説明

麦茶の製造方法および麦茶

【課題】 大麦が持つ本来の優れた香味(香ばしい香りやほのかな甘みなど)を遺憾なく引き出すことができる麦茶の製造方法および優れた香味を持つ麦茶を提供すること。
【解決手段】 本発明の麦茶の製造方法は、7mm篩を通過するが0.5mm篩を通過しない粒径を有する多孔性粒子の共存下において、殻付き大麦を300℃〜350℃で焙煎することで、殻がはじけた大麦粒と殻がはじけていない大麦粒との数比率を4:6〜6:4とし、その後、焙煎大麦を多孔性粒子と分離してから、95℃以上の熱水で抽出処理を行うことを特徴とするものである。本発明の麦茶は、デンプンを実質的に含有せず、全糖の含有量が0.25g/100g以上(グルコース換算)、かつ、ピラジンの含有量が0.04ppm以上であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な麦茶の製造方法および麦茶に関する。
【背景技術】
【0002】
麦茶が日本人の嗜好性飲料として古くから愛飲されているのは、大麦が持つ香ばしい香りやほのかな甘みなどによることは誰もが認めるところであるが、優れた香味を持つ麦茶を大量製造することは必ずしも容易なことではない。従って、優れた香味を持つ麦茶を大量製造するための各種の方法がこれまでに提案されており、例えば、特許文献1には、麦茶に褐藻類由来のフコイダンを添加する方法が記載されている。しかしながら、このような外来性の成分を用いる方法は、ともすれば大麦が持つ本来の優れた香味を阻害することになるので、望ましい方法であるとは言えない。
【特許文献1】特開2003−102450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、大麦が持つ本来の優れた香味(香ばしい香りやほのかな甘みなど)を遺憾なく引き出すことができる麦茶の製造方法および優れた香味を持つ麦茶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の点に鑑みてなされた本発明の麦茶の製造方法は、請求項1記載の通り、7mm篩を通過するが0.5mm篩を通過しない粒径を有する多孔性粒子の共存下において、殻付き大麦を300℃〜350℃で焙煎することで、殻がはじけた大麦粒と殻がはじけていない大麦粒との数比率を4:6〜6:4とし、その後、焙煎大麦を多孔性粒子と分離してから、95℃以上の熱水で抽出処理を行うことを特徴とする。
また、請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、孔径が3Å〜100Åの多孔性粒子を用いることを特徴とする。
また、請求項3記載の製造方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法において、多孔性粒子として、珊瑚石、軽石、ゼオライトから選ばれる少なくとも1つを用いることを特徴とする。
また、本発明の麦茶は、請求項4記載の通り、デンプンを実質的に含有せず、全糖の含有量が0.25g/100g以上(グルコース換算)、かつ、ピラジンの含有量が0.04ppm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、殻付き大麦の焙煎を、所定の粒径を有する多孔性粒子の共存下で所定の温度で行うことにより、大麦への熱伝導を均一かつ緩やかなものにすることで、大麦が急速に加熱されたり、局所過大加熱されたりすることを効果的に防止し、大麦が持つ本来の優れた香味(香ばしい香りやほのかな甘みなど)を引き出すために、殻がはじけた大麦粒と殻がはじけていない大麦粒との数比率を所定の比率にするとともに、焙煎後の除熱を均一かつ緩やかなものにすることで、その後の所定の抽出処理により、大麦が持つ本来の優れた香味が遺憾なく引き出された、優れた香味を持つ麦茶を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の麦茶の製造方法において、原料として用いる殻付き大麦は、通常、麦茶の原料として用いられるものであればどのようなものであってもよい。代表的な大麦の種類としては、六条大麦や二条大麦などが挙げられる。殻付き大麦は、よく洗浄してから100℃〜120℃の温度で乾燥して水分率を10%未満にしたものを用いることが望ましい。
【0007】
