説明

黄色ブドウ球菌由来のポリペプチド及び使用方法

【課題】ブドウ球菌属から単離可能な単離ポリペプチドを提供する。
【解決手段】よって、そのポリペプチドを1種又は2種以上含む組成物、並びにそのポリペプチドの製造方法及び使用方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄色ブドウ球菌由来のポリペプチド及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラム陽性菌は、ヒト及び動物の双方において様々な疾病を引き起こす、極めて多様な生物群である。ヒト及び/又は動物の健康状態における重大性が認識されている病原体の中には、コリネバクテリウム(Corynebacteriaceae)、エンテロコッカス(Enterococcacae)、ミクロコッカス(Micrococcaceae)、ミコバクテリウム(Mycobacteriaceae)、ノカルジア(Nocardiaceae)、及びペプトコッカス(Peptococcaceae)の各科に属する細菌が挙げられる。その例としては、アクチノミセス属(Actinomyces spp.)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium spp.)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium spp.)、エンテロコッカス属(Enterococcus spp.)、エリジペロスリックス属(Erysipelothrix spp.)、真正細菌属(Eubacterium spp.)、キトコッカス属(Kytococcus spp.)、乳酸菌属(Lactobacillus spp.)、ミクロコッカス属(Micrococcus spp.)、モビルンカス属(Mobiluncus spp.)、ミコバクテリウム属(Mycobacteria spp.)、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus spp.)、プロピオン酸菌属(Propionibacterium spp.)、及びブドウ球菌属(Staphylococcus spp.)等に属する細菌種が挙げられる。これらの病原体は、多種多様な動物種において、多数の臨床症状を引き起こす。これらの感染の治療法として、歴史的には、グラム陽性生物に共通する構造及び機能を攻撃する抗生物質が用いられてきた。しかしながら、広範に分布するグラム陽性生物の多くが、幾つかの種類の抗生物質に対して耐性を生じるようになり、感染治療が困難となっている。ヒト及び食糧生産動物の双方において、細菌性疾患の治療に抗生物質の使用が普及したことが主な要因となって、多種のグラム陽性生物に抗生物質耐性株が急増したものと思われる。従って、動物並びにヒトにおいて、グラム陽性生物による感染を予防又は根絶する、別の治療法を見出す必要性が高い。
【0003】
農業動物におけるブドウ球菌(Staphylococcal)感染
農産業においては、多数の重大な疾病がグラム陽性生物によって引き起こされている。グラム陽性菌感染により生じる臨床症状の例としては、乳腺炎、敗血症、肺炎、骨髄炎、髄膜脳炎、リンパ管炎、皮膚炎、生殖管感染、子宮筋層炎、周産期 疾病、下垂体 膿瘍、関節炎、滑液包炎、精巣炎、膀胱炎及び腎盂腎炎、乾酪性リンパ節炎、結核、潰瘍性リンパ管炎、丹毒、蹄葉炎、チザー病、破傷風、ボツリヌス中毒症、腸炎、悪性浮腫、ブラクシー病(braxy)、桿菌性ヘモグロビン尿症、腸毒血症が挙げられる。特にブドウ球菌属は、多種多様な農業動物種に感染し得るため、甚大な経済的損失をもたらす場合がある。例えば、合衆国の酪農産業は、主に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)により引き起こされる疾病である乳腺炎によって、雌牛一頭当たり年間およそ185ドルの損失を被っていると推算される。米国には950万頭の乳牛がいることから、乳腺炎による年間の失費は約18億ドルになる。これは農家による牛乳の総売上高の約10%になる。そしてこの損失の約3分の2が、無症状感染雌牛の牛乳産生量の減少によるものである。また、異常のある牛乳や抗生物質治療を受けた雌牛から搾られた牛乳の廃棄、罹患雌牛の早期交換に要する費用、雌牛の処分による売上減少、薬や獣医の診察に要する費用、人件費の増大等による損失もある。牛酪農産業における流行に加えて、グラム陽性球菌により引き起こされる乳腺炎は、ヤギや羊の中でも広まっている。黄色ブドウ球菌(S. aureus)により引き起こされる別の動物疾病としては、馬におけるブドウ菌腫、家禽における化膿性滑膜炎及び骨髄炎、ウサギにおける鼻風邪、豚における流産、子羊におけるダニ性膿血症等が挙げられる。他のブドウ球菌種として、犬(S. intermedius)及び豚(S. hycius)の主な皮膚病原体がある。家禽種においては、ブドウ球菌病原体が心内膜炎及び敗血症を引き起こす。
【0004】
ヒトにおけるブドウ球菌感染
ブドウ球菌属は、ヒトにおいても様々な感染を引き起こす病原体である。黄色ブドウ球菌種は、ヒトの粘膜や皮膚によく見られるコロニー形成菌であるが、日和見病原体としてヒトに多様な感染を引き起こし得る。例えば、黄色ブドウ球菌は幾つかの皮膚感染の原因物質である。その例としては、膿痂疹、せつ腫症、蜂巣炎、及び熱傷様皮膚症候群、並びに、致死の可能性がある術後の創傷感染等が挙げられる。加えて、免疫障害を有する個体が院内で黄色ブドウ球菌に晒されることにより、肺炎、尿路感染、骨髄炎、関節炎、菌血症、心内膜炎等の器官感染が引き起こされてきた。また、黄色ブドウ球菌は中毒症、とりわけ毒素性ショック症候群及び食中毒の原因物質でもある。ブドウ球菌エンテロトキシンBによって引き起こされる食中毒は、サルモネラ症、カンピロバクター感染症及びリステリア症さえも上回り、飲食媒介病の最も一般的な原因となっている。他のブドウ球菌(staphylococci)種の中には、ヒトの病気を引きこすものもある。表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、溶血性ブドウ球菌(S. haemolyticus)及び常在性ブドウ球菌(S. hominis)は、通常は留置式の医療デバイスに感染し、腐性ブドウ球菌(S. saprophyticus)は、女性の尿路感染に関連している。
【0005】
ブドウ球菌の病原性機構
ブドウ球菌は様々な宿主組織に感染してその免疫系を免れるべく、宿主環境における限られた資源と活発な防御系の中で生存するために編み出された、数種類の分泌タンパク質、表面発現毒性因子及び代謝系を産生する。コロニー形成は、感染を確定させるために必要な最初のステップである。莢膜、リポテイコ酸、テイコ酸等の多数の要素が、コロニー形成のための一般的な構造部品となる。更に、ブドウ球菌フィブロネクチン結合タンパク質及び骨シアロタンパク質結合タンパク質等の表面タンパク質が、宿主組織成分に特異的に結合する。ブドウ球菌病原体は一般に毒素を産生するが、これは極めて有害である。食中毒、毒素性ショック症候群、皮膚剥離症等、ヒトの病気の幾つかは、細胞外に分泌される毒素タンパク質が直接もたらす結果である。単一の単離株が、20〜30種の異なる分泌毒素の遺伝子をコード化している場合もある。分泌タンパク質産物の中には非特異的に、抗原提示細胞のMHCクラスII分子に結合すると同時に、T細胞のT細胞受容体にも結合する超抗原もある。この結合がT細胞シグナリングを誘発して、炎症誘発性因子の高レベルでの放出を促し、最終的には激しい免疫応答により宿主の損傷を招くことになる。表面で発現する別の種類の毒性因子として、宿主免疫系から細菌を匿うものもある。例えば、黄色ブドウ球菌の表面で発現されるタンパク質Aは、宿主抗体のFc成分に結合することにより、オプソニン作用や食作用を抑制する。また、多数のプロテアーゼ、ヘモリシン(アルファ、ベータ、ガンマ、及びデルタ)、ヌクレアーゼ、リパーゼ、ヒアルロニダーゼ、及びコラゲナーゼが、周辺細胞からの栄養素の抽出や宿主防御からの防護において細菌を補助している。
【0006】
ブドウ球菌における抗生物質耐性
CDCの推定によれば、合衆国では毎年200万人近くの人々が院内感染し、それにより年間9万人が死亡している。これらの致死感染のうち、70%が抗生物質耐性菌によるものである。微生物種における抗生物質耐性の増加は、特に皮膚及び粘膜における黄色ブドウ球菌等のコロニー形成菌に顕著である。例えば、病院から単離された黄色ブドウ球菌の大多数がペニシリンに耐性を有し、また、その50%がメチシリン、ナフシリン、オキサシリン等の半合成ペニシリンにも耐性を有していた。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌:methicillin-resistant Staphylococcus aureus)と呼ばれるこれらの単離株は、1970年代に初めて発見され、現在では病院内に深く根付いてしまっている。ここ最近では、病院や医療従事者に晒される機会のなかった個人がMRSAに感染するという、地域社会での感染例も幾つか報告されている。この憂慮すべき動向を強めているのが、MRSA治療に使用されるグリコペプチドであるバンコマイシンに対し、感受性が低下したMRSA単離株が分離されたことである。CDCによるバンコマイシン耐性の定義に従えば、真にバンコマイシン耐性の株は殆どないものの、幾つかのMRSA株が、バンコマイシンに対する感受性が低い亜集団、即ちVISA(バンコマイシン低感受性黄色ブドウ球菌:Vancomycin-intermediate Staphylococcus aureus)を構成するものと特徴付けられている。バンコマイシン耐性及びバンコマイシン低感受性株の単離は比較的新たな進展なので、それらの病院及び/又は地域社会における罹病率に関するデータは殆どない。時折、バンコマイシンに対して完全な耐性を示し、腸球菌属(Enterococcus spp.)から獲得したと見られる耐性プラスミドを有する、VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌:Vancomycin-resistant Staphylococcus aureus)も、ヒトから回収されている。
【0007】
ブドウ球菌感染の予防及び治療のための戦略
複数の抗生物質に対して耐性を示すグラム陽性病原体が数多く出現したことで、疾病を防ぐ予防ワクチンを開発するための研究努力が活発になっている。ワクチンは、患者に投与することで免疫系の長期記憶応答を誘発することにより、将来その病原体に遭遇した場合に、免疫系がより短時間で効率的にその病原体を除去することを狙ったものである。現在までのところ、多くの重篤なヒト疾病、特にブドウ球菌感染に関連する疾病を引き起こすグラム陽性病原体に対して、広範な防護を提供するワクチンは得られていない。ブドウ球菌感染を予防するためのワクチン開発のアプローチとしては、接着マトリックス分子を認識する微生物表面成分[MSCRAMMS(Nilsson et al. 1998. J Clin Invest 101:2640-9; Menzies et al. 2002. J Infect Dis 185:937-43; Fattom et al. 2004. Vaccine 22:880-7]、表面多糖類(McKenney et al. 2000; McKenney et ah 1999. Science 284:1523-7; Maira-Litran et al. 2002. Infect Immun 70:4433-40; Maira-Litran et al. 2004. Vaccine 22:872-9; Maira-Litran et al. 2005. Infect Immun 73:6752-62)、及び変異型エキソプロテイン(Lowell et al. 1996. Infect Immun 64:4686-93; Stiles et al. 2001. Infect Immun 69:2031-6; Gampfer et al. 2002. Vaccine 20:3675-84)をサブユニットワクチン組成物中の抗原として使用することや、一の生育無毒性株(Reinoso et al. 2002. Can J Vet Res 66:285-8)、並びに数種のDNAワクチンアプローチ(Ohwada et al. 1999. J Antimicrob Chemother 44:767-74); Brouillette et al. 2002. Vaccine 20:2348-57; Senna et al. 2003. Vaccine 21:2661-6)の使用が報告されている。これらの組成物にはある程度の防護効果を示すものも多いが、種々のブドウ球菌株に対する多角的な防護は殆ど得られておらず、更には、院内感染の危険性が極めて高い集団である、免疫障害を有する患者に対して、実質的な免疫応答を誘発することにも失敗している。
【0008】
最も重篤なブドウ球菌性疾病は、抗原提示と無関係にT細胞を非特異的に刺激する、上述の超抗原性発熱性外毒素(superantigenic pyrogenic exotoxin:SPE)により媒介されるものである。こうした疾病には、毒素性ショック症候群、剥離性皮膚病、そしておそらくは川崎症候群が含まれる。これらのSPE媒介性疾病に対しては、通常は感染の前に投与されるワクチンよりも、活動性感染の間に免疫系をブーストする免疫治療剤の方が効果的である場合が多い。SPEに対する免疫応答が圧倒的であるゆえに、毒素活性を早急に低減することを、治療における最初の目標とせざるを得なくなる。現在までのところ、黄色ブドウ球菌媒介性疾病における毒素の中和に最も効果的なのは、静注用ヒト免疫グロブリン(intravenous human immunoglobulin:IVIG)の投与である。これは、数千人のドナーから集められたヒト抗体を精製・濃縮した製剤である(Takei et al. 1993. J Clin Invest 91:602-7; Stohl and Elliot. 1996. Clin Immunol Immunopathol 79:122-33)。健康な成人の約30%に黄色ブドウ球菌のコロニー形成が見られるが、このような広範な分布は、人口の大半における高い暴露率と一致する。よって、IVIG中の抗ブドウ球菌抗毒素抗体のレベルは、多くの場合には、細菌量が抗生物質によって低減されるまで免疫応答を安定化させるのに十分な期間、毒素を中和することが可能なレベルとされる(Schlievert, 2001. J Allergy Clin Immunol 108(4 Supρl):S 107-110)。複数の製造業者から提供されているIVIG製剤が、ヒト末梢血単核細胞を用いた増殖アッセイにおいて毒素を中和し、生体外での毒素誘導性のヒトT細胞駆動型B細胞分化を抑制すること(Stohl and Elliot. 1996. Clin Immunol Immunopathol 79: 122-33; Stohl and Elliott. 1995. J Immunol 155:1838-50; Stohl et al. 1994. J Immunol 153:117-27)、並びに、ブドウ球菌エンテロトキシンBによって刺激されたPBMCにおけるIL−4及びIL−2の分泌を低減させる(Takei et al. 1993. J Clin Invest 91:602-7; Darenberg et al. 2004. Clin Infect Dis 38:836-42)ことが示されている。IVIG治療は、SPEを中和する能力が証明されたこともあり、現在では川崎症候群の推奨治療法となっており、また、ブドウ球菌毒素性ショック症候群の治療法としても支持されている(Schlievert 2001. J Allergy Clin Immunol 108(4 Suppl):S107-l10)。手術時の免疫防御性創傷洗浄剤としてのIVIGの使用も、マウスを用いた研究がなされている(Poelstra et al. 2000. Tissue Eng 6(4):401-411)。標準的なIVIGは、一部のブドウ球菌SPE媒介性疾病の進行を食い止める点で有用ではあるが、未精選の数千人のドナーから産生されたヒトIVIG製剤の安全性、効力、及び一貫性については、依然として議論されている(Baker et al. 1992. N Engl J Med 327:213-9; Miller et al. 2001. J Allergy Clin Immunol 108:S91-4; Sacher, 2001. J Allergy Clin Immunol 108:S139-46; Darenberg et al. 2004. Clin Infect Dis 38:836-42)。更には、IVIGが一部のブドウ球菌感染を予防するという効果も、疑問視されている(Baker et al. 1992. N Engl J Med 327:213-9; Hill, H. R. 2000. J Pediatr 137:595-7; Darenberg et al. 2004. Clin Infect Dis 38:836-42)。潜在的危険性を有する特定の集団においてIVIGによるブドウ球菌感染治療の有効性を高めるために、ブドウ球菌MSCRAMMSクランピング因子A(clumping factor A:ClfA)及びフィブリノーゲン結合タンパク質G(SdrG)を対象とする抗体価が高い血漿由来、ドナー選択性、ポリクローナル抗ブドウ球菌ヒトIgGを作製して試験を行なったところ、極小未熟児において首尾よくブドウ球菌性敗血症を予防することができた(Vernachio et al. 2003. Antimicrob Agents Chemother 47:3400-6; Bloom et al. 2005. Pediatr Infect Dis J 24:858-866; Capparelli et al. 2005. Antimicrob Agents Chemother 49:4121-7)。また、黄色ブドウ球菌MSCRAMMクランピング因子Aに特異的なヒト化モノクローナル抗体の開発も行なわれている。黄色ブドウ球菌のヒトフィブロネクチンに対する結合を抑制するよう、数千のマウス抗ClfA抗体のプールから、ClfAとの結合能を有する抗体を選択し、続いて特定の標的残基を、ホモロガスなヒト生殖系サブグループ抗体を模倣するよう変異させてヒト化した(Hall et al. 2003. Infect Immun 71:6864-70; Domanski et al. 2005. Infect Immun 73:5229-32)。この特異抗体は、生命に係わる重篤な黄色ブドウ球菌感染の治療において、抗生物質と併用するように設計されているが、動物実験によれば予防的防御効果も示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nilsson et al. 1998. J Clin Invest 101:2640-9
【非特許文献2】Menzies et al. 2002. J Infect Dis 185:937-43
【非特許文献3】Fattom et al. 2004. Vaccine 22:880-7
【非特許文献4】McKenney et ah 1999. Science 284:1523-7
【非特許文献5】Maira-Litran et al. 2002. Infect Immun 70:4433-40
【非特許文献6】Maira-Litran et al. 2004. Vaccine 22:872-9
【非特許文献7】Maira-Litran et al. 2005. Infect Immun 73:6752-62
【非特許文献8】Lowell et al. 1996. Infect Immun 64:4686-93
【非特許文献9】Stiles et al. 2001. Infect Immun 69:2031-6
【非特許文献10】Gampfer et al. 2002. Vaccine 20:3675-84
【非特許文献11】Reinoso et al. 2002. Can J Vet Res 66:285-8
【非特許文献12】Ohwada et al. 1999. J Antimicrob Chemother 44:767-74
【非特許文献13】Brouillette et al. 2002. Vaccine 20:2348-57
【非特許文献14】Senna et al. 2003. Vaccine 21:2661-6
【非特許文献15】Takei et al. 1993. J Clin Invest 91:602-7
【非特許文献16】Stohl and Elliot. 1996. Clin Immunol Immunopathol 79:122-33
【非特許文献17】Schlievert, 2001. J Allergy Clin Immunol 108(4 Supρl):S 107-110
【非特許文献18】Stohl and Elliot. 1996. Clin Immunol Immunopathol 79: 122-33
【非特許文献19】Stohl and Elliott. 1995. J Immunol 155:1838-50
【非特許文献20】Stohl et al. 1994. J Immunol 153:117-27
【非特許文献21】Takei et al. 1993. J Clin Invest 91:602-7
【非特許文献22】Darenberg et al. 2004. Clin Infect Dis 38:836-42
【非特許文献23】Schlievert 2001. J Allergy Clin Immunol 108(4 Suppl):S107-l10
【非特許文献24】Poelstra et al. 2000. Tissue Eng 6(4):401-411
【非特許文献25】Baker et al. 1992. N Engl J Med 327:213-9
【非特許文献26】Miller et al. 2001. J Allergy Clin Immunol 108:S91-4
【非特許文献27】Sacher, 2001. J Allergy Clin Immunol 108:S139-46
【非特許文献28】Darenberg et al. 2004. Clin Infect Dis 38:836-42
【非特許文献29】Baker et al. 1992. N Engl J Med 327:213-9
【非特許文献30】Hill, H. R. 2000. J Pediatr 137:595-7
【非特許文献31】Darenberg et al. 2004. Clin Infect Dis 38:836-42
【非特許文献32】Vernachio et al. 2003. Antimicrob Agents Chemother 47:3400-6
【非特許文献33】Bloom et al. 2005. Pediatr Infect Dis J 24:858-866
【非特許文献34】Capparelli et al. 2005. Antimicrob Agents Chemother 49:4121-7
【非特許文献35】Hall et al. 2003. Infect Immun 71:6864-70
【非特許文献36】Domanski et al. 2005. Infect Immun 73:5229-32
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、2以上の単離ポリペプチドを含む組成物を提供する。これら二つの単離ポリペプチドの分子量は、88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDa、又はこれらの組み合わせである。例えば、組成物は88kDa及び55kDaの単離タンパク質を含んでいてもよい。一部の態様によれば、この組成物は、分子量が88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、及び33kDaの単離ポリペプチドを含んでいてもよい。分子量は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動により決定される。これらのポリペプチドは、鉄キレート剤を含む培地で培養した黄色ブドウ球菌からは単離可能であるが、鉄キレート剤を含まない培地で生育させた黄色ブドウ球菌からは単離可能でないものである。この組成物は、マウス、ウシ、又はヒト等の動物を、黄色ブドウ球菌株、例えばATCC株19636に対する暴露(challenge)から防護する。この組成物は、医薬的に許容し得る担体を更に含んでいてもよく、また、分子量が150kDa、132kDa、120kDa、75kDa、58kDa、50kDa、44kDa、43kDa、41kDa、40kDa、又はこれらの組み合わせであって、鉄キレート剤を含まない培地で生育させた黄色ブドウ球菌から単離可能な単離ポリペプチドを、更に含んでいてもよい。一部の態様によれば、この組成物のポリペプチドは、黄色ブドウ球菌ATCC株19636から単離されるものでもよい。
【0011】
また、本発明は、この組成物を使用する方法を提供する。一態様によれば、この方法は、対象における感染を治療するものであって、ブドウ球菌属に感染している、或いは感染のおそれがある対象に、本発明の組成物を有効量投与する工程を有する。別の態様によれば、この方法は、対象における症状を治療するものであって、ブドウ球菌属に感染している対象に本発明の組成物を有効量投与する工程を有する。対象としては、ヒト、ウマ、又はウシ等の哺乳類が挙げられる。ブドウ球菌属としては、黄色ブドウ球菌が挙げられる。
【0012】
本発明は更に、本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体、例えばポリクローナル抗体を使用する方法を提供する。一態様によれば、この方法は、対象における感染を治療するものであって、ブドウ球菌属に感染している、或いは感染のおそれがある対象に、本発明の組成物を有効量投与する工程を有するとともに、この組成物が、本発明の2つの単離ポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む。別の態様によれば、この方法は、対象における症状を治療するものであって、ブドウ球菌属に感染している対象に本発明の組成物を有効量投与する工程を有するとともに、この組成物が、本発明の2つの単離ポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む。対象としては、ヒト、ウマ、又はウシ等の哺乳類が挙げられる。ブドウ球菌属としては、黄色ブドウ球菌が挙げられる。
【0013】
また、本発明によれば、対象におけるコロニー形成を低減する方法も提供される。一態様によれば、この方法は、ブドウ球菌属がコロニー形成している対象に、本発明の組成物を有効量投与する工程を有する。別の態様によれば、この方法は、ブドウ球菌属がコロニー形成している対象に、組成物の有効量を投与する工程を有するとともに、この組成物が、本発明の2つの単離ポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む。
【0014】
本発明は、ポリペプチドに特異的に結合する抗体を検出するキットを提供する。このキットは、個別の容器内に、本発明の単離ポリペプチドと、このポリペプチドに特異的に結合する抗体を検出する試薬とを含む。
【0015】
更に、本発明は、分子量が88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、及び33kDaから選択される、2つの単離ポリペプチドを含む組成物を提供する。ここで分子量は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動により決定される。この組成物の各ポリペプチドは、その質量フィンガープリントが、黄色ブドウ球菌ATCC株19636により発現される同一分子量のポリペプチドの質量フィンガープリントに対して80%以上の類似性を示すとともに、そのポリペプチドが、鉄キレート剤を含む培地で培養した黄色ブドウ球菌からは単離可能であるが、鉄キレート剤を含まない培地で生育させた黄色ブドウ球菌からは単離可能でないものである。例えば、分子量88kDaの単離ポリペプチドの質量フィンガープリントは、黄色ブドウ球菌ATCC株19636により発現される88kDaのポリペプチドの質量フィンガープリントに対して80%以上の類似性を示し、分子量55kDaの単離ポリペプチドの質量フィンガープリントは、黄色ブドウ球菌ATCC株19636により発現される55kDaのポリペプチドの質量フィンガープリントに対して80%以上の類似性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】鉄の存在及び不在下で生育させた、異なる種に由来する異なる黄色ブドウ球菌株のタンパク質の電気泳動プロファイル(それぞれのレーンをFe++及びDPと記す)。
【図2】黄色ブドウ球菌によるホモロガス及びヘテロロガスな抗原暴露後の、ワクチン投与マウスとワクチン非投与マウスとの間の死亡率の差異。
【図3】ワクチン投与及び黄色ブドウ球菌ATCC19636によるホモロガスな抗原暴露後の生存パーセントを示すカプラン・マイヤー生存曲線。
【図4】ワクチン投与及び黄色ブドウ球菌ATCC19636によるヘテロロガスな抗原暴露後の生存パーセントを示すカプラン・マイヤー生存曲線。
【図5】受動免疫及び黄色ブドウ球菌ATCC19636によるホモロガスな抗原暴露後の生存パーセントを示すカプラン・マイヤー生存曲線。
【図6】受動免疫及び黄色ブドウ球菌株1477によるヘテロロガスな抗原暴露後の生存パーセントを示すカプラン・マイヤー生存曲線。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、ポリペプチドと、ポリペプチドを含む組成物を提供する。本明細書で使用される「ポリペプチド」という語は、ペプチド結合により連結されたアミノ酸のポリマーを指す。よって、例えばペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、及び酵素等の語は、ポリペプチドの定義に含まれることとなる。また、この語は、ポリペプチドを発現後修飾したもの、例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化等したものも含む。ポリペプチドという語は、特定長のアミノ酸ポリマーを含意するものではない。ポリペプチドは、天然源から直接単離可能なものでもよいが、組み換え法、酵素による手法、又は化学的手法を用いて調製されるものであってもよい。天然由来のポリペプチドの場合、こうしたポリペプチドは通常は単離により得られる。「単離(isolated)」ポリペプチドとは、その天然環境から取り出されたものをいう。単離ポリペプチドの例としては、細胞質や細胞のから取り出されたポリペプチドであって、その天然環境におけるポリペプチド、核酸、及び他の細胞物質の大半がもはや存在しないものが挙げられる。「単離可能な(isolatable)」ポリペプチドとは、特定の原料から単離され得るポリペプチドをいう。「精製(purified)」ポリペプチドとは、天然状態においてそのポリペプチドに随伴する他の成分のうち、60%以上、好ましくは75%以上、最も好ましくは90%以上が除去されているものをいう。天然状態ではある生物体の内部で産生されるポリペプチドが、その生物体の外部で化学的手法や組み換え法等により製造された場合、それらのポリペプチドは天然環境内に存在するものではないので、定義上は単離及び精製されたものと判断される。本明細書で使用される「ポリペプチド断片(polypeptide fragment)」という語は、ポリペプチドをプロテアーゼによって消化して得られるポリペプチドの一部分を指す。特に断らない限り、「ある」等(a 又は an)、「その」等(the)、及び「少なくとも1つの」等(at least one)の語は、相互に交換可能に用いられ、1又は2以上であることを表わす。「含んでなる(comprises)」という語、及びその活用形は、明細書及び特許請求の範囲に登場する場合、限定された意味を有するものではない。
【0018】
本発明のポリペプチドは、分子量、質量フィンガープリント、又はそれらの組合せによって特徴付けられる。ポリペプチドの分子量は通常、キロダルトン(kilodaltons:kDa)で表わされ、常法により決定することが可能である。例としては、ゲル濾過法、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate:SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(polyacrylamide gel electrophoresis:PAGE)等のゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動、質量スペクトル法、及びHPLC等の液体クロマトグラフィーが挙げられる。中でも、分子量の決定は、SDSポリアクリルアミドゲルにより、約4%の濃縮用ゲル(stacking gel)と約10%の分離用ゲル(resolving gel)を用いて、還元及び変性条件下でポリペプチドを分離することにより行なうのが好ましい。別に断らない限り、分子量とは、SDS−PAGEによって決定される分子量を指す。本明細書で使用される「質量フィンガープリント」という語は、ポリペプチドをプロテアーゼにより消化した後に得られる、ポリペプチド断片の集団を指す。通常、消化の結果として得られるポリペプチド断片は、質量スペクトル法により分析される。各ポリペプチド断片は質量により、或いは質量(m)の電荷(z)に対する比により表わされ、後者は「m/z比」又は「m/z値」と呼ばれる。ポリペプチドの質量フィンガープリントを生成する方法は常法による。こうした方法の例を実施例13に記す。
【0019】
本発明のポリペプチドは金属調節ポリペプチドであってもよい。本明細書で使用される「金属調節(metal regulated)ポリペプチド」とは、ある微生物(microbe)によって発現されるポリペプチドであって、その微生物を低金属条件下で生育させた場合の方が、同じ微生物を高金属条件下で生育させた場合と比べて、発現量が大きいポリペプチドをいう。ここで、低金属及び高金属条件について説明する。例えば、ブドウ球菌属が産生するあるクラスの金属調節ポリペプチドは、その微生物が高金属条件で生育している間は検出可能なレベルでは発現されないが、低金属条件で生育している間は検出可能なレベルで発現される。黄色ブドウ球菌を低鉄条件で生育させた後に単離されるこのような金属調節ポリペプチドの例としては、分子量が88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、及び33kDaのものが挙げられる。黄色ブドウ球菌を低亜鉛又は低銅条件で生育させた後に単離されるこのような金属調節ポリペプチドの例としては、分子量が115kDa、88kDa、80kDa、71kDa、69kDa、35kDa、30kDa、29kDa、及び27kDaのものが挙げられる。
【0020】
また、本発明は、金属調節ではないポリペプチドも含む。こうしたポリペプチドは、金属イオンの存在下、例えば塩化第二鉄の下で発現されるとともに、低鉄条件で生育させた場合にも発現される。黄色ブドウ球菌から単離可能な、こうしたポリペプチドの例としては、分子量が150kDa、132kDa、120kDa、75kDa、58kDa、50kDa、44kDa、43kDa、41kDa、及び40kDaのものが挙げられる。
【0021】
あるポリペプチドが金属調節ポリペプチドであるか否かは、ポリペプチドの存在を比較するのに使用可能な方法を用いて決定することができる。例としては、ゲル濾過法、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)等のゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動、質量スペクトル法、及び、HPLC等の液体クロマトグラフィーが挙げられる。複数の微生物培養物を、高金属条件下及び低金属条件下でそれぞれ別々に生育させた上で、本明細書に記載の手順で本発明のポリペプチドを単離し、更に、各培養物中に存在するポリペプチドを分離して比較する。通常は、各培養物から同量のポリペプチドを取って使用する。ポリペプチドの分離は、SDSポリアクリルアミドゲルにより、約4%の濃縮用ゲルと約10%の分離用ゲルを用いて、還元及び変性条件下で行なうのが好ましい。例えば、各培養物から計30マイクログラム(μg)のポリペプチドを使用し、ゲルのウェルに導入する。ゲルを泳動させ、ポリペプチドをクーマシーブリリアントブルーで染色した後、それら二つのレーンを比較すればよい。ポリペプチドが検出可能なレベルで発現されているか否かを決定する際には、培養物から計30μgのポリペプチドを取ってSDS−PAGEゲルで分離し、本技術分野で公知の方法を用いてクーマシーブリリアントブルーで染色する。ポリペプチドが目視可能である場合には、検出可能なレベルで発現されていると判断し、ポリペプチドが目視可能でない場合には、検出可能なレベルで発現されていないと判断する。
【0022】
本発明のポリペプチドは、免疫原活性を有していてもよい。「免疫原活性(immunogenic activity)」とは、ポリペプチドが動物において免疫応答を誘発する能力を指す。ポリペプチドに対する免疫応答とは、そのポリペプチドに対し動物内で細胞性及び/又は抗体媒介性免疫応答が発動することをいう。通常は、免疫応答の作用として、これに限れるものではないが、ポリペプチドの一又は複数の抗原決定基に対する抗体、B細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、及び/又は細胞傷害性T細胞の産生が行なわれる。「抗原決定基(epitope)」とは、B細胞及び/又はT細胞が特異的に応答して抗体を産生する、抗原上の部位を指す。免疫原活性は防御性であってもよい。「防御(protective)免疫原活性」とは、ポリペプチドが動物において、黄色ブドウ球菌等のブドウ球菌属による感染を予防又は抑制する免疫応答を誘発する能力を指す。ポリペプチドが防御免疫原活性を有するか否かは、本技術分野で公知の方法により決定することができる。こうした方法の例を実施例5、9、12に記す。例えば、本発明のポリペプチド、或いは複数の本発明のポリペプチドの組合せによって、マウス等のげっ歯類をブドウ球菌属に対する暴露から防御することができる。本発明のポリペプチドは、対血清活性を有していてもよい。「対血清活性(seroactive activity)」とは、候補ポリペプチドが、黄色ブドウ球菌等のブドウ球菌属に感染している動物に由来する回復期血清中に存在する抗体と反応する能力を指す。ある態様によれば、回復期血清は、ATCC単離株19636、株SAAV1、株2176、又は株1477に感染している動物に由来する。本発明のポリペプチドは、免疫調節活性を有していてもよい。「免疫調節活性(immunoregulatory activity)」とは、ポリペプチドが特定の抗原に対する免疫応答を高めるべく非特異的に作用する能力を指す。ポリペプチドが免疫調節活性を有するか否かを決定する方法は、本技術分野では公知である。
【0023】
本発明のポリペプチドは、基準微生物(reference microbe)により発現されるポリペプチドの特性を有していてもよい。こうした特性には、分子量及び質量フィンガープリントの両方が含まれ得る。基準微生物としては、グラム陽性菌、好ましくはミクロコッカス科(the family Micrococcaceae)の一員、好ましくはブドウ球菌属、より好ましくは黄色ブドウ球菌が挙げられる。好ましい菌株の例を表1に列挙する。
【0024】
【表1】

