説明

麹菌、及びそれを用いた清酒の醸造方法

【課題】醸造した清酒中のアルギニン含有量を低減させて呈味性の向上を図るためには、アルギニン生成量を低減させる新規な麹菌を開発することが必要であった。
【解決手段】
既存の麹菌と比較して増殖能に問題がなく、ペプチダーゼ総合活性が低く、且つ蒸米の溶解及び糖化にも問題が無い麹菌Aspergillus oryzae AOK12株(FERM AP−21544)及び/又はAspergillus oryzae AOK18株(FERM AP−21545)を用いて清酒麹を造り、それを用いて清酒の醸造を行うことにより、アルギニン含有量を低減したアミノ酸組成も良好で官能評価も優れた清酒を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清酒の苦味に関わるアルギニンの含有量を低減した清酒を醸造するための麹菌、及びそれを用いた清酒醸造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
清酒の醸造においては麹菌(コウジカビ属:Aspergillus)が使用され、麹菌のタンパク質分解酵素によって原料タンパク質からペプチドやアミノ酸が生成し、これらは呈味性成分として重要な成分である。米を原料とする清酒は、タンパク質の主要な成分がグルテリンであるため、主にグルテリンが麹菌のタンパク質分解酵素で分解されてアミノ酸を生成する。
生成されたアミノ酸の一つのアルギニンの呈味性を官能試験によって調べたところ、清酒中の存在量で官能的に識別でき、苦味を呈して喉ごしや後味に大きく関係する(非特許文献1)。さらに、普通酒ではアルギニン含有率はアラニンに次いで2番目に多く存在するものの、高級酒である吟醸酒や純米吟醸酒ではアルギニンの含有率が少なく、清酒中のアルギニン含有量の低減は品質向上に有効である(非特許文献2)。
【0003】
【非特許文献1】岩野君夫、高橋和弘、伊藤俊彦、中沢伸重著「清酒の呈味性に影響を及ぼすアミノ酸の探索」、日本醸造協会誌、2004年、第99巻第9号、659〜664頁
【非特許文献2】岩野君夫、伊藤俊彦、中沢伸重著「吟醸酒、純米酒、本醸造酒及び普通酒のアミノ酸組成の特性」、日本醸造協会誌、2004年、第99巻第7号、526−533頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、グルテリン中の全アミノ酸量に対するアルギニン含有率は5〜7%であったが、既存の種麹菌で製麹した清酒麹を用いて蒸米を消化した消化液中のアルギニン含有率は17%に増加した。また、アルギニンは醪において酵母増殖の窒素源として利用されて減少するが、既存の種麹菌を用いて製麹した清酒麹を使用した場合、蒸米タンパク質からのアルギニン生成量が酵母の資化量を大きく上回り清酒に移行した。そこで、醸造した清酒中のアルギニン含有量を低減させて呈味の向上を図るためには、アルギニン生成量を低減させる新規な麹菌を開発することが必要であった。
本発明は斯かる問題点に鑑みてなされたものであり、上記課題を解決できる麹菌、及びそれを用いた清酒の醸造方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の請求項1に記載の麹菌では、Aspergillus oryzae AOK12株(FERM AP−21544)又はAspergillus oryzae AOK18株(FERM AP−21545)である麹菌が提供されることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の清酒の醸造方法では、請求項1に記載の麹菌を蒸米に付着させて製麹を行い清酒麹を造る麹造り工程と、清酒麹、及び酒母若しくは酵母を用いる醪仕込み工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の麹菌によれば、清酒中のアルギニン含有量が低減され、アミノ酸組成も良好で、且つ官能評価も優れた清酒を醸造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(実施の形態1)清酒醸造用の麹菌の選別
