説明

黒鉛粒子の表面改質方法

【課題】黒鉛粒子の表面全体を満遍なく効率良く改質できる黒鉛粒子の表面改質方法を提供する。
【解決手段】 黒鉛粒子に過酸化水素及びオゾンのうち少なくともいずれか一方の水溶液を接触させて官能基を解離することにより、前記黒鉛粒子の表面を親水化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛粒子の表面を親水化する黒鉛粒子の表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物質の表面を改質する手段としては、コロナ放電やグロー放電等の気体放電によるプラズマ処理、電子線処理、紫外線処理、オゾン処理等の乾式処理や、化学薬品処理、プライマー処理等の湿式処理等、様々な表面改質方法が知られている。また、特に粒子の表面を改質する場合には、大量の粒子を効率良く処理できるものが求められ、粒子を浮遊搬送する過程において連続的に大気圧下でプラズマ処理をする方法(例えば、特許文献1参照)や、気流等により粒子を流動させながら紫外線を照射する方法(例えば、特許文献2〜4参照)等が提案されている。
【0003】
一方、近年、モータ等に用いられる金属黒鉛質ブラシとして、黒鉛粒子の表面に銅錯体溶液を固着させて銅微粒子を析出させたもの(例えば、特許文献5参照)が検討されている。そして、このような新しい金属黒鉛質ブラシでは、黒鉛粒子の表面全体に銅微粒子を満遍なく高密度で析出させるために、通常疎水性である黒鉛粒子の表面を銅錯体溶液となじみの良い親水性に改質したいという要望が高まっている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−228739号公報
【特許文献2】特開平9−117494号公報
【特許文献3】特開2000−116758号公報
【特許文献4】特開2002−338895号公報
【特許文献5】特開2005−12957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これまで黒鉛粒子には親水性が求められる用途がなかったため、黒鉛粒子の表面改質については検討されていなかった。
【0006】
また、黒鉛粒子の表面改質として、前記従来の浮遊搬送する過程における大気圧プラズマ処理を適用する場合には、黒鉛粒子は高電界を印加すると黒鉛粒子の電気的異方性によって配列してしまうため、黒鉛粒子の表面全体にプラズマ処理を施すことは困難であった。
【0007】
黒鉛粒子に紫外線を照射して表面改質する方法にあっては、通常紫外線の照射方向は固定されているため、粒度分布を有する黒鉛粒子の表面全体に満遍なく紫外線を照射させることは難しい。例え、黒鉛粒子を流動させながら紫外線を照射したとしても、黒鉛粒子の表面全体に満遍なく紫外線があたるように流動させるためには、処理時間が長くなるという問題があった。
【0008】
本発明は上記問題に鑑み案出されたものであり、黒鉛粒子の表面全体を満遍なく効率良く改質できる黒鉛粒子の表面改質方法を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る黒鉛粒子の表面改質方法の第1特徴手段は、黒鉛粒子に過酸化水素及びオゾンのうち少なくともいずれか一方の水溶液を接触させて官能基を解離することにより、前記黒鉛粒子の表面を親水化する点にある。
【0010】
つまり、この手段によれば、黒鉛粒子に過酸化水素及びオゾンのうち少なくともいずれか一方の水溶液を用いることにより、黒鉛粒子の表面全体に満遍なく接触させて官能基を解離することができると共に、官能基を解離した活性な炭素原子の周りに水を存在させることにより水酸基を導入することができる。
したがって、黒鉛粒子の表面全体を満遍なく、かつ効率良く改質することができる。
【0011】
本発明に係る黒鉛粒子の表面改質方法の第2特徴手段は、前記水溶液は、前記黒鉛粒子に噴霧して、前記黒鉛粒子の表面全体に接触させる点にある。
【0012】