【0025】
基準微生物が黄色ブドウ球菌ATCC単離株19636である場合、候補ポリペプチドが本発明のポリペプチドであると判断されるのは、以下の場合である。即ち、候補ポリペプチドの分子量が88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、又は33kDaであり、且つ、その質量フィンガープリントが、基準微生物によって発現される金属調節ポリペプチドであって、分子量がそれぞれ88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、又は33kDaであるポリペプチドの質量フィンガープリントと類似している場合である。こうしたポリペプチドは金属調節性であることが好ましい。例えば、候補ポリペプチドの分子量が88kDaであって、その質量フィンガープリントが、基準株である黄色ブドウ球菌ATCC単離株19636によって産生される88kDaの金属調節ポリペプチドの質量フィンガープリントと類似している場合、その候補ポリペプチドは本発明のポリペプチドである。
【0026】
基準微生物が黄色ブドウ球菌単離株SAAV1である場合、候補ポリペプチドが本発明のポリペプチドであると判断されるのは、以下の場合である。即ち、その(SDS−PAGEにより決定される)分子量が88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、又は33kDaであり、その質量フィンガープリントが、基準微生物によって発現されるポリペプチドであって、(SDS−PAGEにより決定される)分子量がそれぞれ88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、又は33kDaであるポリペプチドの質量フィンガープリントと類似している場合である。こうしたポリペプチドは金属調節性であることが好ましい。例えば、候補ポリペプチドの分子量が88kDaであって、その質量フィンガープリントが、基準株である黄色ブドウ球菌単離株SAAV1によって産生される88kDaの金属調節ポリペプチドの質量フィンガープリントと類似している場合、その候補ポリペプチドは本発明のポリペプチドである。
【0027】
基準微生物が黄色ブドウ球菌株2176である場合、候補ポリペプチドが本発明のポリペプチドであると判断されるのは、以下の場合である。即ち、その(SDS−PAGEにより決定される)分子量が88kDa、80kDa、65kDa、55kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDa、又は32kDaであり、その質量フィンガープリントが、基準微生物によって発現されるポリペプチドであって(SDS−PAGEにより決定される)分子量がそれぞれ88kDa、80kDa、65kDa、55kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDa、又は32kDaであるポリペプチドの質量フィンガープリントと類似している場合である。こうしたポリペプチドは金属調節性であることが好ましい。例えば、候補ポリペプチドの分子量が88kDaであって、その質量フィンガープリントが、基準株である黄色ブドウ球菌単離株2176によって産生される88kDaの金属調節ポリペプチドの質量フィンガープリントと類似している場合、その候補ポリペプチドは本発明のポリペプチドである。
【0028】
基準微生物が黄色ブドウ球菌株1477である場合、候補ポリペプチドが本発明のポリペプチドであると判断されるのは、以下の場合である。即ち、その(SDS−PAGEにより決定される)分子量が88kDa、80kDa、65kDa、55kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDa、又は32kDaであり、その質量フィンガープリントが、基準微生物によって発現されるポリペプチドであって(SDS−PAGEにより決定される)分子量がそれぞれ88kDa、80kDa、65kDa、55kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDa、又は32kDaであるポリペプチドの質量フィンガープリントと類似している場合である。こうしたポリペプチドは金属調節性であることが好ましい。例えば、候補ポリペプチドの分子量が88kDaであって、その質量フィンガープリントが、基準株である黄色ブドウ球菌単離株1477によって産生される88kDaの金属調節ポリペプチドの質量フィンガープリントと類似している場合、その候補ポリペプチドは本発明のポリペプチドである。
【0029】
基準微生物により発現されるポリペプチドを先に分子量で示したが、これらは基準微生物を低金属条件下で生育させ、続いて本明細書記載の手法によりポリペプチドを単離することにより、得ることができる。候補ポリペプチドは、微生物、好ましくはグラム陽性微生物、より好ましくはミクロコッカス科の一員、好ましくはブドウ球菌属、より好ましくは黄色ブドウ球菌から単離可能である。
【0030】
ポリペプチドを単離可能な他のグラム陽性微生物としては、コリネバクテリウム属(Corynebacterium spp.)、エンテロコッカス属(Enterococcus spp.)、エリジペロスリックス属(Erysipelothrix spp.)、キトコッカス属(Kytococcus spp.)、及びミクロコッカス属(Micrococcus spp.)、ミコバクテリウム属(Mycobacterium spp.)、及びエリジペロスリックス属が挙げられる。また、候補ポリペプチドは、組み換え法、酵素的手法、又は化学的手法により作製可能である。
【0031】
候補ポリペプチドを質量スペクトル分析で評価することにより、その候補ポリペプチドが、基準微生物により発現されるポリペプチドであって、先に分子量で示したポリペプチドと類似した質量フィンガープリントを有するか否かを決定することができる。通常、候補ポリペプチドの単離は、例えば、候補ポリペプチドをゲル電気泳動法で分離し、候補ポリペプチドを含有するゲル部分を切り出すことにより、単離することができる。特性の違いに基づいてポリペプチドを分離するものであれば、任意のゲル電気泳動法を使用することができる。例としては、一次元又は二次元のゲル電気泳動法の他、例えば疎水性、pI、若しくはサイズ等に基づく液体クロマトグラフィー分離法が挙げられる。候補ポリペプチドの断片化は、例えば、プロテアーゼを用いた消化により行なわれる。このプロテアーゼは、アミノ酸リシン及びアミノ酸アルギニンのペプチド結合を、そのリシン又はアルギニンに続くアミノ酸がプロリンである場合を除き、カルボキシ末端側で開裂するものであることが好ましい。こうしたプロテアーゼの例としてはトリプシンが挙げられる。ポリペプチドをトリプシンにより消化する手法は、常法であり、本技術分野では公知である。こうした方法の例を実施例13に示す。
【0032】
ポリペプチドの質量スペクトル分析を行なう手法は、常法であり、本技術分野では公知である。例としては、これに限られるものではないが、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量スペクトル法(matrix assisted laser desorption/ionization time of flight mass spectroscopy:MALDI−TOF MS)が挙げられる。通常は、候補ポリペプチド由来のポリペプチド断片を含有する混合物をマトリックスと混合するが、このマトリックスはレーザーエネルギーをサンプルに転換する機能を有し、これによって、イオン化された、そして好ましくはモノアイソトピックな、ポリペプチド断片が生成される。使用可能なマトリックスの例としては、シナピン酸やシアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸が挙げられる。ポリペプチドをMALDI−TOF MSにより分析する手法の例を実施例13に示す。イオン化ポリペプチド断片はそのm/z比に従って分離され、それを検出することによって、m/z比の強度に対するスペクトルが生成される。このスペクトルは、候補ポリペプチドに由来するポリペプチド断片を表わすm/z値を含んでいる。如何なるポリペプチドであっても、トリプシン消化によって得られる各ポリペプチド断片の量は、等モルとなるはずである。しかしながら、トリプシン消化の効率性は必ずしも100%ではなく、例えば、他の部位よりもより効率よく開裂する部位が存在することが知られている。従って、MALDI−TOF MSを使用してm/z値を決定する場合、各m/z値の強度は通常、同一とはならない。一般的に、スペクトルにはそのx軸(即ち、m/z比の値を有する軸)のほぼ全域に亘って、バックグラウンドレベルのノイズが存在する。このバックグラウンドレベルのノイズは試験条件や使用機器によって異なり、スペクトルを目視検査することにより容易に特定できる。通常は、あるm/z値における強度が、バックグラウンドレベルのノイズに対して2倍以上の大きさ、3倍以上の大きさ、或いは4倍以上の大きさである場合、そのm/z値はポリペプチド断片を表わすものと判断される。スペクトルは通常、他のm/z値を含有するが、これらはアーチファクトであり、その原因としては、例えば不完全消化、過消化、混合物中に存在する他のポリペプチド、或いはポリペプチドを消化するのに用いたプロテアーゼの自己消化によりm/z値が生じたこと等が挙げられる。ポリペプチドをプロテアーゼで消化するこの手法によれば、極めて特異性の高い質量フィンガープリントが得られるものと、本技術分野では考えられている。よって、この質量フィンガープリントを用いれば、ポリペプチドを正確に特性化し、他のポリペプチドから区別することが可能となる。
【0033】
本発明のこの態様において、候補ポリペプチドを質量スペクトル法で分析する場合、候補ポリペプチド及び基準微生物由来のポリペプチドの双方を、一緒に調製して分析することが好ましい。これにより、サンプルの取り扱いや試験条件の違いにより生じ得るアーチファクトが低減される。また、これら二種のポリペプチドの調製及び分析に使用する試薬も、全て同一のものであることが好ましい。例えば、基準微生物由来のポリペプチドと候補ポリペプチドとを、実質的に同一の条件下で単離し、実質的に同一の条件下で断片化し、MALDI−TOF MSによる分析も、同一の機器を用いて、実質的に同一の条件下で行なう。基準微生物ポリペプチドのスペクトルに存在するm/z値のうち、バックグラウンドレベルのノイズを上回っているm/z値の80%以上、90%以上、95%以上、又は実質的に全てが、候補ポリペプチドのスペクトルにも存在する場合に、候補ポリペプチドの質量フィンガープリントが、基準微生物由来のポリペプチドの質量フィンガープリントと類似していると判断される。
【0034】
別の態様によれば、あるポリペプチドが本発明のポリペプチドであると判断されるのは、そのポリペプチドが、表2、3、4、又は5に挙げる基準ポリペプチドの分子量を有するとともに、その質量フィンガープリントが、表2、3、4、又は5に挙げる基準ポリペプチドのポリペプチド断片の集団を含む場合である。本発明のポリペプチドの例としては、88kDaのポリペプチドであって、その質量フィンガープリントが、HVDVR、YSYER、IIGDYRR、IFTDYRK、ELKELGQK、YAQVKPIR、QMQFFGAR、SMQPFGGIR、VSGYAVNFIK、NHATAWQGFK、LWEQVMQLSK、SLGKEPEDQNR、DGISNTFSIVPK、AGVITGLPDAYGR、TSTFLDIYAER、SMQPFGGIRMAK、THNQGVFDAYSR、KAGVITGLPDAYGR、TLLYAINGGKDEK、IEMALHDTEIVR、AGEPFAPGANPMHGR、VALYGVDFLMEEK、KTHNQGVFDAYSR、YGFDLSRPAENFK、TSSIQYENDDIMR、KAGEPFAPGANPMHGR、RVALYGVDFLMEEK、LWEQVMQLSKEER、MLETNKNHATAWQGFK、MHDFNTMSTEMSEDVIR、YGNNDDRVDDIAVDLVER、ETLIDAMEHPEEYPQLTIR、YAQVKPIRNEEGLVVDFEIEGDFPKの質量を有するポリペプチド断片を含むものが挙げられる。候補ポリペプチドの質量フィンガープリントは、MALDI−TOF MS等の質量スペクトル法によって決定することができる。候補ポリペプチドの質量フィンガープリントは、通常はその他のポリペプチド断片を含むため、表2、3、4、又は5に挙げるポリペプチドの他にも、更なるm/z値を有する。候補ポリペプチドを表2、3、4、又は5のポリペプチドと比較する場合には、候補ポリペプチドは、微生物、好ましくはグラム陽性微生物、より好ましくはミクロコッカス科の一員、好ましくはブドウ球菌属、より好ましくは黄色ブドウ球菌から単離可能であることが好ましい。他のグラム陽性微生物としては、コリネバクテリウム属、エンテロコッカス属、エリジペロスリックス属、キトコッカス属、リステリア属(Listeria spp.)、ミクロコッカス属、及びミコバクテリウム属、及びエリジペロスリックス属が挙げられる。候補ポリペプチドは、微生物を低金属条件下で生育させ、続いて本明細書記載の手法でポリペプチドを単離することにより得ることができる。
【0035】
本技術分野ではよく知られているように、サンプルの取り扱い時に、意図しないアミノ酸修飾が生じ、例えば酸化等によりカルバミドメチル誘導体を形成してしまう可能性がある。更に、こうした種類の修飾によって、ポリペプチド断片のm/z値が変化してしまう。例えば、酸化されたメチオニンを有するポリペプチド断片のm/z値は、酸化されていないメチオニンを有する同一の断片に比べて16倍に上昇する。従って、表2、3、4、又は5に挙げるポリペプチド断片のうち、「酸化(M)(oxidization (M))」という標記を有するものは、酸化されていないメチオニンを有する同一の断片と比べて、16倍のm/z値を有することになる。なお、表2、3、4、又は5のポリペプチド断片は、サンプルの取り扱い中に修飾される可能性があると解される。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
【表6】

