説明

黄燐弾の処理装置および処理方法

【課題】危険作業を全く行うことなく安全に黄燐弾を処理することのできる黄燐弾の処理装置及び処理方法を提供する。
【解決手段】黄燐弾処理装置1は、黄燐と反応する反応水を収容する反応水槽11と、該反応水槽11の反応水中に酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給装置20とを有し、該反応水槽11の反応水中で黄燐弾から取り出された黄燐に上記酸素含有ガス供給装置20が供給する酸素含有ガスを接触させることにより該黄燐を酸化して五酸化燐を生成し、該五酸化燐と反応水とを反応させて燐酸を含む水溶液の生成を可能としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄燐弾の不発弾、不用弾を安全に処理する処理装置及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不発弾、不用弾を安全に処分する方法が検討されている。ここで、不用弾とは製造後耐用年数を過ぎて使用できなくなり安全に処分する必要がある砲弾類を言う。不発弾、不用弾の中には煙幕弾、焼夷弾として使用される黄燐弾がある。この黄燐弾を処分する場合、ロンドン条約96年議定書により海洋投棄が禁止されており、また自衛隊や米軍の演習場での爆破処理も、発生する煙幕の周辺環境への影響から実質的には実施できないのが現状である。その為、特に不発弾の黄燐弾の処理は、海洋投棄が禁止されてからは全く進展していないのが現状である。
【0003】
特許文献1では、不発弾、不用弾の処理方法として、圧搾破砕した後アルカリ溶液中で火薬類を分解する方法が提案されているが、黄燐はアルカリ溶液で分解することができないので、この方法は黄燐弾の処理には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−297000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
黄燐弾の海洋投棄や爆破処理ができないことから、黄燐弾の処理の方法として以下の方法が検討されている。
【0006】
黄燐弾の弾殻を水中でドリル等により穿孔し黄燐充填部分に穴を開け、砲弾から黄燐を溶かし出して抜き出し回収する。水中で黄燐の抜き出しを行うのは、黄燐弾を空気中に曝した状態で黄燐を抜き出すと直ちに空気中の酸素と黄燐が反応して五酸化燐が生成し、五酸化燐と空気中の水分が反応して人体に有害な大量の煙幕を発生させるとともに、その時の反応熱で信管、伝爆薬筒に充填されている爆薬が反応して爆発する危険性があるからである。なお、黄燐を抜いた弾に残存する信管、伝爆薬筒は専用の炉にて燃焼処理される。
【0007】
回収された黄燐は、(1)廃棄物処理業者へ引き渡し安全に処分するか、(2)回収場所で燃焼処理するかのいずれかで処理するが、(1)の処理をするには回収した黄燐を何らかの方法で小分けして水中に入れたまま空気と遮断して廃棄物処理業者の処理場所まで輸送する必要がある。また(2)の処理においては回収した黄燐を空気中に曝すことなく密閉された状態で燃焼炉等に供給して酸化燃焼させる必要がある。いずれの処理でも黄燐を空気中に曝さないように取り扱う必要があり、処理工程が複雑であり、危険な作業を伴っている。
【0008】
本発明は、以上の問題に鑑みてなされたものであり、危険作業を全く行うことなく安全に黄燐弾を処理することのできる黄燐弾の処理装置及び処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、水中で黄燐弾から抜き出した黄燐を水中から出すことなく酸化させて五酸化燐とし、五酸化燐と水とを反応させて燐酸を生成させることにより、黄燐を空気中に曝すことなく、危険な作業を一切行わずに安全に黄燐を処理できることを見出した。さらに、生成した燐酸水溶液に消石灰を加えて燐酸水素カルシウムを析出させ固定化沈澱させて回収することにより、固形物として処理することができることも見出した。
【0010】
<第一発明>
