説明

(メタ)アクリル酸エステルの製造方法

【課題】 アルコールと、有機金属化合物及び(メタ)アクリル酸ハライドとを反応させて(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法において、オリゴマーの副生を著しく抑制できる方法を提供する。
【解決手段】 ベンゼン環上におけるフェノール性水酸基の2つのオルト位のうち一方は無置換であり他方は炭化水素基で置換されているフェノール類の存在下、アルコールと、下記式(1)又は(2)
1MgX1 (1)
1Li (2)
(式中、R1はアルキル基又はハロアルキル基を示し、X1はハロゲン原子を示す)
で表される有機金属化合物及び下記式(3)
【化1】


(式中、R2は水素原子又はメチル基を示す。X2はハロゲン原子を示す)
で表される(メタ)アクリル酸ハライドとを反応させて、対応する(メタ)アクリル酸エステルを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト原料、高機能性ポリマー原料として有用な(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸のエステル、特に第3級アルコールエステルの製造法として、有機リチウム試薬やグリニヤール試薬を用いる方法が知られている。特許文献1には、ケトン化合物と酸ハライド化合物を、有機リチウム試薬又はグリニヤール試薬の存在下で1段階で反応させて第3級アルコールエステルを調製する方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、環式骨格を有するカルボン酸ハライド又はカルボン酸エステルを、有機リチウム試薬、グリニヤール試薬等の有機金属化合物及びカルボン酸ハライドと反応させ、第3級アルコールエステルを得る方法が開示されている。特許文献3には、環式骨格を有する第3級アルコールを、有機リチウム試薬、グリニヤール試薬等の有機金属化合物及びカルボン酸ハライドと反応させ、第3級アルコールエステルを得る方法が開示されている。特許文献4には、特定の方法で得られたアクリル酸クロリドと、第3級アルコールとを反応させる第3級エステルを含むアクリルモノマーの製造法が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記の方法で(メタ)アクリル酸エステルを製造すると、原料である(メタ)アクリル酸誘導体や生成物である(メタ)アクリル酸エステルが重合してオリゴマーが副生し、これが製品中に混入して品質を低下させたり、精製分離を煩雑化させるという問題があった。また、このような不純物としてオリゴマーを含む(メタ)アクリル酸エステルをレジスト用ポリマーの原料として用いると、得られたポリマーを用いてレジスト膜を形成する際、均一且つ均質なレジスト膜が得られず、感度や解像度が低下し、基板回路の微細化が著しく進んだ今日では、所望の微細パターンを得ることが困難になる場合があった。
【0005】
特許文献5には、重合物の副生を抑えるため、2−アダマンタノン類に、重合禁止剤の存在下、有機リチウム試薬又はグリニヤール試薬と、(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリル酸無水物等とを反応させ、アダマンチル(メタ)アクリレート類を製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法は重合禁止剤も(メタ)アクリルエステル化を受け、不純物となる可能性があるという問題を有する。なお、この文献には、重合禁止剤として、ニトロソ基を有する化合物が有効であること、及びメトキシフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、カテコール、3−s−ブチルカテコール、2,2−メチレンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)等のフェノール類を単独で用いても重合禁止効果はほとんど見られないと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−182552号公報
【特許文献2】特開2002−161070号公報
【特許文献3】特開2002−173466号公報
【特許文献4】特開2002−173467号公報
【特許文献5】特開2004−91402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、アルコールと、有機金属化合物及び(メタ)アクリル酸ハライドとを反応させて(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法において、オリゴマーの副生を著しく抑制できる方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、不純物としてのオリゴマーの含有量が極めて少ない1−(1−(メタ)アクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定構造のフェノール類の存在下、アルコールと、有機金属化合物及び(メタ)アクリル酸ハライドとを反応させると、オリゴマーの副生を抑制しつつ、対応する(メタ)アクリル酸エステルを収率よく得ることができること、こうして得られた粗(メタ)アクリル酸エステルを、例えば蒸留精製するだけで、オリゴマー含有量の極めて少ない又はオリゴマーを含有しない(メタ)アクリル酸エステルを簡易に得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ベンゼン環上におけるフェノール性水酸基の2つのオルト位のうち一方は無置換であり他方は炭化水素基で置換されているフェノール類の存在下、アルコールと、下記式(1)又は(2)
1MgX1 (1)
1Li (2)
(式中、R1はアルキル基又はハロアルキル基を示し、X1はハロゲン原子を示す)
で表される有機金属化合物及び下記式(3)
【化1】

