説明

黒液濃縮方法および黒液濃縮助剤

【課題】黒液の濃縮工程あるいはその手前の水系に特定の界面活性剤を含有する黒液濃縮助剤を添加し濃縮黒液を減粘することで、濃縮効率の向上、高濃度化、さらには無機分などの析出が抑制され伝熱面の伝熱効率を維持することできる黒液濃縮方法および該黒液濃縮方法に使用する黒液濃縮助剤を提供。
【解決手段】クラフトパルプ製造工程のアルカリ回収工程における黒液濃縮方法であって、非イオン性界面活性剤及び特定の硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤を含有する黒液濃縮助剤を、黒液濃縮工程の回収黒液に、該回収黒液中の固形分に対する前記界面活性剤量として0.02〜5質量%添加することを特徴とする黒液濃縮方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラフトパルプ製造工程の黒液濃縮工程における黒液濃縮方法及び該黒液濃縮方法に使用する黒液濃縮助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
クラフトパルプの製造では、一般に、木材チップを硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムを含む強アルカリ性の水溶液と混合して、高温高圧下で蒸解することによりクラフトパルプスラリーを得る。このクラフトパルプスラリー中には、リグニン類や樹脂酸などを含む黒液が含まれる。該スラリーはつづいてスクリーンにより、黒液とパルプに分離され、パルプは洗浄工程に、黒液は濃縮工程へと送られる。分離されたパルプは、蒸解後の洗浄工程である向流多段ウォッシャーあるいはディフューザーウォッシャーなどによってさらに洗浄され、さらに漂白工程に送られる。この蒸解後の洗浄工程からも黒液を含む排液が発生する。さらに漂白工程では酸素又はオゾンによる漂白処理や二酸化塩素などによる漂白が行われるが、この漂白工程中の洗浄工程からも黒液を含む洗浄排液が発生する。
【0003】
前記各工程から発生する黒液は回収され、黒液濃縮工程へと送られる。黒液濃縮工程では一般に、前記黒液が混合され回収黒液としてエバポレーターに送られ、約60〜70重量%まで濃縮される。クラフトパルプ製造工場では、濃縮黒液の燃焼により得られる熱エネルギーは、電力に変換され、全紙パルプ製造工場の必要エネルギーの約30%を賄うものといわれる。したがって黒液燃焼発熱量を向上させることは、回収ボイラーで使用する重油使用量の節減になり、回収熱量の向上がわずかであっても、世界的な課題となっているCO排出抑制への貢献に繋がる重要な課題である。
【0004】
これまでに、黒液の燃焼発熱量の改善については、いくつかの提案がなされている。例えば、蒸解工程後の水系媒体中に界面活性剤を使用することで、パルプからの有機分を効果的に剥がし出し、黒液の濃度を高めることにより燃焼カロリーを向上しようとする技術が開示されている(特許文献1)。また、黒液中にはチップを蒸解するために添加する無機分や天然由来の多価金属が含まれており、濃縮する際にこれらが濃縮器の伝熱面に析出して付着し伝熱効率が低下する問題があるが、これらのスケール類をキレート剤で除去し、伝熱効率を維持するという提案がされている(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−197293号公報
【特許文献2】特開平7−119064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明においては、黒液の濃縮工程あるいはその手前の水系に特定の界面活性剤を含有する黒液濃縮助剤を添加し濃縮黒液を減粘することで、濃縮効率の向上、高濃度化、さらには無機分などの析出が抑制され伝熱面の伝熱効率を維持することできる黒液濃縮方法および該黒液濃縮方法に使用する黒液濃縮助剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、クラフトパルプ製造工程の黒液濃縮工程前の回収黒液に対し特定の黒液濃縮助剤を添加することで、前記課題を解決するものである。
【0008】
すなわち、本発明は、<1>クラフトパルプ製造工程のアルカリ回収工程における黒液濃縮方法であって、非イオン性界面活性剤及び下記一般式(I)の硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤を含有する黒液濃縮助剤を、黒液濃縮工程の回収黒液に、該回収黒液中の固形分に対する前記界面活性剤量として0.02〜5質量%添加することを特徴とする黒液濃縮方法である。
(化1)
O(EO)-SOM (I)
(一般式(I)中、Rは、炭素数8〜22までの分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基、kは平均付加モル数を表し1〜10である。なお、EOはエチレンオキシド単位を示す。Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、アルカノールアンモニウム、アルキルアンモニウムもしくはアルケニルアンモニウムを示す。)
【0009】
また、<2>前記非イオン性界面活性剤が、下記一般式(II)及び一般式(III)で表される化合物の中から選ばれる1種以上である、<1>の黒液濃縮方法である。
(化2)