本発明に係る黄燐弾の処理装置は、黄燐と反応する反応水を収容する反応水槽と、該反応水槽の反応水中に酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給手段とを有し、該反応水槽の反応水中で黄燐弾から取り出された黄燐に上記酸素含有ガス供給手段が供給する酸素含有ガスを接触させることにより該黄燐を酸化して五酸化燐を生成し、該五酸化燐と反応水とを反応させて燐酸を含む水溶液の生成を可能としていることを特徴としている。
【0011】
本発明では、黄燐弾からの黄燐の取出しそして黄燐と酸素含有ガスとの接触は、処理装置が設置されている室内外における周囲空気中に黄燐が曝されることなく、反応水槽の反応水中で行われる。したがって、該黄燐と酸素含有ガスとの接触により五酸化燐が生成され該五酸化燐と反応水とが反応して生成された燐酸は、該反応水中に溶解するので周囲に拡散しない。また、黄燐が一度に大量の空気と接触することはなく、該黄燐と酸素含有ガスとの接触で発生する反応熱が小さいので、信管や伝爆薬筒に充填されている爆薬が該反応熱により爆発することがない。また、黄燐は、本発明の処理装置で処理される結果、燐酸を含む水溶液となるので、従来のように、黄燐をそのまま回収して該黄燐を室内外の周囲空気と接触させないように注意して取り扱う必要がなくなる。このように、本発明によれば、危険作業を全く行うことなく安全に黄燐弾を処理することができる。
【0012】
上記黄燐弾の処理装置は、反応水槽の反応水中で黄燐弾の弾殻を穿孔又は切断し黄燐弾から黄燐を取り出し可能とする開殻手段と、反応水槽の反応水の温度を上記黄燐の融点以上の温度に保持する水温保持手段とを有することが好ましい。
【0013】
上記黄燐弾の処理装置は、反応水槽から燐酸を含む水溶液を受け入れるとともに、消石灰を受け入れる中和水槽を有し、該中和水槽内で燐酸水素カルシウムを析出させることが好ましい。
【0014】
酸素含有ガス供給手段は、酸素含有ガスを微細気泡として反応水中に供給することが好ましい。
【0015】
<第二発明>
本発明に係る黄燐弾の処理方法は、黄燐と反応する反応水を収容する反応水槽の反応水中で黄燐弾から黄燐を取り出す黄燐取出工程と、該反応水中で該黄燐に酸素含有ガスを接触させて該黄燐を酸化して五酸化燐を生成する五酸化燐生成工程と、該反応水中で該五酸化燐と該反応水とを反応させて燐酸を含む水溶液を生成する燐酸生成工程とを有することを特徴としている。
【0016】
上記黄燐弾の処理方法では、反応水槽の反応水中で黄燐弾の弾殻を穿孔又は切断し黄燐弾から黄燐を取り出し可能とする開殻工程と、反応水槽の反応水の温度を黄燐の融点以上の温度に保持する水温保持工程とを有することが好ましい。
【0017】
上記黄燐弾の処理方法では、燐酸を含む水溶液を反応水槽から中和水槽に供給するとともに、消石灰を該中和水槽に供給して、該中和水槽内で燐酸水素カルシウムを析出させる中和工程を有することが好ましい。
【0018】
五酸化燐生成工程にて、酸素含有ガスが微細気泡として反応水中に供給されることが好ましい。
【0019】
第一発明および第二発明において「反応水」とは、水の他、燐酸を含む水溶液の一部を循環させて反応水槽に再度供給する場合には、該水溶液をも意味している。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、黄燐弾の黄燐を空気中に曝すことなく、危険な作業を一切行うことなく安全に黄燐弾を処理できる黄燐弾の処理装置及び処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係る黄燐弾の処理装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面にもとづき、本発明の実施形態を説明する。
【0023】
本実施形態に係る黄燐弾処理装置の構成を示すブロック図である。該黄燐弾処理装置1は、大きく分けて、黄燐弾(図示せず)から取り出した黄燐を反応水中で酸化しさらに燐酸を含む水溶液(以下、「燐酸水溶液」という)を生成する黄燐処理装置10と、該燐酸水溶液を中和する中和装置50とを備えている。
