説明

鼻送達のための投薬組成物およびその使用方法

【課題】可逆的および再現可能な方法でtjを迅速に開放させる鼻吸収エンハンサーを提供すること。
【解決手段】鼻送達のための鼻投薬組成物であって:(A)治療剤;および(B)鼻吸収を増強する有効量の精製されたVibrio cholera閉鎖帯トキシン、を含む、組成物。前記治療剤が、薬物化合物、生物学的に活性なペプチド、およびワクチンからなる群より選択される、鼻投薬組成物。前記薬物化合物が、心血管系で作用する薬物、中枢神経系で作用する薬物、抗腫瘍性薬物、および抗生物質からなる群より選択される、鼻投薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の開発は、Universityof Maryland, Baltimore, Marylandによって支援された。
【0002】
本明細書に記載される発明は、National Institutes of Health (NIH AI35740; NIH DK 48373; およびNIHAI19716)からの知見に支持された。政府は一定の権利を有する。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、(A)治療剤;および(B)鼻吸収を増強する有効量の閉鎖帯トキシン(zonula occludens toxin)を含む、鼻送達のための鼻投薬組成物、ならびにその使用方法に関する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
(I.鼻送達システム)
最近まで、抗生物質、抗炎症ステロイド、および鬱血除去剤は、その局所作用のため、例えば、鼻の鬱血除去(decongestion)および気管支拡張のためにのみ、鼻腔内投与されている。いくつかの症例では全身的副作用が出現したという観察は、鼻粘膜がいくつかの薬物の全身的利用能(availability)を可能にするという結論を導いた。鼻送達は、経口投与後の過酷な胃腸環境に耐えられない治療剤の非経口投与の、将来有望な代替物を提供する。したがって、鼻投与は、ペプチドおよびタンパク質薬物を送達することの可能な代替物の1つと考えられ得る。
【0005】
鼻の第1の機能は嗅覚作用であるが、これはまた、空気中の粒子、ならびに熱いおよび湿った吸入した空気を濾過する。成人では、鼻腔は、2.0〜4.0mmの厚さの粘膜によって覆われる(Mygind, Nasal Allergy, Blackwell Scientific, Oxford (1979))。鼻腔の容積は約20mlであり、そしてその総表面積は約180cmである(Schreider,Toxicology of the Nasal Passage, Hemisphere, Washington, D.C., 1-23頁(1986))。鼻粘膜を横切った治療剤の吸収は、直接全身曝露を生じ、したがって経口投与に関連する一次通過肝臓代謝を避ける。しかし、別の一次通過効果は、鼻粘膜内の代謝活性によって生じる(Sarkar,Pharmacol. Res., 9:1-9 (1992))。
【0006】
鼻粘膜からのペプチドおよびタンパク質の生物学的利用能は、経口経路よりも実質的に改良されるが、静脈内経路と比較した場合は、まだ少しも最適ではない。この制限は、傍細胞経路によって鼻粘膜を貫通することにおいて巨大分子が遭遇する抵抗のせいであり得る(Sackar, 前出)。
【0007】
傍細胞経路の使用の研究は、主として密着結合(tj)の構造および機能についての情報が乏しいため、広範には探究されていない。すなわち、傍細胞経路による分子の侵入は、主にtjによって制限される(Gumbiner,Am. J. Physiol., 253:C749-C758 (1987);およびMadara, J. Clin. Invest.,83:1089-1094 (1989))。
【0008】
透過型電子顕微鏡では、tjは、隣接細胞の形質膜が密接に対置される隣りあう細胞の境界で長さ約80nmの領域として出現する(Farquharら, J.Cell Biol., 17:375-412 (1963))。この構造は、先端ドメインの直下の上皮細胞の周囲を囲み、上皮細胞とその近隣との間の封鎖を形成する。この封鎖は、電荷特異的方法での低分子の拡散を制限し(Pappenheimerら,J. Membrane Biol., 102:2125-2136 (1986);Madaraら, J. Cell Biol.,102:2125-2136 (1986);Claudeら, J. Cell Biol., 58:390-400 (1973);およびBakkerら,J. Membrane Biol., 11:25-35 (1989))、そして11Åより大きい分子半径を有する分子を完全に封入する(Madaraら,J. Cell Biol., 98:1209-1221 (1985))。したがって、かなりの注意が、tjを「緩める」ことによって傍細胞輸送を増加させるための方法を見出すことに向けられている。
【0009】
鼻粘膜からの乏しい取り込みを克服するために、吸収エンハンサーは、ペプチド吸収の程度を増加させるための試みに用いられる。これらのエンハンサーの例としては、胆汁酸塩(Duchateauら, Int. J. Pharm. 31:193-196 (1986))、キレート剤(Lee, Delivery Systems for Peptide Drugs,Plenum, New York, 87-104頁(1986))、および界面活性剤(Hiraiら,Int. J. Pharm. 9:165-169 (1981))が挙げられる。上記の浸透エンハンサーは、膜完全性を混乱させることによってペプチドおよびタンパク質吸収を促進するので、種々の程度の傷害がエンハンサーと接触した粘膜組織に発生することが避けられない(Lee,前出)。膜完全性の変更は、鼻粘膜を永久に損傷し得(Hiraiら, 前出)、そして結果として、これらの物質の使用を、ヒトにおける慢性的処置に受容できなくする。
【0010】
したがって、上記の制限を有さない鼻吸収エンハンサーを開発することが、当該技術分野で望まれている。
【0011】
(II.密着結合の機能および調節)
tjまたは閉鎖帯(本明細書中以下「ZO」)は、吸収および分泌上皮の顕著な特徴の1つである(Madara,J. Clin. Invest., 83:1089-1094 (1989);およびMadara, Textbook of Secretory Diarrhea, Lebenthalら編, 第11章, 125-138頁 (1990))。先端区画と基底外側区画との間の障壁として、これらは、傍細胞経路によるイオンおよび水溶性溶質の受動拡散を選択的に調節する(Gumbiner,Am. J. Physiol., 253 (Cell Physiol. 22):C749-C758 (1987))。この障壁は、経細胞経路に関連する経路の活性によって生じる任意の勾配を維持する(Diamond,Physiologist, 20:10-18 (1977))。
【0012】
