説明

麻酔投与を制御するためのシステム

自発的に呼吸している患者に対する呼吸機能抑制薬あるいは薬剤の混合物の投与を制御するシステムは、前記患者(1)に対する呼吸機能抑制薬あるいはそのような薬剤の混合物に関する指数連動的な自動滴定あるいは継続的な自動滴定に適した薬剤配給ユニット(3)と、前記患者(1)の呼吸状態に関連する測定信号(20)を受信し、前記薬剤配給ユニット(3)に制御信号(27)を出力する制御装置(6)とを備えており、この制御装置が、呼吸状態に関連する前記測定信号を所定の状態に維持することにより、前記患者に対して十分な鎮静および/または鎮痛を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の背景
1.本発明の分野
本発明は、大まかにいえば、自発的に呼吸している患者に対して1つ以上の呼吸機能抑制薬を投与するシステム、および関連する処置に関するものである。より詳細には、本発明は、内科あるいは外科治療中において、患者を鎮静化し、痛み、不快感、および/または、不安感を緩和をするための構成に関するものである。前記構成は、体内の呼吸ガス含有量および/または呼吸活動として表現されるモニタおよび/または推定される呼吸ドライブに基づいて、最適な投与プロフィルを決定し、実施する。本発明は、開ループおよび閉ループオペレーションの下で薬剤によって引き起こされる副作用を最小化しつつ、有効な患者の鎮静化を実現することの可能なものである。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
麻酔とは、体内における感覚能力の減退した状態のことである。それは、麻酔薬の投与によって引き起こされる可逆的な薬理学状態である。医学的治療中に適切な麻酔を実施することは、患者の意識喪失、鎮痛、および/または筋肉弛緩を確保する。
【0003】
国際疼痛学会(IASP)によると、内科および外科治療中においては、薬剤投与の規則的な再評価が必要である。反応性における時間的な変化とあいまって、薬剤および外科的な刺激に対する反応における明白な個人差は、薬剤配給(drug delivery)の個性化を必要とする。患者に対する投与プロフィルの調整は、効果評価および投薬滴定という継続的なプロセスに基づいている。その目的は、望まない効果を最小限にしつつ、所望の効果(例えば、鎮痛化、精神安定化および鎮静化)を最適化することにある(IASP特別調査委員会、2005)。本発明は、これらの問題点を効果的に解決するための、管理システムおよび管理方法に関連するものである。
【0004】
鎮静化技術は、現在、内科的および外科的処置中における患者の鎮痛および精神安定化を実現するために有用なものである。「意識下鎮静」および「監視下鎮静管理(MAC)」は、防衛反射を維持できるような、医学的に制御された意識低下状態として定義される。鎮静状態の患者は、自発的に呼吸し、気道を保護する能力を維持しつづける。鎮静化の深さに応じて、患者は、言葉による指示および触覚刺激に対して、異なる意思度合い(degrees of purposefulness)をもって応答することが可能である(Novak,1998)。意識下鎮静の施されている間では、医師は、診断処置および治療処置の間中、患者の不安を静めて鎮痛を確保する鎮静剤および/または鎮痛剤を管理し、自分自身でそれを投与する。意識を中程度に鎮静化する前記のような薬理的抑制は、患者の快適さ、精神安定化および協力を実現しながら、医療処置の遂行を成功させることを促進するためのものである。一方、MACは、意識下鎮静中に得られる鎮静化を上回る、最大に深い鎮静化を安全に管理することを可能とするものである(ASA Relative Value Guide,2006)。
【0005】
意識下鎮静およびMACの使用は、以下のような治療法に対し、広く及んでいるが、これに限られるわけではない。すなわち、内視鏡検査(胃カメラ検査、大腸内視鏡検査、内視鏡的逆行性膵管造影(ERCP)など)、気管支鏡検査あるいはファイバーオプティック挿管、膀胱鏡検査、体外衝撃波腎結石破砕(ESWL)、慢性硬膜外血腫の排出(局所麻酔と組み合わされる)、外傷/熱傷の創面切除、膿瘍ドレナージ、バーチャルプローブ形成外科、治療X線造影法、人工授精のための卵母細胞摘出、歯学的外科診療(局所麻酔
と組み合わされる)、眼科的処置(眼球後方ブロックと組み合わされる)、に広く及んでいる。
【0006】
意識下鎮静およびMACを全身麻酔と比較して魅力的にしている、複数のファクターがある。薬剤および装置コストの低いこと、処理に引き続く長期にわたるモニタリングのいらないこと、患者の回復期間の短いことは、臨床コストを中程度に維持する。逆に言えば、全身麻酔およびそれに続く麻酔後回復は、設備、薬剤および人的資源に関する臨床コストに重大な影響を与えている。さらに、患者における長期にわたる意識喪失状態を引き起こすことは、回復の期間および質に悪影響を与える。意識下鎮静および/またはMACを用いて治療される患者は、通常、全身麻酔を実施された者に比して早く退院する。一方、意識下鎮静およびMACは、全ての外科治療には適していない。例えば、顕著に侵襲的な手術は、通常、全身麻酔の実施を必要とし、患者が帰宅する準備を遅らせる。
【0007】
患者を鎮静化するために複数の異なる薬剤を用いることが可能であり、投薬量を高くすると全身麻酔となる。オピオイド(レミフェンタニル、アルフェンタニル、フェンタニル、スフェンタニル、およびメペリジンなど)、ベンゾジアゼピン系薬(ミダゾラム、ジアゼパム、およびロラゼパムのようなもの)、プロポフォール、および、ケタミンが例となる。臨床状況では、鎮静剤および鎮痛剤は、経口、経直腸、静脈注射、あるいは筋肉注射によって投与される。オピオイドは、静脈内投与される。睡眠薬は、揮発性薬剤である場合には、静脈内投与されるか、あるいは吸入投与される。投与方法に関わらず、これらの薬剤のほとんどは、著しい呼吸抑制作用を有している。これは、投薬量、投与プロフィル、患者の過敏性および健康状態に依存する。高い投薬量および/または速い投与速度は、呼吸ドライブの危険な機能障害を決定することができ、究極的には、無呼吸および死亡につながる。さらに、呼吸阻害は、過度のCO量に起因する、体内の酸性状態を引き起こす。この現象は、呼吸性アシドーシスと称されている(同じものを指す表現として、高炭酸ガス性アシドーシス、および、二酸化炭素アシドーシスがある)。PaCOの急激な増加が危険な低酸素血症および酸血症に関連している場合、深刻な呼吸性アシドーシスは、生命に関わるものとなる可能性がある。実際に、米国麻酔医学会(ASA)は、自発的に酸素を供給している患者に対して薬剤によって引き起こされる呼吸抑制を、病的状態の根本原因として規定している(ASA特別調査委員会、2006)。
【0008】
これまでに説明したことから、患者を鎮静下することが、痛みの緩和および不安制御と、呼吸ドライブの阻害、気道保護の妨げおよび意識喪失との間の二律背反を意味することは明らかである。したがって、薬剤によって引き起こされる呼吸障害、血液の脱酸素および呼吸性アシドーシスが、鎮静化における最も顕著な副作用であることは、驚くにはあたらない。これらの効果は、2つ以上の種類の薬剤が併用して投与された場合に、特に頻出となる(Bhananker et al.,2006)。例えば鼻カニューレあるいは非再呼吸フェイスマスクを用いて患者に対して追加的な酸素流を供給することによって、多くの場合、十分な酸素供給が確保される。しかしながら、非定常状態にあるとき、および、酸素富化ガス混合物を呼吸しているときには、適切な酸素供給は十分な呼吸を意味しない。
【0009】
米国特許第5,806,513号(Tham et al)は、閉回路麻酔実施システムが、流量最小化ルーチンを用いて、ユーザの規定した酸素および麻酔薬の濃度を維持することを可能とする制御システムを開示している。
【0010】
米国特許第7,034,692号(Hickle)は、患者の酸素供給状況を監視し、医療処置の遂行中における、誤ったアラーム、迷惑なアラームあるいは過剰反応のアラームを防止するためのシステムを開示している。監視データは、高感度のアラームアルゴリズムおよび高特異性アラームアルゴリズムによって処理される。これらのアルゴリズムは
、無音状況、準明白なアラーム状況あるいは明白なアラーム状況を生成し、および/または、システムにおける最高に慎重な状態を有効化する。前記システムは、高感度、高特異性のアラームアルゴリズムに対する自動応答を実現し、ユーザに気づかれない方法で、アラームの偽陽性/アラームの偽陰性を減少する。
