鼓膜換気チューブ
【課題】耳管の正常な働きが回復するまでの補助的かつ生理的な役割を果たすもので、耳管が行うような換気が可能であって、しかも、外部からの水や細菌等の浸入を防止できるとともに、中耳内に滲み出した液を外部へ排出することが可能な鼓膜換気チューブを提供する。
【解決手段】鼓膜に留置される鼓膜換気チューブは、中耳と外耳との圧力差が所定圧以上で開状態となる弁手段13と、鼓膜に介設された孔部に嵌入されるチューブ本体10とを備える。弁手段13は、スリット孔14を有する円板体15をチューブ本体10内に固定して構成する。
【解決手段】鼓膜に留置される鼓膜換気チューブは、中耳と外耳との圧力差が所定圧以上で開状態となる弁手段13と、鼓膜に介設された孔部に嵌入されるチューブ本体10とを備える。弁手段13は、スリット孔14を有する円板体15をチューブ本体10内に固定して構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鼓膜換気チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
耳は、図17に示すように、外耳1、中耳2、及び内耳3で構成される。外耳1と中耳2とは、外耳道の内端に位置する鼓膜4によって仕切られている。また、中耳2が耳管5を介して咽頭に連通されている。
【0003】
このため、鼓膜4の外側(外耳道側)と内側(内耳側)の空気圧が同じになる。このように空気圧が同じである場合、鼓膜4は張った状態に維持される。音は、空気の振動として鼓膜4を震わせる。その振動が耳小骨6に伝わって、聞こえの神経である内耳へと伝達する。
【0004】
また、耳管の開大能には二種ある。一は外圧によって耳管が開大する受動的開大能であり、もう1つは嚥下やあくびによって開大する能動的開大能である。すなわち、耳管には換気機能があり、この換気機能には、嚥下やあくびによって咽頭から鼓室(中耳腔)へと空気が流入する能動的なものと、外耳の圧変化に伴って空気が流入する受動的なものとがある。
【0005】
ところで、洋々な原因で、耳管5から中耳2への空気の通りが悪くなることがある。中耳2への空気の通りが悪くなると、鼓膜4の外と鼓膜4の内(中耳)の気圧に差が生じる。この場合、通常中耳2の気圧が低くなる。このため、気圧の高い方(外耳側)から低い方(中耳側)へ鼓膜4が押され、外耳側が凹む。また、中耳2が陰圧になって、この中耳2に、その周囲からの体の水分等が滲み出して溜まる。この症状が滲出性中耳炎である。
【0006】
このような滲出性中耳炎に対しては、図17に示すように、鼓膜チューブと称される治療器具8を鼓膜4に留置する治療方法がある(特許文献1)。これによって、中耳腔に溜まる滲出液をこの治療器具8を介して外部(外耳側)に排出する。なお、中耳2の機能が回復したらこの治療器具8を取り去ることになる。
【0007】
また、前記のような鼓膜チューブを鼓膜4に留置させれば、中耳2と外耳1とを等しい圧力に保つことができる。
【特許文献1】特開平7−265351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、従来の鼓膜チューブは、外耳と中耳とを連通するものであるので、このような鼓膜チューブを装着している子供等がプールに入った場合には、この鼓膜チューブを介して中耳内に水が入るおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、耳管の正常な働きが回復するまでの補助的かつ生理的な役割を果たすもので、耳管が行うような換気が可能であって、しかも、外部からの水や細菌等の浸入を防止できるとともに、中耳内に滲み出した液を外部へ排出することが可能な鼓膜換気チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の鼓膜換気チューブは、鼓膜に留置される鼓膜換気チューブであって、中耳と外耳との圧力差が所定圧以上で開状態となる弁手段を設けたものである。
【0011】
本発明の鼓膜換気チューブでは、中耳と外耳との圧力差が所定圧以上となったときに、開状態となって、中耳と外耳とを等しい圧力に保つことができる。また、圧力差が所定圧未満であれば、この鼓膜換気チューブは閉状態となる。ここで、所定圧としては、例えば、100〜600daPa程度に設定することができる。
【0012】
鼓膜に介設された孔部に嵌入されるチューブ本体を備え、スリット孔を有する円板体をチューブ本体内に固定して弁手段を構成したり、一部が前記チューブ本体に固定されてヒンジとして機能する円板体にて弁手段を構成したりすることができる。
【0013】
また、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差と、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差とを相違させることができる。この際、圧力差が小で開状態となるときの気圧低側に膨出する弁形成板にて弁手段を構成することができる。中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差を、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差よりも小さくしたり、大きくしりすることができる。
【0014】
弁手段を、チューブ端部に配置したり、チューブ軸方向中央部に配置したりすることができる。
【0015】
中耳側に配置される第1フランジと外耳側に配置される第2フランジとを備えたものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の鼓膜換気チューブは、耳管が機能せずに、中耳と外耳との圧力差が100〜600daPa圧以上となったときに、開状態となって、中耳と外耳とを等しい圧力に保つことができる。このため、鼓膜が、中耳側に膨れたり、外耳側に膨れたりすることなく、鼓膜としての機能を発揮して、音を聞き分けることができる。また、開状態となることによって、中耳内に滲み出した液の外部への排出が可能となる。
【0017】
中耳と外耳との圧力差が100〜600daPa圧未満では、この鼓膜換気チューブは閉状態であるので、外部からの水や細菌等の中耳への浸入を防止できる。このため、水泳等を行った場合にも、他の耳栓等をすることなく、水の浸入を防止できる。
【0018】
耳管の正常な働きが回復すれば取り外すことになる。このため、鼓膜換気チューブは、耳管の正常な働きが回復するまでの補助的かつ生理的な役割を果たすもので、耳管が行うような換気が可能であって、しかも、外部からの水や細菌等の浸入を防止できるとともに、中耳内に滲み出した液を外部へ排出することが可能である。
【0019】