(式中、R2は水素原子又はメチル基を示す。X2はハロゲン原子を示す)
で表される(メタ)アクリル酸ハライドとを反応させて、対応する(メタ)アクリル酸エステルを得ることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供する。
【0010】
この製造方法において、アルコールとして、下記式(4)
【化2】

(式中、環Zは単環又は多環の非芳香族性又は芳香族性環を示す。R3、R4は、同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を示す)
で表される化合物を用い、(メタ)アクリル酸エステルとして、下記式(5)
【化3】

(式中、R2は水素原子又はメチル基を示す。環Z、R3、R4は前記に同じ)
で表される化合物を得てもよい。
【0011】
また、アルコールとして、下記式(6)
【化4】

で表されるα−エチル−α−メチル−1−アダマンタンメタノールを用い、(メタ)アクリル酸エステルとして、下記式(7)
【化5】

(式中、R2は水素原子又はメチル基を示す)
で表される1−(1−(メタ)アクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタンを得てもよい。
【0012】
前記フェノール類として、下記式(8)
【化6】

(式中、R5、R6は、同一又は異なって、アルキル基を示す)
で表される4−ヒドロキシ−2,5−ジアルキルフェニル基を有する化合物が好ましい。また、フェノール類として、4,4′−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、4,4′−ブチリデンビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)及び1,1,3−トリス(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタンから選択された少なくとも1種の化合物を使用できる。
【0013】
本発明は、また、不純物としてのオリゴマーの含有量が100重量ppm以下である下記式(7)
【化7】

