽アルコール飲料の原料として用いられている大麦はα−アミラーゼ、β−アミラーゼなどの糖化酵素類を含有しており、製麦や糖化の際には、これらの糖化酵素類の作用によって大麦種子中の炭水化物が低分子糖類に分解される。このようにして麦汁中に生成する低分子糖類のうち、グルコース、マルトース、マルトトリオースなどの発酵性糖類は酵母の発酵に利用される。
【0003】
従来の大麦を用いて得られる麦芽アルコール飲料においては、通常、β−アミラーゼの作用により生成するマルトースが最も高い比率を占めているが、麦芽アルコール飲料の香味はこれらの糖類の組成に影響されることが知られている。そこで、糖組成を変化させることによって新しい香味が付与された麦芽アルコール飲料が望まれている。中でも、オリゴ糖を含有するビール、発泡酒は、糖組成の変化による新たな香味に加えて、比較的アルコール濃度が低く健康的な酒類として認識されているビールや発泡酒に消化器官を健全に保つ作用を付与することができる点で非常に高い価値を有するものと考えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の麦芽アルコール飲料の製造方法において、製麦や糖化の条件を調整しただけでは糖組成を十分に変化させることはできず、又、可溶性窒素含量等に影響を与えることが避けられず、麦芽アルコール飲料中のオリゴ糖濃度を高めて新たな香味を付与することは非常に困難であった。
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、オリゴ糖濃度が十分に高く新たな香味が付与された麦芽アルコール飲料、並びにその麦芽アルコール飲料を容易に且つ確実に得ることが可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、先ず、β−アミラーゼ活性を示さない複数のチベット在来大麦を見出し(第93回育種学会)、更にこの形質がβ−アミラーゼ構造遺伝子の変異によること、並びに発芽種子中の特異的な糖組成が通常の大麦と異なることを明らかにした(第96回育種学会)。そして、本発明者らは、かかる知見に基づいて更に鋭意研究を重ねた結果、麦芽アルコール飲料を製造するに際し、β−アミラーゼ活性欠失大麦を用いることによって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の麦芽アルコール飲料の製造方法は、β−アミラーゼ活性欠失大麦を製麦して麦芽を得る製麦工程と、前記麦芽を糖化させて麦汁を得る仕込み工程と、前記麦汁に酵母を添加して、前記麦汁を発酵させてオリゴ糖を含有する麦芽アルコール飲料を得る発酵工程とを含むことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の麦芽アルコール飲料は、上記本発明の製造方法により得られることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明は、麦芽アルコール飲料中のマルトテトラオースの含有比率が、麦芽アルコール飲料全量を基準として1〜5重量%である、麦芽アルコール飲料を提供する。上記麦芽アルコール飲料中のマルトテトラオースの含有比率が、グルコース、マルトース、フルクトース、マルトトリオース及びマルトテトラオースの合計量を基準として50重量%以上であることが好ましい。また、上記麦芽アルコール飲料中のマルトトリオースとマルトテトラオースとの合計の含有比率が、麦芽アルコール飲料全量を基準として1〜5重量%であることが好ましい。また、上記麦芽アルコール飲料中のマルトトリオースとマルトテトラオースとの合計の含有比率が、グルコース、マルトース、フルクトース、マルトトリオース及びマルトテトラオースの合計量を基準として50重量%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、β−アミラーゼ活性欠失大麦を用いることによって、得られる麦芽アルコール飲料中のオリゴ糖濃度が十分に高められる。また、β−アミラーゼ活性欠失大麦はβ−アミラーゼ活性が欠失していても通常の方法で発芽するので、当該β−アミラーゼ活性欠失大麦の製麦、仕込み(糖化)、発酵の際には、それぞれ従来の製造方法と同様にして各工程を実施することができる。したがって、オリゴ糖の含有比率が高く新たな風味が付与された麦芽アルコール飲料を容易に且つ確実に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明にかかる糖化ダイアグラムの一例を示すグラフである。