中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差と、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差とを相違させることができるので、患者の症状に応じて対応することができる。すなわち、中耳側の気圧が低くなったときに、小さい圧力差で開状態としたり、逆に中耳側の気圧が高くなったときに、小さい圧力差で開状態としたりでき、さらには、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高い状態を維持でき、滲出性中耳炎等が発生するのを有効に防止できるようにすることができる。
【0020】
中耳側に配置される第1フランジと外耳側に配置される第2フランジとを備えたものであれば、鼓膜換気チューブを安定した状態で鼓膜に留置させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る鼓膜換気チューブの実施形態を以下に詳述する。
【0022】
図1と図2は鼓膜換気チューブの第1実施形態を示し、この鼓膜換気チューブは、チューブ本体10と、このチューブ本体10の一方の端部に連設される第1フランジ11と、チューブ本体10の他方の端部に連設される第2フランジ12を備える。
【0023】
そして、内部に弁手段13が付設されている。この場合の弁手段13は、スリット孔14を有する円板体15からなる。すなわち、円板体15は、孔部16の第2フランジ12側の開口端に配設される。そして、円板体15は、半円板状の一対の半割体15a、15bとからなり、各半割体15a、15bの外周円弧面が孔部16の内径面に一体化され、半割体15a、15bの対応端面17、18が突き合わされて、密接している。
【0024】
この場合の鼓膜換気チューブは、チューブ本体10と第1フランジ11と第2フランジ12と円板体15とが一体に成形されたシリコーンゴム(SIR)等からなる。シリコーンゴムは、無機のシロキサン結合に有機のメチル基またはフェニル基を結合させたものであり、無機と有機の中間的な構造をもっている。シリコーンゴムは使用可能温度範囲が−60℃から+180℃程度までのきわめて広範囲に及び、その範囲内における物理的性質の変化が少ない。また電気特性はNRと大差なく、使用可能温度範囲内において耐電圧の変化はほとんどない。また化学的にも安定で耐化学薬品性(濃アルカリには浸される)、耐油、耐候、耐オゾン性をもっている。
【0025】
このため、この鼓膜換気チューブは耐久性に優れ、しかも後述するように鼓膜4に留置させた際には、鼓膜4に馴染んで、この鼓膜換気チューブを違和感無く留置させることができる。
【0026】
この弁手段13においては、孔部16内と外部との圧力差が、所定圧(例えば、100〜600daPa圧)以上で、高い方側から低い方側に円板体15を押圧することになって、半割体15a、15bの対応端面17、18間に隙間が生じて開状態となる。これに対して、孔部16内と外部との圧力差が前記所定圧(例えば、100〜600daPa圧)未満の状態では、半割体15a、15bの対応端面17、18が突き合わされた状態が維持されて閉状態となっている。
【0027】
鼓膜換気チューブは、例えば、その全長L1を10mmとし、フランジ間寸法L2を6mmとし、各フランジ肉厚L3、L4を2mmとし、孔部径D1を2mmとし、チューブ本体外径D2を4mmとし、フランジ外径D3を6mmとし、円板体15の肉厚Tを0.2mmとしている。また、各コーナ部には面取りが形成され、その面取りの曲率半径を0.2mmとしている。
【0028】
前記のように構成された鼓膜換気チューブは、鼓膜4(図17参照)に留置される。すなわち、鼓膜4の一部を切開して、直線状のスリット部を形成する。そして、このスリット部を拡開させて挿通部を形成し、挿通部に鼓膜換気チューブを挿通する。この場合、第1フランジ11を中耳2側に配置するとともに、第2フランジ12を外耳1側に配置する。このように、鼓膜4を挟んで、第1フランジ11を中耳2側に配置し、第2フランジ12を外耳1側に配置することによって、この鼓膜換気チューブの鼓膜4に留置することができる。
【0029】
本発明の鼓膜換気チューブによれば、中耳2と外耳1との圧力差が所定圧(例えば、100〜600daPa圧)以上となったときに、開状態となって、中耳2と外耳1とを等しい圧力に保つことができる。このため、耳管が行う換気機能を発揮することができ、鼓膜4が、中耳2側に膨れたり、外耳1側に膨れたりすることなく、鼓膜4としての機能を発揮して、音を聞き分けることができる。また、開状態となることによって、中耳内に滲み出した液の外部への排出が可能となって、滲出性中耳炎の治療を行うことができる。
【0030】
チューブ本体10の一方の端部に連設されて中耳2側に配置される第1フランジ11(内部フランジ)と、チューブ本体10の他方の端部に連設されて外耳1側に配置される第2フランジ12(外部フランジ)とを備えているので、鼓膜換気チューブを安定した状態で鼓膜4に留置させることができる。
【0031】
ところで、滲出性中耳炎に対しては、図3に示すように、この鼓膜換気チューブを鼓膜に装着する際に、中耳2内に滲み出した液(滲出液)を外耳1側に排出するためのドレナージチューブ(細い排出用の管)50を鼓膜換気チューブに挿通させておくのが好ましい。このドレナージチューブ50は、中耳2内の滲出液の溜まりが改善されれば(治まれば)、取り出すことになる。このため、通常は、1週間から1ヶ月程度で取り出すことになる。
【0032】
ドレナージチューブ50の長さとしては、図3に示すように、一方のフランジ11側の端部51が中耳2内に挿入され、他方の外耳2側の端部52が外耳1側に挿入できる程度のものであればよいが、外耳1の外部開口部に達するものであってもよい。また、ドレナージチューブ50の外径としては、弁手段13のスリット孔14に挿通させることができればよく、ドレナージチューブ50の内径としては、滲出液を外耳1側に排出できるものであればよい。なお、ドレナージチューブ50の材質は、鼓膜換気チューブと同様の材質で構成することができるが、鼓膜換気チューブと相違する材質で構成してもよい。また、ドレナージチューブ50として可撓性を有していても、可撓性を有さずに常に直線状に維持されるものであってもよい。
【0033】
次に図4と図5は第2実施形態を示し、図6と図7は第3実施形態を示している。これらの場合、一対の半割体15a、15bからなる円板体15が、チューブ本体10の軸方向中間部に配置されている。そして、チューブ本体10の孔部16において、円板体15より第1フランジ11側と、円板体15より第2フランジ12側とで、圧力差が100〜600daPa圧未満では円板体15の半割体15a、15bの対応端面17、18が密接した閉状態となっている。圧力差が100〜600daPa圧以上生じたときには、円板体15にて構成する弁手段13が開状態となる。すなわち、円板体15の対応端面17、18との間に隙間が生じて開状態となる。
【0034】
