説明

(メタ)アクリル酸チオエステルの製造方法

【課題】(メタ)アクリル酸チオエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】塩基性化合物を含む水溶液及び脂肪酸エステルの存在下に、一般式(1):


(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは塩素原子又は臭素原子である。)で表される(メタ)アクリル酸ハライドと、チオール化合物とを反応させることを特徴とする、一般式(3):


(式中、Rは、酸素原子、硫黄原子若しくは芳香環を有することのあるn価の脂肪族炭化水素基、又は酸素原子若しくは硫黄原子を有することのあるn価の芳香族炭化水素基であり、nは1又は2である。Rは、上記に同じ)で表される(メタ)アクリル酸チオエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸チオエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸チオエステルは、高屈折率光学樹脂を製造するためのモノマー成分として有用であり、該チオエステルを用いて得られる高屈折率光学樹脂は、例えば、光学レンズなどとして有効に利用されている。
【0003】
(メタ)アクリル酸チオエステルの製造法としては、アクリル酸クロライド又はメタクリル酸クロライドとチオール化合物とを、塩基性物質を含む水溶液中で反応させる方法が知られている。しかしながら、この方法では、生成物である(メタ)アクリル酸チオエステルの二重結合に、原料であるチオール化合物がマイケル付加した副生物が大量に生じるために、チオエステルの収率が低いという欠点がある。
【0004】
そこで、マイケル付加物の副生を抑えた(メタ)アクリル酸チオエステルの製造方法として、塩基性物質の水溶液及び相関移動触媒の存在下で、アクリル酸ハライド又はメタクリル酸ハライドとチオール化合物とを反応させる方法が報告されており、この方法によれば、高収率で(メタ)アクリル酸チオエステルが得られるとされている(下記特許文献1)。
【0005】
しかしながら、この方法では、(メタ)アクリル酸チオエステルの収率は向上するものの、相関移動触媒を用いることによって反応液の分液性が低下し、反応後の分液に時間を要するために、工業的な製造方法としては不利である。しかも、特許文献1には、具体的な製造方法としては、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素を用いる方法が記載されているが、ハロゲン化炭化水素は、毒性が高く沸点が低いことから、濃縮時に大気中への排出量が増え、環境への負荷が大きいという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−2708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、(メタ)アクリル酸チオエステルを、環境への負荷が少なく、工業的に有利な条件下で、収率よく製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、塩基性化合物を含む水溶液と脂肪酸エステルの存在下に、特定の(メタ)アクリル酸ハライドとチオール化合物とを反応させる場合には、相間移動触媒やハロゲン化炭化水素を用いることなく、工業的に有利な条件下で、収率よく目的とする(メタ)アクリル酸チオエステルを製造できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の(メタ)アクリル酸チオエステルの製造方法を提供するものである。
1.塩基性化合物を含む水溶液及び脂肪酸エステルの存在下に、一般式(1):
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは塩素原子又は臭素原子である。)で表される(メタ)アクリル酸ハライドと、一般式(2):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Rは、酸素原子、硫黄原子若しくは芳香環を有することのあるn価の脂肪族炭化水素基、又は酸素原子又は硫黄原子を有することのあるn価の芳香族炭化水素基であり、nは1又は2である。)で表されるチオール化合物とを反応させることを特徴とする、一般式(3):
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R、R及びnは、上記に同じ)で表される、(メタ)アクリル酸チオエステルの製造方法。
2. 脂肪酸エステルが、炭素数2〜4のモノカルボン酸の低級アルキルエステルである上記項1に記載の方法。
3. 脂肪酸エステルが、酢酸エステルである上記項1又は2に記載の方法。
4. 一般式(2)で表されるチオール化合物が、一般式(4):
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、低級アルキル基、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、アセチル基、アルデヒド基、−COOR基(Rは、低級アルキル基である)又はニトロ基であり、Aは、酸素原子、硫黄原子、又は−SO−であり、m及びnは、同一又は異なって、それぞれ、0又は1〜5の整数である。)で表される脂肪族ジチオール化合物、又は一般式(5):
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、低級アルキル基、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、アセチル基、アルデヒド基、−COOR基(Rは、低級アルキル基である)又はニトロ基であり、Aは、酸素原子、硫黄原子、又は−SO−であり、nは、0又は1〜5の整数である。)で表される芳香族ジチオール化合物である上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
【0020】
以下、本発明の(メタ)アクリル酸チオエステルの製造方法について、具体的に説明する。
【0021】
原料化合物
本発明の製造方法では、一般式(1):
【0022】
【化6】

