説明

黒鉛化炉

【課題】横2列に配した炭素質成形体群を電気的に直列につないで加熱処理する方式の黒鉛化炉を、各列の炭素質成形体群の通電条件や軸方向押圧が安定して炭素質成形体が均一に加熱されるようにすることを課題としている。
【解決手段】第2ターミナル電極4,4を炉体の並列配置の2つのチャンバに炉外から個別に臨ませ、その第2ターミナル電極4,4の電気接続を、導体板7a,7a、ピボット軸7cで端部を前記導体板に連結する可動フレーム7b、その可動フレームに支持される上部可撓導体7d及び下部可撓導体7d、それらの可撓導体の両端に設ける上部接点7e及び下部接点7e及び両接点を導体板に押しつける接点押圧ばね7fを備える接続器7を用いて炉外で行なうようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気製鋼用黒鉛電極などの製造工程において、焼成済みの炭素質成形体(被処理材)を黒鉛化するのに用いる黒鉛化炉、特に、直接黒鉛化法(LWG法)で大型の黒鉛電極材などを製造するのに適した黒鉛化炉に関する。
【背景技術】
【0002】
電気製鋼用黒鉛電極は、通常、コークス粉粒とピッチバインダーの混合原料を円柱状に成形し、これを1500℃以下の温度で焼成し、次いで、得られた材料又はこれにピッチを含浸させたものを1000℃以下の温度で再焼成し、その後さらに、以上の工程を経て得られた炭素質成形体を抵抗加熱法で2500〜3000℃の高温に加熱して黒鉛化する方法で製造されている。
【0003】
その黒鉛化が首記の直接黒鉛化法で行なわれる。再焼成済みの炭素質成形体を長尺の黒鉛化炉の内部に直列に配列して挿入し、周辺を保温と酸化防止のためのコークス詰粉で被包充填する。そして、この状態で末端の炭素質成形体に当接したターミナル電極を介して通電し、炭素質成形体を電気抵抗によって発熱させ、3000℃程度まで昇温させて黒鉛化処理する。
【0004】
この直接黒鉛化法では、個々の炭素質成形体の突き合わせ面間に生じる接触抵抗によって、製品の破損、亀裂の原因になる局部的な異常発熱が起こる虞があり、その対策として、直列に配列した炭素質成形体をプッシャーで軸方向に押圧し、炭素質成形体相互の突き合わせ面における接触抵抗の低減と安定化を図ることが行なわれている(下記特許文献1参照)。
【0005】
また、プッシャーによる押圧と個々の炭素質成形体の接着を併用する方法や個々の炭素質成形体の突き合わせ面間や末端の炭素質成形体とそれに当接させる水冷ターミナル電極との間に炭素質成形体よりも電気比抵抗値の高い炭素質導電材を介在させる方法なども開発されている(下記特許文献2,3参照)。
【0006】
さらに、直列配置の炭素質成形体を一群として横2列に配置されたチャンバにその炭素質成形体群をそれぞれ挿入し、2組の炭素質成形体群の他端を互いに電気的に接続し、各組の炭素質成形体群の一端に陰陽のターミナル電極をそれぞれ当接させて通電する、生産性や設備のスペース効率などに優れた黒鉛化炉も開発されている。
【0007】
炭素質成形体群を並列配置にして一括処理するその黒鉛化炉では、各組の炭素質成形体群を電気的に直列につなぐ方法として、炉の奥端にカーボンブロックを配置し、そのカーボンブロックに2組の炭素質成形体群の他端を押し付けて電気導通の中継をカーボンブロックによって行なう方法が通常採られている。
【0008】
このほか、黒鉛化炉などに電力を供給する給電装置が下記特許文献4に開示され、さらに、黒鉛化炉の炉体に関する発明が下記特許文献5などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭63−66766号公報
【特許文献2】特開平5−78111号公報
【特許文献3】特開平9−227232号公報
【特許文献4】特開2006−12457号公報
【特許文献5】米国特許第5299225号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
並列配置の炭素質成形体群には、黒鉛化処理時の熱膨張差や予備焼成で個々の炭素質成形体の寸法誤差などにより、全体の軸方向寸法(長さ)にずれが生じる。
【0011】
