説明

(リグノ)セルロース材料の酵素による加水分解物のエタノール発酵からの蒸留残渣を用いてセルロース分解性およびヘミセルロース分解性の酵素を生産する方法

【課題】セルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を生産する方法を提供する。
【解決手段】本方法は、(リグノ)セルロース性の材料の酵素加水分解物のエタノール発酵からの残渣を用いる。本方法は、(リグノ)セルロース性の材料からエタノールを生産する方法であって、(リグノ)セルロース性の材料を化学的および/または物理的に前処理する工程と、セルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を用いて前処理された材料を酵素加水分解する工程と、適切なアルコール生成性の微生物によって前記加水分解物をエタノール発酵させ、発酵マストを生産する工程と、前記アルコール生成性の微生物を分離し、エタノールを分離/精製し、残渣を構成する水相を生産する工程とを包含し、該残渣は、工程2)のセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素の生産のために機能する、方法に統合されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、セルロース性またはリグノ−セルロース性材料からのエタノールの生産に係わる、セルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素の生産に関する。
【背景技術】
【0002】
1970年代以来、成分多糖類の発酵可能な糖類への加水分解後のリグノ−セルロース性バイオマスのエタノールへの変換によって、非常に多くの研究の基礎が形成された。
【0003】
落葉性樹木の木材および穀類のわらが最も広範に用いられる基質である。それらは、主として、約40〜50%のセルロース、20〜25%のヘミ−セルロースおよび15〜25%のリグニンによって構成される。
【0004】
他の資源、専用の森林栽培物、アルコール生成性の植物、精糖所および穀類加工業者からの残渣、製紙産業からの残渣およびセルロース性またはリグノ−セルロース性材料からの変換産物が用いられ得る。
【0005】
セルロース、ヘミ−セルロースおよびリグニンの3つのポリマーの中で、セルロースは、サッカロマイセス・セリビジェー(Saccharomyces cerevisiae)によってエタノールに容易に発酵するグルコースによって構成されるので、証明された高性能の産業プロセスにおいてエタノールに発酵させるための発酵可能な糖の主たる供給源である。ヘミ−セルロースに含まれるペントースは、エタノールに効率良く転換されるわけではない。エタノールへのバイオマスから誘導される単量体の糖の品質を向上させるためにサッカロマイセス、ピチア(Pichia)、カンジダ(Candida)、パチソレン(Pachysolen)、ザイモモナス(Zymomonas)、クレプシエラ(Klebsiella)、エシェリキア(Esherichia)属からの他の微生物が選択されてよい。
【0006】
リグノ−セルロース性材料をエタノールに変換する方法(図1参照)は、物理化学的な前処理工程と、これに続けて行われる酵素的または化学的加水分解工程と、放出された糖をエタノール発酵させる工程と、エタノールを回収する工程とを包含する。
【0007】
前処理工程の目的は、ヘミ−セルロースに含まれる糖、特には、ペントース(キシロースおよびアラビノース等)、ヘキソース(ガラクトース、マンノースおよびグルコース等)をモノマーの形態に遊離させ、リグニンおよびヘミ−セルロースのマトリクス中にゴム状になっているセルロースの利便性(accessibility)を向上させることにある。多くの技術が存在しており、酸性煮沸、アルカリ性煮沸、水蒸気爆砕、有機溶解方法等がある。前処理の効力は、ヘミ−セルロース回収度およびセルロース性残渣の加水分解に対する感受性によって測定される。緩和な酸性の前処理および水蒸気爆砕が最良の技術である。それらにより、ペントースを完全に回収し、加水分解に対してセルロースを良好に利用することが可能になる。
【0008】
酸性による方法またはセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を用いる酵素的な方法のいずれかによって、セルロース性の残渣は加水分解される。トリコデルマ(Trichoderma)、アスペルギルス(Aspergillus)、ペニシリウム(Penicillium)またはスエヒロタケ(Schizophyllum)属からの菌類または例えばクロストリジウム(Clostridium)属からの嫌気性菌等の微生物は、このような酵素を生じさせ、主として、植物を構成するポリマーの完全な加水分解に適したセルラーゼおよびキシラナーゼを含む。
