説明

(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステル塩の製造方法

本発明は、(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルの塩の大規模な調製方法に関する。(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルとキラル酸との塩形成及び選択的結晶化は、エナンチオマーを製造する上で高度に効率的であり、如何なる所望されないエナンチオマー及び他の不純物も除去される。エステルとその塩が、活性物質を製造するための開始物質として使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルの塩の調製方法に関する。本発明の方法は、(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルについて、高度のエナンチオマー純度を維持しつつ行う、これらの塩の大規模での製造に特に好適である。
【背景技術】
【0002】
本発明が基礎とする(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルは、以下の一般化学式を有する、容易に特徴付けすることができる活性物質の前駆体である。
【化1】


(ここで、R1は水素、好ましくはメチル、エチル、プロピル、又はブチルであるアルキル基、又は好ましくはアリル、ベンジル、メトキシベンジル、アリロキシカルボニル、ベンジロキシカルボニル、tert.−ブチロキシカルボニル、9−フルオレニルメチロキシカルボニル、アセチル、ベンゾイル、又はフォルミルである任意の所望の保護基を示し;
2は、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルコキシ、シクロアルコキシ、アルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、アルケニル、及びアルキニルから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい、アルキル、好ましくはフェニル又はナフチルであるアリールを示し;好ましくは、R2はメチル、エチル、プロピル、又はブチルである。)
【0003】
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルは、薬学的に活性な物質を調製するための出発物質として使用される。基本構造としてのトロパンから由来する8−アザビシクロ[3.2.1]オクト−2−エン系は、ピペリジン環の第1及び第5のC原子が、エチレン基により共に結合する単不飽和複素環式の環系を構成する。例えば、この種の系は薬学的に活性なトロパン誘導体の開始生成物又は中間生成物としての一翼を担う。これらの系は、例えば、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の、有効で選択的なリガンドとの関連で重要である。そのようなリガンドが、例えば、老人性認知症、アルツハイマー病等の認知症;パーキンソン病;又はうつ病及び精神病等の認知障害等の特定の疾病に好ましい影響を有するであろうことが望まれる。
これら(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルを調製できる様々な方法が従来技術から知られている。
1つの可能性は、例えばコカイン水酸化物等のコカインを開始物質として使用し、それをアルコキシドと反応させて鏡像異性的に純粋な(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルを形成することである。このいわゆるコカイン経路は、例えば特許出願WO96/30371A1に記載され、アンヒドロエクゴニンエチルエステルを調製するための以下の反応式で説明される。
【化2】

【0004】
これは、所望の絶対配置を開始物質として用いることによるラセミ分割の必要性を回避する。
合成にコカインを開始物質として使用することの不利益は明白である:制御された、即ち合法に得られるコカインの世界市場は小さく、供給者の数が限られている。結果として、例えば、コカイン水酸化物の価格は非常に高く、コカイン経路を介した(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルの合成は、これに対応して費用のかかるものとなる。更に、コカインには薬物の一般的な扱いを規制する薬物法の効力が及び、結果として、それを入手するために連邦薬品医薬品機構(BrArM)からの特別の免除が必要になる。
従って、コカインを開始物質として必要としないアンヒドロエクゴニン系の合成、特に全合成を実施することが好ましい。
例えば、S. P. Findlay, J. Org. Chem. 1957, 22, 1385-1394には、ラセミ化合物のアンヒドロエクゴニンメチルエステルのピクリン酸塩の全合成が記載されており、ここで、前駆体2−カルボメトキシトロピノンがケトグルタル酸無水物、メチルアミン、及びスクシンジアルデヒドから出発して調製される。(2R,3R)−酒石酸(L−酒石酸)を使用し、水素酒石酸塩を介した2−カルボメトキシトロピノンのラセミ分割が記載されている。
加えて、WO2004/072071A1には水素化ホウ素ナトリウムを用いたカルボメトキシトロピノン塩基の還元と、エチルエステル中でのナトリウムエトキシドとの反応により、アンヒドロエクゴニンエチルエステルを形成することが記載されている。WO2004/072071A1において、使用される上記塩基及びそれらから得られるアンヒドロエクゴニンエチルエステルのエナンチオマー純度は言及されていない。
【0005】
先行技術に記載された上記合成方法の不利な点は、工業規模での使用のために設計されていないこと、及び大量生産のための特定の要求を満たさないことである。
先行技術には、(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルの塩の形成についての情報がほとんどない。R.C. Bick et al., Aust. J. Chem. 1979, 32, 2537-2543及びC. Grundmann et al., Liebigs Ann. Chem. 1957, 605, 24-32が例として引用されてもよい。双方の刊行物は、実験の部において、ピクリン酸塩の調製について簡潔に記載している。ピクリン酸は対掌性ではないので、この方法において、ジアステレオマー塩の形成により濃度の減少(Abreicherung)を達成することができない。理論的には、濃度の減少は収率を制御することによって初めて可能となる。
C. Grundmann et al.による刊行物は、更に(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−ジベンゾイル水素酒石酸塩の調製を記載している。C. Grundmann et al.により発行された製造仕様書は非常に複雑であり、溶媒の消費が非常に多い、つまり記載されたラセミ分割は、無理なく商業運転に変更することができない。
C.G. Grundmann et al.による刊行物は、更に、既に記載したピクリン酸を使用しない限り、著者らが如何にして、L−リンゴ酸、D−酒石酸[(2S,3S)−酒石酸]、d−10−カンファースルホン酸[(1S,4R)−カンファー−10−スルホン酸]、及び3−ブロモ−d−カンファースルホン酸−7を使用した対掌体の分離に成功しなかったのかを記載している。それ故、27ページには、「合成されたアンヒドロエクゴニンエチルエステルの、2つの光学対掌体への分割は、深刻な問題に直面する。L−リンゴ酸、D−酒石酸、d−10−カンファースルホン酸、3−ブロモ−d−カンファースルホン酸−7は、それら全てが不十分にしか結晶化しない塩しか生成しないので、好適ではない。」と記載されている。
驚くべきことに、これは本発明により反証された。
【0006】
更に、WO96/30371A1はアンヒドロエクゴニンエステルの塩を記載しているが、これはラセミ化合物の分離との関連においてのみである。しかしながら、本発明によれば、塩は、所望の鏡像異性体が常に有意に優勢である鏡像異性体の混合物の分離に使用することができる。
従って、従来技術においては、これまで(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステル類びそれらの塩の調製の、効率的で規模の拡大が可能な方法が無かった。
本発明の目的は、従って、アンヒドロエクゴニンエステル類又はそれらの塩の合成方法を提供しつつ、特に工業的な規模で使用するための、改良された合成方法を提供することである。更なる目的は、望まれないエナンチオマー及び他の不純物を最適な水準にまで激減させることを達成すると共に(mit dem Ziel)、資源を節約した、規模の拡大が可能な経済的な方法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO96/30371A1
【特許文献2】WO2004/072071A1
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S. P. Findlay, J. Org. Chem. 1957, 22, 1385-1394
【非特許文献2】R.C. Bick et al., Aust. J. Chem. 1979, 32, 2537-2543
【非特許文献3】C. Grundmann et al., Liebigs Ann. Chem. 1957, 605, 24-32
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、特許請求の範囲の教示に従った鏡像異性体的に純粋な(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルの塩の大規模で工業的生産に好適な方法が提供される。(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルのキラル酸との塩形成と選択的結晶化は、大きな効率をもって、鏡像異性体的に概ね純粋な形態に帰着し、一方で如何なる望まれない鏡像異性体、及び存在する他の不純物は激減する。上記エステル及びそれらの塩は活性物質の調製のための開始物質として使用される。
【0010】
本発明の第1の側面においては、一般化学式の(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルから出発する。
【化3】