つまり、この手段によれば、黒鉛粒子に過酸化水素水及びオゾン水を直接噴霧することにより、撥水性を有する黒鉛粒子の表面であっても全体に満遍なく接触させて改質することができる。
【0013】
本発明に係る黒鉛粒子の表面改質方法の第3特徴手段は、前記黒鉛粒子を前記過酸化水素及びオゾンのいずれか一方の水溶液に浸漬する工程と、前記水溶液に前記過酸化水素及びオゾンのいずれか他方のガスを吹き込みヒドロキシラジカルを発生させる工程とを備える点にある。
【0014】
つまり、この手段によれば、過酸化水素とオゾンとを水中で反応させることにより、より酸化力の高いヒドロキシラジカルを発生させることができるため、効率よく黒鉛粒子の表面を改質することができる。
【0015】
本発明に係る黒鉛粒子の表面改質方法の第4特徴手段は、前記水溶液に接触させる前に、前記黒鉛粒子に紫外線を照射する点にある。
【0016】
つまり、この手段によれば、紫外線を照射することにより、黒鉛粒子の表面の少なくとも一部は改質されて親水化されるため、過酸化水素及びオゾンの水溶液となじみが良くなり、特に過酸化水素またはオゾンの水溶液に浸漬させる場合には、水溶液中に沈降し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る黒鉛粒子の表面改質方法は、黒鉛粒子に過酸化水素及びオゾンのうち少なくともいずれか一方の水溶液を接触させて官能基を解離することにより、前記黒鉛粒子の表面を親水化するものである。これにより、黒鉛粒子の表面全体を満遍なく、かつ効率良く改質することができる。
【0018】
黒鉛粒子は結晶子から構成されているが、通常、結晶子の末端の炭素原子には、−H,=O,−COOH等の官能基が結合しているため撥水性を有する。
【0019】
そこで、本発明者は、酸化力の高い酸化剤を黒鉛粒子に接触させることで、黒鉛粒子の炭素原子に結合している官能基を酸化して解離できることに着目し、特に酸化剤として水溶液を用いることにより、黒鉛粒子の表面全体に満遍なく接触させて官能基を解離することができると共に、官能基を解離した活性な炭素原子は水と直ちに反応して水酸基が導入され、黒鉛粒子の表面を効率良く親水化できることを見出した。
【0020】
酸化剤としては、過酸化水素やオゾン、反応系内で発生させるヒドロキシラジカル(OHラジカル)を好ましく適用することができる。過酸化水素、オゾン、ヒドロキシラジカルの酸化ポテンシャルは、それぞれ1.77Volts,2.07Volts,2.80Voltsと、いずれも黒鉛粒子における炭素原子と官能基との結合エネルギーよりも大きく、炭素原子同士の結合エネルギーよりも小さい。このため、これらの酸化剤は黒鉛粒子と接触させても、炭素原子と官能基とを解離するに留まり、黒鉛粒子を分解することはない。
【0021】
なお、酸化剤としてヒドロキシラジカルを使用する場合には、不安定な物質であるため、黒鉛粒子の表面を改質する際に、過酸化水素とオゾンとを水中で反応させたり、過酸化水素水またはオゾン水に紫外線を照射したりしてヒドロキシラジカルを生成させることによって黒鉛粒子と反応させるとよい。
【0022】
〔第一の実施形態〕
以下に、本発明の第一の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態で使用する装置は、図1に示すように、反応槽1と、過酸化水素水が入った容器2と、オゾン水が入った容器3と、容器2及び3と連結し、過酸化水素水及びオゾン水をそれぞれ反応槽1の内に噴霧する噴霧手段4,5を備えて構成される。また、反応槽1には、噴霧された水溶液を回収するための液回収手段6と、過酸化水素とオゾンとの反応によって生成した酸素を回収するためのガス回収手段7とが設けられている。なお、本装置は、過酸化水素やオゾンと接触するため、樹脂、セラミック、ガラス等の腐食し難い材質で構成することが好ましい。
【0023】