【0024】
黄燐処理装置10は、黄燐と反応する反応水を収容する反応水槽11を有している。本実施形態では、該反応水槽11は、底壁から上方へ向けて延びる隔壁12によって主室11Aと副室11Bとに二分されており、該主室11Aの反応水中で黄燐弾からの黄燐の取出しそして該黄燐の処理による燐酸水溶液の生成が行われる。一方、副室11Bは、主室11Aで生成された燐酸水溶液を外部へ送るための通路として機能する。
【0025】
本実施形態では、黄燐弾の処理が開始される前において、主室11A内には反応水として水が収容されている。そして、黄燐弾の処理の開始後においては、後述するように、生成された燐酸水溶液の一部が主室11Aに戻されることにより循環され、該燐酸水溶液が反応水として用いられる。
【0026】
上記黄燐弾からの黄燐の取出しは、主室11Aの反応水(水)中に黄燐弾を位置させて該黄燐弾の弾殻を開殻手段(図示せず)により開殻することにより行われる。具体的には、開殻手段として、例えばドリルやカッタを用いて、該ドリルでの穿孔や該カッタでの切断により弾殻を開殻することができる。該弾殻が開殻されると、黄燐弾内部の黄燐充填部から黄燐が反応水中に溶け出し、図1にて「A」で示されるように、主室11A内に堆積する。
【0027】
黄燐処理装置10は、主室11Aの反応水中に酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給手段としての酸素含有ガス供給装置20を有している。該酸素含有ガス供給装置20は、反応水槽11外に位置し酸素含有ガスを生成する酸素含有ガス生成装置21と反応水槽11の主室11A内に位置し該酸素含有ガス生成装置21から受けた酸素含有ガスを反応水中に供給する散気管22とを有している。
【0028】
酸素含有ガス生成装置21は、空気圧縮機23と酸素ボンベ24とを有しており、該空気圧縮機23から供給される空気と該酸素ボンベ24から供給される酸素とを混合することにより酸素含有ガスを生成する。該空気圧縮機23からの空気供給量および酸素ボンベ24からの酸素供給量は、空気流量計25および酸素流量計26によって計測されており、計測された空気供給量および酸素供給量に基づいて、制御装置(図示せず)によって、それぞれの減圧弁27,28の開度が増減されて酸素含有ガスの酸素濃度そして流量(供給量)が調整される。
【0029】
本実施形態では、酸素ボンベからの酸素と空気圧縮機からの空気とを混合させて酸素含有ガスを生成することとしたが、酸素含有ガスの生成の形態はこれに限られない。例えば、上記酸素ボンベに代えてオゾン発生器を設け、該オゾン発生器からのオゾンと上記空気圧縮機からの空気とを混合させて酸素含有ガスを生成してもよい。また、酸素ボンベやオゾン発生器を設けることなく、空気圧縮機からの空気をそのまま酸素含有ガスとして用いてもよい。
【0030】
散気管22は、図1に示されているように、主室11A内に堆積している黄燐の上方に配置されており、複数の散気孔(図示せず)から下方へ向けて、すなわち上記黄燐の表面に向けて酸素含有ガスを微細気泡として散気する。この結果、酸素含有ガスの微細気泡が黄燐表面に均一に接触する。黄燐表面と酸素含有ガスとの接触効率を高めるためには、微細気泡の気泡径が1〜50ミクロンであることが好ましい。
【0031】
上記散気管22からの酸素含有ガスが上記黄燐の表面に接触することにより、該黄燐が酸化されて五酸化燐が生成され、該五酸化燐が水と反応して燐酸が生成される。この結果、主室11A内の反応水は燐酸水溶液となる。本実施形態では、主室11A内に攪拌機13が設けられており、該攪拌機13による反応水の攪拌により、上記黄燐表面と酸素含有ガスの微細気泡との接触による酸化反応が促進される。
【0032】