(式中、R1は水素、好ましくはメチル、エチル、プロピル、若しくはブチルであるアルキル基、又は好ましくはアリル、ベンジル、メトキシベンジル、アリロキシカルボニル、ベンジロキシカルボニル、tert.−ブチロキシカルボニル、9−フルオレニルメチロキシカルボニル、アセチル、ベンゾイル、若しくはフォルミルである任意の所望の保護基を示し;
2は、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルコキシ、シクロアルコキシ、アルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、アルケニル、及びアルキニルから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい、アルキル、又は好ましくはフェニル若しくはナフチルであるアリールを示し;好ましくは、R2はメチル、エチル、プロピル、又はブチルである。)
1の好適な保護基は、例えば、Theodra W. Green, Peter G. M. Wuts, Protective Groups in Organic Chemistry, John Wiley, 3rd editionの先行技術中に見出すことができる。
中性のアンヒドロエクゴニンエステルの調製方法は、先行技術において述べられた注釈におおよそ忠実であるか、それらに類似する。以下に挙げられた工程(1a)から(3)に関しては、S. P. Findlay, J. Org. Chem. 1957, 22, 1385-1394、特に変形例Fが参照され、工程(4)に類似の例は当該文献に見出すことができ、続く工程(5)については、WO2004/072071、16頁、方法Aが参照される。
置換基R1及びR2が、上記の先行技術に規定されたものから逸脱する、本発明が基礎とする化合物は、同様に調製される。
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルの調製のための一般的な製造方法は、以下に要約される[方法の工程(1a)から(5)]。本発明による塩の形成が次いで記載される。方法の工程(3)及び(4)は任意である。
【0011】
(1a)式1’の化合物を形成する式の化合物とメタノールの反応。
【化4】

1 1’
【0012】
(1b)式2’の化合物を形成する式の化合物と、水及び触媒(硫酸)との反応。
【化5】

【0013】
(2)式の化合物を形成する式1’の化合物、及び式2’の化合物と、R1−アミンとの反応。
【化6】

1’ 2’
(式中、R1は水素、好ましくはメチル、エチル、プロピル、若しくはブチルであるアルキル基、又は好ましくはアリル、ベンジル、メトキシベンジル、アリロキシカルボニル、ベンジロキシカルボニル、tert.−ブチロキシカルボニル、9−フルオレニルメチロキシカルボニル、アセチル、ベンゾイル、若しくはフォルミルである任意の所望の保護基を示す(R1−アミンは、好ましくはメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、及びブチルアミンの中から選択されるアミンである)。)
【0014】
(3)式3’の化合物の(1R,5S)−鏡像異性体−水素酒石酸塩を濃縮しながら行われる式の化合物と(2R,3R)−酒石酸[L(+)−酒石酸]との反応。
【化7】

3’
【0015】
(4)鏡像異性体的に概ね純粋な塩基が、化合物3’から慣用の方法で調製されてもよい。
【化8】

3’
【0016】
(5)WO2004/072071に類似した式の化合物の還元、及び必要に応じて行われてもよい、これに続く、上記文献から知られる方法を使用した、対応するアルコキシドMOR2とのエステル交換。
【化9】


(式中、R2はハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルコキシ、シクロアルコキシ、アルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、アルケニル、及びアルキニルから選択される1以上の置換基により置換されてもよい、アルキル、好ましくはフェニル若しくはナフチルであるアリールを示し、好ましくは、R2はメチル、エチル、プロピル、又はブチルを示し、
Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、好ましくはカリウム又はナトリウムである。)
【0017】
(6)式5’の化合物の塩を形成する式の化合物とキラル酸との反応。
(7)必要に応じて行われてもよい、文献から知られる分離方法を使用した式5’のキラル化合物の更なる精製。
(8)必要に応じて行われてもよい結晶化。
本発明の工程(6)の反応は、以下の化学反応式の一つにより起こる。
【化10】

(式中、R1及びR2は上記で定義されたとおりであり、RS及びRS'は、使用されるキラル酸の酸性基を示す。)
【0018】
第2の側面においては、本発明は式5’の化合物の塩にも関する。
【化11】

5’
【0019】
ここでX-は以下のとおりである。
【化12】

【0020】
もう一つの側面において、本発明は工程(1)、(2)、(5)、及び(6)の工程による方法に関し、必要に応じて工程(3)及び(4)を含む方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<用語の定義>
「アリール」又は「アリール基」なる用語は、6員から10員の芳香族性の炭素環式基を示し、例えばフェニル及びナフチルを含む。アリールなる用語を一部として含む他の用語は、アリール部分について同様の意味を有する。これらの部分の例は:アリールアルキル、アリーロキシ、又はアリールチオである。
「アルキル」又は「アルキル基」なる用語、及び他の基の一部であるアルキル基は、1から6の炭素原子を有する分岐の、又は非分岐のアルキル基を意味する。以下は例として挙げられる:メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル。特に言及しない限り、上記の用語プロピル、ブチル、ペンチル、及びヘキシルは全ての可能な異性体の形態を含む。例えば、用語プロピルは、二つの異性の基であるn−プロピル及びiso−プロピルを含み、用語ブチルは、異性の基であるn−ブチル、iso−ブチル、sec.ブチル、及びtert.ブチルを含む。
「アルコキシ」又は「アルコキシ基」なる用語は、酸素原子で連結された1から6の炭素原子を有する分岐の及び非分岐のアルキル基を意味する。以下は例として挙げられる:メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントキシ、及びヘキソキシ。特に言及されない限り、上記の用語は全ての可能な異性体の形態を含む。
アルケニル基は、例えば、上記アルキル基であって、分子中に少なくとも1の二重結合を有するもの、例えば、ビニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、ペンテニル、及びヘキセニルのような、2から6の炭素原子、好ましくは2から4の炭素原子を有する分岐の又は非分岐のアルケニル基であって、分子中に少なくとも1つの二重結合を有するものを示す。
アルケニレン鎖は、例えば、アルキレン基であって、それらが少なくとも1の二重結合を有するもの、例えば、ビニレン、プロペニレン、イソプロペニレン、ブテニレン、ペンテニレン、及びヘキセニレンのように、分岐及び非分岐の、2から6の炭素原子、好ましくは2から4の炭素原子有するアルケニル架橋であって、分子中に少なくとも1の二重結合を有するものである。
【0022】
特に特定されない限り、上記アルケニル基及びアルケニレン鎖は、存在する如何なる立体異性体をも含むと理解されるべきである。即ち、例えば、2−ブテニルなる定義は、2−(Z)−ブテニル及び2−(E)−ブテニル等を含むものと理解されるべきである。
アルキニル基なる用語は、例えば、エチニル、プロパルギル、ブチニル、ペンチニル、及びヘキシニルのような、2から6の炭素原子、好ましくは2から4の炭素原子を有するアルキニル基であって、それらが分子中、少なくとも1の三重結合を有するものに関する。
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素を示し、好ましくは塩素又は臭素を示す。
「炭素環式環」又は「炭素環式基」なる用語は、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、又はシクロヘキシル等の3から6の炭素原子を有するシクロアルキル環を示す。
「窒素」なる用語及び対応する元素記号は、それらの酸化された全ての形態を含み、及び塩基性窒素原子の第4級の形態も含まれるべきである。
本発明の特定の実施態様では、「概ね」なる用語は、所与の値又は範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を示す。所与の値の範囲はその範囲に含まれる全ての値及び区間を含み、開示する。
万が一、化学式が化学名称と矛盾し、当業者が、専門家の知識と能力を以って即座に矛盾を解消できない場合、分からないときは、式が信頼できるものと捉えられるべきである。
【0023】
<最良の形態>
本発明の方法を、以下に詳細に記載する。本発明による塩形成に必要な開始生成物の製造は、以下の反応図1において図解される。
反応図1:アンヒドロエクゴニンエステルの全合成
【化13】

