説明

黒色腫の治療

免疫調節化合物を投与することにより、被験者において、黒色腫を治療、予防、阻害、又は低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色腫(melanoma:メラノーマ)の治療の分野に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2006年4月20日に出願された米国特許仮出願第60/793,243号の利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
黒色腫はメラニン細胞の悪性腫瘍である。主に皮膚腫瘍であるが、それほど頻繁ではないものの、目のメラニン細胞にも観察される(ブドウ膜黒色腫)。皮膚癌の比較的珍しい形態の1つを表すといっても、皮膚癌に関連した死の大多数の根底には黒色腫がある。長年の集中的な研究室及び臨床での研究にも関わらず、唯一の現行の有効な治療法は、厚みが1mm超に達する前の原発性腫瘍の外科的切除である。
【0004】
皮膚の黒色腫は、毎年世界中で160000件の新規症例があり、白人での頻度がより高い。日のよく当たる気候に住む白人集団で特に一般的である。WHOの報告によれば、悪性黒色腫に起因する約48000件の死亡が一年に記録されている。
【0005】
初期は、無害なあざ(mole)と同一に見えるか、又は全く色がない可能性があるため、黒色腫の診断には経験が必要となる。色又は形状が異常なあざは、悪性黒色腫又は前癌病変が疑われる。
【0006】
現行の治療としては、補助治療;化学療法及び/又は免疫療法、及び/又は放射線療法を伴う、腫瘍の外科的切除が挙げられる。
【0007】
概して、個体が黒色腫を発症するリスクは、2つの群の因子:内因子及び環境因子によって決まる。「内」因子は、概して個体の家族歴及び継承された遺伝子型である一方、最も関連のある環境因子は日光曝露である。
【0008】
疫学調査から、紫外線(UVA及びUVB)への曝露が、黒色腫発症の主要な誘因の1つであることが示唆される。紫外線は細胞のDNAに損傷を引き起こし、これが修復されない場合には、細胞の遺伝子内に変異が生み出されるおそれがある。細胞が分裂する際、これらの変異は、新世代の細胞に伝播される。変異が腫瘍遺伝子又は腫瘍抑制遺伝子で起こる場合は、変異を有する細胞における有糸分裂の速度が制御できなくなり、腫瘍の形成につながるおそれがある。時折の極端な日光曝露(「日焼け」を生じる)は、必然的に黒色腫に結びつく。他の因子は、腫瘍抑制遺伝子内の変異又は腫瘍抑制遺伝子の全損である。(深く浸透するUVA線を用いる)サンベッドの使用は、黒色腫を含む皮膚癌の発症に結びついている。
【0009】
リスクを判断する際に考えられる重要な要素としては、日光曝露の強度及び継続期間、日光曝露が起こる年齢、並びに皮膚着色の程度が挙げられる。小児期の曝露は、成人期の曝露よりも重大なリスク因子である。このことはオーストラリアにおける移住者調査で観察され、オーストラリアに成人として移住する場合、人々は出生国のリスクプロファイルを保持する傾向がある。(とりわけ人生の最初の20年に)水疱を形成するか又は皮膚が剥脱するほどに日焼けした個体は、黒色腫に関するリスクが有意に大きい。
【0010】
金髪及び赤毛の人々、複数の異型母斑又は異形成母斑を有する者、及び巨大な先天性の色素細胞性母斑を有して産まれた者は、リスクが増大している。
【0011】
CDKN2A、CDK4、及び幾つかの他の遺伝子における変異が、黒色腫傾向の家系で見出されているため、黒色腫の家族歴は人間のリスクを大きく増大させる。或る黒色腫の病歴を有する患者は、別の原発性腫瘍を発症するリスクが増大している。
【0012】
黒色腫の発症率は近年増加しているが、行動、環境、又は早期発見における変化がどの程度関与するかは明確ではない。
【0013】
家族性黒色腫は遺伝的に異質であり、家族性黒色腫に関する遺伝子座が染色体腕1p、9p、及び12q上に同定されている。黒色腫の発病には、複数の遺伝的事象が関連している。多発性腫瘍抑制因子1(CDKN2A/MTS1)遺伝子は、ヒト染色体9のp21領域に局在化している、サイクリン依存性タンパク質キナーゼ(CDK)の低分子量タンパク質阻害剤p16INK4aをコードしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
当該技術分野において黒色腫を治療、予防、阻害、又は低減する治療方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、被験者において、黒色腫若しくはその転移を治療、予防、阻害、若しくは低減する治療方法、又は黒色腫細胞の増殖若しくはその転移を治療、予防、阻害、若しくは低減する治療方法であって、被験者において、黒色腫若しくはその転移を治療、予防、阻害、若しくは低減するか、又は被験者において、黒色腫細胞の増殖若しくはその転移を治療、予防、阻害、若しくは低減するために、被験者に、黒色腫治療に有効な量の式A:
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、nは1又は2であり、Rは水素、アシル、アルキル、又はペプチド断片であり、且つXは芳香族若しくは複素環アミノ酸又はそれらの誘導体である)
の免疫調節剤化合物を投与することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
一実施形態によれば、本発明は、哺乳類の被験者、好ましくはヒト患者に、免疫調節剤化合物を投与することによって、黒色腫を治療、予防、阻害、又は低減する治療方法に関する。
【0019】
一実施形態において、疾患は黒色腫又はその転移である。本発明を利用して、被験者において、黒色腫細胞の増殖又はその転移を治療、予防、阻害、又は低減することができる。好ましくは、原発性黒色腫は、本発明の化合物による治療前、治療中又は治療後に、外科手術によって切除される。
【0020】
本発明による免疫調節剤化合物は、式A:
【0021】
【化2】