以上のように構成された装置により、黒鉛粒子の表面を改質する方法は、まず、黒鉛粒子の最小サイズの粒子径より小さい孔を複数有するセラミックス製の粒子容器8に複数の黒鉛粒子、例えば200gの黒鉛粒子を収容し、反応槽1の内に配置する。なお、粒子容器8はセラミックス製に限定されず、過酸化水素水やオゾンによって腐食しないものであれば適用でき、樹脂製やガラス製のものも使用することができる。
【0024】
そして、噴霧手段4及び5により過酸化水素水及びオゾン水を粒子容器8の内の黒鉛粒子に噴霧して、黒鉛粒子の表面を親水化する。このように黒鉛粒子に過酸化水素水及びオゾン水を直接噴霧することにより、撥水性を有する黒鉛粒子の表面であっても満遍なく接触させて改質することができる。また、過酸化水素水及びオゾン水を噴霧することにより、黒鉛粒子の表面上でより酸化力の高いヒドロキシラジカルを発生させることができるため、効率よく表面を改質することができる。噴霧する過酸化水素水及びオゾン水の濃度は、特に限定されないが、取扱が容易な比較的低濃度のものが好ましく、例えば、3〜5wt%の過酸化水素水、50〜100ppmのオゾン水を用いることができる。
【0025】
本実施形態における噴霧方法は、特に制限はないが、例えば、噴霧手段4及び5による過酸化水素水及びオゾン水の交互の噴霧を所定回数繰り返す。噴霧時間及び噴霧回数は、任意に選択可能であり、例えば、過酸化水素水とオゾン水とのそれぞれ噴霧時間を、10秒間ずつ、8秒間ずつ、6秒間ずつ、5秒間ずつ、4秒間ずつ、3秒間ずつ、2秒間ずつ、1秒間ずつ、と噴霧時間を減らしながら噴霧を繰り返したり、逆に噴霧時間を増やしながら噴霧を繰り返したりしてもよい。このように噴霧を複数回繰り返すことにより、黒鉛粒子の表面改質は、粒子容器8の上方から徐々に粒子容器8の内部にある黒鉛粒子に至り、全ての黒鉛粒子の表面全体を満遍なく改質することができる。また、過酸化水素水とオゾン水との反応によって生成されるヒドロキシラジカルは生成量に応じた酸化力の保持時間を有するが、既に表面改質された黒鉛粒子とは反応せず、表面改質されていない黒鉛粒子のみと反応する。このため、噴霧を複数回繰り返してヒドロキシラジカルを分割して連続的に生成させることにより、ヒドロキシラジカルが粒子容器8の内部の黒鉛粒子にまで行き渡り、多量の黒鉛粒子と接触させることができる。
【0026】
なお、本実施形態においては、粒子容器8を反応槽1に配置して固定した場合を例として説明したが、例えば、粒子容器8を搬送する手段を設けて、粒子容器8を反応槽1の内に順に搬送して連続的に処理するようにしてもよい。
【0027】
本実施形態では、過酸化水素水とオゾン水を交互に噴霧する手段を例として説明したが、過酸化水素とオゾン水とを同時に噴霧してもよい。
【0028】
〔第二の実施形態〕
次に本発明に係る第二の実施形態について説明する。本実施形態で使用する装置は、図2に示すように、オゾン水を入れる4つの容器3a〜3dと、それぞれの容器3a〜3dから反応槽1の内にオゾン水を噴霧する4つの噴霧手段5a〜5dとを備えている。そして、この4つの噴霧手段5a〜5dのそれぞれに対応して、容器2から反応槽1の内に過酸化水素水を噴霧する4つの噴霧手段4a〜4dが設けられ、反応槽1には粒子容器8を搬送する搬送手段9が設けられている。また、容器2には、濃度が5wt%の過酸化水素水が入れられており、容器3a〜3dには、濃度がそれぞれ10ppm,30ppm,50ppm,80ppmのオゾン水が入れられている。なお、その他の構成は、第一の実施形態で使用した装置の構成と同様である。
【0029】
このような装置により黒鉛粒子の表面を改質する方法は、まず、複数の黒鉛粒子が収容された粒子容器8を搬送手段によって反応槽1の内の噴霧手段4a及び5aに対応する位置に搬送し、噴霧手段4a及び5aによって過酸化水素水とオゾン水とを交互に噴霧する。さらに、同様に粒子容器8を噴霧手段4b及び5bに対応する位置、噴霧手段4c及び5cに対応する位置、噴霧手段4d及び5dに対応する位置に順に移動させ、それぞれの位置で過酸化水素水とオゾン水とを交互に噴霧する。このようにオゾン水の濃度を上げながら処理することにより、ヒドロキシラジカルの酸化力の保持時間が順に長くすることができるため、粒子容器8の内部の黒鉛粒子にまでヒドロキシラジカルが行き渡るようになり、効率良く表面を改質することができる。また、過酸化水素水及びオゾン水の噴霧時間、噴霧回数は、特に制限はなく、例えば5秒間ずつ1回噴霧する。