Meはメチルを示す。
【0024】
既に記載されたように、の合成は先行技術、特にS. P. Findlay, J. Org. Chem. 1957, 22, 1385-1394、特に方法の変形例F、WO2004/072071、16頁、方法Aにより行われる。
塩を形成するための本発明による式の化合物の反応は、工程(5)の直後に行われる。これについては、工程(6)において、以下の化学反応式に従って、式の化合物がキラル酸と反応し、式5’の化合物の塩を形成する。
【化14】

【0025】
光学的に活性な酸との式の化合物(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルの結晶化は、簡単な事柄ではない。式の化合物と結晶化できる能力について、無数のキラル酸が異なる条件の下で調査された。塩を形成するためには、式の化合物は、当初は溶媒中に溶解した形態であり、好ましくは濃縮された形態である(「濃縮物」)。「濃縮された形態で」又は「濃縮物」なる表現により、溶液が少なくとも20質量%であり、好ましくは少なくとも30質量%であり、より好ましくは少なくとも40質量%であり、より好ましくは少なくとも50質量%であり、更により好ましくは少なくとも60質量%であることが意味される。使用される溶媒は、沸点が150℃未満(p=1barにおいて)の有機溶媒であり、好ましくはトルエン、キシレン(全ての異性体)、ハロベンゼン、脂肪族炭化水素(C5からC8)、ハロゲン含有脂肪族炭化水素(C1からC6)、脂肪族エステル(C4からC8)、蟻酸エステル(C2からC7)、酢酸エステル(C3からC7)、又はニトリル(C2からC5)である。
最も好ましいものは、芳香族炭化水素である。例としてはトルエン及びキシレンが含まれる。最も好ましいものはトルエンである。式の化合物がまず結晶化溶媒に溶解しないとした場合、得られうる所望の濃縮物を作製するため、それをあらかじめ異なる好適な溶媒、例えばメタノール又はエタノール等のアルコールに溶解させてもよい。
以下は、塩形成を行うための特に好ましい条件の一部を例の形式で要約したものである。
【0026】
塩形成は、好ましくはトルエン溶液中で実施することができる。化合物をトルエンに溶解するが、所望の場合には、化合物は既に、例えば先行する反応工程からの溶媒等の異なる溶媒に溶解されていてもよい。好ましくは化合物を、最初に、例えばメタノール又はエタノール等のアルコールに溶解する。好ましくは、キラル酸は溶媒中に添加され、好ましくは撹拌されながら、これに式の化合物のトルエン濃縮物を添加する。塩の形成により、存在しうる如何なる鏡像異性体の混合物をも分離することが可能になり、これにより生成物である(1R,5S)−エナンチオマーが、約95%を超える、より好ましくは約98%を超える、特に好ましくは約99%を超える、最も好ましくは約99.9%を超えるエナンチオマー純度で分離できる。
使用できるキラル酸の例は、(1S,4R)−カンファー−10−スルホン酸、(1R,4S)−カンファー−10−スルホン酸、(2R,3R)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2S,3S)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2R,3R)−酒石酸、(2S,3S)−酒石酸、(2R,3R)−ジベンゾイル酒石酸、及び(2S,3S)−ジベンゾイル酒石酸である。
驚くべきことに、先行技術(註:上記C. Grundmann et al.)中に表明された見解とは逆に、(1S,4R)−カンファー−10−スルホン酸(=d−10−カンファースルホン酸)との塩を得ることが可能であった。上記カンファー−10−スルホン酸塩は高い品質で結晶化し、一方、不要な(1S,5R)−鏡像異性体は非常に容易に減少させることができた。例えば、結晶化工程の制御された減速、結晶化工程の終端におけるより低温での作業等により、収率をそれ相応に最適化することができる。
具体的には、式5’の化合物の塩を調製するためには、まずキラル酸を、例えば35℃から60℃、好ましくは約40℃から50℃に昇温させながら(それぞれの場合において、溶媒の還流温度にまで加熱しながら)、好ましくはアセトン等の溶媒に好ましくは溶解させる。アセトンの代わりに、溶媒として、アルコール(C1からC5)、ニトリル(C2からC3)、及びケトン(C3からC6)を使用することもできる。様々な量の水を添加した、又は添加しない、全ての極性及び中間極性の、プロトン性又は非プロトン性溶媒が、一般的に可能である。これは、それぞれの場合において使用される酸に依存する。それぞれの場合において、溶液が熱いうちに得られた溶液をろ過するとよい。
【0027】
次いで、式の化合物は、必要に応じて上記の溶媒のうちの1つに溶解して、好ましくは撹拌しながら、キラル酸の溶液に添加される。使用される試薬(Edukt)は、様々な量の溶媒に溶解した式の化合物であってもよく、有利には、工程(5)で得られたトルエン濃縮物を直接使用し、必要に応じてもう一つの溶媒を添加してもよい。式の化合物は、所望の鏡像異性体[(1R,5S)−鏡像異性体]に加えて、特定されない量の不要な鏡像異性体[(1S,5R)−鏡像異性体]をも含有する鏡像異性体類の混合物として使用されてもよい。例えば、式の化合物を、80%以上、好ましくは90%以上のエナンチオマー純度の所望の鏡像異性体[(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステル]、及び対応する量の不要な鏡像異性体として使用することができる。
の化合物を添加する際には、上記キラル酸の溶液がいまだ昇温されていないことが特に好ましく、キラル酸を溶解させた温度又はその付近の温度にしておくことがより好ましい。これは、可能な限り、式の化合物の添加中の、温度は、キラル酸の溶液の温度よりも、約20℃のみ低く、約10℃低いことが好ましく、約5℃低いことが更により好ましい。
得られた溶液は、溶媒の還流温度に熱せられた後は冷却されてもよく、その後、必要に応じて少量の種結晶を接種及び/又は粉砕した後、所望の鏡像異性体が、98%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上のエナンチオマー純度で塩として沈殿する。沈殿中の(1R,5S)−エナンチオマーの最終温度は、特に好ましくは、−15℃から35℃、特には5℃から35℃である。溶媒からの塩の沈殿は、特に好ましくは1:10から2:1の希釈率(Σm試薬:ΣV溶媒)で行われる。
好適な分離の後、対応する再処理(Aufarbeitung)、例えば溶媒を使用した洗浄、及び例えばクロマトグラフィー法等による更なる精製により、塩の形態での(1R,5S)−鏡像異性体の99.9%以上のエナンチオマー純度を達成することができる。
【0028】
工業的規模に移行することができない、先行技術(C. Grundmann et al.)から知られる手法に対して、本発明による方法は工業的規模に移行させることができる。
トルエン濃縮物は、例えば、減圧下でのトルエン除去等の調製工程又は再処理工程(Aufarbeitungsschritt)なしで、直接使用することができ、又は商業的に供給される、鏡像異性体の混合物の形態での開始物質が使用できるが、2つの鏡像異性体のうちの1つを除去することにより、所望の鏡像異性体が、98%以上、好ましくは99%以上、特に好ましくは99.9%以上のエナンチオマー純度の、塩として得られる。
本発明はまた、式5’の化合物とキラル酸との塩に関する。キラル酸は、好ましくは:(1S,4R)−カンファー−10−スルホン酸、(1R,4S)−カンファー−10−スルホン酸、(2R,3R)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2S,3S)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2R,3R)−酒石酸、(2S,3S)−酒石酸、(2R,3R)−ジベンゾイル酒石酸、及び(2S,3S)−ジベンゾイル酒石酸から選択される。以下は、キラル酸の例である。
【化15】