【0009】
強酸、特には硫酸により行われる酸性の方法は有効であるが、大量の化学薬品を必要とする(酸、次いで中和のための塩基)。酵素による加水分解は、このような不利な点を受けない;それは、緩和な条件下に行われ、かつ有効である。対照的に、酵素のコストは依然として非常に高い。この理由のため、コストを低減させるために非常に多くの研究が行われた:第一には、超生産性の株を選択することおよび発酵条件を改善することによって酵素の生産量を増大させること、第二には、前処理の段階を最適化することまたは前記酵素の特定の活性を改善することによって加水分解における酵素の量を低減させることである。最近の10年の間、大部分の研究は、分子生物学的手段を備えた株を改変することによって排出されるリグノ−セルロース性の基質の加水分解に最も適切な酵素複合体を引き起こすセルラーゼの働きおよび酵素の発現の機構を理解することに関係する。
【0010】
セルラーゼの生産のために最も一般的に用いられる微生物は、菌類トリコデルマ・リーゼイ(reesei)である。野生型の株は、誘導基質、例えばセルロースの存在下に、セルロースの加水分解に最良に適合されていると考えられる酵素複合体を排出することができる。酵素複合体の酵素は、3つの主要なタイプの活性種:エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼおよびセロビアーゼを含む。リグノ−セルロース分解性材料の加水分解に活性な性質を有する他のタンパク質もトリコデルマ・リーゼイによって生産される。例えば、キシラーゼである。誘導基質の存在は、セルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性酵素の発現に重要である。炭素含有基質の性質は、酵素複合体の組成に大きな影響を有している。これは、セルロースまたはラクトース等の炭素含有誘導基質と関連してキシラーゼ活性を有意に改善し得るキシロースについての場合のことである。
【0011】
従来の遺伝子突然変異技術により、セルラーゼにおいて超生産性であるトリコデルマ・リーゼイの株が生産されることが可能になり、例えば、MCG77(特許文献1,Gallo)、MCG80(非特許文献1)、RUT C30(非特許文献2)およびCL847(非特許文献3)がある。改善により、野生型の株と比較してモノマーの糖、例えばグルコースに関する異化抑制に対する感受性が低い超生産性の株が生産された。
【0012】
組み換え型の株も、異種遺伝子をクローニングすることによって、Qm9414、Rut C30、CL847のトリコデルマ・リーゼイ株から得られた。例えば、セルラーゼの生産に必要な炭素源を多様化させるためのアスペルギルス・ニガー(niger)・インベルターゼおよび/または酵素加水分解の収率を改善するための過剰発現セロビアーゼがある。セロビアーゼは、反応中の酵素を制限すると考えられる。前記株は、発酵槽における培養のためのそれらの超生産性および適性を維持した。
【0013】
トリコデルマ・リーゼイによってセルラーゼを生産する方法により、工業スケールへの延長に関する主要な改善の主題が形成された。
【0014】
良好な酵素の生産性を得るために、トリコデルマ・リーゼイが生育することを可能にするような容易に吸収され得る炭素源およびセルラーゼの発現および培地への分泌を可能にする誘導基質を加えることが必要である。セルロースは、両方の役割を果たし得る。しかしながら、工業スケールで用いることは困難であり、可溶な炭素源であるグルコース、キシロースまたはラクトースによって置き換えられている。ラクトースは誘導基質としても作用する。セロビオースおよびソホロース等の他の可溶な糖が誘導物質として記載されているが、それらは高価過ぎて工業スケールで用いられ得ない。しかしながら、可溶な基質を用いたトリコデルマ・リーゼイによるセルビアーゼの生産物はバッチプロセスにおいてセルロースにより得られるものよりも遙かに劣っていることが分かった。これは、高濃度での容易に吸収可能な糖の抑制因子の作用に起因する。可能な炭素含有基質を連続的に供給すると、培地における残渣の濃度が制限され、糖の量が最適化されることによって異化抑制が大きくなり、より良好な収率およびより良好な酵素生産性を生じさせる(特許文献2を参照のこと。)
セルロース分解性酵素の生産のための工業的な方法において、ラクトースは、相変わらず、最も適切な基質の一つおよび最も安価なものの一つであるが、しかしながら、依然として高価であり、酵素の費用価格の約3分の1を示す。なされた進歩全てにも拘わらず、セルロース性のバイオマスをエタノールに変換する場合の酵素の費用は相変わらず高く、30〜50%であり、さらに、セルラーゼの生産のための炭素源としてラクトースを用いる場合に、この方法は外的な炭素源に依存する。この理由のために、紡績糸(spinning)、例えば加水分解されたヘミ−セルロースからの炭素含有基質の使用は、誘導炭素源が容易に入手可能であれば大きな前進である。