【0041】
【表7】

【0042】
【表8】

【0043】
【表9】

【0044】
【表10】

【0045】
【表11】

【0046】
【表12】

【0047】
【表13】

【0048】
【表14】

【0049】
【表15】

【0050】
【表16】

【0051】
【表17】

【0052】
【表18】

【0053】
【表19】

【0054】
【表20】

【0055】
【表21】

【0056】
【表22】

【0057】
【表23】

【0058】
【表24】

【0059】
更に別の態様によれば、本発明は更に、アミノ酸配列に類似性(similality)を有するポリペプチドを含む。この類似性は構造類似性(structural similality)と呼ばれ、通常は、二つのアミノ酸配列(即ち、候補アミノ酸配列及び基準アミノ酸配列)の残基を、それらの配列の全長に沿って同一のアミノ酸の数が最大となるように配列比較する(aligning)ことにより、決定することができる。同一のアミノ酸の数が最大となるように配列比較(alignment)を行なう際に、配列の一方又は双方にギャップがあっても構わないが、その場合でも各配列内のアミノ酸は、正しい順序を維持していなければならない。基準アミノ酸配列を表6、7、8、及び9に示す。二つのアミノ酸配列の比較は、市販のアルゴリズムを用いて行なうことができる。中でも、二つのアミノ酸配列の比較には、BLASTPプログラムであるBLAST2探索アルゴリズム(BLAST2 search algorithm)を用いるのが好ましい。これはTatusova, et al.(FEMS Microbiol Lett 1999, 174:247-250)に記載されており、ワールドワイドウェブを通じて、例えば全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)、米国立衛生研究所(National Institutes of Health)が維持するインターネットサイトから入手できる。BLAST2の検索パラメータ(search parameters)は全て初期設定値のまま用いることが好ましい。例えば、matrix = BLOSUM62;open gap penalty = 11、extension gap penalty = 1、gap x_dropoff = 50、expect = 10、wordsize = 3 であり、また、任意により filter on とする。BLAST検索アルゴリズムを用いて二つのアミノ酸配列を比較する場合、構造類似性は「同一性(identities)」と呼ばれる。候補アミノ酸配列は、基準アミノ酸配列に対して、80%以上の同一性、90%以上の同一性、95%以上の同一性、96%以上の同一性、97%以上の同一性、98%以上の同一性、或いは99%以上の同一性を有していることが好ましい。候補アミノ酸配列及び基準アミノ酸配列の分子量は、実質的に同じ値であることが好ましい。候補アミノ酸配列及び基準アミノ酸配列の分子量は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により決定することが好ましい。候補ポリペプチドは、微生物を低金属条件下で生育させ、続いて本明細書に記載の手法でポリペプチドを単離することにより、得ることができる。
【0060】
通常、基準アミノ酸配列に対して構造類似性を有する候補アミノ酸配列は、免疫原活性、防御免疫原活性、対血清活性、免疫調節活性、又はこれらの組み合わせを有する。
【0061】
【表25】

