説明

(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルの製造方法

多糖誘導体を担体に担持した充填剤を液体クロマトグラフィーに用いて、6E−−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルの光学異性体の混合物を含有する溶液から(3R,5S,6E)体を製造する。前記多糖誘導体における多糖の水酸基及びアミノ基の水素原子の一部もしくは全部は、特定のアルキル基を有する芳香族基で1つの水素原子が置換されたカルバモイル基等の一種又は二種以上の置換基で置換されている。
本発明によれば、上記(3R,5S,6E)体を、従来の方法に比べてより高い生産性で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、高脂血症や動脈硬化等の予防、治療に有用なスタチン系化合物の製造方法に関し、特に光学活性な(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルの製造方法に関する。
【背景技術】
実像と鏡像の関係にある異性体である光学異性体は、一般に旋光度以外の物理的、化学的性質が全く同一であるために、片方の異性体のみを高い光学純度で得ることは難しいとされている。
従って化学的、物理的性質が重要視される材料等においては、光学異性体の等量混合物である安価なラセミ体が用いられること通常であるが、一方で医薬品、生化学関連産業等の分野においては、片方の異性体のみからなる光学活性体が多くの場合に用いられている。その理由は、光学異性体の重要な特性の一つとして、相互作用の相手が光学活性体の場合には異なる相互作用を示す可能性があるためである。
このため、特に医薬品の場合には、生体(生体は光学活性なアミノ酸や糖等から構成される光学活性体である)に対して、各光学異性体間で薬効、副作用等に違いが起きる可能性を考慮し、薬害の防止、副作用抑制のための投与量低減を目的とした、単一光学活性体での医薬品開発が望まれているのが実情である。
上述のように光学純度の高い光学活性体を得ることは、ラセミ体の製造に比べてより難しくコストも高い。この問題に対して、様々な方法により解決が試みられている。
大別すると、ラセミ体を光学分割し、片方の光学活性体を得る方法と、プロキラルな化合物から直接光学活性体を製造する方法と、キラルプール法と呼ばれる、安価な光学活性体を出発原料とし、目的の光学活性体を製造する方法とに分けられる。それぞれに一長一短があり、現在のところ、一つの手法で生産性に関する項目の全てを網羅することは困難とされている。
ラセミ体を光学分割し、片方の光学活性体を得る方法としては、ジアステレオマー塩による晶析、不斉資化等のバイオ法、液体クロマトグラフィーによる光学活性体の製造方法が挙げられる。
近年開発された液体クロマトグラフィーによる光学活性体の製造方法は、幅広い種類の光学異性体化合物に対して適用が可能であること、また多くの光学異性体の光学純度の分析技術が光学異性体分離用カラムで行われているのが現状であるため、一度分析条件が設定されると、そのまま製造条件の設定まで至る、製造手法の迅速な確立に貢献する可能性をもつという特徴を有している(例えば、牧野成夫,PHARM TECH JAPAN,12,43(1996),牧野成夫,八浪哲二,分離技術,26,15(1996)、Y.Okamoto,Angew.Chem.Int.Ed.,37,1020(1998)、及びY.Okamoto,Synlett,1998,344参照。)。
クロマトグラフィーによる(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルの製造手法としては、これまでに幾つかの論文(例えば、J.Chromatogr.,A,832,55(1999)参照。)が報告され、また特許出願(例えば、国際公開02/30903号パンフレット及び国際公開95/23125号パンフレット参照)がなされているが、さらに高い生産性を発揮できる光学異性体分離用充填剤及び製造手段の開発が強く望まれていた。
本発明は、従来の方法に比べて生産性がより高い(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルの製造方法を提供することを課題とする。