主室11Aで生成された燐酸水溶液は、図1にて矢印で示されているように、隔壁12の上端を超えて副室11Bへ送られる。該副室11Bは、隔壁14で左右に隔てられている。図1に示されているように、該隔壁14と反応水槽11の底壁との間は開放されていて左右の通路が連通しており、該左右の通路によって一つの通路が形成されている。したがって、副室11Bに送られた燐酸水溶液は、左方の通路を下方へ向けて進んだ後、右方の通路を上方へ向けて進む。
【0033】
右方の通路は、フィルタ15が設けられており、該フィルタ15によって燐酸水溶液中に含まれる固形物が濾過される。燐酸水溶液中の固形物としては、例えば、主室11A内で黄燐弾の弾殻を開殻した際に生じる該弾殻の破片等があり、該固形物がフィルタ15で濾過されることにより、後述するスプレーノズルが閉塞することが防止される。
【0034】
右方の通路の壁部、すなわち反応水槽11の壁部の上端寄り位置、換言すると、反応水槽11内の水面近傍位置には、外部と連通するオーバーフロー流出口16が設けられている。該オーバーフロー流出口16からオーバーフローした燐酸水溶液は、後述の中和水槽51へ供給される。反応水槽11には、補給水供給装置(図示せず)から補給水が供給されていて、反応水槽11内の水面位置が一定となるように、制御装置(図示せず)によって燐酸水溶液のオーバーフロー流出量および補給水の供給量が調整されている。
【0035】
上記反応水槽11の壁部における上記オーバーフロー流出口16よりも下方位置であって、上記フィルタ15よりも上方位置には、外部と連通する循環水抜出口17が設けられている。
【0036】
反応水槽11の外部には、燐酸水溶液を循環させるための循環装置30が設けられている。該循環装置30は、上記循環水抜出口17から燐酸水溶液を抜き出す循環ポンプ31と、抜き出された燐酸水溶液を加熱する熱交換器32と、加熱された燐酸水溶液を反応水槽11の反応水面に散水するスプレーノズルヘッダ33とを有している。該循環装置30は、反応水槽11内の反応水の温度を黄燐の融点以上の温度に保持するための水温保持手段としての機能を有している。
【0037】
上記熱交換器32は、反応水槽11内の反応水の温度を黄燐の融点(44℃)以上の温度、好ましくは55〜70℃に保持するように、外部に設置した温水ボイラ(図示せず)などの熱源からの熱媒体と燐酸水溶液との熱交換により、該燐酸水溶液を加熱する。ここで、反応水の温度を55℃以上としたのは、溶融状態にある黄燐の適度な流動性を確保し、黄燐弾内部の黄燐充填部から黄燐が反応水中に溶け出すことを容易にするためと、酸素含有ガスの微細気泡との接触による酸化反応を促進するためであり、70℃以下としたのは、五酸化燐と水との反応で発生する燐酸ミストにより白煙が生じることを防止するためである。
【0038】
上記スプレーノズルヘッダ33は、主室11Aの上方位置に設けられており、上記熱交換器32によって加熱された燐酸水溶液を複数のスプレーノズル(図示せず)から反応水槽11の反応水面に散水する。この結果、攪拌機13および微細気泡による反応水の混合攪拌作用に起因して浮遊する黄燐の小片を、散水した上記燐酸水溶液によって再沈下させ、該黄燐が反応水槽11の外部の空気と接触することを防止できる。また、該燐酸水溶液の散水により、反応水槽11の反応水面での泡の発生を防止することもできる。
【0039】
反応水槽11には、pH計18および電気伝導度計19が設けられている。該pH計18は、黄燐弾の処理開始後における反応水槽11内の反応水、すなわち燐酸水溶液のpHを計測し、該電気伝導度計19は、該燐酸水溶液の電気伝導度を計測する。本実施形態では、制御装置(図示せず)が、計測されたpHおよび電気伝導度に基づいて、酸素含有ガス供給装置20からの酸素含有ガス供給量および循環装置30からの燐酸水溶液の供給量を調整することにより、黄燐の酸化反応および燐酸生成反応が円滑に進むように制御を行っている。
【0040】
また、反応水槽11への補給水の供給量を制御する制御装置(図示せず)は、上記pH計18によって計測されたpHに基づいて、反応水槽11内の燐酸水溶液のpHを3〜4の範囲内に保持するように補給水の供給量を調整する。ここで、pHを3〜4の範囲内としたのは、pHが3より低いときには、処理装置1に腐食が生じることがあり、pHが4より高いと黄燐の酸化反応速度が遅くなることがあるからである。