【0022】
の免疫調節剤を含む。
【0023】
式A中、nは1又は2であり、Rは水素、アシル、アルキル、又はペプチド断片であり、且つXは芳香族若しくは複素環アミノ酸又はそれらの誘導体である。好ましくは、Xは、L−トリプトファン又はD−トリプトファン、最も好ましくはL−トリプトファンである。
【0024】
「X」で表される芳香族又は複素環アミノ酸の適切な誘導体は、アミド、モノ又はジ(C1〜C6)アルキル置換アミド、アリールアミド、及び(C1〜C6)アルキル又はアリールエステルである。「R」で表される適切なアシル又はアルキル部分は、炭素数1〜約6の分枝又は非分枝アルキル基、炭素数2〜約10のアシル基、並びにカルボベンジルオキシ及びt−ブチルオキシカルボニル等の保護基である。好ましくは、式Aに示すCH基の炭素は、nが2の場合、Xの立体配置とは異なる立体配置を有する。
【0025】
好ましい実施形態は、γ−D−グルタミル−L−トリプトファン、γ−L−グルタミル−L−トリプトファン、γ−L−グルタミル−Nin−ホルミル−L−トリプトファン、N−メチル−γ−L−グルタミル−L−トリプトファン、N−アセチル−γ−L−グルタミル−L−トリプトファン、γ−L−グルタミル−D−トリプトファン、β−L−アスパルチル−L−トリプトファン、及びβ−D−アスパルチル−L−トリプトファン等の化合物を利用する。特に好ましい実施形態は、SCV−07と称されることもある、γ−D−グルタミル−L−トリプトファンを利用する。米国特許第5,916,878号明細書(参照して本明細書中の一部とする)には、これらの化合物、これらの化合物の調製方法、これらの化合物の医薬的に許容可能な塩、及びそれらの医薬製剤が開示されている。
【0026】
SCV−07(γ−D−グルタミル−L−トリプトファン)は、γ−グルタミル又はβ−アスパルチル部分を保有する一群の免疫調節薬の一成員であり、ロシア人科学者によって発見され、米国ではSciClone Pharmaceuticals, Incによって幾つかの適応症での効能が調べられている。SCV−07は、in vivo及びin vitroで多くの免疫調節活性を保有する。SCV−07は、Con−A誘発性の胸腺細胞及びリンパ球の増殖を増大し、脾臓リンパ球によるCon−A誘発性のインターロイキン−2(IL−2)産生及びIL−2受容体発現を増大し、骨髄細胞上のThy−1.2発現を刺激する。in vivoで、SCV−07は、5−FUで免疫抑制した動物に対して、また、ヒツジ赤血球による免疫モデルにおいて強い免疫賦活効果を有する。
【0027】
式Aの化合物は、任意の有効投与量、例えば、約0.001mg〜1000mgの範囲、好ましくは約0.1mg〜100mg、最も好ましくは約10mgの投与量で投与され得る。投与量は、1週間に1回以上、例えば毎日投与してもよく、投与量は、1日に1回以上投与してもよい。経口、経鼻、経皮、舌下、注射、断続注入、連続注入等を含む任意の好適な方法で投与することができる。投与量は、筋肉内注射で投与してもよいが、他の注射及び注入形態を利用してもよく、経口吸入若しくは経鼻吸入又は経口摂取等、他の投与形態を用いてもよい。エアロゾル、溶液、懸濁液、分散液、錠剤、カプセル、シロップ等が利用され得る。
【0028】
投与量は、1キログラム当たりのミリグラムで測定することも可能であり、投与量は、約0.00001mg/kg〜100mg/kgの範囲、より好ましくは約0.01mg/kg〜10mg/kgの範囲内であり得る。
