説明

(S,S)−シス−2−ベンズヒドリル−3−ベンジルアミノキヌクリジンの調製方法

(S,S)−シス−2−ベンズヒドリル−3−ベンジルアミノキヌクリジンの調製方法。この方法は、R−異性体とS−異性体との混合物を含有し、式(I)で示される化合物を、前記R−異性体をS−異性体の酸塩に転化させるために、有機溶媒の存在下の有効量のキラル有機酸及び有効量の有機カルボン酸と接触させる工程、この場合、前記有機溶媒はR−異性体とS−異性体との混合物を含有する前記化合物を可溶化させ、その一方で前記酸塩を沈殿させることができる、また前記有機カルボン酸は前記キラル有機酸とは異なるものである;前記酸塩を塩基で中和して、式(II)で示されるキラルケトンのS−異性体を得る工程;並びに該キラルケトンを有機アミンと、ルイス酸の存在下で、反応させて、対応するイミンを得て、前記イミンを還元する工程を包含する。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、サブスタンスPの非ペプチド・アンタゴニストとして有用性を有する光学活性キヌクリジン類似体の調製における有用な中間体である標題化合物、(S,S)−シス−2−ベンズヒドリル−3−ベンジルアミノキヌクリジン(4)の調製方法に関する。
【0002】
【化1】

【0003】
発明の背景
サブスタンスPは、ペプチドのタキキニン・ファミリーに属する自然発生ウンデカペプチドである、該ファミリーのメンバーは平滑筋組織に迅速な刺激作用を及ぼす。サブスタンスPは、哺乳動物において産生され、米国特許第4,680,283号に説明されている、特徴的なアミノ酸配列を有する、薬剤学的に活性なニューロペプチドである。多様なサブスタンスP・アンタゴニストを標題化合物から製造することができ、例えば、米国特許第5,162,339号は、式2[式中、Rはメトキシであり、Rは、イソプロピル、tert−ブチル、メチル、エチル及びsec−ブチルから成る群から独立的に選択される]で示されるサブスタンスP・アンタゴニストを記載している。
【0004】
【化2】

【0005】
これらのサブスタンスP・アンタゴニストは、式:
【0006】
【化3】

【0007】
で示されるシス−2−ベンズヒドリル−3−アミノ−キヌクリジン1を、式:RCHO[式中、Rは上述したようなR及びRによって置換されるフェニル環を有するベンズアルデヒド誘導体として定義される]で示される適当なアルデヒドを用いて還元アミノ化することによって調製することができる。この還元アミノ化は、例えば、WO92/21677、WO94/10170、WO94/11368、WO94/26740、WO94/08997、WO97/03984及び米国特許第5,162,339号、第5,721,255号、第5,939,433号及び第5,939,434号に記載されているように、適当な金属触媒、シアノホウ水素化ナトリウム、トリアセトキシホウ水素化ナトリウム、亜鉛と塩酸、ボラン・ジメチルスルフィド又はギ酸の存在下で、例えば水素のような、多様な試薬によって達成することができる。代替え方法は、例えば米国特許第5,807,867号及び第5,939,433号とWO92/21677に教示されているように、適当な求電子試薬によるアルキル化によって、式1化合物を式2化合物に転化させることである。式1化合物から式2化合物への転化のさらなる代替え方法は、活性化カルボン酸誘導体による式1化合物のアシル化と、その後の、得られたアミドの、WO92/21677及びthe Journal of Medicinal Chemistry,35,2591(1992)に記載されているような、例えば水素化アルミニウムリチウムのような試薬による還元である。
【0008】
式2化合物の形成における中間体であるシス−2−ベンズヒドリル−3−アミノ−キヌクリジン1は、水素ガスと触媒による脱ベンジル化によって3−ベンジルアミン−2−ベンズヒドリル−キヌクリジン4から得られる。ベンジルアミン4の調製方法は、Warawaによってthe Journal of Medicinal Chemistry,18,587(1975)に記載されており、スキーム1に例示される。この方法は、the Journal of the Chemical Society(London)p1241(1939)
におけるClemo等の方法によって得られる3−キヌクリジノン5によって開始し、3−キヌクリジノン5をベンズアルデヒドと縮合させて、エノン6を形成する。次に、これを塩化フェニルマグネシウムと反応させて、2−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノン3を形成する。ベンジルアミンによるケトン3の還元アルキル化は、式4化合物を生じる。
【0009】
スキーム1
【0010】
【化4】