【特許文献1】米国特許第4275167号明細書
【特許文献2】仏国特許第2555603号明細書
【非特許文献1】アレン・エイ・エル(Allen A L)およびアンドレッティイ・アール・イー(Andreotti R E)著,「バイオテクノル−バイオエング(Biotechnol-Bioeng)」,第12巻,1982年,p.451−459
【非特許文献2】モンテネコート・ビー・エス(Montenecourt,B S)およびエブライ・ディー・イー(Eveleigh D E)著,「アプライ・エンビロン・ミクロバイオロ(Appl Environ Microbiol)」,第34巻,1997年,p.777−782
【非特許文献3】デュランド(Durand)ら著,プロク・コロスク(Proc Colloque)SFM,「ジェネチーク・デス・ミクロオーガニズムス・インダストリエル(Genetique des microorganismes industriels)」,パリ,エイチ・ヘスロット(H HESLOT)出版,1984年,p.39−50
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、特に、セルロース性またはリグノ−セルロース性材料からのエタノールの生産に係わる、セルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素の生産の方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明は、セルロース分解性の微生物によってセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を生産する方法であって、セルロース性またはリグノ−セルロース性材料の酵素加水分解物のエタノール発酵からの残渣を用いることを特徴とするものである。
【0017】
上記本発明の方法において、前記残渣は、セルロース分解性微生物の生育およびセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素の生産のための炭素源として用いられることが好ましい。
【0018】
上記本発明の方法において、前記残渣は、セルロース分解性微生物の生育のために用いられる他の炭素源への補給としての誘導炭素源として用いられることが好ましい。
【0019】
上記本発明の方法において、前記残渣は、セルロース分解性の微生物の生育およびセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素の生産のための唯一の炭素源として用いられることが好ましい。
【0020】
上記本発明の方法において、セルロース分解性の微生物は、トリコデルマ、アスペルギルス、ペニシリウムおよびスエヒロタケ属からの菌類から選択されることが好ましい。
【0021】
上記本発明の方法において、セルロース分解性の微生物は、トリコデルマ・リーゼイ種に属することが好ましい。
【0022】
上記本発明の方法において、セルロース性またはリグノ−セルロース性の材料は、わら、木材、森林栽培物、アルコール生成性植物、精糖所および穀類加工業者からの残渣、製紙産業からの残渣およびセルロース性またはリグノ−セルロース性材料からの変換産物から選択されることが好ましい。
【0023】
また、本発明は、セルロース性またはリグノ−セルロース性の材料からエタノールを生産する方法であって、1)セルロース性またはリグノセルロース性の材料を化学的および/または物理的に前処理する工程と、2)セルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を用いて、前処理された材料を酵素加水分解する工程と、3)適切なアルコール生成性の微生物によって、工程2)からの加水分解物をエタノール発酵させ、発酵マストを生産する工程と、4)工程3)において用いられたアルコール生成性の微生物を分離し、エタノールを分離/精製し、残渣を構成する水相を得る工程とを包含する方法において、該方法は、工程2)において用いられたセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を上記本発明の方法によって生産するために、該残渣が用いられることを特徴とするものである。
【0024】