細胞形質膜の抵抗性は比較的高いので、経上皮(transepithelial)コンダクタンスの変動は、通常、傍細胞経路の透過性の変化のせいであり得る(Madara, 前出)。ZOは、この傍細胞経路における主要な障壁を表し、そして上皮組織の電気抵抗は、凍結割断電子顕微鏡検査によって観察されるように、膜貫通タンパク質鎖の数、およびZOにおけるその複雑性に依存するようである(Madaraら,J. Cell Biol., 101:2124-2133 (1985))。
【0013】
一旦静的構造とみなされると、ZOは、実際には動的でありそして種々の発達状況(Magnusonら, Dev. Biol., 67:214-224(1978);Revelら, Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol., 40:443-455 (1976);およびSchneebergerら,J. Cell Sci., 32:307-324 (1978))、生理学的状況(Gilulaら, Dev. Biol.,50:142-168 (1976);Madaraら, J. Membr. Biol., 100:149-164 (1987);Mazariegosら,J. Cell Biol., 98:1865-1877 (1984);およびSardetら, J. Cell Biol.,80:96-117 (1979))、および病理学的状況(Milksら, J. Cell Biol., 103:2729-2738 (1986);Nashら,Lab. Invest., 59:531-537 (1988);およびShasbyら, Am. J. Physiol., 255(Cell Physiol., 24):C781-C788 (1988))に容易に適応されるという豊富な証拠がある。この適応の基礎にある調節メカニズムは、まだ完全には理解されていない。しかし、Ca2+の存在下で、ZOのアセンブリが、ZOエレメントの組織化されたネットワークの形成および調節を最終的に導く生化学的事象の複雑なカスケードを引き起こす細胞相互作用の結果であることは明らかであり、その成分は、部分的にしか特徴づけられていない(Diamond,Physiologist, 20:10-18 (1977))。膜貫通タンパク質鎖の候補オクルディンが、同定されている(Furuseら, J.Membr. Biol., 87:141-150 (1985))。
【0014】
6つのタンパク質が、膜接触の基礎をなす細胞質亜膜性プラークで同定されているが、その機能は確立されるべきままである(Diamond, 前出)。ZO-1およびZO-2は、特徴づけられていない130kDタンパク質(ZO-3)との界面活性剤安定性複合体中でのヘテロダイマー(Gumbinerら,Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 88:3460-3464 (1991))として存在する。ほとんどの免疫電子顕微鏡研究によれば、ZO-1は、膜接触の正確に真下に局在した(Stevensonら,Molec. Cell Biochem., 83:129-145 (1988))。他の2つのタンパク質である、チングリン(Citiら, Nature(London), 333:272-275 (1988))および7H6抗原(Zhongら, J. Cell. Biol.,120:477-483 (1993))は、膜からさらに局在化されており、そしていまだにクローニングされていない。低分子量GTP結合タンパク質Rab 13はまた、最近、結合領域に局在化されている(Zahraouiら,J. Cell Biol., 124:101-115 (1994))。他の低分子量GTP結合タンパク質は、皮質細胞骨格を調節することが公知である。すなわち、rhoは、フォーカルコンタクトでアクチン-膜付着を調節し(Ridleyら,Cell, 70:389-399 (1992))、そしてracは、増殖因子誘導性膜波打ち(ruffling)を調節する(Ridleyら,Cell, 70:401-410 (1992))。よりよく特徴づけられている細胞結合、フォーカルコンタクト(Guanら, Nature,358:690-692 (1992))、および密着結合(Tsukitaら, J. Cell Biol., 123:1049-1053(1993))におけるプラークタンパク質の公知の機能との類似に基づいて、tj結合型プラークタンパク質は、細胞膜を横切って両方向でシグナルを伝達すること、および皮質アクチン細胞骨格への連結を調節することに関与すると仮定されている。
【0015】
上皮が受ける多くの多様な生理学的および病理学的攻撃に応じるために、ZOは、複雑な調節システムの存在を必要とする、迅速かつ同調した応答ができなければならない。ZOのアセンブリおよび調節に関与するメカニズムの正確な特徴づけは、現在活発な研究領域である。
【0016】
現在、tjの構造的および機能的結合が、アクチン細胞骨格と吸収細胞のtj複合体との間に存在するという証拠の一群がある(Gumbinerら,前出;Madaraら, 前出;およびDrenchahnら, J. Cell Biol., 107:1037-1048 (1988))。アクチン細胞骨格は、その正確な構造がアクチン結合タンパク質の大きな骨組み(cadre)によって調節される細糸の複雑な網(meshwork)から構成される。どのようにアクチン結合タンパク質のリン酸化の状態が、細胞形質膜に連結する細胞骨格を調節し得るかの1例は、ミリストイル化アラニンリッチCキナーゼ基質(本明細書中以下「MARCKS」)である。MARCKSは、形質膜の細胞質面と会合する特異的プロテインキナーゼC(本明細書中以下「PKC」)基質である(Aderem,Elsevier Sci. Pub. (UK), 438-443頁 (1992))。その非リン酸化形態では、MARCKSは、膜アクチンに架橋する。したがって、MARCKSを介して膜に会合するアクチン網は、比較的堅固であるようである(Hartwigら,Nature, 356:618-622 (1992))。活性化されたPKCは、MARCKSをリン酸化し、これは膜から放出される(Rosenら, J.Exp. Med., 172:1211-1215 (1990);およびThelenら, Nature, 351:320-322 (1991))。MARCKSに連結したアクチンは、膜とは空間的に分離され、そしてより可塑性であるようである。MARCKSが脱リン酸化される場合、これは膜に戻り、そして膜で再度アクチンを架橋する(Hartwigら,前出;およびThelenら, 前出)。これらのデータは、F-アクチンネットワークが、アクチン結合タンパク質(MARCKSはそれらの1つである)を含むPKC依存性リン酸化プロセスによって再配置され得ることを示唆する。
【0017】