本発明の麹菌は、製麹を行って各酵素活性の値により選別される。具体的には、国税庁所定分析法(参照URL:http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho−kaishaku/tsutatsu/kobetsu/sonota/070622/pdf/211.pdf)を用いて測定したグルコアミラーゼ活性が100〜210Units/g−koji、且つ特願2008−028316号に記載された米グルテリンを基質とする総合タンパク質分解酵素活性測定方法を用いて測定した総合ペプチダーゼ活性が7.2Units/g−koji以下の麹菌である。
なお、グルコアミラーゼ活性は、麹1gが可溶性デンプンから40℃で60分間に1mgのブドウ糖を生成する活性を1Unit/g−kojiとして定義される(g−kojiは、「g麹」の意味である)。また、総合タンパク質分解酵素活性は、麹1gが60分間に1mgのアルギニンを生成する活性を1Unit/g−kojiとして定義される。
【0008】
(実施の形態2)選別された麹菌AOK12株及びAOK18株
実施の形態1で選別された麹菌Aspergillus oryzae AOK12株(受領番号:FERM AP−21544)及びAspergillus oryzae AOK18株(受領番号:FERM AP−21545)は、平成20年3月17日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている。
麹菌AOK12株及びAOK18株の培養は、ツァペック(Czapek)寒天培地[3gのNaNO、1gのKHPO、0.5gのMgSO・7HO、0.5gのKCl、0.01gのFeSO、30gのショ糖、15gの寒天に蒸留水1000mlを加えて作成する。]、ポテトデキストロース寒天培地(PDA)[バレイショ浸出液(皮をむき1cm角に切った200gのバレイショを1000mlの蒸留水で約20分煮沸し、その後ガーゼでバレイショを除去)、20gのブドウ糖、15gの寒天を加えて作成する。]を用いて25℃で行う。麹菌AOK12株及びAOK18株のコロニーは7日で4〜5cmに達する。
麹菌AOK12株及びAOK18株の分生子頭は放射状であり、色は淡緑黄色、後に明褐色になる。分生子柄は無色で長さは500〜700μmである。頂のうは亜球形で直径約50〜70μmである。フィアライドは直接頂のう上かメトレ上に生じ、12〜15μm×3〜5μmである。メトレは9〜11μm×4〜5μmである。分生子は成熟すると球形〜亜球形になり、直径4.5〜8μmで緑色、表面は滑面〜微細な粗面である。
【0009】
(実施の形態3)選別された麹菌を用いた清酒の醸造方法
実施の形態1及び2で選別された麹菌を用いた清酒の醸造方法について説明する。
麹菌を用いた清酒の醸造は常法に従って行うが、本発明の技術分野において醸造時の温度、時間、原料、配合割合、及び各処理等について通常の変更をすることができる。具体的には、以下に示す工程を経て製造される。
精米工程:原料米から糠及び胚芽を取り除き胚乳を削り、任意の精米歩合まで磨いて精米を行い白米を得る。
放冷・枯らし工程:精米工程における白米の摩擦熱を冷却し、蒸発した水分を元に戻すために2〜4週間程度放置する。
洗米工程:精米工程において表面に付着した糠や米屑を除去する。5℃前後の冷水で行う。
浸漬工程:洗米工程で洗米された白米は、一定時間水につけて吸水させる。
蒸きょう工程:麹菌の酵素が米のデンプンを分解しやすくさせるために、白米を蒸して蒸米を得る。
麹造り工程:蒸きょう工程で得られた蒸米に実施の形態1で選別された麹菌、麹菌AOK12株、及び/又は麹菌AOK18株を付着させて、製麹を約30〜40℃で40〜50時間程度行い清酒麹を造る。
酒母造り工程:酵母菌を増殖させるために、清酒麹は、酵母菌、蒸米、水、乳酸と共に5日〜30日程度培養を行う。なお、乳酸は乳酸菌を用いて生成してもよい。