上記本発明において、工程4)において、蒸留によってエタノールが発酵マストから分離され、残渣は蒸留残液によって構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、セルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を生産する方法を提供する。本方法は、(リグノ)セルロース性の材料の酵素加水分解物のエタノール発酵からの残渣を用いる。本方法は、(リグノ)セルロース性の材料からエタノールを生産する方法であって、(リグノ)セルロース性の材料を化学的および/または物理的に前処理する工程と、セルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を用いて前処理された材料を酵素加水分解する工程と、適切なアルコール生成性の微生物によって前記加水分解物をエタノール発酵させ、発酵マストを生産する工程と、前記アルコール生成性の微生物を分離し、エタノールを分離/精製し、残渣を構成する水相を生産する工程とを包含し、該残渣は、工程2)のセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素の生産のために機能する、方法に統合されてもよい。
【0026】
本発明の方法は、セルロース性またはリグノ−セルロース性材料の酵素加水分解物のエタノール発酵からの残渣を用いて、セルロース分解性の微生物によってセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を生産するので、酵素生産のための炭素源の入手が容易であり、工業スケールでの生産に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、セルロース性バイオマスの酵素加水分解物のモノマーの糖のエタノール発酵後に得られる残渣の、セルロース分解性の菌類株、特には、トリコデルマ属リーゼイからのものを用いるセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性酵素の生産のための誘導炭素源としての使用に関する。主たる炭素源は、可溶な工業用糖(例えばグルコース、ラクトースまたはキシロース)または前処理されたバイオマスからのモノマーの形態のヘミセルロースフラクションの抽出物であってよい。残渣はまた、全体的な炭素源として、すなわち、微生物の生育および発現系の誘導のために用いられてよい。この炭素源は、遺伝子的に強化された株、特には組み換え株によって用いられ得る。
【0028】
本発明の目的の一つは、容易に入手可能な誘導炭素または全体的な炭素の供給源を提案すること、セルロース性のバイオマスの加水分解に適切な活性を備えたセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を生産することである。本発明によるエタノール発酵残渣からのセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素の生産のためのフローチャートが図2に示されている。本発明はまた、品質向上できないエタノール共生産物の品質を内部的に向上させ得る。
【0029】
バイオマスを前処理する際の第1工程は、セルロース性フラクションの酵素加水分解フラクションの感受性を改善し、ヘミセルロース性フラクションを加水分解するために行われる。最も適切な方法は、酸性条件下の水蒸気爆砕である。150〜250℃の数分にわたる最適条件下、それは、ヘミセルロースをモノマーに変換するが、損失、特には、主要な糖であるフルフラール、キシロースの損失を最小にする。放出される糖は、水相中の洗浄によって抽出されてよく、その後、抽出からの固体の残渣は、セルロースおよびリグニンのみを含む。抽出後、放出された糖は、酵素の生産のために、主たる炭素源として用いられるか、または、適切な株を用いる発酵によってエタノールに品質が向上させられる。
【0030】
セルロースフラクション(加水分解されたヘミセルロース分解性フラクションおよび可能性としてのリグニンを含んでも含んでいなくてもよい)は、特定の株によって生産されるセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性酵素によって加水分解される。トリコデルマ・リーゼイ・セルラーゼは、炭素含有基質がセルロース性またはリグノ−セルロース性のバイオマスから誘導される場合に最も有効であり最も適切である。加水分解されるべき材料は、乾燥した物質の6〜25%、好ましくは10〜20%の量で水相中に懸濁させられ、pHは、4〜5.5、好ましくは4.8〜5.2に調整され、温度は、40〜60℃、好ましくは45〜50℃に調整される。加水分解反応は、セルラーゼを加えることによって開始され、通常用いられる量は、前処理された基質のグラム当たり放出されたタンパク質 10〜30mgである。反応は、概して、前処理の効力、セルラーゼの混合物の組成および加えられる酵素の量に応じて15〜48時間を要する。反応の後、放出された糖、特にはグルコースのアッセイが行われる。ろ過または遠心分離によって加水分解されていない固体フラクション(実質的にリグニンによって構成される)から糖溶液が分離される:これは、エタノール発酵のために用いられる。処理工程においてセルロース性フラクションが加水分解されたヘミセルロースを含まない場合、グルコースがこの工程で抜き出される主要な糖である。エタノール発酵からの残渣は、エタノールを分離した後、誘導炭素源または酵素生産のための主要な炭素源として用いられる。前記残渣の濃度は、セルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性酵素を生産する方法に最良に適合された炭素源の濃度を得るように調整される。