【発明の開示】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルに対して高い分取生産性を発揮する光学異性体分離用充填剤を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、6E−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルの光学異性体の混合物を含有する溶液(以下、「混合溶液」とも言う)から、担体とこの担体に担持された多糖誘導体とからなる充填剤を使用する液体クロマトグラフィーにより、(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルを分離することにより、(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルを製造する方法であって、
前記多糖誘導体は、多糖の水酸基及びアミノ基の水素原子の一部もしくは全部が、下記一般式(1)及び下記一般式(2)で表される一種又は二種以上の置換基で置換されている方法である。

(ただし、R〜Rのうちの少なくとも一つは、炭素数が3〜8の、直鎖状又は枝分かれ状のアルキル基を表す。)

(ただし、R〜Rのうちの少なくとも一つは、炭素数が3〜8の、直鎖状又は枝分かれ状のアルキル基を表す。)
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明に用いられる擬似移動床装置の一例を示す模式図である。
図2は、本発明に用いられる擬似移動床装置の他の例を示す模式図である。
図3は、実施例1で得られたクロマトグラムである。
図4は、比較例1で得られたクロマトグラムである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明における実施の形態について詳細に説明する。
本発明では、前記混合溶液から、充填剤を使用する液体クロマトグラフィーにより、(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルを分離することにより、(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルを製造する。
本発明に用いられる充填剤は、担体と、この担体に担持された多糖誘導体とから形成される。前記多糖誘導体は、多糖の水酸基及びアミノ基の一部もしくは全部が、前記一般式(1)及び前記一般式(2)で表される一種又は二種以上の置換基で置換されている。
前記多糖としては、天然多糖、天然物変成多糖、及び合成多糖のいずれかを問わず、光学活性であれば特に制限がない。例示すれば、α−1,4−グルカン(アミロース、アミロペクチン)、β−1,4−グルカン(セルロース)、α−1,6−グルカン(デキストラン)、β−1,4−グルカン(プスツラン)、α−1,3−グルカン、β−1,3−グルカン(カードラン、ジソフィラン等)、β−1,2−グルカン(Crawn Gall多糖)、β−1,4−ガラクタン、α−1,6−マンナン、β−1,4−マンナン、β−1,2−フラクタン(イヌリン)、β−2,6−フラクタン(レバン)、β−1,4−キシラン、β−1,3−キシラン、β−1,4−N−アセチルキトサン(キチン)、プルラン、アガロース、アルギン酸、シクロデキストリン等を挙げることができる。
これらの中では、高純度の多糖を容易に入手できるセルロース、アミロース、β−1,4−マンナン、イヌリン、カードラン等が好ましく、特にセルロース、アミロースが好ましく、さらにセルロースが望ましい。
これら多糖の数平均重合度(1分子中に含まれるピラノース及びフラノース等の単糖ユニットの平均数)は5以上、好ましくは10以上である。一方、前記数平均重合度は、特に上限はないが、1000以下であることが取り扱いの容易さにおいて好ましく、特に好ましくは500以下である。
前記多糖誘導体は、前記一般式(1)で表される置換基及び前記一般式(2)で表される置換基の両方を有していても良いし、これらの置換基の一方のみを有していても良い。また前記多糖誘導体における前記置換基の分布は、均等であっても良いし、偏りがあっても良い。
また、前記単糖ユニットに結合する前記置換基の個数は、全ての単糖ユニットにおいて同じであっても良いし、異なっていても良い。また、前記単糖ユニットに結合する前記置換基の位置は、単糖ユニットにおける特定の水酸基やアミノ基の位置であっても良いし、特に規則性がなくても良い。
前記多糖誘導体としては、前記一般式(1)で表される置換基を有する多糖カルバメート誘導体がより好ましい。
前記一般式におけるR〜Rのうち少なくとも一つは、炭素数が3〜8の直鎖状又は枝分かれ状を有するアルキル基であり、それ以外は水素、ハロゲン、アルキル基から選ばれる置換基である。好ましいアルキル基は、炭素数3のプロピル基であり、より好ましくは炭素数3の枝分かれしたアルキル基であるイソプロピル基である。
アルキル基の置換位置、置換基の数は、特に限定はないが、特に好ましいのは4位(R)に位置していることが望ましい。さらに好ましいのは、4位(R)に前記アルキル基が位置し、R、R、R及びRは水素原子であることである。