各炭素質成形体群のセット時の長さは、炭素質成形体相互の突合せ面などに介在する導電材の軸方向寸法を変えることによって等しくなるように調整することができる。しかしながら、黒鉛化処理時の熱膨張量などが不均一になるため、炭素質成形体群の軸方向寸法のずれは不可避の問題として発生する。
【0012】
プッシャーによる片側からの押圧では、軸方向寸法の吸収能力が制限され、力の伝達ロスも生じやすい。それが原因で2つのチャンバの炭素質成形体群の軸方向寸法にずれが生じたときに軸方向押圧力がばらつくため、炭素質成形体の相互突き合わせ面の面圧が不均一になる。また、長尺炉では特に、力の伝達ロスが大きくなって押圧力が不足しがちとなり、そのために加熱条件が不安定、不均一になって得られる製品の破損、亀裂、変質、粉化などが起こる。
【0013】
この発明は、かかる不具合を回避するために、焼成済み炭素質成形体が直列に配列された炭素質成形体群を並列配置のチャンバに挿入し、それを電気的に直列につないで加熱処理する方式の黒鉛化炉を、炭素質成形体群の熱膨張量の違いなどによる長さ変動の吸収が規制なくなされ、各列の炭素質成形体群の通電条件や軸方向押圧が安定して炭素質成形体が均一に加熱されるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、この発明においては、以下の要素を備える黒鉛化炉にした。
1)互いに区画された並列配置の2つのチャンバを有する軸方向に長い炉体。
2)前記炉体の一端側において炉外から前記2つのチャンバに個別に臨ませる軸方向スライド可能な2個の第1ターミナル電極。
3)各炉体の他端側において炉外から前記2箇所のチャンバに個別に臨ませる軸方向スライド可能な2個の各々が上下面を有する第2ターミナル電極。
4)第1、第2ターミナル電極を個々に軸方向に押圧するプッシャー。
5)前記第1、第2ターミナル電極に働く反力を個々に受ける反力柱。
6)前記2個の第2ターミナル電極を炉外で電気的に導通させる接続器。
ここで言う軸方向とは、炉体の長手方向を指す。
【0015】
また、各チャンバに直列に配列される複数の焼成済み炭素質成形体の相互突き合せ面に前記プッシャーで面圧を加え、この状況で、2個の第1ターミナル電極間に通電して炭素質成形体を電気抵抗で所定温度に加熱するものにした。
【0016】
そしてさらに、前記接続器を、以下の要素を備えるものにした。
i)前記2個の第2ターミナル電極の上面又は下面にそれぞれ連結して自由端側を対向させる水平配置の一対の導体板。
ii)一端が一方の前記導体板に、他端が他方の前記導体板にそれぞれ炉体長手直角方向に長い長孔に通される垂直なピボット軸で回動可能に連結される可動フレーム。
iii)前記可動フレームに支持される対向配置の上部可撓導体及び下部可撓導体。
iv)上部可撓導体の両端の下面及び下部可撓導体の両端の上面にそれぞれ設ける炉体軸方向に長い上部接点及び下部接点。
v)上部可撓導体と下部可撓導体を対向方向に付勢して前記上部接点と下部接点を前記導体板の上下面に押しつける接点押圧ばね。
【0017】
この黒鉛化炉の好ましい構成を以下に列挙する。
(a)前記接続器と同一構成の接続器を前記第2ターミナル電極の上部と下部の双方に有し、前記2個の第2ターミナル電極相互の電気接続が第2ターミナル電極の上部と下部の2箇所でなされるもの。
(b)前記上部可撓導体と下部可撓導体との間に、上下の可撓導体を相反する方向に押し動かして前記上部接点と下部接点を前記導体板から引き離す押圧解除機構を備えたもの。
(c)前記第2ターミナル電極の上面と下面を平坦な面にしてその上面と下面に、前記導体板を面接触させて取付けたもの。
(d)前記上部接点及び下部接点のコンタクト面をR面にしたもの。
(e)前記上部可撓導体、下部可撓導体、上部接点、下部接点をそれぞれ前記炉体の軸方向に複数に分割したもの。
【発明の効果】
【0018】
この発明の黒鉛化炉は、2個の第2ターミナル電極の電気接続を炉外で行なって炭素質成形体群を両側からプッシャーで押圧する。また、2個の第2ターミナル電極を導通させる接続器を上記の構成にすることで、2個の第2ターミナル電極に炉体軸方向への移動の自由度を付与する。
【0019】