[(EO)(PO)]H (II)
(一般式(I)中、Rは、炭素数8〜22の分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基、nおよびmは平均付加モル数を表し、mとnの和は1〜100、m/(m+n)は、0.5〜1.0である。なお、EO、POはそれぞれエチレンオキシド、プロピレンオキシド単位を示し、[ ]内のEO、POの付加形態はランダムでもブロックでもよく、付加順序に制限はない。)
(化3)
CO[(EO)(PO)]-OR (III)
(一般式(II)中、Rは、炭素数7〜21の分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基、RはHまたは炭素数1〜8の分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基、pおよびqは平均付加モル数を表し、pとqの和は1〜100、p/(p+q)は、0.5〜1.0である。なお、EO、POはそれぞれエチレンオキシド、プロピレンオキシド単位を示し、[ ]内のEO、POの付加形態はランダムでもブロックでもよく、付加順序に制限はない。)
【0010】
また、<3>本発明は、<2>記載の黒液濃縮方法に使用する黒液濃縮助剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の界面活性剤を黒液濃縮工程で使用することにより、黒液濃縮液の粘度が低減し、その結果、濃縮率向上により固形分濃度を高めることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1.黒液濃縮助剤
本発明の黒液濃縮方法に使用される黒液濃縮助剤は、非イオン性界面活性剤及び特定の硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤を含有する。
非イオン性界面活性剤としては、例えば炭素数6〜22の炭化水素基を有する直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和のアルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが付加された化合物、炭素数6〜22の炭化水素基を有する直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和のアミンにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが付加された化合物、炭素数6〜22の脂肪酸にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが付加された化合物、炭素数2〜10の不飽和の多価アルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが付加された化合物、炭素数2〜10のポリアミンにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが付加された化合物、炭素数2〜10の多価脂肪酸にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが付加された化合物、アルキルフェノールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが付加された化合物、スチレン化フェノールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが付加された化合物、ベンジル化フェノールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが付加された化合物、並びにナフトールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドが付加された化合物があげられる。
【0013】
非イオン性界面活性剤としては、特に(A)下記一般式(II)のエーテル化合物および、(B)下記一般式(III)のエステル化合物が好ましい。
(化4)
[(EO)(PO)]H (II)
(一般式(I)中、Rは、炭素数8〜22の分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基、nおよびmは平均付加モル数を表し、mとnの和は1〜100、m/(m+n)は、0.5〜1.0である。なお、EO、POはそれぞれエチレンオキシド、プロピレンオキシド単位を示し、[ ]内のEO、POの付加形態はランダムでもブロックでもよく、付加順序に制限はない。)
(化5)
CO[(EO)(PO)]-OR (III)
(一般式(III)中、Rは、炭素数7〜21の分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基、RはHまたは炭素数1〜8の分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基、pおよびqは平均付加モル数を表し、pとqの和は1〜100、p/(p+q)は、0.5〜1.0である。なお、EO、POはそれぞれエチレンオキシド、プロピレンオキシド単位を示し、[ ]内のEO、POの付加形態はランダムでもブロックでもよく、付加順序に制限はない。)
【0014】
(A)成分
