説明

麺類、その製造法及びこれに用いる麺類改良剤

【課題】本発明は、こしがありかつツルミ感に優れる麺類を目的とした。
【解決手段】大豆蛋白を含み、βコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である麺類。また、麺類の製造においてβコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である麺類改良剤を用いることを特徴とする麺類の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はこしが強くツルミ感に優れる麺類を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
美味しい麺類を目的として多くの発明がなされてきた。
美味しさの指標としては、こしのつよさ、弾力性、ホグレ性、伸び、ツルミ感などいろいろあり、これらのいくつかを改良する発明がなされてきた。
具体的には麺類の改良方法として大豆粉、特に微細な大豆粉、大豆蛋白、ガム質などの多糖類、植物繊維、例えば食物繊維や多糖類などの他にも乳化剤などを用いる方法など数多くの方法が知られている。例えば特許文献1(特開2002-101835号公報)には、麺類の食味を損なうことなく、適度の硬さ、弾力(粘弾性)、歯ごたえ及び滑らかさ(ツルミ感)があり、喉ごしが良い食感でかつ湯伸び、茹で伸びのしにくい麺類の製造法として、平均粒子径が20μm以下の植物蛋白または乳蛋白を添加することを特徴とする麺類の製造法が開示されている。しかし麺類のこしが強くかつツルミ感が優れた麺類は知られていない。また前記おいしさの指標のすべてを満足する麺類も得られていない。
【0003】
ところで、大豆蛋白には7S蛋白(β(ベータ)コングリシニン)、11S蛋白(グリシニン)、その他の蛋白が含まれている。
そして、7S蛋白を得る方法としては、大豆蛋白から分画により得る方法と育種技術などによる7Sリッチ大豆から抽出して得る方法がある。
例えば、特許文献2(WO2002-028198号公報)には、大豆蛋白を効率よく、且つ工業的に高純度の7Sグロプリンと11Sグロブリンに分画する方法が開示されている。
この7S蛋白(βコングリシニン)の応用例として例えば特許文献3(特開平9-075007号公報)の「大豆蛋白質及びゲル状食品」などが知られている。
しかし、7S蛋白(βコングリシニン)を麺類の改良剤として用いることは知られていない。
【0004】
【特許文献1】特開2002-101835号公報
【特許文献2】WO2002-028198号公報
【特許文献3】特開平9-075007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、こしがありかつツルミ感に優れる麺類を目的とした。
なお、本発明で云うツルミ感は、表面のツルリとした感じ、特にうどんのようにすすって食べる麺でのすすり易さを意味する。
こしは弾力性だけでなくしなやかさやモチモチとした感じも含む歯ごたえである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来知られている麺改良剤、例えば大豆粉、大豆蛋白などを検討したが、いずれも前記課題を解決することができなかった。
そこで、鋭意研究を進めるなかで、大豆蛋白の中でも特異な物性(例えば加熱非ゲル形成性など)を有するβコングリシニン主体大豆蛋白を用いることにより、前記課題を解決できる知見を得て、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、大豆蛋白を含み、βコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である麺類である。
麺類の乾燥固形分中βコングリシニンの割合は0.05〜6重量%であることが好ましい。
また本発明は、麺類の製造においてβコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である大豆蛋白を用いることを特徴とする麺類の製造法である。
βコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である大豆蛋白を、小麦粉100重量部に対して0.1〜7重量部用いることが好ましい。
また本発明は、大豆蛋白を含みβコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である麺類改良剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によりこしが強くかつツルミ感に優れる麺類が可能になったものである。
同時に、食味を損なわずに、麺の弾力性、ほぐれ性、伸び抑制も満足するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
先に麺類の製造法について説明し、あとで麺類について説明する。