醪仕込み工程:酒母若しくは酵母、清酒麹、蒸米、及び水をタンクに入れて醪を仕込む。仕込みは、添仕込み、仲仕込み、及び留仕込みの3段仕込みの工程を経て行い、添仕込みの後、踊りを約1日置く。このようにして、麹菌による糖化及び酵母によるアルコール発酵を行う並行複発酵を約5〜15℃で15〜30日前後行う。
上槽工程:醪仕込み工程において仕込みが終了した醪を上槽し、生酒と酒粕に分ける。
なお、出来上がった生酒は、不溶性のタンパク質、デンプン等による沈殿酒の濁りを取り除くために滓下げを行ってもよい。さらに、滓下げを行った生酒の中に残存する細かい滓や雑味を取り除くために濾過してもよい。また、出来上がった生酒は、ろ過や遠心分離で精製してもよい。出荷前には、加熱殺菌処理を施す火入れを行ってもよい。また、酒の旨み、まろみ、味の深み等を引き出すために暫く貯蔵して熟成させてもよい。
本実施の形態の方法を用いて清酒を醸造することによって、アルギニン含有率が100ppm以下の清酒が製造される。
【実施例】
【0010】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものでなく、本発明の技術分野において通常の変更をすることができる。
【0011】
(実施例1)米グルテリンを基質とした総合ペプチダーゼ活性と蒸米消化液のアルギニン濃度
米タンパク質の分解には麹菌が有する種々のタンパク質分解酵素(ペプチダーゼ)活性が関わっており、醸造の現場でのアミノ酸生成量を反映するためにはタンパク質分解酵素の総合活性を求める必要があった。そこで、これらの総合ペプチダーゼ活性について、申請者らが開発した米グルテリンを基質とする活性測定方法(特願2008−028316号参照)を用いて検討した。
測定に用いる酵素抽出液は、麹米5品種を用いて3回製麹して造った15麹を用いて調整した。そして、5品種の蒸米の消化試験を行った。消化試験は、実際の醸造場の醪仕込み工程の条件を考慮して温度15℃で14日間行った。
その結果、蒸米消化液中の全アミノ酸量と米グルテリンを基質とした総合ペプチダーゼ活性とは危険率5%で相関が認められ、アルギニンと総合ペプチダーゼ活性とは相関係数r=0.711**と高い正の相関関係が認められた。これより、米グルテリンを基質とした総合ペプチダーゼ活性の少ない麹菌を選択することによって、清酒のアルギニン含有量を低減させる可能性があると判断した。
【0012】
(実施例2)シャーレ法で製麹した麹菌の総合ペプチダーゼ活性を用いた麹菌株の選択
麹菌25菌株を用いて岡崎らのシャーレ法に準じて製麹した。まず、蒸米を95℃で15時間熱風乾燥してα米とした。次に、種麹菌の散布を10gのα米に分生胞子を2×10胞子/mlで懸濁した蒸留水を5ml加えて行い、白米1gあたり1×10胞子/mlとした。次に、6.5%の水酸化ナトリウム溶液を用いて相対湿度を95%に調整した容器内で直径9cmのシャーレを用いて製麹を行い、温度を35℃に一定にして、24時間後(一部30時間後)に1回手入れを行い43時間後に出麹した。
表1に試験した25菌株について麹のグルコアミラーゼ活性の高い順で並べた結果を示す。水分(%)、菌体量(mg/g)と共に、国税庁所定分析法を用いて測定したα−アミラーゼ活性(AAase)、グルコアミラーゼ活性(GAase)、酸性プロテアーゼ活性(APase)、酸性カルボキシペプチダーゼ活性(ACPase)、及び特願2008−028316号の方法を用いて測定した総合ペプチダーゼ活性(TPase)が示される。
まず、麹菌株の選別のために、グルコアミラーゼ活性に着目した。これは、清酒の並行複発酵ではグルコアミラーゼ活性が高い方が好ましいものの、グルコアミラーゼ活性が高すぎる麹は黒粕の発生原因であるチロシナーゼ活性も高いため除外する必要があり、今回試験した麹菌においても、グルコアミラーゼ活性が210Units/g−koji以上の麹菌はチロシナーゼ活性も高かった。また、グルコアミラーゼ活性が100Units/g−koji以下の麹菌は糖化力が低かった。そこで、グルコアミラーゼ活性が100〜210Units/g−kojiの範囲にある麹菌(表1太字参照)を15菌株選択した。
【0013】
【表1】