本発明の麦茶の製造方法において、殻付き大麦を焙煎する際に共存させる多孔性粒子の粒径を、7mm篩を通過するが0.5mm篩を通過しない粒径と規定するのは、7mm篩を通過しないほど大きなものである場合、殻付き大麦を多孔性粒子中に均一分散させることができないことで、大麦への熱伝導を均一かつ緩やかなものにすることができず、その結果、大麦が急速に加熱されたり、局所過大加熱されたりすることで、大麦が持つ本来の優れた香味が損なわれる恐れがあるからである一方、0.5mm篩を通過するほど小さなものである場合、殻がはじけた大麦粒の殻と子実の隙間に多孔性粒子が入り込むなどするために、後の工程でその分離が困難になる恐れがあるからである。多孔性粒子の粒径は、5mm篩を通過するが2mm篩を通過しない粒径であることが望ましい。大麦への熱伝導をより均一かつ緩やかなものにするためには、殻付き大麦と多孔性粒子の容積比率は、1:5〜1:15とすることが望ましい。多孔性粒子の具体例としては、珊瑚石や軽石やゼオライトなどが挙げられる。ゼオライトは、天然品であってもよいし合成品であってもよい。孔径が3Å〜100Åの多孔性粒子を用いることで、大麦への熱伝導をより均一かつ緩やかなものにすることができる。多孔性粒子は、よく洗浄してから乾燥させて用いることが望ましい。なお、殻付き大麦を焙煎する際に汎用される石粒などを多孔性粒子と併用してもよいが、この場合、石粒などの容積が多孔性粒子の容積を上回ることは望ましくないので、多孔性粒子と石粒などの容積比率は、最大で1:1とすることが望ましい。
【0008】
殻付き大麦の焙煎温度を300℃〜350℃と規定するのは、300℃よりも低温であっても、350℃よりも高温であっても、いずれの場合でも、大麦が持つ本来の優れた香味を遺憾なく引き出すことができない恐れがあるからである。焙煎温度は、望ましくは320℃〜340℃である。なお、殻付き大麦の焙煎に用いる焙煎釜は、通常、殻付き大麦の焙煎に用いる鉄製のものでよい。
【0009】
殻付き大麦を多孔性粒子とともに撹拌しながら焙煎することで、殻がはじけた大麦粒と殻がはじけていない大麦粒との数比率を4:6〜6:4とすることにより、その後の所定の抽出処理により、大麦が持つ本来の優れた香味が遺憾なく引き出された麦茶を製造することができる。殻がはじけた大麦粒と殻がはじけていない大麦粒との数比率を4:6〜6:4とするための焙煎時間は、大麦の量や焙煎温度に応じて適宜調整するものであるが、概ね10分〜30分程度である。
【0010】
その後、焙煎大麦を多孔性粒子と分離する。この際、焙煎大麦の温度が40℃未満にならないうちに、これを多孔性粒子と分離することが望ましい。焙煎大麦の温度が40℃未満になると、焙煎により引き出された大麦が持つ本来の優れた香味が失われる恐れがあるからである。焙煎大麦の上限温度は特に制限されるものではないが、取り扱いの容易性などに鑑みれば80℃であることが望ましい。焙煎大麦と多孔性粒子との分離は、例えば、比重差分離によって行えばよい。比重差分離の具体的な方法としては、望ましくは50℃以上、より望ましくは70℃以上の気体として空気や窒素ガスなどを用いた気体流通式分離方法が挙げられる(気体の上限温度は特に制限されるものではないが、調整の容易性などに鑑みれば100℃であることが望ましい)。
【0011】
最後に、多孔性粒子を分離した後の焙煎大麦を、95℃以上の熱水で抽出処理を行う。抽出処理は、温度が40℃未満にならないうちに多孔性粒子と分離した焙煎大麦を、温度が40℃未満にならないうちに40℃〜60℃の湯に投入した後、10分〜20分かけて95℃以上にまで加熱してから行うことが望ましい。焙煎大麦をいきなり95℃以上の熱水に投入することで抽出処理を行ってもよいが、前記の方法によれば、焙煎により引き出された大麦が持つ本来の優れた香味を構成する成分が、熱水に効率よく移行するようである。40℃〜60℃の湯に投入する焙煎大麦の上限温度は特に制限されるものではないが、取り扱いの容易性などに鑑みれば80℃であることが望ましい。抽出処理は、熱水1Lに対して焙煎大麦が5g〜40gの割合で行うことが望ましく、10g〜20gの割合で行うことがより望ましい。抽出時間は3分〜25分が望ましく、5分〜20分がより望ましい。抽出時間は、短すぎると大麦が持つ本来の優れた香味を十分に引き出すことができない恐れがある一方、長すぎると香味が損なわれて苦味などが強くなる恐れがある。このようにして得られた抽出液は、自体公知の方法で焙煎大麦を濾過してから冷却し、麦茶として容器詰めすればよい。
【0012】
本発明の製造方法によって製造されてなる麦茶は、大麦が持つ本来の優れた香味(香ばしい香りやほのかな甘みなど)が遺憾なく引き出されたものであり、本発明の麦茶の製造方法によれば、デンプンを実質的に含有せず、全糖の含有量が0.25g/100g以上(グルコース換算)、かつ、ピラジンの含有量が0.04ppm以上であるという、これまでにない成分組成を有する麦茶を製造することができる。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の麦茶の製造方法を実施例と比較例にて詳細に説明するが、本発明は以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0014】