【0029】
SCV−07と実質的に同様の生物活性を保有する、置換部、欠失部、伸長部、代替部、又はそうでなければ修飾部を有する生物活性アナログとしては、例えば、SCV−07と実質的に同一の様式、実質的に同一の活性で機能するような、SVC−07との十分な相同性を有するSCV−07由来のペプチドが挙げられる。
【0030】
一実施形態によれば、式Aの化合物は、治療又は予防期間中、有効量の式Aの化合物が実質的に継続して被験者の循環系に維持されるように、被験者に投与され得る。本発明によれば、はるかに長い治療期間が考えられるが、本発明の実施形態は、少なくとも約6時間、10時間、12時間以上の治療期間中、有効量の式Aの化合物を実質的に継続して患者の循環系に維持することを含む。他の実施形態において、治療期間は、少なくとも約1日間、さらには複数日間、例えば1週間以上である。しかしながら、上記で規定したような、有効量の式Aの化合物が、実質的に継続して被験者の循環系に維持される治療は、同様又は異なる継続期間の非治療期間で分離され得ることが考えられる。
【0031】
一実施形態によれば、式Aの化合物は、治療期間中、有効量の式Aの化合物が実質的に継続して被験者の循環系に維持されるように、例えば、静脈内注入によって被験者に継続して注入される。注入は、ミニポンプ等の任意の好適な手段によって実行され得る。代替的には、式Aの化合物の注射レジメンを、実質的に継続して有効量の式Aの化合物を被験者の循環系に維持するように維持することができる。好適な注射レジメンとしては、治療期間中、有効量の免疫調節剤化合物ペプチドが実質的に継続して被験者の循環系に維持されるような、例えば、1時間、2時間、4時間、6時間毎の注射が挙げられ得る。
【0032】
式Aの化合物の連続注入中、投与は、実質的に長めの継続期間になると考えられるが、一実施形態によれば、式Aの化合物の連続注入は、少なくとも約1時間の治療期間である。より好ましくは、連続注入は、少なくとも約6、8、10、12時間以上の期間等、長期間実行される。他の実施形態において、連続注入は、少なくとも約1日間、さらには、1週間以上等、複数日間である。
【0033】
幾つかの実施形態において、式Aの化合物は、注射用水、生理食塩水等、医薬的に許容可能な液体キャリア中に、約0.001μg/ml〜1000μg/ml、より好ましくは約0.1μg/ml〜100μg/mlの範囲内の濃度で存在する。
【0034】
有効量の式Aの化合物は、日常的な用量−滴定実験によって求めることができる。
【0035】
式Aの化合物は、他の薬剤と一緒に投与することもできる。例えば、癌の治療では、かかる薬剤として、化学療法剤及び/又は放射線が挙げられる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
序論
SCV−07(γ−D−グルタミル−L−トリプトファン)は、T細胞分化及び機能、in vivoでの腫瘍増殖の制御に必要な生物過程を増大させることによって免疫調節活性を示している合成ジペプチドである。
【0037】
この10年間での著しい進歩の1つは、TH(CD4+ T細胞)1型(TH1)から2型(TH2)表現型への免疫応答の極性化が、癌に対する細胞免疫の減少に関与すること、並びにTH1細胞及びTH2細胞の増殖を調節することによって、サイトカインが腫瘍の発症において中心的役割を果たすことである。