種々の細胞内メディエーターは、tjの機能および/または構造を変えることが示されている。両生類胆嚢の密着結合(Duffeyら, Nature,204:451-452 (1981))、ならびに金魚(Bakkerら, Am. J. Physiol., 246:G213-G217(1984))およびヒラメ(Krasneyら, Fed.Proc., 42:1100 (1983))の両方の腸の密着結合は、細胞内cAMPが上昇するにつれて受動的イオン流に対する増強された抵抗性を示す。また、Ca2+イオノフォアへの両生類胆嚢の曝露は、tj抵抗性を増強するようであり、そしてtj構造の変化を誘導する(Palantら,Am. J. Physiol., 245:C203-C212 (1983))。さらに、ホルボールエステルによるPKCの活性化は、腎臓(Ellisら,C. Am. J. Physiol., 263 (Renal Fluid Electrolyte Physiol.32):F293-F300 (1992))、および腸(Stensonら, C. Am. J. Physiol., 265(Gastrointest.Liver Physiol., 28):G955-G962 (1993))上皮細胞株の両方で傍細胞透過性を増加させる。
【0018】
(III.閉鎖帯トキシン)
コレラトキシン(CT)をコードするctxA遺伝子を欠失することによって構築されるほとんどのVibrio Choleraeワクチン候補物は、高い抗体応答を誘起し得るが、半分より多くのワクチンはまだ軽度の下痢を生じる(Levineら, Infect.Immun., 56(1):161-167 (1988))。CTの不在下で誘導される下痢の大きさを考慮して、V. choleraeが他の腸毒素産生性因子を産生し、これがctxA配列を欠失した株にまだ存在すると仮定した(Levineら,前出)。結果として、V. choleraeによって合成されそして残存下痢の原因である、第2のトキシンである閉鎖帯トキシン(本明細書中以下「ZOT」)が発見された(Fasanoら,Proc. Nat. Acad. Sci., USA, 8:5242-5246 (1991))。zot遺伝子は、ctx遺伝子に直に隣接して位置する。V.cholerae株の中でのctx遺伝子とzot遺伝子との高い同時発生パーセント(Johnsonら, J. Clin.Microb., 31/3:732-733 (1993);およびKarasawaら, FEBS Microbiology Letters,106:143-146 (1993))は、コレラにはよくある急性脱水性下痢の原因におけるZOTの可能な相乗的役割を示唆する。最近、zot遺伝子はまた、他の腸病原体で同定されている(Tschape,2nd Asian-Pacific Symposium on Typhoid fever and other Salomellosis, 47(要約)(1994))。
【0019】
ウサギ回腸粘膜で試験される場合、ZOTは、細胞間tjの構造を調節することによって腸透過性を増加させることが、これまでに見い出されている(Fasanoら, 前出)。傍細胞経路の改変の結果として、腸粘膜がより透過性になることが見い出されている。ZOTは、Na-グルコース共役能動輸送に影響を与えず、細胞傷害性ではなく、そして経上皮抵抗性を完全に破壊しないことも見い出された(Fasanoら,前出)。
【0020】
より最近では、腸薬物送達のための経口投薬組成物で用いられる場合、ZOTが腸粘膜でtjを可逆的に開放し得、したがって治療剤と同時投与される場合には、ZOTが治療剤の腸送達をもたらし得ることが見い出されている(WO96/37196;1995年5月24日に出願された米国特許出願第08/443,864号;および1996年2月9日に出願された米国特許出願第08/598,852号;これらのそれぞれは、その全体が参考として本明細書中に援用される)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明では、治療剤と同時投与される場合、ZOTが治療剤の鼻吸収を増強し得ることを、初めて証明した。この所見は、以下の理由のため、予期しないものであった:
(1)Vibrio choleraは、本来、腸粘膜に感染するが、鼻粘膜に感染しない;
(2)腸粘膜におけるZOTの効果は均一ではない、すなわち、ZOTは、小腸でのみその透過効果を示し、大腸では示さない;および
(3)ZOTの局所的効果は、腸内のそのレセプターの分布に関連するようである、すなわち、レセプターは、空腸および回腸における絨毛の先端の成熟細胞によってのみ発現される。これは結腸細胞(colococyte)の表面に存在しない(Fioreら,Gastroenterology, 110:A323 (1996))。これまで、ZOTレセプターが鼻粘膜の表面で発現されるかどうかは未知であった。
したがって、Vibrio choleraトキシン、例えば、ZOTが、鼻上皮のtjに何らかの効果を有するという、合理的な予想はなかった。
【課題を解決するための手段】
【0022】
(発明の要旨)
(項目1) 鼻送達のための鼻投薬組成物であって:
(A)治療剤;および
(B)鼻吸収を増強する有効量の精製されたVibrio cholera閉鎖帯トキシン、
を含む、組成物。
(項目2) 前記治療剤が、薬物化合物、生物学的に活性なペプチド、およびワクチンからなる群より選択される、項目1に記載の鼻投薬組成物。
(項目3) 前記薬物化合物が、心血管系で作用する薬物、中枢神経系で作用する薬物、抗腫瘍性薬物、および抗生物質からなる群より選択される、項目2に記載の鼻投薬組成物。
(項目4) 前記心血管系で作用する薬物が、リドカイン、アデノシン、ドブタミン、ドーパミン、エピネフリン、ノルエピネフリン、およびフェントールアミンからなる群より選択される、項目3に記載の鼻投薬組成物。
(項目5) 前記中枢神経系で作用する薬物が、ドキサプラム、アルフェンタニル、デゾシン、ナルブフィン、ブプレノルフィン、ナロキソン、ケトロラク、ミダゾラム、プロポフォール、メトクリン、ミバクリウム、およびスクシニルコリンからなる群より選択される、項目3に記載の鼻投薬組成物。
(項目6) 前記抗腫瘍性薬物が、シタラビン、マイトマイシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、およびビンブラスチンからなる群より選択される、項目3に記載の鼻投薬組成物。
(項目7) 前記抗生物質が、メチシリン、メズロシリン、ピペラシリン、セフォキシチン、セフォニシド、セフメタゾール、およびアズトレオナムからなる群より選択される、項目3に記載の鼻投薬組成物。
(項目8) 前記生物学的に活性なペプチドが、ホルモン、リンホカイン、グロブリン、およびアルブミンからなる群より選択される、項目2に記載の鼻投薬組成物。
(項目9) 前記ホルモンが、テストステロン、ナンドロロン、メノトロピン、プロゲステロン、インスリン、およびウロフォリトロピンからなる群より選択される、項目8に記載の鼻投薬組成物。
(項目10) 前記リンホカインが、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、インターロイキン-1、インターロイキン-2、インターロイキン-4、およびインターロイキン-8からなる群より選択される、項目8に記載の鼻投薬組成物。