【0011】
PCT特許WO2005/082369号(Shafer et al)は、疼痛治療時に肺内に投与するためのオピオイド製剤を開示している。この製剤は、肺薬配給デバイスによって投薬される。この装置は、動作のために、意図的な忍耐強い努力を要求する可能性がある。前記製剤は、少なくとも1つの急速に発現するオピオイド、および、少なくとも1つの効果の持続するオピオイド(例えば、リポソームカプセル化されたオピオイドのように、肺表面における薬剤の解放を遅延させる生体適合のあるキャリアのカプセルに入ったオピオイド)を含んでいる。この製剤は、患者による薬剤摂取の自己制御を可能とするために、急速に発現し、かつ、リポソームによってカプセル化されたオピオイドの副作用を用いている。
【0012】
3.参考文献

【0013】

【0014】

【0015】

【0016】
本発明の要約
現代の麻酔診療には、多種多様な薬剤が使用されている。もっともありふれた全身麻酔薬としては、バルビツール酸塩、ベンゾジアゼピン系薬、ケタミンおよびプロポフォールがある。一方、オピオイドは、最も関連性のある鎮痛剤類を代表するものである。臨床状況では、麻酔剤および鎮痛剤は、静脈注射、筋肉注射、直腸経由あるいは吸入(揮発性の医薬品の場合)によって配給される。投与された薬剤による薬理効果は、数ある要因のなかでも、とりわけ、投薬量、投与プロフィルおよび患者の過敏性に依存する。
【0017】
1950年代に、Bickford(米国特許第2,690,178号)およびBellville(米国特許第2,888,922号)は、麻酔健康管理における新しい投薬パラダイムおよび投与処置を開発した。モニタリングシステムの精巧さおよび身体機能に対する理解が進歩するにつれて、彼らの初期の仕事に、薬剤配給の改善に関する他の複数の貢献が追随した。例えば、ZbindenおよびWestenskowは、洗練された制御アルゴリズムに基づいて薬剤投与を管理するための革新的な方法を提案した(例えば、Westenskow etal.,1986および他の出版物)。
【0018】
現在では、麻酔の専門家の間では、以下のような投薬方法、すなわち、手作業によるボーラス投与および/または持続注入、ターゲット制御注入(TCI)、患者自己調節鎮静(PCS)が採用されている。臨床介護士によって遂行される手作業による投薬は、推定される血液中濃度に基づいて介護士が薬物用量を選択する必要があるということを含む、わずかな欠点を露呈する。逆に言えば、TCIを用いる場合、麻酔医の達成すべき目標は、注入速度の選択よりもむしろ、血漿あるいは効果部位の濃度の予測となる。前記デバイスは、内蔵された特定薬剤の薬動力学モデルに基づいて、薬剤配給を制御する。TCIは、2つの潛在的な誤差の原因、すなわち、予測された濃度と実際の濃度との不一致、薬理学的な変動性の個人間の差および個人内の差、について責任を負わない。前者は、手術中に測定したり修正したりすることのできないものである。後者については、患者内に観察される所望のおよび/または所望しない効果に合わせてターゲットとなる濃度を調整することによって、補償することができる。すなわち、適切なターゲット濃度については、一時的な過少投薬および/または過剰投薬の後にしか確立することはできない。一方、PCSデバイスは、協力的で十分に教育を受けた患者にしか使用することができない。これらのデザインは、鎮静および麻酔のレベルの揺動を引き起こす。PCSは、無反応の患者がこのデバイスを操作することができないために、安全な投薬方法であるとみなされている。結果として、薬剤の投与が止まる。しかしながら、投薬配給と最大の薬剤効果との間のタイムラグが、患者自身による意図的でない過剰摂取を引き起こす。
【0019】
米国特許第6,745,764号(Hickle)は、患者のインターフェイスを一体化した薬剤配給システムを開示している。患者は、このインターフェイスを操作して、この薬剤配給装置に対して、投薬変更要求を送信する。このシステムは、刺激(例えば、聴覚的なあるいは振動による指示)に対する患者の自発的な反応を見積もることによって、患者の反応性を決定することのできるものである。前記システムは、患者のインターフェイス要求および患者の反応データに応じて薬剤配給を管理する。
【0020】
ここ数年、麻酔健康管理の改善に関する多くの試みがなされている。ここで、投与処置のデザインにおけるいくつかの重要な成果を以下に要約する。
【0021】
欧州特許第1,547,631号(Barvais et al)は、コンピュータを利用したシステムを開示している。このシステムは、静脈内の薬剤配給における安全性を増大し、経験の乏しい介護士に専門知識を伝達することを可能とするものである。
【0022】
米国特許第6,807,965号(Hickle)は、メモリデバイスに保存されている安全データセットにしたがって、保守的に薬剤配給を管理するためのシステムを開示している。前記データセットは、安全な生理的パラメータと、好ましくない生理的パラメータとの双方を反映しており、通常の範囲を予め定義している。このシステムは、患者の生理的状況(患者における無意識の深さを含む)をモニタする。それは、患者モニタリング装置によって供給される信号と保存されている安全データセットとを比較し、薬剤配給における保守的な制御(すなわち、縮小、制限あるいは中断)によって応答する。
【0023】
PCT特許WO2001/083007号(Struys et al)は、患者の応答プロフィルに基づく薬剤投与を実行するための、システムおよび方法を開示している。患者の個々の応答プロフィルは、最小二乗法アルゴリズムによって特定される。このアプローチに続いて、検知した患者の特性および見積もった曲線との間の差が最小化され、これによって、最適にフィッティングされた薬理学的ヒル曲線を得る。
【0024】
薬剤配給の調整における個別のヒル曲線の使用は、患者間における大きな薬理学的な変動性を克服する。本発明の一実施形態では、前記システムは、患者の脳波グラフ(EEG)信号あるいはバイスペクトルインデックス(BIS;登録商標)を使用し、これによって、患者における鎮静深さの応答プロフィルを評価している。
【0025】
PCT特許公報第2005/072792号(Struys et al)は、患者の特定の応答プロフィルにしたがって薬剤の配給を管理する管理システムを開示している。このシステムは、バイスペクトルインデックスおよび必要な処理の施された他のEEG測定値(中央周波数、スペクトルエッジ、および、エントロピー評価指数など)を用いて、患者の応答プロフィルを決定する。前記システムは、ベイジアン統計からの技術を応用し、これにより、薬剤に対する患者の応答に生じる変化に対して応答プロフィルパラメータを適合させる。
【0026】
鎮静化における問題は、MACおよび意識下鎮静中において使用するための人工的な耐性的呼吸モニタのないことによって構成される。臨床状況において患者の呼吸をモニタするために可能な方法は、胸部の外観検査、胸部の電気的インピーダンスの変化の検出、胸囲のひずみゲージ測定、ECGによる呼吸速度の検出(例えば、呼吸性洞性不整脈(RSA)の検出、心臓周期の自己回帰スペクトル分析、心臓における電気的な主軸の変動、等)、鼻のサーミスタ、プレチスモグラフィ、肺活量測定あるいは気道内圧モニタリング、呼吸終末のCO分圧(PetCO)におけるカプノグラフィック評価、を含んでいる。それでもやはり、前記方法には、鎮静化中に使用するために完全に十分であると判明しているものはない。例えば、外観検査による呼吸流(あるいは分時換気量)の測定は、実用的ではなく、また、信頼性もない。有用な他の呼吸測定のない場合、それは、患者が無呼吸になったか否かを検証するために麻酔医が信頼する方法を代表するものになる。それが信頼性、正確性、再現性および自動性に関して非常に不完全に機能することは明らかである。一方、胸部インピーダンスの変化を測定することは、1回換気量を評価することのできるものである。しかしながら、この方法は、人為的なものになりやすい。患者およびケーブルの動きは、検出された信号のSNRを減少する。このように、胸部インピーダンスの変化によって生じる呼吸速度の測定は、手術中に使用するためには適切なものではない。カプノグラフィは、呼吸モニタにおける最も信頼できる方法であるが、その代わりに、特に上気道閉塞の生じた場合に、誤った低い測定値に悩まされる。このカプノグラフィック装置は、呼気のサンプリングのために、鼻カニューレを使用している。このカニューレは、3〜5cmの長さであり、自発的な呼吸を損なうものではない。しかしながら、それは、患者が口から呼吸した場合に、測定値を不正確にする。他のサンプリング構成は、顔のマスクを使用する。前記チューブおよびマスクのデッドスペース自身が、PetCO測定の信頼性を減少する。したがって、呼吸速度のデータだけが、通常、考慮される。