【0038】
SCV−07に関する先行研究により、この免疫調節化合物が、TH1様免疫応答へのTヘルパー細胞の移行を刺激すること、並びに胸腺細胞及び脾臓細胞の両方によるIFN−γ産生と血清中のその循環レベルとがSCV−07処置によって増大することが示される。
【0039】
黒色腫は、様々なタイプの免疫療法が適用されている、免疫原性腫瘍の基本型である。本試験において、本発明者らは、マウスB16黒色腫モデルを使用して、SCV−07のin vitro及びin vivoでの生物活性を調査した。
【0040】
方法
1×106個のB16黒色腫細胞を、C57/BI6同種マウスの後肢に皮下注射することによって腫瘍を誘発した。マウスを10匹から成る5つの群にランダム化し、0.001mg/kg、0.01mg/kg、又は0.10mg/kg用量のSCV−07(3日間連続して腹腔内に毎日投与される)で腫瘍移植後3日目から2週間処置した。対照群を、生理食塩水又はダカルバジン(DTIC)で処置した(50mg/kg用量、腹腔内、3日間)。腫瘍増殖をキャリパによって3日毎に評価し、腫瘍重量を死亡時に測定した。
【0041】
in vitroでの細胞感度試験をB16細胞株に関して実施した。サブコンフルエントな黒色腫細胞を回収し、完全培地中で懸濁し、24ウェルプレートに播種した(最終容量2ml/ウェル中、105細胞)。3連のウェルで24時間、48時間又は72時間の培養の間、0.1μg/ml〜100μg/mlの範囲の段階的濃度のSCV−07で細胞を処理した。細胞増殖及び生存度を、トリパンブルー色素排除法により、血球計を用いて細胞を手動で計数することによって求めた。
【0042】
アポトーシスを、DNAフローサイトメトリー分析によって評価した。各濃度のSCV−07で、接着細胞をトリプシン処理でプレートから剥離し、浮遊細胞を集め、50%アセトン:メタノール(1:4、PBS中)で固定した。細胞を、50μg/mlのヨウ化プロピジウム(PI)及び100KU/mlのRNaseを含有するPBS中で懸濁し(1×106/ml)、暗所、室温で30分間インキュベートした。FACScanフローサイトメータ(Becton & Dickinson、カリフォルニア州サンノゼ)を使用してリニアスケールで測定されるPI蛍光によって、一細胞当たりのDNA含量を評価した。アポトーシス細胞は、正常二倍体細胞のG0/G1集団の下で、赤色蛍光チャネルにおいて染色の消失を示し、アポトーシス事象に伴うDNA断片化に起因する幅広い低二倍体ピークで表される。これは、二倍体DNA含量を有する細胞の狭いピークとは容易に区別可能である。したがって、前G1ピークを統合することによって、アポトーシス細胞の画分を算出した。
【0043】
結果
in vivo
マウスにB16黒色腫細胞を注射し、それぞれ10匹のマウスから成る5つの群に分けた。対照マウスに、生理食塩水又はダカルバジン(DTIC)を注射した。異なる用量のSCV−07の効果を、腫瘍増殖率及び生存時間に関して調べた。
【0044】
結果から、表Aに示す通り、SCV−07が用量に依存した様式で腫瘍増殖を阻害したことが示される。24日後、腫瘍増殖の阻害は、それぞれ対照に対して、0.001mg/kg、0.01mg/kg、及び0.1mg/kgの処置で6%、22.6%、及び42.7%であった(DTIC処置は、19.0%の阻害をもたらした)。
【0045】
【表1】