本発明で多糖誘導体として好適に採用することができる多糖のカルバメート誘導体は、例えば前記アルキル基を有するフェニルイソシアナートと多糖との反応により公知の方法によって製造することができる。多糖のエステル誘導体は、例えば前記アルキル基を有する安息香酸の酸クロリドと多糖とを反応させることにより、公知の方法により製造することができる。
本発明において、多糖誘導体における置換基の導入率は、通常10%〜100%であり、好ましくは30%〜100%であり、更に好ましくは80%〜100%である。前記導入率が10%未満であると、光学分割能力をほとんど示さないことが多いので好ましくない。また、前記導入率が30%未満であると、光学分割しようとする混合成分の種類、濃度によっては分離が不十分になることがあるので好ましくない。前記導入率が80%を超えると、特に光学異性体の分離能に優れた粒子を得ることができるので好ましい。
前記置換基の導入率は、例えば前記フェニルイソシアナートや前記酸クロリドの配合量によって調整することができ、例えば、置換基導入の前後における炭素、水素、及び窒素の変化を元素分析やNMR分析により調べることによって求めることができる。
本発明に用いられる担体は、液体クロマトグラフィー用の充填剤に通常用いることができる担体であれば特に限定されない。このような担体としては、例えば多孔質の有機担体、及び多孔質の無機担体が挙げられる。
多孔質の有機担体として適当なものには、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート等からなる高分子物質等が挙げられる。
多孔質の無機担体として適当なものには、シリカ、アルミナ、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、珪酸塩、ヒドロキシアパタイト等が挙げられる。前記担体として好ましい担体は、多孔質の無機担体であり、特に好ましい担体はシリカゲルである。
シリカゲルの粒径は0.1μmから10mmであることが好ましく、1μm〜300μmであることがより好ましく、更に好ましくは15〜75μmである。シリカゲルの表面に形成されている孔の平均孔径は10Å〜100μmであることが好ましく、より好ましくは50Å〜50000Åである。
シリカゲルは、残存するシラノールの影響を排除するために、表面処理が施されていることが望ましいが、全く表面処理が施されていなくても問題無い。
担体の多糖誘導体の担持量は、充填剤に対して10質量%以上が好ましいが、生産性の点から15質量%以上がより好ましい。ここでいう担持量とは、充填剤質量中の多糖誘導体質量の割合で示される。担持量の上限は特にないが、担持量が60%以上になると段数の減少による分離効率の低下が起こるため好ましくない。
前記充填剤は、多糖誘導体を直接担体に化学結合する方法、あるいは多糖誘導体溶液を担体に塗布し溶剤を留去する方法等の、前記充填剤を作製するための公知の方法により得られる。
この時、多糖誘導体の溶解に使用される溶剤は、多糖誘導体を溶解せしめるものであれば、通常使用されている有機溶剤のいかなるものでも良い。前記有機溶剤は、低沸点の溶剤や揮発性の高い溶剤であることがより好ましい。
さらに、担体上の多糖誘導体同士の化学結合、担体と多糖誘導体との間に介在する第三成分を使用した化学結合、担体上の多糖誘導体への光照射、γ線等の放射線照射、マイクロ波等の電磁波照射による反応、ラジカル開始剤等によるラジカル発生による反応等の種々の反応一種又は二種以上によって、さらなる化学結合を形成せしめることで、多糖誘導体の担体上におけるさらなる強固な固定化を図ってもよい。
本発明の製造方法は、液体クロマトグラフィーによる。この液体クロマトグラフィーは、二種以上の成分を含有する混合溶液の供給及び溶離液(移動相)の排出のいずれか一方又は両方が断続的に行われる回分式の液体クロマトグラフィーであっても良いが、前記混合溶液から一種の成分を連続して分離して採取することができる連続式液体クロマトグラフィーであることが好ましい。
このような液体クロマトグラフィーとしては、特に一般の有機溶剤もしくは水を移動相とした連続式のクロマトグラフィー分取方法である擬似移動床方式液体クロマトグラフィー、あるいは超臨界流体を移動相とした超臨界クロマトグラフィー、連続式の擬似移動床式超臨界クロマトグラフィー等が好ましい。
前記混合溶液は、6E−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルの光学異性体の混合物を含有する。前記混合溶液には、前記多糖誘導体によって前記ヘプテン酸エチルと分離することが可能な他の成分が含まれていても良い。このような他の成分としては、例えば前記ヘプテン酸エチルのジアステレオマー、前記ヘプテン酸エチルの合成反応における副生物等が挙げられる。