図4と図5に示す鼓膜換気チューブでは、図1と図2に示す鼓膜換気チューブと同様、半割体15a、15bの肉厚を内径側と外径側とで同一に設定しているが、図6と図7に示す鼓膜換気チューブでは、各半割体15a、15bの外径部19の肉厚T1を大きく設定している。
【0035】
図4と図5に示す鼓膜換気チューブ及び図6と図7に示す鼓膜換気チューブにおいて、他の構成は図1と図2に示す構成と同様であるので、同一部材については図1と図2と同一の符号を付してその説明を省略する。なお、図6と図7に示す鼓膜換気チューブの円板体15の外径部19の肉厚T1(最大肉厚)を0.4mmとしている。なお、円板体15の中心部の肉厚T(最小肉厚)を0.2mmとしている。また、他の寸法は前記図1と図2に示す鼓膜換気チューブと同一とした。
【0036】
このように、図4と図5に示す鼓膜換気チューブ及び図6と図7に示す鼓膜換気チューブにおいても、図1と図2に示す鼓膜換気チューブと同様の作用効果を奏する。また、図6と図7に示す鼓膜換気チューブでは、各半割体15a、15bの外径側の肉厚が大きく設定されているので、開閉に対する強度に優れる。
【0037】
図8〜図10は第4実施形態を示し、この場合、一部がチューブ本体10に固定されてヒンジ20として機能する円板体21にて弁手段13を構成している。そして、この円板体21は孔部16の第2フランジ12側の開口端に配設される。
【0038】
弁手段13においては、孔部16内と外部との圧力差が100〜600daPa圧以上で、高い方側から低い方側に円板体15を押圧することになって、図10に示すように、円板体21がそのヒンジ20を支点として揺動し、円板体21の外周側に隙間が生じ開状態となる。また、その圧力差が100〜600daPa圧未満では、円板体21の外周縁部が孔部16の内径面に密接状となって閉状態を維持する。
【0039】
図8〜図10に示す鼓膜換気チューブにおいて、他の構成は図1と図2に示す構成と同様であるので、同一部材については図1と図2と同一の符号を付してその説明を省略する。また、各寸法も図1と図2に示す鼓膜換気チューブと同一に設定される。なお、円板体21の肉厚T3も0.2mmとされる。
【0040】
このように、図8〜図10に示す鼓膜換気チューブおいても、図1と図2に示す鼓膜換気チューブと同様の作用効果を奏する。
【0041】
図11と図12とは第5実施形態を示し、この鼓膜換気チューブでは、外耳1側に膨出する弁形成板25にて弁手段13を構成している。この場合、弁形成板25は断面円弧状の一対の反割体25a、25bから形成している。このため、この弁形成板25にはスリット孔14が形成される。
【0042】
このように外部側へ膨出させることよって、外耳1側と中耳2側とで開状態となる圧力差に相違させることができる。すなわち、この鼓膜換気チューブを、第1フランジ11を中耳2側に配置し、第2フランジ12を外耳1側に配置するように装着した場合、外耳1側の気圧に対して中耳2の気圧が高くなる場合に、比較的小さい圧力差であっても開状態となり、外耳1側の気圧に対して中耳2の気圧が低くなる場合に、比較的大きな圧力差で開状態となるようにしている。このように、圧力差が小で開状態となるときの気圧低側(この場合、外耳1側)に膨出する弁形成板25にて弁手段13を構成することによって、中耳2側の気圧が外耳1側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差を、中耳2側の気圧が外耳1側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差よりも小さくすることができる。
【0043】
また、鼓膜換気チューブを、弁形成板25が中耳2側に膨出させれば、外耳1側の気圧に対して中耳2の気圧が低くなる場合に、比較的小さい圧力差であっても開状態となり、外耳1側の気圧に対して中耳2の気圧が高くなる場合に、比較的大きな圧力差で開状態となるようできる。このため、中耳2側の気圧が外耳1側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差を、中耳2側の気圧が外耳1側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差よりも大きくすることができる。
【0044】
この図11と図12に示す鼓膜換気チューブでは、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差と、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差とを相違させることができるので、患者の症状に応じて対応することができる。すなわち、中耳側の気圧が低くなったときに、小さい圧力差で開状態としたり、逆に中耳側の気圧が高くなったときに、小さい圧力差で開状態としたりでき、さらには、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高い状態を維持でき、滲出性中耳炎等が発生するのを有効に防止できるようにすることができる。
【0045】
次に図13と図14とは弁形成板25の第1変形例を示し、この場合の弁形成板25は、外部側に向かって順次縮径するテーパ部26と、テーパ部26の縮径端に連設される平板部27とからなる円錐台形状体にて構成される。そして、平板部27にスリット孔14が形成される。
【0046】
また、図15と図16とは弁形成板25の第2変形例を示し、この場合の弁形成板25は、スリット孔14を有する円錐形状体にて構成される。
【0047】
従って、前記第1変形例の弁形成板や第1変形例の弁形成板を使用した鼓膜換気チューブであっても、前記図11と図12に示す鼓膜換気チューブと同様、中耳2側の気圧が外耳1側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差と、中耳2側の気圧が外耳1側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差とを相違させることができる。このため、第1変形例の弁形成板や第1変形例の弁形成板を使用した鼓膜換気チューブでも、図11と図12に示す鼓膜換気チューブと同様の作用効果を奏することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、前記実施形態では、第1フランジ11を中耳2側に配置し、第2フランジ12を外耳1側に配置し、第1フランジ11を内部フランジとするとともに、第2フランジ12を外部フランジとしていたが、逆に、第2フランジ12を中耳2側に配置し、第1フランジ11を外耳1側に配置して、第1フランジ11を外部フランジとするとともに、第2フランジ12を内部フランジとするようにしてもよい。また、前記各実施形態では、第1フランジ11の径と第2フランジ12の径とを同一に設定したが、これらの径を相違させてもよい。また、各フランジ11、12を円板形状以外の種々の形状に変更することができる。要は、鼓膜4に留置させた際に、各フランジ11、12が鼓膜4に引っ掛かって、外れないものであればよい。