【0046】
平均腫瘍重量は、低用量では20%、DTICでは15%少なかったのに対し、最高用量のSCV−07で処置した動物では35%少なかった。
【0047】
異なる処置群のマウスの生存時間を、腫瘍注射後最大30日監視した。26日後、最高用量のSCV−07で処置した動物のうち21%は、腫瘍を有するものの、好状態で生存していた。低用量又はDTICで処置した群には、生存している動物は全くいなかった。
【0048】
in vitro
SCV−07の抗増殖活性を、培養24時間及び48時間後に直接細胞を計数することによってB16黒色腫増殖に関して評価した。代表的な実験の結果から、SCV−07がB16の細胞増殖に対して用量依存性の阻害効果を誘発したことが示される。低濃度では、SCVの効果は、実質的に細胞増殖抑制性であった一方、高濃度(100μg/ml)では、SCV−07は、生細胞数の劇的な減少を伴う毒性効果を示した。しかしながら、ヨウ化プロピジウムによるフローサイトメトリー分析からは、アポトーシス細胞死の割合に対するSCV−07の有意な効果を何も立証することができなかった。
【0049】
結論
結果から、in vitro及びin vivo両方での黒色腫細胞の増殖阻害が示され、SCV−07治療は、宿主の抗腫瘍応答を調節し、腫瘍細胞を直接死滅させる結果として、有望な治療戦略になり得ることが示される。
【0050】
(実施例2)
マウスB16黒色腫モデルにおけるSCV−07の抗腫瘍効果
略語
DTIC ダカルバジン
F 雌
g グラム
IR 阻害率
kg キログラム
L 長径
M 雄
mL ミリリットル
SD 標準偏差
W 短径
【0051】
概要
マウスB16黒色腫モデルにおけるSCV−07の抗腫瘍効果を、本試験で評価した。全部で60匹のC57/BL6マウス(雄30匹及び雌30匹)の皮下に、マウスB16黒色腫細胞を移植した後、14日間連続して処置した。5つの群のC57/BL6マウスにそれぞれ、0mg/kg/日(第1群:ビヒクル対照群)、0.01mg/kg/日(第3群)、0.1mg/kg/日(第4群)、1.0mg/kg/日(第5群)、及び5.0mg/kg/日(第6群)の用量で、14日間連続して(1日目〜14日目)皮下注射によりSCV−07を投与した。第2群(陽性対照群)には、1日目から14日目までダカルバジン(DTIC)(50mg/kg/日)を皮下投与した。17日目、安楽死後に腫瘍重量を計量した。
【0052】
試験中、いずれの用量群でも死亡は全く見出されなかった。体重の統計結果からは、SCV−07処置群とビヒクル対照群との間に有意差はなく、SCV−07には体重増加に対する効果がないことが示唆された。しかしながら、結果から、DTIC処置群では、体重増加の有意な阻害(P<0.01)が示された。これはおそらくDTICの毒性の結果である。
【0053】
3日目及び6日目は、全ての群の腫瘍サイズが測定不能であった。9日目のSCV−07処置群の平均腫瘍サイズは、ビヒクル対照群と比較して統計的差異を示さなかった。12日目は、第3群、第5群、及び第6群の平均腫瘍サイズが、第1群よりも有意に小さかった。12日目の第4群の平均腫瘍サイズは第1群よりも小さかったが、結果からは統計的有意性が示されなかった。15日目は、第3群、第4群、第5群、及び第6群の平均腫瘍サイズが第1群よりも小さかったが、第5群及び第6群の結果からしか統計的有意性が示されなかった。15日目の第6群(最高用量レベル)のSCV−07の腫瘍増殖阻害率は30.2%であり、ビヒクル対照群と比較して腫瘍増殖の有意な(p=0.01)阻害が示唆された。第5群(用量レベル1.0mg/kgのSCV−07)も、15日目の処置終了時に有意な腫瘍増殖阻害(16.5%)を示した。腫瘍増殖曲線からも、ビヒクル対照群と比較してSCV−07処置動物における腫瘍増殖が遅いことが示された。陽性対照群の動物は、平均腫瘍サイズが有意に減少した。その腫瘍増殖の阻害率は、9日目、12日目、15日目にそれぞれ96.9%、98.8%、及び95.1%であった。これにより、本試験で使用した腫瘍モデルが妥当であることが証明される。
【0054】
17日目は、全てのSCV−07処置群の平均腫瘍重量がビヒクル対照群よりも少なかった。しかしながら、第3群、第5群、及び第6群の結果からしか統計的有意性が示されなかった。第6群の腫瘍増殖阻害率は、第1群と比較して30.8%(p=0.015)であった。第3群及び第5群もそれぞれ、27.5%及び23.5%という有意な腫瘍増殖阻害を示した。陽性対照群の動物は、平均腫瘍重量が有意に減少した。その腫瘍重量の阻害率は、17日目に85.0%であった。
【0055】