【0062】
【表26】

【0063】
【表27】

【0064】
【表28】

【0065】
基準微生物が発現するポリペプチドを先に分子量で示したが、これらは基準微生物を低金属条件下で生育させ、続いて本明細書に記載の手法でポリペプチドを単離することにより、得ることができる。候補ポリペプチドは、微生物、好ましくはグラム陽性微生物、より好ましくはミクロコッカス科の一員、好ましくはブドウ球菌属、より好ましくは黄色ブドウ球菌から単離可能である。他のグラム陽性微生物としては、コリネバクテリウム属、エリジペロスリックス属、ミコバクテリウム属、及びエリジペロスリックス属が挙げられる。また、候補ポリペプチドは、組み換え法、酵素的手法、又は化学的手法を用いて作製してもよい。
【0066】
本発明が更に提供するのは、微生物の全細胞調製物(whole cell preparation)であって、その微生物が本発明のポリペプチドを1種又は2種以上発現するものである。全細胞調製物中に存在する細胞は、複製できないように不活性化されていることが好ましいが、微生物により発現される本発明のポリペプチドの免疫原活性は維持されることが好ましい。通常、細胞をグルタルアルデヒド、ホルマリン、又はホルムアルデヒド等の薬品に暴露することにより、細胞を死滅させることができる。
【0067】
組成物
本発明の組成物は、本明細書に記載するポリペプチドを、少なくとも1種含んでいればよいが、1種を超える数(例えば、2種以上、3種以上、4種以上)のポリペプチドを含んでいてもよい。例えば、組成物は、単離された金属調節ポリペプチドであって、分子量が88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDaのもの、又はそれらのサブセット若しくは組合せを、2種、3種、4種、5種、又はそれ以上含有していてもよい。組成物は、1種の微生物から単離可能なポリペプチドを含んでいてもよく、2種以上の微生物の組合せから単離可能なポリペプチドを含んでいてもよい。例えば、組成物は、2種以上のブドウ球菌属(Staphyloccocus spp.)から単離可能なポリペプチドを含んでいてもよく、ブドウ球菌属と、ブドウ球菌属の一員ではない異なる微生物とから単離可能なポリペプチドを含んでいてもよい。また、本発明は、全細胞調製物を含有する組成物であって、全細胞が本発明のポリペプチドを1種又は2種以上発現する組成物を提供する。例えば、全細胞はブドウ球菌属であってもよい。ある態様によれば、組成物は2種、3種、4種、5種、又は6種の株に由来する全細胞調製物を含有していてもよい。
【0068】
任意により、本発明のポリペプチドは、担体ポリペプチドと共有結合し、或いは複合して(congugated)、免疫学的特性が高められたものであってもよい。有用な担体ポリペプチドは、本技術分野では公知である。本発明のポリペプチドの化学的カップリングは、公知の常法を用いて行なうことができる。例としては、各種の同種二官能性及び/又は異種二官能性架橋剤試薬、例えば、ビス(スルホスクシンイミジル)スベラート、ビス(ジアゾベンジジン)、ジメチルアジピミダート、ジメチルピメリミダート、ジメチルスペリミドダート、ジスクシンイミジルスベラート、グルタルアルデヒド、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミド、スルホ−m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミド、スルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート、スルホスクシンイミジル4−(p−マレイミド−フェニル)ブチラート、及び(1−エチル−3−(ジメチル−アミノプロピル)カルボジイミド等を使用可能である(例えば、Harlow and Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, generally and Chapter 5, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York, NY (1988)を参照のこと)。
【0069】
本発明の組成物は更に、任意により、医薬的に許容し得る担体を含有する。「医薬的に許容し得る」という語は、組成物の他の成分と適合性を有するとともに、その被投与者に対して有害でない、希釈剤、担体、賦形剤、塩等を指す。通常、本明細書に記載のように組成物を使用する場合には、組成物は医薬的に許容し得る担体を含有する。本発明の組成物は、抗原に対する免疫応答を刺激するのに適した経路等、選択された投与経路に合わせて、様々な形態の医薬調製物に製剤することができる。即ち、本発明の組成物は、公知の経路により投与することが可能である。例としては、経口;非経口、例えば皮内、経皮、及び皮下;筋肉内、静脈内、腹腔内等のほか、局所投与、例えば鼻腔内、肺内、乳房内、膣内、子宮内、皮内、経皮、直腸内等が挙げられる。分泌型IgA抗体産生等の粘膜免疫を動物の全身で刺激するために、例えば鼻粘膜や呼吸粘膜に対する投与(例えば噴霧やエアロジル等)により、組成物を粘膜面に対して投与することも可能であると予想される。
【0070】
また、本発明の組成物は、持続放出性又は遅延放出性インプラントによる投与も可能である。本発明に係る使用に好適なインプラントは公知であり、例としては、Emery and Straub(WO01/37810(2001))、及び、Emery et al.(WO96/01620(1996))に記載のものが挙げられる。インプラントは、エアロジルや噴霧での投与に十分な程度の小さなサイズに形成してもよい。また、インプラントとしては、ナノスフェアやマイクロスフェアも挙げられる。
【0071】
本発明の組成物の投与量は、本明細書に記載される特定の症状を治療するのに十分な量とすればよい。本発明の組成物中に存在するポリペプチド又は全細胞細胞の量は様々である。例えば、ポリペプチドの用量は、0.01マイクログラム(μg)から300mgの範囲、通常は0.1mgから10mgの範囲とすることができる。組成物が全細胞調製物である場合は、細胞の存在濃度は、例えば102細菌/ml、103細菌/ml、104細菌/ml、105細菌/ml、106細菌/ml、107細菌/ml、108細菌/ml、又は109細菌/mlとすることができる。注射用組成物(例えば皮下、筋肉内等)の場合、投与する組成物の全体積が0.5mlから5.0mlの範囲、通常は1.0〜2.0mlの範囲となるように、組成物中に存在するポリペプチドの量を選択すればよい。組成物が全細胞調製物である場合は、投与する組成物の全体積が0.5mlから5.0mlの範囲、通常は1.0〜2.0mlの範囲となるように、組成物中に存在する細胞の量を選択すればよい。投与量は種々の因子に応じて異なる。このような因子の例としては、これらに限られるものではないが、選択された特定のポリペプチド、動物の体重、体調及び年齢、並びに投与の経路等が挙げられる。従って、所定の単位用量形態に含まれるポリペプチドの絶対重量は大幅に変わり得る上に、動物の種、年齢、重量、及び体調、並びに投与の方法等の因子によって異なる。こうした因子は当業者であれば決定可能である。本発明に好適な用量の他の例は、Emery et al.(米国特許第6,027,736号)に開示されている。
【0072】
製剤は利便性を高めるべく単位用量形態にしてもよく、薬学分野でよく知られた方法で調製することができる。医薬的に許容し得る担体を有する組成物を調製する方法は、活性化合物(例えば、本発明のポリペプチド又は全細胞)を、1又は2以上の副成分を構成する担体と混合する工程を含む。一般的に、製剤の調製は、活性化合物を、液体担体、微粉化した固体担体、或いはその両方と均一に且つ念入りに混合し、その後、必要に応じて、生成物を所望の製剤に成形することにより行なわれる。
【0073】
また、医薬的に許容し得る担体を含有する組成物は、アジュバントを含有していてもよい。「アジュバント(adjuvant)」とは、非特異的に作用して特定の抗原に対する免疫応答を高め、それにより、目的の抗原に対して十分な免疫応答を引き起こすために必要な、所定の免疫化用組成物中の抗原量及び/又は注射頻度を潜在的に低減する薬剤を指す。アジュバントの例としては、IL−1、IL−2、乳化剤、ムラミルジペプチド、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(dimethyl dioctadecyl ammonium bromide:DDA)、アブリジン(avridine)、水酸化アルミニウム、油、サポニン、α−トコフェノール、多糖類、乳化パラフィン(例としては、MVP Laboratories(ラルストン、ネブラスカ)製、商品名EMULSIGENが挙げられる)、ISA−70、RIBI、並びに、本技術分野で公知の他の物質が挙げられる。本発明のポリペプチドは免疫調節活性を有することが期待される。また、こうしたポリペプチドをアジュバントとして使用することにより、T及び/又はB細胞の活性化剤として直接作用させ、或いは、種々のサイトカインの合成を促進し、又は細胞内シグナル伝達経路を活性化する特定の細胞型に作用させることが期待される。こうしたポリペプチドは免疫応答を増強し、既存の組成物の防御指数(protective index)を増加させるものと期待される。
【0074】
別の実施形態によれば、医薬的に許容し得る担体を含有する本発明の組成物は、生物反応修飾物質(biological response modifier)を含んでいてもよい。例としては、IL−2、IL−4及び/又はIL−6、TNF、IFN−α、IFN−γ、並びに、免疫細胞に作用するその他のサイトカインが挙げられる。また、免疫化用組成物は、抗生物質、保存剤、抗酸化剤、又はキレート化剤等、本技術分野で公知のその他の成分を含んでいてもよい。
【0075】
作製方法
本発明はまた、本明細書に記載されるポリペプチドを得る方法も提供する。本発明のポリペプチド及び全細胞は、ミクロコッカス科の一員、好ましくはブドウ球菌属、より好ましくは黄色ブドウ球菌から単離可能である。ポリペプチドを単離可能な他のグラム陽性微生物としては、コリネバクテリウム属、エリジペロスリックス属、ミコバクテリウム属、及びエリジペロスリックス属が挙げられる。本発明のポリペプチドの取得及び全細胞調製物の作製に有用な微生物は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection:ATCC)等のデポジトリから市販されている。更にこうした微生物は、本技術分野で知られている常法により、容易に得ることができる。これらの微生物を感染動物から野生単離株として取得し、本発明のポリペプチド及び/又は全細胞調製物を得るために使用してもよく、或いは後の使用のために、例えば−20℃から−95℃の範囲、又は−40℃から−50℃の範囲の冷凍庫内で、20%グリセロール含有細菌学的培地、及び同様の培地中で保存してもよい。
【0076】
本発明のポリペプチドが微生物由来である場合には、微生物を低金属条件下で培養すればよい。本明細書で使用される「低金属条件」という記載は、環境中の遊離金属の含有量が、検出可能なレベルの金属調節ポリペプチドを微生物に発現させる程度の量である環境(通常は細菌学的培地)を指す。本明細書で使用される「高金属条件」という記載は、環境中の遊離金属の含有量が、本明細書に記載する1種又は2種以上の金属調節ポリペプチドを、検出可能なレベルで微生物に発現させないか、或いはそうした金属調節ポリペプチドの発現を減少させる程度の量である環境を指す。金属としては、周期律表中で第1族から第17族に属する金属(IUPAC表記法。或いはCAS表記法に従い、それぞれ第I−A族、第II−A族、第III−B族、第IV−B族、第V−B族、第VI−B族、第VII−B族、第VIII族、第I−B族、第II−B族、第III−A族、第IV−A族、第V−A族、第VI−A族、及び第VII−A族という場合もある。)が挙げられる。中でも、金属は第2族から第12族までに属するものが好ましく、より好ましくは第3〜12族に属するものである。中でも、金属としては鉄、亜鉛、銅、マグネシウム、ニッケル、コバルト、マンガン、モリブデン、又はセレンがより好ましく、最も好ましいのは鉄である。
【0077】
低金属条件は通常、金属キレート化化合物の細菌学的培地への添加、金属含有量の低い細菌学的培地の使用、或いはこれらの組合せの結果として得られる。高金属条件は通常、キレート剤が培地中に存在しない場合、金属を培地に加えた場合、或いはこれらの組合せの場合に生じる。金属キレート剤の例としては、天然及び合成化合物が挙げられる。天然化合物の例としては、フラボノイド等の植物性フェノール化合物が挙げられる。フラボノイドの例としては、銅キレート剤であるカテキン及びナリンゲニン、並びに、鉄キレート剤であるミリセチン及びケルセチンが挙げられる。合成銅キレート剤の例としてはテトラチオモリブダート(tetrathiomolybdate)が挙げられ、合成亜鉛キレート剤の例としてはN,N,N’,N’−テトラキス(2−ピリジルメチル)−エチレンジアミンが挙げられる。合成鉄キレート剤の例としては、2,2’−ジピリジル(本技術分野ではα,α’−ビピリジルという場合もある)、8−ヒドロキシキノリン、エチレンジアミン−ジ−o−ヒドロキシフェニル酢酸(ethylenediamine-di-o-hydroxyphenylacetic acid:EDDHA)、デスフェロキサミンメタンスルホナート(desferoxamine methanesulphonate:デスフェロル(desferol))、トランスフェリン、ラクトフェリン、オボトランスフェリン、生物学的シデロフォア、例えばカテコラート(catecholates)及びヒドロキサマート(hydroxamates)、及びシトラート(citrate)が挙げられる。一般的な二価のカチオンキレート剤の例としては、Chelex(登録商標)樹脂が挙げられる。鉄のキレート化には、2,2’−ジピリジルが好ましく用いられる。通常、2,2’−ジピリジルの培地への添加濃度は、300マイクログラム/ミリリットル(μg/ml)以上、600μg/ml以上、又は900μg/ml以上である。2,2’−ジピリジルを高レベルとする場合には、1200μg/ml、1500μg/ml、又は1800μg/mlとしてもよい。
【0078】
黄色ブドウ球菌のゲノムは3種のFurホモログ、即ちFur、PerR、及びZurをコード化している。Zur及びPerRタンパク質はそれぞれ、主に亜鉛ホメオスタシスの調節及び過酸化物ストレス遺伝子に関与していると考えられる。一方、Furタンパク質は、幾つかの鉄シデロフォア取り込み系を、鉄制限に応答して調節することが示されている。また、Furタンパク質は、酸化ストレス耐性及び病原性にも関与している。グラム陽性生物、好ましくは黄色ブドウ球菌のfur遺伝子に突然変異を生じさせることにより、本発明の金属調節ポリペプチドの全部ではなくとも、その多数を構成的に発現させることができると期待される。グラム陽性菌、好ましくは黄色ブドウ球菌のfurに突然変異を生じさせるには、常法を用いることができる。例としては、グラム陽性菌に遺伝子ノックアウト突然変異を生じさせるのに有用な、トランスポゾン、化学的又は部位特異的変異誘発等が挙げられる。
【0079】
微生物の培養に使用される培地や、微生物の培養に使用される培地の容量は様々である。本明細書に記載された1種又は2種以上のポリペプチドを産生する能力について微生物を評価するのであれば、微生物を好適な量で、例えば培地1リットルに対して10ミリリットルの量で生育させればよい。生育させた微生物から、動物への投与等の用途に使用するポリペプチドを得る場合には、より多量のポリペプチドを単離できるように、微生物を発酵槽で生育させるのがよい。微生物を発酵槽内で生育させる方法は、常法であり、本技術分野では公知である。微生物の生育に使用される好ましい条件としては、金属キレート剤を含むことが好ましく、より好ましいのは鉄キレート剤、例えば2,2’−ジピリジルであり、pHは6.5から7.5、好ましくは6.9から7.1の範囲であって、温度は37℃である。
【0080】
本発明のある態様によれば、生育後の微生物を収穫してもよい。収穫には、微生物をより小さな容量に濃縮する工程と、生育培地とは異なる培地に懸濁する工程とが含まれる。微生物を濃縮する手法は常法であり、本技術分野では公知であるが、例えば、濾過や遠心分離が挙げられる。通常は、濃縮された微生物を適切な緩衝液に懸濁させる。使用可能な緩衝液の例としては、トリスを主成分とし(7.3グラム/リットル)、pH8.5のものが挙げられる。任意により、最終的な緩衝液は、タンパク質分解が最小限に抑えられたものであってもよい。このためには、最終的な緩衝液のpHを8.0超、好ましくは8.5以上とし、及び/又は、1種又は2種以上のプロテイナーゼ阻害剤(例えばフェニルメタンスルホニルフルオリド)を加えればよい。任意により、濃縮された微生物を破壊するまでの間、−20℃又はそれ以下で冷凍するのが好ましい。
【0081】
微生物を全細胞調製物として使用する場合には、収穫された細胞を公知の常法で処理し、細胞を不活性化してもよい。或いは、微生物を用いて本発明のポリペプチドを調製する場合には、本技術分野で公知の化学的、物理的、又は機械的な常法を用いて微生物を破壊してもよい。このような手法の例としては、煮沸、フレンチプレス、超音波処理、ペプチドグリカンの消化(例えばリゾチームによる消化)、又はホモジナイズ法が挙げられる。ホモジナイズ法に好適に使用可能な機器の例としては、Avestin社製ホモジナイザー、型番C500-B(Avestin Inc、オタワ、カナダ)が挙げられる。本明細書で使用される「破壊(disruption)」という語は、細胞を分解すること(breaking up)を指す。微生物の破壊は、本技術分野で公知の常法、例えば光学密度の変化等により測定することができる。通常は、微生物を1:100に希釈して測定した場合に百分率透過度が20%上昇するまで破壊を行なう。物理的又は機械的手法を用いる場合は、タンパク質分解を更に抑制するため、通常は破壊時の温度を低温に、好ましくは4℃に維持する。化学的手法を用いる場合には、細胞の破壊に最適となるように温度を上昇させてもよい。また、化学的、物理的、及び機械的手法を組み合わせて使用し、微生物の細胞壁を可溶化してもよい。本明細書で使用される「可溶化する(solubilize)」という語は、微生物の破壊に使用する緩衝液の水相に、細胞物質(例えばポリペプチド、核酸、炭化水素等)を溶解させ、不溶細胞物質の凝集体を形成することを指す。理論に束縛されることを意図するものではないが、可溶化条件下で本発明のポリペプチドは凝集し、遠心分離等により容易に単離し得る程度の十分な大きさを有する不溶凝集体になると考えられる。
【0082】
1種又は2種以上の本発明のポリペプチドを含有する不溶凝集体を、本技術分野で公知の常法により単離してもよい。不溶凝集体の単離には遠心分離を用いることが好ましい。通常、膜ポリペプチド等のポリペプチドの遠心分離は、100,000×gの遠心力で行うことができる。このような遠心力を利用するには超遠心分離機を用いる必要があるが、この種の遠心分離機を使用する場合、大量のサンプルを処理するためのスケールアップは困難であり、且つ非経済的となる場合が多い。本明細書に記載の方法によれば、連続流遠心分離機(continuous flow centrifuges)を用いるのに十分な大きさの不溶凝集体が形成できる。連続流遠心分離機の例としてはT-I Sharpies(Alfa Laval Separations、ウォーミンスター、PA)が挙げられる。これは流速250ml/分、17psi、46,000×gから60,000×gの遠心力で使用できる。他の大スケールの遠心分離機も使用可能であり、例としては円筒型(tubular bowl)、チャンバー型(chamber)、及びディスク型(disc)の構成が挙げられる。こうした遠心分離機は常用されており、本技術分野では公知であって、Pennwalt、Westfalia、及びalpha-Laval等の製造業者から市販されている。
【0083】
最終的に収穫されたタンパク質は、洗浄及び/又は透析に供される。透析は適切な緩衝液を用い、本技術分野で公知の方法、例えば膜濾過法(diafiltration)、沈殿法、疎水クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、又は親和性クロマトグラフィー、又は限外濾過法により行なう。このポリペプチドを例えばアルコール中で、膜濾過法により洗浄する。単離後、ポリペプチドを緩衝液中に懸濁させ、低温で、例えば−20℃以下で保存する。
【0084】
全細胞調製物を作製する本発明の態様においては、生育後に微生物を死滅させてもよい。これには、グルタルアルデヒド、ホルマリン、又はホルムアルデヒド等の薬剤を、培養物中の細胞を不活性化するのに十分な濃度で加えればよい。例えば、ホルマリンを濃度0.3%(体積/体積)で加えればよい。細胞を不活性化するのに十分な時間の経過後、細胞を例えば膜濾過法及び/又は遠心分離により収穫し、洗浄すればよい。
【0085】
使用方法
本発明の更なる一態様は、本発明の組成物を用いる方法を対象とする。この方法は、本発明の組成物を有効量、動物に投与する工程を含む。動物の例としては、鳥類(例えば鶏や七面鳥等)、ウシ属(例えば蓄牛等)、ヤギ属(例えば蓄山羊等)、ヒツジ属(例えば蓄羊等)、ブタ(例えば蓄豚等)、バイソン(例えば水牛等)、ウマ科(例えば馬等)、愛玩動物(例えば犬や猫等)、シカ科の動物(例えば鹿、ヘラジカ(elk、moose)、トナカイ(caribou、reindeer)等)、又はヒトが挙げられる。
【0086】
ある態様によれば、本方法は更に、二次免疫応答を促進又は刺激するため、この組成物を動物に追加投与(例えば、1種又は2種以上の追加免疫(booster)を投与)する工程を含んでなる。追加免疫の投与は、組成物の初回投与の後、例えば初回投与の1から8週間後、好ましくは2から4週間後に、一回行なうことができる。その後の追加免疫の投与は、毎年1回、2回、3回、4回、又はそれ以上行なってもよい。理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明のある態様によれば、必ずしも毎年追加免疫を投与する必要はないものと考えられる。何故なら、動物は屋外において、動物に投与される組成物のポリペプチドに存在する抗原決定基と同一の、或いは構造的に類似する抗原決定基を有するポリペプチドを発現する微生物に暴露されることにより、抗原に接するものと考えられるからである。
【0087】
一態様によれば、本発明は、例えば動物による抗体の産生を誘導することにより、或いは組み換え法により、抗体を作製する方法を対象とする。作製される抗体としては、組成物中に存在する少なくとも1種のポリペプチドに特異的に結合する抗体が挙げられる。本発明のこの態様において、「有効量(effective amount)」とは、動物に抗体産生を生じさせるのに有効な量を指す。本発明の組成物中に存在するポリペプチドに特異的に結合する抗体を動物が産生したか否かは、本明細書に記載された方法によって決定することができる。更に、本発明は、本発明のポリペプチドに対して特異的に結合する抗体、並びにこうした抗体を含有する組成物を含む。この方法を使用して、本組成物のポリペプチドの単離元となる微生物以外の、別の微生物によって発現されるポリペプチドに特異的に結合する抗体を作製してもよい。本明細書で使用される、ポリペプチドと「特異的に結合する(specifically bind)」ことが可能な抗体とは、抗体の合成を引き起こした抗原の抗原決定基、或いは構造的に関連する抗原決定基と相互作用する抗体をいう。本発明の組成物中に存在するポリペプチドの少なくとも一部は、通常は、異なる種や異なる属の微生物のポリペプチドでも保存されている抗原決定基を含んでなる。従って、ある微生物由来の組成物を用いて作製された抗体は、他の微生物によって発現されたポリペプチドにも結合し、グラム陽性生物に対する防御のスペクトルを拡大するものと期待される。抗体が特異的に結合し得るグラム陽性微生物の例としては、ミクロコッカス(Micrococcaceae)、好ましくはブドウ球菌属、より好ましくは黄色ブドウ球菌;連鎖球菌科(the family Streptococcaceae)に属する菌、好ましくは化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、B群連鎖球菌(Streptococcus agalactiae)、乳房炎連鎖球菌(Streptococcus uberis)、脳炎連鎖球菌(Streptococcus bovis)、ウマ連鎖球菌(Streptococcus equi)、又は減乳性連鎖球菌(Streptococcus dysgalactiae);及びバシラス属(Bacillus spp.)、クロストリジウム属(Clostridium spp.)、コリネバクテリウム属、エンテロコッカス属、エリジペロスリックス属、リステリア属、ミクロコッカス属、及びミコバクテリウム属、キトコッカス属、及びエリジペロスリックス属が挙げられる。
【0088】
また、本発明は、本発明のポリペプチド、或いは本発明のポリペプチドに存在する抗原決定基と構造的に関連する抗原決定基を有するポリペプチドを発現する微生物に対する、こうした抗体の使用をも対象とする。抗体に化合物が共有結合していてもよく、この化合物としては、例えば毒素が挙げられる。同様に、こうした化合物が、この微生物を対象とする細菌シデロフォアに共有結合していてもよい。本発明の抗体又はその部分(例えばFab断片)の化学的カップリング又は結合(conjugation)は、公知の常法により行なうことができる。また、一態様によれば、本発明は、人を含む動物の、グラム陽性微生物による感染を治療することも対象とする。ここでグラム陽性微生物としては、好ましくはミクロコッカス科、好ましくはブドウ球菌属、より好ましくは黄色ブドウ球菌;連鎖球菌科に属する菌、好ましくは化膿連鎖球菌、肺炎連鎖球菌、B群連鎖球菌、乳房炎連鎖球菌、脳炎連鎖球菌、ウマ連鎖球菌、又は減乳性連鎖球菌;及びバシラス属、クロストリジウム属コリネバクテリウム属、エンテロコッカス属、エリジペロスリックス属、キトコッカス属、リステリア属、ミクロコッカス属、ミコバクテリウム属、及びエリジペロスリックス属が挙げられる。本明細書で使用される「感染(infection)」という語は、臨床的に顕在化しているか否かを問わず、グラム陽性微生物が動物の体内に存在していることを指す。ブドウ球菌属の菌に感染しているが臨床的に顕在化していない動物は、無症状保菌者(asymptomatic carrier)という場合が多い。本方法は、本発明の組成物を有効量、グラム陽性微生物に感染している動物に投与する工程と、感染している微生物の数が減少したか否かを決定する工程とを含む。感染がグラム陽性微生物により引き起こされたものか否かを決定する方法は、常法であり、本技術分野では公知である。感染が低減されたか否かを決定する方法も同様である。
【0089】
別の態様によれば、本発明は、動物にグラム陽性微生物が感染することにより生じ得る特定の病気(certain conditions)の1種又は2種以上の症状を治療する方法を対象とする。ここで、グラム陽性微生物としては、好ましくはミクロコッカス科、好ましくはブドウ球菌属、より好ましくは黄色ブドウ球菌;連鎖球菌科に属する菌、好ましくは化膿連鎖球菌、肺炎連鎖球菌、B群連鎖球菌、乳房炎連鎖球菌、脳炎連鎖球菌、ウマ連鎖球菌、又は減乳性連鎖球菌;及びバシラス属、クロストリジウム属コリネバクテリウム属、エンテロコッカス属、エリジペロスリックス属、キトコッカス属、リステリア属、ミクロコッカス属、ミコバクテリウム属、及びエリジペロスリックス属が挙げられる。本方法は、病気又は病気の症状を有する、或いは有するおそれのある動物に対して、本発明の組成物を有効量投与する工程と、病気の症状のうち少なくとも1種が変化したか否か、好ましくは軽減されたか否かを決定する工程とを含む。微生物感染により引き起こされる病気の例としては、乳腺炎、敗血症、肺炎、髄膜脳炎、リンパ管炎、皮膚炎、生殖管感染、腺疫、子宮筋層炎、周産期 疾病、下垂体 膿瘍、関節炎、滑液包炎、精巣炎、膀胱炎及び腎盂腎炎、乾酪性リンパ節炎、結核、潰瘍性リンパ管炎、リステリア症、丹毒、蹄葉炎、炭疽病、チザー病、破傷風、ボツリヌス中毒症、腸炎、悪性浮腫、羊炭疽、桿菌性ヘモグロビン尿症、腸毒血症、壊死性皮膚損傷、及び院内感染が挙げられる。黄色ブドウ球菌により引き起こされる病気の例としては、馬におけるブドウ菌腫、家禽における化膿性滑膜炎及び骨髄炎、豚における流産、及び子羊におけるダニ性膿血症が挙げられる。連鎖球菌属により引き起こされる病気の例としては、ヒトにおける咽頭炎、猩紅熱、膿痂疹、潰瘍性心内膜炎、リウマチ熱、及び連鎖球菌感染後の糸球体腎炎及び子宮頸管炎、ウマ及び豚における子宮頸管炎、並びに豚における髄膜炎及び顎膿瘍が挙げられる。これらの病気に関連する症状の治療は、予防として行なってもよいが、本明細書に記載する病気が発症した後に開始してもよい。本明細書で使用される「症状(symptom)」という語は、対象への微生物の感染によって引き起こされる病気の客観的証拠を指す。本明細書に記載される、病気に関連する症状、並びにそうした症状の評価法については、本技術分野ではよく知られている。
【0090】
予防的治療、例えば、微生物により引き起こされる病気の症状が対象に現れる前に開始する治療を、本明細書では、病気を発症する「おそれのある(at risk)」対象の治療という。通常、病気を発症する「おそれのある(at risk)」動物は、その病気を有すると診断された動物と同じ領域内にいる動物、及び/又は、その病気を引き起こす微生物に暴露され易い動物である。従って、組成物の投与は、本明細書に記載する病気の発生前、発生中、及び発生後の何れに実施してもよい。病気の発生後に治療を開始した場合、上述の病気のうち1つの症状を軽減するか、或いはその症状を完全に取り除くことになる。本発明のこの態様において、「有効量(effective amount)」とは、疾病の症状が現れるのを予防し、疾病の症状を軽減し、及び/又は、その症状を完全に取り除くのに有効な量をいう。動物へのグラム陽性微生物感染を首尾よく治療した例を実施例5に示す。本実施例は、マウスモデルにおいて黄色ブドウ球菌により生じる疾病を、本発明の組成物を投与することによって防御できることを示している。これらのマウスモデルは、これらの微生物によって引き起こされるヒト疾病の研究において、一般に認められているモデルである。動物へのグラム陽性微生物感染を首尾よく治療した他の例を実施例10〜12に示す。これらの実施例は、牛において黄色ブドウ球菌により生じる疾病を、本発明の組成物を投与することによって防御できることを示している。
【0091】
また、本発明は、例えばグラム陽性微生物の付着部位(attachment sites)を遮断することにより、グラム陽性微生物によるコロニー形成を低減する方法も提供する。このような部位の例としては、骨格系(例えば、骨、軟骨、腱、及び靱帯)、筋系(例えば骨格筋及び平滑筋)、循環系(例えば、心臓、血管、毛細管、及び血液)、神経系(例えば、脳、脊髄、及び末梢神経)、呼吸系(例えば、鼻、気管、肺、気管支、細気管支、肺胞)、消化系(例えば、口、唾液腺、食堂、肝臓、胃、小腸及び大腸)、排泄系(例えば、腎臓、尿管、膀胱、及び尿道)、内分泌系(例えば、視床下部、下垂体、甲状腺、膵臓、及び副腎)、生殖系(例えば、卵巣、輸卵管、子宮、膣、乳腺、精巣、及び精嚢)、リンパ/免疫系(例えば、リンパ、リンパ節及びリンパ管、単核又は白血球細胞、例えばマクロファージ、好中球、単球、好酸球、好塩基球、リンパ球、T細胞及びB細胞)等の組織、及び特定の細胞系(例えば、前駆細胞、上皮細胞、幹細胞)等が挙げられる。ここで、好ましいグラム陽性微生物としては、ミクロコッカス科、好ましくはブドウ球菌属、より好ましくは黄色ブドウ球菌;連鎖球菌科に属する菌、好ましくは化膿連鎖球菌、肺炎連鎖球菌、B群連鎖球菌、乳房炎連鎖球菌、脳炎連鎖球菌、ウマ連鎖球菌、又は減乳性連鎖球菌;及びバシラス属、クロストリジウム属コリネバクテリウム属、エンテロコッカス属、エリジペロスリックス属、キトコッカス属、リステリア属、ミクロコッカス属、ミコバクテリウム属、及びエリジペロスリックス属が挙げられる。この方法は、グラム陽性微生物によりコロニー形成される動物、或いはコロニー形成されるおそれのある動物に対して、本発明の組成物を有効量投与する工程を含む。本発明のこの態様において、「有効量(effective amount)」とは、微生物による動物へのコロニー形成を低減するのに十分な量をいう。微生物による動物へのコロニー形成を評価する方法は、常法であり、本技術分野では公知である。例えば、動物の腸管への微生物のコロニー形成は、動物の排泄物中にその微生物が存在することを調べることにより確認できる。動物に対する微生物のコロニー形成を低減することにより、その微生物がヒトに伝染するおそれを低減できるものと期待される。
【0092】
本発明の組成物は、細菌感染に対する能動免疫又は受動免疫の何れを目的として使用してもよい。通常は、この組成物を動物に投与することにより、能動免疫を生じさせればよい。しかしながら、この組成物を用いて抗体等の免疫産物の産生を誘発し、その産物を産生動物から採取して他の動物に投与することにより、受動免疫を生じさせてもよい。抗体等の免疫成分を血清、血漿、血液、初乳等から採取して、(好ましくは抗体を含有する)組成物を調製し、これを受動免疫治療に用いてもよい。また、公知の方法を用いて、モノクローナル抗体及び/又は抗イディオタイプを含有する抗体組成物を調製してもよい。キメラ抗体としては、ヒト由来の重鎖及び軽鎖双方の定常領域と、マウス由来の抗原特異的な可変領域とを含むものが挙げられる(Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1984, 81(21):6851-5; LoBuglio et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1989, 86(11):4220-4; Boulianne et al., Nature, 1984, 312(5995):643-6.)。ヒト化抗体としては、マウスの定常領域及び(可変領域の)フレームワーク(FR)を、ヒトの対応物で置換したものが挙げられる(Jones et al., Nature, 1986, 321(6069):522-5; Riechmann et al., Nature, 1988, 332(6162):323-7; Verhoeyen et al., Science, 1988, 239(4847): 1534-6; Queen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1989, 86(24): 10029-33; Daugherty et al., Nucleic Acids Res., 1991, 19(9): 2471-6.)。或いは、遺伝子操作を行なった特定のマウス株を使用して、ほぼ完全にヒト由来の抗体を産生することも可能である。免疫化の後に、これらのマウスのB細胞を収穫して不死化させ、ヒトモノクローナル抗体を産生させればよい(Bruggeman and Taussig, Curr. Opin. Biotechnol., 1997, 8(4):455-8; Lonberg and Huszar, Int. Rev. Immunol., 1995;13(l):65-93; Lonberg et al., Nature, 1994, 368:856-9; Taylor et al., Nucleic Acids Res., 1992, 20:6287-95.)。受動抗体組成物、及びそれらの断片、例えばscFv、Fab、F(ab’)2、若しくはFv、又はそれらの他の修飾形を、被投与体に対して血清、血漿、血液、初乳等の形態で投与してもよい。しかしながら、抗体を血清、血漿、血液、初乳等から公知の方法によって単離し、後の使用のために、濃縮又は再構成形態、例えば、洗浄溶液、含浸包帯(impregnated dressings)及び/又は局所薬等の形態としてもよい。受動免疫調製物は、急性全身病の治療や、母の初乳を通じて十分な量の受動免疫を受けていない幼少動物の受動免疫に、特に有利である。また、受動免疫に有用な抗体を、種々の薬剤や抗生物質と結合させれば、全身又は局所感染時に本発明のポリペプチド、或いは本発明のポリペプチドに存在する抗原決定基と構造的に関連するポリペプチドを発現する細菌を、直接の対象とすることが可能となるので、有用であると思われる。
【0093】
本発明の組成物を実験的に評価するためには、動物モデル、特にマウスモデルを利用可能である。これらのマウスモデルは、ブドウ球菌属の菌、特に黄色ブドウ球菌によって引き起こされるヒト疾病の研究用モデルとして、一般的に認められているモデルである。ブドウ球菌属の菌がウシ等の動物に疾病を引き起こすような場合には、自然宿主を用いて本発明の組成物を実験的に評価することができる。
【0094】
本発明の別の態様は、本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体を検出する方法を提供する。こうした方法は、例えば、動物が本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体を有しているか否かを検出する場合や、本明細書に記載されるポリペプチドを発現する微生物、又は本明細書に記載されるポリペプチドと共通の抗原決定基を有するポリペプチドを発現する微生物によって引き起こされる病気を、動物が患っているか否かを診断する場合に有用である。こうした診断系はキットの形態としてもよい。この方法は、本発明のポリペプチドを含む調製物に抗体を接触させ、混合物とする工程を含む。抗体は生体サンプル中、例えば血液、乳、初乳等の中に存在していてもよい。この方法は更に、抗体がポリペプチドに特異的に結合し、ポリペプチド:抗体複合体を形成し得るような条件下で、この混合物を培養する工程を含む。本明細書で使用されるポリペプチド:抗体複合体という語は、抗体がポリペプチドと特異的に結合した結果として生じる複合体を指す。本発明のポリペプチドを含有する調製物は、更に、ポリペプチド:抗体複合体の形成に好適な条件を達成するため、緩衝液等の試薬を含有していてもよい。続いて、ポリペプチド:抗体複合体を検出する。抗体の検出法は、本技術分野では公知であるが、例としては、免疫蛍光法やペルオキシダーゼ法等が挙げられる。本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体の存在を検出する方法は、抗体検出に用いられてきた種々の形式、例えば放射性免疫測定法や酵素結合免疫吸着測定法等の形式で使用することもできる。
【0095】
また、本発明は、本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体を検出するキットを提供する。検出対象の抗体としては、グラム陽性微生物による感染が疑われる動物から得られるものが挙げられる。グラム陽性微生物として、より好ましくは、ミクロコッカス科に属する菌、好ましくはブドウ球菌属、より好ましくは黄色ブドウ球菌;連鎖球菌科に属する菌、好ましくは化膿連鎖球菌、肺炎連鎖球菌、B群連鎖球菌、乳房炎連鎖球菌、脳炎連鎖球菌、ウマ連鎖球菌、又は減乳性連鎖球菌;及びバシラス属、クロストリジウム属コリネバクテリウム属、エンテロコッカス属、エリジペロスリックス属、キトコッカス属、リステリア属、ミクロコッカス属、ミコバクテリウム属、及びエリジペロスリックス属が挙げられる。
【0096】
このキットは、本発明のポリペプチドを少なくとも1種、或いは1種よりも大きな数(例えば、2種以上、3種以上、等)、少なくとも1回のアッセイを行なうのに十分な量、適切な包装材料内に含有する。任意により、更に、本発明の実施に必要な緩衝液や溶液等の他の試薬を含んでいてもよい。例えば、キットは、本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体の検出を可能とするための試薬、例えば、動物から得られた抗体に特異的に結合するように設計され、検出可能な標識を付された二次抗体を含んでいてもよい。また、通常は、包装されたポリペプチドを使用するための取扱説明書も含まれる。本明細書で使用される「包装材料(packaging material)」という表現は、キットの内容物を収納するのに用いられる1種又は2種以上の物理構造を指す。包装材料は通常、周知の方法により無菌の、不純物を含まない状態として構成される。包装材料にはラベルを付し、このポリペプチドが、本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体の検出に使用されることを示してもよい。更に、キット内の材料を使用して抗体を検出する方法を記載した取扱説明書を、包装材料内に含めてもよい。本明細書で使用される「包装(package)」という語は、ガラス、プラスチック、紙、ホイル等の容器であって、所定の空間内にポリペプチド及び二次抗体等の他の試薬を納めることが可能なものをいう。よって、例えば、包装は、マイクログラム量のポリペプチドが添付されたマイクロリットルのプレートウェルであってもよい。包装には、二次抗体を含めてもよい。「取扱説明書(Instructions for use)」には通常、試薬の濃度や、アッセイに関する少なくとも1種のパラメータ、例えば、混合する試薬とサンプルとの相対量、試薬及びサンプルの混合保持時間、温度、緩衝条件等のパラメータに関する説明が、認識可能に記載されている。
【0097】
本発明について以下の実施例を用いて説明する。個々の実施例、材料、量、及び手順は、本明細書に述べられる本発明の範囲及び趣旨に応じて、広義に解釈するべきである。
【実施例】
【0098】
実施例1
鉄調節タンパク質の調製
実験室規模
【0099】
黄色ブドウ球菌の異なる株に由来する組成物であって、鉄制限及び/又は他の程度の金属イオンキレート化の下で発現される新規なタンパク質を含む組成物について、マウスにおける毒性抗原暴露に対する効力を評価した。組成物の効力の評価は、以下のパラメータを収集することにより行なった。即ち(1)各組成物がマウスの生存毒性抗原暴露に対してホモロガス及びヘテロロガスな防御を与える効力、(2)各組成物の壊死性皮膚病変を低減する効力、及び(3)鉄豊富条件及び鉄欠乏条件(replete and deplete iron conditions)下で生育したブドウ球菌に由来する各組成物が防御を与える効力である。
【0100】
本試験で評価した黄色ブドウ球菌の株は、トリ、ヒト、及びウシという3種の動物に由来するものである。トリ単離株SAAV1は、重度の骨髄炎及び滑膜炎を有する罹患シチメンチョウの群れに由来する野生単離株である。ウシ単離株(株1477及び株2176)は、臨床的に乳腺炎の発症率が高い、2つの異なる商用乳牛群から単離されたものである。ヒト単離株は、ATCC(株19636)から得られたものであり、臨床的骨髄炎患者に由来するものである。
【0101】
各単離株の保存用原種菌(master seed stocks)の調製は以下の手順で行なった。300μMの2,2−ジピリジル(Sigma-Aldrich、セントルイス、MO)を含有する200mlのトリプティックソイ培地(Tryptic Soy Broth:TSB、Difco Laboratories、デトロイト、MI)に、適切な単離株を接種した。培養物を200rpmで攪拌しながら37℃で6時間生育させた後、10,000×gで遠心分離して収集した。得られた細菌ペレットを、20%のグリセロールを含有する100mlのTSB培地に再懸濁させ、無菌下で2mlの低温用バイアルに分注し(各バイアル当たり1ml)、使用まで−90℃で保存した。
【0102】
各保存用原種菌を展開して作業用種菌とした。まず、各原種単離株のうち1バイアルを、1000μMの2,2−ジピリジル(Sigma-Aldrich、セントルイス、MO)を含有する200mlのトリプティックソイ培地(TSB、Difco Laboratories、デトロイト、MI)に接種した。培養物を200rpmで攪拌しながら37℃で6時間生育させた後、10,000×gで遠心分離して収集した。得られた細菌ペレットを、20%のグリセロールを含有する100mlのTSB培地に再懸濁し、無菌下で2ml低温用バイアル に分注し(各バイアル当たり1ml)、使用まで−90℃で保存した。この作業用種菌を使用して、鉄調節膜タンパク質等の鉄調節膜タンパク質を濃縮した組成物を作製した。
【0103】
全ての株を超鉄欠乏培地(即ち、遊離鉄の含有レベルが極めて低い培地)で生育できるように順応させた。これは、2,2−ジピリジルの濃度を(300から1600μMまで)増加させたTSBで細菌を継代培養することにより行なった。
【0104】
細菌からのタンパク質の調製は以下の手順で行なった。細菌は、冷凍された作業用原種から採取し、25mlの鉄欠乏培地(1000μMの2,2−ジピリジルを含有)及び鉄豊富培地で継代培養した後、400rpmで振盪しながら37℃で培養した。12時間の培養後、各培養物のうち5mlを500mlの鉄欠乏又は鉄豊富培地に移送し、37℃で予備培養した。培養物を、100rpmで振盪しながら37℃で8時間培養した後、10,000×gで20分遠心分離し、細胞をペレット化した。細菌ペレットを100mlの滅菌生理食塩水に再懸濁し、10,000×gで10分遠心分離した。その後、ペレット を45mlのトリス緩衝食塩水、pH7.2(Tris-buffered saline:TBS;25mM トリス、150mM NaCl)に再懸濁し、得られた細菌懸濁液を試験管5本に、それぞれ9mlの一定分量ずつ分注した。50ユニットのリゾスタフィン(Sigma、セントルイス、MO)を含有する1ミリリットルのTBSを各試験管に加え、最終量を5ユニット/mlとした。200rpmで振盪しながら37℃で30分培養した後、0.1mgのリゾチーム(Sigma)を含有する1mlのTBSを各試験管に加えた。続いて、この細菌懸濁液を200rpmで振盪しながら更に45分培養した。次に、懸濁液を4℃、3050×gで12分遠心分離し、大細胞残屑をペレット化した。ペレットを乱すことなく上清のみを吸引採取した。この上清を39,000×gで2.5時間遠心分離した。得られたタンパク質含有ペレットを、食塩を含まない200μLのトリス緩衝液、pH7.2に再懸濁した。得られた各単離株のタンパク質溶液を合わせて総量を1mlとし、−90℃で保存した。
【0105】
黄色ブドウ球菌から得られたこのタンパク質濃縮抽出物を、4%濃縮用ゲル及び10%分離用ゲルを用いたSDS−PAGEゲルによりサイズ分画した。電気泳動用サンプルの調製は、10μlのサンプルを30μlのSDS還元サンプルバッファー(62.5mM トリス−HCl、pH6.8、20%グリセロール、2%SDS、5%β−メルカプトエタノール)と混合し、4分煮沸した。サンプルを、Protein II xiセル電源(BioRad Laboratories、リッチモンド、CA、モデル1000/500)を用いて18mAの定電流下、4℃で5時間電気泳動した。SDS−PAGEゲル内に目視される個々のタンパク質の各分子量をGS-800密度計(BioRad)により、広範囲の分子量マーカーを標準試料(BioRad)として用いて測定した。
【0106】
各単離株を1600μMのジピリジルの存在下で生育させて得られたタンパク質のSDS−PAGEパターンは、同一株を300μMのジピリジルの存在下で生育させた場合と比較して、極めて異なるタンパク質発現パターンを示した。例えば、単離株SAAV1を300μMのジピリジル中で生育させた場合、90kDa、84kDa、72kDa、66kDa、36kDa、32kDa、及び22kDaの金属調節タンパク質が産生されたのに対し、1600μMのジピリジル中で生育させた場合には、87.73kDa、54.53kDa、38.42kDa、37.37kDa、35.70kDa、34.91kDa、及び33.0kDaの金属調節タンパク質が産生された。同様に、単離株19636を300μMのジピリジル中で生育させた場合には、42kDa及び36kDaのタンパク質が産生されたのに対し、1600μMのジピリジル中で生育させた場合には、87.73kDa、54.53kDa、38.42kDa、37.37kDa、35.70kDa、34.91kDa、及び33.0kDaの金属調節タンパク質が産生された。鉄豊富培地中で生育させた場合を含む全ての条件下で、金属調節性ではないと見られる以下のタンパク質が発現された。150kDa、132kDa、120kDa、75kDa、58kDa、50kDa、44kDa、43kDa、41kDa、及び40kDa。
【0107】
更には、黄色ブドウ球菌の種々の株を1600μMのジピリジル中で生育させた場合にも、同様のタンパク質発現パターンが見られた。トリ単離株(SAAV1)由来の鉄調節膜タンパク質濃縮組成物は、分子量87.73kDa、54.53kDa、38.42kDa、37.37kDa、35.70kDa、34.91kDa、及び33.0kDaのタンパク質を含んでいた。ATCC単離株19636由来のタンパク質の分子量は、トリ単離株由来のタンパク質と実質的に同一であった。1600μMの2,2−ジピリジルで生育させたウシ単離株は2種とも、そのタンパク質の大部分について、トリ及びATCC分離株同様のバンド形成プロファイルを発現した(87.73kDa、54.53kDa、37.7kDa、35.70kDa、34.91kDa、及び33.0kDa)。しかしながら、どちらのウシ単離株も、トリ及びATCC単離株に見られる38.42kDaのタンパク質を発現しなかった。また、ウシ単離株が発現したタンパク質のうち3種(80.46kDa、65.08kDa、及び31.83kDa)は、トリ及びATCC株には見られなかった(図1及び表10参照)。全ての条件下において、以下の非金属調節タンパク質が発現された。150kDa、132kDa、120kDa、75kDa、58kDa、50kDa、44kDa、43kDa、41kDa、及び40kDa。
【0108】
【表29】