一般に麺類は小麦粉、必要によりその他の穀粉及びその他の原材料に加水混練して製麺して得ることができる。
本発明はこの麺類の製造においてβコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である大豆蛋白を用いることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の麺類の製造においては主として小麦粉を用いるが、必要により穀粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ等の澱粉を併用することもできる。
【0010】
本発明に用いるβコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である大豆蛋白は公知の7S蛋白を製造する方法により得ることができる。
例えば、特許文献2(WO2002-028198号公報)の方法を用いれば高純度の7Sグロブリン、即ちβコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である大豆蛋白を得ることができる。
また、育種技術により7S蛋白(βコングリシニン)を種子中の全蛋白質量の60重量%以上含有する大豆粉、この大豆粉から抽出した大豆蛋白を用いることもできる。
ちなみに一般の分離大豆蛋白の成分は、βコングリシニン(7S)、グリシニン(11S)、その他の蛋白からなる。そして、βコングリシニン/グリシニンの比率は、およそ15/30である。即ちβコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率は約33%である。
なお、βコングリシニン、グリシニンの比率は例えば特許文献2(WO2002-028198号公報)に記載するようなSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で得られたパターンのデンシトメトリーによる面積比に基づき算出して得ることができる。
【0011】
βコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である大豆蛋白を、小麦粉100重量部に対して0.1重量部〜7重量部、好ましくは0.2〜5.5重量部、より好ましくは0.4〜4.0重量部用いることが適当である。
該大豆蛋白の割合が小さすぎると、コシが弱くなったり、ツルミ感が良くなくなったりすることがある。またこの割合が大きすぎると、弾力性に欠けて硬くぼそぼそした、悪い食感になることがある。
【0012】
本発明の製造法をより具体的に麺製品の製造を例に説明する。
本発明は小麦粉及びβコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である大豆蛋白、必要に応じてその他の原料を添加した粉に食塩または、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸塩等の塩類を溶解した水溶液を加えてミキシングを行い、その後この混合物を所定時間寝かせて圧延し、めん線に切り出して生めん製品とすることができる。
該大豆蛋白の麺製品への添加方法は、特に限定しないが、生地を調製する際に、前記水溶液に分散させてから添加する方法、粉末原料に添加・混合する方法等を適宜選択することができるが、水溶液中では沈殿するので粉末原料秤量時に予め添加・混合しておくことが好ましい。
また前記の麺線をそのまま包装したり、沸騰水もしくは蒸気等にて加熱したのち、流水にて水洗冷却し包装したり、冷凍し包装したり、また加熱α化後熱風、油揚げにて乾燥を行ったりすることができる。
LL麺の様に長期保存を目的とする場合は、酸処理、包装後、蒸熱殺菌等を行うことができる。
【0013】
次に本発明の麺類について説明する。
本発明は、大豆蛋白を含み、βコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である麺類である。
麺類の乾燥固形分中βコングリシニンの割合が0.05〜約6重量%、好ましくは0.3〜4.5重量%、より好ましくは1〜3重量%が適当である。
βコングリシニンの割合が小さすぎる麺類はコシが弱くなったり、ツルミ感が良くないなどが見られることがある。またこの割合が大きすぎると、弾力性に欠けて硬くぼそぼそした悪い食感の麺類となることがある。
なお、麺類中のβコングリシニン、グリシニンの測定は例えば特許文献2(WO2002-028198号公報)に記載するようなSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で得られたパターンのデンシトメトリーによる面積比に基づき算出して得ることができるが、小麦グルテンやその他の蛋白が混在する系ではELISA法を利用するほうが好ましい。
なお、ELISAは酵素免疫測定法(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay )の略である。