前記混合溶液としては、例えば前記ヘプテン酸エチルの合成で得られる反応液、この反応液から目的物を抽出した抽出液、前記ヘプテン酸エチルを含有する組成物から前記ヘプテン酸エチルを抽出した抽出液、前記抽出液から取り出された抽出成分を適当な溶媒で溶解した溶液等が挙げられる。
前記液体クロマトグラフィーによって分離した(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルは、(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチル溶液として採取される。この溶液を濃縮することにより、あるいは前記溶液の溶媒を留去させることにより、(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルが得られる。
前記擬似移動床式クロマトグラフィーは、前記充填剤が充填されている複数のカラムを直列に接続して形成される無端状の管路に溶離液を供給する工程と、前記管路における溶離液の流れ方向において溶離液の供給位置よりも下流側の位置から前記管路を流れる液体の一部を排出する工程(以下「第一の排出工程」とも言う)と、前記管路における溶離液の流れ方向において前記液体の排出位置(以下「第一の排出位置」とも言う)よりも下流側の位置に前記混合溶液を供給する工程と、前記管路における前記混合溶液の供給位置と前記溶離液の供給位置との間の位置から前記管路を流れる液体の一部を排出する工程(以下「第二の排出工程」とも言い、この工程による液体の排出位置を「第二の排出位置」とも言う)と、前記管路における前記混合溶液中の混合成分の位置に前記混合溶液を供給するように、前記溶離液の供給位置、前記第一の排出位置、前記混合溶液の供給位置、及び前記第二の排出位置を、これらの位置の相対的な位置関係を保ったまま液体の流れの下流方向へ移動させる工程と、前記管路から排出される液体に含まれる成分を取り出す工程とを含む。
前記擬似移動床式クロマトグラフィーにおいて、前記管路では、混合溶液中の、充填剤により吸着されやすい成分(以下「エクストラクト成分」とも言う)と、充填剤により吸着されにくい成分(以下「ラフィネート成分」とも言う)とが、充填剤に吸着される。
エクストラクト成分は、前記管路を移動する速度が、ラフィネート成分の移動速度、及び混合溶液の供給位置の移動速度よりも小さいので、混合溶液の供給位置の上流側に分布する。
一方、ラフィネート成分は、前記管路を移動する速度が、エクストラクト成分の移動速度、及び混合溶液の供給位置の移動速度よりも大きいので、混合溶液の供給位置の下流側に分布する。
混合溶液の供給位置より供給される各成分の濃度は、平衡に達するまで経時的に高まり、エクストラクト成分の濃度分布は混合溶液の供給位置付近を頂点に混合溶液の供給位置よりも上流側に分布する。一方、ラフィネート成分の濃度分布は、混合溶液の供給位置付近を頂点に混合溶液の供給位置よりも下流側に分布する。
経時的に広がった各成分の濃度分布の両端が、各排出位置に到達すると、各成分を含む溶液が前記管路よりそれぞれ排出される。各成分の濃度や分布は、前記カラムの大きさ、充填剤の種類、管路に供給する液体の種類、供給速度、管路から排出される各液体の速度、及び前記供給位置及び排出位置の相対的な位置関係及びその移動速度(切り替え速度)等の諸条件により調整される。
なお、前記混合成分は、混合溶液中の前記エクストラクト成分と前記ラフィネート成分とが混在する成分である。また、前記混合成分の位置は、エクストラクト成分とラフィネート成分とが混在している管路中の位置であれば特に限定されないが、エクストラクト成分とラフィネート成分とが等量で混在している位置であることが好ましい。
また、溶離液の供給位置、前記第一の排出位置、前記混合溶液の供給位置、及び前記第二の排出位置の相対的な位置関係は、管路において実質的に等間隔にある位置関係であっても良いし、異なる間隔の位置関係であっても良い。
また、これらの位置の移動時期は、管路を流れる液体の成分の分析や、充填剤の種類及び管路中の液体の流速等の諸条件を設定した、コンピュータによるシミュレーション等によって決めることができる。
前記擬似移動床式液体クロマトグラフィーは、例えば、国際公開第95/23125号パンフレットや特開平9−206502号公報等に開示されている、通常用いられる擬似移動床(SMB)装置を用いて行うことができる。
以下、図面に基づいて本発明における方法を説明する。図1は、本発明に用いられる擬似移動床装置の一例を示す模式図であり、図2は本発明に用いられる擬似移動床装置の別の例を示す模式図である。