【0109】
興味深いことに、細菌をリゾスタフィン/リゾチームで処理した後、精製された上清と細菌ペレットとの間に、SDS−PAGE分析により得られたタンパク質プロファイルに違いは見られなかった。抽出された細菌ペレットと上清とは、SDS−PAGEによれば、ともに全く同一のタンパク質プロファイルを有していた。また、細菌細胞をAvestin ホモジナイザーにより30,000psiで破壊した場合にも、同様の知見が得られた。低速遠心分離後に得られた細菌ペレットを、4℃、30,000×gで2.0時間の高速遠心分離後に精製された上清と比較したところ、そのタンパク質プロファイルは同一であった。
【0110】
実施例2
黄色ブドウ球菌由来の免疫化用組成物の調製
【0111】
鉄欠乏条件において生育させたヒト単離株ATCC19636及びウシ単離株1477由来のタンパク質を実施例1と同様に調製し、これを用いて2つのワクチン組成物を処方した。ATCC単離株由来のタンパク質の分子量は、87.73kDa、54.53kDa、38.42kDa、37.37kDa、35.70kDa、34.91kDa、及び33.0kDaであったのに対し、ウシ単離株発現タンパク質の分子量は、87.73kDa、80.46kDa、65.08kDa、54.53kDa、37.37kDa、35.70kDa、34.91kDa、33.0kDa、及び31.83であった。また、各組成物は、以下の非金属調節タンパク質を含有していた。150kDa、132kDa、120kDa、75kDa、58kDa、50kDa、44kDa、43kDa、41kDa、及び40kDa。保存用ワクチンは、これら2つの株の各々から得たタンパク質の水懸濁液(総タンパク質500μg/ml)を、IKA Ultra Turrax T-50 破砕器(IKA、シンシナティ、OH)を用いて、市販のアジュバント(EMULSIGEN、MVP Laboratories、ラルストン、ネブラスカ)と乳化させて調製し、最終用量として、0.1mlの注射用量中の総タンパク質量が50μg、アジュバント濃度が22.5%(体積/体積)となるようにした。対照ワクチン投与用として、実施例1の記載と同様の手順により、鉄豊富条件(TSBに300μMの塩化第二鉄を追加)下で生育させたウシ単離株1477から、タンパク質組成物を調製した。また、上記プロトコルにおいて、タンパク質水懸濁液の代わりに生理食塩水を用いることにより、プラシーボワクチンを調製した。
【0112】
実施例3
マウスへのワクチン投与
【0113】
Harlan Breeding Laboratories(インディアナポリス、IN)から入手した体重16〜22グラムの雌CF−1マウス70頭(N=70)を、同数ずつ7グループに分けた(マウス10頭/1グループ)。マウスの飼育はポリカーボネート製のマウス用ケージ(Ancore Corporation、ベルモア、NY)で行なった。各処理グループは1つのケージで飼育し、食餌及び水は全てのマウスに無制限で与えた。ワクチン投与は、全マウスを対象に、以下のように割り当てた組成物0.1mlを、14日の間隔をおいて2度、腹腔内に投与することにより行なった。
【0114】
グループ1:プラシーボによるワクチン投与。
グループ2:鉄制限下で発現されたATCC19636タンパク質によるワクチン投与。
グループ3:プラシーボによるワクチン投与。
グループ4:鉄制限下で発現されたウシ1477タンパク質によるワクチン投与。
グループ5:鉄制限下で発現されたウシ1477タンパク質によるワクチン投与。
グループ6:鉄制限下で発現されたATCC19636タンパク質によるワクチン投与。
グループ7:ウシ1477FeCl3によるワクチン投与。ここで「ウシ1477FeCl3」とは、300μMの塩化第二鉄を追加したTSB中で生育させたウシ1477から得られたタンパク質を指す。
【0115】
実施例4
抗原暴露用生物体(challenge organism)の調製
【0116】
上述した黄色ブドウ球菌株ATCC19636及び株1477を抗原暴露用生物体として用いた。概説すると、冷凍された保存用株(上述)から単離株を取って血液寒天平板上に画線し、37℃で18時間培養した。各単離株の単一コロニーを、1600μMの2,2’−ジピリジルを含有する50mlのトリプティックソイ培地(Difco)で継代培養した。この培養物を、200rpmで回転させながら37℃で6時間培養し、続いて4℃、10,000×gで10分遠心分離し、細菌をペレット化した。この細菌ペレットをTBS中、4℃で遠心分離することにより、2度洗浄した。最終ペレットを凡そ25mlのTBSに再懸濁することで、562nmの透過率(T)が42%の光学密度を有する懸濁液を作製し、抗原暴露に用いた。抗原暴露の直前に、これらの細菌懸濁液のうち1mlを段階希釈して寒天上に蒔き、マウス用量当たりのコロニー形成単位(colony-forming units:CFU)を計数した。
【0117】
実施例5
抗原暴露
【0118】
2度目のワクチン投与から14日後、全グループ(1〜7)のマウスの背面首部に、割り当てられた生物体0.1mlを皮下投与することにより、抗原暴露を行なった。マウスの7つのグループを以下のように抗原暴露した。
【0119】
グループ1(プラシーボによるワクチン投与):ATCC19636により抗原暴露。
グループ2(鉄制限下で発現されたATCC19636タンパク質によるワクチン投与):ATCC19636により抗原暴露。
グループ3(プラシーボによるワクチン投与):ウシ1477により抗原暴露。
グループ4(鉄制限下で発現されたウシ1477タンパク質によるワクチン投与):ウシ1477により抗原暴露。
グループ5(鉄制限下で発現されたウシ1477タンパク質によるワクチン投与):ATCC19636により抗原暴露。
グループ6(鉄制限下で発現されたATCC19636タンパク質によるワクチン投与):ウシ1477により抗原暴露。
グループ7(ウシ1477FeCl3によるワクチン投与):ウシ1477により抗原暴露。
【0120】
実施例4に記載した計数プロトコルによる算定によれば、抗原暴露に使用した黄色ブドウ球菌19636の濃度は、マウス用量当たり1.35×108CFUであり、抗原暴露に使用した黄色ブドウ球菌1477の濃度は、マウス用量当たり1.65×108コロニーCFUであった。抗原暴露から7日間にわたって毎日、罹患率、死亡率、及び群全体の病態を記録した。
【0121】
ATCC19636単離株に暴露したマウスを比較すると、プラシーボによりワクチン投与したグループ1のマウスの70%が、抗原暴露から7日以内に死亡した(表11及び図2)。これは株19636が、今回の投与用量レベルにおいて、マウスを高い確率で死亡させることを表わしている。グループ1のマウスとは対照的に、グループ2のマウスのうち抗原暴露後7日以内に死亡したものは、10%に過ぎなかった。これらの結果は、19636組成物をワクチン投与することにより、マウスが株19636への暴露から有意に防護されたことを示している(p=0.020、フィッシャー直接確率法)。更には、致死時間(time-to-death)のデータをカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)分析したところ、このワクチンによって、ホモロガスな抗原暴露からも有意に(p=0.0042、ログランク検定)防御されたことが分かる(図3)。加えて、グループ5のマウスのうち、抗原暴露から7日で死亡したものは僅か20%であったことから、ウシ1477組成物によって、ATCC株19636への暴露からも有意に防御されたことが分かる(p=0.015、死亡率のログランク検定)。このデータをカプラン・マイヤー生存曲線及びログランク検定で分析したところ(図4)、致死からの防御も有意であると判定された(p=0.015、死亡率のログランク検定)ことから、株1477由来のワクチン組成物によって、株19636への暴露からのヘテロロガスな防御が得られたことが分かる。
【0122】
【表30】