(項目11) 前記グロブリンが、多価IgG、および特異的IgG、IgA、またはIgMからなる群より選択される免疫グロブリンである、項目8に記載の鼻投薬組成物。
(項目12) 治療剤対閉鎖帯トキシンの比が、約1:10〜3:1の範囲にある、項目1に記載の鼻投薬組成物。
(項目13) 治療剤対閉鎖帯トキシンの比が、約1:5〜2:1の範囲にある、項目12に記載の鼻投薬組成物。
(項目14) 閉鎖帯トキシンが、約40ng〜1000ngの量で前記組成物中に存在する、項目1に記載の鼻投薬組成物。
(項目15) 閉鎖帯トキシンが、約400ng〜800ngの量で前記組成物中に存在する、項目14に記載の鼻投薬組成物。
(項目16) 以下を含む治療剤の鼻送達のための鼻投薬組成物を投与する工程を包含する、生物学的成分の鼻送達のための方法:
(A)治療剤;および
(B)鼻吸収を増強する有効量の精製されたVibrio cholera閉鎖帯トキシン。
(項目17) 前記治療剤が、薬物化合物、生物学的に活性なペプチド、およびワクチンからなる群より選択される、項目16に記載の方法。
(項目18) 前記薬物化合物が、心血管系で作用する薬物、中枢神経系で作用する薬物、抗腫瘍性薬物、および抗生物質からなる群より選択される、項目17に記載の方法。
(項目19) 前記心血管系で作用する薬物が、リドカイン、アデノシン、ドブタミン、ドーパミン、エピネフリン、ノルエピネフリン、およびフェントールアミンからなる群より選択される、項目18に記載の方法。
(項目20) 前記中枢神経系で作用する薬物が、ドキサプラム、アルフェンタニル、デゾシン、ナルブフィン、ブプレノルフィン、ナロキソン、ケトロラク、ミダゾラム、プロポフォール、メトクリン、ミバクリウム、およびスクシニルコリンからなる群より選択される、項目18に記載の方法。
(項目21) 前記抗腫瘍性薬物が、シタラビン、マイトマイシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、およびビンブラスチンからなる群より選択される、項目18に記載の方法。
(項目22) 前記抗生物質が、メチシリン、メズロシリン、ピペラシリン、セフォキシチン、セフォニシド、セフメタゾール、およびアズトレオナムからなる群より選択される、項目18に記載の方法。
(項目23) 前記生物学的に活性なペプチドが、ホルモン、リンホカイン、グロブリン、およびアルブミンからなる群より選択される、項目17に記載の方法。
(項目24) 前記ホルモンが、テストステロン、ナンドロロン、メノトロピン、インスリン、およびウロフォリトロピンからなる群より選択される、項目23に記載の方法。
(項目25) 前記リンホカインが、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、インターロイキン-1、インターロイキン-2、インターロイキン-4、およびインターロイキン-8からなる群より選択される、項目23に記載の方法。
(項目26) 前記グロブリンが、多価IgG、および特異的IgG、IgA、またはIgMからなる群より選択される免疫グロブリンである、項目23に記載の方法。
(項目27) 治療剤対閉鎖帯トキシンの比が、約1:10〜3:1の範囲にある、項目16に記載の方法。
(項目28) 治療剤対閉鎖帯トキシンの比が、約1:5〜2:1の範囲にある、項目27に記載の方法。
(項目29) 閉鎖帯トキシンが、約40ng〜1000ngの量で前記組成物中に存在する、項目16に記載の方法。
(項目30) 閉鎖帯トキシンが、約400ng〜800ngの量で前記組成物中に存在する、項目29に記載の方法。
(項目31) 前記閉鎖帯トキシンが、鼻における最終濃度が約10−5M〜10−10Mの範囲にあるような量で投与される、項目16に記載の方法。
(項目32) 前記閉鎖帯トキシンが、鼻における最終濃度が約10−6M〜5.0×10−8Mの範囲にあるような量で投与される、項目31に記載の方法。
【0023】
本発明の目的は、可逆的および再現可能な方法でtjを迅速に開放させる鼻吸収エンハンサーを提供することである。
【0024】
本発明の別の目的は、鼻上皮を傷付けることなく安全に使用され得る鼻吸収エンハンサーを提供することである。
【0025】
本発明のさらに別の目的は、治療剤の全身送達を可能にする鼻投薬組成物を提供することである。
【0026】
本発明のなお別の目的は、鼻粘膜によって吸収されるような治療剤の鼻送達のための方法を提供することである。
【0027】
本発明のこれらおよび他の目的は、本明細書中以下に提供される本発明の詳細な説明から明らかであり、以下を含む鼻送達のための鼻投薬組成物による1つの実施態様において満たされている:
(A)治療剤;および
(B)鼻吸収を増強する有効量の閉鎖帯トキシン。
【0028】
別の実施態様では、本発明の上記の目的は、以下を含む鼻送達のための投薬組成物を鼻投与する工程を包含する、治療剤の鼻送達のための方法により満たされている:
(A)治療剤;および
(B)鼻吸収を増強する有効量の閉鎖帯トキシン。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(発明の詳細な説明)
上記のように、1つの実施態様では、本発明は、以下を含む鼻送達のための鼻投薬組成物に関する:
(A)治療剤;および
(B)鼻吸収を増強する有効量の閉鎖帯トキシン。
【0030】
鼻送達のための鼻投薬組成物は、当該技術分野で周知である。このような鼻投薬組成物は、一般的に、鼻投与のためのペプチドについてのキャリアとして用いられ得る(Davis, Delivery Systems for Peptide Drugs, 125:1-21 (1986))薬学的投薬形態(Martinら,Physical Chemical Principles of Pharmaceutical Sciences, 3版, 592-638頁(1983))を調製するために広く使用されている水溶性ポリマーを含む。ポリマーマトリクスに埋め込まれたペプチドの鼻吸収は、鼻粘膜線毛クリアランスの遅延によって増強されることが示されている(Illumら,Int. J. Pharm., 46:261-265 (1988))。他の可能な増強メカニズムは、ペプチド吸収のための増加した濃度勾配または減少した拡散経路を含む(Tingら、Pharm. Res., 9:1330-1335 (1992))。しかし、粘膜線毛クリアランス速度の減少は、鼻投与された全身性薬物の達成または再現性のある生物利用能への良好なアプローチであると期待されている(Gondaら,Pharm. Res., 7:69-75 (1990))。約50μmの直径を有する微粒子は鼻腔に沈着すると期待され(Bjorkら, Int.J. Pharm., 62:187-192 (1990);およびIllumら, Int. J. Pharm., 39:189-199(1987))、一方、10μm未満の直径を有する微粒子は、鼻の濾過システムから漏れ得、そして下気道において沈着し得る。直径が200μmより大きい微粒子は、鼻投与後に鼻に保持されない(Lewisら,Proc. Int. Symp. Control Rel. Bioact. Mater., 17:280-290 (1990))。