図1において、前記管路は12体のカラムを直列に接続することによって形成されており、図2において、前記管路は8体のカラムを直列に接続することによって形成されている。
それぞれの装置において、図示しないが、カラム同士を接続する全ての管路には、溶離液を供給する管路、混合溶液を供給する管路、及び液体を排出する管路が接続されている。これらの管路からの液体の供給又は液体の排出は、自動弁によって制御されている。なお、前記カラムの数や大きさは、混合溶液の種類や組成、流量、圧損、装置の大きさ等の要因によって決まるものであり、限定されるものではない。
前記装置を用いる擬似移動床式クロマトグラフィーでは、基本的操作として、次に示す吸着操作、濃縮操作、脱着操作及び溶離液回収操作が連続的に循環して実施される。
(1) 吸着操作
混合溶液中の混合成分が充填剤と接触し、供給される溶離液の流れにより吸着と脱着を繰り返す。充填剤がエクストラクト成分を吸着する度合いは、ラフィネート成分を吸着する度合いよりも大きいため、前記カラム内の移動速度が小さくなる。充填剤がラフィネート成分を吸着する度合いは、エクストラクト成分を吸着する度合いよりも小さいため、カラム内の移動速度が大きくなり、ラフィネート成分の濃度分布は、前記管路においてエクストラクト成分の濃度分布よりも先行する。
(2) 濃縮操作
主としてエクストラクト成分が吸着している充填床に、エクストラクト成分を含んだ溶離液が供給されると、充填剤上に残存しているラフィネート成分が追い出され、エクストラクト成分が濃縮される。
(3) 脱着操作
エクストラクト成分の濃縮時よりも多くの量の溶離液が充填床に供給されると、それまで充填剤に吸着されていたエクストラクト成分が充填剤上から脱離し、カラム内のエクストラクト成分の移動速度が濃縮操作時のそれよりも大きくなる。
(4) 溶離液回収操作
ラフィネート成分を吸着している充填剤に、ラフィネート成分の吸着時よりも溶離液の供給量が減少すると、管路を移動しているラフィネート成分の移動が抑制される。溶離液の供給量が減少するポイントよりも下流側の充填剤は、溶離液中の成分を吸着し、このような成分を含有しない溶離液が前記ポイントよりも下流側の管路に供給される。
図1において、1〜12は充填剤の入った室(吸着室、カラム)であり、相互に直列に連結されている。13は溶離液供給ライン、14はエクストラクト抜き出しライン、15は光学異性体含有液供給ライン、16はラフィネート抜き出しライン、17はリサイクルライン、18はポンプを示す。
図1で示した吸着室1〜12と各ライン13〜16の配置の状態では、吸着室1〜3で脱着操作、吸着室4〜6で濃縮操作、吸着室7〜9で吸着操作、吸着室10〜12で溶離液回収操作がそれぞれ行われている。
このような擬似移動床では、一定時間間隔ごとにバルブ操作により各供給液及び抜き出しラインを、管路における液体の流れ方向に吸着室1室分だけそれぞれ移動させる。
従って、次の吸着室の配置状態では、吸着室2〜4で脱着操作、吸着室5〜7で濃縮操作、吸着室8〜10で吸着操作、吸着室11〜1で溶離液回収操作がそれぞれ行われるようになる。
このような操作を順次行うことによって、光学異性体の混合物の分離処理が連続的に効率よく達成される。
図1において、エクストラクト抜き出しライン14から採取されたエクストラクト溶液は、第一流下型薄膜蒸発器19、第二流下型薄膜蒸発器20、強制型薄膜蒸発器21に順次供給され、これらの蒸発器によって濃縮される。蒸発器からの蒸気は回収槽22に送られ、蒸発装置25によって組成が調整され、溶離液として再利用される。蒸発器によって濃縮された濃縮液は貯留槽23に送られ、再結晶や蒸留等の操作によって前記濃縮液から目的の光学活性体を得る。
なお、ラフィネート抜き出しライン16から採取されたラフィネート溶液は、ラセミ化槽24を介して混合溶液と混合されて、前記クロマトグラフィーによる分離に再度供される。
なお、図1の擬似移動床装置は、エクストラクト成分を製造目的物とする装置であるが、第一流下型薄膜蒸発器19から蒸発装置25までの装置等と、ラセミ化槽24とを入れ替えることによって、ラフィネート成分を製造目的物とする装置を構成することが可能である。
また、図1の擬似移動床装置は、エクストラクト抜き出しライン14及びラフィネート抜き出しライン16の両方に、第一流下型薄膜蒸発器19から蒸発装置25までの装置等をそれぞれ設けると、エクストラクト成分及びラフィネート成分の両方を製造目的物とする装置を構成することが可能である。
また、図2に示した吸着室1〜8と各ライン13〜16の配置の状態では、吸着室1で溶離液回収操作、吸着室2〜5で吸着操作、吸着室6〜7で濃縮操作、吸着室8で脱着操作がそれぞれ行われている。このような擬似移動床では、一定時間間隔ごとにバルブ操作により各供給液及び抜き出しラインを、管路における液体の流れ方向に吸着室1室分だけそれぞれ移動させる。