結論として、本試験で使用した腫瘍モデルは妥当である。SCV−07を、1日1回、14日間連続して皮下経路を介して投与することは、マウスB16黒色腫の腫瘍増殖に対して有効である。3つの被験物質処置群の腫瘍重量は、ビヒクル対照群の腫瘍重量と比較して有意に低下した。全てのSCV−07処置群の平均動物体重は、SCV−07で処置した後、ビヒクル対照群の平均動物体重と有意には異ならず、被験物質に毒性がないことを裏付けた。しかしながら、陽性化学療法対照であるDTICによる処置は、ビヒクル対照群と比較して腫瘍サイズ及び腫瘍重量を有意に減少するが、体重増加の有意な阻害ももたらした。本試験のデータから、SCV−07を、用量レベル0.01mg/kg/日、1.0mg/kg/日、5.0mg/kg/日で14日間投与することにより、体重増加に対する毒性効果なしに、B16黒色腫の腫瘍増殖が有意に低減したことが示唆される。
【0056】
序論
本試験を、移植可能なマウスB16黒色腫モデルの使用によって開始し、潜在的な抗腫瘍薬としてのSCV−07の有効性を評価した。
【0057】
目的
本試験の目的は、それぞれ用量レベル0mg/kg、0.01mg/kg、0.1mg/kg、1.0mg/kg、及び5.0mg/kgで、14日間連続して皮下投与した場合の、マウスB16黒色腫モデルにおけるSCV−07の潜在的な抗腫瘍効果を評価することである。
【0058】
材料及び方法
被験物質及び対照物質
被験物質製剤
被験物質SCV−07をスポンサーから入手し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、NaCl:137mM、KCl:2.7mM;K2HPO4:1.4mM;Na2HPO4:10.1mM、pH7.0)に溶解して、試験設計表に示すような、適切な用量レベルを達成した。製剤を氷上に保ち、光から保護し、1週間以内に使用した。この2週間の試験には、2つの新しい調製品が必要であった。
【0059】
陽性対照物質
ダカルバジン(DTIC)を陽性対照物質として使用した。Sigma-Aldrich(コード番号:D2359)から購入し、10mg/バイアルに分注した。使用前、1つのバイアルをPBS中に溶解して、試験設計表に示すような、適切な用量レベルを達成した。製剤を氷上に保ち、光から保護し、1週間以内に使用した。この2週間の試験には、2つの新しい調製品が必要であった。
【0060】
試験系及び畜産
黒色腫細胞
マウスB16黒色腫細胞は、中国医学科学院(Chinese Academy of Medical Sciences)(CAMS;中国北京)の細胞培養センター(Cell Culture Center)から入手した。
【0061】
試験系
30匹の雄及び30匹の雌の健常未処置C57BL/6マウスを、CAMS(中国北京)の実験動物研究所(Institute of Laboratory Animal Science)から譲受した。これらの動物は、試験開始時、6週齢で、且つ18g〜22gの重量であった。
【0062】
畜産
上記動物を、オートクレーブした寝具材としての木材チップと一緒に、オートクレーブした狭い(shoe box)ケージ内に群で収容した。動物室の温度は22℃〜25℃に維持し、相対湿度は40%〜60%に維持した。試験関連の事象によって妨害される場合を除き、12時間明/12時間暗サイクルを維持した。動物に滅菌水及びScience Australia Unites Effortsの齧歯類食(Rodent Diet)を適宜(at libitum)与えた。全ての動物を、腫瘍接種前3日間、順化させた。
【0063】
実験手順
腫瘍細胞調製
無菌の組織培養手順により、(CAMSの細胞培養物センターによって供給された)B16黒色腫細胞のうち1つのバイアルを解凍し、1000rpm、20℃〜25℃で5分間、遠心分離した。細胞ペレットを、標準生理食塩水(NS)0.1mL〜0.5mL中で懸濁し、各マウスの右腋窩に皮下注射した(およそ1×106細胞/マウス)。腫瘍直径がおよそ1cmの場合(ノギスで測定された)、これらの動物をCO2窒息で安楽死させ、腫瘍を切除した。先に説明した通り、腫瘍細胞を標準生理食塩水中で懸濁し、細胞適応サイクルを一回繰り返した。
【0064】
腫瘍細胞接種
0日目、0.1mL容量の標準生理食塩水中の1×106個のB16細胞を、マウスの右腋窩領域に皮下注射した。腫瘍接種日を0日目と定義した。
【0065】
試験設計及び治療レジメン
1日目、平均体重が群間で統計的に有意とならないように、動物をその体重に基づいて異なる群にランダム化した。投薬は1日目に開始した。被験物質を、0.1mL/20g体重の用量(dose volume)で、1日1回、14日間連続して皮下(sc)投与により投与した。ビヒクルも、同一用量で、1日1回、14日間連続してsc投与により投薬した。陽性対照であるDTICを、同一用量で、毎日腹腔内投与により投与した。
【0066】
以下の表に概略を示す通り、各療法群は、異なる処置レジメンを受けた。
【0067】
【表2】