【0030】
本実施形態においては、オゾン水の濃度を変えながら噴霧する例を示したが、過酸化水素水の濃度を変えながら噴霧してもよく、さらに、過酸化水素水及びオゾン水の両方の濃度を変えながら噴霧してもよい。なお、過酸化水素水及びオゾン水の濃度は、特に限定されず、任意に選択可能である。
【0031】
また、本実施形態においては、噴霧手段を4つ設けた例を示したが、これに限られるものではない。
【0032】
〔第三の実施形態〕
次に本発明に係る第三の実施形態について説明する。本実施形態で使用する装置は、図3に示すように、過酸化水素水が入った反応槽11と、過酸化水素水が入った容器12と、オゾンガスが入った容器13と、容器12から反応槽11に過酸化水素水を送り込む供給手段14と、容器13から反応槽11の過酸化水素中にオゾンガスを吹き込む吹き込み手段15と、反応後の過酸化水素水を反応槽11から回収する液回収手段16と、過酸化水素とオゾンとの反応によって生成した酸素を回収するガス回収手段17とを備えて構成される。なお、過酸化水素水の濃度は、特に限定されないが、例えば、5wt%の濃度のものを使用する。
【0033】
そして、このような装置により黒鉛粒子の表面を改質する方法は、まず、複数の黒鉛粒子が収容された粒子容器8を反応槽1の過酸化水素の中に浸漬する。次いで、吹き込み手段15により反応槽1の過酸化水素水にオゾンガスを吹き込む。吹き込み時間は、特に制限はないが、例えば5秒間吹き込む。これにより過酸化水素とオゾンとが反応し、過酸化水素中にヒドロキシラジカルを発生させて、効率良く黒鉛粒子の表面を改質することができる。
【0034】
また、オゾンガスの吹き込み回数は、特に限定はされず、複数回吹き込んでもよい。そして、吹き込みと吹き込みとの合間には、粒子容器8を一旦過酸化水素水の中から引き上げ、再び浸漬することが好ましい。すなわち、表面改質が進んでいる黒鉛粒子ほど、過酸化水素水との親和力が増し、過酸化水素水中に沈降しやすくなる。このため、黒鉛粒子は、その表面改質度合いに応じて容器内で再配列されて過酸化水素水中に浸漬され、黒鉛粒子の表面を効率よく改質することができる。
【0035】
オゾンガスの吹き込み時間は、吹き込みを複数回行う場合には、徐々に長くしていくことが好ましい。すなわち、表面改質が進むと部分的に表面が改質された黒鉛粒子が沈降して過酸化水素中に存在する量が増えてくる。このため、例えば、5秒、10秒、20秒、30秒、40秒と吹き込み時間を長くすることにより、黒鉛粒子の沈降量に対応してヒドロキシラジカルの生成量を順に多くすることができるため、効率良く黒鉛粒子の表面を改質することができる。
【0036】
本実施形態においては、過酸化水素水にオゾンガスを吹き込んでヒドロキシラジカルを生成させる場合を例として説明したが、オゾン水に過酸化水素ガスを吹き込む構成としてもよい。また、ガスを吹き込む替わりに、過酸化水素水またはオゾン水に紫外線を照射しでヒドロキシラジカルを発生させることもできる。
【0037】
本実施形態においては、粒子容器8を過酸化水素水に浸漬した後、オゾンガスを吹き込む場合を例として説明したが、先にオゾンガスを吹き込んでヒドロキシラジカルを発生させた後、粒子容器8を過酸化水素水に浸漬してもよい。また、粒子容器8の浸漬とオゾンガスの吹き込みを同時に行うこともできる。
【0038】
本実施形態においては、一つの粒子容器8を用いた場合を例として説明したが、オゾンガスを複数回吹き込む場合には、反応槽1の中に複数の吹き込み手段15と搬送手段とを設けて、オゾンガスの1回の吹き込みごとに粒子容器8を移動させるようにしてもよい。この場合、それぞれの吹き込み手段15に粒子容器8を順に搬送することにより、連続的な処理が可能となる。
【0039】
〔その他の実施形態〕