【0023】
で表される(メタ)アクリル酸ハライドと、一般式(2):
【0024】
【化7】

【0025】
で表されるチオール化合物を原料として用いる。
【0026】
上記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸ハライドにおいて、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは塩素原子又は臭素原子である。一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸ハライドの具体例としては、アクリル酸クロライド、アクリル酸ブロマイド、メタクリル酸クロライド、及びメタクリル酸ブロマイドを挙げることができる。これらの(メタ)アクリル酸ハライドは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0027】
上記一般式(2)で表されるチオール化合物において、Rは、酸素原子、硫黄原子若しくは芳香環を有することのあるn価の脂肪族炭化水素基、又は酸素原子若しくは硫黄原子を有することのあるn価の芳香族炭化水素基であり、nは1又は2である。従って、原料とするチオール化合物が、nが1であるモノチオール化合物である場合には、Rは1価の脂肪族炭化水素基又は1価の芳香族炭化水素基であり、原料とするチオール化合物が、nが2であるジチオール化合物である場合には、Rは2価の脂肪族炭化水素基又は2価の芳香族炭化水素基である。
【0028】
本発明で用いるチオール化合物の具体例としては、Rが2価の脂肪族炭化水素基である化合物として、下記一般式(4):
【0029】
【化8】

【0030】
で表される脂肪族ジチオール化合物を例示できる。
【0031】
上記一般式(4)において、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、低級アルキル基、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、アセチル基、アルデヒド基、−COOR基(Rは、低級アルキル基である)又はニトロ基であり、Aは、酸素原子、硫黄原子、又は−SO−であり、m及びnは、同一又は異なって、それぞれ、0又は1〜5の整数である。
【0032】
これらの内で、低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の直鎖状又は分枝状の炭素数1〜4程度のアルキル基を例示できる。また、低級アルコキシ基のアルキル基としても同様に基を例示できる。
【0033】
上記一般式(4)で表されるジチオール化合物の具体例としては、1,2-エタンチオール、1,3-ジメルカプトプロパン、1,4-ジメルカプトブタン、ビス(2-メルカプトエチル)エーテル、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2-メルカプトエチル)スルホン等を例示できる。
【0034】
また、Rが2価の芳香族炭化水素基である化合物として、下記一般式(5):
【0035】
【化9】