【0049】
図1等の弁手段13を構成する円板体15は、一対の半割体15a、15bにて形成したものであり、スリット孔14の端部が外周縁に開口するものであったが、スリット孔14の端部が外周縁に開口しないものであってもよい。また、スリット孔14としては一本の直線状スリットに限らず、クロスする2本以上の直線状スリットにて構成してもよい。さらに、直線状スリットに限らず、曲線状のスリットであってもよい。
【0050】
図8〜図10においては、弁手段13を構成する円板体21を、チューブ本体10の軸方向中央部に設けているが、この円板体21をチューブ本体10の軸方向端部に配置してもよい。すなわち、弁手段13を構成する円板体15、21や弁形成板25を、チューブ本体10の軸方向端部や軸方向中央部に限るものではなく、チューブ本体10の軸方向の任意の位置に設けることができる。
【0051】
さらに、チューブ本体10の軸方向長さL、フランジ間寸法L2、フランジ肉厚L3、L4、孔部径D1、チューブ本体外径D2、フランジ外径D3等も、この鼓膜換気チューブを鼓膜4に留置させることができ、かつ、換気(耳管が行う能動的換気と受動的換気と同様な換気)を行うことができるとともに、中耳内に滲み出した液を外部へ排出することができる限り種々変更できる。
【0052】
鼓膜換気チューブやドレナージチューブ50の材質としては、シリコーンゴム以外のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル等の合成高分子であっても、金属(例えば、チタン、ステンレス等)であってもよい。
【0053】
弁手段13が開状態となる圧力差は、装着される患者の性別、年齢、症状等に応じて任意に設定することができるが、耳管が行うような換気が可能であって、しかも、外部からの水や細菌等の浸入を防止できるとともに、中耳内に滲み出した液を外部へ排出することができる機能を発揮する上で、前記実施形態のように、100〜600daPa圧程度が好ましく、より好ましくは、200〜300daPa圧程度である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の鼓膜換気チューブの第1実施形態を示す断面図である。
【図2】前記図1に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図3】前記図1に示す鼓膜換気チューブにドレナージチューブを挿通した状態の断面図である。
【図4】本発明の鼓膜換気チューブの第2実施形態を示す断面図である。
【図5】前記図4に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図6】本発明の鼓膜換気チューブの第3実施形態を示す断面図である。
【図7】前記図6に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図8】本発明の鼓膜換気チューブの第4実施形態を示す断面図である。
【図9】前記図8に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図10】前記図8に示す鼓膜換気チューブの要部斜視図である。
【図11】本発明の鼓膜換気チューブの第5実施形態を示す断面図である。
【図12】前記図11に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図13】弁形成板の第1変形例を使用した鼓膜換気チューブの断面図である。
【図14】前記図13に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図15】弁形成板の第2変形例を使用した鼓膜換気チューブの断面図である。
【図16】前記図15に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図17】耳の簡略断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 外耳
2 中耳
3 内耳
4 鼓膜
10 チューブ本体
13 弁手段
14 スリット孔
15、21 円板体
20 ヒンジ
25 弁形成板
【技術分野】
【0001】
本発明は、鼓膜換気チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
耳は、図17に示すように、外耳1、中耳2、及び内耳3で構成される。外耳1と中耳2とは、外耳道の内端に位置する鼓膜4によって仕切られている。また、中耳2が耳管5を介して咽頭に連通されている。
【0003】
このため、鼓膜4の外側(外耳道側)と内側(内耳側)の空気圧が同じになる。このように空気圧が同じである場合、鼓膜4は張った状態に維持される。音は、空気の振動として鼓膜4を震わせる。その振動が耳小骨6に伝わって、聞こえの神経である内耳へと伝達する。
【0004】
また、耳管の開大能には二種ある。一は外圧によって耳管が開大する受動的開大能であり、もう1つは嚥下やあくびによって開大する能動的開大能である。すなわち、耳管には換気機能があり、この換気機能には、嚥下やあくびによって咽頭から鼓室(中耳腔)へと空気が流入する能動的なものと、外耳の圧変化に伴って空気が流入する受動的なものとがある。
【0005】
ところで、洋々な原因で、耳管5から中耳2への空気の通りが悪くなることがある。中耳2への空気の通りが悪くなると、鼓膜4の外と鼓膜4の内(中耳)の気圧に差が生じる。この場合、通常中耳2の気圧が低くなる。このため、気圧の高い方(外耳側)から低い方(中耳側)へ鼓膜4が押され、外耳側が凹む。また、中耳2が陰圧になって、この中耳2に、その周囲からの体の水分等が滲み出して溜まる。この症状が滲出性中耳炎である。
【0006】
このような滲出性中耳炎に対しては、図17に示すように、鼓膜チューブと称される治療器具8を鼓膜4に留置する治療方法がある(特許文献1)。これによって、中耳腔に溜まる滲出液をこの治療器具8を介して外部(外耳側)に排出する。なお、中耳2の機能が回復したらこの治療器具8を取り去ることになる。
【0007】
また、前記のような鼓膜チューブを鼓膜4に留置させれば、中耳2と外耳1とを等しい圧力に保つことができる。
【特許文献1】特開平7−265351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、従来の鼓膜チューブは、外耳と中耳とを連通するものであるので、このような鼓膜チューブを装着している子供等がプールに入った場合には、この鼓膜チューブを介して中耳内に水が入るおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、耳管の正常な働きが回復するまでの補助的かつ生理的な役割を果たすもので、耳管が行うような換気が可能であって、しかも、外部からの水や細菌等の浸入を防止できるとともに、中耳内に滲み出した液を外部へ排出することが可能な鼓膜換気チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の鼓膜換気チューブは、鼓膜に留置される鼓膜換気チューブであって、中耳と外耳との圧力差が所定圧以上で開状態となる弁手段を設けたものである。