【0011】
このアプローチは、WO92/20676及び米国特許第5,162,339号に記載されているように、アリール及びキヌクリジン類似体へのアクセスを可能にする適応を受け易い。メトキシベンジルアミンの使用は、これが、アミン1を生じるための加水分解除去と、米国特許第5,807,867号及び第5,939,433号に記載されているような水素化分解を可能にするので、ベンジルアミンの代わりに用いられている。
【0012】
ベンジルアミンとケトン3との反応から形成されるイミン還元を行なうための9−BBNの使用が、これが式4化合物の所望のシス−異性体の形成を最大化するので、提案されている。この方法は、the Journal of Medicinal Chemistry,35,2591(1992)に記載されている。
【0013】
これらの実施例の全てにおいて、材料はラセミ化合物である。化合物1、2又は4に関してエナンチオマーの分離が、古典的な分割手法によって行なわれている。これは、例えば、米国特許第5,138,060号に記載されている方法論によって説明される、この場合、メトキシフェニル誘導体7を分離して、酢酸エチルからの(−)−マンデル酸によるラセミ化合物7の結晶化、その後の酢酸エチルからの再結晶による該塩の精製、及び塩基での処理による遊離アミン生成物の放出によって、所望の(−)−異性体を得る。関連方法では、WO97/03984に記載されているように、N−[[2−メトキシ−5−(1−メチルエチル)フェニル]メチル]−2−(ジフェニルメチル)−1−アザビシクロ[2.2.2]オクタン−3−アミンが(1R)−(−)−10−ショウノウスルホン酸を用いて分割される。
【0014】
【化5】

【0015】
D−酒石酸の使用は、日本特許第07025874号にMurakami等によって、メタノール中でのシス−3−アミノ−2−ベンズヒドリルキヌクリジン(1)の分割に関して開示されている。中間体カルバメートのジアステレオ異性体の分離も、the Journal of Medicinal Chemistry,35,2591(1992)に記載されているように、単独エナンチオマーとして式1化合物を得るために用いられている。
【0016】
発明の概要
本発明は、(S,S)−シス−2−ベンズヒドリル−3−ベンジルアミノキヌクリジンの調製方法に関する。本発明の方法は、R−異性体とS−異性体との混合物を含有し、式:
【0017】
【化6】

【0018】
で示される化合物を、該R−異性体を該S−異性体の酸塩に転化させるために、有機溶媒の存在下の有効量のキラル有機酸及び有効量の有機カルボン酸と接触させることを含む。本発明の方法によると、用いる有機溶媒はR−異性体とS−異性体との混合物を含有する化合物を可溶化させることができ、その一方で該酸塩を沈殿させることができる。さらに、本発明の方法で用いる有機カルボン酸は、用いるキラル有機酸とは異なる。
【0019】
上記接触工程は、動的速度論的分割(dynamic kinetic resolusion)が起こるように行なわれる。即ち、本発明の接触工程は、反応をS異性体の形成に導くような、反応物及び条件を用いて行なわれる。本発明によると、この動的速度論的分割は、キヌクリジノンを可溶化するために有効量の有機カルボン酸を用いて、R異性体をS異性体にラセミ化するための酸性環境を与えるときに、達成される。該有機カルボン酸がキラルでないことが好ましい。キヌクリジノンを基準にして、少なくとも1当量の有機カルボン酸を用いることが好ましく、1当量を超えて用いることがより好ましい。同様に、有効量の、少なくとも1当量の、好ましくは1当量を超えるキラル有機酸を用いる場合に、該動的速度論的分割が達成される。
【0020】
接触工程後に、得られた酸塩を有機塩基で中和して、式:
【0021】
【化7】

【0022】
で示されるキラルケトンのS異性体を得る。
次に、該キラルケトンをルイス酸の存在下で有機アミンと反応させて、対応するイミンを得て、次に、該イミンを還元する。本発明によると、有効量のルイス酸、好ましくは、少なくとも1当量、より好ましくは、1当量を超えるルイス酸を最適の転化のために用いる。本発明の反応を以下のスキーム2に示す。
【0023】
好ましい実施態様では、出発物質は、ラセミ化合物の2−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノン(3)である。好ましい実施態様では、この方法は、the Journal of Medicinal Chemistry,18,587(1975)におけるWarawaの方法によって記載されているように調製したラセミ化合物の2−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノン(3)から出発する。L−酒石酸、好ましいキラル有機酸で処理すると、式3化合物の(S)−異性体が85〜90%収率でその酒石酸塩として結晶化する。分割は1つの異性体の50%収率のみを与えることができ、残りは好ましくない鏡像異性体であるので、動的反応速度論的分割が起こりつつある。したがって、好ましくない(R)−異性体は反応条件下で(S)−異性体に転化されつつある。結晶化のための溶媒は、有機カルボン酸(なかでも、酢酸が好ましい)の存在下で、ケトン3が可溶であるアルコールであり、なかでも、エタノールが好ましい。
【0024】
動的反応速度論的分割は、好ましくない鏡像異性体を廃棄しなくてもよいので、文献に教示された古典的分割アプローチに比べて、損失を最小にすることを可能にする。
この塩から、光学活性ケトンを回収して、S−立体化学がC−2に維持され、S−シス−立体化学がC−3における新しい炭素窒素結合において大きく制御されるプロセスで、ベンジルアミンによる還元アルキル化に用いることができる。
【0025】
ベンジルアミンによる不斉還元アルキル化方法は、(1)例えばアルミニウム・トリ−イソプロポキシド又はチタン・テトラ−イソプロポキシドのような緩和ルイス酸の過剰量の存在下での有機溶媒中のベンジルアミンによるS−3の処理による中間体イミンの形成と、その後の該イミンの現場における(in-situ)貴金属触媒上での水素ガスによる還元を必要とする。この反応のための適当な溶媒は、非限定的に、テトラヒドロフランであり、水素化のための好ましい触媒は炭素付きPtである。
【0026】
スキーム2
【0027】
【化8】