横2列に並べた炭素質成形体群の電気接続を、炉内のカーボンブロックによって行なう炉の場合、炭素質成形体群の軸方向押圧を炉の片側からしか行なえず、2箇所のチャンバに挿入された炭素質成形体群に熱膨張差が生じたときに両チャンバ内炭素質成形体の突き合わせ部の面圧がばらつく。
【0020】
その問題に対し、炭素質成形体群の電気接続を炉外で行なう構造にして炭素質成形体群を両側からプッシャーで押圧することで、その不具合を解消して面圧のばらつきを減少させることができる。
【0021】
また、2個の第2ターミナル電極を炉外で電気的に接続する方法として、一般的なフレキシブル導体を用いる図12〜図14の接続構造を検討した。この接続構造は、第2ターミナル電極4の上面と下面にL型導体板21をボルト止めして取付け、2個の第2ターミナル電極のL型導体板21,21間をフレキシブル導体22でつなぐものである。フレキシブル導体22は、ボルトで軸方向に締め付けてL型導体板21に端部を連結する。
【0022】
この図12〜図14の接続構造では、2つのチャンバに挿入された炭素質成形体群の軸方向寸法がずれるとフレキシブル導体22が撓み、それによって第2ターミナル電極4,4の軸方向への相対変位が許容される。
【0023】
ところが、この接続構造は、第2ターミナル電極間に設けるフレキシブル導体22が炉外に設置される設備点検用の歩廊23と干渉し、図示のような導体配置ができないという問題が生じた。
【0024】
また、この接続構造は、2箇所のチャンバに挿入された炭素質成形体群の熱膨張差が大きくなると、フレキシブル導体22に対して引っ張り力が働き、そのためにL型導体板21との間の接触抵抗が変動して電気導通の安定が損なわれる可能性がある。さらに、炉内の温度は3000℃にも達するため、接続部の輻射熱による温度上昇が著しい状況下で引っ張り力を受けることになり、従って、耐久性確保の面でも好ましくない。
【0025】
これに加え、2個の第2ターミナル電極間にフレキシブル導体22の変位吸収能を超える相対移動が生じた場合、フレキシブル導体22の外れや断線が起こる虞もある。
【0026】
この発明の黒鉛化炉に採用した接続器は、これらの問題にも対応したものである。この接続器の導体板は、炉内の炭素質成形体が熱膨張したとき、或いは冷却されて収縮したときに、それぞれの導体板に連結されている第2ターミナル電極と一体になって軸方向に動く。
【0027】
そのときの対の導体板の軸方向移動量が、各列の炭素質成形体群の熱伸縮量の不可避のずれなどによって異なると、接続器の可動フレームがピボット軸を支点にして回動する。
【0028】
上部接点と下部接点は各導体板を挟みつけているが、接点押圧ばねの力で挟持圧を加えているので接続器の可動フレームの回動は支障なくなされ、その回動が進行している間も上部接点と下部接点が安定した力で導体板に押しつけられるため、2個の第2ターミナル電極間の電気導通が安定して維持される。
【0029】
また、2個の第2ターミナル電極の電気接続を上記接続器で行うことで、図12の接続部に比べて上下方向の接続器設置スペースを縮小して歩廊との干渉の問題をなくすことができる。さらに、その接続器を使用することでプッシャーによるターミナル電極の軸方向押圧を第2ターミナル電極が配置される炉体の他端側でも支障なく行うことができる。
【0030】
このように、2個の第2ターミナル電極の電気接続を上記接続器で行うことで、炭素質成形体群の熱膨張差による長さ変動の吸収が安定してなされ、各列の炭素質成形体群の炉の両側からのプッシャーによる軸方向押圧が安定して炭素質成形体が均一に加熱されるようになる。
なお、好ましいとした構成の作用・効果は後に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の黒鉛化炉の概要を示す平面図
【図2】図1の黒鉛化炉の概要を示す側面図
【図3】第2ターミナル電極の相互電気接続部の平面図
【図4】図3のX−X線に沿った断面図
【図5】図3のY−Y線に沿った図
【図6】第2ターミナル電極に接続器の導体板を取り付けた状態の平面図
【図7】第2ターミナル電極の軸方向変位量が、右側で大となったときの接続器の動作を示す平面図
【図8】第2ターミナル電極の軸方向変位量が、左側で大となったときの接続器の動作を示す平面図
【図9】接続器の他の例を示す平面図
【図10】図9の接続器の端面図
