説明

(メタ)アクリル酸エステルの製造法

【課題】(メタ)アクリル酸エステルの製造時またはその製造後に着色を除去するために精製するという煩雑な工程を必要とせずに、長期間にわたって着色がなく、安定した品質を有する(メタ)アクリル酸エステルを容易に製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】(メタ)アクリル酸成分とアルコールとを反応させることにより(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法であって、前記アルコールとして、アルデヒド価が0.04以下であるアルコールを用いることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステルの製造法に関する。さらに詳しくは、長期間にわたって着色がなく、安定した品質を有する(メタ)アクリル酸エステルの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸エステルの着色は、その品質の低下に繋がることから、(メタ)アクリル酸エステルの製造時に水を添加する方法(例えば、特許文献1参照)、(メタ)アクリル酸エステルの製造後に、生成した(メタ)アクリル酸エステルをイオン交換樹脂で処理する方法(例えば、特許文献2〜5参照)などが提案されている。
【0003】
しかし、これらの方法は、いずれも(メタ)アクリル酸エステルの製造時または製造後に、(メタ)アクリル酸エステルを処理する方法であるため、その(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に煩雑な操作を必要とすることから、(メタ)アクリル酸エステルの生産効率の低下を招くのみならず、長期間にわたって保存したときに(メタ)アクリル酸エステルに着色が生じるおそれがあるという欠点がある。
【0004】
したがって、近年、(メタ)アクリル酸エステルの製造時またはその製造後に、着色の防止のために(メタ)アクリル酸エステルを精製するという煩雑な操作を必要とせず、長期間にわたって着色がなく、安定した品質を有する(メタ)アクリル酸エステルの容易な製造法の開発が待ち望まれている。
【特許文献1】特開昭48−72113号公報
【特許文献2】特開2001−288146号公報
【特許文献3】特開2002−194022号公報
【特許文献4】特開平06−080600号公報
【特許文献5】特開平06−084391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、(メタ)アクリル酸エステルの製造時またはその製造後に着色を除去するために精製するという煩雑な工程を必要とせずに、長期間にわたって着色がなく、安定した品質を有する(メタ)アクリル酸エステルを容易に製造しうる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(メタ)アクリル酸成分とアルコールとを反応させることにより(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法であって、前記アルコールとして、アルデヒド価が0.04以下であるアルコールを用いることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造法によれば、(メタ)アクリル酸エステルの製造時またはその製造後に着色を除去するために精製するというような煩雑な工程を必要とせずに、長期間にわたって着色がなく、安定した品質を有する(メタ)アクリル酸エステルを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明においては、(メタ)アクリル酸エステルを製造する際に、アルデヒド価が0.04以下であるアルコールが用いられている点に、大きな特徴がある。
【0009】
本発明者らは、(メタ)アクリル酸エステルの着色を防止しうる方法について鋭意研究を重ねたところ、アルコールと(メタ)アクリル酸とを反応させることによって(メタ)アクリル酸エステルを製造する場合には、生成した(メタ)アクリル酸エステルを精製するために、従来、イオン交換樹脂などによる煩雑な後工程が必要であるとされていたが、そのような煩雑な後工程を行わなくても、(メタ)アクリル酸エステルの原料化合物として用いられているアルコールのアルデヒド価を0.04以下に調整し、このアルコールを用いて(メタ)アクリル酸エステルを製造した場合には、驚くべきことに(メタ)アクリル酸エステルの着色を効果的に防止することができるというまったく新しい事実が見出された。
【0010】
本発明は、前記知見に基づいて完成されたものであり、従来のように、生成した(メタ)アクリル酸エステルを精製するという煩雑な後処理を施さなくても、長期間にわたって着色がなく、安定した品質を有する(メタ)アクリル酸エステルを効率よく製造することができるので、着色のない(メタ)アクリル酸エステルの工業的生産性に優れた方法である。
【0011】