従って、次の吸着室の配置状態では、吸着室2で脱着操作、吸着室3〜6で濃縮操作、吸着室7〜8で吸着操作、吸着室1で溶離液回収操作がそれぞれ行われるようになる。このような操作を順次行うことによって、光学異性体の混合物の分離処理が連続的に効率よく達成される。
なお、前記擬似移動床式クロマトグラフィーによれば、ラフィネート成分又はエクストラクト成分として(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルが得られるが、同時に、前記混合溶液中の他方の成分をエクストラクト成分又はラフィネート成分として得ることも可能である。
【実施例】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
また、以下の実施例では、擬似移動床式クロマトグラフィーを用いた分離の一例を示すが、本発明においては、この条件の分離のみに限らず、例えば国際公開00/26886号パンフレットに開示されているように、運転の最適化のために、サイクル時間等の条件は任意に設定してもよい。
<合成例1 セルロース トリス(4−イソプロピルフェニルカルバメート)担持充填剤からなるHPLC用カラムの作製>
(1)シリカゲルの表面処理
多孔質シリカゲル(粒径20μm)を、公知の方法により、3−アミノプロピルトリエトキシシランと反応させることにより、前記多孔質シリカゲルにアミノプロピルシラン処理(APS処理)を施した。
(2)セルロース トリス(4−イソプロピルフェニルカルバメート)の合成
窒素雰囲気下、セルロース100gと、4−イソプロピルフェニルイソシアナート794.0g(セルロースの水酸基に対して2.7当量)とを、乾燥ピリジン3.2L中で、ピリジン還流温度下にて60時間攪拌し、その後メタノール40Lに注ぎ込んだ。析出した固体をグラスフィルターで濾取し、メタノールで数回洗浄し、その後、真空乾燥(80℃、15時間)を行った。その結果、若干黄色がかった白色固体、336.5g(収率84.6%)が得られた。得られた白色個体の炭素、水素、及び窒素元素の分析の結果を以下に示す。
CHN結果:
測定値 C%:65.67 H%:6.62 N%:6.31
理論値 C%:66.96 H%:6.71 N%:6.51
(3)セルロース トリス(4−イソプロピルフェニルカルバメート)のシリカゲル担持充填剤の作製
上記(2)で得たセルロース トリス(4−イソプロピルフェニルカルバメート)100gをアセトン600mLに溶解させ、このポリマードープを均一に(1)のシリカゲル400gに塗布した。塗布後、アセトンの減圧留去を行うことで、目的のセルロース トリス(4−イソプロピルフェニルカルバメート)担持型充填剤を得た。
(4)作製した充填剤を充填したHPLC用カラムの作製
上記(3)で作製したセルロース トリス(4−イソプロピルフェニルカルバメート)担持型充填剤を、長さ25cm、内径0.46cmのステンレス製カラムにスラリー充填法で充填し、HPLC用カラムを作製した。
【実施例1】
(1)合成例1で作製したHPLC用カラムを使用した保持係数の測定
日本分光社製液体クロマトグラフ装置(ポンプ:PU−980、UV検出器:UV−975、オートサンプラー:AS−950、カラムオーブン:869−CO、システムコントローラー:LCSS−900)を用いて、合成例1で作製したHPLC用カラムにより、(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルと、(3S,5R,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルとの混合溶液の分析を行った。分析条件、及び分析の結果得られた保持係数(k’)を表1に記載する。また、分析の結果得られたクロマトグラフを図3に示す。
(2)擬似移動床式クロマトグラフィーによる光学異性体の分離
合成例1で作製した充填剤を、内径1.0cm、長さ10cmの8本のステンレス製カラムにスラリー充填法で充填し、これらのカラムを小型擬似移動床式クロマトグラフ分取装置に取り付け、前記混合溶液からの光学異性体の分取を行った。本例における操作条件を以下に示す。小型擬似移動床式クロマトグラフ分取装置の運転の結果得られた前成分(Raffinate)の光学純度、後成分(Extract)の光学純度、及び前成分生産性を表2に示す。
<操作条件>
移動相:n−ヘキサン/2−プロパノール=50/50(v/v)
カラム温度:40℃
Feed流速:2.05ml/min.
Raffinate流速:2.58ml/min.