【0011】
本発明の鼓膜換気チューブでは、中耳と外耳との圧力差が所定圧以上となったときに、開状態となって、中耳と外耳とを等しい圧力に保つことができる。また、圧力差が所定圧未満であれば、この鼓膜換気チューブは閉状態となる。ここで、所定圧としては、例えば、100〜600daPa程度に設定することができる。
【0012】
鼓膜に介設された孔部に嵌入されるチューブ本体を備え、スリット孔を有する円板体をチューブ本体内に固定して弁手段を構成したり、一部が前記チューブ本体に固定されてヒンジとして機能する円板体にて弁手段を構成したりすることができる。
【0013】
また、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差と、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差とを相違させることができる。この際、圧力差が小で開状態となるときの気圧低側に膨出する弁形成板にて弁手段を構成することができる。中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差を、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差よりも小さくしたり、大きくしりすることができる。
【0014】
弁手段を、チューブ端部に配置したり、チューブ軸方向中央部に配置したりすることができる。
【0015】
中耳側に配置される第1フランジと外耳側に配置される第2フランジとを備えたものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の鼓膜換気チューブは、耳管が機能せずに、中耳と外耳との圧力差が100〜600daPa圧以上となったときに、開状態となって、中耳と外耳とを等しい圧力に保つことができる。このため、鼓膜が、中耳側に膨れたり、外耳側に膨れたりすることなく、鼓膜としての機能を発揮して、音を聞き分けることができる。また、開状態となることによって、中耳内に滲み出した液の外部への排出が可能となる。
【0017】
中耳と外耳との圧力差が100〜600daPa圧未満では、この鼓膜換気チューブは閉状態であるので、外部からの水や細菌等の中耳への浸入を防止できる。このため、水泳等を行った場合にも、他の耳栓等をすることなく、水の浸入を防止できる。
【0018】
耳管の正常な働きが回復すれば取り外すことになる。このため、鼓膜換気チューブは、耳管の正常な働きが回復するまでの補助的かつ生理的な役割を果たすもので、耳管が行うような換気が可能であって、しかも、外部からの水や細菌等の浸入を防止できるとともに、中耳内に滲み出した液を外部へ排出することが可能である。
【0019】
中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差と、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差とを相違させることができるので、患者の症状に応じて対応することができる。すなわち、中耳側の気圧が低くなったときに、小さい圧力差で開状態としたり、逆に中耳側の気圧が高くなったときに、小さい圧力差で開状態としたりでき、さらには、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高い状態を維持でき、滲出性中耳炎等が発生するのを有効に防止できるようにすることができる。
【0020】
中耳側に配置される第1フランジと外耳側に配置される第2フランジとを備えたものであれば、鼓膜換気チューブを安定した状態で鼓膜に留置させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る鼓膜換気チューブの実施形態を以下に詳述する。
【0022】
図1と図2は鼓膜換気チューブの第1実施形態を示し、この鼓膜換気チューブは、チューブ本体10と、このチューブ本体10の一方の端部に連設される第1フランジ11と、チューブ本体10の他方の端部に連設される第2フランジ12を備える。
【0023】
そして、内部に弁手段13が付設されている。この場合の弁手段13は、スリット孔14を有する円板体15からなる。すなわち、円板体15は、孔部16の第2フランジ12側の開口端に配設される。そして、円板体15は、半円板状の一対の半割体15a、15bとからなり、各半割体15a、15bの外周円弧面が孔部16の内径面に一体化され、半割体15a、15bの対応端面17、18が突き合わされて、密接している。
【0024】
この場合の鼓膜換気チューブは、チューブ本体10と第1フランジ11と第2フランジ12と円板体15とが一体に成形されたシリコーンゴム(SIR)等からなる。シリコーンゴムは、無機のシロキサン結合に有機のメチル基またはフェニル基を結合させたものであり、無機と有機の中間的な構造をもっている。シリコーンゴムは使用可能温度範囲が−60℃から+180℃程度までのきわめて広範囲に及び、その範囲内における物理的性質の変化が少ない。また電気特性はNRと大差なく、使用可能温度範囲内において耐電圧の変化はほとんどない。また化学的にも安定で耐化学薬品性(濃アルカリには浸される)、耐油、耐候、耐オゾン性をもっている。
【0025】
このため、この鼓膜換気チューブは耐久性に優れ、しかも後述するように鼓膜4に留置させた際には、鼓膜4に馴染んで、この鼓膜換気チューブを違和感無く留置させることができる。
【0026】
この弁手段13においては、孔部16内と外部との圧力差が、所定圧(例えば、100〜600daPa圧)以上で、高い方側から低い方側に円板体15を押圧することになって、半割体15a、15bの対応端面17、18間に隙間が生じて開状態となる。これに対して、孔部16内と外部との圧力差が前記所定圧(例えば、100〜600daPa圧)未満の状態では、半割体15a、15bの対応端面17、18が突き合わされた状態が維持されて閉状態となっている。
【0027】
鼓膜換気チューブは、例えば、その全長L1を10mmとし、フランジ間寸法L2を6mmとし、各フランジ肉厚L3、L4を2mmとし、孔部径D1を2mmとし、チューブ本体外径D2を4mmとし、フランジ外径D3を6mmとし、円板体15の肉厚Tを0.2mmとしている。また、各コーナ部には面取りが形成され、その面取りの曲率半径を0.2mmとしている。
【0028】