前記一般式(II)で表わされるエーテル化合物において、Rは炭素数8〜22の分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、炭素数はより好ましくは10〜20、さらに好ましくは13〜18であり、さらには分岐状が好ましい。炭素数が前記範囲内であると黒液の固形分との親和性に優れ、分散安定性が向上し粘度の低減効果がより発揮される。また炭素数が22より大きいものでは、融点が高くなりすぎて低温時のハンドリング性が損なわれる場合もある。一般式(II)のエーテル化合物は例えば、対応する高級アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドを付加反応させることにより製造することができ、高級アルコールとして、例えばラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコールが挙げられ、これらは混合物として使用することもできる。入手できる製品としては、サソール社製 サホール23(Safol23)、エクソン化学社製 エクサール13、新日本理化社製、コノール30Sなどが挙げられる。
【0015】
エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの平均付加モル数であるmとnの和(m+n)は1〜100であり、好ましくは2〜75、さらに好ましくは5〜50である。前記範囲内とすることにより黒液中の固形分を安定に乳化分散し、粘度低減効果がより優れたものとなる。
m/(m+n)は、0.5〜1.0であり、好ましくは0.6〜1.0である。m/(m+n)の値を0.5より大きくすることで、黒液中の固形分を安定に乳化分散し、粘度の低減効果がより優れたものとなる。
【0016】
エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)の付加形態はランダムでもブロックでもよく、ブロック付加の場合、EOとPOの付加順序に制限はない。
【0017】
(B)成分
上記一般式(III)で表わされるエステル化合物において、Rは、炭素数7〜21の分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、その炭素数はより好ましくは9〜19、さらに好ましくは13〜17である。炭素数が前記範囲内であると黒液の固形分との親和性に優れ、分散安定性が向上し粘度の低減効果がより発揮される。また炭素数が22より大きいものでは、融点が高くなりすぎて低温時のハンドリング性が損なわれる場合もある。
【0018】
一般式(III)のエステル化合物は例えば、対応する高級脂肪酸エステルにエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを付加反応させることなどにより製造することができ、高級脂肪酸エステルとしては例えば、ラウリン酸アルキルエステル、ミリスチン酸アルキルエステル、パルミチン酸アルキルエステル、ステアリン酸アルキルエステル、パーム油メチルエステル、大豆油メチルエステルなどが挙げられる。
【0019】
はHまたは炭素数1〜8の分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2-エチルヘキシル等のアルキル基、またはメチル基以外のアルキル基に対応するアルケニル基等を用いることができる。
pとqの和(p+q)は1〜100であり好ましくは2〜75、さらに好ましくは5〜50である。前記範囲内とすることにより黒液中の固形分を安定に乳化分散し、粘度低減効果がより優れたものとなる。
p/(p+q)は、0.5〜1.0であり、好ましくは0.6〜1.0である。p/(p+q)の値を0.5より大きくすることで、黒液成分を安定に乳化分散し、粘度の低減効果がより優れたものとなる。
エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)の付加形態はランダムでもブロックでもよく、ブロック付加の場合、EOとPOの付加順序に制限はない。
【0020】
一般式(III)のエステル化合物として入手できる製品としては、レオファットLA-250、レオファットLA-110M-95、レオファットOC-0503Mなどが挙げられる。
【0021】
(C)成分
非イオン性界面活性剤以外では、陰イオン性界面活性剤である(C)下記一般式(I)の硫酸エステル化合物を使用することができる。
(化6)
O(EO)-SOM (I)
(Rは、炭素数8〜22までの分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基、kは平均付加モル数を表し1〜10である。なお、EOはエチレンオキシド単位を示す。Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、アルカノールアンモニウム、アルキルアンモニウムもしくはアルケニルアンモニウムを示す。)
【0022】
上記一般式(I)で表される硫酸エステル化合物において、Rは、炭素数8〜22までの分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基であることが好ましい。炭素数が上記範囲内であることにより、黒液中の固形分の乳化分散性がより良好となり、より粘度の低減効果に優れたものとなる。また、エチレンオキシドの平均付加モル数kは1〜10であることが好ましく、この範囲とすることで塩濃度の高い黒液中で塩析することなく、より優れた粘度低減効果を発揮するものとなる。また、付加モル数10以上とした場合にはそれに見合う性能の向上が認められないことがある。