【図11】図9の接続器の側面図
【図12】第2ターミナル電極の接続構造の参考例を示す平面図
【図13】図12の接続構造の側面図
【図14】図12の接続構造の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面の図1〜図11に基づいて、この発明の黒鉛化炉の実施の形態を説明する。
図1に示すように、例示の黒鉛化炉1は、軸方向に長く形成された炉体2と、対向配置の第1ターミナル電極3及び第2ターミナル電極4と、それらのターミナル電極を個々に押圧するプッシャー5を有する。そして、さらに、第1、第2ターミナル電極3,4に働く反力を個々に受ける反力柱6と、対をなす2個の第2ターミナル電極4,4を炉外で電気的に導通させる接続器7を組み合わせて構成されている。
【0033】
炉体2は、互いに区画された並列配置の2つのチャンバ2aを有する(図1参照)。その炉体2の一端側に、炉外から炉壁を貫通して2つのチャンバ2a、2aに個別に臨ませる2個の第1ターミナル電極3が設けられている。
【0034】
各第1ターミナル電極3は、軸方向スライド可能に配置されており、炉外において給電装置8経由で電源(図のそれはブスバー母線11)に接続される。
【0035】
また、炉体2の他端側に、炉外から炉壁を貫通して2つのチャンバ2a、2aに個別に臨ませる2個の第2ターミナル電極4が設けられている。その第2ターミナル電極4も軸方向スライド可能になっている。この第2ターミナル電極4は共に平坦な上面4aと下面4bを有する。
【0036】
炉体2は周知の構造のものでよい。上記特許文献5などに詳しい構造が開示されている。従って、ここでの詳細説明は省く。
【0037】
プッシャー5は、油圧シリンダなどで構成される。このプッシャー5が建屋内に設置された反力柱6に支持されて第1、第2ターミナル電極3、4を、軸方向、かつ両者が互いに近づく方向に押圧する。
【0038】
反力柱6は、図2に示すように炉外に設置され、その反力柱6で、ターミナル電極を軸方向に押圧して炭素質成形体の突き合せ部に面圧を加えたときにプッシャー5に加わる反力を受け止めるようにしている。
【0039】
接続器7は、第2ターミナル電極4の上部と下部に設けられ(図4参照)、2個の第2ターミナル電極4,4の相互電気接続が2組の接続器7でなされる。
【0040】
それぞれの接続器7は、図3〜図6に示した水平配置の一対の導体板7a、7aR、Lは、説明の便宜上付した)と、両導体板間に配置される可動フレーム7bを有する。また、可動フレーム7bの一端を一方の導体板7aに、他端を他方の導体板7aにそれぞれ連結するピボット軸7cと、対向配置の上部可撓導体7d及び下部可撓導体7dと、炉体軸方向に長い上部接点7e及び下部接点7eを有し、さらに、上部接点7eと下部接点7eを互いに接近する方向に付勢する接点押圧ばね7fを有する。
【0041】
導体板7a,7aは、各第2ターミナル電極4,4の上面と下面にそれぞれ連結して自由端側を対向させている。この導体板7a,7aの第2ターミナル電極4に対する連結は、ボルト9によってなされている。その導体板7a,7aは、第2ターミナル電極4,4の平坦な上面と下面に面接触させており、電気導通の安定性に優れる。
【0042】
可動フレーム7bは、対向配置の上枠fと下枠f、及びその2者を連結する連結枠fからなる。この可動フレーム7bの導体板7a,7aに対する連結が前記ピボット軸7cによってなされる。
【0043】
導体板7a,7aには、平面視で炉体の長手方向に対して直角方向に長い長孔7gを設けてあり、その長孔7gにピボット軸7cが通される。可動フレーム7bは、そのピボット軸7cを支点にして回動することができる。
【0044】
上部可撓導体7dと下部可撓導体7dは、可動フレーム7bで支持している。可動フレーム7bは、上下の可撓導体の両端を個々に上下動可能に差し込む横向き開口の差し込み部Sを両端に備えている。その差し込み部Sは上下二段に配置され、上部、下部の各差し込み部S間に平行配置の2つの支持壁Wが設置される。
【0045】
上部可撓導体7dと下部可撓導体7dは、可動フレーム7bの熱伸縮による上部接点7eと下部接点7eの相対変位を吸収し得るものであればよく、さほど大きな変位吸収能は要求されない。