で表される1−(1−(メタ)アクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタンを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルコールと、有機金属化合物及び(メタ)アクリル酸ハライドとの反応において、オリゴマーの副生を著しく抑制しつつ、対応する(メタ)アクリル酸エステルを収率よく製造することができる。
また、本発明によれば、不純物としてのオリゴマーの含有量が極めて少ない1−(1−(メタ)アクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタンが提供される。これは、特にフォトレジスト用ポリマーの原料単量体として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、ベンゼン環上におけるフェノール性水酸基の2つのオルト位のうち一方は無置換であり他方は炭化水素基で置換されているフェノール類の存在下、アルコールと、前記式(1)又は(2)で表される有機金属化合物及び前記式(3)で表される(メタ)アクリル酸ハライドとを反応させて、対応する(メタ)アクリル酸エステルを得る。
【0016】
[フェノール類]
前記フェノール類において、ベンゼン環上におけるフェノール性水酸基の2つのオルト位のうち一方は無置換であることが重要である。このような特定の構造を有するフェノール類を用いることにより、(メタ)アクリロイル基を有する原料や生成物の重合が抑制され、オリゴマーの副生を防止できる。フェノール性水酸基の2つのオルト位がともに置換基を有している場合には、重合抑制効果は小さい。
【0017】
ベンゼン環上におけるフェノール性水酸基の2つのオルト位のうち他方は炭化水素基で置換されている。該炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル基等のアルキル基;シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基などが挙げられる。炭化水素基の炭素数は、例えば1〜10、好ましくは1〜6、さらに好ましくは3〜6である。前記炭化水素基としては、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル基等の炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、特に、t−ブチル基が好ましい。
【0018】
前記フェノール類において、フェノール性水酸基のメタ位、パラ位には置換基を有していても有していなくてもよいが、フェノール性水酸基の2つのメタ位のうち、前記置換基を有しないオルト位に隣接する位置には、置換基として炭化水素基を有しているのが好ましい。該炭化水素基としては、前記と同様の基が挙げられるが、特にメチル基等の炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。。
【0019】
前記フェノール類の好ましい例として、前記式(8)で表される4−ヒドロキシ−2,5−ジアルキルフェニル基を有する化合物が挙げられる。式(8)中、R5、R6は、同一又は異なって、アルキル基を示す。アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基等が挙げられる。R6としては、特に、t−ブチル基が好ましく、R5としては、炭素数1〜3のアルキル基、特にメチル基が好ましい。フェノール類として、式(8)で表される4−ヒドロキシ−2,5−ジアルキルフェニル基を有する化合物を用いると、特にオリゴマーの副生が顕著に抑制される。
【0020】
前記フェノール類の代表的な例として、例えば、4,4′−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、4,4′−ブチリデンビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、1,1,3−トリス(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタンなどが挙げられる。前記フェノール類は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
前記フェノール類の使用量は、原料として用いるアルコールに対して、例えば0.01〜6重量%、好ましくは0.1〜3重量%程度である。
【0022】
[アルコール]
本発明において、原料として用いるアルコールとしては、第1級アルコール、第2級アルコール、第3級アルコールのいずれであってもよいが、本発明は、嵩高い基を有するアルコール、例えば環式骨格を有するアルコールや第3級アルコールを原料とする場合に特に有用である。また、アルコールは1価アルコール、2価アルコール、3価以上の多価アルコールのいずれであってもよいが、最終目的化合物の構造の点から、1価アルコールである場合が多い。
【0023】
原料として用いるアルコールの代表的な例として、前記式(4)で表される化合物が挙げられる。式(4)中、環Zは単環又は多環の非芳香族性又は芳香族性環を示し、R3、R4は、同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を示す。
【0024】
前記非芳香族性環には、脂環式炭化水素環(非芳香族性炭化水素環)及び非芳香族性複素環が含まれる。脂環式炭化水素環には、単環式炭化水素環及び多環式炭化水素環[スピロ炭化水素環、環集合炭化水素環、架橋環式炭化水素環(縮合環式炭化水素環を含む)]が含まれ、非芳香族性複素環には、単環式複素環及び多環式複素環(架橋環式複素環等)が含まれる。
【0025】
単環式炭化水素環としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン環などのC3-12シクロアルカン環;シクロヘキセン環などC3-12シクロアルケン環などが挙げられる。スピロ炭化水素環には、例えば、スピロ[4.4]ノナン、スピロ[4.5]デカン、スピロビシクロヘキサン環などのC5-16スピロ炭化水素環が含まれる。環集合炭化水素環としては、例えば、ビシクロヘキサン、ビパーヒドロナフタレン環などのC3-12シクロアルカン環を含む環集合炭化水素環が例示できる。
【0026】
架橋環式炭化水素環として、例えば、ピナン、ボルナン、ノルピナン、ノルボルナン、ビシクロオクタン環(ビシクロ[2.2.2]オクタン環、ビシクロ[3.2.1]オクタン環等)などの2環式炭化水素環;ホモブレダン、アダマンタン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、トリシクロ[4.3.1.12,5]ウンデカン環などの3環式炭化水素環;テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン、パーヒドロ−1,4−メタノ−5,8−メタノナフタレン環などの4環式炭化水素環などが挙げられる。
【0027】
架橋環式炭化水素環には、ジエン類の二量体の水素添加物[例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどのシクロアルカジエンの二量体の水素添加物(例えば、パーヒドロ−4,7−メタノインデンなど)、ブタジエンの二量体(ビニルシクロヘキセン)やその水素添加物など]に対応する環なども含まれる。
【0028】
また、架橋環式炭化水素環には、縮合環式炭化水素環、例えば、パーヒドロナフタレン(デカリン)、パーヒドロアントラセン、パーヒドロフェナントレン、パーヒドロアセナフテン、パーヒドロフルオレン、パーヒドロインデン、パーヒドロフェナレン環などの5〜8員シクロアルカン環が複数個縮合した縮合環も含まれる。
【0029】
好ましい架橋環式炭化水素環として、ノルボルナン、ボルナン、アダマンタン、ビシクロオクタン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、デカリン環等が挙げられる。
【0030】
単環式非芳香族性複素環として、例えば、オキソラン、オキサン、オキセパン、オキソカン環などの酸素原子含有複素環;パーヒドロアゼピン環などの窒素原子含有複素環などが挙げられる。多環式非芳香族性複素環としては架橋環式複素環などが挙げられる。
【0031】