【0029】
明らかに、キラル酸は挙げられたキラル酸に限定されない。当業者は、式5’の化合物の塩を調製するために使用できる、他のキラル酸を知るであろう。
本発明によれば、以下のエステルの塩が、最も特に好ましい。(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル、(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンメチルエステル、(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンプロピルエステル、及び(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンブチルエステル。
以下に示すものが、本発明により特に好ましい(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステルである。
【化16】

【0030】
特に好ましくは、式5’の化合物の塩は、以下の化合物のうちの1つである。
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(1’S,4’R)−カンファー−10−スルホン酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(1’R,4’S)−カンファー−10−スルホン酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−ジ−p−トルオイル水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−ジ−p−トルオイル水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−水素酒石酸塩−1水和物;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−水素酒石酸塩−1水和物;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−ジベンゾイル水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−ジベンゾイル水素酒石酸塩。
驚くべきことに、容易に結晶化しうる1水和物が、水存在下の(2R,3R)−酒石酸と(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステルから調製された。これは、まずアンヒドロエクゴニンエチルエステル塩の1水和物として単離される。
5’の化合物の塩の使用は、式のトルエン濃縮物の使用に比べて、数々の利点を有する。
【0031】
従って、トルエン濃縮物を用いる場合、大きな(groesseren)解析装置又は操作装置なしでは、窒素塩基の量は、一定に調整することができない。実験によれば、この値は、調製されたロット(Charge)において、65質量%から95質量%で変動し、トルエン濃縮物の更なる処理の問題を生じさせうる。
塩と対照的に、トルエン濃縮物は更に精製することができない。理論的には、トルエン濃縮物は減圧下で蒸留できるが、研究室での実験では、主要画分の多量の分割にも関わらず、クロマトグラフィーでの純度はわずかに改良することしかできない。溶媒を分離することしかできず、有意な精製はできなかった。一方、塩は、例えば再結晶により精製することができる。
更に、式の化合物の安定性は、一般的に、固体の形態、即ち結晶塩に比較して溶液中で低い。これは、溶解した形態では長いものではない可能性のある(die fuer laengere Zeit in Loesungsform nicht moeglich ist)保管期間、すなわち耐久性及び貯蔵に影響を与える。
加えて、固体の輸送及び貯蔵は、一般的に、よりスペースを必要とし、好適な流体密封容器で輸送しなければならない液体の輸送よりも安全で簡単である。
外観の観点からも、生成物の溶液と比較して、固体のほうが有利である。即ち、トルエン濃縮物は茶色がかった橙色で得られるが、塩は一般的に白色固体の形態で単離される。
更に、アンヒドロエクゴニンエステルの塩自体は、アンヒドロエクゴニンエステルの溶液又は濃縮物と比較して、より厳密に及び簡単に特徴づけすることができる。
【0032】
先行技術、特に、C. Grundmann et al.に記載された手法と比較して、有意に高い収率が得られる。本発明の方法によれば、資源をより節約することができ、溶媒の量をごく少量に減らすことができ、従って方法の費用がより廉価となる。
本発明による全合成の生産方法は試薬としてのコカイン水酸化物の使用を回避する;しかしながら、生成物は依然として効率的に、非常に高いee値を以って得られ、従って大量の純粋な(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステル及び/又はその塩を、活性物質の調製のための開始物質として供給する可能性を提供する。
要約のため、以下に本発明を記載する。
【0033】
本発明の第1の側面1は、好ましくは鏡像異性体に富んだ形態の、一般化学式の(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルのキラル塩の調製方法であって:
【化17】


(式中、R1は、水素、好ましくはメチル、エチル、プロピル、若しくはブチルであるアルキル基、又は好ましくはアリル、ベンジル、メトキシベンジル、アリロキシカルボニル、ベンジロキシカルボニル、tert.−ブチロキシカルボニル、9−フルオレニルメチロキシカルボニル、アセチル、ベンゾイル、若しくはフォルミルである任意の所望の保護基を示し;
2は、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルコキシ、シクロアルコキシ、アルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、アルケニル、及びアルキニルから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい、アルキル、又は好ましくはフェニル若しくはナフチルであるアリールを示し、好ましくは、R2はメチル、エチル、プロピル、又はブチルである。)
【0034】
(1a)式の化合物を、メタノールと反応させ、式1’の化合物を形成する工程であって、反応を溶媒としてのメタノール中で行ってもよい工程;
【化18】

1’
【0035】
(1b)式の化合物を水及び触媒と反応させ、式2’の化合物を形成する工程;及び
【化19】

【0036】
(2)式1’の化合物と式2’の化合物を、R1−アミン溶液と反応させ、式の化合物を形成する工程;を含み、
【化20】

1’ 2’
(式中、R1は水素、好ましくはメチル、エチル、プロピル、若しくはブチルであるアルキル基、又は好ましくはアリル、ベンジル、メトキシベンジル、アリロキシカルボニル、ベンジロキシカルボニル、tert.−ブチロキシカルボニル、9−フルオレニルメチロキシカルボニル、アセチル、ベンゾイル、若しくはフォルミルである任意の所望の保護基を示す。)
【0037】
(3)式3’の化合物の(R)−鏡像異性体−水素酒石酸塩を濃縮しながら、式の化合物を、(2R,3R)−酒石酸[L(+)−酒石酸]と反応させる工程;及び
【化21】

3’
【0038】
(4)化合物をアルカリ中に放出する工程;を含んでいてもよく、
【化22】

【0039】
(5)得られた生成物を還元し(ここで、更に、式MOR2のアルコキシドとのエステル交換反応を行ってもよい)、式の化合物を得る工程;及び
【化23】


(式中、R2は、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルコキシ、シクロアルコキシ、アルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、アルケニル、及びアルキニルから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい、アルキル、又は好ましくはフェニル若しくはナフチルであるアリールを示し、好ましくは、R2はメチル、エチル、プロピル、又はブチルを示し、
Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、好ましくはカリウム又はナトリウムである。)
【0040】
(6)式の化合物をキラル酸と反応させ、式5’の化合物の塩を形成する工程;を含み、並びに
【化24】