【0046】
上部接点7eと下部接点7eは、コンタクト面をR面にした接点であり、上部可撓導体7dの両端の下面及び下部可撓導体7dの両端の上面にそれぞれ一体的に設けられる。前記支持壁Wには、それ等の接点に対応させた貫通孔を設けており、その貫通孔に上部接点7eと下部接点7eがそれぞれ出没自在に差し込まれる。
【0047】
この上部接点7eと下部接点7e及びそれを個別に保持する上部、下部の可撓導体7d,7dは、図示のように、軸方向に分割したものが動きの自由度が高くて好ましい。上部接点7eと下部接点7eは、分割後も軸方向に長い姿を有する接点となっている。
【0048】
接点押圧ばね7fは、各差し込み部Sの内部に組み込まれており、上部可撓導体7dと下部可撓導体7dの両端部を互いに接近する方向に付勢する。その付勢力により支持壁Wを貫通した上部接点7eと下部接点7eが導体板7a,7aの自由端側の上下面に押し当てられる。
【0049】
なお、図示したように、上部、下部の可撓導体7d,7dが軸方向に分割されている場合には、各分割可撓導体を接点押圧ばね7fで個々に押圧して各接点の導体板に対する押圧が平均化した圧力でなされるようにしておくのがよい。
【0050】
例示の黒鉛化炉1には、以上のように構成された接続器7が第2ターミナル電極4の下面側にも設けられ、2個の第2ターミナル電極4,4の電気接続が、その第2ターミナル電極4,4の上部と下部の2箇所でなされている。このようにすることで、接続器7に対する負荷を軽減して接続器7の耐久性を向上させることができる。なお、下側の接続器7の導体板7a,7aは、第2ターミナル電極4の下面4bに固定される。
【0051】
給電装置8は、第1ターミナル電極3に導体板を接続し、その導体板を断路器の上下の接点で挟みつけるように構成された前掲の特許文献4に開示されるものが、導体板の相対移動の自由度に優れて好ましい。
【0052】
以上のように構成された例示の黒鉛化炉1は、再焼成済みの炭素質成形体Cを各チャンバ2aの内部に直列に配列し、周辺を保温と酸化防止のためのコークス詰粉などで被包充填する。そして、この状態で末端の炭素質成形体に当接したターミナル電極を介して通電する。
【0053】
第1ターミナル電極3に給電装置8を接続し、2個の第2ターミナル電極4を接続器7
でつなぐ。
【0054】
また、プッシャー5で第1、第2ターミナル電極3,4を炉の両端から軸方向に押圧し、各炭素質成形体Cの相互突き合せ面に所要の面圧を加える。
【0055】
そしてこの状態で直流電源から電力を供給して炭素質成形体群Cg,Cgに電気を流す。こうして各炭素質成形体Cを電気抵抗によって発熱させ、所要温度(一般には3000℃程度)まで昇温させて黒鉛化処理を行なう。
【0056】
この加熱により各チャンバ2aに収容された炭素質成形体群Cg,Cgが熱膨張する。そのときの炭素質成形体群Cg,Cgの熱膨張量が等しければ、接続器7の左右の導体板7a,7aと上部、下部の接点7eU,7eの相対位置が変化せずに維持され、接続器7による電気接続の状態変化が全く起こらない。
【0057】
一方、炭素質成形体群Cg,Cgの熱膨張量に差が生じて両炭素質成形体群Cg,Cgの軸方向長さが変わると、接続器7の可動フレーム7bが、左右のピボット軸7cを支点にして図7、図8に示すように回動する。
【0058】
可動フレーム7bは、炭素質成形体群Cgの熱膨張量が炭素質成形体群Cgの熱膨張量よりも大きいときには、図7に示すように、平面視で時計回りの方向に回動し、左右の炭素質成形体群Cg,Cgの熱膨張量の大小関係が上記と逆の場合は、図8に示すように、平面視で反時計回りの方向に回動する。
【0059】
このとき、上部接点7eと下部接点7eは、導体板7a,7aに対してバネの力で単純に押し付けられているので、それらの接点を導体板7a,7aに喰い込ませるような力が発生せず、そのために2個の第2ターミナル電極4,4の軸方向相対変位が支障なく進行する。
【0060】
そしてその間も、接続器7の上部接点7eと下部接点7eが平均した圧力で左右の導体板7a,7aに押しつけられ、接続器7による電気接続条件の変動が起こらない。
【0061】