その名の通り、「酵素反応」と「免疫反応(抗原抗体反応)」の両者を利用することにより、対象物質の量や濃度を測定する方法である。一般には、ELISAプレートと呼ばれる96個の穴の開いたプラスチッック板の底に、測定対象物(抗原)を何らかの方法で固定し、次に抗体を、更には酵素標識した二次抗体を加えていく。そしてその酵素に対する基質を添加し発色させその吸光度により比色定量するものである。
【0014】
本発明の麺類は公知の麺類を含み、 また、麺類の形態も特に限定するものでもない。
【0015】
また、本発明は大豆蛋白を含みβコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である麺類改良剤である。
βコングリシニンの比率が低いと麺類のツルミ感が低くなってしまう。
またこの麺類改良剤中にグリシニンが多く含まれると麺類のこしを強くするもののツルミ感がでなくなったりするのでグリシニン含量が低いことが好ましく、βコングリシニン含量が高いことが好ましい。
麺類改良剤はβコングリシニンを主成分とする必要があり、麺類改良剤の乾燥固形分当たりβコングリシニンが60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上が適当である。上限は現実的に100重量%は困難であり、通常98重量%程度である。
この麺類改良剤は前記麺類の製造の際に粉体として添加混合することができる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例及び比較例を例示する。
実施例1
うどんは、中力粉100gに、βコングリシニン主体大豆蛋白(不二製油(株)製「リポフ」)3g、12.2%食塩水50gを配合し、ミキサーで30分間混合した。常法により圧延、切出ししてうどん(生麺)を得た。
パスタは、強力粉100gに、前記「リポフ」3g、卵50gを配合し、ミキサーで13分間混合した。常法により圧延、切出ししてパスタ麺(生麺)を得た。
なお、「リポフ」は不二製油(株)(製の乾燥固形分あたり粗蛋白含量が92重量%でこの92重量%のうち90重量%以上がβコングリシニンからなる大豆蛋白である。そして、βコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率は約98%以上である。
小麦粉100重量部に対して「リポフ」3重量部で、うどん中のβコングリシニンの割合は乾燥固形分あたり約2.5重量%であった。
【0017】
実施例2
うどんは、中力粉102.7gに、前記「リポフ」0.3g、12.2%食塩水50gを配合し、実施例1と同様にしてうどん(生麺)を得た。
パスタは、強力粉102.7gに、前記「リポフ」0.3g、卵50gを配合し、実施例1と同様にして、パスタ麺(生麺)を得た。
小麦粉102.7重量部に対して「リポフ」0.3重量部で、うどん中のβコングリシニンの割合は乾燥固形分あたり約0.25重量%であった。
なお、実施例1と同様βコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率は約98%である。
【0018】
比較例1(コントロール)
うどんは、中力粉103gに、12.2%食塩水50gを配合し、実施例1と同様にしてうどん(生麺)を得た。
パスタは、強力粉103gに卵50gを配合し、実施例1と同様にして、パスタ麺(生麺)を得た。
【0019】
比較例2(大豆粉添加)
うどんは、中力粉100gに、大豆粉(日清オイリオ(株)アルファプラスHS600)3g、12.2%食塩水50gを配合し、実施例1と同様にしてうどん(生麺)を得た。
パスタは、強力粉100gに、前記大豆粉3g、卵50gを配合し、実施例1と同様にして、パスタ麺(生麺)を得た。
なお、大豆粉「日清オイリオ(株)製「アルファプラスHS600」」は全脂大豆粉末であり水分5%、粗たん白43%(乾物換算)、脂質23%でありホエー蛋白も含むが、βコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率は約33%と低い。
この大豆粉のELISA(酵素免疫測定法)によるβコングルシニン含量は約4重量%であった。
また、βコングリシニンのうどん中の含量は、うどん中のβコングリシニン含量g/うどん全固形g=0.10g/94.9g=0.11% である。
【0020】
比較例3(分離大豆蛋白添加)
うどんは、中力粉100gに、分離大豆たん白(不二製油(株)フジプロPR−E)3g、12.2%食塩水50gを配合し、実施例1と同様にしてうどん(生麺)を得た。
パスタは、強力粉100gに、前記分離大豆たん白3g、卵50gを配合し、実施例1と同様にして、パスタ麺(生麺)を得た。
この分離大豆蛋白はβコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率は約33%と低いものである。
また、小麦粉100重量部に対して分離大豆蛋白3重量部で、うどん中のβコングリシニンの割合は乾燥固形分あたり約0.63重量%であった
【0021】
(評価方法)