5’
(式中、X-はキラル酸のアニオンを示す。)
【0041】
(7)式5’のキラル化合物を精製する工程;及び
(8)結晶化を実施する工程を含んでいてもよい方法。
本発明の側面1の方法においては、工程(5)での作業の最後に、トルエンを加えることにより式の化合物の濃縮されたトルエン溶液を調製してもよい(変形2)。
本発明の側面1の方法においては、工程(6)において、式の化合物がトルエン中に溶解された濃縮物として、少なくとも20質量%、好ましくは少なくとも40質量%、特に好ましくは少なくとも60質量%の量で存在してもよい(変形3)。
本発明の側面1の方法においては、工程(6)において、上記キラル酸が溶媒中に添加され、これに濃縮された式の化合物のトルエン溶液が添加される(変形4)。
本発明の側面1及びその変形2、3、及び4の方法においては、上記キラル酸が(1S,4R)−カンファー−10−スルホン酸、(1R,4S)−カンファー−10−スルホン酸、(2R,3R)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2S,3S)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2R,3R)−酒石酸、(2S,3S)−酒石酸、(2R,3R)−ジベンゾイル酒石酸、及び(2S,3S)−ジベンゾイル酒石酸の中から選択されてもよい(変形5)。
本発明の側面1の方法においては、工程(6)における溶媒が、水が添加された又は添加されていない、極性又は中間極性のプロトン性又は非プロトン性溶媒、好ましくはアセトン、C1−からC5−アルコール、C2−からC3−ニトリル、又はC3−からC6−ケトンの中から選択されてもよい(変形6)。
本発明の側面1の方法においては、工程(6)において、約35℃から使用する溶媒の概ねの還流温度までの範囲内の温度に加熱しつつ、上記キラル酸を溶媒に溶解してもよい(変形7)。
本発明の側面1の方法においては、工程(6)において、式の化合物の濃縮されたトルエンの溶液を、上記キラル酸の溶解温度で又はその前後の温度で、上記キラル酸の溶液に添加してもよい(変形8)。
本発明の側面1、及びまた、その変形7又は8の方法においては、工程(6)において、濃縮されたトルエンの溶液の添加の後(ここで、更に上記溶媒の還流温度に加熱してもよい)、冷却を行ってもよい(変形9)。
【0042】
本発明の側面1の方法においては、式5’の化合物を、−15℃から35℃、好ましくは5℃から35℃の最終温度で沈殿させてもよい(変形10)。
本発明の側面1の方法においては、沈殿が、少量の種晶の接種及び/又は粉砕により補助されてもよい(変形11)。
本発明の側面1の方法においては、工程(6)において、式5’の化合物が、約95%を超える、好ましくは約96%を超える、特に好ましくは約98%を超える、特には約99%を超える、最も特に好ましくは99.9%を超えるエナンチオマー純度で、鏡像異性体の形態で沈殿してもよい(変形12)。
【0043】
本発明の第2の側面は、式の化合物をキラル酸と反応させ、式5’の化合物の塩を得る式の化合物の塩の調製方法に関する。
【化25】


【化26】

5’
(式中、R1及びR2は請求項1で定義されたとおりであり、及び
-はキラル酸のアニオンを示す。ここで、式の化合物は、好ましくは可能な鏡像異性体のうちの1つに富む。)
【0044】
本発明の側面2の方法においては、キラル酸が、(1S,4R)−カンファー−10−スルホン酸、(1R,4S)−カンファー−10−スルホン酸、(2R,3R)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2S,3S)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2R,3R)−酒石酸、(2S,3S)−酒石酸、(2R,3R)−ジベンゾイル酒石酸、及び(2S,3S)−ジベンゾイル酒石酸の中から選択されてもよく、より好ましくは(1S,4R)−カンファー−10−スルホン酸、(1R,4S)−カンファー−10−スルホン酸、(2R,3R)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2S,3S)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2R,3R)−酒石酸、(2S,3S)−酒石酸、及び(2R,3R)−ジベンゾイル酒石酸の中から選択されてもよい(変形2.1)。
本発明の側面2、及びまた、変形2.1の方法においては、上記キラル酸が溶媒又は溶媒の混合物中に添加され、これに濃縮された式の化合物のトルエン溶液が添加され、ここで、式の化合物が好ましくは少なくとも60質量%の量で存在する(変形2.2)。
本発明の側面2、及びまた、変形2.1及び変形2.2の方法においては、溶媒が水が添加された又は添加されていない、極性プロトン性又は非プロトン性溶媒、好ましくはアセトン、C1−からC5−アルコール、C2−からC3−ニトリル、又はC3−からC6−ケトンの中から選択されてもよい(変形2.3)。
本発明の側面2、及びまた、変形2.1、変形2.2、及び変形2.3の方法においては、約35℃から使用される溶媒の概ねの還流温度までの範囲内の温度に加熱しつつ、上記キラル酸が溶媒に溶解されてもよい(変形2.4)。
本発明の側面2、及びまた、変形2.1、変形2.2、変形2.3、及び変形2.4の方法においては、前記キラル酸の溶解温度で又はその前後の温度で、式の化合物の濃縮されたトルエン溶液が、キラル酸の溶液に添加されてもよい(変形2.5)。
本発明の側面2、及びまた、変形2.1から変形2.5の方法においては、濃縮されたトルエン溶液の添加の後(ここで、更に上記溶媒の還流温度に加熱してもよい)、冷却が行われてもよい(変形2.6)。
【0045】
本発明の側面2、及びまた、変形2.1から変形2.6の方法においては、式5’の化合物を、−15℃から35℃、好ましくは5℃から35℃の最終温度で沈殿させてもよい(変形2.7)。
本発明の側面2、及びまた変形2.1から変形2.7の方法においては、沈殿が、少量の種晶の接種及び/又は粉砕により補助されてもよい(変形2.8)。
本発明の側面2、及びまた、変形2.1から変形2.8の方法においては、式5’の化合物が、約95%を超える、好ましくは約96%を超える、特に好ましくは約98%を超える、特には約99%を超える、最も特に好ましくは約99.9%を超えるエナンチオマー純度で、鏡像異性体の形態で沈殿してもよい(変形2.9)。
【0046】
本発明の第3の側面は、式の化合物とキラル酸との、鏡像異性体的に純粋な塩に関する。
本発明の第4の側面は、結晶であり、式5の化合物とキラル酸との、対掌性の、好ましくは鏡像異性体的に純粋な塩に関する。
本発明の側面3又は側面4のうちの1つの塩は、好ましくは(1R,5S)−アンヒドロエクゴニン−エチルエステル−(2’S,3’S)−ジベンゾイル水素酒石酸を排除する。
本発明の側面3又は側面4のうちの1つの塩においては、キラル酸が、好ましくは、(1S,4R)−カンファー−10−スルホン酸、(1R,4S)−カンファー−10−スルホン酸、(2R,3R)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2S,3S)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2R,3R)−酒石酸、(2S,3S)−酒石酸、(2R,3R)−ジベンゾイル酒石酸、及び(2S,3S)−ジベンゾイル酒石酸の中から選択される。
本発明の側面3又は側面4のうちの1つの塩においては、キラル酸が、好ましくは、(1S,4R)−カンファー−10−スルホン酸、(1R,4S)−カンファー−10−スルホン酸、(2R,3R)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2S,3S)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2R,3R)−酒石酸、(2S,3S)−酒石酸、及び(2R,3R)−ジベンゾイル酒石酸の中から選択される。
キラル酸についての上記のすべての変形を含む本発明の側面3又は4のうちの1つの塩においては、式の化合物が、好ましくは、(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル、(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンメチルエステル、(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンプロピルエステル、及び(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンブチルエステルの中から選択される。
【0047】
本発明の側面3又は側面4のうちの1つの塩は、好ましくは:
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(1’S,4’R)−カンファー−10−スルホン酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(1’R,4’S)−カンファー−10−スルホン酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−ジ−p−トルオイル水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−ジ−p−トルオイル水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−水素酒石酸塩−1水和物;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−水素酒石酸塩−1水和物;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−ジベンゾイル水素酒石酸塩;及び
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−ジベンゾイル水素酒石酸塩の中から選択される。
【0048】
本発明の側面3又は側面4のうちの1つの塩は、好ましくは
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(1’S,4’R)−カンファー−10−スルホン酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(1’R,4’S)−カンファー−10−スルホン酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−ジ−p−トルオイル水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−ジ−p−トルオイル水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−水素酒石酸塩−1水和物;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−水素酒石酸塩−1水和物;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−ジベンゾイル水素酒石酸塩の中から選択される。
【0049】
上記の全ての変形及び好ましいものを含む、本発明の側面3又は側面4のうちの1つの塩は、約95%を超える、好ましくは約96%を超える、特に好ましくは約98%を超える、特には約99%を超える、最も特に好ましくは約99.9%を超えるエナンチオマー純度を有することが好ましい。
上記の全ての変形及び好ましいものを含む、本発明の側面3又は側面4のうちの1つの塩は、溶媒和物であってもよく、好ましくは水和物であり、より好ましくは1水和物である。
本発明の第5の側面は、本発明の第1の側面に記載されたように、トルエン、キシレン(全ての異性体)、ハロベンゼン、脂肪族炭化水素(C5からC8)、ハロゲン含有脂肪族炭化水素(C1からC6)、脂肪族エステル(C4からC8)、ギ酸エステル(C2からC7)、酢酸エステル(C3からC7)、又はニトリル(C2からC5)中の、一般化学式の(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルの溶液に関する。
好ましい溶媒はトルエンである。
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルの含有量は、少なくとも20質量%であり、好ましくは少なくとも40質量%であり、より好ましくは少なくとも60質量%である。
本発明の第6の側面は、トルエン、キシレン(全ての異性体)、ハロベンゼン、脂肪族炭化水素(C5からC8)、ハロゲン含有脂肪族炭化水素(C1からC6)、脂肪族エステル(C4からC8)、ギ酸のC2−からC7−アルキルエステル、酢酸エステル(C3からC7)、又はC2−からC5−アルキルニトリルの中から選ばれる懸濁剤、好ましくはトルエンと、全ての変形とその好ましいものを含む、本発明の側面3又は4のうちの1つの塩とからなる懸濁液に関する。
【0050】
以下の実施例は、例示として実施された一部の合成方法を説明するのに役立つ。それらは、本発明をその内容に限定することなく、専ら、例示として記載された可能な手法として意図されるものである。
【実施例】
【0051】
[実施例1;アンヒドロエクゴニンエチルエステルの調製]
アンヒドロエクゴニンエチルエステルは、先行文献によれば、例えば上記に記載された方法により調製されるアンヒドロエクゴニンメチルエステルのエステル交換反応により、以下の化学反応式に従って調製される。
【化27】