また、各炭素質成形体群Cg,Cgを炉の両端からプッシャー5で押圧することで炭素質成形体相互の突合せ面の接触抵抗の変動も殆ど起こらない。
【0062】
これにより、各列の炭素質成形体群の通電条件が安定して炭素質成形体が均一に加熱され、加熱のばらつきによる品質のばらつきや品質不良の問題が解消される。
【0063】
また、2個の第2ターミナル電極4,4の電気接続を接続器7で行ったことで、上下方向の接続器設置スペースが縮小され、必要に応じて図13の位置に設ける歩廊との干渉をなくすことができる。
【0064】
図9〜図11に、接続器7の変形例を示す。黒鉛化炉は、同一工場内に並列配置にして複数基設けることが多い。その場合、経済的な方法として、同一接続器を着脱可能にし、ひとつの接続器を複数の炉で共用することが考えられる。その方法を採る場合、上部接点7eと下部接点7eの導体板に対する押圧を解除可能となすことが必要となる。
【0065】
図9〜図11の接続器7は、その機能を付与したものであって、上部可撓導体7dと下部可撓導体7d間に押圧解除機構10を追設している。その他の部分は図3の接続器と同一構成である。従って、ここでの説明は、押圧解除機構10のみについて行なう。
【0066】
図示の押圧解除機構10は、周知のスライダクランク機構を応用したものであって、駆動軸10aと、その駆動軸10aの両端付近に各々固定するクランク10bと、各クランクの両端に一端がピンで回動可能に連結された対をなす2本のリンク10cと、その2本のリンク10cの他端にそれぞれ取り付けるスライドピン10dとで構成されている。
【0067】
駆動軸10aは、ハンドル(図示せず)を取り付ける入力部ipを一端に有している。この駆動軸10aが連結枠fの対向側壁間に回転可能に横架され、入力部ipに取り付けたハンドルの操作によって回転駆動される。
【0068】
クランク10bに連結されたリンク10cは、駆動軸10aの両端付近に対応した姿勢にして配置され、その駆動軸10aの両端付近の対応した姿勢のリンク10cにスライドピン10dの両端が固定されている。そのスライドピン10dは、可動フレームの連結枠fに設けられたガイド部(図示せず。縦長の溝や孔で構成される)に案内されて上下に動くことができる。
【0069】
スライドピン10dは、対をなすリンクの一方に取り付けられたものが上部可撓導体7dの湾曲した部分に、他方に取り付けられたものが下部可撓導体7dの湾曲部にそれぞれ接するようにしている。
【0070】
この接続器7は、駆動軸10aを、それに取り付けたハンドルを操作して回転させる。その操作でクランク10bに対するリンク10cの連結点が変位し、そのために、2本のスライドピン10dが駆動軸10aから遠ざかる方向に押し動かされる。これにより、上部可撓導体7dと下部可撓導体7dが相反する方向に押し動かされ、その動きに上部接点7eと下部接点7eが追従してそれらの接点の導体板7a,7aに対する押圧が解除される。
【0071】
その押圧の解除とピボット軸7cによる導体板との連結の解除を行なうことで接続器7は取り外し可能となり、これにより、同一接続器を共通仕様の他の黒鉛化炉に共用することが可能になる。
【0072】
なお、この構造では、押圧解除機構10による押圧の解除がなされたときに、上部可撓導体7dと下部可撓導体7dの両端部が接点押圧ばね7fの力に抗して離反方向に動く必要があるので、上部可撓導体7dと下部可撓導体7dは、ある程度剛性のあるものを使用する。
【0073】
なお、実施形態の接続器7は、定格電圧DC300V、定格電流90kAの仕様であり、使用時の温度上昇が懸念される。そのために、いずれも、導体板7a,7aと、上部、下部の可撓導体7d,7dと、可動フレーム7bの内部にそれぞれ水の循環通路(図示省略)を形成し、その循環通路に冷却水を流してこれらを強制冷却する構造にしてあるが、
強制冷却は必要に応じて行えばよい。
【符号の説明】
【0074】
1 黒鉛化炉
2 炉体
2a チャンバ
3 第1ターミナル電極
4 第2ターミナル電極
4a 上面
4b 下面
5 プッシャー
6 反力柱
7 接続器
7a,7a 導体板
7b 可動フレーム
7c ピボット軸
7d 上部可撓導体
7d 下部可撓導体
7e 上部接点
7e 下部接点
7f 接点押圧ばね
7g 長孔
W 支持壁