また、前記芳香族性環には、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環が含まれる。芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フェナレン環などの単環または多環の芳香族炭化水素環が挙げられる。芳香族複素環としては、例えば、フラン、チオフェン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、アクリジン、フェナジン環などの酸素原子、窒素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を1または複数個含む単環または多環の芳香族複素環が挙げられる。
【0032】
好ましい環Zは多環の非芳香族性環(炭化水素環又は複素環)であり、特に、アダマンタン環などの2〜4個の環を含む架橋環式環(架橋環式炭化水素環又は架橋環式複素環)が好ましい。
【0033】
環Zは置換基を有していてもよい。該置換基としては、反応を損なわないものであれば特に限定されない。置換基の代表的な例として、例えば、ハロゲン原子(臭素、塩素、フッ素原子など)、アルキル基(メチル、エチル、ブチル、t−ブチル基などのC1-4アルキル基など)、保護基で保護されたヒドロキシル基、保護基で保護されたアミノ基などが挙げられる。
【0034】
前記ヒドロキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用の保護基、例えば、アルキル基(例えば、メチル、t−ブチル基などのC1-4アルキル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基など)、置換メチル基(例えば、メトキシメチル、メトキシチオメチル、ベンジルオキシメチル、t−ブトキシメチル、2−メトキシエトキシメチル基など)、置換エチル基(例えば、1−エトキシエチル、1−メチル−1−メトキシエチルなど)、アシル基(例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル基などのC1-6脂肪族アシル基;アセトアセチル基;ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシカルボニル基など)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基など)が例示できる。好ましいヒドロキシル基の保護基には、C1-4アルキル基、置換メチル基、置換エチル基、アシル基、C1-4アルコキシカルボニル基などが含まれる。
【0035】
前記アミノ基の保護基としては、前記ヒドロキシル基の保護基として例示した、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基などが挙げられる。好ましいアミノ基の保護基には、C1-4アルキル基、C1-6脂肪族アシル基、芳香族アシル基、C1-4アルコキシカルボニル基などが含まれる。
【0036】
3、R4で表されるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル基などの直鎖状又は分岐鎖状のC1-10アルキル基などが挙げられる。好ましいアルキル基は、炭素数1〜6(特に炭素数1〜4)のアルキル基である。
【0037】
前記アルコールの最も代表的な例は、前記式(6)で表されるα−エチル−α−メチル−1−アダマンタンメタノールである。
【0038】
アルコールとして、式(4)で表される化合物を用いた場合には、前記式(5)で表される(メタ)アクリル酸エステルが生成する。また、アルコールとして、式(6)で表されるα−エチル−α−メチル−1−アダマンタンメタノールを用いた場合には、前記式(7)で表される1−(1−(メタ)アクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタンが生成する。
【0039】
[有機金属化合物]
本発明では、前記式(1)又は(2)で表される有機金属化合物を用いる。式中、R1はアルキル基又はハロアルキル基を示し、X1はハロゲン原子を示す。
【0040】
1におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル基などのC1-6アルキル基などが挙げられる。これらの中でも、特に、C1-4アルキル基が好ましい。ハロアルキル基としては、トリフルオロメチル,2,2,2−トリフルオロエチル基等の前記アルキル基を構成する水素原子の1又は2以上がハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)で置き換えられた基が挙げられる。
【0041】
1におけるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0042】
式(1)で表される有機金属化合物の代表的な例として、メチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムブロミド、ブチルマグネシウムブロミド、メチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリドなどの有機マグネシウム化合物(Grignard試薬など)が挙げられる。また、式(2)で表される有機金属化合物の代表的な例として、メチルリチウム、エチルリチウム、ブチルリチウムなどの有機リチウム化合物が挙げられる。有機マグネシウム化合物はハロゲン化銅と組み合わせて用いることもできる。
【0043】
前記式(1)又は(2)で表される有機金属化合物の使用量は、原料として用いるアルコール1モルに対して、例えば1〜3モル、好ましくは1〜1.5モル程度である。
【0044】
[(メタ)アクリル酸ハライド]
本発明では、式(3)で表される(メタ)アクリル酸ハライドを用いる。式(3)中、R2は水素原子又はメチル基を示す。X2はハロゲン原子を示す。X2におけるハロゲン原子として、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0045】
代表的な(メタ)アクリル酸ハライドとして、(メタ)アクリル酸クロリド、(メタ)アクリル酸ブロミドなどが挙げられる。
【0046】
前記(メタ)アクリル酸ハライドの使用量は、前記アルコール1モルに対して、例えば1〜3モル、好ましくは1〜1.5モル程度である。
【0047】
[反応]
本発明の方法は、通常、有機溶媒中、まず、アルコールと式(1)又は(2)で表される有機金属化合物とを反応させ、次いで生成した反応中間体(アルコキシド)に、前記フェノール類(重合禁止剤)の存在下、式(3)で表される(メタ)アクリル酸ハライドを反応させることにより実施される。
【0048】
有機溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればよく、例えば、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘプタン、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素などが使用できる。
【0049】
反応温度は、有機金属化合物や反応成分の種類などにより、例えば−100℃〜150℃程度の範囲内で適宜選択できる。例えば、有機金属化合物として式(1)で表される化合物を用いる場合には、反応温度は、例えば0℃〜150℃程度、好ましくは20℃〜100℃程度である。有機金属化合物として式(2)で表される化合物を用いる場合には、反応温度は、例えば−50℃〜30℃、好ましくは−10℃〜15℃程度である。
【0050】
反応は、回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。一般には、原料アルコール及び前記フェノール類を含む溶液中に、式(1)又は(2)で表される有機金属化合物(又はこれを含む溶液)を逐次添加し、次いで、式(3)で表される(メタ)アクリル酸ハライド(又はこれを含む溶液)を系内に逐次添加する方法が行われる。前記フェノール類は、式(3)で表される(メタ)アクリル酸ハライドを添加する前の適宜な時期に系内に添加することができる。
【0051】