双方の構成は、表在呼吸および気道閉塞に敏感である。結論として、これまでに説明した換気方法には、臨床状況における完全に十分な使用という要求に応えるものはない。
【0027】
患者の呼吸の適切さについては、経皮的なCO圧(PtcCO)および酸素飽和度(SpO)を測定することによって間接的に判断することが可能である(Akio et al.,2004)。この目的のために、パルス酸素濃度計と経皮的なCO検知とを組み合わせた革新的なデバイスが、最近、市場に参入した。現在、後述するようなモニタが市販されている。これらのモニタは、すなわち、SenTec AG(Therwil,Switzerland)のV−Sign(登録商標)センサ、Radiometer A/S(Copenhagen,Denmark)のTCM4、TCM40、TOSCA500およびMicroGas7650である。これらのデバイスは、患者の心拍数、SpOおよびPtcCOを継続的に測定するために、耳たぶに配されるセンサを使用している。定常状態のバイアスおよび反応速度は、十分である。このため、これらのセンサは、MACおよび意識下鎮静中に使用するために適した、早くかつ信頼できる呼吸指針を提供する。
【0028】
PCT特許WO2002/041770号(Tschupp et al)は、血液中の生理的パラメータ(酸素や二酸化炭素など)を測定するためのセンサを提供する。前記センサは、測定デバイスおよびディジタルセンサ信号処理装置を備えており、ディジタル出力信号を出力する。
【0029】
PCT特許WO2005/110221号(Gisiger et al)は、センサデバイスによって耳たぶにおける経皮的なCO分圧を測定するプロセスを開示している。このプロセスは、経皮的なCO分圧測定デバイス、および、センサの接触表面を加熱する加熱システムを使用している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
十分な患者モニタとしての評価に加えて、PtcCO信号が、薬剤投与に関する代用評価項目として機能する。ここでの根本的なコンセプトは、ガンの治療に使用される投薬プロトコルに由来するものである。腫瘍学における薬剤投与は、最適な治療効果を得ることよりも、むしろ、副作用の発生によって周期的に制限される。この投薬パラダイムは、「最大耐全身暴露(MTSE)」と呼ばれている。MTSEパラダイムのMACおよび意識下鎮静に対する応用は、呼吸阻害(悪影響)に基づいて薬剤配給を制御することによる、鎮痛および抗不安(望ましい効果)の提供を意味する。最適な鎮痛あるいは鎮静治療を得るために、通常、最大の耐呼吸抑制(すなわち、全身暴露)を生じさせる必要はない。それどころか、逆に、個人にあわせた呼吸抑制の最適量によって治療がきまる。これより後では、我々は、このコンセプトをIOSE(個人に合わせた最適な全身暴露)と称することとする。
【0031】
IOSEは、以下のような条件がそろったとき、明確な臨床的評価を有する。
(a)望ましい効果に関する単純で堅固な測定が役に立たない。
(b)望ましい効果および望ましくない効果に関する濃度対効果曲線が互いに関連している。
(a)について…MACおよび意識下鎮静における望ましい効果(鎮痛、抗不安および/または鎮静)については、目覚めているときでも、眠いときでも、容易に測定することが可能である。自発的な不満、動き、VASスケールおよびOASSスケールは、前記望ましい効果が得られたか否かについての、明確な情報を与える。それでもやはり、これらの測定については、刺激の後でしか検出することができない。望ましくない患者の反応は、しばしば、同様に副作用の発生の原因となる麻酔医による過剰修正を引き起こす。EEG
に基づく指針は、望ましい効果に関する連続的な測定を与えることが可能である、ということも意味する。例えば、アスペクトメディカルシステム(Aspect Medical System)のバイスペクトルインデックス(BIS;登録商標)は、患者の刺激とは無関係に麻酔における睡眠薬成分を評価する、EEGに由来するパラメータである。しかしながら、EEGは、中程度に鎮静化された患者については大きく揺動してしまうとともに、治療域内でのオピオイドに敏感ではない。結論をいえば、前記方法には、望ましい効果を評価するためにMAC中に使用することのできるものはない。
(b)について…mu−アゴニストオピオイドおよびGABA性の薬剤(ベンゾジアゼピン系薬およびプロポフォールなど)に関しては、呼吸阻害の強さは、鎮痛および鎮静の強さと同等である。この作用は、薬剤と神経受容体との間の相互作用によって説明される。脳幹および視床中のMu受容体は、高い効果のあるオピオイドの鎮痛作用および呼吸機能抑制作用の双方の仲立をする。ベンゾジアゼピン系薬およびプロポフォールは、GABA受容体において、それらの鎮静/睡眠作用(呼吸阻害についても引き起こすことを示してきた作用)を発揮する。このため、これらの薬剤は、常にアナルゴ鎮静と相互に関連する(あるいはその逆)、呼吸機能抑制作用を引き起こす。特定の受容体タイプに結合する薬剤が鎮痛/鎮静と呼吸抑制との双方を引き起こすという考え方によれば、薬剤濃度を高くすることによって、常に、鎮痛作用/鎮静作用と呼吸機能抑制作用との双方がともに増加する、ということになる。呼吸抑制に対して鎮痛/鎮静を「調整」することが可能であり、最大程度の耐呼吸抑制を選択することは、鎮痛作用/鎮静作用をすぐに消滅させることのできる最大の許容濃度をもたらす。例えばPCOに基づいて、投薬を個人に合わせることができ、これにより、IOSEがもたらされる。鎮痛化については、不快な刺激が加えられた後にしか評価できない。この提示された新しい投薬パラダイムによれば、医師は、治療域でのオピオイドの作用(呼吸抑制)における最も客観的な測定を用いて、鎮痛剤濃度を得ることが可能となるとともに、投薬を個別化することができる。
【0032】
特定の条件(自発呼吸、肺の病状が悪すぎない)の下では、IOSEのコンセプトについては、集中治療室(ICU)に応用することも可能である。この構成では、意識下鎮静は、主に、術後鎮痛/外傷後鎮痛を与えるとともに、気管内チューブに耐える力を与えるために実施される。ICUでの鎮静を制御する従来の全ての方法は、次善のものである。例えば、BIS(登録商標)モニタリングを用いた電気的なCNS活動の測定は、鎮静レベルが軽いときには信頼できるものではない。また、鎮静スコアを継続的に得ることはできない。それでもやはり、制御換気から補助換気に移行することは、ICU実務において定着した傾向である。このシフトは、十分な鎮静化に関する代替指標として、分時換気量および/または呼吸ガス測定(例えばPCO)を用いることの可能性を提案する。実際に、過剰鎮静は、分時換気量の減少およびPCOの増加を引き起こすし、また、過少鎮静では、逆のことが起こる。このため、IOSEについては、集中治療のアナルゴ鎮静に関する適切な投薬パラダイムだとみなすことが可能である。
【0033】
臨床状況では、麻酔医は、薬剤配給を滴定することによって、観察された望ましくない効果に対してIOSEコンセプトを適用する。これは、測定された評価項目が、治療効果と関連づけられているためである。例えば、50、55あるいは60mmHgのPCOをターゲットとすることによって、介護人が薬剤投与を管理することが可能である。PCOのターゲットと約40mmHgという非鎮静化値との間の差異は、薬理効果の望ましい範囲の主な原因となる。さらに、IOSEパラダイムについては、本発明が開示しているように、自動化投薬デバイスに具体化することが可能である。
【0034】
ここに開示された前記システムは、呼吸機能を抑制する副作用を有する鎮痛剤、鎮静剤および/または睡眠薬の投与を制御する構成を提供するものである。薬剤配給は、薬剤によって引き起こされる意識抑制の下にある、自発的に呼吸している患者に生じる。薬剤配給制御装置は、副作用を最小限におさえた十分かつ安全な鎮静を確保する投薬プロフィル