本発明の製造法で得られた(メタ)アクリル酸エステルは、有害な着色がないため、各種光学材料、ガラス板の代替用途、各種成形材料、塗料、繊維改質剤などの原料化合物として好適に使用しうるものである。
【0012】
本明細書において、「着色がない」とは、後述する方法で測定したときに(メタ)アクリル酸エステルの色数が30以下であることを意味する。
【0013】
本発明においては、原料化合物として、(メタ)アクリル酸成分およびアルコールが用いられる。
【0014】
アルコールとしては、前記したように、アルデヒド価が0.04以下であるアルコールが用いられる。
【0015】
ここで、「アルデヒド価」は、油脂が酸化作用を受けることによって生じる過酸化油脂がさらに酸化され、分解して生成するアルデヒドの量を表したものであり、試料1gあたりに消費される水酸化カリウムの重量に換算したときの値(mgKOH/g)である。
【0016】
アルコールのアルデヒド価は、例えば、アルコールを還元剤で処理することにより、低減させることができる。還元剤としては、例えば、次亜リン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、メタ二亜硫酸ナトリウム、ヒドロ亜硫酸ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。アルコールを還元剤で処理する方法としては、例えば、アルコールを還元剤の存在下で50〜150℃程度の温度に加熱する方法などが挙げられる。
【0017】
アルコールのアルデヒド価は、着色のない(メタ)アクリル酸エステルを製造する観点から、0.04以下、好ましくは0.03以下、より好ましくは0.02以下である。
【0018】
アルコールの種類は、目的とする(メタ)アクリル酸エステルのエステル部分の種類に応じて適宜決定すればよく、本発明は、かかるアルコールの種類によって決定されるものではない。アルコールの代表例としては、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノニルアルコール、デカノール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ペンタデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、へプタデシルタルコール、オクタデシルアルコール、エイコシルアルコール、ドコシルアルコールなどの直鎖または分岐鎖を有していてもよい炭素数6〜22の脂肪族1価アルコール、ヘキサンジオール、ノナンジオール、ドデカンジオールなどの直鎖または分岐鎖を有していてもよい炭素数6〜12の脂肪族多価アルコールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0019】
(メタ)アクリル酸成分として、(メタ)アクリル酸を用いる場合には、(メタ)アクリル酸とアルコールとの反応は、脱水エステル化反応によって進行する。このとき、エステル化反応時に水が生成するため、副生した水を除去しながら反応を行うことが好ましい。
【0020】
また、(メタ)アクリル酸成分として、(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合には、(メタ)アクリル酸エステルとアルコールとの反応は、エステル交換反応によって進行する。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレートなどのエステル部分の炭素数が1〜5の(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0022】
なお、(メタ)アクリル酸成分とアルコールとの反応の際には、触媒および重合防止剤を適宜用いることができる。
【0023】
触媒としては、(メタ)アクリル酸とアルコールとを反応させる場合には、脱水触媒を用いることができ、また、(メタ)アクリル酸エステルとアルコールとを反応させる場合には、エステル交換触媒を用いることができる。
【0024】
脱水触媒としては、例えば、硫酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メタンスルホン酸などが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでは、パラトルエンスルホン酸が好ましい。
【0025】
エステル交換触媒としては、例えば、硫酸などの酸、ルイス酸、アルカリ金属アルコラート、マグネシウムアルコラート、チタンアルコラート、ジアルキル錫オキサイドなどの錫化合物、アセチルアセトン金属化合物ナトリウムなどが挙げられる。これらのなかでは、例えば、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイドなどのジアルキル錫オキサイド、テトラメチルチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラブトキシチタネートなどのチタンアルコラートなどが好ましい。