【0052】
170Lの2−カルボメトキシトロピノール濃縮物(溶媒:酢酸エチル;2−カルボメトキシトロピノール換算の合計のアルカロイド含有量:34.4kg、HClO4滴定で決定される)を52℃から58℃、減圧下で、体積60Lにまで濃縮し、これに350Lのエタノールを添加した。溶液を18℃まで冷却し、この温度で、78.3kgの21%ナトリウムエトキシド溶液と合わせた。反応混合物を撹拌しながら1時間で52℃まで加熱し、1時間で65℃にまで加熱した。これを18℃に冷却し、次いで34Lの氷酢酸と合わせた。反応混合液は次いで、51℃から58℃、減圧下で70Lにまで濃縮し、140Lのトルエンを添加した。得られた溶液に、410Lの凝縮液を添加し、35Lの50%硫酸を使用して21℃でpHを1.4に調整した。2相を互いに分離し、トルエン相を廃棄した。水相を340Lのトルエンと合わせ、54.5Lの50%水酸化ナトリウム水溶液を使用して、24℃で攪拌しながら、pHを8.5に調整した。相分離し、水相を再度、340Lのトルエンで抽出した。合わせたトルエン相を、5.1kgの硫酸ナトリウムとあわせ、15分後に0.7kgの活性炭と、0.34kgの珪藻土を加えた。ろ過を行った後、溶媒を減圧下、50℃から58℃で留去した。30Lのアンヒドロエクゴニンエチルエステルのトルエン濃縮物が残った。窒素塩基量(HClO4滴定)は93.4%、エナンチオマー純度(キラルHPLC)はエリア値4.5%の(1S,5R)−アンヒドロエクゴニンエチルエステルであった。
【0053】
<(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル塩の調製例>
キラル酸との反応が、複数の実施例として説明される。
[実施例2;(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(1S’,4R’)−カンファー−10−スルホン酸塩の調製]
反応は、以下の化学反応式に従って行われる。
【化28】

ここで、R2はエチルである。
【0054】
23.8gの(1S,4R)−カンファー−10−スルホン酸を40℃で120mlのアセトンに溶解し、攪拌しながら、25.3gのアンヒドロエクゴニンエチルエステルのトルエン濃縮物[窒素塩基の含量(HClO4滴定)79.1%、クロマトグラフィー純度(GC、トルエンなし)90.4%エリア アンヒドロエクゴニンエチルエステル、エナンチオマー純度(キラルHPLC)4.4%エリア (1S,4R)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル]をそれに加えた。混合物を減圧下、40℃で濃縮し、残留した油性の残渣を室温で30mLのアセトンに溶解した。次いで、少量の種晶(概ね、0.1g)を添加し、混合物を冷却して、15時間の間、温度を5℃に維持した。沈殿中の最終温度は好ましくは−5℃から10℃に調整された。
得られた懸濁液をブフナー漏斗で吸引ろ過にかけ、沈殿物を20mlの冷アセトンで洗浄し、次いで減圧下(p=概ね30mbar)、50℃で15時間乾燥した。2:1から1:1の希釈率(Σm試薬:ΣV溶媒)で、塩がアセトンから沈殿した。洗浄液としては、アセトンの他に、より脂溶性の溶媒又は溶媒の混合物を使用することができる。
白色結晶の形態で、16.2gのカンファー−10−スルホン酸塩が得られた。
融点は136℃;水分含量(カール・フィッシャー滴定)0.1%;窒素塩基の含量(HClO4滴定、無水物を基礎とする)98.8%;クロマトグラフィー純度(GC、塩基を放出した後)98.8%Fl.。アンヒドロエクゴニンエチルエステル;エナンチオマー純度(キラルHPLC)99.9%エリア(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル/0.1%Fl.(1S,5R)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル。
【0055】
[実施例3;(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−ジ−p−トルオイル水素酒石酸塩の調製]
反応は、以下の化学反応式に従って実施された。
【化29】

ここで、R2はエチルである。
【0056】
36.1gの(2S,3S)−ジ−p−トルオイル酒石酸を、50℃で120mLのアセトニトリルに溶解し、撹拌しながら、22.8gのアンヒドロエクゴニンエチルエステルのトルエン濃縮物[窒素塩基の含量(HClO4滴定)79.1%、クロマトグラフィー純度(GC、トルエンなし)90.4%エリア アンヒドロエクゴニンエチルエステル、エナンチオマー純度(キラルHPLC)4.4%エリア (1S,5R)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル]をそれに迅速に添加した。溶液を、撹拌しながら2時間以内に室温にまで冷却した。冷却段階の始めに、少量の種晶(概ね0.1g)を添加した。沈殿中における最終温度は、好ましくは5℃から35℃である。塩は希釈率(Σm試薬:ΣV溶媒)が1:1から1:3のときに特に好ましくアセトニトリルから沈殿する。撹拌を2時間継続し、形成された沈殿物を吸引ろ過により分離した。沈殿物は、室温中、20mLのアセトニトリルで洗浄し、次いで減圧下(p=約30mbar)において50℃で15時間乾燥させた。洗浄液としては、アセトニトリルの代わりに、より脂溶性の溶媒又は溶媒の混合物を使用することができる。慣用の装置、例えば吸引ろ過器、遠心分離機、デカンター、加圧ろ過器等を、沈殿した固体と母液とを分離するために使用することができる。41.3gのジ−p−トルオイル水素酒石酸塩が白色固体の形態で得られた。融点は142℃;水分含量(カール・フィッシャー滴定)1.0%;窒素塩基の含量(HClO4滴定、無水物を基礎とする)100.4%;クロマトグラフィー純度(GC、塩基を放出した後)98.1%エリア アンヒドロエクゴニンエチルエステル;エナンチオマー純度(キラルHPLC)99.4%エリア(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル/0.6%エリア(1S,5R)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル。
【0057】
[実施例4:(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2R’3’R)水素酒石酸塩−1水和物の調製]
反応は以下の化学反応式に従って実施された。
【化30】