を決定するためにモニタされている生理的状況に注意を向けている。呼吸不全、血液中脱酸素および高炭酸ガス性アシドーシスは、薬剤によって引き起こされる最も重大な悪影響である。この制御装置は、1つ以上の患者モニタデバイスによって与えられるフィードバック情報に基づいて薬剤配給を管理する。このフィードバックデータは、呼吸性アシドーシスおよび呼吸ガスの含有量を含む、患者の呼吸状態を反映したものである。
【0035】
自動制御の分野において理解されているように、以上および以下の記載では、我々はフィードバックループ制御システムについて言及する。工学技術および数学では、制御理論は、動的なシステムの挙動を取り扱う。変化の生じているシステムあるいは作用が機能しているシステムは、入力および出力によって特徴づけられる。フィードバックは、これによって何らかの比率、あるいは、より一般的にはシステムにおける出力信号の関数が入力信号に伝えられる(フィードバックされる)ようなプロセスである。これは、システムにおける動的な挙動を制御するために、しばしば意図的に実施される。システムにおける継続的なフィードバックは、フィードバックループを生成する。
【0036】
全てのフィードバックループでは、変化あるいは作用の結果に関する情報は、入力データの形式で、システムの入力に送り返される。フィードバックは、実際の入力と望ましい入力との間の差異によって異なる調整をもたらす。フィードバックループ制御システムは、通常、制御変数のセンサ、制御変数の有するべき値を特定する基準入力あるいは設定値、実際に検知された値あるいはフィードバック信号と設定値あるいは基準入力とを比較するコンパレータ、を含んでいる。コンパレータの出力は、通常、エラー信号と呼ばれている。エラー信号の極性は、修正がなされる必要のある方向を決定する。フィードバックループ制御システムはさらに、制御メカニズムあるいはコントローラを含んでおり、これは、エラー信号によって活性化され、アクチュエータを用いてシステムの入力を操作し、これによってシステムの出力に対する望ましい影響を得る。
【0037】
コントローラあるいは制御メカニズムにおける複数のタイプが提案されてきている。これらは、特有の意思決定原理において異なっている。単純なタイプのコントローラは、比例コントローラである。このタイプのコントローラを用いる場合、コントローラの出力(すなわち、コントローラ作用)は、エラー信号に比例している。比例制御は、複雑さの度合いが非常に低いことによって特徴づけられるが、しかし、欠点を有している。すなわち、最も重要な点は、ほとんどのシステムに関し、それが、エラー、あるいは、測定値における望ましい値(設定値)からの逸脱を、完全には除去できないことである。比例制御に代わるものは、比例・積分(PI)制御および比例・積分・微分(PID)制御を含んでいる。これらのコントローラは、エラー信号の履歴(積分作用)および変化率(微分作用)に基づいて、プロセス出力を調整することのできるものであり、これにより、制御の正確度および安定度を高めている。より複雑なタイプの制御は、モデル予測制御(MPC)である。MPCコントローラは、動的なシステムにおける経験的モデルを利用し、これにより、独立変数における既知の値に基づいて、この独立変数における未来の挙動を予測する。MPCは、入力に対してシステムがどのように反応するのか、すなわち、前もって知られている入力によって生成される効果を予測することによって、より単純なタイプの制御を改良している。数学的モデルがシステムの挙動を完全に記述できないことが多いために、フィードバック情報は、モデルの不正確さを修正するために用いられる。他の有利なタイプの制御は、ファジー理論制御である。ファジー理論制御では、どのような記述の真実性も、程度の問題となる。ファジー理論は、一連のルール(例えば、「if−then」記述のリストなど)を用いることによって、入力空間を出力空間にマッピングすることを利用する。「if−then」ルールの解釈は、2つのステップを含んでいる。すなわち、前例を評価し、その結果を必然的結果にあてはめる。したがって、ファジー理論コントローラは、入力値を解釈して、ある一連のルールに基づいて、出力に値を割り当てるコントローラである。
【0038】
前記したように、エラー信号は、入力における制御メカニズムによってなされる調整の大きさおよび方向に関する情報をシステムに与える。これは、フィードバックループ制御メカニズムが、出力が設定値を超えた場合に出力を減少するように入力を操作する(あるいはその逆)ことを意味する。これにより、全体として、システムを安定させ、乱れの生じた場合であっても望ましい設定値の近傍での均衡を維持することができる。このアプローチを薬剤投与パラダイムに応用することは、患者において検知された状況に応じて薬剤投与が調整されることを意味する。薬理効果が強すぎる場合には、薬剤配給は縮小される。また、その効果が弱すぎる場合には増加される。これについては、効果に合わせた薬剤配給の滴定として理解することが可能である。一般的にいえば、フィードバックコントローラの範囲は、結果的に、患者の危険な状況を検知して薬剤投与を減らすあるいは中止するアラームシステムあるいは安全システムの範囲を、大きく超えている。
【0039】
フィードバックコントローラとは異なって、開ループコントローラは、現在の状態および/またはシステムのモデルだけを用いてシステムへの入力を演算するタイプのコントローラである。開ループコントローラ(非フィードバックコントローラとも呼ばれる)は、その入力が設定値に達しているか否かを判断するために、フィードバックを使用しない。これは、このシステムが、制御中にプロセスの出力を観察しないということを意味する。したがって、純粋な開ループシステムは、システムの乱れを補償することができない。開ループ制御の原理は、麻酔のケースでいくつか応用されている(例えば、TCI(ターゲット制御注入)技術)。ここに開示される本発明の一実施形態は、非フィードバック制御を利用している。
【0040】
不断の警戒、易疲労感のないこと、予測可能性および再現性の高い挙動は、機械の一般的な特性であり、これらは、自動的な薬剤配給のための装置のデザインを完全に正当化する。これらの特性は、失効あるいは遅延が最悪の結果を導く可能性のあるような、麻酔薬の配給などの動的な状況においては特別の価値がある。さらに、フィードバックデバイスは、測定された評価項目における変化を検出することによって、疼痛性刺激および他の外科的な乱れの発生に十分に反応することが可能である。例えば、痛みは、他の自律反応とともに呼吸変化を引き起こす。疼痛知覚は、概して呼吸に対して刺激的な影響を与えるという報告をしている研究もある(例えば、Sarton et al.,1997;Glynn et al.,1981)。このような影響は、以下のような生理学的メカニズムを介して発揮される。
・痛みは、二酸化炭素の代謝作用を活発化する。すなわち、疼痛性刺激に続いて、体内におけるCO生成の速度が増加する。実際に、痛みは、カテコールアミンの解放を引き起こし、このカテコールアミンが、引き続いて心臓活動および呼吸活動を活発化する。拡張された生理学的機能は、O消費およびCO生成の双方を増大することを決定する。
・痛みは、動脈血液中の生理学的なPCOの設定値を減少させる(Glynn et al.,1981)。
・痛みの作用は、化学受容体に依存しない、分時換気量を増加する緊張性動因(tonic drive)である。すなわち、痛みに対する呼吸応答は、髄質内の中枢化学受容体および頸動脈小体の末梢化学受容体に媒介されるものではなく、むしろ、集中的に脳幹内の呼吸神経を介するものである(Sarton et al.,1997)。
・疼痛性刺激は、COの応答曲線(異なるPOにおける、分時換気量対PCOを表す曲線)の傾きに影響しない。
前記したような生理学的メカニズムは、疼痛性刺激に引き続く全体的な分時換気量の増加を引き起こす。呼吸に対する効果は、約3分間で定常状態に到達し、分時換気量における20%ほどの増加として定量化されることが可能であり、その次に、二酸化炭素レベルの減少を発生する。
【0041】
したがって、疼痛性刺激は、呼吸状態の変化を引き起こす。この変化については、患者モニタデバイスによって検出することが可能であり、提案されているシステムにおけるフィードバックデザインによって是正することが可能である。患者の呼吸に影響する他の外科的な乱れについても、このシステムによって、同様に抑制することが可能である。