前記のように構成された鼓膜換気チューブは、鼓膜4(図17参照)に留置される。すなわち、鼓膜4の一部を切開して、直線状のスリット部を形成する。そして、このスリット部を拡開させて挿通部を形成し、挿通部に鼓膜換気チューブを挿通する。この場合、第1フランジ11を中耳2側に配置するとともに、第2フランジ12を外耳1側に配置する。このように、鼓膜4を挟んで、第1フランジ11を中耳2側に配置し、第2フランジ12を外耳1側に配置することによって、この鼓膜換気チューブの鼓膜4に留置することができる。
【0029】
本発明の鼓膜換気チューブによれば、中耳2と外耳1との圧力差が所定圧(例えば、100〜600daPa圧)以上となったときに、開状態となって、中耳2と外耳1とを等しい圧力に保つことができる。このため、耳管が行う換気機能を発揮することができ、鼓膜4が、中耳2側に膨れたり、外耳1側に膨れたりすることなく、鼓膜4としての機能を発揮して、音を聞き分けることができる。また、開状態となることによって、中耳内に滲み出した液の外部への排出が可能となって、滲出性中耳炎の治療を行うことができる。
【0030】
チューブ本体10の一方の端部に連設されて中耳2側に配置される第1フランジ11(内部フランジ)と、チューブ本体10の他方の端部に連設されて外耳1側に配置される第2フランジ12(外部フランジ)とを備えているので、鼓膜換気チューブを安定した状態で鼓膜4に留置させることができる。
【0031】
ところで、滲出性中耳炎に対しては、図3に示すように、この鼓膜換気チューブを鼓膜に装着する際に、中耳2内に滲み出した液(滲出液)を外耳1側に排出するためのドレナージチューブ(細い排出用の管)50を鼓膜換気チューブに挿通させておくのが好ましい。このドレナージチューブ50は、中耳2内の滲出液の溜まりが改善されれば(治まれば)、取り出すことになる。このため、通常は、1週間から1ヶ月程度で取り出すことになる。
【0032】
ドレナージチューブ50の長さとしては、図3に示すように、一方のフランジ11側の端部51が中耳2内に挿入され、他方の外耳2側の端部52が外耳1側に挿入できる程度のものであればよいが、外耳1の外部開口部に達するものであってもよい。また、ドレナージチューブ50の外径としては、弁手段13のスリット孔14に挿通させることができればよく、ドレナージチューブ50の内径としては、滲出液を外耳1側に排出できるものであればよい。なお、ドレナージチューブ50の材質は、鼓膜換気チューブと同様の材質で構成することができるが、鼓膜換気チューブと相違する材質で構成してもよい。また、ドレナージチューブ50として可撓性を有していても、可撓性を有さずに常に直線状に維持されるものであってもよい。
【0033】
次に図4と図5は第2実施形態を示し、図6と図7は第3実施形態を示している。これらの場合、一対の半割体15a、15bからなる円板体15が、チューブ本体10の軸方向中間部に配置されている。そして、チューブ本体10の孔部16において、円板体15より第1フランジ11側と、円板体15より第2フランジ12側とで、圧力差が100〜600daPa圧未満では円板体15の半割体15a、15bの対応端面17、18が密接した閉状態となっている。圧力差が100〜600daPa圧以上生じたときには、円板体15にて構成する弁手段13が開状態となる。すなわち、円板体15の対応端面17、18との間に隙間が生じて開状態となる。
【0034】
図4と図5に示す鼓膜換気チューブでは、図1と図2に示す鼓膜換気チューブと同様、半割体15a、15bの肉厚を内径側と外径側とで同一に設定しているが、図6と図7に示す鼓膜換気チューブでは、各半割体15a、15bの外径部19の肉厚T1を大きく設定している。
【0035】
図4と図5に示す鼓膜換気チューブ及び図6と図7に示す鼓膜換気チューブにおいて、他の構成は図1と図2に示す構成と同様であるので、同一部材については図1と図2と同一の符号を付してその説明を省略する。なお、図6と図7に示す鼓膜換気チューブの円板体15の外径部19の肉厚T1(最大肉厚)を0.4mmとしている。なお、円板体15の中心部の肉厚T(最小肉厚)を0.2mmとしている。また、他の寸法は前記図1と図2に示す鼓膜換気チューブと同一とした。
【0036】
このように、図4と図5に示す鼓膜換気チューブ及び図6と図7に示す鼓膜換気チューブにおいても、図1と図2に示す鼓膜換気チューブと同様の作用効果を奏する。また、図6と図7に示す鼓膜換気チューブでは、各半割体15a、15bの外径側の肉厚が大きく設定されているので、開閉に対する強度に優れる。
【0037】
図8〜図10は第4実施形態を示し、この場合、一部がチューブ本体10に固定されてヒンジ20として機能する円板体21にて弁手段13を構成している。そして、この円板体21は孔部16の第2フランジ12側の開口端に配設される。
【0038】
弁手段13においては、孔部16内と外部との圧力差が100〜600daPa圧以上で、高い方側から低い方側に円板体15を押圧することになって、図10に示すように、円板体21がそのヒンジ20を支点として揺動し、円板体21の外周側に隙間が生じ開状態となる。また、その圧力差が100〜600daPa圧未満では、円板体21の外周縁部が孔部16の内径面に密接状となって閉状態を維持する。
【0039】
図8〜図10に示す鼓膜換気チューブにおいて、他の構成は図1と図2に示す構成と同様であるので、同一部材については図1と図2と同一の符号を付してその説明を省略する。また、各寸法も図1と図2に示す鼓膜換気チューブと同一に設定される。なお、円板体21の肉厚T3も0.2mmとされる。
【0040】
このように、図8〜図10に示す鼓膜換気チューブおいても、図1と図2に示す鼓膜換気チューブと同様の作用効果を奏する。
【0041】
図11と図12とは第5実施形態を示し、この鼓膜換気チューブでは、外耳1側に膨出する弁形成板25にて弁手段13を構成している。この場合、弁形成板25は断面円弧状の一対の反割体25a、25bから形成している。このため、この弁形成板25にはスリット孔14が形成される。
【0042】
このように外部側へ膨出させることよって、外耳1側と中耳2側とで開状態となる圧力差に相違させることができる。すなわち、この鼓膜換気チューブを、第1フランジ11を中耳2側に配置し、第2フランジ12を外耳1側に配置するように装着した場合、外耳1側の気圧に対して中耳2の気圧が高くなる場合に、比較的小さい圧力差であっても開状態となり、外耳1側の気圧に対して中耳2の気圧が低くなる場合に、比較的大きな圧力差で開状態となるようにしている。このように、圧力差が小で開状態となるときの気圧低側(この場合、外耳1側)に膨出する弁形成板25にて弁手段13を構成することによって、中耳2側の気圧が外耳1側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差を、中耳2側の気圧が外耳1側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差よりも小さくすることができる。