【0123】
ウシ1477分離株に暴露されたマウスを比較すると、プラシーボによりワクチン投与されたグループ(グループ3)のマウスのうち、抗原暴露から7日以内に死亡したのは僅か20%であった。しかしながら、ウシ1477単離株への暴露により、グループ3の生存マウスのうち6頭(75%)に、壊死性皮膚病変の発症が誘発された。これらの病変のサイズを測定したところ、生存マウスの病変の平均サイズは18.5mmであった(表12)。対して、グループ4のマウスのうち20%が、抗原暴露から7日以内に死亡したが、生存マウスのうち病変(平均径2.7mm)を発症したのは僅か3頭(38%)であった。これらの結果から、ウシ1477組成物により、ウシ株1477に暴露されたマウスにおいて、病変の発症からのホモロガスな防御が有意に得られたことが分かる(p=0.009、スチューデントt検定)。更に、グループ6のマウスが何れも死亡しておらず、皮膚病変(平均径3.7mm)を発症したマウスも僅か3頭(30%)であったことから、ATCC19636組成物によるワクチン投与によって、株1477への暴露からも防御されることが分かる。総合すると、グループ5及び6のマウスにおける死亡率及び/又は病変発症率の低下は、株19636及び1477由来の組成物が、有意な交差防御的性質(cross-protective nature)を有していることを示している(p=0.012、病変サイズに基づくスチューデントt検定)。非鉄調節タンパク質との比較における本組成物の効力を示すものとして、グループ7のマウスのうち20%が死亡し、生存個体のうち4頭が皮膚病変(平均径15.8mm)を発症した。グループ7のマウスは、1477単離株のタンパク質によるワクチン投与に、ある程度の防御作用があることを示している。病変を発症したマウスが、プラシーボによりワクチン投与されたグループ3に比べて少ないからである。しかしながら、グループ7のマウスに観察された皮膚病変は、グループ4のマウスにおける病変に比べ、発生頻度がより高く、径もより大きかった。ここから、鉄豊富条件下で生育させた細胞から単離されたタンパク質と比較して、鉄制限下で生育させた細菌から単離されたタンパク質は、同一の抗原暴露についてより優れた防御効果を与えることが分かる。
【0124】
【表31】