【0042】
さらに、薬物速度論/薬理学(PK/PD)および呼吸調節および心臓血管調節の力学に関する情報については、我々の提案するシステムおよび方法に組み入れることが可能である。反対に、介護士は、非定常状態における生理学的システムの挙動について学習することが必要となるとともに、個人間における変動について取り扱わなければならない。
【0043】
最後に、自動デバイスについては、安全装置によって補完することも可能である。例えば、薬剤投与を安全な範囲内に制限するために、動脈血液中における酸素飽和度の最小値を、予め規定しておくことも可能である。他の可能性のある安全パラメータは、作用コンパートメント内あるいは血液内の予測薬剤濃度、患者に与えられる全体的な投薬量、投薬速度である。安全装置は、薬剤配給の即時停止を実施することも可能である一方、現在の薬剤濃度/投薬速度を維持することも可能である。
【0044】
特定の設定、薬剤および評価項目に関わらず、意識下鎮静(頻繁に)およびMAC(ときどき)は、看護士のように、麻酔薬の投与について特別の訓練されていない介護士によって実施される。これらの介護士は、人間の呼吸制御の複雑さに慣れていない。実際に、分時換気量は、身体上/感覚上の刺激レベル、薬剤濃度、O分圧およびCO分圧を含む、複数の内因性および外因性の要因によって調整される。各要因は、反応の大きさおよび力学の双方の点で、呼吸に対して異なった影響を与える。したがって、訓練されていない介護士は、麻酔医に比べて、患者に対して過剰投薬および過少投薬してしまう傾向にある。過剰投薬の場合、彼らは、蘇生手段についても精通していない。一方、意識下鎮静について訓練を受けている麻酔医に負担をかけることは、コストがかかる上に、人手不足のために、しばしば不可能である。いわゆる「安全な」薬剤(メペリジンおよびミダゾラムのような、効き目の低いオピオイド)を配給することは、これが不十分な軽い鎮静を頻繁に招来するために、臨床的影響を制限する。
【0045】
結論をいえば、鎮静および鎮痛の問題は、いまだ解決されていない。薬剤投与を単純化し、患者の安全性および快適さを高め、かつ、臨床コストを低減する、明白な臨床的必要性がある。ここに提示され開示された本発明は、これらの問題を解決するためのものであり、実用的で効果的かつ安全な解決法を提案する。本発明にかかるシステムおよび方法は、介護士が安全限界内でアナルゴ鎮静を実施できるようにするとともに、過剰投与および過少投与を防止するものである。本発明における他の焦点は、以下に説明される。
【課題を解決するための手段】
【0046】
自発的に呼吸している患者に対する呼吸機能抑制薬あるいは薬剤の混合物の投与を制御するシステムは、前記患者に対する呼吸機能抑制薬あるいはそのような薬剤の混合物に関する指数連動的な(indexed)自動滴定あるいは継続的な自動滴定に適した薬剤配給ユニット、および、前記患者の呼吸状態に関連する測定信号を受信し、前記薬剤配給ユニットに制御信号を出力する制御装置を備えており、この制御装置が、呼吸状態に関連する前記測定信号を所定の状態に維持することにより、前記患者に対して十分な鎮静および/または鎮痛を与えるように構成されている。
【0047】
本発明は、1つ以上の麻酔薬および鎮痛剤を自発的に呼吸している患者に配給するための装置および関連する方法を提供する。本発明は、内科的あるいは外科的な治療に関連する痛み、不快感および/または不安感を、十分かつ安全な鎮静剤を投与することによって、緩和するためのものである。本発明は、さらに、薬剤投与を最適化して、患者に対する
過少投与および/または過剰投与を防止し、呼吸機能抑制麻酔薬に関連するリスクを最小化するためのものでもある。前記システムは、患者の鎮静化による患者の痛み、不快感および/または不安感の除去が望まれる、あるいは必要とされる、内科的あるいは外科的な治療中に使用するために適したものである。
【0048】
本発明にしたがう管理システムは、前記患者における呼吸状態を反映する少なくとも1つの生理的状態をモニタするための1つ以上の患者モニタデバイスと、1つ以上の薬剤を供給するための薬剤配給システムと、この配給システムを駆動する制御装置と、を備えている。
【0049】
患者モニタデバイスは、前記患者における前記呼吸状態に影響する少なくとも1つの生理的状況に関する検出、測定、あるいは推定のために、1つ以上の信号を出力するものである。薬剤配給システムは、1つ以上の薬剤あるいは薬剤の混合物を前記患者に供給するものである。制御装置は、前記薬剤配給システムを駆動するものである。また、本発明の1つの形状においては、制御装置は、前記患者モニタデバイスと前記薬剤配給システムとを相互接続する。
【0050】
この構成は、薬剤によって引き起こされる意識抑制の下にある自発的に呼吸している患者に対する、呼吸機能を抑制する副作用をもつ鎮痛剤、鎮静剤および/または睡眠薬の投与を制御する目的を有している。薬剤配給制御装置は、モニタおよび/または推定されている、患者の体内における呼吸ガスの含有量を含む呼吸状態を反映する患者の生理的状況に、注意を向けている。これにより、最適な投薬プロフィルを決定するとともに、効果的かつ安全な範囲での薬剤配給を確保している。
【0051】
前記目的および他の目的を達成するために、ここに説明した患者の痛みおよび/または不安感を管理するための処置は、予測された体内薬剤濃度に基づいて、麻酔薬の配給を制御する態様を含んでいる。例えば、薬剤投与については、作用コンパートメントあるいは血液中の予測された薬剤濃度に基づくものとすることが可能である。麻酔薬の濃度の予測は、薬動力学モデル化によって得られ、患者における人口統計的な共変量(例えば、年齢、性別、体重、身長およびその他)を考慮することも可能である。
【0052】
本発明の他の態様では、前記方法は、投薬プロフィルを決定するために、予測される薬理学的な副作用を考慮する。副作用は、制御システムに構築された呼吸モデルの挙動から見積もられる。オピオイドおよびプロポフォールのような呼吸機能抑制薬に関しては、呼吸不全が、最も明白な望ましくない作用である。一実施形態では、前記方法は、呼吸速度(例えば、挿管されていない患者のもの)、分時換気量(例えば、挿管されている患者のもの)、1回換気量などの呼吸指針に基づいて、薬剤配給を制御する。この方法の拡張は、呼吸阻害の間接的な評価として、体内における呼吸ガスの予測される含有量を利用する。体内における酸素および二酸化炭素の含有量を反映するパラメータ(例えば、O飽和率およびCO分圧(あるいは圧))が、投薬プロフィルを決定するために使用される。好ましい実施形態では、制御装置は、予測される経皮的なPCO値を利用する。
【0053】
本発明の一態様にしたがうと、投薬プロフィルは、患者モニタデバイスによって与えられるフィードバック信号に基づいて決定される。このフィードバック信号は、呼吸状態のモニタリングを可能とするとともに、麻酔の存在下において修正を受ける、1つ以上の生理的状況を反映したものである。本発明の一実施形態では、モニタリングデバイスは、患者の呼吸および/または呼吸性アシドーシスに関する情報、および/または、呼吸機能抑制薬の投与後における体内における呼吸ガスの含有量に関する情報を出力する。好ましい実施形態では、薬剤配給制御装置は、組み合わされたパルス酸素濃度計/経皮的なPCOセンサからデータを受信する。
【0054】
本発明の他の態様では、前記方法は、フィードバック信号に固有の情報を利用して、薬剤配給の安全性を改善する。制御装置は、必要な治療効果を得るとともに、薬剤の過剰投与を防止するという複合的な目的をもって、測定された呼吸指針に基づいて投薬プロフィルを継続的に再決定する。呼吸ドライブの機能障害が明白になった場合、システムは、薬剤配給を制限するかあるいは中断して、患者の危険を最小化する。
【0055】
本発明におけるさらに他の態様では、モニタリングデバイスによって与えられるフィードバック信号が、基本的な呼吸モデルの挙動を患者の反応性に合わせて調整するために使用される。信号を喪失した場合、および/またはセンサが故障、失敗あるいは断線した場合には、制御システムは、閉ループオペレーションから開ループオペレーションに切り替わることが可能であり、十分な薬剤配給による効果的な痛みおよび/または不安感管理の提供を継続することが可能である。
【発明の効果】
【0056】