S 差し込み部
上枠
下枠
連結枠
8 給電装置
9 ボルト
10 押圧解除機構
10a 駆動軸
10b クランク
10c リンク
10d スライドピン
11 ブスバー母線
ip 入力部
C 炭素質成形体
g,Cg 炭素質成形体群
21 L型導体板
22 フレキシブル導体
23 歩廊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに区画された並列配置の2つのチャンバ(2a)を有する軸方向に長い炉体(2)と、その炉体の一端側において炉外から前記2つのチャンバ(2a)に個別に臨ませる軸方向スライド可能な2個の第1ターミナル電極(3)と、各炉体(2)の他端側において炉外から前記2つのチャンバ(2a)に個別に臨ませる軸方向スライド可能な2個の各々が上下面を有する第2ターミナル電極(4)と、前記第1、第2ターミナル電極(3,4)を個々に軸方向に押圧するプッシャー(5)と、前記第1、第2ターミナル電極(3,4)に働く反力を個々に受ける反力柱(6)と、前記2個の第2ターミナル電極(4)を炉外で電気的に導通させる接続器(7)を有し、
各チャンバ(2a)に直列に配列される複数の焼成済み炭素質成形体(C)の相互突き合せ面に前記プッシャー(5)で面圧を加え、この状況で、2個の第1ターミナル電極(3,3)間に通電して炭素質成形体(C)を電気抵抗で所定温度に加熱する黒鉛化炉であって、
前記接続器(7)が、前記2個の第2ターミナル電極(4,4)の上面(4a)又は下面(4b)にそれぞれ連結して自由端側を対向させる水平配置の一対の導体板(7a,7a)と、一端が一方の前記導体板(7a)に、他端が他方の前記導体板(7a)にそれぞれ炉体長手直角方向に長い長孔(7g)に通される垂直なピボット軸(7c)を支点にして回動可能に連結される可動フレーム(7b)と、対向配置にして前記可動フレーム(7b)に支持される上部可撓導体(7d)及び下部可撓導体(7d)と、上部可撓導体(7d)の両端の下面及び下部可撓導体(7d)の両端の上面にそれぞれ設ける炉体軸方向に長い上部接点(7e)及び下部接点(7e)と、前記上部可撓導体(7d)と下部可撓導体(7d)を対向方向に付勢して前記上部接点(7e)と下部接点(7e)を前記導体板(7a,7a)の上下面に押し当てる接点押圧ばね(7f)を備えて構成される黒鉛化炉。
【請求項2】
前記接続器(7)と同一構成の接続器(7)を前記第2ターミナル電極(4)の上部と下部の双方に有し、前記2個の第2ターミナル電極(4,4)相互の電気接続が第2ターミナル電極(4,4)の上部と下部の2箇所でなされた請求項1に記載の黒鉛化炉。
【請求項3】
前記上部可撓導体(7d)と下部可撓導体(7d)との間に、上下の可撓導体を相反する方向に押し動かして前記上部接点(7e)と下部接点(7e)を前記導体板(7a,7a)から引き離す押圧解除機構(10)を備えた請求項2に記載の黒鉛化炉。
【請求項4】
前記第2ターミナル電極(4)の上面(4a)と下面(4b)を平坦な面にしてその上面(4a)と下面(4b)に、前記導体板(7a,7a)を面接触させて取付けた請求項2又は3に記載の黒鉛化炉。
【請求項5】
前記上部接点(7e)及び下部接点(7e)のコンタクト面をR面にした請求項1〜3のいずれかに記載の黒鉛化炉。
【請求項6】
前記上部接点(7e)と、下部接点(7e)をそれぞれ炉体の軸方向に複数に分割した請求項1〜5のいずれかに記載の黒鉛化炉。
【請求項7】
前記上部可撓導体(7d,)、下部可撓導体(7d)、上部接点(7e)、下部接点(7e)をそれぞれ炉体の軸方向に複数に分割した請求項1〜6のいずれかに記載の黒鉛化炉。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2011−148642(P2011−148642A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9103(P2010−9103)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000183392)住友電設株式会社 (18)
【出願人】(392000187)株式会社高橋電器製作所 (3)
【Fターム(参考)】