【0125】
マウスの抗原暴露試験において見られた本タンパク質の交差防御的性質は、実施例1(図1)に記載した黄色ブドウ球菌株由来のタンパク質が、同様の分子量を有していることからも裏付けられる。ウシ誘導単離株由来のタンパク質のSDS−PAGEプロファイルには顕著な相違(特に、38.4kDaのタンパク質が存在しておらず、他の3種のタンパク質が存在している点)が見られたものの、株1477及びATCC19636の何れに由来するタンパク質も、ヘテロロガスな防御を誘発した。これらの結果は、株19636及び1477の類似したタンパク質が、グループ5及び6に見られた交差防御の原因となっている可能性を示すものである。これに対して、鉄欠乏条件及び鉄豊富条件下で生育させた株1477由来のタンパク質プロファイルは、明らかに異なっている。鉄欠乏条件下で単離されたこれらのタンパク質は、鉄豊富条件下で単離されたタンパク質と比較してより高い防御作用を有することが、グループ4のマウスにおける病変発症率がグループ7のマウスと比べて減少していることから分かる。
【0126】
実施例6
哺乳類において、組織損傷や細菌感染に対する応答が、急性炎症性応答をもたらすことが示されてきた。この応答は、毛細血管透過性を高めるとともに食細胞浸潤を促進し、炎症、腫脹、発熱、疼痛、及び発赤等の臨床徴候を引き起こす。抑制されない場合には、死に至る可能性もある。液性因子の活性化及びサイトカインの放出によって媒介される全身的現象(まとめて急性期タンパク質応答と呼ばれる)の結果、生理学的及び生化学的現象のカスケードが生じる。この応答の持続時間は、損傷の重症度及び全身感染の規模と直接関係している。これまで、細菌性敗血症、大手術、火傷や他の身体外傷の際に、血清中における幾つかの金属イオン、例えば鉄、銅、及び亜鉛等の濃度に変化が生じることが、十分に立証されてきた。例えば、感染の急性期には、鉄及び亜鉛の血漿レベルの減少と、銅の血漿レベルの増加が見られる。血清中におけるこれらの微量金属イオンの変化は、如何なる細菌感染の重症度や進行にも、直接的な影響を与えているものと思われる。
【0127】
本試験では、体内侵入(systemic invension)時に発現され得る新規なタンパク質を模擬的に発現させるべく、様々な金属イオン制限条件下における黄色ブドウ球菌のタンパク質の発現を調べた。本試験で評価した黄色ブドウ球菌の株は、トリ(株SAAV1)、ヒト(株19636)、及びウシ(株1477及び2176)という3種の異なる動物に由来するものである。概略を述べると、保存用原種菌から各単離株を摂取し、200mlのトリプティックソイ培地(TSB)に移して培養物を作製した。各培養物を200rpmで攪拌しながら37℃で6時間培養した。各培養物のうち10mlを、4種の金属イオンキレート剤、即ち2,2−ジピリジル(Dp)、2−ピリジルメチル−エチレンジアミン(TPEN)、カテキン、及びナリンゲニン(何れもSigma、セントルイス、MOから入手)のうち1種を含有する、500mlの欠乏TSBに移送した。更に、各培養物を、塩化第二鉄、塩化亜鉛、及び/又は塩化銅を含有する、濃度300μMで調製されたカチオン豊富培地にて培養した。金属イオンキレート剤は以下の濃度で使用した。2,2−ジピリジル(800μM)、カテキン及びナリンゲニンは300μMで使用し、2−ピリジルメチル−エチレンジアミンは100μMの濃度で使用した。培養物を各キレート剤の下で8時間培養し、その時点で培養物を再度継代し、更に12時間培養した。各培養物を12時間ずつ3回連続して継代培養した。3度目の継代培養の終了時に、各培養物を10,000×gで20分遠心分離して収穫した。各培養物を10,000×gで遠心分離して2度洗浄し、4℃のトリス緩衝食塩水、pH7.2、20mlに再懸濁した。
【0128】
各細菌ペレットを45mlのトリス緩衝食塩水、pH7.2(25mMトリス及び150mM NaCl)に再懸濁し、得られた細菌懸濁液を、5本の試験管にそれぞれ一定分量9mlずつ、計20試験管に分注した。50ユニットのリゾスタフィン(Sigma、セントルイス、MO)を含有する1ミリリットルのTBSを各試験管に加え、最終濃度を5ユニット/mlとした。200rpmで振盪しながら37℃で30分培養した後、0.1mgのリゾチーム(Sigma)を含有する1mlのTBSを各試験管に加えた。その後、この細菌懸濁液を200rpmで振盪しながら更に45分培養した。次に、懸濁液を4℃、3050×gで12分遠心分離し、大細胞残屑をペレット化した。このペレットを乱さないように上清のみを吸引採取した。その後、この上清を39,000×gで2.5時間遠心分離した。こうして得られた、金属調節膜タンパク質が濃縮されたペレットを、200μLトリス緩衝液、pH7.2に再懸濁した。各単離株のタンパク質溶液を合わせて全量を1mlとし、−90℃で保存した。
【0129】
鉄、亜鉛、及び銅欠乏条件下で生育させた黄色ブドウ球菌単離株SAAV1、19636、1477、及び2176から得られたタンパク質は、金属調節ポリペプチドを含有していた。
【0130】
各単離株に由来する細胞抽出物をSDS−PAGEゲルにより、4%の濃縮用ゲル及び10%の分離用ゲルを用いてサイズ分画した。電気泳動用サンプルは、10μlのサンプルを30μlのSDS還元サンプルバッファー(62.5mM トリス−HCl(pH6.8)、20%グリセロール、2%SDS、5%β−メルカプトエタノール)と混合し、4分間煮沸して調製した。サンプルを、Protein II xiセル電源(BioRad Laboratories、リッチモンド、CA、モデル1000/500)を用いて18mAの定電流下、4℃で5時間電気泳動した。
【0131】
亜鉛及び/又は銅キレート化条件下で生育させたタンパク質のSDS−PAGEパターンは、全ての単離株について、独自のバンド形成パターンを示した。これらのパターンは、鉄制限条件下、2,2’−ジピリジルの存在下で生育させた同一の単離株と比較すると、異なるものであった。例えば、19636単離株を鉄制限下又はキレート剤2,2’−ジピリジルの存在下で生育させると、87.73kDa、54.53kDa、38.42kDa、37.37kDa、35.70kDa、34.91kDa、及び33.0kDaの領域に、独自の鉄調節タンパク質が発現された。これらのタンパク質は、単離株を塩化第二鉄の存在下で生育させると、下方調節された。しかしながら、同じ単離株を亜鉛及び/又は銅キレート剤の存在下で生育させると、鉄制限下で発現されたタンパク質と比較して、新規なタンパク質のサブセットが発現された。これらの新規なタンパク質の分子量は、凡そ115kDa、88kDa、80kDa、71kDa、69kDa、35kDa、30kDa、29kDa、及び27kDaであった。更に、87.73kDaのタンパク質は、鉄制限又は銅制限条件下では発現されるが、培養物を亜鉛制限下においた場合には発現されなかった。鉄制限下で発現されたタンパク質は、亜鉛制限及び/又は銅制限下で生育させると下方調節されたものの、単離株を塩化第二鉄とともに生育させた場合に見られるように、完全に遮断されることはなかった。
【0132】
銅制限及び/又は亜鉛制限下で単離株を生育させると発現されるが、鉄制限条件下で同じ単離株を生育させると発現されない、新規なタンパク質が存在すると見られる。生物は遷移金属を、様々な生化学反応を触媒する酵素の構築に使用することから、金属イオンは全身感染時における微生物の生存に重要な役割を果たしているものと思われる。おそらくはこの理由から、敗血症の際にはこれらの遷移金属の利用能が一過的に減少し、微生物の生育に利用されるのを防いでいるのであろう。これらの新規なタンパク質は、細菌が体内侵入時に遭遇する金属イオン制限下でも発現されると思われることから、鉄制限下で生育させた現存組成物の防護効力を高める可能性が極めて高い。
【0133】
実施例7
本発明の組成物は、商業的な大スケールの条件下でも生産可能である。
【0134】
発酵
実施例1で説明した、低温用バイアル入りの作業用種菌(2ml、109CFU/ml)を使用した。0.125g/lの2,2−ジピリジル(Sigma)、2.7グラムのBiTekイーストエキストラクト(Difco)、及びグリセロール(3%(体積/体積))を含有し、ブドウ糖を含まない500mlのトリプティックソイ培地(TSB)(Difco)を37℃に予熱し、上述の種菌を播種した。この培養物を、200rpmで攪拌しながら37℃で12時間培養したところで、2リットルの上記培地に移し、更に37℃で4時間培養して増殖させた。この培養物を用い、20リットルのVirtis卓上発酵槽(Virtis、ガーディナー、NY)に入れた13リットルの上記培地に播種した。50%のNaOH及び10%のHClを用いた自動滴定により、pHを6.9から7.1までの範囲で一定に維持した。攪拌速度を400回転/分に調節し、培養物に空気を11リットル/分、37℃で通気した。11mlの消泡剤(Mazu DF 204 Chem/Serv、ミネアポリス、MN)を加えることにより、気泡を自動的に制御した。以上の条件で培養物を連続4時間増殖させたところで、無菌下で150リットルの発酵槽(W. B. Moore、イーストン、PA)にポンプ移送した。この発酵槽に、ブドウ糖を含まない120リットルのトリプティックソイ培地(3,600.0グラム)、BiTekイーストエキストラクト(600グラム)、グリセロール(3,600ml)、2,2−ジピリジル(3.0グラム)、及びMazu DF 204消泡剤(60ml)を加えた。発酵のパラメータは以下の通りとした。攪拌速度を220回転/分に増加させ、60リットル/分の空気と、毎平方インチ当たり(per square inch:psi)10ポンドの逆圧を加えることで、溶存酸素(dissolved oxygen:DO)を30%±10%に維持した。50%のNaOH及び10%のHClを用いた自動滴定により、pHを6.9から7.1までの範囲で一定に維持した。温度は37℃に維持した。発酵開始から4.5時間後(OD5408−9)の時点で、培養物を、1200リットルのブドウ糖不含有トリプティックソイ培地(36,000グラム)、BiTekイーストエキストラクト (6,000グラム)、グリセロール(36,000ml)、2,2−ジピリジル(30.0グラム)、及びMazu DF 204消泡剤(600ml)を入れた1,500リットルのNew Brunswick Scientific発酵槽IF-15000に移送した。発酵のパラメータは以下の通りとした。攪拌速度を300回転/分に増加させ、300から1100リットル/分の空気と、毎平方インチ当たり(psi)5ポンドの逆圧を加えることで、酸素を補充し、溶存酸素(DO)を60%±10%に維持した。発酵の進行に伴い、溶存酸素の制御を補助するため、追加の酸素を0〜90リットル/分で加えた。50%のNaOHと10%のHClとを用いた自動滴定によりpHを6.9から7.4の間に維持し、温度は37℃に維持した。
【0135】
大発酵槽への接種から凡そ5時間後、培養物に追加の栄養素を補充するべく、18,000グラムのブドウ糖未含有TSB、3,000グラムのイーストエキストラクト、30.0グラムの2,2−ジピリジル、及び18,000mlのグリセロールを含有する、70リットルの培地を供給した。供給速度を凡そ28リットル/時間に調節し、供給の間に攪拌を増加させた。供給終了後、更に引き続き4時間発酵させた時点で、発酵槽の温度を18℃に低下させ、発酵を終了させた(1:100希釈でのOD54035〜40)。
【0136】
収穫
細菌発酵物の濃縮及び洗浄を、Waukesha Model U-60フィードポンプ(Waukesha Cherry-Burrell, Delevan, WI)に接続した、3台の30ft2 Alpha 300-K開口チャネルフィルター(open channel filters)(カタログ番号AS300C5、Pall Filtron)を備えた、Pall Filtron Tangential Flow Maxiset-25 (Pall Filtron Corporation、ノースバロ、MA)を使用して行なった。原培養物の体積は1250リットルであったが、これをフィルター入口圧力30psi、透過残物(retentate)圧力5〜6psiとして、50リットル(2.5リットル/分)まで減少させた。この細菌の透過残物にトリス緩衝食塩水、pH8.5を加え、容積を150リットルに調節した後、再度50リットルまで濃縮することにより、混入している外因性タンパク質(例えば分泌毒素やプロテアーゼ等のエキソプロテイン(exoproteins))を除去した。トリス緩衝食塩水のpHを上昇させれば、全細胞懸濁液の保存時に生じ得るタンパク質分解の大半を、防止することができる。pHの上昇の代わりに、或いはpHの上昇に加えて、プロテアーゼ阻害剤を使用してもよい。透過残物を200リットルのタンク内で、底部に装着した磁気駆動式ミキサーによってよく混合した。この透過残物を無菌下で、滅菌した4リットルのNalgeneコンテナーNo. 2122に分注し(3.5リットル)、−20℃の冷凍庫に入れて保存し、製造時の休止点(breaking point)としたが、更に続けて処理することもできる。ペレットの質量は、発酵培養物のサンプル30mlを遠心分離し、その最終収穫量から算出した。要約すると、予め秤量した50mlのNalgeneコニカル試験管を39,000×gで90分、Beckman J2-21遠心分離機により、JA-21ローター(Beckman Instruments、パロアルト、CA)を用いて遠心分離した。運転終了後、上清を捨て、試験管を再度秤量した。各段階についてペレットの質量を算出した。発酵プロセスにより、質量凡そ60キログラムの湿潤ペレットが得られた。
【0137】
破壊
細菌細胞のトリス緩衝食塩水(pH8.5)中スラリー80キログラムを、無菌的に、スチームインプロセス(steam in place)の1000リットルのジャケット付き処理タンク(Lee、Model 259LU)に移送した。該タンクは、上方にはミキサー(Eastern、型番TME-1/2、EMI Incorporated、クリントン、CT)を備え、900リットルのTBS(pH8.5)を含有する。バルク細菌懸濁液を4℃に冷却しながら、200rpmで連続18時間攪拌した後、ホモジナイズ処理により破壊した。要約すると、細菌懸濁液の入った1000リットルのタンクを、型番C-500-BのAvestinホモジナイザー(Avestin Inc、オタワ、カナダ)に接続した。2台目の1000リットルのジャケット付き処理タンク(empty)をホモジナイザーに接続し、前述の処理タンク内の流体が、ホモジナイザーを通過してこの空のタンクに入り込み、再び戻っていくようにして、閉鎖系を維持しながらホモジナイズ処理を複数回通過できるようにした。ホモジナイズ中の温度は4℃に保った。初回の通過の開始時には、Waukeshaの型番10DOのポンプ(Waukesha)を用い、流体を70psiでホモジナイザー経由で循環させた(500ガロン/時間)。その間のホモジナイザーの圧力は30,000psiに調節した。初回の通過に先立ち、ホモジナイザーからホモジナイズ前のサンプルを2口抜き取り、これらを用いて破壊度の特定及びpHの監視用のベースラインを設定した。破壊度の監視は、その透過率(希釈率1:100での540nmによる%T)を、ホモジナイズされていないサンプルと比較することにより行なった。ホモジナイザーの通過回数を規格化し、希釈率1:100での最終的な百分率透過度を、78〜91%T、好ましくは86〜91%の間とした。ホモジナイズ処理後、タンクをホモジナイザーから取り外し、チラーループ(chiller loop)上に設置し、4℃、240rpmで混合した。
【0138】
タンパク質の収穫
図1に示す鉄調節タンパク質を含有する破壊細菌懸濁液を、T-1 Sharpies(Alfa Laval Separations、ウォーミンスター、PA)を用いた遠心分離により収集した。要約すると、破壊細菌ホモジネートの入った1000リットルのジャケット付きジャケット付き処理タンクを12台のSharpiesに、供給速度250ml/分、17psiで、遠心力60,000×gで供給した。流出物を、2台目の1000リットルのジャケット付き処理タンクに、滅菌された閉ループを通じて流し込み、閉鎖系を維持しながら遠心分離機を複数回通過できるようにした。遠心分離時の温度は4℃に維持した。ホモジネートを8回、遠心分離機に通過させた。2回目の通過後に凡そ50%のタンパク質が収集された。その時点で、ホモジネート流体を元の体積の1/3に濃縮し、その後の6回の通過処理時間を短縮した。ホモジネートタンクを遠心分離機から無菌的に取り外し、Millipore Pellicon接線流フィルターアセンブリ(Tangential Flow Filter assembly)(Millipore Corporation、ベッドフォード、MA)に接続した。該アセンブリには25ft2のスクリーンチャネルシリーズ(screen-channel series)のAlpha 30K Centrasetteフィルター(Pall Filtron)が備えられ、これは濃縮用のWaukesha社の型番U30のフィードポンプに接続されている。濃縮後、処理が完了するまで遠心分離を継続した。各通過後にタンパク質を収集した。収集されたタンパク質は、0.15%のホルマリン(Sigma)を保存剤として含む50リットルのトリス緩衝食塩水(pH8.5)中に再懸濁・分注した。
【0139】
膜濾過法
タンパク質懸濁液を4℃で、膜濾過法により洗浄し、外因性タンパク質(プロテアーゼ、毒素、細胞質及び代謝酵素、等)を除去した。要約すると、50リットルのタンパク質を無菌下で、150リットルの滅菌トリス緩衝食塩水(pH8.5)の入った200リットルの処理タンクに移送した。該タンクの底部に備えられたDayton社製ミキサー、型番2Z846(Dayton Electric、シカゴ、IL)により、125回転/分で回転させた。処理タンクを無菌下で、Millipore Pellicon接線流フィルターアセンブリ(Tangential Flow Filter assembly)(Millipore Corporation、ベッドフォード、MA)に接続した。該アセンブリには25ft2のスクリーンチャネルシリーズ(screen-channel series)のAlpha 30K Centrasetteフィルター(Pall Filtron)が備えられ、これは濃縮用のWaukesha社の型番U30のフィードポンプに接続されている。200リットルのタンパク質溶液を濾過により、目的容量50リットルとなるまで濃縮した後、150リットルの滅菌食塩水を加えた。続いて、このタンパク質懸濁液を凡そ50リットルまで濃縮した。このタンパク質濃縮物を、上部にミキサーを備えた50リットルのジャケット付き処理タンクに入れ、4℃で保存した。
【0140】
興味深いことに、破壊手段としてホモジナイズ処理を採用し、大スケールプロセスから得られた組成物をSDS−PAGEによって分析し、実施例1で記載したより小さなスケールのプロセスと比較すると、同一のバンド形成プロファイルを示すことが分かった。これらの結果は、リゾスタフィンの代わりに、細菌溶解剤(bacterial lysis agent)として、AvestinホモジナイザーC500-Bを用いることが可能であることを示すものである。この知見によれば、ブドウ球菌から鉄調節タンパク質を大量に、且つ低コストで産生することが可能となる。
【0141】
実施例8
マウスの過剰免疫化(Hyper-immunization)及びポリクローナル抗体の調製
【0142】
鉄制限条件下で生育させた黄色ブドウ球菌株19636由来のタンパク質をマウスにワクチン投与し、このマウスから単離された精製抗体で受動免疫を行なったところ、黄色ブドウ球菌によるホモロガス及びヘテロロガスな抗原暴露からの防御が得られた。15頭の成体CD1マウスを、実施例1及び2に記載したような鉄欠乏条件下で生育させた黄色ブドウ球菌株ATCC19636由来のタンパク質組成物を用いて、実施例3に記載の手順によりワクチン投与した。マウスのワクチン投与は7日間の間隔をおいて3回、各ワクチン投与毎に50μgのタンパク質組成物を腹腔内に投与することにより行なった。3回目の免疫化から7日後、心臓穿刺によりマウスを完全に放血させた。血清をプールし、標準的な硫安塩析法を用いて抗体を精製した。抗体を沈殿させる前にまず、0.5倍量の飽和硫安(pH7.2)を加えて、外因性血清タンパク質を除去した。溶液を4℃、100rpmで24時間攪拌した。溶液を再度、3000×gで30分遠心分離した。上清を採取し、十分量の飽和硫安を加えて最終濃度を55%の飽和状態とし、再沈殿を行なった。溶液を4℃、100rpmで24時間攪拌した。沈殿を3000×gで30分遠心分離した。各サンプルの最終ペレットを、2mlのPBS(pH7.2)に再懸濁した。次いでこの沈殿抗体を、カットオフ分子量50,000の透析用チューブ(Pierce、ロックフォード、IL)に入れ、リン酸緩衝食塩水を1リットルずつ3回交換して用い、30時間かけて透析することにより硫安を除去した。最初に交換した2リットルの液は、0.02%のアジ化ナトリウムを入れて保存した。最後に交換した1リットルの緩衝液には保存剤を用いなかった。透析液を収集し、再度3000×gで30分遠心分離して、残存する残骸を除去した。抗体溶液を4℃で保存し、48時間経過前に使用した。注射の前に、各サンプルを血液寒天に蒔き、無菌であることを確認した。
【0143】
実施例9
受動免疫及び抗原暴露
【0144】
鉄制限時に発現された黄色ブドウ球菌タンパク質に対して産生された抗体の注射による防護効果を評価するために、マウス15頭からなるグループ2つの各々に、精製抗体調製物(グループ1)、又は、生理食塩水(グループ2)の何れかからなる200μLの注射液を腹腔内注射した。別途、マウス15頭からなるグループ2つの各々に、精製抗体調製物(グループ3)又は生理食塩水(グループ4)の何れかを皮下注射した。60分後、腹腔内注射を受けたマウス15頭のグループ2つに対し、1.3×108cfuの黄色ブドウ球菌株19636を腹腔内投与して抗原暴露を行なった。同様に、皮下注射を受けたマウス15頭のグループ2つに対し、1.3×108cfuの黄色ブドウ球菌株1477を皮下投与して抗原暴露を行ない、異なる黄色ブドウ球菌株による抗原暴露からの交差防御を試験した。死亡率及び/又は病変サイズを5日間記録し、全マウスの肝臓を死後に摘出し、ホモジナイズし、プレートに蒔いて、存在する黄色ブドウ球菌の数を決定し、全身感染の指標とした。カプラン・マイヤー生存曲線(図5及び6)によれば、鉄制限時に発現された黄色ブドウ球菌タンパク質によりワクチン投与されたマウス由来の抗体を注射することで、防護効果が得られることが示された。ATCC19636暴露グループでは、注射グループと対象グループとの差異は有意ではなかったが(p=0.076、ログランクテスト)、1日目に死亡した抗体注射グループ内のマウス1頭の肝臓を血液寒天で培養し、暴露用抗原生物(黄色ブドウ球菌)の非存在及び/又は存在を決定した。このマウス由来の培養物はブドウ球菌に陰性を示し、血液寒天平板又は培地で生育しなかった。これに対して、プラシーボグループ内で死亡したマウスの肝臓は、全てブドウ球菌の存在に陽性を示し、実際に、これらのマウスの肝臓由来の各血液寒天平板からも、純粋培養物が得られた。肝臓のデータは、抗体注射グループ内で死亡したマウスが黄色ブドウ球菌感染により死亡した可能性を排除するものではなかったが、その感染はプラシーボグループのように全身性ではなかったので、このマウスは他の理由で死亡した可能性がある。この抗体注射マウスの死亡を除外すると、抗体注射とプラシーボ処理との間には有意な差が得られた(p=0.015、ログランクテスト)。ATCC19636由来タンパク質によるワクチン投与後に産生された抗体をマウスに注射し、次いで黄色ブドウ球菌株1477に抗原暴露した、交差抗原暴露(cross-challenge)のデータも、防護的な傾向を示した。抗原暴露後7日から14日の間に、注射グループ及び非注射グループの全てのマウスが、壊死性の皮膚病変を発症し始めていた。しかしながら、マウスの肉眼検査(gross examination)によれば、観察可能な病変の形成、並びに病変の重症度について、グループ間に目に見えて遅延があることが明らかに示されていた。注射マウスの病変の発症は、非注射対照マウスと比べるとより遅かった。対照マウスの病変の発症は注射マウスよりも速く、その重症度も高かった。注射マウスの治癒は、非注射マウスよりも速かった。これは、抗原暴露後21日から35日の期間には、完全に明らかであった。抗原暴露から35日後のマウスの肉眼検査(gross examination)によれば、非注射マウスは外観が著しく悪く、瘢痕の度合いもより高いことが明らかであった。実際に、これらのマウスの多くは正常な姿勢を保てず、外見が捩れているように見えたのに対して、注射マウスは、広範な瘢痕組織及び/又は(例えば非注射マウスが発症した外見の捩れのような)外観の悪化(disfigurement)を殆ど発症しなかった。総体的に、これらのデータは、黄色ブドウ球菌の鉄誘導タンパク質に対して産生された抗体を腹腔内注射することで、黄色ブドウ球菌感染から防護し、また、その重症度を抑制することが可能であることを示している。
【0145】
実施例10
慢性的感染の乳牛群における黄色ブドウ球菌由来のワクチン組成物の評価
【0146】
黄色ブドウ球菌により体細胞数が慢性的に高い病歴を有する商用の乳牛群を選択し、実施例1に記載したワクチン組成物の評価に供した。この実験研究において、ワクチンの効力を判定する基準は以下の通りとした。1)ワクチン投与群(vaccinates)をワクチン非投与対照群(non-vaccinated controls)と比較した場合に、黄色ブドウ球菌により生じる臨床的乳腺炎の罹病率が減少していること、2)ワクチン投与群を対照群と比較した場合に、体細胞数が改善(即ち、減少)していること、及び、3)ワクチン投与群と対照群との間に、黄色ブドウ球菌の培養陽性単離株の比率に減少が見られること。血液の採取は、最初のワクチン投与(0日目)時に行ない、初回の免疫化から3週及び6週間後に再度行なう。ワクチン投与後の注射部位反応及び全身性反応を、試験期間を通じて観察した。更に、バルクタンクの牛乳サンプルを培養して定量的計数を行ない、ワクチン投与後の培養における黄色ブドウ球菌のCFU数が減少したかどうかを確認した。
【0147】
この群のうち、慢性的感染を患う泌乳牛から取られた3種のブドウ球菌単離株を、実施例1に記載した鉄制限条件及び鉄非制限条件下で生育させた。これら3種の単離株をTTX101、TTX102、及びTTX103と名付けた。抽出したサンプルをSDS−PAGEで分離し、そのバンド形成プロファイルを単離株間で比較した。調べた単離株の何れも、同一のバンド形成プロファイルを示した。各単離株由来の組成物が有するタンパク質の分子量は、87.73kDa、80.46kDa、65.08kDa、54.53kDa、37.37kDa、35.70kDa、34.91kDa、33.0kDa、及び31.83kDaであった。これらのタンパク質の分子量は、表10において上述したものと同じであった。更に、単離株を比較したところ、150kDa、132kDa、120kDa、75kDa、58kDa、50kDa、44kDa、43kDa、41kDa、及び40kDaという、鉄によって調節されない全ての条件において発現されるタンパク質と同一のバンド形成プロファイルが見られた。これらの結果は、以前の観察結果と一致していた。TTX101と名付けた1つの単離株を、本試験で使用する組成物を作製するための単離株として選択した。
【0148】
実施例11
黄色ブドウ球菌(TTX101)のワクチン調製
【0149】
