説明

黒鉛の熱伝導性改善方法

【課題】黒鉛は、良導電体であり且つ熱伝導性にも優れる物質として知られているが、更に熱伝導性を高めた黒鉛、その製造方法および黒鉛の熱伝導性を高める方法を提供する。
【解決手段】炭素の安定同位体純度を高めた黒鉛、炭素の安定同位体純度を高めた炭素化合物を黒鉛の原料として用いることを特徴とする黒鉛の製造方法および黒鉛の炭素の安定同位体純度を高めることにより黒鉛の熱伝導性を高める方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
黒鉛は、良導電体であり且つ熱伝導性にも優れる物質として知られている。本発明は、更に熱伝導性を高めた黒鉛、その製造方法および黒鉛の熱伝導性を高める方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導は、フォノンや自由電子の働きによる。半導体や絶縁体では、フォノンの関与が大きく、一般に熱伝導性は高くない。但し、ダイヤモンドや炭化珪素等、一部の無機物質の中には、非常に高い熱伝導性を持つものがある。一方、金属の様な電気伝導体は、自由電子の関与が大きく、電気伝導性に優れる金属ほど熱伝導性に優れており、その多くは、ダイヤモンドを除く半導体や絶縁体よりも高い熱伝導性を持っている。
【0003】
フォノンが熱伝導性を支配している半導体や絶縁体は、構成原子の同位体純度を高めることによって、フォノンの散乱を抑制し、熱伝導性を改善することができる。例えば、12C99.9%のメタンから合成したダイヤモンドは、天然同位体組成のダイヤモンドの熱伝導率の1.5倍にもなるという報告がある。(非特許文献1)また、炭素及び珪素、又はどちらか一方の同位体純度を高めたものを原料とし合成された炭化珪素の熱伝導性が著しく改善される報告がされている。(特許文献1)
【0004】
しかし、黒鉛のような電気の良導体である物質の熱伝導性を改善する方法についての報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−92263号広報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「Physical Review B」Vol.42,No.2,p.1104〜1111(15,July 1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、良導電体である黒鉛の熱伝導性を更に高めた黒鉛、その製造方法および黒鉛の熱伝導性を高める方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記したような課題を鋭意研究した結果、同位体純度を高めた黒鉛が、天然黒鉛に比べて著しく熱伝導性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。黒鉛のような良導電体において、同位体純度を高めることで熱伝導性が著しく高まることは従来知られておらず驚くべきことである。
【0009】
すなわち本発明は、下記(1)〜(3)である。
(1)炭素の安定同位体純度を高めた黒鉛。
(2)炭素化合物から黒鉛を製造する方法において、炭素の安定同位体純度を高めた炭素化合物を黒鉛の原料として用いることを特徴とする黒鉛の製造方法。
(3)黒鉛の炭素の安定同位体純度を高めることにより黒鉛の熱伝導性を改善する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、同位体純度を高めることにより、天然黒鉛に比べて著しく熱伝導性に優れる黒鉛を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の黒鉛は、炭素の安定同位体純度を高めた黒鉛である。自然界では炭素の同位体は3種類、12C(98.93%)、13C(1.07%)、14C(極微量)が存在するが、本発明の黒鉛は安定同位体である12Cまたは13Cの純度を高めたものである。黒鉛中の12Cまたは13Cの純度は99.5%以上であることが好ましく、99.9%以上であることがより好ましい。
【0012】
次に、炭素の安定同位体純度を高めた黒鉛の製造方法について説明する。本発明の黒鉛の製造方法は、炭素の安定同位体純度を高めた炭素化合物を黒鉛の原料として用いる。炭素化合物中の炭素の安定同位体純度は99.5%以上であることが好ましく、99.9%以上であることがより好ましい。炭素化合物は炭素数1〜3であることが好ましく、同位体分離精製のしやすさから、メタンまたは一酸化炭素がより好ましい。
【0013】
黒鉛の合成方法は特に制限は無く、プラズマやマイクロ波等を利用する方法も挙げられるが、原料を熱分解する方法が容易であり好ましい。熱分解の方法は、一般に知られている方法でよい。例えば、原料ガスを反応器の大きさに応じた適当な流速で導入、400℃〜反応器の耐熱温度以下の温度で加熱し、0.2MPa〜反応器及び装置の耐圧以下の圧力で加圧し、反応させる。反応管内は、反応を促進する触媒、例えば、鉄、コバルト、ニッケル等の金属を含むもの、若しくは、反応に関与しないが表面積の大きな物質、例えば、一般に触媒の担体として用いられるγアルミナ粒等を充填しておく。
【0014】
以上のような製造方法により、炭素の安定同位体純度を高めた黒鉛が得られ、得られた黒鉛は天然黒鉛に比べて著しく熱伝導性に優れた黒鉛となる。
【0015】
以下に、実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらの例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0016】
金属コバルト片30gを充填した反応管(内径14mmのステンレス製の管に内径11mmの石英管を挿入している)に、圧力0.4MPa、設定温度950℃の条件下で、12C100%メタン(東京ガスケミカル株式会社製、同位体純度99.9%以上)を10ml/minで流した。12C100%メタン供給開始から660分後に反応を止めた。12C99.9%以上の黒鉛が3.9g得られた。周期加熱法熱拡散測定装置FTC−1(アルバック理工株式会社製)及び走査型サーマルプローブマイクロイメージSTPM−1000(アルバック理工株式会社製)で熱伝導率を測定したところ、夫々、15.68W/m/K、1.07W/m/Kであった。
【比較例】
【0017】
天然黒鉛BP−1(日本黒鉛工業株式会社製)を、周期加熱法熱拡散測定装置FTC−1(アルバック理工株式会社製)及び走査型サーマルプローブマイクロイメージSTPM−1000(アルバック理工株式会社製)で熱伝導率を測定したところ、夫々、6.53W/m/K、0.65W/m/Kであった。なお、BP−1は天然黒鉛であり、その同位対比率は天然同位対比率(12C(98.93%)、13C(1.07%)、14C(極微量))である。
【産業上の利用可能性】
【0018】
ヒートシンク等、高い熱伝導性を要求される分野。樹脂等へ添加することによって、天然黒鉛を使用した場合に比べ、その材料の熱伝導性を飛躍的に高めることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素の安定同位体純度を高めた黒鉛。
【請求項2】
炭素の安定同位体純度が99.5%以上である請求項1記載の黒鉛
【請求項3】
炭素の安定同位体が12Cまたは13Cである請求項1記載の黒鉛
【請求項4】
炭素化合物から黒鉛を製造する方法において、炭素の安定同位体純度を高めた炭素化合物を黒鉛の原料として用いることを特徴とする黒鉛の製造方法。
【請求項5】
黒鉛の炭素の安定同位体純度を高めることにより黒鉛の熱伝導性を高める方法。
【請求項6】
黒鉛の炭素の安定同位体純度を高める方法が、炭素の安定同位体純度を高めた炭素化合物を黒鉛の原料として用いる方法である請求項5に記載の黒鉛の熱伝導性を高める方法。
【請求項7】
炭素化合物が、炭素数1〜3の炭化水素である請求項6に記載の黒鉛の熱伝導性を高める方法。
【請求項8】
黒鉛を得る方法が、炭素化合物を熱分解する方法である請求項6または7に記載の黒鉛の熱伝導性を高める方法。

【公開番号】特開2011−37651(P2011−37651A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184745(P2009−184745)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】