前記各実施形態においては、取扱を容易にするため黒鉛粒子を粒子容器8に入れて表面改質する場合を例として説明したが、黒鉛粒子を反応槽に直接入れて表面改質することもできる。
【0040】
前記各実施形態においては、過酸化水素及びオゾンの両方を用いる場合を例として説明したが、過酸化水素水及びオゾン水のいずれか一方のみを使用してもよい。過酸化水素水及びオゾン水のいずれか一方のみであっても高い酸化力を有するため、黒鉛粒子の表面を十分に改質することができる。
【0041】
前記各実施形態においては、黒鉛粒子をそのまま過酸化水素水またはオゾン水と接触させる場合を例として説明したが、これらの水溶液に接触させる前に、黒鉛粒子に紫外線を照射してもよい。このような前処理を予め行っておくことにより、過酸化水素水及びオゾン水となじみが良くなり、特に過酸化水素水またはオゾン水に浸漬させる場合には、沈降し易くなる。
【0042】
このようにして表面が改質された黒鉛粒子は、例えば、そのまま金属黒鉛質ブラシの製造に使用することができる。すなわち、黒鉛粒子の表面改質が終了した時点では、黒鉛粒子は過酸化水素水またはオゾン水で濡れた状態であるため、黒鉛粒子が入ったままの粒子容器8をアルコールの浴槽に浸漬して、黒鉛粒子の表面を水からアルコールに置換する。さらに、この後、粒子容器8をカルボン酸銅のアルコール溶液の浴槽に浸漬して、黒鉛粒子の表面にカルボン酸銅を固着させる。続いて、カルボン酸銅が固着した黒鉛粒子を大気雰囲気で焼成し、黒鉛粒子の表面でカルボン酸銅を熱分解して銅を析出させる。これにより、黒鉛粒子の表面全体が、銅微粒子の群で覆われた黒鉛粒子を製造することができる。このようにして得られた黒鉛粒子は、上記特許文献5に記載された方法により金属黒鉛質ブラシを作製することができる。なお、黒鉛粒子を製造する際、黒鉛粒子をアルコール溶液に浸漬する時間と、カルボン酸銅のアルコール溶液に浸漬する時間を同じにすることで、処理を時間のロスなく連続的に行うことができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明に係る黒鉛粒子の表面改質方法の実施例について説明する。
【0044】
(実施例1)
図1に示す装置において、過酸化水素の濃度が5wt%の過酸化水素水と、オゾン濃度が60ppmのオゾン水とを用い、50gの黒鉛粒子の群に対して、過酸化水素水とオゾン水とを交互に10秒間ずつ噴霧し、続いて8秒間ずつ、さらに6秒間ずつ、4秒間ずつ、3秒間ずつ、2秒間ずつ、1秒間ずつ、と順に噴霧した。この後、黒鉛粒子を反応槽1から取り出し、60℃で乾燥した。
【0045】
(実施例2)
図2に示す装置において、過酸化水素の濃度が5wt%の過酸化水素水と、オゾン濃度が10ppm、30ppm、50ppm、80ppmの4種類のオゾン水とを用い、50gの黒鉛粒子の群に対して、オゾン水の濃度を順に上げながら過酸化水素水とオゾン水とを交互に、5秒間ずつ4回、間欠的に噴霧した。この後、黒鉛粒子を反応槽1から取り出し、60℃で乾燥した。
【0046】
(実施例3)
図3に示す装置において、過酸化水素の濃度が5wt%の過酸化水素水に50gの黒鉛粒子の群を浸漬し、この過酸化水素水にオゾンガスを間欠的に5秒間、10秒間、20秒間、30秒間、40秒間と順に吹き込んだ。この後、黒鉛粒子を反応槽1から取り出し、60℃で乾燥した。
【0047】
(実施例4)
図1に示す装置において、過酸化水素の濃度が5wt%の過酸化水素水のみを、50gの黒鉛粒子の群に対して、間欠的に10秒間、8秒間、6秒間、4秒間、3秒間、2秒間、1秒間と順に噴霧した。この後、黒鉛粒子を反応槽1から取り出し、60℃で乾燥した。
【0048】
(実施例5)
図1に示す装置において、オゾンの濃度が60ppmのオゾン水のみを、50gの黒鉛粒子の群に対して、間欠的に10秒間、8秒間、6秒間、4秒間、3秒間、2秒間、1秒間と順に噴霧した。この後、黒鉛粒子を反応槽1から取り出し、60℃で乾燥した。
【0049】
(比較例1)