【0031】
一般的に、エタノールは、蒸留によって発酵マストから分離され、残渣は、蒸留障害物(distillation stop)によって構成される。
【0032】
セルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素の生産のために用いられる株は、トリコデルマ、アスペルギルス、ペニシリウムまたはスエヒロタケ属から、好ましくは、トリコデルマ・リーゼイ種からの菌類の株である。最良の性能の工業用株は、突然変異−選択方法によってセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性酵素を改善するように改変されたトリコデルマ・リーゼイ種に属する株、例えばIFP CL847株(仏国特許第2555803号明細書)である:遺伝子組み換え技術によって改善された株も用いられてよい。
【0033】
これらの株は、攪拌されかつ曝気された発酵槽において、それらの生育および酵素の生産に適合性のある条件下に培養される。その性質に応じて、バイオマスを生産するように選択される炭素含有基質は、滅菌前に発酵槽に導入されるか、または、該炭素含有基質は、別に滅菌され、滅菌後に20〜35g/lの初期濃度を生じさせるように発酵槽に導入される。誘導源は、この相に加えられる必要はない。酵素の生産ために選択された基質を含む水溶液が、200〜250g/lの濃度に調製される。この溶液は、誘導基質を含まなければならない。これは、初期の基質の排出後に、最適化された量である35〜45mg/(細胞のg)を供給するために注入される(供給バッチ(fed batch))。培地中の糖の残渣濃度は、この供給バッチ期の間1g/l未満である。
【0034】
下記実施例では、実施例1〜3は、適用のために与えられ、実施例4および5は本発明を例示する。
【0035】
(実施例1:ラクトースによる酵素の生産)
セルラーゼの生産は、機械的に攪拌された発酵槽において行われた。培地は、以下の組成を有する:KOH,1.66g/l; 85%HPO,2ml/l, (NHSO,2.8g/l; MgSO・7HO,0.6g/l; CaCl,0.6g/l; MnSO,3.2mg/l; ZnSO・7HO,2.8mg/l; CoCl,4.0mg/l; FeSO・7HO,10mg/l; コーン・スティープ,1.2g/l; 消泡剤,0.5ml/l。
【0036】
1.75リットルのミネラル培地および70gのラクトースを含む発酵槽が120℃で滅菌され、次いで、CL847 トリコデルマ・リーゼイ株の液体前培養物 0.25リットルにより播種した。pHの変動を制御するために5g/lのフタル酸カリウムにより補給された前培養培地は、発酵槽のものと同一であった。前培養菌類は、ラクトースにより30g/lの濃度まで生育された。播種物のための生育期間は2〜3日であり、生育は27〜30℃で振とう台上で行われた。
【0037】
46時間の生育後、発酵槽からの初期の基質が排出され、250g/lのラクトース溶液が4.5ml/hの流量で142時間の経過時間までに連続的に注入された。
【0038】
温度は、バイオマスの生育期の間27℃に維持され、その後、培養終了時まで25℃にされた。pHは、生育期の間5に調整され、その後、放出されるタンパク質の合成のために必要な窒素が供給されたアンモニア性溶液を加えることによって培養終了時まで4にされた。溶存酸素含有量は、曝気および攪拌を調整することによって15〜20%を超えるように維持された。
【0039】
酵素の生産の後、ろ過または遠心分離により菌糸から細胞外タンパク質を分離した後にフォーリン(ローリー)法を用いて細胞外のタンパク質のアッセイが行われた。セルロース分解活性が、全体的な活性およびセロビアーゼ活性(リグノ−セルロース性バイオマスの酵素加水分解を制限すると考えられる)についてろ紙活性(FPU:filter paper unit)法(filter paper activity method)を用いて測定された。FPU活性は、50g/lの初期濃度でワットマン(登録商標)番号1ペーパーを用いて測定された;60分中、等価な2g/lのグルコースを遊離した、分析される酵素溶液の試験サンプルが決定された(比色アッセイ)。セロビアーゼ活性は、セロビオースを用いて20mMの濃度で測定された;30分で0.5g/lのグルコースを遊離したサンプルの量が測定された(酵素アッセイ)。