ここで、R2はエチル。
【0058】
バッチA:43.9g(2R,3R)−酒石酸を15mLの水と300mLのアセトン溶液に溶解し、5分間還流して、得られた溶液を熱いままろ過した。63.2gのアンヒドロエクゴニンエチルエステルのトルエン濃縮物[窒素塩基の含量(HClO4滴定)79.1%、クロマトグラフィー純度(GC、トルエンなし)90.4%エリア アンヒドロエクゴニンエチルエステル、エナンチオマー純度(キラルHPLC)4.4%エリア (1S,5R)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル]を、室温で200mLのアセトンに溶解し、ろ過して次いで酒石酸溶液に追加した。合わせたろ液は10分間還流して、3時間以内に撹拌しながら20℃まで冷却した。冷却段階の始めに、少量の種晶(概ね、0.1g)を添加した。混合物を、20℃で更に2時間撹拌し、沈殿した結晶を吸引ろ過で分離した。沈殿中の最終温度は、好ましくは5℃から35℃であった。塩は好ましくはアセトン/水から、1:2から1:8の希釈率(Σm試薬:ΣV溶媒)で、アセトン/水の溶媒比10:0.1から10:1で、沈殿させた。沈殿した固体と母液は慣用の装置、例えば吸引ろ過器、遠心分離機、デカンター、加圧ろ過器等を使用して分離した。必要な場合は、ろ過した化合物及び吸引した化合物を試薬のろ過に使用することができる。結晶は、室温において100mLのアセトンで2回洗浄し、減圧下50℃で15時間乾燥した(p=約30mbar)。73.9gの水素酒石酸塩は1水和物の形態で得られた。融点は86℃;水分含量(カール・フィッシャー滴定)5.1%;窒素塩基の含量(HClO4滴定、無水物を基礎とする)99.9%;クロマトグラフィー純度(GC、塩基を放出した後)99.0%エリア アンヒドロエクゴニンエチルエステル;エナンチオマー純度(キラルHPLC)99.8%エリア(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル/0.2%エリア(1S,5R)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル。
バッチB:80.0gの(2R,3R)−酒石酸を600mLのアセトンと40mLの水の混合物中に室温で溶解し、得られた溶液をろ過した。ろ紙を10mLのアセトンで洗浄し、ろ液を55℃にまで加熱した。126.4gのアンヒドロエクゴニンエチルエステルのトルエン濃縮物[窒素塩基の含量(HClO4滴定)79.1%、クロマトグラフィー純度(GC、トルエンなし)90.4%エリア アンヒドロエクゴニンエチルエステル、エナンチオマー純度(キラルHPLC)4.4%エリア (1S,5R)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル]を室温で、400mLのアセトンに溶解し、ろ過し、次いで加熱した酒石酸溶液に添加した。合わせたろ液を10分間還流し、次いで3時間以内に撹拌しながら20℃まで冷却した。冷却段階の始めに、少量の種晶(概ね、0.1g)を添加した。混合物は、20℃で、更に72時間撹拌し、沈殿した結晶を吸引ろ過で分離した。沈殿中の最終温度は好ましくは5℃から35℃であった。塩は、好ましくは、アセトン/水から1:2から1:8の希釈率(Σm試薬:ΣV溶媒)で、アセトン/水の溶媒比10:0.1から10:1で沈殿した。沈殿した固体と母液の分離は例えば吸引ろ過器、遠心分離機、デカンター、加圧分離機等、慣用の装置を用いて行った。必要な場合は、ろ過した化合物及び吸引した化合物を試薬のろ過に使用することができる。結晶は、室温で、200mLのアセトンで2回洗浄し、減圧下(p=30mbar)、50℃で15時間乾燥させた。150.7gの水素酒石酸1水和物が白色結晶の形態で得られた。融点は85℃;水分含量(カール・フィッシャー滴定)5.3%;窒素塩基の含量(HClO4滴定、無水物を基礎とする)100.3%;クロマトグラフィー純度(GC、塩基を放出した後)99.0%エリア アンヒドロエクゴニンエチルエステル;エナンチオマー純度(キラルHPLC)99.8%エリア(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル/0.2%エリア(1S,5R)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル。
【0059】
[実施例5;(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−ジベンゾイル水素酒石酸塩の調製]
反応は、以下の化学反応式にしたがって実施された。
【化31】

ここで、R2はエチルである。
【0060】
83.5gの(2R,3R)−ジベンゾイル酒石酸を、300mLのエタノール中で30分間還流した。撹拌しながら、48.9gのアンヒドロエクゴニンエチルエステルのトルエン濃縮物[窒素塩基の含量(HClO4滴定)93.1%、クロマトグラフィー純度(GC、トルエンなし)94.7%エリア アンヒドロエクゴニンエチルエステル、エナンチオマー純度(キラルHPLC)4.5%エリア (1S,5R)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル]を、得られた透明な液に添加し、溶液を5分間還流した。次いで、これを撹拌しながら放置して、2時間以内に20℃にまで冷却し、その間、沈殿物が沈殿した。懸濁液を20℃で更に2時間撹拌し、次いでブフナー漏斗で吸引ろ過した。沈殿中の最終温度は、好ましくは5℃から35℃であった。エタノールからの塩の沈殿は、好ましくは1:1から1:6の希釈率(Σm試薬:ΣV溶媒)で行われた。沈殿した固体と母液との分離は、例えば、吸引ろ過器、遠心分離機、デカンター、加圧ろ過器等の慣用の装置を使用して行った。沈殿は、室温で50mLのエタノールで2回洗浄し、次いで、減圧下(p=概ね30mbar)で、50℃で15時間乾燥した。120.1gのジベンゾイル水素酒石酸塩が白色結晶の形態で得られた。融点は149℃;水分含量(カール・フィッシャー滴定)0.2%;窒素塩基の含量(HClO4滴定、無水物を基礎とする)99.8%;クロマトグラフィー純度(GC、塩基を放出した後)98.2%エリア アンヒドロエクゴニンエチルエステル;エナンチオマー純度(キラルHPLC)97.3%エリア(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル/2.7%エリア(1S,5R)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましくは鏡像異性体に富んだ形態の、一般化学式の(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルのキラル塩の調製方法であって:
【化1】


(式中、R1は水素、好ましくはメチル、エチル、プロピル、若しくはブチルであるアルキル基、又は好ましくはアリル、ベンジル、メトキシベンジル、アリロキシカルボニル、ベンジロキシカルボニル、tert.−ブチロキシカルボニル、9−フルオレニルメチロキシカルボニル、アセチル、ベンゾイル、若しくはフォルミルである任意の所望の保護基を示し;
2は、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルコキシ、シクロアルコキシ、アルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、アルケニル、及びアルキニルから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい、アルキル、又は好ましくはフェニル若しくはナフチルであるアリールを示し;好ましくは、R2はメチル、エチル、プロピル、又はブチルである。)
(1a)式の化合物を、メタノールと反応させ、式1’の化合物を形成する工程であって、反応を溶媒としてのメタノール中で行ってもよい工程;
【化2】

1’
(1b)式の化合物を水及び触媒と反応させ、式2’の化合物を形成する工程;及び
【化3】

(2)式1’の化合物と式2’の化合物を、R1−アミン溶液と反応させ、式の化合物を形成する工程;を含み、
【化4】

1’ 2’
(式中、R1は水素、好ましくはメチル、エチル、プロピル、若しくはブチルであるアルキル基、又は好ましくはアリル、ベンジル、メトキシベンジル、アリロキシカルボニル、ベンジロキシカルボニル、tert.−ブチロキシカルボニル、9−フルオレニルメチロキシカルボニル、アセチル、ベンゾイル、若しくはフォルミルである任意の所望の保護基を示す。)
(3)式3’の化合物の(R)−鏡像異性体−水素酒石酸塩を濃縮しながら(unter Anreicherung des (R)-Enantiomer-Hydrogentartratsalzes der Verbindung der Formel 3')、式の化合物を、(2R,3R)−酒石酸[L(+)−酒石酸]と反応させる工程;及び
【化5】