【図2】実施例1及び比較例1の発酵工程における酵母数又は真性エキス濃度と発酵時間との相関を示すグラフである。
【図3】実施例1の発酵工程における麦汁と麦芽アルコール飲料との混合物(又は麦芽アルコール飲料)全量を基準とした主要糖分の含有比率と発酵時間との相関を示すグラフである。
【図4】比較例1の発酵工程における麦汁と麦芽アルコール飲料との混合物(又は麦芽アルコール飲料)全量を基準とした主要糖分の含有比率と発酵時間との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明の麦芽アルコール飲料の製造方法は、β−アミラーゼ活性欠失大麦を製麦して麦芽を得る製麦工程と、前記麦芽を糖化させて麦汁を得る仕込み工程と、前記麦汁に酵母を添加して、前記麦汁を発酵させてオリゴ糖を含有する麦芽アルコール飲料を得る発酵工程とを含むことを特徴とするものである。
【0014】
なお、本発明でいう麦芽アルコール飲料とは、麦芽を原料として得られるアルコール飲料をいい、ビール(原料中の麦芽使用比率66.6%以上の麦芽アルコール飲料)や発泡酒(原料中の麦芽使用比率66.6%未満の麦芽アルコール飲料)を包含するものである。
【0015】
また、本発明でいうβ−アミラーゼ活性とは、澱粉の加水分解においてグルコース鎖の末端から2分子ずつα−1,4結合を切断する特性をいい、本発明にかかるβ−アミラーゼ活性欠失大麦とは、β−アミラーゼ活性が欠失した大麦をいう。本発明にかかるβ−アミラーゼ活性欠失大麦としては、浸麦度42.5%で浸麦し、15℃で6日間発芽させた後、焙燥して得られる麦芽を図1に示す糖化ダイヤグラムに基づいて糖化させたときに、得られる麦汁中のマルトースの含有比率が麦汁全量を基準として4重量%以下となるものが好ましい。このようなβ−アミラーゼ活性欠失大麦としては、例えばチベット在来種のβ−アミラーゼ活性欠失大麦が挙げられる。また、β−アミラーゼ活性の欠失は、例えばβ−アミラーゼ活性測定キット(メガザイム社製)やダイヤカラーAMYキット(小野薬品社製)を用いて判定することができる。
【0016】
本発明の製造方法においては、先ず、β−アミラーゼ活性欠失大麦を製麦して麦芽を得る製麦工程が行われる。
【0017】
上記製麦工程における方法及び条件は特に制限されないが、本発明にかかるβ−アミラーゼ活性欠失大麦を製麦する際には、当該大麦に水分と空気とを十分に与えて発芽させ、乾燥して幼芽を取り除き、更に麦芽アルコール飲料特有の香味と色素とを付与するために焙燥することが好ましい。
【0018】
また、β−アミラーゼ活性欠失大麦を浸麦する際の浸麦度は40〜45%であることが好ましい。浸麦度が前記下限値未満であると発芽中の蛋白質の分解や各種酵素類の生成が不十分又は不均一となる傾向にあり、他方、浸麦度が前記上限値を越えると蛋白質の過剰分解や発芽、発根によるエキス分損失が生じる傾向にある。なお、ここでいう浸麦度とは、大麦種子を浸漬したときの水分含量をいう。
【0019】
更に、浸麦後の大麦を発芽させるときの温度は10〜20℃が好ましく、発芽させるときの時間は4〜6日が好ましい。
【0020】
このようにして得られる麦芽は後述する仕込み工程における酵素源であると同時に糖化の主要原料である澱粉源となり得る。また、β−アミラーゼ活性欠失大麦から得られる麦芽は、通常、糖化酵素力及び外観最終発酵度が低いものであるが、このような糖化酵素力及び外観最終発酵度の低下は原料に用いる大麦のβ−アミラーゼ活性が欠失していることに起因するものと本発明者らは推察する。
【0021】
次に、仕込み工程において、上記製麦工程で得られた麦芽を糖化することによって麦汁が得られる。
【0022】
本発明にかかる仕込み工程における麦芽の糖化方法は特に制限されないが、例えば、上記製麦工程において得られた麦芽を含む原料と仕込み用水とを仕込み釜に入れて混合し、その混合物を所定の糖化ダイアグラムに基づいて加温し、生成する糖化液を濾過することによって麦汁を得ることができる。本発明において好ましく用いられる糖化ダイアグラムの一例を図1に示す。
【0023】
上記仕込み工程において、原料中の麦芽の使用比率はビール、発泡酒等の麦芽アルコール飲料の種類に応じて適宜選択され、例えばビールの製造の際には麦芽使用比率が66.6%以上、発泡酒の製造の際には麦芽使用比率が66.6%未満に設定される。また、麦芽を含む原料には、必要に応じてホップ、コーンスターチ、コーングリッツ、米、糖類等の副原料を配合してもよい。