【0031】
用いられる特定の水溶性ポリマーは、本発明に重要ではなく、そして鼻投薬形態に用いられる任意の周知の水溶性ポリマーから選択され得る。鼻送達に有用な水溶性ポリマーの代表的例は、ポリビニルアルコール(PVA)である。この物質は、物理的特性が、分子量、加水分解の程度、架橋密度、および結晶性に依存する膨張性の親水性ポリマーである(Peppasら,Hydrogels in Medicine and Pharmacy, 3:109-131 (1987))。PVAは、相分離、スプレー乾燥、スプレー封埋、およびスプレー濃密化(densation)による分散した物質のコーティングに使用され得る(Tingら,前出)。
【0032】
腸送達組成物は、胃における活性薬剤(例えば、ZOTおよび治療剤)の酸性分解を防止するために胃耐性(gastroresistent)特性を有さなければならず、一方、鼻送達組成物は、粘膜線毛クリアランスを減少し、そして鼻投与された薬剤の再現性のある生物学的利用能を達成するために、一般的に、約50μmの直径を有する水溶性ポリマーを含むという点で、「鼻」送達組成物は、「腸」送達組成物とは異なる。
【0033】
用いられる特定の治療剤は、本発明に重要ではなく、そして、例えば、任意の薬物化合物、生物学的に活性なペプチド、ワクチン、またはサイズもしくは電荷にかかわらず、別の方法では経細胞経路によって吸収されない他の任意の部分であり得る。
【0034】
本発明で用いられ得る薬物化合物の例としては、心血管系で作用する薬物、中枢神経系で作用する薬物、抗腫瘍性薬物、および抗生物質が挙げられる。
【0035】
本発明で用いられ得る心血管系で作用する薬物の例としては、リドカイン、アデノシン、ドブタミン、ドーパミン、エピネフリン、ノルエピネフリン、およびフェントールアミンが挙げられる。
【0036】
本発明で用いられ得る中枢神経系で作用する薬物の例としては、ドキサプラム、アルフェンタニル、デゾシン、ナルブフィン、ブプレノルフィン、ナロキソン、ケトロラク、ミダゾラム、プロポフォール、メトクリン(metacurine)、ミバクリウム、およびスクシニルコリンが挙げられる。
【0037】
本発明で用いられ得る抗腫瘍性薬物の例としては、シタラビン、マイトマイシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、およびビンブラスチンが挙げられる。
【0038】
本発明で用いられ得る抗生物質の例としては、メチシリン、メズロシリン、ピペラシリン、セフォキシチン(cetoxitin)、セフォニシド、セフメタゾール、およびアズトレオナムが挙げられる。
【0039】
本発明で用いられ得る生物学的に活性なペプチドの例としては、ホルモン、リンホカイン、グロブリン、およびアルブミンが挙げられる。
【0040】
本発明で用いられ得るホルモンの例としては、テストステロン、ナンドロロン(nandrolene)、メノトロピン、プロゲステロン、インスリン、およびウロフォリトロピン(urofolltropin)が挙げられる。
【0041】
本発明で用いられ得るリンホカインの例としては、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、インターロイキン-1、インターロイキン-2、インターロイキン-4、およびインターロイキン-8が挙げられる。
【0042】
本発明で用いられ得るグロブリンの例としては、α-グロブリン、β-グロブリン、およびγ-グロブリン(免疫グロブリン)が挙げられる。
【0043】
本発明で用いられ得る免疫グロブリンの例としては、多価IgGまたは特異的IgG、IgA、およびIgM、例えば、抗破傷風抗体が挙げられる。
【0044】
本発明で用いられ得るアルブミンの例は、ヒト血清アルブミンおよびオボアルブミンである。
【0045】
本発明で用いられ得るワクチンの例としては、ペプチド抗原ならびに弱毒化微生物およびウイルスが挙げられる。
【0046】
本発明で用いられ得るペプチド抗原の例としては、腸毒素産生性E. coliの熱不安定性エンテロトキシンのBサブユニット、コレラトキシンのBサブユニット、腸病原体の莢膜抗原、腸病原体の線毛またはピリ線毛、HIV表面抗原、ダストアレルゲン、およびダニアレルゲンが挙げられる。
【0047】
本発明で用いられ得る弱毒化微生物およびウイルスの例としては、腸毒性Escherichia coli、腸病原性Escherichia coli、Vibrio cholerae、Shigella flexneri、Salmonella typhi、Helicobacter pylori、およびロタウイルスの弱毒化微生物およびウイルスが挙げられる(Fasanoら, Le Vaccinazioni in Pediatria, Vierucciら編, CSH,Milan, 109-121頁(1991);Guandaliniら, Management of Digestive and Liver Disorders in Infants and Children, Elsevior, Butzら編, Amsterdam, 第25章 (1993);Levineら,Sem. Ped. Infect. Dis., 5:243-250 (1994);Kaperら, Clin. Microbiol.Rev., 8:48-86 (1995);およびMacArthurら, JAMA, 273:729-734 (1995)、これらのそれぞれは、その全体が参考として本明細書中に援用される)。
【0048】
治療剤がインスリンである場合、本発明の鼻投薬組成物は、糖尿病の処置に有用である。
【0049】
用いられる治療剤の量は、本発明には重要ではなく、そして選択される特定の薬剤、処置される疾患または症状、ならびに処置される被験体の年齢、体重、および性別に依存して変化する。
【0050】
用いられる閉鎖帯トキシン(本明細書中以下「ZOT」)の量も、本発明に重要ではなく、そして処置される被験体の年齢、体重、および性別に依存して変化する。一般的に、鼻による治療剤の吸収を増強するために本発明に用いられるZOTの最終濃度は、約10−5M〜10−10M、好ましくは約10−6M〜5.0×10−8Mの範囲である。鼻でのこのような最終濃度を達成するために、本発明の単回鼻組成物中のZOTの量は、一般的に、約40ng〜1000ng、好ましくは約400ng〜800ngである。
【0051】
用いられる治療剤対ZOTの比は本発明に重要ではなく、そして選択された時間内に送達される治療剤の量に依存して変化する。一般的に、本発明で用いられる治療剤対ZOTの重量比は、約1:10〜3:1、好ましくは約1:5〜2:1の範囲である。
【0052】