3’
(4)化合物をアルカリ中に放出する工程(Freisetzung der Verbindung 4 im Basischen);を含んでいてもよく、
【化6】

3’
(5)得られた生成物を還元し(ここで、更に、式MOR2のアルコキシドとのエステル交換を行ってもよい)、式の化合物を得る工程;及び
【化7】


(式中、R2は、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルコキシ、シクロアルコキシ、アルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、アルケニル、及びアルキニルから選択される1以上の置換基により置換されていてもよい、アルキル、又は好ましくはフェニル若しくはナフチルであるアリールを示し、好ましくは、R2はメチル、エチル、プロピル、又はブチルを示し、
Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、好ましくはカリウム又はナトリウムである。)
(6)式の化合物をキラル酸と反応させ、式5’の化合物の塩を形成する工程;を含み、並びに
【化8】

5’
(式中、X-は、好ましくは(1S,4R)−カンファー−10−スルホン酸、(1R,4S)−カンファー−10−スルホン酸、(2R,3R)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2S,3S)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2R,3R)−酒石酸、(2S,3S)−酒石酸、(2R,3R)−ジベンゾイル酒石酸、及び(2S,3S)−ジベンゾイル酒石酸の中から選択されるキラル酸のアニオンを示す。)
(7)式5’のキラル化合物を精製する工程;及び
(8)結晶化を実施する工程を含んでいてもよい方法。
【請求項2】
工程(5)での作業の最後に(am Ende der Aufarbeitung in Schritt (5))、トルエンを加えることにより式の化合物の濃縮されたトルエン溶液を調製することを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
工程(6)において、式の化合物がトルエン中に溶解された濃縮物として、少なくとも20質量%、好ましくは少なくとも40質量%、特に好ましくは少なくとも60質量%の量で存在することを特徴とする請求項1の方法。
【請求項4】
工程(6)において、前記キラル酸が溶媒中に添加され、これに濃縮された式の化合物のトルエン溶液が添加されることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項5】
工程(6)における溶媒が、水が添加された又は添加されていない、極性又は中間極性のプロトン性又は非プロトン性溶媒、好ましくはアセトン、C1−からC5−アルコール、C2−からC3−ニトリル、又はC3−からC6−ケトンの中から選択されることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項6】
工程(6)において、約35℃から使用する溶媒の概ねの還流温度までの範囲内の温度に加熱しつつ、前記キラル酸を溶媒に溶解し、式の化合物を、前記キラル酸の溶解温度で又はその前後の温度で、濃縮されたトルエンの溶液または懸濁液の形で、前記キラル酸の溶液に添加し、濃縮されたトルエン溶液又は懸濁液の添加の後(ここで、更に前記溶媒の還流温度に加熱してもよい)、式5’の化合物を沈殿させるために混合物を、好ましくは−15℃から35℃、好ましくは5℃から35℃の最終温度に冷却することを特徴とし、ここで、沈殿過程が、少量の種晶の接種及び/又は粉砕(Anreiben)により補助されてもよい請求項1の方法。
【請求項7】
の化合物をキラル酸と反応させ、式5’の化合物の塩を形成する式の化合物の塩の調製方法。
【化9】



5’
(式中、R1及びR2は請求項1で定義されたとおりであり、及び
-は、好ましくは、(1S,4R)−カンファー−10−スルホン酸、(1R,4S)−カンファー−10−スルホン酸、(2R,3R)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2S,3S)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2R,3R)−酒石酸、(2S,3S)−酒石酸、(2R,3R)−ジベンゾイル酒石酸及び(2S,3S)−ジベンゾイル酒石酸の中から選択されるキラル酸のアニオンを示す。)
【請求項8】
条件が請求項2から6のうちの1つの条件に対応することを特徴とする、請求項7の方法。
【請求項9】
5’の化合物が、約95%を超える、好ましくは約96%を超える、特に好ましくは約98%を超える、特には99%を超える、最も特に好ましくは約99.9%を超えるエナンチオマー純度(Enantiomerenreinheit)で、鏡像異性体の形態で沈殿することを特徴とする請求項7又は8のうちの少なくとも1つの方法。
【請求項10】
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−ジベンゾイル水素酒石酸ではない、式の化合物とキラル酸との鏡像異性体的に純粋な塩。
【請求項11】
結晶であり、(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−ジベンゾイル水素酒石酸塩でない、式の化合物とキラル酸との対掌性の、好ましくは鏡像異性体的に純粋な塩。
【請求項12】
キラル酸が、(1S,4R)−カンファー−10−スルホン酸、(1R,4S)−カンファー−10−スルホン酸、(2R,3R)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2S,3S)−ジ−p−トルオイル酒石酸、(2R,3R)−酒石酸、(2S,3S)−酒石酸、(2R,3R)−ジベンゾイル酒石酸、及び(2S,3S)−ジベンゾイル酒石酸の中から選択され、式の化合物が(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル、(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンメチルエステル、(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンプロピルエステル、及び(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンブチルエステルの中から選択されることを特徴とする請求項10又は11の塩。
【請求項13】
前記塩が以下の化合物のうちの1つであることを特徴とする請求項10から12のうちの1つの塩:
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(1’S,4’R)−カンファー−10−スルホン酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(1’R,4’S)−カンファー−10−スルホン酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−ジ−p−トルオイル水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−ジ−p−トルオイル水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−水素酒石酸塩−1水和物;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−水素酒石酸塩−1水和物;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−ジベンゾイル水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−ジベンゾイル水素酒石酸塩;好ましくは、
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(1’S,4’R)−カンファー−10−スルホン酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(1’R,4’S)−カンファー−10−スルホン酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−ジ−p−トルオイル水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’S)−ジ−p−トルオイル水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−水素酒石酸塩−1水和物;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−水素酒石酸塩−1水和物;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−ジベンゾイル水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’S,3’S)−水素酒石酸塩;
(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエチルエステル−(2’R,3’R)−ジベンゾイル水素酒石酸塩。
【請求項14】
少なくとも20質量%、好ましくは少なくとも40質量%、及びより好ましくは少なくとも60質量%のトルエン、キシレン(全ての異性体)、ハロベンゼン、脂肪族炭化水素(C5からC8)、ハロゲン含有脂肪族炭化水素(C1からC6;halogenhaltigen, aliphatischen Kohlenwasserstoffen)、脂肪族エステル(C4からC8)、ギ酸エステル(C2からC7)、酢酸エステル(C3からC7)、又はニトリル(C2からC5)、好ましくはトルエンの含有量を有する請求請1の、一般化学式の(1R,5S)−アンヒドロエクゴニンエステルの溶液。
【請求項15】
トルエン、キシレン(全ての異性体)、ハロベンゼン、脂肪族炭化水素(C5からC8)、ハロゲン含有脂肪族炭化水素(C1からC6)、脂肪族エステル(C4からC8)、ギ酸のC2からC7アルキルエステル、酢酸エステル(C3からC7)、又はC2からC5−アルキルニトリル(好ましくはトルエン)の中から選択される懸濁剤、及び請求項10から13のうちの1つの塩を含む懸濁液。

【公表番号】特表2010−540493(P2010−540493A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526287(P2010−526287)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/062839
【国際公開番号】WO2009/043793
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(503137975)ベーリンガー インゲルハイム ファルマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (129)
【Fターム(参考)】