【0024】
また、上記仕込み工程における麦芽と仕込み用水との配合比は特に制限されないが、麦芽100重量部に対して仕込み用水300〜350mlであることが好ましい。更に、市販又は別途調製されたモルトエキスを仕込み用水と混合し、必要に応じて上記の副原料を添加して用いることもできる。
【0025】
なお、上記仕込み工程においては、通常、従来の製造方法に比べてマルトテトラオース、マルトテトラオース等のオリゴ糖の含有比率が高く、マルトースの含有比率が低いといった糖組成を有する麦汁が得られるが、麦汁がこのような組成を有する理由について本発明者らは以下のように推察する。すなわち、β−アミラーゼ活性を示す大麦を用いる従来の製造方法においては、先ず、α−アミラーゼの作用により澱粉がデキストランやオリゴ糖に分解され、次いでβ−アミラーゼの作用によりデキストランやオリゴ糖がβ−アミラーゼの作用によりマルトースに分解されるが、本発明の製造方法においては、β−アミラーゼ活性欠失大麦を用いることによって、デキストランやオリゴ糖からマルトースへの分解が十分に抑制されて上記の糖組成を示すものと考えられる。
【0026】
次に、発酵工程において、上記仕込み工程で得られた麦汁に酵母を添加して、麦汁を発酵させることによって、オリゴ糖を含有する麦芽アルコール飲料が得られる。
【0027】
ここで、上記発酵工程において用いられる酵母としては、麦汁中の糖分を代謝してアルコールや炭酸ガス等を産生するいわゆるアルコール発酵が可能なものであれば特に制限されないが、具体的には、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・ウバルム等が挙げられる。これらの酵母の使用量は特に制限されないが、麦汁100重量部に対して0.4〜0.5重量部であることが好ましい。
【0028】
また、上記発酵工程における発酵条件は特に制限されないが、発酵温度は通常15℃以下、好ましくは8〜10℃であり、発酵時間は好ましくは8〜10日である。更に、麦汁の発酵により得られる発酵液を密閉タンク等に貯蔵し、貯蔵温度0〜2℃で30〜90日間貯蔵することによって、残存エキスの再発酵と熟成とを好適に行うことができる。
【0029】
本発明の製造方法においては、上記発酵工程で得られる麦芽アルコール飲料に濾過等の精製処理を施すことによって、麦芽アルコール飲料中の不純物を除去することができる。濾過を行う際には、濾過温度を0±1℃とし、珪藻土、ポリビニルポリピロリドン、シリカゲル、セルロースパウダー等の濾過助剤を用いることによって、麦芽アルコール中の不純物の除去を好適に行うことができる。濾過後の麦芽アルコール飲料はそのまま、又は必要に応じて無菌濾過処理、加熱処理等が施されて、タンク詰め、樽詰め、ビン詰め又は缶詰めされて市場に出荷される。
【0030】
このようにして得られる本発明の麦芽アルコール飲料は、従来の麦芽アルコール飲料に比べてマルトトリオース、マルトテトラオース等のオリゴ糖の含有比率が十分に高く、マルトースの含有比率が低いものであり、このような糖組成により甘味等の新たな香味が付与されたものである。
【0031】
ここで、マルトトリオースとマルトテトラオースとの合計の含有比率は、麦芽アルコール飲料全量を基準として1〜5重量%であることが好ましい。麦芽アルコール飲料におけるオリゴ糖の含有比率が前記下限値未満であると、糖組成の変化による新たな香味(例えば甘味)が十分に付与されない傾向にある。また、麦芽アルコール飲料におけるオリゴ糖の含有比率が前記上限値を越えるような麦芽アルコール飲料は発酵時間を短くするなどの方法により製造することが可能であるが、このような方法を用いた場合には発酵が不十分となり麦芽アルコール飲料が本来的に有する香味が得られにくくなる傾向にある。
【0032】
また、本発明の麦芽アルコール飲料中には、マルトトリオースやマルトテトラオースといったオリゴ糖の他にグルコース、マルトース、フルクトース等が含有される場合があるが、マルトトリオースとマルトテトラオースとの合計の含有比率は、グルコース、マルトース、フルクトース、マルトトリオース及びマルトテトラオース(以下、場合により「主要糖分」という)の合計量を基準として50重量%以上であることが好ましい。マルトトリオースとマルトテトラオースとの合計の含有比率が前記下限値未満であると、糖組成の変化による新たな香味(例えば甘味)が十分に付与されない傾向にある。