【0043】
また、鼓膜換気チューブを、弁形成板25が中耳2側に膨出させれば、外耳1側の気圧に対して中耳2の気圧が低くなる場合に、比較的小さい圧力差であっても開状態となり、外耳1側の気圧に対して中耳2の気圧が高くなる場合に、比較的大きな圧力差で開状態となるようできる。このため、中耳2側の気圧が外耳1側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差を、中耳2側の気圧が外耳1側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差よりも大きくすることができる。
【0044】
この図11と図12に示す鼓膜換気チューブでは、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差と、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差とを相違させることができるので、患者の症状に応じて対応することができる。すなわち、中耳側の気圧が低くなったときに、小さい圧力差で開状態としたり、逆に中耳側の気圧が高くなったときに、小さい圧力差で開状態としたりでき、さらには、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高い状態を維持でき、滲出性中耳炎等が発生するのを有効に防止できるようにすることができる。
【0045】
次に図13と図14とは弁形成板25の第1変形例を示し、この場合の弁形成板25は、外部側に向かって順次縮径するテーパ部26と、テーパ部26の縮径端に連設される平板部27とからなる円錐台形状体にて構成される。そして、平板部27にスリット孔14が形成される。
【0046】
また、図15と図16とは弁形成板25の第2変形例を示し、この場合の弁形成板25は、スリット孔14を有する円錐形状体にて構成される。
【0047】
従って、前記第1変形例の弁形成板や第1変形例の弁形成板を使用した鼓膜換気チューブであっても、前記図11と図12に示す鼓膜換気チューブと同様、中耳2側の気圧が外耳1側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差と、中耳2側の気圧が外耳1側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差とを相違させることができる。このため、第1変形例の弁形成板や第1変形例の弁形成板を使用した鼓膜換気チューブでも、図11と図12に示す鼓膜換気チューブと同様の作用効果を奏することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、前記実施形態では、第1フランジ11を中耳2側に配置し、第2フランジ12を外耳1側に配置し、第1フランジ11を内部フランジとするとともに、第2フランジ12を外部フランジとしていたが、逆に、第2フランジ12を中耳2側に配置し、第1フランジ11を外耳1側に配置して、第1フランジ11を外部フランジとするとともに、第2フランジ12を内部フランジとするようにしてもよい。また、前記各実施形態では、第1フランジ11の径と第2フランジ12の径とを同一に設定したが、これらの径を相違させてもよい。また、各フランジ11、12を円板形状以外の種々の形状に変更することができる。要は、鼓膜4に留置させた際に、各フランジ11、12が鼓膜4に引っ掛かって、外れないものであればよい。
【0049】
図1等の弁手段13を構成する円板体15は、一対の半割体15a、15bにて形成したものであり、スリット孔14の端部が外周縁に開口するものであったが、スリット孔14の端部が外周縁に開口しないものであってもよい。また、スリット孔14としては一本の直線状スリットに限らず、クロスする2本以上の直線状スリットにて構成してもよい。さらに、直線状スリットに限らず、曲線状のスリットであってもよい。
【0050】
図8〜図10においては、弁手段13を構成する円板体21を、チューブ本体10の軸方向中央部に設けているが、この円板体21をチューブ本体10の軸方向端部に配置してもよい。すなわち、弁手段13を構成する円板体15、21や弁形成板25を、チューブ本体10の軸方向端部や軸方向中央部に限るものではなく、チューブ本体10の軸方向の任意の位置に設けることができる。
【0051】
さらに、チューブ本体10の軸方向長さL、フランジ間寸法L2、フランジ肉厚L3、L4、孔部径D1、チューブ本体外径D2、フランジ外径D3等も、この鼓膜換気チューブを鼓膜4に留置させることができ、かつ、換気(耳管が行う能動的換気と受動的換気と同様な換気)を行うことができるとともに、中耳内に滲み出した液を外部へ排出することができる限り種々変更できる。
【0052】
鼓膜換気チューブやドレナージチューブ50の材質としては、シリコーンゴム以外のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル等の合成高分子であっても、金属(例えば、チタン、ステンレス等)であってもよい。
【0053】
弁手段13が開状態となる圧力差は、装着される患者の性別、年齢、症状等に応じて任意に設定することができるが、耳管が行うような換気が可能であって、しかも、外部からの水や細菌等の浸入を防止できるとともに、中耳内に滲み出した液を外部へ排出することができる機能を発揮する上で、前記実施形態のように、100〜600daPa圧程度が好ましく、より好ましくは、200〜300daPa圧程度である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の鼓膜換気チューブの第1実施形態を示す断面図である。
【図2】前記図1に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図3】前記図1に示す鼓膜換気チューブにドレナージチューブを挿通した状態の断面図である。
【図4】本発明の鼓膜換気チューブの第2実施形態を示す断面図である。
【図5】前記図4に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図6】本発明の鼓膜換気チューブの第3実施形態を示す断面図である。
【図7】前記図6に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図8】本発明の鼓膜換気チューブの第4実施形態を示す断面図である。
【図9】前記図8に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図10】前記図8に示す鼓膜換気チューブの要部斜視図である。
【図11】本発明の鼓膜換気チューブの第5実施形態を示す断面図である。