【0040】
U/mlを単位とする活性は、分当たりかつ酵素溶液のミリリットル当たりの遊離されたグルコースのマイクロモルで表現される。
【0041】
最終マストの分析は、下記結果を生じさせた。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例2:キシロースによる酵素の生産)
酵素の生産は、実施例1と同一の条件下に行われた。
【0044】
40gの純粋なキシロースと共に1.75リットルのミネラル培地を含む発酵槽がCL847 トリコデルマ・リーゼイ株の液体前培地 0.25リットルにより播種された。前培養の炭素含有基質は、20g/lの濃度のグルコースであった。27時間の生育後、初期の基質の排出の後に、200g/lのキシロース溶液が、5ml/時の流量で164時間の経過時間まで連続的に注入された。
【0045】
最終マストの分析は、次の結果を生じさせた。
【0046】
【表2】

【0047】
(実施例3:25〜75%のラクトース−キシロース混合物による酵素の生産)
この実施例では、誘導基質としてラクトースが用いられ、初期のキシロース排出後の酵素生産期に単独で注入された。
【0048】
実施例2に記載された条件下に発酵が行われた。酵素の生産のために注入された基質溶液は、200g/lの濃度のラクトースおよびキシロースの混合物(ラクトースの濃度は50g/lである)によって置き換えられた。注入は、164時間が経過した後に停止された。
【0049】
最終マストの分析は、次の結果を生じさせた。
【0050】
【表3】

【0051】
(実施例4:処理されかつ脱ペントース化されたセルロース性材料の部分的な酵素加水分解物のエタノール発酵によって生産された残渣を誘導源として用いるキシロースによる酵素の生産)
実施例2に記載された条件下に発酵が行われた。バイオマスは、20g/lのキシロースにより生産されたバッチであった。キシロースが加えられた残渣から調製された溶液を有する供給バッチにおいて酵素が生産された。参照符号H1を有する残渣の溶液が次のようにして調製された。
【0052】
酸性条件下の水蒸気爆砕およびペントース抽出による麦わらの処理の後に得られた6kgの湿性の固体材料、すなわち、乾燥させられかつ洗浄された材料 1.4kgが、0.75リットルの0.5M酢酸ナトリウムバッファ(pH 4.8)および0.75リットルの市販のセルラーゼの溶液(すなわち、タンパク質 30g)に溶解させられた。機械的に攪拌された反応器中で行われ、50℃に維持された、24時間にわたる酵素加水分解の後、遠心分離によって懸濁液が分離された。回収された液体フラクションは、92g/lのグルコース、10.3g/lのキシロース、1.0g/lのアラビノースを含んでいた。サッカロマイセス・セリビジェー(Saccharomyces cerevisiae)を用いて前記フラクションについてエタノール発酵が行われた。パン酵母を用いてグルコースにより攪拌されたフラスコにおいて容量0.4リットルの播種物が調製された。加水分解物であるグルコースは、完全にエタノールに発酵させられた。得られたマストは、100℃に加熱し遠心分離することによってタンパク質および酵母を含んでいなかった。減圧下に濃縮した後、0.85リットルのエタノール不含有の残液(slop)H1が得られた。酵素の生産のために用いられた容量1.5リットルの基質溶液が、キシロースにより補給されたこの残液から、200g/lの炭素含有基質の最終濃度を得るように調製された。実施例1〜3に記載された条件下に発酵が行われた。136時間後に発酵は停止された。
【0053】
最終マストの分析は、下記表に示される結果を生じさせた。残渣中の不純物に関連する所望でない着色反応を避けるためにタンパク質がトリクロロ酢酸により沈殿させられた。
【0054】
【表4】

【0055】
(実施例5:処理されかつ脱ペントースされたセルロース性材料の完全な加水分解物のエタノール発酵によって生産された残渣を誘導源として用いたキシロースによる酵素の生産)
実施例4に記載されたように、バイオマスは、20g/lのキシロースにより生産されたバッチであった。キシロースが加えられた残液から調製された基質の溶液を有する供給バッチにおいて酵素が生産された。本実施例の場合、参照符号H2を有する残液の溶液は、H1について記載されたように調製されたが、加水分解は、24時間の加水分解後の初期添加と同一の酵素を加えながら48時間まで延長された。加水分解物は、110.8g/lのグルコース、11.8g/lのキシロースを含んでいた。エタノールを除去し濃縮した後の残液H2が、全糖 200g/lを含む1.5リットルの基質溶液を調製するために用いられた。実施例4の条件下に発酵が行われた。発酵は、158時間後に停止された。