単離株TTX101を用いて、実施例1の記載に従い、組成物を調製した。この組成物は、鉄欠乏条件下で発現される、分子量が87.73kDa、80.46kDa、65.08kDa、54.53kDa、37.37kDa、35.70kDa、34.91kDa、33.0kDa、及び31.83kDaのタンパク質を含んでおり、更に、分子量が150kDa、132kDa、120kDa、75kDa、58kDa、50kDa、44kDa、43kDa、41kDa、及び40kDaの金属非調節タンパク質を含んでいた。この株TTX101由来の免疫化用組成物を用いて、以下の手順で実験用ワクチンを調製した。即ち、抽出したタンパク質懸濁液(1ミリリットル当たりの総タンパク質量400μg)を、市販のアジュバント(EMULSIGEN、MVP Laboratories、ラルストン、NE)中で、IKA Ultra Turrax T-50破砕器(IKA、シンシナティ、OH)を用いて乳化させ、その最終用量を、注射用量2.0ml中の総タンパク質800μg、アジュバント濃度22.5%(体積/体積)とした。このワクチンを、21日の間隔を空けて2度、皮下投与した。
【0150】
実施例12
実験デザイン及び群へのワクチン投与
【0151】
最初のワクチン投与の18日前に、本試験に使用する全ての泌乳牛(N=80)について、黄色ブドウ球菌の検査を行なった。検査は、標準化された好気性細菌学的培養法により、各泌乳牛から得られた個々の牛乳サンプルを培養することにより行なった。更に、Dairy herd Improvement Associationにより標準的な手法を用いて、体細胞数(sematic cell counts:SCC)を計数した。80頭の牛のうち14頭が、臨床的に乳腺炎であると診断され、黄色ブドウ球菌について培養陽性であった。残りの牛(N=66)は黄色ブドウ球菌に陰性と判定された。これらの牛80頭を均等に2つのグループに分け、ワクチン投与群をグループ1(N=40)、ワクチン非投与群をグループ2(N=40)と命名した。ブドウ球菌に陽性であると臨床的に診断された牛14頭は、両方のグループに均等に分配し、各試験グループに臨床的乳腺炎の牛が7頭ずつ含まれるようにした。最初のワクチン投与前のグループ間の平均SCCは、ワクチン非投与群が203,219であったのに対し、ワクチン投与群は240,443であった(統計的差異無し、p=0.7)。
【0152】
最初のサンプル採取から14日後、グループ1の全ての牛に対して、実施例11の記載に従い、2mlのワクチンを右肩上部に皮下投与した。最初のワクチン投与から10日後、DHIAによるこの期間の牛乳サンプルを採集し、各牛個体の体細胞の計数を行なった。この期間には、牛乳サンプルについてブドウ球菌の有無を判定するための、細菌学的な試験は行なわなかった。この時期におけるグループ間のSCCの差は、125,241(ワクチン投与群)に対して、196,297(対照群)であった。即ち、ワクチン投与群とワクチン非投与対照群との体細胞数の差は36%であった。このサンプル採取期間における対照群とワクチン投与群とのSCCの差は、統計的な差ではなかった(p=0.5)。何れのサンプル採取期間においても、グループ間のSCCに統計的な差が見られなかったのは、牛個体間のSCCに大きなばらつきがあったためである。同一の時期に、各ワクチン投与牛の注射部位についても調べた。検査した牛の何れについても、身体所見によれば、注射した部位に有害組織反応(adverse tissue response)は見られなかった。更に、ワクチン投与による牛乳の産生量の減少も測定されなかった。
【0153】
初回のワクチン投与から21日後、グループ1(ワクチン投与群)の全ての牛に、2度目のワクチン投与、即ち追加免疫(booster)を行なった。初回のワクチン投与と2度目のワクチン投与との間の期間に、双方のグループ(ワクチン投与群及び対照群)の全ての牛が、環境温度の急激な低下に起因する乳頭の損傷を生じ、これが基で乳頭の端部に病変が形成され、乳頭感染の発症、及び、サンプル採取時のブドウ球菌単離の潜在的な増加を招き、これは3度目のサンプル採取期間に観察された。2度目のワクチン投与から23日後、各牛個体の体細胞の計数のために、DHIAによる牛乳サンプルを採集した。また、牛乳サンプルを細菌学的に検査し、黄色ブドウ球菌の有無を確認した。この期間には、初回のサンプル採取期間に陰性と判定された牛に、黄色ブドウ球菌の単離率の急激な増加がみられた。ワクチン非投与対照群では、これらの牛の42.9%が、今回は黄色ブドウ球菌に陽性であると判定されたのに対し、ワクチン投与群では、僅か35.5%の増加しか示さなかった。ワクチン投与群のワクチン非投与対照群に対する差異は7.4%であった。ワクチン投与グループに見られた黄色ブドウ球菌の単離率の改善が、ワクチン単独の効果に因るものであるとは言い難い。乳頭に損傷がある牛からサンプルを取得する際には、牛乳に黄色ブドウ球菌が混入する可能性が高いため、清浄な牛乳サンプルを得るのは困難であるという点を見落とすことはできない。それでもなお、ワクチン投与群と対照群との間には、平均SCCに有意な差異が見られた。ワクチン投与グループの平均SCCは222,679であったのに対し、対象グループにおいて観測された体細胞数は404,278であった。ワクチン投与群をワクチン非投与対照群と比べた場合の差異は44.9%であった。これらのグループ間でSCCに見られた差異が、グループ間における黄色ブドウ球菌の単離率の差異とも一致しているという点について考えると興味深い。しかしながら、動物個体間でSCCに大きなばらつきがあった上に、試験動物数が少なく、サンプルサイズが小さかったため、この差異は統計的な差異ではなかった(p=0.28)。
【0154】
同一期間に、各ワクチン投与牛の注射部位について、ワクチン組成物によって生じたと思われる有害組織反応があるかどうかを調べた。検査した牛の何れも、身体所見によれば、注射した部位に有害反応は見られなかった。このワクチン組成物は極めて組織適合性が高いと考えられた。各ワクチン投与後における牛乳産生量の減少も測定されなかった。
【0155】
SCC及び牛乳サンプルについて黄色ブドウ球菌の存否を判定することにより、牛の監視を継続した。各グループの牛の一部に対して、2度目のワクチン投与から42日後に、3度目のワクチン投与を行なった。ここで見られた差異は、ワクチン組成物の使用によって体細胞数が減少し、黄色ブドウ球菌による感染が抑制されることを支持するものであった。更なる監視においては、ワクチン組成物に対する抗体価に基づく血清学検査、体調の改善によるワクチン投与牛の牛乳産生量の変化、及び、ワクチン投与動物のワクチン非投与コホートに対するSCCの減少を調べた。更に、毒性黄色ブドウ球菌への暴露後の用量応答に基づくワクチンの防護指数(protective index)を検討するため、別の実験を行なった。
【0156】
実施例13
異なる黄色ブドウ球菌株間でもタンパク質の分子量は類似していることが示され、また、マウスの抗原暴露試験ではヘテロロガスな防御が観察されたことから、図1で分子量が共通しているタンパク質が、類似したタンパク質なのかどうかを決定することにした。タンパク質の同定のために選択した手法は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(matrix-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry:MALDI−MS)である。実施例1に記載したSDS−PAGEを用いて組成物の一部を分離し、ゲルをクーマシーブリリアントブルー(Coomassie Brilliant blue)で染色してタンパク質を可視化した。
【0157】
材料及び方法
切除及び洗浄。ゲルを10分間、水により2度洗浄した。所望のタンパク質バンドを各々切除した。この際、サンプル中に存在するゲルの量を低減するため、できるだけタンパク質バンドに近接した部分を切断した。
【0158】
各ゲルスライスを1×1mmの方形に切断し、1.5mlの試験管に入れた。ゲル断片を水で15分間洗浄した。洗浄工程に使用した溶媒の合計量は、各ゲルスライスの体積の凡そ2倍に等しい量であった。次に、ゲルスライスを水/アセトニトリル(1:1)で15分間洗浄した。タンパク質を銀で染色した場合には、この水/アセトニトリル混合液を除去し、ゲル断片をSpeedVac(ThermoSavant、ホールブルック、NY)内で乾燥してから、以下の手順で還元及びアルキル化を行なった。タンパク質を銀染色しない場合には、この水/アセトニトリル混合液を除去し、アセトニトリルを加えてゲル断片を浸し、ゲル断片が白色粘着物になったらアセトニトリルを除去した。ゲル断片を100mMのNH4HCO3中で再水和し、5分後に、ゲル断片の体積の2倍に等しい量のアセトニトリルを加えた。これを15分インキュベートし、液体を除去し、ゲル断片をSpeedVac内で乾燥した。
【0159】
還元及びアルキル化。乾燥したゲル断片を10mMのDTT及び100mMのNH4HCO3中で再水和し、56℃で45分インキュベートした。試験管を室温まで冷却した後、液体を除去してから、同じ量の55mMのヨードアセトアミド及び100mMのNH4HCO3の混合液を直ぐに加えた。これを暗所において、室温で30分インキュベートした。液体を除去し、アセトニトリルを加えてゲル断片を浸し、ゲル断片が白色粘着物になったらアセトニトリルを除去した。ゲル断片を100mMのNH4HCO3中で再水和し、5分後に、ゲル断片の体積の2倍に等しい量のアセトニトリルを加えた。これを15分インキュベートし、液体を除去し、ゲル断片をSpeedVac内で乾燥した。ゲルをクーマシーブルー染色した場合であって、残留クーマシーがまだ残っている場合には、100mM NH4HCO3/アセトニトリルによる洗浄を繰り返し行なった。
【0160】
ゲル内消化。ゲル断片をSpeed Vac内で完全に乾燥させた。断片を消化緩衝液(50mMのNH4HCO3、5mMのCaCl2、12.5ナノグラム・パー・マイクロリットル(ng/μl)のトリプシン)中、4℃で再水和した。ゲル断片が十分に浸る量の緩衝液を加え、必要に応じて更に加えた。ゲル断片を氷上で45分インキュベートし、上清を除去して、代わりにトリプシンを含有しない同じ緩衝液を5〜2μl加えた。これをエアインキュベータ内で、37℃で一晩インキュベートした。
【0161】
ペプチドの抽出。ゲル断片が十分に浸る量の25mM NH4HCO3を加え、(通常は超音波処理槽内で)15分間インキュベートした。同量のアセトニトリルを加え、(可能であれば超音波処理槽内で)15分間インキュベートし、上清を回収した。NH4HCO3の代わりに5%ギ酸を用いて、抽出を2度繰り返した。ゲル断片が十分に浸る量の5%ギ酸を加え、(通常は超音波処理槽内で)15分間インキュベートした。同量のアセトニトリルを加え、(可能であれば超音波処理槽内で)15分間インキュベートし、上清を回収した。抽出液をプールし、10mMのDTTを加えて最終濃度を1mM DTTとした。サンプルをSpeedVac内で乾燥し、最終量を凡そ5μlとした。
【0162】
ペプチドの脱塩。ZIPTIPピペットチップ(C18、Millipore、ビルリカ、MA)を用い、製造者の指示に従いサンプルを脱塩した。要約すると、サンプルを再構成溶液(5:95のアセトニトリル:H2O、0.1%〜0.5%のトリフルオロ酢酸)中で再構成し、遠心分離し、pHを調べて3未満であることを確認した。10μlの溶液1(50:50のアセトニトリル:H2O、0.1%のトリフルオロ酢酸)を吸引してZIPTIPを水和し、吸引した一定分量を廃棄した。続いて、10μlの溶液2(脱イオンH2O中に0.1%のトリフルオロ酢酸)を吸引し、吸引した一定分量を廃棄した。サンプルをチップ内に導入するべく、10μlのサンプルをゆっくりとチップ内に吸引し、サンプルチューブ内に排出するという操作を、5から6回繰り返した。10マイクロリットルの溶液2をチップ内に吸引し、溶液を排出して廃棄するという工程を、5〜7回繰り返して洗浄した。ペプチドを溶出するべく、2.5μlの氷冷の溶液3(60:40のアセトニトリル:H2O、0.1%のトリフルオロ酢酸)を吸引し、排出した後、同じ一定分量を再度チップに吸引及び排出する操作を3回繰り返した。溶液をチップから排出した後、チューブに蓋をして氷冷保存した。
【0163】
質量スペクトルによるペプチドマッピング。ペプチドを10μlから30μlの5%ギ酸に懸濁し、MALDI−TOF MS(Bruker Daltonics Inc.、ビルリカ、MA)で分析した。ペプチド断片の質量スペクトルは、製造者の指示に従って決定した。要約すると、トリプシン消化により得られたペプチドを含むサンプルを、マトリックスのシアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸と混合し、ターゲットに移送し、乾燥させた。乾燥サンプルを質量分析器に配置し、照射し、各イオンの飛行時間を検出し、これを用いて組成物中に存在する各タンパク質のペプチド質量フィンガープリントを決定した。機器の標準化には既知のポリペプチドを用いた。
【0164】
データ分析。実験により観測された各質量スペクトル中のペプチドの質量を、Mascotサーチエンジン(Matrix Science Ltd.、ロンドン、UK、及びwww.matrixscience.com、Perkins et al.、Electrophoresis 20, 3551-3567 (1999) を参照のこと)のペプチド質量フィンガープリント検索法を用いて、予測されるタンパク質の質量と比較した。検索パラメータは以下の通りとした:データベース、MSDB又はNCB Inr;分類、細菌(真正細菌)又はFirmicutes(グラム陽性菌);検索の種類、ペプチド質量フィンガープリント;酵素、トリプシン;固定修飾、カルバミドメチル(C)又は無し;可変修飾、酸化(M)、カルバミドメチル(C)、組合せ、又は無し;質量値、モノアイソトピック;タンパク質質量、無制限;ペプチド質量許容値、±150ppm及び±430ppmの間、又は±1Da;ペプチド荷電状態、Mr;最大欠失切断(max missed cleavages)、0又は1;クエリー数、20。
【0165】
結果
本検索の結果得られた、組成物中に存在するタンパク質の質量フィンガープリントを、表2、3、4、及び5に示す。
【0166】
本明細書で引用された全ての特許、特許出願及び公報、並びに電子的に利用可能な資料(例えば、GenBank及びRefSeq等のヌクレオチド配列寄託、SwissProt、PIR、PRF、PDB等のアミノ酸配列寄託、並びに、GenBank及びRefSeqの注釈付翻訳領域からの翻訳等)の全ての開示内容が、援用により組み込まれる。上述の詳細な説明及び実施例は、単に理解の明確化のために供したものであり、これらを不要な限定として解釈してはならない。本発明は表記及び説明の細部に限定されるものではなく、特許請求の範囲により定義される本発明の範囲には、当業者にとって自明の種々の変形が含まれるものとする。
【0167】
別途記載しない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用される、成分の量、分子量等を表わす数値は何れも、全ての場合において、「約(about)」という語により修飾されるものと解すべきである。即ち、別途これとは反対の記載がない限り、本明細書及び特許請求の範囲に記載した数値パラメータは概算値であり、本発明によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る。特許請求の範囲に関する均等論を制限するものではないが、最低限でも、各数値パラメータを解釈する際には、少なくとも報告値の有効桁数を考慮し、従来の端数処理の手法(rounding techniques)を用いるべきである。
【0168】
発明の広い範囲を規定する数値範囲及びパラメータは概算値であるが、個々の実施例に記載した数値は、可能な限り正確に報告した。しかしながら、何れの数値も、対応する試験の測定値に見られる標準偏差に応じて、必然的にある範囲を内在することになる。
【0169】
見出しは何れも読者の便宜のためのものであり、特に明示した場合を除いて、その見出しに続く本文の意味を限定するために用いるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動により決定される分子量が、88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDa、又はこれらの組み合わせである、2つの単離ポリペプチドを含んでなる組成物であって、
前記ポリペプチドが、鉄キレート剤を含んでなる培地で培養された黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)からは単離可能であるが、鉄キレート剤を含まない培地で生育させた場合には単離可能でなく、且つ、
前記組成物が、黄色ブドウ球菌(S. aureus)ATCC株19636への暴露(challenge)から動物を防護する、組成物。
【請求項2】
医薬的に許容し得る担体を更に含んでなる、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、黄色ブドウ球菌(S. aureus)ATCC株19636から単離される、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
分子量が150kDa、132kDa、120kDa、75kDa、58kDa、50kDa、44kDa、43kDa、41kDa、40kDa、又はこれらの組み合わせであり、且つ、鉄キレート剤を含まない培地で生育させた黄色ブドウ球菌(S. aureus)から単離可能な、単離ポリペプチドを更に含んでなる、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動により決定される分子量が、88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、及び33kDaである、単離ポリペプチドを含んでなる組成物であって、
前記ポリペプチドが、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)から単離可能であり、且つ、
前記組成物が、黄色ブドウ球菌(S. aureus)ATCC株19636への暴露(challenge)から動物を防護する、組成物。
【請求項6】
前記ポリペプチドが、黄色ブドウ球菌(S. aureus)ATCC株19636から単離される、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
分子量が150kDa、132kDa、120kDa、75kDa、58kDa、50kDa、44kDa、43kDa、41kDa、又は40kDaであり、且つ、鉄キレート剤を含まない培地で生育させた黄色ブドウ球菌(S. aureus)から単離可能な、単離ポリペプチドを更に含んでなる、請求項5記載の組成物。
【請求項8】
対象における感染を治療する方法であって、
ブドウ球菌属(Staphylococcus spp.)に感染している、或いは感染のおそれがある対象に、組成物の有効量を投与する工程を含んでなるとともに、
前記組成物が、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動により決定される分子量が、88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDa、又はこれらの組み合わせである、2つの単離ポリペプチドを含んでなり、
前記ポリペプチドが、鉄キレート剤を含んでなる培地で培養された黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)からは単離可能であるが、鉄キレート剤を含まない培地で生育させた場合には単離可能でなく、且つ、
前記組成物が、黄色ブドウ球菌(S. aureus)ATCC株19636への暴露(challenge)から動物を防護する、方法。
【請求項9】
前記対象が哺乳類である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記哺乳類がヒトである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記ブドウ球菌属(Staphylococcus spp.)が黄色ブドウ球菌(S. aureus)である、請求項8記載の方法。
【請求項12】
対象における症状を治療する方法であって、
ブドウ球菌属(Staphylococcus spp.)に感染している対象に、組成物の有効量を投与する工程を含んでなるとともに、
前記組成物が、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動により決定される分子量が、88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDa、又はこれらの組み合わせである、2つの単離ポリペプチドを含んでなり、
前記ポリペプチドが、鉄キレート剤を含んでなる培地で培養された黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)からは単離可能であるが、鉄キレート剤を含まない培地で生育させた場合には単離可能でなく、且つ、
前記組成物が、黄色ブドウ球菌(S. aureus)ATCC株19636への暴露(challenge)から動物を防護する、方法。
【請求項13】
前記対象が哺乳類である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳類がヒトである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記ブドウ球菌属(Staphylococcus spp.)が黄色ブドウ球菌(S. aureus)である、請求項12記載の方法。
【請求項16】
対象における感染を治療する方法であって、
ブドウ球菌属(Staphylococcus spp.)に感染している、或いは感染のおそれがある対象に、組成物の有効量を投与する工程を含んでなるとともに、
前記組成物が、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動により決定される分子量が、88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDa、又はこれらの組み合わせである、2つの単離ポリペプチドに特異的に結合する抗体を含んでなり、
前記ポリペプチドが、鉄キレート剤を含んでなる培地で培養された黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)からは単離可能であるが、鉄キレート剤を含まない培地で生育させた場合には単離可能でない、方法。
【請求項17】
前記対象が哺乳類である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記哺乳類がヒトである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記ブドウ球菌属(Staphylococcus spp.)が黄色ブドウ球菌(S. aureus)である、請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記抗体がポリクローナル抗体である、請求項16記載の方法。
【請求項21】
対象における症状を治療する方法であって、
ブドウ球菌属(Staphylococcus spp.)に感染している対象に、組成物の有効量を投与する工程を含んでなるとともに、
前記組成物が、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動により決定される分子量が、88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDa、又はこれらの組み合わせである、2つの単離ポリペプチドに特異的に結合する抗体を含んでなり、
前記ポリペプチドが、鉄キレート剤を含んでなる培地で培養された黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)からは単離可能であるが、鉄キレート剤を含まない培地で生育させた場合には単離可能でない、方法。
【請求項22】
前記対象が哺乳類である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記哺乳類がヒトである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記ブドウ球菌属(Staphylococcus spp.)が黄色ブドウ球菌(S. aureus)である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
前記抗体がポリクローナル抗体である、請求項21記載の方法。
【請求項26】
対象におけるコロニー形成を低減する方法であって、
ブドウ球菌属(Staphylococcus spp.)がコロニー形成している対象に、組成物の有効量を投与する工程を含んでなるとともに、
前記組成物が、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動により決定される分子量が、88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDa、又はこれらの組み合わせである、2つの単離ポリペプチドを含んでなり、
前記ポリペプチドが、鉄キレート剤を含んでなる培地で培養された黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)からは単離可能であるが、鉄キレート剤を含まない培地で生育させた場合には単離可能でなく、且つ、
前記組成物が、黄色ブドウ球菌(S. aureus)ATCC株19636への暴露(challenge)から動物を防護する、方法。
【請求項27】
対象におけるコロニー形成を低減する方法であって、
ブドウ球菌属(Staphylococcus spp.)がコロニー形成している対象に、組成物の有効量を投与する工程を含んでなるとともに、
前記組成物が、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動により決定される分子量が、88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDa、又はこれらの組み合わせである、2つの単離ポリペプチドに特異的に結合する抗体を含んでなり、
前記ポリペプチドが、鉄キレート剤を含んでなる培地で培養された黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)からは単離可能であるが、鉄キレート剤を含まない培地で生育させた場合には単離可能でない、方法。
【請求項28】
ポリペプチドに特異的に結合する抗体を検出するキットであって、
ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動により決定される分子量が、88kDa、55kDa、38kDa、37kDa、36kDa、35kDa、33kDa、又はこれらの組み合わせである単離ポリペプチドであって、鉄キレート剤を含んでなる培地で培養された黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)からは単離可能であるが、鉄キレート剤を含まない培地で生育させた場合には単離可能でないポリペプチドと、
前記ポリペプチドに特異的に結合する抗体を検出する試薬とを、
個別の容器内に含んでなる、キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−53155(P2013−53155A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−266189(P2012−266189)
【出願日】平成24年12月5日(2012.12.5)
【分割の表示】特願2007−555321(P2007−555321)の分割
【原出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(507246198)エピトピックス,リミティド ライアビリティ カンパニー (5)
【Fターム(参考)】