反応終了後、必要ならば水、メタノール等でクエンチした後、例えば、濾過、濃縮、抽出、洗浄、蒸留、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離精製手段を用いることで、目的反応生成物を得ることができる。本発明によれば、オリゴマーの副生を顕著に抑制できるため、例えば、反応終了後、反応生成物を水と有機溶媒を用いた抽出に付し、得られた有機層を、例えば濃縮、蒸留するだけで、オリゴマー含有量の極めて少ない、例えば100重量ppm以下、好ましくは50重量ppm以下の高純度の(メタ)アクリル酸エステルを得ることができる。
【0052】
こうして得られた(メタ)アクリル酸エステルは、機能性高分子のモノマーや精密化学品の中間原料などとして有用である。特に、不純物としてのオリゴマーの含有量が極めて少ないため、レジスト用ポリマーの原料単量体として好適に使用でき、得られるポリマーを用いてレジスト膜を形成すると、均一且つ均質なレジスト膜が得られ、所望の微細パターンを精度よく得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、オリゴマー量は以下の方法により求めた。
【0054】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(装置:株式会社島津製作所製、商品名「LC−20AD」、カラム:東ソー製 TSKgel G1000H 7.8mm×300mm、溶離液:テトラヒドロフラン、流速:1mL/min、検出器:RI、以下GPCという)を測定し、下式により算出した。
オリゴマー量(重量%)=(5.0〜6.9分に溶出する成分のピーク面積の和)/(すべてのピークのピーク面積の和)×100
【0055】
実施例1
窒素雰囲気下、α−エチル−α−メチル−1−アダマンタンメタノール20g(96.0mmol)、テトラヒドロフラン200g、4,4′−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)0.17gを4つ口フラスコに入れ、−5℃まで冷却した。次いで、内温を−5℃〜5℃に保ちながら、撹拌下、66mLのn−ブチルリチウム(104.9mmol)のヘキサン溶液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、さらに1時間撹拌を継続し、その後、メタクリル酸クロライド10.5g(100.5mmol)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、2時間反応させた。メタノール1.6gを添加して反応を終結させた後、イオン交換水80gを加えて十分に撹拌して反応液を分液させた。水層を除いた後、有機層にもう一度イオン交換水を80g加えて水洗した。得られた有機層中のオリゴマー量をGPCで分析したところ、0.65重量%(0.16g)であった。この有機層を濃縮し、圧力0.5torr以下、加熱温度110℃の条件で薄膜蒸留装置にて蒸留精製を行うことにより、1−(1−メタクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタンを得た。1−(1−メタクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタン中のオリゴマー量をGPCにより分析したところ、検知されなかった(検出限界:50重量ppm)。蒸留後の1−(1−メタクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタンの収率は76%であった。
【0056】
実施例2
4,4′−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)の代わりに、4,4′−ブチリデンビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)を0.18g用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
その結果、得られた有機層中のオリゴマー量をGPCで分析したところ、0.61重量%(0.15g)であった。また、蒸留して得られた1−(1−(メタ)アクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタン中のオリゴマー量をGPCにより分析したところ、検知されなかった。蒸留後の1−(1−メタクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタンの収率は77%であった。
【0057】
実施例3
4,4′−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)の代わりに、1,1,3−トリス(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタンを0.17g用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
その結果、得られた有機層中のオリゴマー量をGPCで分析したところ、0.78重量%(0.20g)であった。また、蒸留して得られた1−(1−(メタ)アクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタン中のオリゴマー量をGPCにより分析したところ、検知されなかった。蒸留後の1−(1−メタクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタンの収率は76%であった。
【0058】
比較例1
4,4′−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)の代わりに、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]を0.28g用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
その結果、得られた有機層中のオリゴマー量をGPCで分析したところ、1.81重量%(0.46g)であった。
【0059】
比較例2
4,4′−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)の代わりに、2,2′−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)を0.18g用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
その結果、得られた有機層中のオリゴマー量をGPCで分析したところ、1.77重量%(0.45g)であった。
【0060】
比較例3
4,4′−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)の代わりに、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル(TEMPO)を0.15g用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
その結果、得られた有機層中のオリゴマー量をGPCで分析したところ、0.95重量%(0.24g)であった。
【0061】
比較例4
4,4′−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)及び他の重合禁止剤を全く用いなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
その結果、得られた有機層中のオリゴマー量をGPCで分析したところ、4.16重量%(0.99g)であった。また、蒸留して得られた1−(1−メタクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタン中のオリゴマー量をGPCにより分析したところ、0.05重量%のオリゴマーが含まれていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゼン環上におけるフェノール性水酸基の2つのオルト位のうち一方は無置換であり他方は炭化水素基で置換されているフェノール類の存在下、アルコールと、下記式(1)又は(2)
1MgX1 (1)
1Li (2)
(式中、R1はアルキル基又はハロアルキル基を示し、X1はハロゲン原子を示す)
で表される有機金属化合物及び下記式(3)
【化1】