【図12】前記図11に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図13】弁形成板の第1変形例を使用した鼓膜換気チューブの断面図である。
【図14】前記図13に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図15】弁形成板の第2変形例を使用した鼓膜換気チューブの断面図である。
【図16】前記図15に示す鼓膜換気チューブの右側面図である。
【図17】耳の簡略断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 外耳
2 中耳
3 内耳
4 鼓膜
10 チューブ本体
13 弁手段
14 スリット孔
15、21 円板体
20 ヒンジ
25 弁形成板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼓膜に留置される鼓膜換気チューブであって、中耳と外耳との圧力差が所定圧以上で開状態となる弁手段を設けたことを特徴とする鼓膜換気チューブ。
【請求項2】
鼓膜に介設された孔部に嵌入されるチューブ本体を備え、スリット孔を有する円板体をチューブ本体内に固定して前記弁手段を構成したことを特徴とする請求項1の鼓膜換気チューブ。
【請求項3】
鼓膜に介設された孔部に嵌入されるチューブ本体を備え、一部が前記チューブ本体に固定されてヒンジとして機能する円板体にて弁手段を構成したことを特徴とする請求項1の鼓膜換気チューブ。
【請求項4】
中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差と、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差とを相違させたことを特徴とする請求項1の鼓膜換気チューブ。
【請求項5】
中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差を、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差よりも小さくしたことを特徴とする請求項4の鼓膜換気チューブ。
【請求項6】
中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差を、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差よりも大きくしたことを特徴とする請求項4の鼓膜換気チューブ。
【請求項7】
圧力差が小で開状態となるときの気圧低側に膨出する弁形成板にて前記弁手段を構成したことを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれかの鼓膜換気チューブ。
【請求項8】
前記弁手段が前記チューブ端部に配置されることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかの鼓膜換気チューブ。
【請求項9】
前記弁手段が前記チューブ軸方向中央部に配置されることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかの鼓膜換気チューブ。
【請求項10】
中耳側に配置される内部フランジと外耳側に配置される外部フランジとを備えたことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかの鼓膜換気チューブ。
【請求項1】
鼓膜に留置される鼓膜換気チューブであって、中耳と外耳との圧力差が所定圧以上で開状態となる弁手段を設けたことを特徴とする鼓膜換気チューブ。
【請求項2】
鼓膜に介設された孔部に嵌入されるチューブ本体を備え、スリット孔を有する円板体をチューブ本体内に固定して前記弁手段を構成したことを特徴とする請求項1の鼓膜換気チューブ。
【請求項3】
鼓膜に介設された孔部に嵌入されるチューブ本体を備え、一部が前記チューブ本体に固定されてヒンジとして機能する円板体にて弁手段を構成したことを特徴とする請求項1の鼓膜換気チューブ。
【請求項4】
中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差と、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差とを相違させたことを特徴とする請求項1の鼓膜換気チューブ。
【請求項5】
中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差を、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差よりも小さくしたことを特徴とする請求項4の鼓膜換気チューブ。
【請求項6】
中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも高くなって開状態となる圧力差を、中耳側の気圧が外耳側の気圧よりも低くなって開状態となる圧力差よりも大きくしたことを特徴とする請求項4の鼓膜換気チューブ。
【請求項7】
圧力差が小で開状態となるときの気圧低側に膨出する弁形成板にて前記弁手段を構成したことを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれかの鼓膜換気チューブ。
【請求項8】
前記弁手段が前記チューブ端部に配置されることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかの鼓膜換気チューブ。
【請求項9】
前記弁手段が前記チューブ軸方向中央部に配置されることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかの鼓膜換気チューブ。
【請求項10】
中耳側に配置される内部フランジと外耳側に配置される外部フランジとを備えたことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかの鼓膜換気チューブ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−282907(P2007−282907A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114663(P2006−114663)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000112576)フカイ工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000112576)フカイ工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
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