【0026】
触媒の量は、反応速度を高めるとともに、多量に用いても反応速度の大幅な向上が望めず、かえって経済的でなくなることを考慮して、アルコール1モルあたり、0.001〜0.1モル、好ましくは0.01〜0.05モルであることが望ましい。
【0027】
重合防止剤としては、例えば、ハイドロキノン、メトキノン(ハイドロキノンモノメチルエーテル)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4-エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,4’−チオ−ビス[3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸n−オクタデシル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、ブチリデン(メチルブチルフェノール)、テトラビス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、3,6−ジオキサオクタメチレン-ビス〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオナート〕、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどのフェノール系化合物;4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルなどのN−オキシル化合物;塩化第一銅などの銅化合物;フェノチアジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのアミノ化合物;1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのヒドロキシルアミンなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0028】
重合防止剤の中では、メトキノンおよびフェノール系化合物が好ましく、メトキノンおよび2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールがより好ましい。
【0029】
重合防止剤の量は、生成する(メタ)アクリル酸エステルの重合を十分に防止するとともに、(メタ)アクリル酸エステルに酸化防止剤が多量に残存することによって(メタ)アクリル酸エステルの重合性が阻害されるのを抑制する観点から、アルコールの質量に対して、10〜10000ppm、好ましくは50〜1000ppmであることが望ましい。
【0030】
(メタ)アクリル酸成分とアルコールとを反応させる際には、有機溶媒を用いることができる。
【0031】
有機溶媒としては、過酸化物を生成しがたいものが好ましい。かかる有機溶媒としては、例えば、n−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、シクロヘキサンが好ましい。
【0032】
有機溶媒の量は、その種類などによって異なるので一概には決定することができないが、エステル化反応またはエステル交換反応の際に生じる水またはアルキルアルコールを系外に効率よく除去する観点から、通常、アルコール100重量部あたり、5〜200重量部、好ましくは20〜100重量部であることが望ましい。
【0033】
触媒および酸化防止剤の存在下で、(メタ)アクリル酸成分とアルコールとを反応させる方法としては、例えば、(メタ)アクリル酸成分、アルコール、触媒、酸化防止剤および有機溶媒を混合し、得られた混合物を加熱する方法などが挙げられる。その際の加熱温度は、通常、好ましくは50〜150℃、より好ましくは70〜120℃である。
【0034】
(メタ)アクリル酸成分とアルコールとを反応させる際の系内の雰囲気は、特に限定されず、通常、大気であればよい。
【0035】
(メタ)アクリル酸成分とアルコールとを反応は、生成する(メタ)アクリル酸エステルの重合を抑制する観点から、アルコールに含まれている過酸化物の量が20ppm以下、好ましくは10ppm以下となるまで行うことが望ましい。
【0036】
かくして、煩雑なイオン交換樹脂などによる後処理を施さなくても、着色のない(メタ)アクリル酸エステルを効率よく製造することができる。
【0037】
本発明の製造法によって得られた(メタ)アクリル酸エステルは、有害な着色がないため、前記したように、各種光学材料、ガラス板の代替用途、各種成形材料、塗料、繊維改質剤などの原料化合物として好適に使用しうるものである。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
実施例1