【0023】
Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、アルカノールアンモニウム、アルキルアンモニウムもしくはアルケニルアンモニウムを示すが、アルカノールアンモニウムは総炭素数2〜9のものが好ましく、アルキルアンモニウムもしくはアルケニルアンモニウムは総炭素数1〜22のものが好ましい。前記のうちMとしては、ナトリウム、カリウムがより好ましく、ナトリウムがさらに好ましい。
【0024】
任意成分
本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、他のアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系などの消泡剤、ピッチコントロール剤、多価カルボン酸系キレート剤等のスケールコントロール剤等とともに用いることができる。
【0025】
2.薬剤使用量
黒液濃縮助剤の添加量は、黒液中の固形分に対する本発明に含まれる界面活性剤量基準で0.02〜5質量%であり、好ましくは0.05〜3質量%、さらに好ましくは0.1〜2質量%である。この範囲内であれば、本発明の目的である黒液濃縮向上効果が得られる。また、これ以上添加量を多くしても添加量に見合う効果の向上が認められない場合があり、経済的に不利となる。また添加量が上限以上では発泡のおそれがあり、そのために蒸発効率が低下する場合がある。
【0026】
3.適用する工程、対象
(1)回収黒液
本発明の黒液濃縮方法は、クラフトパルプ製造工程の回収黒液濃縮工程において使用される。本発明の黒液濃縮方法において濃縮される回収黒液は、クラフトパルプ製造工程におけるパルプの蒸解工程、蒸解後の洗浄工程、その後の漂白工程などから排出される排液であり、蒸解工程で使用された苛性ソーダ等からなる無機物と木材チップから除去されたリグニンを主とする有機物の混合液である。クラフトパルプ製造工程から回収される黒液のpHや固形分濃度は特に限定されるものではないが、通常、pHは10以上、固形分濃度15〜25質量%である。
【0027】
(2)黒液濃縮工程
黒液の濃縮方法は、特に限定されるものはないが、通常、多重効用エバポレータが多用されている。多重効用エバポレータは、一般にエバポレータを5〜7基連結させたもので、加熱用蒸気と被濃縮黒液を向流接触させ、減圧下、黒液中の水分除去を行なうことで、濃縮する。多重効用エバポレータでは、回収希黒液を最終的に固形分濃度が約60重量%〜約75重量%のペースト状の粘凋物までに濃縮し、次工程の黒液燃焼工程で燃焼させることで、発電とスチーム発生等のエネルギー供給源となる。エバポレータの形式は特に制限なく、目的に応じて適宜選択可能であるが、一般的には、長管薄膜上昇型エバポレータや、強制循環型エバポレータ、液膜流下型エバポレータ、直接接触式エバポレータなどが使用され、その中でも特に液膜流下型エバポレータが、濃縮効率が高く好ましい。
【0028】
(3)黒液濃縮助剤の添加工程
本発明の黒液濃縮助剤の添加位置は、濃縮工程で処理する回収黒液中に直接添加する必要がある。本薬剤を間接的に黒液中に添加した場合、例えば、蒸解工程や酸素晒工程、二酸化塩素や過酸化水素などによる漂白工程、あるいは各工程間における洗浄工程などへ本薬剤を添加した場合には、酸化分解などにより薬剤が変性したり、薬剤がパルプへ吸着してしまうことにより、十分な量の薬剤を回収黒液中に残存させることができない。そのため間接的に黒液中に薬剤を添加する場合には、十分な量の薬剤を残存させるために、多量の薬剤を添加しなければならず、その場合、経済的に不利となるばかりでなく、各工程で泡立ちなどの問題が発生する恐れがあり、パルプ製造工程の安定操業の点でも好ましくない。
なお、本発明の黒液濃縮助剤は、所定の添加量が、濃縮時に均一に混ざるように使用されれば特にその混合方法に限定はない。
【0029】
(4)その他条件
本発明の黒液濃縮工程のpH条件は特に限定されるものではないが、アルカリ条件であることが好ましい。特に陰イオン界面活性剤を添加する場合にはpH7〜13が好ましく、より好ましくは8〜13である。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、配合組成の単位は、質量%(合計100質量%)である。
【0031】
(1)使用試薬
(i)回収黒液試料
クラフトパルプ製造工場の針葉樹クラフトパルプの蒸解工程から分離された黒液(黒液固形分20質量%)を使用した。なお、黒液の固形分は、赤外線水分計FD−600(ケット化学製)を用いて試料3g、設定温度105℃、乾燥時間20分の測定条件において測定した。
【0032】
(ii)黒液濃縮助剤およびその比較試料
回収黒液に各種薬剤を所定量添加、均一に混合し、下記の各種評価を行った。評価結果を表2、3に示す。表2、3中の各薬剤の添加量は回収黒液固形分に対する値(質量%)として表示した。表2には一般式(II)のエーテル化合物を使用した結果を、表3には一般式(I)の硫酸エステル化合物(いずれもナトリウム塩)、一般式(III)のエステル化合物を使用した結果及び、比較実験の結果を示す。
【0033】