(式中、R2は水素原子又はメチル基を示す。X2はハロゲン原子を示す)
で表される(メタ)アクリル酸ハライドとを反応させて、対応する(メタ)アクリル酸エステルを得ることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項2】
アルコールが、下記式(4)
【化2】

(式中、環Zは単環又は多環の非芳香族性又は芳香族性環を示す。R3、R4は、同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を示す)
で表される化合物であり、(メタ)アクリル酸エステルが、下記式(5)
【化3】

(式中、R2は水素原子又はメチル基を示す。環Z、R3、R4は前記に同じ)
で表される化合物である請求項1記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項3】
アルコールが、下記式(6)
【化4】

で表されるα−エチル−α−メチル−1−アダマンタンメタノールであり、(メタ)アクリル酸エステルが、下記式(7)
【化5】

(式中、R2は水素原子又はメチル基を示す)
で表される1−(1−(メタ)アクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタンである請求項1記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項4】
フェノール類が、下記式(8)
【化6】

(式中、R5、R6は、同一又は異なって、アルキル基を示す)
で表される4−ヒドロキシ−2,5−ジアルキルフェニル基を有する化合物である請求項1〜3の何れかの項に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項5】
フェノール類が、4,4′−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、4,4′−ブチリデンビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)及び1,1,3−トリス(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタンから選択された少なくとも1種の化合物である請求項1〜4の何れかの項に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項6】
不純物としてのオリゴマーの含有量が100重量ppm以下である下記式(7)
【化7】

で表される1−(1−(メタ)アクリロイルオキシ−1−メチルプロピル)アダマンタン。

【公開番号】特開2011−12039(P2011−12039A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160270(P2009−160270)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】