【0056】
最終マストの分析は、次の結果を生じさせた。
【0057】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】リグノ−セルロース性材料をエタノールに変換する方法を示すフローシートである。
【図2】本発明によるエタノール発酵残渣からのセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素の生産を示すフローシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース分解性の微生物によってセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を生産する方法であって、
セルロース性またはリグノ−セルロース性材料の酵素加水分解物のエタノール発酵からの残渣を用いることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記残渣は、セルロース分解性微生物の生育およびセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素の生産のための炭素源として用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記残渣は、セルロース分解性微生物の生育のために用いられる他の炭素源への補給としての誘導炭素源として用いられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記残渣は、セルロース分解性の微生物の生育およびセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素の生産のための唯一の炭素源として用いられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
セルロース分解性の微生物は、トリコデルマ、アスペルギルス、ペニシリウムおよびスエヒロタケ属からの菌類から選択される、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
セルロース分解性の微生物は、トリコデルマ・リーゼイ種に属する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
セルロース性またはリグノ−セルロース性の材料は、わら、木材、森林栽培物、アルコール生成性植物、精糖所および穀類加工業者からの残渣、製紙産業からの残渣およびセルロース性またはリグノ−セルロース性材料からの変換産物から選択される、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
セルロース性またはリグノ−セルロース性の材料からエタノールを生産する方法であって、
1)セルロース性またはリグノセルロース性の材料を化学的および/または物理的に前処理する工程と、
2)セルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を用いて、前処理された材料を酵素加水分解する工程と、
3)適切なアルコール生成性の微生物によって、工程2)からの加水分解物をエタノール発酵させ、発酵マストを生産する工程と、
4)工程3)において用いられたアルコール生成性の微生物を分離し、エタノールを分離/精製し、残渣を構成する水相を得る工程と
を包含する方法において、
該方法は、工程2)において用いられたセルロース分解性および/またはヘミセルロース分解性の酵素を請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法によって生産するために、該残渣が用いられることを特徴とする方法。
【請求項9】
工程4)において、蒸留によってエタノールが発酵マストから分離され、残渣は蒸留残液によって構成される請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−217916(P2006−217916A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31835(P2006−31835)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(591007826)アンスティテュ フランセ デュ ペトロール (261)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT FRANCAIS DU PETROL
【Fターム(参考)】