【0068】
抗腫瘍効果の評価
観察期間中、腫瘍サイズ及び体重を、試験全体を通じて3日に1回測定した:キャリパで腫瘍サイズを、実験室天秤で体重を測定した。死亡(mortality)及び瀕死(moribundity)についての観察結果を毎日記録した。動物を、17日目にCO2窒息によって安楽死させた。腫瘍を切除、分離、秤量した。
【0069】
腫瘍体積は、以下の式:
腫瘍体積=長径×短径×短径/2
を使用して算出した。
【0070】
腫瘍体積阻害率(IR)は、式:
IR(TV)=(TVビヒクル−TV薬物処置)/TVビヒクル×100%
に従って算出した。
【0071】
TVは、測定日の腫瘍体積である。
【0072】
被験物質の抗腫瘍効果も、腫瘍重量によって評価した。各マウスの腫瘍重量を、安楽死後に記録し、腫瘍重量の阻害率は、式:
IR(TW)=(腫瘍重量ビヒクル−腫瘍重量薬物処置)/腫瘍重量ビヒクル×100%
に従って算出した。
【0073】
平均及び標準偏差をExcelを使用して算出し、スチューデントのt検定を統計的計算に使用した。
【0074】
統計分析
各群(各用量のSCV−07、ビヒクル対照、及びDTIC対照)に対し、スチューデントのt検定を使用して、腫瘍体積、腫瘍重量、及び体重に関する群間比較を実施した。0.05未満のP値を、統計的に有意であると見なした。
【0075】
記録保管及び記録保管所
試験で生成した全てのデータを集め、記録した。
保管場所:中国協和医科大学(PUMC)&CAMSの基礎医学研究所(Institute of Basic Medical Sciences)。
【0076】
結果及び考察
死亡
試験中、用量群のいずれにおいても死は全く見出されなかった。
【0077】
腫瘍サイズ
腫瘍サイズの統計結果を表に列記する。図1に、腫瘍増殖曲線を示す。
【0078】
表2〜表6に示す通り、3日目及び6日目は、全ての群の腫瘍サイズが測定不能であった。9日目のSCV−07処置群の平均腫瘍サイズは、ビヒクル対照群と比較して統計的有意性を示さなかった。12日目は、第3群、第5群、及び第6群の平均腫瘍サイズが第1群よりも有意に小さかった。12日目の第4群の平均腫瘍サイズは第1群よりも小さかったが、結果からは統計的有意性が示されなかった。15日目は、第3群、第4群、第5群、及び第6群の平均腫瘍サイズが第1群よりも小さかったが、第5群及び第6群の結果からしか統計的有意性が示されなかった。15日目の第6群(最高用量レベル)のSCV−07の腫瘍増殖阻害率は30.2%であり、ビヒクル対照群と比較して腫瘍増殖の有意な阻害(p=0.01)が示唆された。第5群(用量レベル1.0mg/kgのSCV−07)も、15日目の処置終了時に有意な腫瘍増殖阻害(16.5%)を示した。腫瘍増殖曲線からも、ビヒクル対照群と比較してSCV−07処置動物における腫瘍増殖が遅いことが示された。陽性対照群の動物は、平均腫瘍サイズが有意に減少した。その腫瘍増殖の阻害率は、9日目、12日目、15日目にそれぞれ96.9%、98.8%、及び95.1%であった。これにより、本試験で使用した腫瘍モデルが妥当であることが証明される。
【0079】
図1は、ビヒクル対照群と比較した、SCV−07処置群における試験の経時での腫瘍サイズの成長低下を示す。
【0080】
体重
表8〜表14に、体重の統計結果を列記した。表に示す通り、SCV−07処置群とビヒクル対照群との間に有意差はない。しかしながら、結果から、DTIC処置群では、体重の有意な減少(P<0.01)が示された。これはおそらくDTICの毒性の結果である。
【0081】
腫瘍重量
表7に示す通り、17日目は、全てのSCV−07処置群の平均腫瘍重量がビヒクル対照群よりも少なかった。しかしながら、第3群、第5群、及び第6群の結果からしか統計的有意性が示されなかった。第6群の腫瘍増殖阻害率は、第1群と比較して30.8%(p=0.015)であった。第3群及び第5群もそれぞれ、27.5%及び23.5%という有意な腫瘍増殖阻害を示した。陽性対照群の動物は、85.0%と、平均腫瘍重量が有意に減少した。
【0082】
図2は、試験終了時(17日目)の腫瘍重量の減少を示す。
【0083】
結論
結論として、本試験で使用した腫瘍モデルは妥当である。SCV−07を、1日1回、14日間連続して皮下経路を介して投与することは、マウスB16黒色腫の腫瘍増殖に対して有効である。3つの被験物質処置群の腫瘍重量は、ビヒクル対照群の腫瘍重量と比較して有意に低下した。全てのSCV−07処置群の平均動物体重は、SCV−07で処置した後、ビヒクル対照群の平均動物体重と有意には異ならず、被験物質に毒性がないことを裏付けた。しかしながら、陽性化学療法対照であるDTICによる処置は、ビヒクル対照群と比較して腫瘍サイズ及び腫瘍重量を有意に減少させるが、体重増加の有意な阻害ももたらした。本試験のデータから、SCV−07を、用量レベル0.01mg/kg/日、1.0mg/kg/日、5.0mg/kg/日で14日間投与することにより、体重増加に対する毒性効果なしに、B16黒色腫の腫瘍増殖が有意に低減したことが示唆される。
【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
【表5】