上記の実施例1〜2及び比較例1〜3で得られたパスタ麺を、沸騰水中で、生麺は3分間茹で上げた。
比較例1をコントロールとして7名にて、ほぐれ性・ツルミ感・コシ・弾力性を評価基準(3点:効果が非常にある、2点:効果がある、1点:効果なし、0点:逆効果)に基づいて評価し、各評価項目について平均をとった。
コントロール(比較例1)のほぐれ性・ツルミ感・コシ・弾力性を評価基準をそれぞれ1点として残りの実施例及び比較例を評価した。パネラーによっては1.5とか2.5などと評価した者も居たのでその点で計算した。
その結果を、うどん(生麺)は表1に、パスタ(生麺)は表2に示す。
【0022】
(表1)うどん(生麺)

【0023】
(表2)パスタ(生麺)

【0024】
麺改良剤として大豆粉を用いた場合(比較例2)は、コシは出るが特にツルミ感や弾力性に欠け、硬く弾力のない食感の麺となった。
麺改良剤として分離大豆たん白を用いた場合(比較例3)は、大豆粉よりもさらにコシが出るが、ツルミ感や弾力性に欠け、硬く弾力のない食感の麺となった。
一方、麺改良剤として「リポフ」を用いた場合(実施例1、実施例2)、麺のほぐれ性、ツルミ感、コシ、弾力性の全ての項目において、比較例よりも評価が高い結果となった。
【0025】
実施例3
実施例1と同様にして、小麦粉100重量部に対する「リポフ」の添加割合を下記のように振らしてみた。
比較対照として比較例1と同様にして得た「リポフ」を添加しないうどんをコントロールとして比較判断した。
「リポフ」を0.15重量部、即ちβコングリシニンを0.13重量%添加したときこしがやや出てきて、ツルミ感も出てきた。
実施例2と同様の「リポフ」を0.3重量部、即ちβコングリシニン0.25重量%添加の場合こしもあり、ツルミ感もでてきた。
「リポフ」を0.75重量部、即ちβコングリシニンを0.65重量%添加したときもっともこしが強く、ツルミ感もよく出ていた。
「リポフ」を1.5重量部、即ちβコングリシニンを1.3重量%添加したときももっともこしが強く、ツルミ感もよく出ていた。
実施例1と同様、「リポフ」を3.0重量部、即ちβコングリシニンを2.5重量%添加したときももっともこしが強く、ツルミ感もよく出ていた。
「リポフ」を5.2重量部、即ちβコングリシニンを4.3重量%添加したときこしが強いが、ツルミ感も少し落ちてきた。
「リポフ」を6.0重量部、即ちβコングリシニンを4.9重量%添加したときこしが強いが硬さを感じ、ツルミ感もより少し落ちてきた。
以上より「リポフ」添加によるこしとツルミ感を与える効果が見られた。
また、小麦粉100重量部に対する「リポフ」の割合は0.1重量部以上、上限は定かではないが7重量部、好ましくは0.2〜5.5重量部、より好ましくは0.4〜4.0重量部が適当であることがわかる。
換言すれば麺の乾燥固形分中のβコングリシニンの割合は0.05重量%以上、上限は定かではないが約6重量%、好ましくは0.3〜4.5重量%、より好ましくは1〜3重量%が適当であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明により麺類を美味しく食べるに必要なこしとツルミ感に優れた麺類が可能になったものである。
また、本発明は、麺類の食味を損なわずに、麺の弾力性、ほぐれ性、ツルミ感、伸び抑制の全てを満足する麺類でもある。
従って本発明の麺類は食べる際に食べやすく、旨く感じられる。
例えば、乾麺タイプのインスタントやきそば等においても、熱湯を注いだ後に容易に麺がほぐれる結果、少しの攪拌で麺がほぐれ麺線が切れにくく、麺線を損なうことがない。
また、麺類に具材が添加されている例えば、冷やし中華そばや、焼きそば、スパゲティー等においては、ソースや具材とを容易にまんべんなく混ぜることが出来、食感に優れるとともに食べやすく、調理性にも優れる。
また、茹で後の麺伸び抑制により、温かいスープに浸された状態で食べる例えばラーメンや温うどん、スープパスタ等において、より長い時間美味しくその食品をたべることができる。
また、すすって食べる例えばラーメンやそば、うどん、焼きそば等において、食べやすく、食感もよいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆蛋白を含み、βコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である麺類。
【請求項2】
麺類の乾燥固形分中βコングリシニンの割合が0.05〜6重量%である請求項1の麺類。
【請求項3】
麺類の製造においてβコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である大豆蛋白を用いることを特徴とする麺類の製造法。
【請求項4】
βコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である大豆蛋白を、小麦粉100重量部に対して0.1〜7重量部用いる請求項3の製造法。
【請求項5】
大豆蛋白を含みβコングリシニン/(βコングリシニン+グリシニン)の比率が70%以上である麺類改良剤。