【0036】
で表される芳香族ジチオールを例示できる。
【0037】
上記一般式(5)において、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、低級アルキル基、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、アセチル基、アルデヒド基、−COOR基(Rは、低級アルキル基である)又はニトロ基であり、Aは、酸素原子、硫黄原子、又は−SO−であり、nは、0又は1〜5の整数である。これらの内で、低級アルキル基及び低級アルコシキ基は、上記一般式(4)と同様である。
【0038】
一般式(5)で表されるジチオール化合物の具体例としては、1,4-ジメルカプトベンゼン、ビス(4-メルカプトベンゼン)エーテル、ビス(4-メルカプトベンゼン)スルフィド、ビス(4-メルカプトベンゼン)スルホン等を挙げることができる。
【0039】
(メタ)アクリル酸チオエステルの製造方法
本発明の(メタ)アクリル酸チオエステルの製造方法では、上記した一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸ハライドと一般式(2)で表されるチオール化合物とを、塩基性化合物を含む水溶液及び脂肪酸エステルの存在下において反応させることが必要である。
【0040】
このような特定の条件下において(メタ)アクリル酸ハライドとチオール化合物とを反応させることによって、ハロゲン化炭化水素類等の毒性が高く低沸点の溶媒を用いることなく、しかも、相間移動触媒を使用する必要がないことから工業的に有利な条件下において、収率よく(メタ)アクリル酸チオエステルを製造することができる。
【0041】
本発明の製造方法で用いる脂肪酸エステルとしては、特に、炭素数2〜4程度のモノカルボン酸の低級アルキルエステルが好ましい。これらのエステルは、従来用いられているハロゲン化炭化水素類と比較すると、沸点が高い化合物であり、大気中への排出量が少なく、しかも毒性が低い化合物であることから、環境への負荷が少ない化合物である。
【0042】
モノカルボン酸低級アルキルエステルの具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸tert-ブチル等の酢酸エステル;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸sec-ブチル、プロピオン酸tert-ブチル等のプロピオン酸エステル;酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸n-プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸イソブチル、酪酸sec-ブチル、酪酸tert-ブチル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸n-プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸イソブチル、イソ酪酸sec-ブチル、イソ酪酸tert-ブチル等の酪酸エステル等を挙げることができる。これらの中でも、低価格で回収が容易である点で、酢酸の低級アルキルエステル、特に酢酸イソプロピルが好ましい。
【0043】
脂肪酸エステルの使用量は、特に限定されないが、一般式(2)で表されるチオール化合物10重量部に対して、1〜1000重量部程度とすることが好ましく、5〜100重量部程度とすることがより好ましい。脂肪酸エステルの使用量が少なすぎると、生成物が析出するなどして反応が円滑に進まず収率が低下するおそれがあり、一方、脂肪酸エステルの使用量多すぎると、容積効率が悪くなり使用量に見合う効果がなく不経済である。
【0044】
本発明の製造方法で用いる塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;アンモニア、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等のアンモニウム化合物等を挙げることができる。
【0045】
塩基性化合物の使用量は、一般式(2)で表されるチオール化合物10重量部に対して、1〜100重量部程度であることが好ましく、4〜10重量部程度であることがより好ましい。塩基性化合物は、水溶液として用いられるが、その濃度が低すぎる場合には、一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸ハライドの加水分解が進行して反応性が低くなり、濃度が高すぎる場合にも、(メタ)アクリル酸ハライドの加水分解が進行しチオエステルの収率が低下する。このため、塩基性化合物を含む水溶液の濃度は、1重量%〜50重量%程度であることが好ましく、20重量%〜40重量%程度であることがより好ましい。
【0046】
原料として用いる一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸ハライドと一般式(2)で表されるチオール化合物の使用量については、特に限定的ではないが、(メタ)アクリル酸ハライドの使用量が少な過ぎると、生成した(メタ)アクリル酸チオエステルの二重結合部分に未反応のチオールが付加反応を起こしやすくなり、一方、(メタ)アクリル酸ハライドの使用量が多すぎると、未反応の(メタ)アクリル酸ハライドが加水分解して、アクリル酸またはメタクリル酸として製品中に残存する。このため、(メタ)アクリル酸ハライドの使用量は、チオール化合物に含まれるメルカプト基1モルに対して0.5〜20モル程度とすることが好ましく、1〜3モル程度とすることがより好ましい。即ち、一般式(2)においてnが1であるモノチオール化合物を原料とする場合には、モノチオール化合物1モルに対して、(メタ)アクリル酸ハライドを0.5〜20モル程度用いることが好ましく、1〜3モル程度用いることがより好ましい。また、一般式(2)においてnが2であるジチオール化合物を原料とする場合には、ジチオール化合物1モルに対して、(メタ)アクリル酸ハライドを1〜40モル程度用いることが好ましく、2〜6モル程度用いることがより好ましい。
【0047】
本発明の製造方法では、上記した塩基性化合物を含む水溶液と脂肪酸エステル化合物の存在下に、一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸ハライドと一般式(2)で表されるチオール化合物とを反応させればよく、各成分の添加順については特に限定的ではないが、例えば、下記(i)〜(iii)の方法を例示できる。
(i)脂肪族エステルを仕込んだ反応容器に、塩基性化合物とチオール化合物を含む水溶液と、(メタ)アクリル酸ハライドとを別々に同時に滴下する方法;
(ii)塩基性化合物とチオール化合物を含む水溶液と脂肪酸エステルの混合液を仕込んだ反応容器に、(メタ)アクリル酸ハライドを滴下する方法;
(iii)脂肪酸エステルと(メタ)アクリル酸ハライドの混合液を仕込んだ反応容器に、塩基性化合物とチオール化合物を含む水溶液を滴下する方法。
【0048】
これらの方法の内で、特に、(メタ)アクリル酸ハライドの加水分解を抑制するために、上記(i)に記載した脂肪族エステルを仕込んだ反応容器に、塩基性化合物とチオール化合物を含む水溶液と、(メタ)アクリル酸ハライドとを別々に同時に滴下する方法が好ましい。この場合、(メタ)アクリル酸ハライドの滴下量に比べてチオール化合物の滴下量が多くなりすぎると、(メタ)アクリル酸ハライドにチオール化合物がマイケル付加した副生物が生成し易くなるので、これを抑制するために、原料として使用する(メタ)アクリル酸ハライドの一部を脂肪酸エステルと共に予め反応容器内に仕込んでおき、これに、塩基性化合物とチオール化合物を含む水溶液と、残りの(メタ)アクリル酸ハライドとを別々に同時に滴下することが好ましい。この場合、脂肪酸エステルと共に反応容器に予め仕込む(メタ)アクリル酸ハライドの量は、原料として使用するチオール化合物に含まれるメルカプト基1モルに対して0.001〜0.5モル程度とすることが好ましく、0.01〜0.1モル程度とすることがより好ましい。即ち、モノチオール化合物を原料とする場合には、原料として使用するモノチオール化合物1モルに対して、好ましくは0.001〜0.5モル程度、より好ましくは0.01〜0.1モル程の(メタ)アクリル酸ハライドを脂肪族エステルと共に予め反応容器に仕込むことが好ましく、ジチオール化合物を原料とする場合には、原料として使用するジチオール化合物1モルに対して、好ましくは0.002〜1モル程度、より好ましくは0.02〜0.2モル程度の(メタ)アクリル酸ハライドを脂肪族エステルと共に予め反応容器に仕込むことが好ましい。
【0049】
尚、上記(i)〜(iii)のいずれの方法においても、滴下時間に要する時間は、1〜20時間とすることが好ましく、4〜6時間程度とすることがより好ましい。
【0050】
本発明の製造方法では、反応温度は、−20℃〜60℃程度であることが好ましく、−10℃〜30℃程度であることがより好ましい。反応温度が低すぎると、反応が不充分となって収率が低下するおそれがあり、一方、反応温度が高すぎるとアクリル酸ハライドの加水分解、マイケル付加反応、重合などの副反応が起こるなどして収率が低下するおそれがあるので好ましくない。反応時間は、反応温度により異なるが、通常0.5〜1時間とすればよい。
【0051】
反応中に重合反応が進行することを防止するために、必要に応じて、反応系中に重合禁止剤を存在させてもよい。この場合、例えば、一般に知られているp−メトキシフェノール、フェノチアジン、ヒドロキノン等の重合禁止剤を、チオール化合物1モルに対して、好ましくは0.0001〜0.1モル程度、より好ましくは0.001〜0.01モル程度反応溶液に溶解する方法、或いは酸素を0.01〜21モル%程度含む窒素を反応系の気相部に流通させる方法等を採用できる。
【0052】
上記した方法によって、一般式(3):
【0053】
【化10】