【0041】
反応水槽11の上方には、該反応水槽11を覆うようにフード40が設けられていて、また、該フード40には、排気ファン41が接続されていて、反応水槽11で発生した燐酸ミストが該排気ファン41によって吸引され周囲に飛散することが防止されている。
【0042】
中和装置50は、反応水槽11から燐酸水溶液を受け入れるとともに、消石灰を受け入れる中和水槽51と、該中和水槽51内の燐酸水溶液および消石灰を攪拌する攪拌機52と、該中和水槽51内の燐酸水溶液のpHを計測するpH計53とを有している。
【0043】
上記中和水槽51は、反応水槽11からオーバーフローした燐酸水溶液を受け入れるとともに、消石灰供給装置(図示せず)から供給された消石灰を受け入れる。該中和水槽51内では、上記燐酸水溶液と消石灰との中和反応が生じ、上記攪拌機52による攪拌によって該中和反応が促進される。該中和反応の結果、燐酸水素カルシウムが析出し中和水槽51の底部に沈殿する。該燐酸水素カルシウムは反応液と固液分離されて除去される。
【0044】
本実施形態では、制御装置(図示せず)が、pH計53により計測された中和水槽51内の反応液のpHに基づいて、該反応液のpHを、中和反応そして燐酸水素カルシウムの析出が円滑に進む範囲とするように消石灰の供給量を調整する。
【0045】
本実施形態では、黄燐弾からの黄燐の取出しそして黄燐と酸素含有ガスとの接触は、反応水槽11外の空気中に黄燐が曝されることなく、該反応水槽11の反応水中で行われる。したがって、生成された燐酸は、該反応水中に溶解するので周囲に拡散しない。また、黄燐が一度に大量の空気と接触することはなく、該黄燐と酸素含有ガスとの接触で発生する反応熱が小さいので、信管や伝爆薬筒に充填されている爆薬が該反応熱により爆発することがない。また、黄燐は、本実施形態に係る処理装置1で処理される結果、燐酸水溶液となるので、従来のように、黄燐をそのまま回収して該黄燐を空気と接触させないように注意して取り扱う必要がなくなる。このように、本実施形態によれば、危険作業を全く行うことなく安全に黄燐弾を処理することができる。
【実施例】
【0046】
本発明の実用性を確認する為に、実施例として、以下の実証実験を実施した。
【0047】
<実験方法>
フラスコ内に100mlの水と黄燐0.5mgを入れ、フラスコを恒温槽に入れ水温を70℃に保持し、空気を多孔質散気球により微細な空気気泡としてフラスコの水中に吹き込むとともに攪拌して、黄燐を水中で空気と接触させ酸化し、生成した五酸化燐を水と反応させ燐酸を生成した。この結果、フラスコ内には燐酸水溶液が生成することになる。この燐酸水溶液のpHと電気伝導度を測定し、燐酸水溶液の燐濃度の変化と黄燐の酸化反応速度を求めた。この実証実験では、空気曝気量を1000ml/min、多孔質散気球の孔寸法を5〜10μmとした。また、空気吹き込みを1時間行い1回の酸化実験とし、1回の酸化実験が終了するとフラスコ内の黄燐は残して、生成した燐酸水溶液を捨てて新しい水を入れ、次の回の酸化実験を行うことを繰り返した。
【0048】
<実験結果>
燐酸水溶液の燐濃度の変化と黄燐の酸化反応速度の結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
各回の実験において燐濃度の初期濃度は、実験回数が増えるにつれて減少しているが、それぞれの回の実験において1時間後には燐濃度が増加しており、これは、黄燐が酸化され燐酸が生成されていることを示している。さらに、それぞれの回の実験において1時間後の黄燐の酸化反応速度はほぼ同じであり、確実に黄燐が酸化されていることを示している。また、反応速度が比較的遅いため、反応による水温の上昇は全く観測されなかった。
【0051】
以上の結果より、水中で黄燐に空気を接触させることにより、黄燐を酸化し、さらに燐酸を生成することができ、この方法を用いて、黄燐弾から黄燐を水中で抜き出した後、その水中で安全に黄燐を処理できることが実証された。
【0052】