【0014】
次に、選択した15菌株について、総合ペプチダーゼ活性の低い順に並べた結果を表2に示す。
さらに麹菌株を選別するために、実施例1で示した総合ペプチダーゼ活性の低い麹菌を選択することによって清酒のアルギニン含有量を低減させる可能性に着目した。そして、総合ペプチダーゼ活性が7.2Units/g−koji以下であるAOK116株、AOK27株、AOK12株、AOK183株、AOK150株、AOK18株、市販種麹菌No.5株が選択された。
その中でAOK27株は、チロシナーゼ活性が高く酒粕の褐変が予測されるため選択から除外した。なお、麹のチロシナーゼ活性が低く麹褐変度が低い菌株は、AOK12株、AOK18株、AOK116株、AOK150株であった。市販種麹菌No.5株はチロシナーゼ活性の低い菌株と高い菌株の複合菌であった。
また、AOK150株は純白の麹菌であり、特殊な菌株であるため選択から除外した。
最終的に、総合ペプチダーゼ活性が7.2Units/g−koji以下の麹菌AOK116株、AOK12株、AOK183株、AOK18株、市販種麹菌No.5株(表2太字参照)の5菌株が選択された。
【0015】
【表2】

【0016】
(実施例3)試験醸造による麹菌株の選択
実施例2で選択した5菌株(AOK12株、AOK18株、AOK116株、AOK183株、市販種麹菌No.5株)を用いて、精米歩合55%の酒こまちを麹米とし、各1kgの製麹を行った。
【0017】
表3に各5菌株の出麹歩合、麹菌量、酵素活性等を示す。麹菌量は、AOK12株が1.56mg/g、AOK18株が2.22mg/g、AOK116株が1.32mg/g、AOK183株が0.98mg/g、及び市販種麹No.5株が2.16mg/gであった。この結果より、AOK116株及びAOK183株は、生育が悪いことが示された。
さらに、AOK116株及びAOK183株は、α−アミラーゼ活性(AAase)、グルコアミラーゼ活性(GAase)、酸性プロテアーゼ活性(APase)、酸性カルボキシペプチダーゼ活性(ACPase)、及び総合ペプチダーゼ活性(TPase)全てにおいて酵素活性も低かった。
【0018】
【表3】

【0019】
次に、各5菌株を用いて試験醸造を行った。
総米5kgの仕込みであるため、通常の酒母仕込みの代わりに麹エキスで培養した酵母を使う酵母仕込みで実施した。原料米に秋田酒こまち(精米歩合50%)を使用し、総米5kg(麹歩合20%)、くみ水歩合150%、醸造乳酸使用量3ml、及び秋田流花酵母AK−1を使用して、表4に示す仕込み配合で3段仕込みを行った。添仕込みは15℃で2日間の踊りを取り、仲仕込み及び留仕込みは12℃で行った。そして、20〜30日前後の適当な醪日数経過後、5000rpmで20分の遠心分離を行い製成酒を得た。
【0020】
【表4】

【0021】
表5に製成酒の一般成分及び醸造実績を示す。麹菌AOK116株及びAOK183株の2株は共に蒸米溶解率が悪く、粕歩合が40%以上となり実用株としては不適当であることが判明した。麹菌AOK12株、AOK18株の2株は、対照株の市販種麹菌No.5株と蒸米の溶解率、糖化率、発酵率、酒化率、及び粕歩合共に遜色無い醸造実績であった。
【0022】
【表5】

【0023】
表6に製成酒のアミノ酸組成を示す。苦味アミノ酸であるアルギニンの含有量に着目すると、各5菌種を用いて醸造した清酒のアルギニン含有率(全アミノ酸量に対するアルギニン含有率)は、AOK12株が31ppm(2.4%)、AOK18株が14ppm(1.1%)、AOK116株が325ppm(25.0%)、AOK183株が156ppm(20.3%)、及び市販種麹菌No.5株が339ppm(21.6%)であった。このように、AOK12株及びAOK18株は、その他の麹菌に比べて製成酒のアルギニン含有量が低く、市販種麹No.5株を用いた場合に比べて10分の1以下に低減させることが可能であることが示された。このように、苦味アミノ酸であるアルギニン量に大きな違いが認められ、呈味性に大きく影響を与える可能性が示された。
なお、非特許文献2によると、清酒のアルギニン含有率の平均は、吟醸酒が60.9ppm、純米酒が142.3ppm、本醸造酒が124.6ppm、普通酒が151.4ppmであり、呈味性の優れた高級酒はアルギニン含有率が約100ppm以下であるといえる。これより、AOK12株又はAOK18株を用いて醸造した清酒もその条件に該当し、呈味性が優れている可能性がある。
また、AOK12株、AOK18株において、清酒の甘味や酸味といった呈味に関わるアラニンやグルタミン酸等のアミノ酸組成は、市販種麹菌No.5株と同様であった。
【0024】
【表6】