Extract流速:11.52ml/min.
Eluent流速:12.05ml/min.
Step time:1.35min.
Feed濃度:28(mg/ml−移動相)
なお、前記操作条件において、「Feed流速」は混合溶液の供給速度であり、「Raffinate流速」は第二の排出工程における液体の排出速度であり、「Extract流速」は第一の排出工程における液体の排出速度であり、「Eluent流速」は溶離液の供給速度であり、「Step time」は、溶離液及び混合溶液の供給位置、及び第一及び第二の排出位置を移動させる時間の間隔であり、「Feed濃度」は混合溶液中の溶質の濃度である。なお、混合溶液の溶媒は、移動相(溶離液)と同じ組成である。
また、前成分及び後成分の光学純度は、ダイセル化学工業社製、光学異性体分離用カラム、CHIRALCEL OF(内径0.46cm、長さ25cm)を用いて分析を行い、測定した。分析条件を以下に示す。
移動相:ヘキサン/2−プロパノール=8/2(v/v)
流速:1.0ml/min
温度:25℃
検出波長:254nm
打ち込み量:1.0mg/ml(ヘキサン/2−プロパノール=1/1)×10μl
<比較例1>
(1)セルロース トリス(4−クロロフェニルカルバメート)が充填されているHPLC用カラムを使用した保持係数の測定
セルロース トリス(4−クロロフェニルカルバメート)を主成分とする光学分割用カラムである、ダイセル化学工業社製 CHIRALCEL OF(粒子径:20μm)を用い、分析条件を表1に記載した分析条件に変える以外は、実施例1と同様に、前記混合溶液の分析を行った。分析条件、及び分析の結果得られた保持係数(k’)を表1に記載する。また、分析の結果得られたクロマトグラフを図4に示す。
(2)擬似移動床式クロマトグラフィーによる光学異性体の分離
合成例2で作製した充填剤を用い、以下の操作条件で操作する以外は、実施例1と同様に、小型擬似移動床式クロマトグラフ分取装置を用いて前記混合溶液からの光学異性体の分取を行った。本例における操作条件を以下に示す。小型擬似移動床式クロマトグラフ分取装置の運転の結果得られた前成分の光学純度、後成分の光学純度、及び前成分生産性を表2に示す。
<操作条件>
移動相:n−ヘキサン/2−プロパノール=68/32(v/v)
カラム温度:40℃
Feed流速:1.05ml/min.
Raffinate流速:2.59ml/min.
Extract流速:9.32ml/min.
Eluent流速:10.86ml/min.
Step time:1.5min.
Feed濃度:20(mg/ml−移動相)


【産業上の利用可能性】
この発明によると、優れた光学分割能力を有する充填剤を光学分割用充填剤として使用することによって、連続的にかつ生産性よく光学異性体の光学分割を行うことができ、連続的にかつ生産性よく(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルを製造することができ、(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルの工業的な製造において大幅なコストダウンが期待できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
6E−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルの光学異性体の混合物を含有する溶液から、担体と、この担体に担持された多糖誘導体とからなる充填剤を使用する液体クロマトグラフィーにより、(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルを分離することにより、(3R,5S,6E)−7−[2−シクロプロピル−4−(4−フルオロフェニル)キノリン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸エチルを製造する方法であって、
前記多糖誘導体は、多糖の水酸基及びアミノ基の水素原子の一部もしくは全部が、下記一般式(1)及び下記一般式(2)で表される一種又は二種以上の置換基で置換されていることを特徴とする方法。

(ただし、R〜Rのうちの少なくとも一つは、炭素数が3〜8の、直鎖状又は枝分かれ状のアルキル基を表す。)

(ただし、R〜Rのうちの少なくとも一つは、炭素数が3〜8の、直鎖状又は枝分かれ状のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記多糖誘導体は、セルロースの水酸基の水素原子の一部もしくは全部が前記一般式(1)で表される置換基で置換されており、前記一般式(1)で示されるRはイソプロピル基であり、前記一般式(1)で示される、R、R、R及びRは水素原子であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記液体クロマトグラフィーは、二種以上の成分を含有する混合溶液から少なくとも一種の成分を連続して分離して採取することができる連続式液体クロマトグラフィーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記連続式液体クロマトグラフィーは、擬似移動床式クロマトグラフィーであることを特徴とする請求項3記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/094385
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505803(P2005−505803)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005894
【国際出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】