ZOTはV.choleraeによって産生される。ZOTが誘導されるV. choleraの特定の株は、本発明に重要ではない。このようなV.cholerae株の例としては、569B株、395株、およびE7946株が挙げられる(Levineら, 前出;Johnsonら, 前出;およびKarasawaら,前出)。
【0053】
本明細書で使用される場合、「ZOT」とは、399アミノ酸の成熟タンパク質、ならびにtjを調節する能力を保持するその変異体をいう。例えば、アミノ酸1〜8のN末端欠失は、ZOT活性に影響を与えることなく行われ得、そしてZOTのN末端融合タンパク質は、ZOT活性に影響を与えることなく行われ得る。このような変異体は、部位特異的変異誘発によって容易に調製され得、そして本明細書に記載のようにZOT活性についてスクリーニングされ得る。
【0054】
ZOTは、例えば、zot遺伝子を過剰発現する遺伝子操作したE.coli株(Baudryら, Infect. Immun., 60:428-434 (1992))によって、単独でまたは他の遺伝子(例えば、マルトース結合タンパク質(以下の実施例1を参照のこと)またはグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(以下の実施例2を参照のこと))に融合して、入手および精製され得る。
【0055】
以下の実施例は、例示の目的のみで提供され、そして本発明の範囲を限定することを決して意図しない。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
(ZOTおよびMBP-ZOTおよびGST-ZOTの調製および精製)
A.ZOTの調製および精製
ZOTを含むM>10,000上清画分を、プラスミドpZ14で形質転換したV.cholerae株CVD110を培養した後に得た(本明細書中以下「pZ14上清」)。
【0057】
CVD110は、すべての公知のトキシン遺伝子(ctxA、zot、およびace遺伝子)が欠失しているV.cholerae(El Tor生物型)株である(Michalskiら, Infect. Immun., G1:4462-4468(1993))。
【0058】
プラスミドpZ14は、誘導性tacプロモーターによって転写されたzot遺伝子を含む。プラスミドpZ14を、HindIIIでpBB241を切断することによって構築した。pBB241を、zot配列全体を含むClaI-XbaIフラグメントをプラスミドpUC19にクローニングすることによって得た(Baudryら,前出)。5'突出部をクレノウフラグメントでフィルインし、そして線状化したプラスミドをXbaIで切断し、1.5kbのzotフラグメントを得た。このフラグメントを、Maniatisら,Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor (1989)に記載されるpHSG274で見られるKanカセットによるAmp遺伝子の中断によって改変されたベクターpTTQ181(Amersham,Arlington Heights, IL)にクローニングした。すなわち、pTTQ181を、EcoRIで切断し、フィルインし、そしてXbaIで切断した。1.5kbXbaI zotフラグメントを、正しい配向で得られたベクターに連結し、そして「pZ14」と命名した。
【0059】
M>10,000上清画分を、以下のように調製した。pZ14で形質転換したCVD110を、pZ14プラスミドを有するカナマイシン耐性株を選択するために、50μg/mlカナマイシンを含むLuriaBertani(本明細書中以下「LB」)ブロス中で、37℃にて一晩培養した。次いで、培養物を、希釈して、0.4〜0.5の初期OD 600nmを得た。次に、tacプロモーターからのZOTの発現を誘導するために、2.0mMのイソプロピル-チオ-β-D-ガラクトピラノシド(IPTG)(5'-3'Incorporation, Boulder, CO)を培養物に添加し、これを37℃にてさらに2時間インキュベートした。次に、培養培地を集め、冷却し、そして5,000×gで4℃にて10分間遠心分離した。得られた液体を集め、そして0.45μmフィルター(Millipore)に通した。次いで、得られた培養上清を、10kDaMカットオフサイズを有するCentriconフィルター(Vangard International Corp., NJ)を通す限外濾過にかけた。M>10kDa画分をリン酸緩衝化生理食塩水(pH7.4)(本明細書中以下「PBS」)で2回洗浄し、PBSで元の容量まで再構成した。
【0060】
次いで、5000mlの得られたpZ14上清を、10kDaのMWカットオフの層流フィルターを使用して1000倍濃縮し、次いで8.0%(w/v)SDS-PAGEにかけた。タンパク質バンドは、SDS-PAGEゲルのクーマシーブルー染色によって検出された。同じ様式で処理されたコントロールpTTQ181上清と比較した場合、ZOTに対応するタンパク質バンドは、いずれも検出可能でなかった。したがって、たとえzot遺伝子を、pZ14において高度に誘導性でかつ強力なtacプロモーターの後に配置しても、1000倍濃縮されたpZ14上清中のタンパク質レベルは、クーマシー染色したSDS-PAGEゲルによって、依然として検出可能ではなかった。
【0061】
B.MBP-ZOTの調製および精製
産生されたZOTの量を増加させるために、zot遺伝子を、マルトース結合タンパク質(本明細書中以下「MBP」)遺伝子とフレームを合わせて融合して、MBP-ZOT融合タンパク質を作製した。
【0062】
MBPベクターpMAL-c2(Biolab)を使用して、zot遺伝子をE.coliのmalE遺伝子に融合することによってZOTを発現および精製した。この構築物は、クローニングしたzot遺伝子の高いレベルの発現を得るために、強力な誘導性のtacプロモーター、およびmalE翻訳開始シグナルを使用する。ベクターpMAL-c2は、malEシグナル配列の正確な欠失を有し、これは融合タンパク質の細胞質発現を導く。MBPについてのアフィニティークロマトグラフィー精製を使用して、融合タンパク質の単離を容易にした(Biolab)。
【0063】
より詳細には、ベクターpMAL-c2を、EcoRI(malE遺伝子の3'末端で切断する)で線状にし、クレノウフラグメントでフィルインし、そしてXbaI(pMAL-c2ポリリンカー中に単一部位を有する)で切断した。ZOTをコードするorfを、プラスミドpBB241(Baudryら,前出)からサブクローニングした。プラスミドpBB241を、BssHIIで切断し、クレノウフラグメントでフィルインし、そしてXbaIで切断した。次いで、平滑なXbaIフラグメントを、pMAL-c2にサブクローニングして、プラスミドpLC10-cを得た。インサートおよびベクターの両方とも、平滑および付着末端を有するので、正確な配向を、インサートの5'末端に融合したmalEの3'末端で得た。次いで、pLC10-cを、E.coli株DH5αにエレクトロポレーションした。pBB241では、BssHII制限部位は、zot orf内である。したがって、ZOTのアミノ酸1〜8は、MBP-ZOT融合タンパク質から失われている。
【0064】