(実施例)
よく洗浄してからオーブンで110℃の温度で乾燥して水分率を10%未満にした殻付き大麦(茨城県産六条大麦)と、よく洗浄してから乾燥させた合成ゼオライト(東ソー株式会社の商品名「ゼオラムF9」:粒径2.4mm〜4.7mm,孔径9Å)を、容積比率1:10で鉄製の焙煎釜に投入し、殻付き大麦を多孔性粒子とともに撹拌しながら330℃で20分間焙煎することで、殻がはじけた大麦粒と殻がはじけていない大麦粒との数比率を約1:1とした。次に、約80℃の状態にある焙煎大麦と多孔性粒子を、市販の気体流通式分離装置に投入し、80℃の空気で比重差分離を行うことで、多孔性粒子を焙煎大麦から分離した。最後に、多孔性粒子を分離した約80℃の状態にある焙煎大麦を、50℃の湯1Lに対して15gの割合で投入した後、15分かけて100℃にまで加熱し、15分抽出処理を行った。得られた抽出液をフィルターに通して焙煎大麦を濾取した後、冷却することで麦茶とした。こうして製造された麦茶は、大麦が持つ本来の優れた香味(香ばしい香りやほのかな甘みなど)が遺憾なく引き出されたものであり、5人のパネラーによる評価試験でも好評を博した。この麦茶の成分分析を行ったところ、デンプンを実質的に含有せず(検出限界0.02g/100g)、全糖の含有量が0.31g/100g(グルコース換算:検出限界0.05g/100g)、かつ、ピラジンの含有量が0.07ppm(検出限界0.01ppm)であり、この麦茶は、これまでにない成分組成を有する麦茶であることがわかった。
【0015】
(比較例)
よく洗浄してからオーブンで110℃の温度で乾燥して水分率を10%未満にした殻付き大麦(茨城県産六条大麦)と、よく洗浄してから乾燥させた石粒(粒径1mm〜5mmの無孔性砕石)を、容積比率1:10で鉄製の焙煎釜に投入し、殻付き大麦を石粒とともに撹拌しながら280℃で20分間焙煎したところ、殻がはじけた大麦粒と殻がはじけていない大麦粒との数比率が約2:1になった。次に、約80℃の状態にある焙煎大麦と石粒を、市販の気体流通式分離装置に投入し、80℃の空気で比重差分離を行うことで、石粒を焙煎大麦から分離した。最後に、石粒を分離した約80℃の状態にある焙煎大麦を、50℃の湯1Lに対して15gの割合で投入した後、15分かけて90℃にまで加熱し、15分抽出処理を行った。得られた抽出液をフィルターに通して焙煎大麦を濾取した後、冷却することで麦茶とした。こうして製造された麦茶は、実施例で製造された麦茶に比較して香ばしい香りやほのかな甘みなどに欠け、すっきりとした味わいではなく、まったりとした味わいであった(5人のパネラーによる評価試験による)。この麦茶の成分分析を行ったところ、デンプンの含有量が0.15g/100g(検出限界0.02g/100g)、全糖の含有量が0.22g/100g(グルコース換算:検出限界0.05g/100g)、かつ、ピラジンの含有量が0.03ppm(検出限界0.01ppm)であり、この麦茶は、既に知られている成分組成を有する麦茶であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、大麦が持つ本来の優れた香味(香ばしい香りやほのかな甘みなど)を遺憾なく引き出すことができる麦茶の製造方法および優れた香味を持つ麦茶を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
7mm篩を通過するが0.5mm篩を通過しない粒径を有する多孔性粒子の共存下において、殻付き大麦を300℃〜350℃で焙煎することで、殻がはじけた大麦粒と殻がはじけていない大麦粒との数比率を4:6〜6:4とし、その後、焙煎大麦を多孔性粒子と分離してから、95℃以上の熱水で抽出処理を行うことを特徴とする麦茶の製造方法。
【請求項2】
孔径が3Å〜100Åの多孔性粒子を用いることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
多孔性粒子として、珊瑚石、軽石、ゼオライトから選ばれる少なくとも1つを用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
デンプンを実質的に含有せず、全糖の含有量が0.25g/100g以上(グルコース換算)、かつ、ピラジンの含有量が0.04ppm以上であることを特徴とする麦茶。

【公開番号】特開2006−42742(P2006−42742A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232062(P2004−232062)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(504303399)株式会社 京麦茶本舗 (1)
【Fターム(参考)】