低圧紫外線ランプを用い、185nmの紫外線スペクトルを有する紫外線を、50gの黒鉛粒子の群に対して、1分間ずつ10回照射した。なお、各回の紫外線照射後に黒鉛粒子を攪拌し、黒鉛粒子の全面に紫外線が照射できるようにした。
【0050】
(親水性評価)
実施例1〜5、及び比較例1によって得られた黒鉛粒子と、表面改質処理していない黒鉛粒子(比較例2)とを用い、それぞれを、厚さ4mm、10mm×10mmの面積を有する直方体に圧縮成形し、圧縮成形板を作製した。そして、図4に示すように、この圧縮成形板に水滴を一滴たらして、水滴の接触角を測定した。
その結果、表1に示す通り、表面改質処理していない黒鉛粒子に比べて、表面改質処理を施したものはいずれも接触角は小さくなった。
また、表面処理を施したものの中では、紫外線処理したものに比べて、いずれの実施例も接触角は小さくなった。これは、紫外線処理では、全ての黒鉛粒子に対して均一に紫外線を照射することは難しく、処理が斑になったためと推測される。
さらに、実施例の中では、いずれの場合も良好な結果が得られたが、特にヒドロキシラジカルを併用した実施例1〜3では、接触角がより小さくなり、親水性が向上することが分かった。
【0051】
【表1】

【0052】
(比抵抗評価)
実施例1〜5、及び比較例1によって得られた黒鉛粒子と、表面改質処理していない黒鉛粒子(比較例2)とを用い、それぞれ20gをブタン酸銅のブタノール溶液に5分間浸漬した。そして、これらの黒鉛粒子をそれぞれ大気中で180℃、30分間熱処理した後、300℃、5時間熱処理し、さらに、水素ガスを10vol.%含有する窒素ガスの還元雰囲気下で、300℃、1時間熱処理した。このようにして得られた黒鉛粒子それぞれについて、10mm×5mm×5mmの大きさに圧縮成形し、10mmを幅方向として比抵抗を測定した。
その結果、表2に示す通り、いずれの実施例についても比較例に比べて比抵抗は小さくなり、特に実施例の中では、実施例1〜3の場合に比抵抗は小さくなった。これは、黒鉛粒子の親水性に関連し、黒鉛粒子の親水性が向上するにつれて表面における銅粒子の析出密度が高くなるためと考えられる。
【0053】
【表2】

【0054】
本発明に係る黒鉛粒子の表面改質方法によって処理した黒鉛粒子は、優れた親水性を有するため、金属黒鉛質ブラシへ適用できるだけでなく、今後の新たな用途に適用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る第一の実施形態で使用する装置の概略図
【図2】本発明に係る第二の実施形態で使用する装置の概略図
【図3】本発明に係る第三の実施形態で使用する装置の概略図
【図4】親水性評価方法を説明する図
【符号の説明】
【0056】
1,11 反応槽
4,5 噴霧手段
8 粒子容器
15 吹き込み手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粒子に過酸化水素及びオゾンのうち少なくともいずれか一方の水溶液を接触させて官能基を解離することにより、前記黒鉛粒子の表面を親水化する黒鉛粒子の表面改質方法。
【請求項2】
前記水溶液は、前記黒鉛粒子に噴霧して、前記黒鉛粒子の表面全体に接触させる請求項1に記載の黒鉛粒子の表面改質方法。
【請求項3】
前記黒鉛粒子を前記過酸化水素及びオゾンのいずれか一方の水溶液に浸漬する工程と、前記水溶液に前記過酸化水素及びオゾンのいずれか他方のガスを吹き込みヒドロキシラジカルを発生させる工程とを備える請求項1に記載の黒鉛粒子の表面改質方法。
【請求項4】
前記水溶液に接触させる前に、前記黒鉛粒子に紫外線を照射する請求項1〜3のいずれか一項に記載の黒鉛粒子の表面改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−63058(P2007−63058A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249887(P2005−249887)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】