MBP-ZOTタンパク質を精製するために、0.2%(w/v)グルコースおよび100μg/mlアンピシリンを含む10mlのLuria Bertaniブロスに、pLC10-cを含む単一コロニーを接種し、そして37℃にて一晩、振盪しながらインキュベートした。培養物を、1.0Lの同じ新鮮な培地で1:100に希釈し、そして振盪しながら37℃にて、約1.0×10細胞/mlまで増殖させた。次いで、0.2mM IPTGを添加して、MBP-ZOT発現を誘導し、そして培養物を37℃にてさらに3時間インキュベートした。次いで、細菌をペレットにし、そして20mM Tris-HCl、0.2M NaCl、1.0mM EDTA、10mM 2-ME、1.0mM NaNを含む20mlの氷冷「カラム緩衝液」に再懸濁した。細菌懸濁液を、フレンチプレス処理によって溶解し、そして13,000×gで30分間4℃にて回転させた。上清を集め、カラム緩衝液で1:5に希釈し、そしてカラム緩衝液で予め平衡化したアミロース樹脂の1×10カラム(Biolabs,MBP-融合物精製システム)にロードした。5容量のカラム緩衝液でカラムを洗浄した後、MBP-ZOT融合タンパク質を、カラム緩衝液中10mMマルトースを10mlロードすることによって溶出させた。1.0Lの培養物からの代表的収量は、2〜3mgのタンパク質であった。
【0065】
次いで、精製したMBP-ZOT融合タンパク質のMBP融合パートナーを、20μgのMBP-ZOTにつき1.0μgの第Xa因子プロテアーゼ(Biolabs)を使用して切り離した。第Xa因子プロテアーゼは、ZOTのアミノ末端の直前で切断する。このようにして得たZOTタンパク質を、8.0%(w/v)SDS-PAGEゲルに流し、そして電気分離チャンバー(Schleicher& Schuell, Keene, NH)を使用してゲルから電気溶出した。
【0066】
Ussingチャンバーで試験した場合、得られた精製ZOTは、Rtの用量依存的減少を誘導し、7.5×10−8MのED50であった(1996年2月9日に出願された、米国特許出願第08/598,852号の図3を参照のこと)。
【0067】
C.GST-ZOTの調製および精製
第2のZOT融合タンパク質として、キメラグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)-ZOTタンパク質を発現および精製した。
【0068】
より詳細には、オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、テンプレートDNAとしてプラスミドpBB241(Baudryら, 前出)を使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってzot orfを増幅した。正方向プライマー(TCATCACGGCGCGCCAGG、配列番号1)は、zot orfのヌクレオチド15〜32に対応し、そして逆方向プライマー(GGAGGTCTAGAATCTGCCCG AT、配列番号2)は、ctxA orfの5'末端に対応した。したがって、ZOTのアミノ酸1〜5は、得られた融合タンパク質中では失われていた。増幅産物を、pGEX-2T(Pharmacia,Milwaukee, WI)中のGST遺伝子の末端に位置するポリリンカー(SmaI部位)に挿入した。pGEX-2Tは、SchistosomajaponicumのGSTとの融合タンパク質としてクローニングされた遺伝子を発現する融合タンパク質発現ベクターである。融合遺伝子は、tacプロモーターの制御下にある。IPTGでの誘導において、抑制解除が起こり、そしてGST融合タンパク質が発現される。
【0069】
pLC11と命名された、得られた組換えプラスミドを、E.coli DH5αにエレクトロポレーションした。GST-ZOT融合タンパク質を精製するために、100μg/mlアンピシリンを含む10mlのLuria Bertaniブロスに、pLC11を含む単一コロニーを接種し、そして37℃にて一晩、振盪しながらインキュベートした。培養物を、1.0Lの同じ新鮮な培地で1:100に希釈し、そして振盪しながら37℃にて約1.0×10細胞/mlまで増殖させた。次いで、0.2mMIPTGを添加して、GST-ZOT発現を誘導し、そして培養物を、37℃にてさらに3時間インキュベートした。次いで、細菌をペレットにし、20mlの氷冷PBS(pH7.4)に再懸濁し、そしてフレンチプレス方法によって溶解させた。GST-ZOT融合タンパク質は、細菌ペレット画分とともに沈殿したので、これらの条件下で不溶性であった。したがって、ペレットを、0.00625M Tris-HCl (pH6.8)、0.2M 2-ME、2.0%(w/v)SDS、0.025%(w/v)ブロモフェノールブルー、および10%(v/v)グリセロールを含むLaemli溶解緩衝液に再懸濁し、そして8.0%(w/v)PAGE-SDSゲルでの電気泳動にかけ、そしてクーマシーブリリアントブルーで染色した。融合タンパク質に対応する、約70kDa(26kDaのGST+44kDaのZOT)のバンドを、電気分離チャンバー(Schleicher & Schuell, Keene, NH)を使用してゲルから電気溶出させた。
【0070】
(実施例2)
(鼻吸収エンハンサーとしてのZOT)
tjが、隣接する上皮細胞を連結させる普遍構造を示すという観察を考慮して、本発明では、鼻粘膜の上皮の透過性が、ZOTによって調節され得ると仮定した。これを、以下のインビボ研究によって確認した。
【0071】
A.動物および試薬
6〜8週齢の雌Balb/cマウスを、Charles River (Calco, Como, Italy)から入手した。
【0072】
LT-R72は、単一変異Ala72→Argを含むEscherichiacoli熱不安定性エンテロトキシン(LT)の変異体である。この変異体を、コントロールの送達エンハンサーとして使用した。
【0073】
オボアルブミン(Ova)を、Sigma(St. Louis, MO)から入手した。
【0074】
MBP-ZOTを、上記の実施例1に記載されるように得た。
【0075】
B.免疫スケジュール
5匹のマウスの群を、以下のいずれかで5回(0、14、21、28、35日目)、鼻腔内に免疫した:
(i)5.0μgのOva単独、
(ii)5.0μgのOvaありおよびなしで、1.0μgのLT-R72、または
(iii)5.0μgのOvaありおよびなしで、0.1μgもしくは1.0μgのMBP-ZOT。
【0076】
抗原(Ova)およびアジュバント(LTまたはZOT)を、PBSで適切に希釈し、免疫直前に一緒に混合し、そして部分麻酔したマウスにGilsonピペット(15μl/外鼻孔)で送達した。麻酔剤は、0.2mg/mlキシラジンおよび5.0mg/mlのケタミンの混合物であり、そして腹腔内に投与した(0.1mlの混合物/10g体重)。
【0077】
C.血清試料の採取
血清試料を、各免疫の24時間前、および最後の免疫後に毎週、採取した。
【0078】
D.鼻洗浄液の採取