ここに説明した前記方法における有利な点は、刺激レベル、所望の鎮痛作用および抗不安作用、薬剤に対する個別の過敏性に依存する、患者の特別の必要性にあわせて薬剤投与を調整することができることにある。臨床状況、薬剤および評価項目に関わらず、この方法は、患者の安全および快適さを確保し、薬剤の過少投与および過剰投与のリスクを最小化し、そして、臨床コストを低減する。
【0057】
本発明におけるさらなる特徴点および有利な点、および、本発明のさまざまな実施形態における構成および動作は、以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態にしたがうシステムの概念的な説明図である。
【図2】オピオイドレミフェンタニルに関する、効果および副作用対薬剤濃度のグラフである。
【図3】オピオイドアルフェンタニルに関する、効果および副作用対薬剤濃度のグラフである。
【図4】プロポフォールに関する、効果および副作用対薬剤濃度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
好ましい実施形態の説明
ここに記載した実施形態は、網羅的であることを目的とするものではなく、また、本発明を、図示したままの形態に限定することを目的とするものでもない。この実施形態は、本発明の原理およびその応用を説明するために選択されたものである。
【0060】
図1は、本発明の一実施形態にしたがうデバイスにおける好ましい基本構造を示している。このデバイスは、内科的処置あるいは外科的処置を施されている、自発的に呼吸している患者1に対して、呼吸機能を抑制する副作用をともなう鎮痛剤、鎮静剤および/または睡眠薬を供給するものである。ブロック1は、患者として言及され、かつ、患者を示すものであるが、少なくとも1つのセンサ7を有している。このセンサ7は、患者の呼吸状態に関連する感覚信号である、出力信号24を出力するものである。もちろん、1つより多くのセンサを備えることも可能であるし、また、これらのセンサは、前記呼吸状態の異なる指針に関する信号を出力することも可能である。もちろん、患者1は、入力信号それ自体を有してはいない。しかしながら、図1は、この装置が、薬剤配給ユニット3を含んでいることを示している。この薬剤配給ユニット3は、薬剤配給手段22(例えば輸液管)を介して患者に供給される鎮痛剤、鎮静剤および/または睡眠薬における指数連動的な出力あるいは継続的な出力を、出力として有するものである。さらに、薬剤配給ユニット
3からの鎮痛剤、鎮静剤および/または睡眠薬における実際の出力に対する電気的な表示が、23を介して、進入信号として、処理ユニット2(制御装置6の内部にある)に伝達される。この処理ユニット2は、患者モデルに関する処理ユニット内におけるデータベースおよびコンピュータソフトウェア製品に相当するものである。患者モニタデバイス4は、1つ以上のセンサ7によって与えられる入力信号を介して、患者1の呼吸状態を測定している。モデル予測演算器5(制御装置6の内部にある)は、電気的な表示25および制御ユニット8を介して受信した患者モデル2から、呼吸状態を推定する。この制御ユニット8は、指数連動的な滴定あるいは継続的な滴定のために、電気的な薬剤情報27を、デバイス配給ユニット3に対して出力するものである。前記薬剤配給は、直接的な患者測定値20(閉ループモード。好ましい実施形態の1つ)あるいはモデル予測26(開ループモード。好ましい実施形態の1つであり、特に、センサ信号およびターゲット制御注入モードを失った場合に好ましい)に基づく呼吸状態に応じている。制御ユニット8による前記滴定は、ソフトウェアにおいて実施されているPID(比例・積分・微分)のような意思決定原理を用いて処理ユニットにおいて実行されている制御メカニズムを備えている。この滴定は、設定値と患者測定値20あるいはモデル予測26との比較によって演算されるエラー信号によって導かれる。この実施形態における制御メカニズムの前記意思決定原理については、PIDに限られず、他の適切な原理に基づいたものとすることも可能である。閉ループオペレーション中では、患者モデル2は、実際の患者測定値20に基づいて、21を介して、継続的な、あるいは指数連動的な形状に適合され、かつ、アップデートされる。
【0061】
好ましい実施形態では、制御ユニット8は、ユーザとのやりとりのために、ディスプレイ9および1つ以上の入力出力システム12を備えている。好ましい実施形態は、さらに、薬剤データベース10を有している。この薬剤データベース10は、患者に投与される薬剤あるいは薬剤の混合物における薬物速度論的特性および薬理学的特性を含んでおり、これらの特性は、特に、制御ユニット8および制御装置6内の患者モデル2を予め調整することを可能とするものである。前記薬理学的データは、治療効果に関する特性だけでなく、副作用(特に、呼吸および心臓血管調節の動力学に対する影響に関するもの)についてのデータについても含んでいる。この好ましい実施形態では、前記薬剤データベース10からの前記のようなデータは、後で使用するために、制御装置6内に読み込まれている。
【0062】
好ましい実施形態では、制御装置6は、付加的な安全措置(safety override)によって補完されている。この安全措置は、以下の(a)〜(c)から構成されている。(a)「厳しい」安全措置としてであり、超過した場合に、薬剤投与を直ちに中止する、動脈血液中の許容酸素飽和度の最小値。(b)「穏やかな」安全措置としての、ユーザによって予め設定することの可能な、作用コンパートメント内における最大および最小の予測薬剤濃度(この濃度に達した場合、濃度はこれに維持され、操作が開ループモードになるとともに、ユーザに通知がなされる)。(c)注入速度の限界(点滴薬剤の場合)、薬剤投与に関する全体的な薬剤投与量、およびロックアウト時間。好ましい実施形態では、全ての安全情報および安全制約は、制御装置6に取り付けられている安全性データベース11に保存されている。
【0063】
好ましい実施形態では、患者の呼吸状態は、呼吸性アシドーシスの評価によって診断される。この呼吸性アシドーシスは、好ましくは、血液に含まれている二酸化炭素の量を計ることによって測定される。あるいは、他の好ましい実施形態では、血液中のpHの量を計ることによって測定される。これについては、さまざまな方法によって実施することが可能であり、前記のように情報が得られることで、患者の呼吸状態に関連する表示が出力される。
【0064】
好ましい実施形態では、患者の血液中における二酸化炭素の含有量が、速い経皮的な二酸化炭素分圧測定によって測定される。他の実施形態では、患者の血液中における二酸化炭素の含有量が、二酸化炭素の呼吸終末測定によって測定される。このような測定システムの全ては、前記知覚システムにおける単一故障状態を検出するために、呼吸速度に関する独立のセンサによって補完されることが好ましい。
【0065】
鎮痛に関する好ましい薬剤は、オピオイドであり、特に、アルフェンタニル、フェンタニル、レミフェンタニルおよびスフェンタニルである。
【0066】
呼吸機能抑制薬と非呼吸機能抑制鎮痛剤あるいは非呼吸機能抑制鎮静剤との混合物は、非定型の呼吸機能抑制薬および/または二酸化炭素過敏性の観察された患者にとって好ましい。好ましい実施形態では、非呼吸機能抑制薬は、ケタミンである。
【0067】
図2は、鎮痛のためのオピオイドレミフェンタニルの好ましい使用に関する、効果および副作用対薬剤濃度のグラフを示している。レミフェンタニルは、ほとんどの場合に手術中の鎮痛および意識下鎮静のために、1990年代の半ばから使用されている。有用なデータが、その鎮痛効能および呼吸機能抑制効能を示している(患者管理鎮痛法(Schraag et al.,1998;Cortinez et al.,2005)の個々の使用によって目標とされたターゲット濃度および完全な濃度が、呼吸抑制の捕捉のために測定されたPaCOとともに、呼吸抑制に関する個人に対する多数の観察に基づく曲線をもたらしている(Bouillon et al.,2003))。図2に示されたグラフは、(a)左の縦座標に、以下に示すような特定の最大の効果のパーセンテージを、(b)右の縦座標に、[mmHg]による部分的なCO圧を、(c)横座表に、[ng/ml]によるレミフェンタニルの濃度を、有している。図2におけるグラフのデータトレースに対する説明文(レジェンド)は、以下のようなものである。(1)左縦座標上:十分な痛みの緩和を得た患者におけるパーセンテージとして測定された鎮痛(視覚的アナログ尺度<3。0は痛みのないことを示し、10は想像できる最悪の痛みである)。2.8ng/mlのC50(前記効果の半分を得るために必要な濃度)が報告されており、傾き外挿されている。データは、浸水破砕における体外衝撃波腎結石破砕(ESWL)中に得られたものである。(2)同じく左縦座標上:PCOを制御していない場合における、分時換気量の減少率として測定された呼吸抑制(臨床状況;なお、付随する高炭酸ガスが、部分的に、分時換気量におけるオピオイドの効果を中和している)。(3)横軸上の垂直な線として表現された固定値:呼吸抑制に関するC50、すなわち、イソ高炭酸ガスの分時換気量の50%の減少をもたらす効果部位でのレミフェンタニルの濃度。なお、この値については、PCOを制御していない場合において、鎮痛量および分時換気量の双方を予測することに使用することが可能である。例えば、呼吸抑制に関するC50の1は、十分な痛み(手術後の痛み、腹部手術)の緩和をもたらす一方、安静換気をほとんど抑制しない。(4)横軸上の垂直な線として表現された固定値:手術後の痛みを十分に緩和するために患者管理鎮痛デバイスを操作している、心臓外科および整形外科の患者において測定された、中程度の濃度。(5)右縦座標上:mmHgによる絶対値として表現されたPCO