撹拌機つきの3L容の四つ口フラスコ内に、触媒としてパラトルエンスルホン酸30g、アクリル酸900g、ステアリルアルコール(アルデヒド価0.01)3000g、重合防止剤としてメトキノン1.8g、および脱水溶媒としてシクロヘキサン3300gを入れて空気気流下で攪拌し、得られた混合物を撹拌しながら88℃まで昇温し、還流させながら生成した水を除去した。その際、前記混合物のサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーで分析し、アルコールの残存量が1重量%以下となった時点で、反応を終了した。
【0040】
反応終了後、得られた反応混合物を水500gで洗浄し、未反応のアクリル酸と触媒のパラトルエンスルホン酸を除去した後、5重量%の水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、さらに未反応のアクリル酸を除去した。
【0041】
次に、系内のアルカリを除去するために、前記処理を施した反応混合物をさらに水で洗浄し、反応混合物が中性付近となったことを確認し、減圧下で70℃に加熱することにより、シクロヘキサンを除去し、ステアリルアクリレート3440gを得た(収率95.6%)。
【0042】
かくして得られたステアリルアクリレートの色数として、JIS K 6716にしたがい、APHA値(ハーゼン色数)を調べた。その結果、APHA値は、15であった。なお、APHA値の具体的な測定方法は、以下のとおりである。
【0043】
〔APHA値(ハーゼン色数)の測定方法〕
塩化白金酸カリウム1.25gおよび塩化コバルト1.00gを塩酸100mLに溶解させた後、水を加えて全量が1000mLとなるように調製し、これを標準液とした。得られた標準液のAPHA値を500とし、これをX倍に希釈したもののAPHA値を500/Xとした。例えば、標準液を2倍希釈したもののAPHA値は250、5倍に希釈したもののAPHA値は100、10倍希釈したもののAPHA値は50となる。
【0044】
次に、得られたステアリルアクリレートの色を前記標準液および希釈液と対比し、もっとも色相が近い標準液または希釈液を選択し、そのAPHA値をステアリルアクリレートの色数とした。
【0045】
なお、APHA値は、小さいことが好ましく、通常、APHA値が30以下である場合、得られる(メタ)アクリル酸エステルに着色がほとんどなく、安定した品質を有するものと考えられる。
【0046】
アルデヒド価は、以下の方法にしたがって測定した。
〔アルデヒド価の測定方法〕
(1)試薬の調製
1L容のメスフラスコ内に、塩酸ヒドロキシルアミン50gおよび蒸留水150mLを添加し、塩酸ヒドロキシルアミンを室温で溶解させた後、全量が1Lとなるようにエチルアルコールを添加し、塩酸ヒドロキシルアミン溶液を調製した。
【0047】
100mL容のメスフラスコ内に1N塩酸10mLを添加し、全量が100mLとなるようにエチルアルコールを添加し、0.1Nアルコール性塩酸溶液を調製した。
【0048】
(2)アルコールのアルデヒド価の測定
200mL容のビーカー2つを用意し、そのうちの一方に試料20gを入れ、室温でt−ブチルアルコール50mLを添加して試料を溶解させ、検液を調製した。他方のビーカーには、t−ブチルアルコール50mLのみを添加して空試験用に用いた。
【0049】
検液が入ったビーカーおよび空試験用のビーカー内に、それぞれ、前記で調製した塩酸ヒドロキシルアミン溶液10mLをホールピペットで正確に加え、40℃の水浴で1時間攪拌し、試料が溶解していることを確認した。
【0050】
次に、各ビーカーを室温まで冷却し、前記で得られた0.1Nアルコール性塩酸溶液5mLをホールピペットで正確に加えた後、0.1Nの水酸化カリウム水溶液で中和滴定を行い、式:
〔アルデヒド価(mgKOH/g)〕
=〔A−B〕×N×f×65.1÷S−〔試料の酸価〕
〔式中、Aは検液の中和滴定量(mL)、Bは空試験の中和滴定量(mL)、Nは滴定に使用した水酸化カリウムの力価(0.1N)、fは滴定に使用した水酸化カリウムの補正ファクター(力価)であり、Sは採取サンプル量(g)、試料の酸価は試料を水酸化カリウム水溶液で中和滴定することによって求められた酸価(無次元)を示す〕
に基づいて、アルコールのアルデヒド価を求めた。
【0051】
実施例2
実施例1において、アクリル酸900gの代わりにメタクリル酸1070gを用いた以外は、実施例1と同様にして、ステアリルメタクリレート3639gを得た(収率96.9%)。得られたステアリルメタクリレートの色数を実施例1と同様にして測定したところ、APHA値は、15であった。
【0052】
比較例1
実施例1において、アルコールとして、ステアリルアルコール(アルデヒド価0.01)3000gの代わりに、ステアリルアルコール(アルデヒド価0.10)3000gを用いた以外は、実施例1と同様にして、ステアリルメタクリレート3430gを得た(収率95.3%)。得られたステアリルメタクリレートの色数を実施例1と同様にして測定したところ、APHA値は、70であった。
【0053】
比較例2
従来法として、比較例1で得られたステアリルメタクリレート1000gに吸着剤〔水澤化学工業(株)製、商品名:ガレオンアースV1〕5gを加え、40℃で2時間攪拌することにより、ステアリルアクリレートに後処理を施した後、濾過を行い、ステアリルアクリレート989gを回収した(収率94.3%)。回収したステアリルアクリレートの色数を実施例1と同様にして測定したところ、APHA値は20であった。