(2)評価方法
(i)黒液の濃縮性:所定濃度における粘度の比較
黒液の濃縮性の指標として、所定の固形分濃度(64.5質量%)における粘度の比較を行った。一定の固形分濃度における粘度が低くいほど、濃縮時における流動性が高いものとなり、結果としてさらなる濃縮による高濃度化が容易となる。本願での実験操作は以下のように行った。
(a)針葉樹クラフトパルプの漂白ラインにおける蒸解工程で分離された黒液(固形分濃度20質量%)を、赤外線水分計FD−600を使用して、温度105℃で水分を蒸発させて濃縮し、固形分が60質量%と、69質量%の2点の固形分濃度の濃縮黒液試料を得た。
(b)次いで濃縮黒液試料の粘度を、コーンプレート型レオメータ(HAAKE社製Rheo Stress Rs−100)で測定した。コーンプレートはC35/4°を用い、試料量は約0.5mLとし、80℃に保温しながら、せん断速度を2分間かけて、0から100sec−1まで徐々に上げ、そのまま1分保持した。この保持している状態での平均粘度を粘度とした。
(c)測定した濃縮度の異なる2種の濃縮黒液の各固形分濃度(a=60質量%、b=69質量%)における粘度Na、Nb(Pa・s)から、64.5%における推定粘度Ncを下記式により算出した。

Nc= Na + (Nb−Na)×[(64.5−a)/(b−a)]

【0034】
(ii)蒸留品の濃度
薬剤が濃縮速度に及ぼす影響を把握するため、薄膜蒸発装置(RW20:ライボルト社製)を使用し、一定の速度で黒液を滴下し、回収した濃縮物の濃度を赤外線水分計FD−600(ケット化学製)を用いて測定した。薬剤無添加の場合(ブランク)より濃度が高くなれば、より濃縮速度が大きいことを意味し、伝熱効率が高まったことが推定される。濃縮条件は以下のとおりである。
(測定条件)
薬剤の添加量:対固形分1質量%、黒液の滴下速度:4ml/分、滴下黒液の温度:70℃、濃縮温度:110℃、圧力:常圧、凝縮冷却水:10℃、ロータ回転数:200rpm

【0035】
(iii)析出物の観察
黒液に薬剤を対固形分1質量%の量添加した際の外観を観察した。
(試料の処理条件)
200mlのビーカーに黒液を100g取り、薬剤を有効分換算で対固形分1質量%添加した後、常温下、スターラーチップ(6mmΦ×30mm)を用いで10分間攪拌した。その後、前記薄膜蒸発装置を使用して濃縮を行い、採取した濃縮品の外観を観察した。
【0036】
【表1】

【0037】
(iv)泡立ち性
100mlのエプトン管に濃縮前の回収黒液に所定量の薬剤を添加した混合液10ml入れ、腕を90°に曲げてから180°まで伸ばして振とうした。これを10回繰り返し、振とう後30秒静置後の泡高さを観察した。測定温度は70℃で行った。

判定基準(泡高)
0以上2mm未満:◎
2以上5mm未満:○
5以上10mm未満:△
10mm以上:×

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフトパルプ製造工程のアルカリ回収工程における黒液濃縮方法であって、非イオン性界面活性剤及び下記一般式(I)の硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤を含有する黒液濃縮助剤を、黒液濃縮工程の回収黒液に、該回収黒液中の固形分に対する前記界面活性剤量として0.02〜5質量%添加することを特徴とする黒液濃縮方法。
(化1)
O(EO)-SOM (I)
(一般式(I)中、Rは、炭素数8〜22までの分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基、kは平均付加モル数を表し1〜10である。なお、EOはエチレンオキシド単位を示す。Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、アルカノールアンモニウム、アルキルアンモニウムもしくはアルケニルアンモニウムを示す。)
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤が、下記一般式(II)及び一般式(III)で表される化合物の中から選ばれる1種以上である、請求項1記載の黒液濃縮方法。
(化2)
[(EO)(PO)]H (II)
(一般式(II)中、Rは、炭素数8〜22の分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基、nおよびmは平均付加モル数を表し、mとnの和は1〜100、m/(m+n)は、0.5〜1.0である。なお、EO、POはそれぞれエチレンオキシド、プロピレンオキシド単位を示し、[ ]内のEO、POの付加形態はランダムでもブロックでもよく、付加順序に制限はない。)
(化3)
CO[(EO)(PO)]-OR (III)
(一般式(III)中、Rは、炭素数7〜21の分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基、RはHまたは炭素数1〜8の分岐状または直鎖状のアルキル基又はアルケニル基、pおよびqは平均付加モル数を表し、pとqの和は1〜100、p/(p+q)は、0.5〜1.0である。なお、EO、POはそれぞれエチレンオキシド、プロピレンオキシド単位を示し、[ ]内のEO、POの付加形態はランダムでもブロックでもよく、付加順序に制限はない。)
【請求項3】
請求項2記載の黒液濃縮方法に使用する黒液濃縮助剤。