【0087】
【表6】

【0088】
【表7】

【0089】
【表8】

【0090】
【表9】

【0091】
【表10】

【0092】
【表11】

【0093】
【表12】

【0094】
【表13】

【0095】
【表14】

【0096】
【表15】

【0097】
付録(Appendix)
【表16】

【0098】
【表17】

【0099】
【表18】

【0100】
【表19】

【0101】
【表20】

【0102】
【表21】

【0103】
【表22】

【0104】
【表23】

【0105】
【表24】

【0106】
【表25】

【0107】
【表26】

【0108】
【表27】

【0109】
【表28】

【0110】
【表29】

【0111】
【表30】

【0112】
【表31】

【0113】
【表32】

【0114】
【表33】

【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】異なる投与量での一実施形態の一試験における腫瘍増殖を表すグラフである。
【図2】異なる投与量での一実施形態の上記試験における腫瘍重量を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者において、黒色腫若しくはその転移、又は黒色腫細胞の増殖若しくはその転移を治療、予防、阻害、又は低減する治療方法であって、被験者において、黒色腫若しくはその転移を治療、予防、阻害、若しくは低減するか、又は被験者において、黒色腫細胞の増殖若しくはその転移を治療、予防、阻害、若しくは低減するために、該被験者に、有効量の式A:
【化1】

(式中、nは1又は2であり、Rは水素、アシル、アルキル、又はペプチド断片であり、且つXは芳香族若しくは複素環アミノ酸又はそれらの誘導体である)
の免疫調節剤化合物を投与することを含む、治療方法。
【請求項2】
XがL−トリプトファン又はD−トリプトファンである、請求項1に記載の治療方法。
【請求項3】
前記化合物がSCV−07である、請求項1に記載の治療方法。
【請求項4】
前記化合物が、約0.001mg〜1000mgの範囲内の投与量で投与される、請求項1に記載の治療方法。
【請求項5】
前記化合物が、約0.01mg〜100mgの範囲内の投与量で投与される、請求項1に記載の治療方法。
【請求項6】
前記化合物が、約0.00001mg/kg被験者体重〜100mg/kg被験者体重の範囲内の投与量で投与される、請求項1に記載の治療方法。
【請求項7】
前記化合物が、約0.01mg/kg被験者体重〜10mg/kg被験者体重の範囲内の投与量で投与される、請求項1に記載の治療方法。
【請求項8】
前記化合物がSCV−07であり、且つ約0.001mg〜1000mgの範囲内の投与量で投与される、請求項1に記載の治療方法。
【請求項9】
前記化合物がSCV−07であり、且つ約0.00001mg/kg被験者体重〜100mg/kg被験者体重の範囲内の投与量で投与される、請求項1に記載の治療方法。
【請求項10】
前記治療が原発性黒色腫に対するものである、請求項3に記載の治療方法。
【請求項11】
前記化合物が、約0.001mg〜1000mgの範囲内の投与量で投与される、請求項10に記載の治療方法。
【請求項12】
前記化合物が、約0.1mg〜100mgの範囲内の投与量で投与される、請求項10に記載の治療方法。
【請求項13】
前記化合物が、約0.00001mg/kg被験者体重〜100mg/kg被験者体重の範囲内の投与量で投与される、請求項10に記載の治療方法。
【請求項14】
前記化合物が、約0.01mg/kg被験者体重〜10mg/kg被験者体重の範囲内の投与量で投与される、請求項10に記載の治療方法。
【請求項15】
前記治療が黒色腫転移に対するものである、請求項3に記載の治療方法。
【請求項16】
前記化合物が、約0.001mg〜1000mgの範囲内の投与量で投与される、請求項15に記載の治療方法。
【請求項17】
前記化合物が、約0.1mg〜100mgの範囲内の投与量で投与される、請求項15に記載の治療方法。
【請求項18】
前記化合物が、約0.00001mg/kg被験者体重〜100mg/kg被験者体重の範囲内の投与量で投与される、請求項15に記載の治療方法。
【請求項19】
前記化合物が、約0.01mg/kg被験者体重〜10mg/kg被験者体重の範囲内の投与量で投与される、請求項15に記載の治療方法。
【請求項20】
前記投与量が約10mgである、請求項12に記載の治療方法。
【請求項21】
前記投与量が約10mgである、請求項17に記載の治療方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2009−534383(P2009−534383A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506516(P2009−506516)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/009049
【国際公開番号】WO2007/123847
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(593199563)サイクローン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】SciClone Pharmaceuticals,Inc.
【住所又は居所原語表記】950 Tower Lane, Suite 900, Foster City, California 94404, United States of America
【Fターム(参考)】