また、水温を変えて実験したところ、水温は55℃以上70℃以下の温度範囲とすることが好ましいことが判明した。黄燐の融点温度は44℃であり、水温を黄燐の融点温度の44℃以上とすることにより、黄燐は溶融状態となる。しかし、温度が50℃程度より低いと黄燐が溶融状態であっても粘性が高く、流動性が低く、また、空気との反応性が低いため、水温を55℃以上として適度の流動性を有するようにすることが好ましい。また、黄燐の酸化反応は温度が高いほど進み易いが、水温が70℃を超えると、五酸化燐と水との反応が激しく進み燐酸ミストの発生が多く、白煙が生じるので好ましくない。
【符号の説明】
【0053】
1 黄燐弾処理装置
11 反応水槽
20 酸素含有ガス供給装置(酸素含有ガス供給手段)
30 循環装置(水温保持手段)
51 中和水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄燐と反応する反応水を収容する反応水槽と、
該反応水槽の反応水中に酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給手段とを有し、
該反応水槽の反応水中で黄燐弾から取り出された黄燐に上記酸素含有ガス供給手段が供給する酸素含有ガスを接触させることにより該黄燐を酸化して五酸化燐を生成し、該五酸化燐と反応水とを反応させて燐酸を含む水溶液の生成を可能としていることを特徴とする黄燐弾の処理装置。
【請求項2】
反応水槽の反応水中で黄燐弾の弾殻を穿孔又は切断し黄燐弾から黄燐を取り出し可能とする開殻手段と、
反応水槽の反応水の温度を上記黄燐の融点以上の温度に保持する水温保持手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の黄燐弾の処理装置。
【請求項3】
反応水槽から燐酸を含む水溶液を受け入れるとともに、消石灰を受け入れる中和水槽を有し、該中和水槽内で燐酸水素カルシウムを析出させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の黄燐弾の処理装置。
【請求項4】
酸素含有ガス供給手段は、酸素含有ガスを微細気泡として反応水中に供給することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の黄燐弾の処理装置。
【請求項5】
黄燐と反応する反応水を収容する反応水槽の反応水中で黄燐弾から黄燐を取り出す黄燐取出工程と、
該反応水中で該黄燐に酸素含有ガスを接触させて該黄燐を酸化して五酸化燐を生成する五酸化燐生成工程と、
該反応水中で該五酸化燐と該反応水とを反応させて燐酸を含む水溶液を生成する燐酸生成工程とを有することを特徴とする黄燐弾の処理方法。
【請求項6】
反応水槽の反応水中で黄燐弾の弾殻を穿孔又は切断し黄燐弾から黄燐を取り出し可能とする開殻工程と、
反応水槽の反応水の温度を黄燐の融点以上の温度に保持する水温保持工程とを有することを特徴とする請求項5に記載の黄燐弾の処理方法。
【請求項7】
燐酸を含む水溶液を反応水槽から中和水槽に供給するとともに、消石灰を該中和水槽に供給して、該中和水槽内で燐酸水素カルシウムを析出させる中和工程を有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の黄燐弾の処理方法。
【請求項8】
五酸化燐生成工程にて、酸素含有ガスが微細気泡として反応水中に供給されることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の黄燐弾の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−12245(P2012−12245A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149311(P2010−149311)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(593029802)日興技化株式会社 (6)