鼻洗浄液を、5回目の免疫の14日後に採取した。洗浄を、屠殺した動物で、0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)およびプロテアーゼインヒビターとしての1.0mMPMSF(Fluka, Buchs, Switzerland)を含む1.0mlのPBSでの洗浄および吸引の繰り返しによって行った。洗浄液を、−20℃で保存した。
【0079】
E.ELISAアッセイ
Ova特異的抗体の力価を評価するために、96ウェルプレートを、0.1mlのOva(45μg/ml)でコーティングした。次いで、プレートを、0.05%(v/v)Tween20を含むPBSで洗浄し、そして1.0%(w/v)BSAを含む0.2mlのPBSで37℃にて1時間ブロックした。
【0080】
個々のマウスからの血清試料またはプールした血清を、1:50希釈から始めて、PBSで連続希釈した。鼻洗浄液(個々のマウスまたはプールした動物から)を、1:10希釈から始めて、PBSで連続希釈した。次いで、希釈した試料をプレートに添加し(0.1ml/ウェル)、そして37℃にて2時間インキュベートした。次に、プレートを、0.05%(v/v)Tween20を含むPBSで洗浄した。
【0081】
血清試料を含むプレートを、0.1%(w/v)BSAおよび0.025%(v/v)Tween 20を含むPBSで1:2000に希釈した0.1mlのウサギ抗マウスIg西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合体(Dako,Glostrup, Denmark)とともに、37℃にて2時間インキュベートした。
【0082】
鼻洗浄液を含むプレートを、0.1%(w/v)BSAおよび0.025%(v/v)Tween 20を含むPBSで1:1000に希釈した0.1mlのα鎖特異的なビオチン結合ヤギ抗マウス血清(Sigma)とともに、37℃にて2時間インキュベートした。次いで、プレートを、0.05%(v/v)Tween 20を含むPBSで洗浄し、そして0.1mlのHRP結合したストレプトアビジン(Dako, 希釈1:2000)を、37℃にて2時間添加した。
【0083】
血清試料を含むプレートおよび鼻洗浄液を含むプレートの両方についての抗原に結合した抗体を、o-フェニレンジアミン基質(Sigma)を添加することによって可視化し、そして450nmでの吸光度を読んだ。力価を、OD450=0.3に対応する試料希釈の逆数として任意に決定した。バックグラウンドより0.3上の値より低い吸光度値の血清試料および鼻洗浄液を、ネガティブとみなした。
【0084】
F.Ovaに対する全身応答におけるZOTおよびLT変異体の効果
これまでの研究は、非毒性LT変異体LT-K63での鼻腔内免疫が、Ovaに対する全身応答を誘導することを示している(Di Tommasoら, Infect.Immun. 64:974-979 (1996))。第2のLT変異体であるLT-R72は、LT-K63よりもさらに免疫原性でさえあることが見い出されている。しかし、LT-R72は、動物モデルで試験した場合、反応原性(reactogenic)であることがさらに見い出されている。LT-K63およびLT-R72の両方がこの応答を誘導するメカニズムは、完全には定義されていない。しかし、これらの分子は、粘膜アジュバントとして作用するようである。
【0085】
したがって、ZOT+Ovaで鼻腔内免疫した動物におけるOvaに対する応答は、LT-R72+OvaまたはOva単独のいずれかで免疫した動物で得られた応答に匹敵した。図1に示される、血清試料に関するELISAアッセイの結果は、ZOT+Ovaで免疫した動物が、LT-R72に匹敵するOvaに対する全身応答を発現し、そしてOva単独でチャレンジした動物と比較して有意に高かったことを示す。
【0086】
ELISAによる血清試料中の抗OvaIgGサブクラスの評価は、LT-R72がIgG抗体(図2A)およびIgG2a(図2B)抗体の両方での上昇を誘導し、一方、ZOT処置した動物はIgGサブクラスのみ(図2Aおよび2B)の増加を示したことを表した。これらの結果は、ZOTおよびLT-R72抗原送達のメカニズムは異なり、一方、その効力は同等であることを示唆する。もっともらしい仮説は、LT-R72が経細胞経路(ここでは、抗原は細胞内酵素によって部分的に改変され得る)を介して抗原を送達し、一方、ZOTが傍細胞経路を介して抗原を送達するというものである。
【0087】
ZOTおよびLT-R72はまた、ZOT+OvaまたはLT-R72+Ovaのいずれかで処置されたマウスの鼻洗浄液のELISAアッセイで検出された分泌IgA力価の上昇によって決定されたように、粘膜免疫応答を誘導することが見い出された(図3を参照のこと)。
【0088】
上記の結果は、ZOTが、原型治療剤として、タンパク質の鼻送達を増強し得ることを証明する。
【0089】
本発明は、詳細に、および本発明の特定の実施態様を参照して記載されているが、種々の変更および改変が、本発明の精神および範囲から逸脱せずに、その中で行われ得ることが、当業者に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、Ova単独(白棒)、LT-R72+Ova(斜線棒)、およびZOT+Ova(点々模様の棒)で処置したマウスにおける抗Ova抗体の幾何学的に表した血清力価を示す。
【図2A】図2Aは、Ova単独(白棒)、LT-R72+Ova(斜線棒)、およびZOT+Ova(点々模様の棒)で処置したマウスにおける血清抗Ova IgG(図2A)およびIgG2a(図2B)抗体サブクラスを示す。
【図2B】図2Bは、Ova単独(白棒)、LT-R72+Ova(斜線棒)、およびZOT+Ova(点々模様の棒)で処置したマウスにおける血清抗Ova IgG(図2A)およびIgG2a(図2B)抗体サブクラスを示す。
【図3】図3は、Ova単独(白棒)、LT-R72+Ova(斜線棒)、およびZOT+Ova(点々模様の棒)で処置したマウスの鼻洗浄液中の抗Ova分泌IgA抗体を示す。
【0091】
(配列表)
【0092】
【数1−1】

【0093】
【数1−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼻送達のための鼻投薬組成物であって:
(A)治療剤;および
(B)鼻吸収を増強する有効量の精製されたVibriocholera閉鎖帯トキシン、
を含む、組成物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−28199(P2006−28199A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297014(P2005−297014)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【分割の表示】特願平10−530973の分割
【原出願日】平成10年1月9日(1998.1.9)
【出願人】(502399237)ユニバーシティ オブ メリーランド,ボルチモア (5)
【Fターム(参考)】