【0068】
図3は、鎮痛のためのオピオイドアルフェンタニルの好ましい使用に関する、効果および副作用対薬剤濃度のグラフを示している。アルフェンタニルは、手術中および手術後の鎮痛のために、1980年代の終わりから使用されている。有用なデータが、その鎮痛効能および呼吸機能抑制効能を示している。患者管理鎮痛法(van den Nieuwenhuyzen et al.,1997;Schraag et al.,1999)の個々の使用によって目標とされたターゲット濃度、および、呼吸抑制に関する個人に対する多数の観察に基づく完全な濃度の効果曲線が、呼吸抑制を捕捉するPaCOとともに得られている(Bouillon et al.,1999)。図3に示されたグラ
フは、(a)左の縦座標に、以下に示すような特定の最大の効果のパーセンテージを、(b)右の縦座標に、[mmHg]による部分的なCO圧を、(c)横座表に、[ng/ml]によるアルフェンタニルの濃度を、有している。図3におけるグラフのデータトレースに対する説明文は、以下のようなものである。(1)左縦座標上:十分な痛みの緩和を得た患者のパーセンテージとして測定された鎮痛(視覚的アナログ尺度<3。0は痛みのないことを示し、10は想像できる最悪の痛みである)。52ng/mlのC50が報告されており、傾き外挿されている。これは、一般外科手術、婦人科手術および整形外科手術の場合に基づいている。(2)同じく左縦座標上:PCOを制御していない場合における、分時換気量の減少率として測定された呼吸抑制(臨床状況;なお、付随する高炭酸ガスが、部分的に、分時換気量におけるオピオイドの効果を中和している)。(3)横軸上の垂直な線として表現された固定値:呼吸抑制に関するC50、すなわち、イソ高炭酸ガスの分時換気量の50%の減少をもたらす効果部位でのアルフェンタニルの濃度。なお、この値については、PCOを制御していない場合において、鎮痛量および分時換気量の双方を予測することに使用することが可能である。例えば、呼吸抑制に関するC50の1は、十分な痛み(手術後の痛み、腹部手術)の緩和をもたらす一方、安静換気をほとんど抑制しない。(4)横軸上の垂直な線として表現された固定値:痛みを十分に緩和するために患者管理鎮痛デバイスを操作している、心臓手術後の患者において測定された、中程度の濃度。横軸上の垂直な線として表現された固定値。(5)右縦座標上:mmHgによる絶対値として表現されたPCO
【0069】
図4は、鎮痛のためのプロポフォールの好ましい使用に関する、効果および副作用対薬剤濃度のグラフを示している。プロポフォールは、意識下鎮静および麻酔提供のために、1980年代の終わりから使用されている。有用なデータが、その鎮静効能(例えば、バイスペクトルインデックスの抑制、EEGに由来するパラメータ(Bouillon et al.,2004,「Pharmacodynamic interaction...(薬理学的相互作用)」)、および、呼吸機能抑制効能(Bouillon et al.,2004,「Mixed−effects modeling...(混合効果モデリング)」)を示している。これらの評価項目に関して、完全な濃度効果曲線が、呼吸抑制を捕捉するPaCOとともに得られている。図4に示されたグラフは、(a)左の縦座標に、以下に示すような特定の最大の効果のパーセンテージを、(b)右の縦座標に、[mmHg]による部分的なCO圧を、(c)横座表に、[ng/ml]によるプロポフォールの濃度を、有している。図4におけるグラフのデータトレースに対する説明文は、以下のようなものである。(1)左縦座標上:バイスペクトルインデックス(BIS:登録商標)の減少として測定された催眠、EEGに由来する催眠/鎮静に関する代用評価項目。50の値は外科麻酔に対応し、60〜75は意識下鎮静に十分である。(2)同じく左縦座標上:PCOを制御していない場合における、分時換気量の減少率として測定された呼吸抑制(臨床状況;なお、付随する高炭酸ガスが、部分的に、分時換気量におけるプロポフォールの効果を中和していることに注意されたい)。(3)横軸上の垂直な線として表現された固定値:呼吸抑制に関するC50、すなわち、イソ高炭酸ガスの分時換気量の50%の減少をもたらす効果部位でのプロポフォールの濃度。なお、この値については、PCOを制御していない場合において、鎮痛量および分時換気量の双方を予測することに使用することが可能であることに留意されたい。例えば、呼吸抑制に関するC50の1は、十分な鎮静をもたらす一方、安静換気をほとんど抑制しない。(4)右縦座標上:mmHgによる絶対値として表現されたPCO
【0070】
図2〜図4によれば、および、付加的な統計的分散を考慮すると、好ましい実施形態における治療効果に関する二酸化炭素レベルの設定値(二酸化炭素の分圧)は、35〜80mmHgの範囲となり、好ましくは45〜65mmHgの範囲であり、理想的には48〜55mmHgの範囲となる。これらの範囲の値は、二酸化炭素レベルの経皮的な取得に関して特に有用である。しかしながら、患者の肺の近くのガスとして、たとえ患者の挿管内
であっても、COを直接的に測定することも可能である。選択するべき値については、介護人によって調節することが可能である。
【0071】
中程度の麻酔の場合に関しては、軽い手術から重い手術にいたるまでに被る、中程度から高程度の痛みのレベルに対する好ましい薬剤は、プロポフォールとレミフェンタニルとの混合物である。最も速い回復および最大の治療効果のために、レミフェンタニルとプロポフォールとの投薬比率は、血漿内であるいは効果部位で固定された濃度範囲を維持するために、0.0015:1から0.0035:1の範囲から選択されることが好ましい。軽い鎮静化の場合に関しては、軽い手術あるいは診断的な干渉において被る、不快感および/または不安感の追加的な緩和を必要とする低程度から中程度の痛みのレベルに対しては、レミフェンタニルとプロポフォールとの好ましい比率は、0.0002:1から0.0008:1の範囲である。
【0072】
前記制御装置は、呼吸状態に関連する前記測定信号を所定の状態に保つように構成されており、そして、これにより、前記患者に対して、十分な鎮静および/または鎮痛を与える。これは、データベース10あるいはユーザが、前記したように予め定められた設定値(例えば二酸化炭素レベル)を選択することが好ましい、ということを意味する。前記状態については、フィードバック制御がシステムを監視している通常の閉ループ制御システムによって制御される、制御曲線上に与えられた一点とすることが可能である。制御理論から知られているこのような閉ループ制御システムは、また、例えば二酸化炭素レベルにおける、より高いレベルあるいはより低いレベルの間隔を使用することもできる。このような状態は、他の要素(例えば図1に示したようなもの)に関連して、制御装置6を用いて達成されるように意図されている。
【0073】
好ましい実施形態では、前記継続的システムモードが、離散時間型のシステムあるいは指数連動的なシステムとして実施される。これらのシステムは、根本的な生理的システムの時定数に関連しているが、好ましくはこれより低い時定数を使用する。前記薬剤および薬剤の混合物、および、前記薬剤によって引き起こされる患者の呼吸状態の変化に関しては、システムの時定数の好ましい範囲は、1〜60秒である。したがって、システムのアップデート速度(例えば、システムの内部状態のアップデート、薬剤配給ユニットのアップデート、患者モニタの読み出し)は、同様に1〜60秒の範囲から(例えば5秒間隔、10秒間隔、あるいは20秒間隔で)、選択されることが好ましい。