【0054】
この方法では、比較的小さいAPHA値を有するステアリルアクリレートが得られるが、(メタ)アクリル酸エステルの製造後に、後処理を施さなければならないため、煩雑な後処理を要するのみならず、生成した(メタ)アクリル酸エステルの収率の低下を招くことがわかる。
【0055】
実施例3
比較例1で用いたのと同じステアリルアルコール(アルデヒド価0.10)3000gに、次亜リン酸ナトリウム3gを添加し、60℃で3時間加熱攪拌することにより、ステアリルアルコールに還元処理を施したところ、ステアリルアルコールのアルデヒド価は0.01であった。
【0056】
このステアリルアルコール3000gを比較例1で用いたステアリルアルコール3000gの代わりに用いた以外は、比較例1と同様にして、ステアリルメタクリレート3598gを得た(収率95.8%)。得られたステアリルメタクリレートの色数を実施例1と同様にして測定したところ、APHA値は、10であった。このことから、ステアリルアルコールのアルデヒド価を低減させることにより、得られる(メタ)アクリル酸エステルの着色を抑制することができることがわかる。
【0057】
実施例4
撹拌機つきの3L容の四つ口フラスコ内に、触媒としてパラトルエンスルホン酸40g、アクリル酸1800g、1,9−ノナンジオール(アルデヒド価0.02)1800g、重合防止剤としてメトキノン5.8g、および脱水溶媒としてシクロヘキサン2550gを入れて空気気流下で攪拌し、得られた混合物を撹拌しながら88℃まで昇温し、還流させながら生成した水を除去した。
【0058】
得られた反応混合物のサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーで分析し、アルコールの残存量が1重量%以下となった時点で、反応を終了した。
【0059】
得られた反応混合物を水250gで洗浄し、未反応のアクリル酸と触媒のパラトルエンスルホン酸を除去した後、5重量%の水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、さらに未反応のアクリル酸を除去した。
【0060】
次に、系内のアルカリを除去するために、前記処理を施した反応混合物をさらに水で洗浄し、反応混合物が中性付近となったことを確認して、減圧下で70℃に加熱することにより、シクロヘキサンを除去し、1,9−ノナンジオールジアクリレート2942gを得た(収率:97.5 %)。
【0061】
かくして得られたステアリルアクリレートの色数を実施例1と同様にして測定したところ、APHA値は、20であった。
【0062】
各実施例および各比較例で得られた(メタ)アクリル酸エステル250gをガラス製の容器内に入れ、50℃の恒温槽に入れて6ヵ月間加熱した後の(メタ)アクリル酸エステルの色数を実施例1と同様にして調べた。その結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示された結果から、各実施例で得られた(メタ)アクリル酸エステルは、いずれも、長期間にわたって保存した場合であっても着色がなく、安定した品質を有することがわかる。
【0065】
一方、比較例1で得られた(メタ)アクリル酸エステルは、初期の段階から着色しており、比較例2で得られた(メタ)アクリル酸エステルは、初期の段階では着色がほとんどないが、長期間にわたって保存した場合には、着色が発生することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の製造法で得られた(メタ)アクリル酸エステルは、着色がなく、長期間にわたって安定した品質を有するので、各種光学材料、ガラス板の代替用途、各種成形材料、塗料、繊維改質剤などの原料化合物として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸成分とアルコールとを反応させることにより(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法であって、前記アルコールとして、アルデヒド価が0.04以下であるアルコールを用いることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造法。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸成分が(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルである請求項1記載の製造法。

【公開番号】特開2007−1886(P2007−1886A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181067(P2005−181067)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】