【0054】
(式中、R、R及びnは上記に同じ)で表される(メタ)アクリル酸チオエステルを収率よく得ることができる。得られた(メタ)アクリル酸チオエステルは、常法に従って、蒸留、結晶化などの方法で分離精製することができる。
【0055】
本発明方法で得られる(メタ)アクリル酸チオエステルは、例えば、重合性組成物用のモノマー成分として有用であり、該重合性組成物を硬化して得られる樹脂は、高屈折率光学樹脂として、眼鏡用プラスチックレンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、光ディスク基盤、プラスチック光ファイバー等の光学材料の原料として有効に利用できる。
【発明の効果】
【0056】
本発明の製造方法によれば、環境への負荷が少なく、工業的に有利な条件下で、収率よく(メタ)アクリル酸チオエステルを得ることができる。従って、本発明の方法は、簡単な方法で安価に効率よく(メタ)アクリル酸チオエステルを製造できる方法として、工業的に有用性が高い方法である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下に、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1
攪拌機、温度計、ジムロート型冷却管及び滴下ロートを備えた5Lガラス製フラスコにp−メトキシフェノール0.68g、酢酸イソプロピル1700g、及びメタクリル酸クロライド26.1gを仕込んだ。内温を5℃まで冷却した後、別途調整しておいたビス(2−メルカプトエチル)スルフィド351.4gと30%水酸化ナトリウム水溶液748.4gとを混合した液と、メタクリル酸クロライド495.9gとを別々の滴下ロートより5時間かけて同時に滴下した。滴下終了後に同温度で30分間攪拌した後、反応液を二層分液した。酢酸イソプロピルを3重量%水酸化ナトリウム水溶液、水の順で洗浄した。酢酸イソプロピルを留去することによりビス(2−メタクロイルチオエチル)スルフィド534.1g(収率81%)を得た。
【0058】
また、元素分析値、1H-NMR、13C-NMRは次の通りであった。
【0059】
C H S
分析値 49.55 6.15 33.20
計算値 49.62 6.25 33.12

1H-NMR(400MHz,CD2Cl2):δ1.93(s,6H),3.11(t,4H),3.24(t,4H),5.90(s,2H)6.09(s,2H)
13C-NMR(400MHz, CD2Cl2):δ19.6,32.5,34.2,130.4,150.0,187.0。
【0060】
実施例2
実施例1で用いたビス(2−メルカプトエチル)スルフィドをビス(2−メルカプトエチル)エーテル313.8gに代えた以外は、実施例1と同様に反応を行い、ビス(2−メタクロイルチオエチル)エーテル516.9g(収率83%)を得た。
【0061】
また、元素分析値、1H-NMR、13C-NMRは次の通りであった。
【0062】
C H S
分析値 52.20 6.23 23.20
計算値 52.53 6.61 23.37