【0074】
開ループシステムにおける好ましい実施形態では、前記モデル予測が、ターゲット制御注入(TCI;予め設定した濃度に、超過することなくできるだけ早く到達するための注入方法)に使用されている。これは、図1にしたがうと、患者モニタデバイス4、したがって測定値20が、(a)使用されない、あるいは、この実施形態の1つの形状内にこれらが含まれない、あるいは、(b)これらが、この実施形態の他の形状において入力値として使用される、ということを意味する。この実施形態における前記最初の形状では、基準となる呼吸における分画呼吸として示される予測された呼吸抑制のレベルが、算出される注入速度を制限するために使用され、これにより、予め定められた血漿濃度あるいは効果部位濃度に到達する。この実施形態における第2の形状では、患者の呼吸状態に関連する実際の測定値(20)が、呼吸モデルによって、前記分画呼吸を算出するために使用される。このデータは、次に、注入速度を制限するために使用され、これにより、予め定められた血漿濃度あるいは効果部位濃度を得る。したがって、この好ましい実施形態における双方の形状では、分画呼吸における許容できる減少の最大値は、TCI法における注入速度制限の要因となり、介護人によって選択されることが可能である。好ましい実施形態では、前記分画呼吸が、0.4〜0.95の範囲にあり、理想的には0.6〜0.8の範囲にある。(a)TCIアルゴリズムに関する呼吸機能抑制薬の薬動力学モデルにおける、(b)呼吸に関するその薬理学的効果との組み合わせ、および、(c)これらの実施形
態における二酸化炭素の反応速度論および動力学を用いた呼吸モデルとの組み合わせは、呼吸を安全なレベルに維持した状態で、予め選択された濃度ができるだけ早く到達されることを保証する。
【符号の説明】
【0075】
1 患者
2 患者モデル処理装置
3 薬剤配給ユニット
4 患者モニタデバイス
5 モデル予測
6 演算器制御装置(点線のボックス)
7 センサユニット
8 制御ユニット
9 ディスプレイ
10 薬剤データベース
11 安全性データベース
12 入力出力システム
20 患者測定値
21 患者モデルアップデート
22 患者に対する薬剤配給(例えば輸液管)
23 薬剤配給における電気的な表示
24 感覚信号
25 電気的なモデル表示
26 モデル予測における電気的な表示
27 電気的な薬剤情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自発的に呼吸している患者に対する呼吸機能抑制薬あるいは薬剤の混合物の投与を制御するシステムにおいて、
前記患者(1)に対する呼吸機能抑制薬あるいはそのような薬剤の混合物に関する指数連動的な自動滴定あるいは継続的な自動滴定に適した薬剤配給ユニット(3)と、
前記患者(1)の呼吸状態に関連する測定信号(20)を受信し、前記薬剤配給ユニット(3)に制御信号(27)を出力する制御装置(6)、を備えており、
前記制御装置が、呼吸状態に関連する前記測定信号を所定の状態に維持することにより、前記患者に対して十分な鎮静および/または鎮痛を与えるシステム。
【請求項2】
制御装置(6)が、0.4〜0.95の好ましい範囲および0.6〜0.8の理想的な範囲に分画呼吸を常に確保するように薬剤投与速度を制限した状態で、前記薬剤配給ユニット(3)を介して、選択可能な薬剤の血漿濃度あるいは効果部位濃度をできるだけ速く得る、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
呼吸状態に対する前記測定が、血液中の二酸化炭素の含有量測定による呼吸性アシドーシスの評価によるものである、請求項1あるいは2に記載のシステム。
【請求項4】
前記状況における二酸化炭素の分圧が、35〜80mmHgの範囲、好ましくは45〜65mmHgの範囲、および、理想的には48〜55mmHgの範囲にある、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記二酸化炭素測定が、呼吸終末の分圧測定である、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
前記二酸化炭素測定が、経皮的な分圧測定である、請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
呼吸状態に対する前記測定が、血液中のpH測定による呼吸性アシドーシスの評価によるものである、請求項1あるいは2に記載のシステム。
【請求項8】
前記制御装置(6)が、配給ユニット(3)によって使用される薬剤あるいは薬剤の混合物における薬物速度論的および薬理学的モデルを備えている、前記請求項のいずれか1項記載のシステム。
【請求項9】
前記制御装置(6)が、さらに、薬剤によって引き起こされる呼吸状態に対する影響に関するモデル、および、二酸化炭素の反応速度論および動力学を含む呼吸モデルを、前記患者の呼吸性アシドーシスの指針として備えている、前記請求項のいずれか1項記載のシステム。
【請求項10】
前記薬剤配給ユニット(3)が、輸液ポンプおよび/または注射器ポンプを備えている、請求項1〜9のいずれか1項記載のシステム。
【請求項11】
前記継続的な滴定が、離散時間型であり、システムのアップデート速度、特に、1秒から60秒の範囲の時間間隔でのアップデート速度に基づいている、請求項1〜10のいずれか1項記載のシステム。
【請求項12】
前記薬剤配給ユニット(3)によって配給される前記薬剤あるいは薬剤の混合物が、オピオイドであるか、あるいは、オピオイドを含んでおり、特に、前記オピオイドが、レミフェンタニル、アルフェンタニル、スフェンタニルあるいはフェンタニルである、請求項1〜11のいずれか1項記載のシステム。
【請求項13】
前記薬剤配給ユニット(3)によって配給される前記薬剤あるいは薬剤の混合物が、プロポフォールであるか、あるいは、プロポフォールを含んでいる、請求項1〜12のいずれか1項記載のシステム。
【請求項14】
前記薬剤の混合物が、少なくとも1つの呼吸機能抑制薬と、追加的な非呼吸機能抑制の鎮静剤あるいは鎮痛剤とを含んでおり、特に、前記薬剤の混合物が、オピオイドおよびケタミンを含んでいる、請求項1〜13のいずれか1項記載のシステム。
【請求項15】
レミフェンタニルとプロポフォールとを含んだ薬剤の混合物において、
これらレミフェンタニルとプロポフォールとの比が、麻酔に使用する場合には0.0015:1と0.0035:1との間、あるいは、鎮静化に使用する場合には0.0002:1と0.0008:1との間の血漿中あるいは効果部位における定常状態の濃度比を得られるような比であり、
特に、請求項1〜14のいずれか1項に記載のシステムに関連して使用される、薬剤の混合物。
【請求項16】
自発的に呼吸している患者に対する呼吸機能抑制薬あるいは薬剤の混合物の投与を制御する方法において、
前記患者の呼吸状態に関連する測定信号を取得するステップと、
前記患者に対する呼吸機能抑制薬あるいはそのような薬剤の混合物に関する指数連動的な自動滴定あるいは継続的な自動滴定に適した薬剤配給ユニットに制御信号を出力するステップと、を含んでおり、
前記制御装置が、呼吸状態に関連する前記測定信号を所定の状態に維持することにより、前記患者に対して十分な鎮静および/または鎮痛を与える方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−540890(P2009−540890A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515741(P2009−515741)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005165
【国際公開番号】WO2007/147505
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(501251079)ウニフェルシテット ベルン (3)
【出願人】(508374139)
【氏名又は名称原語表記】ETH ZUERICH