【0033】
なお、マルトトリオースは発酵性の糖であるため、酵母株の種類によっては麦芽アルコール飲料中に含有されるマルトトリオースの含有比率が減少する場合がある。このとき、マルトテトラオースの含有比率は、麦芽アルコール飲料全量を基準として1〜5重量%であることが好ましく、上記の主要糖分の合計量を基準として50重量%以上であることが好ましい。
【0034】
本発明の麦芽アルコール飲料中の主要糖分の組成は、例えばHPLC−PAD解析装置(高速液体クロマトグラフィー−パルスアンペロメトリー検出器)を用いて分析することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
実施例1
(製麦工程)チベット在来種のβ−アミラーゼ活性欠失大麦(平成11年度岡山大資生研圃場産)を、フェニックス社製小製麦装置を用いて以下の手順で製麦した。すなわち、β−アミラーゼ活性欠失大麦を浸麦度42.5%に達するまで浸麦した後、15℃で6日間発芽させ、焙燥して麦芽を得た。
【0037】
このようにして得られた麦芽の一部を用いて品質分析値を行った。その結果を表1に示す。なお、表1中、T.N.は全窒素[%]を表し、S.N.は可溶性窒素[%]を表し、KZはコールバッハ値を表し、EVGは最終発酵度[%]を表し、D.Pは糖化酵素力[°WK又はWK/TN]を表し、VZ45℃は45℃糖化エキス比率を表す。
【0038】
表1に示した通り、β−アミラーゼ活性欠失大麦を用いて得られた麦芽の糖化酵素力及び最終発酵度は、後述する「はるな二条」を用いて得られた麦芽の場合に比べて著しく低い値を示した。また、β−アミラーゼ活性欠失大麦を用いて得られた麦芽の可溶性窒素、フライアビリティー及びβ−グルカン含有量は、「はるな二条」を用いて得られた麦芽と大きく異なる値を示したが、この結果は、β−アミラーゼ活性欠失大麦が六条裸麦であること、並びにビール麦としての育種改良を経ていない在来種であることに起因するものと本発明者らは推察する。
【0039】
(仕込み工程)
次に、得られた麦芽を用い、サッポロビール社試験常法により以下の手順で麦汁の調製を行った。すなわち、麦芽を粉砕した後、麦芽70gと仕込み用水230Lとを混合し、図1に示す糖化ダイヤグラムに基づいて麦芽の糖化を行い、生成した糖化液を濾過して麦汁を得た。
【0040】
仕込み工程後の麦汁における主要糖分(一〜四単糖類)の組成を、HPLC−PAD解析装置を用いて分析した。麦汁全量を基準とした主要糖分の含有比率を表2及び図3に示す。得られた麦汁はグルコース、マルトース、フルクトース、マルトトリオース及びマルトテトラオースを含有するものであった。
【0041】
(発酵工程)
次に、以下の手順で1Lスケール発酵試験を行い、発酵中の酵母数と残存エキス量を計測した。
【0042】
先ず、上記仕込み工程で得られた麦汁1.0Lにホップペレット2gを添加して90分間煮沸した後、麦汁を冷却して濾過した。この濾液に、初期酵母数が5×106cell/mlとなるようにサッポロビール社保有酵母を添加して10.5℃に保持し、発酵中の酵母数及び真性エキス濃度を計測すると共に麦汁と麦芽アルコール飲料との混合物中の糖組成をHPLC−PAD解析装置を用いて測定し、真性エキス濃度の減少が見られなくなるまで発酵させた。この発酵工程における酵母数又は真性エキス濃度と発酵時間との相関を図2、麦汁と麦芽アルコール飲料との混合物(又は麦芽アルコール飲料)全量を基準とした主要糖分の含有比率と発酵時間との相関を表2及び図3にそれぞれ示す。
【0043】
図2に示したように、発酵時間の経過に伴い酵母数の増加及び真性エキス濃度の減少が認められ、9日で酵母の増加及び真性エキス濃度の減少がほぼ停止して発酵が終了した。このようにして得られた麦芽アルコール飲料中の真性エキス濃度は5.18重量%であり、アルコール濃度(アルコール度数)は3.87重量%であった。
【0044】
また、表2及び図3に示したように、麦汁中に見られたグルコース、マルトース及びフルクトースの含有比率は発酵工程後に顕著に減少しており、他方、マルトトリオースやマルトテトラオースといったオリゴ糖は発酵工程後も十分に高い含有比率で存在していることが分かった。特にマルトテトラオースの含有比率は麦汁中の含有比率に比べて殆ど減少しておらず、マルトトリオースとマルトテトラオースとの合計の含有比率は、麦芽アルコール飲料全量を基準として1.49重量%、主要糖分の合計量を基準として71.7重量%であった。このように、実施例1で得られた麦芽アルコール飲料はマルトトリオース及びマルトテトラオースといったオリゴ糖を十分に高い含有比率で含有するものであることが確認された。