1H-NMR(400MHz,CD2Cl2):δ1.93(s,6H),3.04(t,4H),4.04(t,4H),5.90(s,2H),6.09(s,2H)
13C-NMR(400MHz, CD2Cl2):δ19.6,32.9,69.6,130.4,150.0,187.0。
【0063】
実施例3
実施例1で用いたビス(2−メルカプトエチル)スルフィドをビス(4−メルカプトフェニル)スルフィド568.4gに代えた以外は、実施例1と同様に反応を行い、ビス(4−メタクロイルチオフェニル)スルフィド745.8g(収率85%)を得た。
【0064】
また、元素分析値、1H-NMR、13C-NMRは次の通りであった。
【0065】
C H S
分析値 62.05 4.53 24.70
計算値 62.14 4.69 24.89

1H-NMR(400MHz,CD2Cl2):δ1.93(s,6H),5.77(s,2H),5.88(s,2H),6.98(d,4H),7.04(d,4H)
13C-NMR(400MHz, CD2Cl2):δ19.6,128.6,129.8,130.4,131.0,131.3,150.0,187.0。
【0066】
実施例4
実施例1で用いたビス(2−メルカプトエチル)スルフィドをビス(4−メルカプトフェニル)エーテル531.9gに代えた以外は、実施例1と同様に反応を行い、ビス(4−メタクロイルチオフェニル)エーテル723.3g(収率86%)を得た。
【0067】
また、元素分析値、1H-NMR、13C-NMRは次の通りであった。
【0068】
C H S
分析値 64.50 4.52 17.70
計算値 64.84 4.90 17.31

1H-NMR(400MHz,CD2Cl2):δ1.93(s,6H),5.77(s,2H),5.88(s,2H),6.76(d,4H),7.14(d,4H)
13C-NMR(400MHz, CD2Cl2):δ19.6,117.6,125.6,128.9,130.4,150.0,152.9,187.0。
【0069】
実施例5
実施例1で用いたビス(2−メルカプトエチル)スルフィドをビス(4−メルカプトフェニル)スルホン641.0gに代えた以外は、実施例1と同様に反応を行い、ビス(4−メタクロイルチオフェニル)スルホン760.1g(収率80%)を得た。
【0070】
また、元素分析値、1H-NMR、13C-NMRは次の通りであった。
【0071】
C H S
分析値 57.20 4.40 22.73
計算値 57.39 4.33 22.98

1H-NMR(400MHz,CD2Cl2):δ1.93(s,6H),5.77(s,2H),5.88(s,2H),7.35(d,4H),7.74(d,4H)
13C-NMR(400MHz, CD2Cl2):δ19.6,126.8,130.2,130.4,135.3,137.5,150.0,187.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性化合物を含む水溶液及び脂肪酸エステルの存在下に、一般式(1):
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは塩素原子又は臭素原子である。)で表される(メタ)アクリル酸ハライドと、一般式(2):
【化2】

(式中、Rは、酸素原子、硫黄原子若しくは芳香環を有することのあるn価の脂肪族炭化水素基、又は酸素原子又は硫黄原子を有することのあるn価の芳香族炭化水素基であり、nは1又は2である。)で表されるチオール化合物とを反応させることを特徴とする、一般式(3):
【化3】

(式中、R、R及びnは、上記に同じ)で表される(メタ)アクリル酸チオエステルの製造方法。
【請求項2】
脂肪酸エステルが、炭素数2〜4のモノカルボン酸の低級アルキルエステルである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脂肪酸エステルが、酢酸エステルである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
一般式(2)で表されるチオール化合物が、一般式(4):
【化4】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、低級アルキル基、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、アセチル基、アルデヒド基、−COOR基(Rは、低級アルキル基である)又はニトロ基であり、Aは、酸素原子、硫黄原子、又は−SO−であり、m及びnは、同一又は異なって、それぞれ、0又は1〜5の整数である。)で表される脂肪族ジチオール化合物、又は一般式(5):
【化5】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ、低級アルキル基、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、アセチル基、アルデヒド基、−COOR基(Rは、低級アルキル基である)又はニトロ基であり、Aは、酸素原子、硫黄原子、又は−SO−であり、nは、0又は1〜5の整数である。)で表される芳香族ジチオール化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。