【0025】
表7に製成酒の官能評価を示す。製成酒の官能評価は8名の審査員による採点(優1点、良2点、可3点、不可4点)を総合した平均点、香り及び味に関する評価で行った。その結果、総合評価はAOK12株が一番高く、以下、対照株の市販種麹菌No.5株、AOK18株の順であった。このようにAOK12株、対照株の市販種麹菌No.5株、AOK18株を用いて製造した製成酒は香り及び味の評価が共に高く、清酒の醸造に適した菌株であることが判明した。特に、最も評価が高かった麹菌AOK12株は、香りは華やかで吟醸香も有しており、味は濃醇といった特徴も備えており、高級酒と比較しても遜色無い評価を得た。
また、苦味アミノ酸であるアルギニンは、量が多いと喉越しや後味を悪くして清酒の評価を低下させるが、アルギニンの含有量が低いAOK12株、AOK18株を用いて醸造した清酒は、いずれも喉越しや後味に関連する悪い評価を得なかった。
【0026】
【表7】

【0027】
なお、清酒に苦味アミノ酸であるアルギニンが多い理由は、既存の種麹菌のエンドプロテアーゼに原因がある可能性がある。エンドプロテアーゼは、タンパク質のペプチド鎖の特定の位置を切断する。例えば、膵臓が分泌するトリプシンは生成するペプチドのC末端はリジンとアルギニンであり、キモトリプシンはチロシン、フェニルアラニン、トリプトファンである。従って、既存の種麹菌は、多くのトリプシンタイプのエンドプロテアーゼを有し、アルギニンをC末端に持つペプチドを多量に生成するため、カルボキシペプチダーゼによってアルギニンが容易に生成すると推論される。その一方で、本発明の麹菌AOK12株及びAOK18株は、トリプシンタイプのエンドプロテアーゼ活性が減少した菌株であると考えられる。
【0028】
なお、本発明のAOK12株及び/又はAOK18株を用いて清酒を醸造することによって、任意の精米歩合の米を用いても、アルギニン含有量を低減した清酒を提供することが可能となる。例えば、精米歩合70%程度の普通酒並みの精米歩合を用いても、精米歩合40%程度の高級酒である吟醸酒や純米吟醸酒と同等のアルギニン含有量の清酒を製造することができる。これによって、普通酒同様の簡易な製造方法を用いて、官能評価は高級酒並みという呈味性の優れた清酒を製造することが可能となる。
また、精米歩合は醸造原価に大きく関わる要因であるが、本発明の麹菌、AOK12株及び/又はAOK18株を用いることによって、蒸米の溶解・糖化に問題が無く、呈味に関わるアミノ酸組成も良好であり官能評価も優れている高品質の清酒を安価に醸造可能になる。
【0029】
また、麹菌AOK12株及びAOK18株は、増殖の速さは対照株の市販種麹菌No5株と比べても遜色なく、ペプチダーゼ総合活性が低く、且つ蒸米の溶解及び糖化にも問題が無い。このような麹菌を用いることによって、アルギニン含有量が低減された任意の醸造品を製造することも可能となる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aspergillus oryzae AOK12株(FERM AP−21544)又はAspergillus oryzae AOK18株(FERM AP−21545)である麹菌。
【請求項2】
請求項1に記載の麹菌を蒸米に付着させて製麹を行い清酒麹を造る麹造り工程と、
前記清酒麹、及び酒母若しくは酵母を用いる醪仕込み工程と
を有することを特徴とする清酒の醸造方法。

【公開番号】特開2009−232808(P2009−232808A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85819(P2008−85819)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)
【出願人】(593061905)株式会社 秋田今野商店 (4)
【Fターム(参考)】