【0045】
更に、このようにして得られた麦芽アルコール飲料を被験者が試飲したところ、まろやかな甘味等の特徴的な香味を有しているという評価が得られた。
【0046】
比較例1
β−アミラーゼ活性欠失大麦の代わりにβ−アミラーゼ活性を示す大麦である「はるな二条」(埼玉産)を用いたこと以外は実施例1と同様にして製麦、仕込み、発酵の各工程を行い、アルコール濃度(アルコール度数)5.24重量%、真性エキス濃度3.07重量%の麦芽アルコール飲料を得た。
【0047】
比較例1における、「はるな二条」から得られた麦芽の麦芽分析値を表1、仕込み工程で得られた麦汁における主要糖分の組成を表2及び図4、発酵工程における酵母数又は真性エキス濃度と発酵時間との相関を図2、発酵工程における麦汁と麦芽アルコール飲料との混合物中ので得られた麦芽アルコール飲料(又は麦芽アルコール飲料)全量を基準とした主要糖分の含有比率と発酵時間との相関を表2及び図4にそれぞれ示す。
【0048】
表2に示すように、比較例1の仕込み工程で得られた麦汁は、実施例1で得られた麦汁に比べてグルコース及びマルトテトラオースの含有比率が低く、マルトースの含有比率が高いものであることが確認された。更に、この麦汁を発酵させて得られる麦芽アルコール飲料は、実施例1の麦芽アルコール飲料に比べてマルトースの含有比率が高く、マルトテトラオースの含有比率が低いものであり、マルトトリオースとマルトテトラオースとの合計の含有比率は、麦芽アルコール飲料全量を基準として0.65重量%であり、主要糖分の合計量を基準として25.0重量%であることが確認された。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】


(発明の効果)
【0051】
以上説明した通り、本発明の製造方法においては、β−アミラーゼ活性欠失大麦を用いることによって、オリゴ糖濃度が十分に高められた麦芽アルコール飲料を容易に且つ確実に得ることが可能となる。また、本発明の製造方法によって得られる本発明の麦芽アルコール飲料は、オリゴ糖の含有比率が十分に高く、従来の麦芽アルコール飲料が本来的に有する香味に加えて甘味等の新たな香味を有し、且つ健康的な麦芽アルコール飲料として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽由来のマルトテトラオースを含み、
麦芽アルコール飲料中の前記マルトテトラオースの含有比率が、麦芽アルコール飲料全量を基準として1〜5重量%であり、
麦芽アルコール飲料中の前記マルトテトラオースの含有比率が、グルコース、マルトース、フルクトース、マルトトリオース及びマルトテトラオースの合計量を基準として50重量%以上である、麦芽アルコール飲料。
【請求項2】
麦芽アルコール飲料中のマルトトリオースとマルトテトラオースとの合計の含有比率が、麦芽アルコール飲料全量を基準として1〜5重量%である、請求項1に記載の麦芽アルコール飲料。
【請求項3】
麦芽アルコール飲料中のマルトトリオースとマルトテトラオースとの合計の含有比率が、グルコース、マルトース、フルクトース、マルトトリオース及びマルトテトラオースの合計量を基準として50重量%以上である、請求項1又は2に記載の麦芽アルコール飲料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−95677(P2012−95677A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−37776(P2012−37776)
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【分割の表示】特願2010−119540(P2010−119540)の分割
【原出願日】平成13年3月15日(2001.3.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成12年9月24日 日本育種学会発行の「育種学研究 第2巻別冊2号」に発表
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】