【0028】
詳細な説明
当業者にとって、アミン1及びその類似体を調製するためにラセミ化合物系列で用いられる試薬及び方法を用いることは、分かりきった進展である。本発明は、キラル有機酸による塩の形成によってケトン3を動的に分割すること(dynamic resolution)を含む。本明細書で用いる限り、キラル有機酸は、不斉中心を有し、立体異性体を有し、立体異性体の一部が相互の鏡像(エナンチオマー)である有機カルボン酸である。該キラル有機酸も有機溶媒に可溶である。
【0029】
有効量のキラル有機酸が用いられる。過剰量のキラル有機酸を用いることができるとはいえ、キヌクリジノンに対して少なくともほぼ等モル量のキラル有機酸を用いることが好ましい;しかし、ほぼ等モル量のキラル有機酸を用いることが好ましい。酒石酸が好ましい例である。ラセミ・ケトンは可溶であるが、得られる塩は沈殿する有機溶媒が用いられる。キヌクリジノンと種々な試薬を可溶化するために充分な溶媒が存在する。この有機溶媒は好ましくはアルコールであり、この場合、エタノールが好ましいアルコールであり、変性アルコールがエタノールの好ましい形である。
【0030】
塩形成を助けるために、弱有機カルボン酸を加える。該有機カルボン酸はモノカルボン酸でもポリカルボン酸でもよいが、モノカルボン酸又はジカルボン酸であることが好ましい。該有機カルボン酸がモノカルボン酸であることが、特に好ましい。該カルボン酸は、非限定的に、酢酸、プロピオン酸及び酪酸を包含する。好ましい酸は酢酸である。
【0031】
上述したように、用いる有機カルボン酸は、塩形成を誘起し、該塩の沈殿を促進するために充分な量で存在する。好ましくは、キヌクリジノンを基準にして、少なくとも1当量の有機カルボン酸を用いる。
【0032】
本明細書で用いる限り、“当量”なる用語は、酸に関連する場合に、それぞれ、酸性水素、即ち、中和の間に塩基と反応する水素の1原子量又はモルを含有する量、特に、重量又はモルでの量を意味する。例えば、酸が例えば酢酸のようなモノカルボン酸である場合に、1モルの酢酸は1モル(当量)の酸を生じる。しかし、カルボン酸が例えばシュウ酸、コハク酸等のようなジカルボン酸である場合に、1モルのジカルボン酸は2当量の酸を生じる。
【0033】
したがって、該有機酸がモノカルボン酸である場合には、キヌクリジノンを基準にして少なくともほぼ等モル量のモノカルボン酸を用いることが好ましく、他方では、該カルボン酸がジカルボン酸である場合には、モル基準で、キヌクリジノンの少なくともほぼ2倍量のジカルボン酸を用いることが好ましい。しかし、過剰量の有機カルボン酸を用いることが好ましい。
【0034】
キヌクリジノン、キラル有機酸及び有機カルボン酸を0℃程度の低温から溶媒の還流温度までの温度で混合することができるが、これらをほぼ周囲温度で一緒に混合することが好ましい。この反応は、(S)−塩異性体の沈殿が終るまで、即ち、もはや沈殿が観察されなくなるまで、進行することが許される。
【0035】
束縛されるのを望む訳ではないが、キラル有機酸と、キヌクリジノン及び有機カルボン酸との組み合わせが、動的速度論的分割を促進すると考えられる。より具体的には、反応条件下で、S−異性体の塩が沈殿するのみでなく、好ましくないR−異性体もS−異性体の塩に転化される。このように、R−異性体はS−異性体に転化されるので、本発明の反応条件下では、廃棄されるR−異性体はあるとしてもごく僅かである。
【0036】
本発明の第2工程では、S−異性体、例えばS−酒石酸塩の中和によって、酒石酸塩からキラル・ケトンS−3が得られる。この第2工程は、有機溶媒と水との二相混合物中で行われることが好ましい。適当な有機溶媒は、非限定的に、トルエン、酢酸エチル及びメチルt−ブチルエーテルを包含する。好ましい有機溶媒はトルエンである。中和反応のための適当な塩基は、非限定的に、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムを包含する。好ましい実施態様では、塩を二相溶媒混合物中に懸濁させて、塩基の水溶液を、25℃未満の温度を維持するために冷却しながら、約9のpHに達するまで加える。光学活性なS−3の遊離塩基が有機層から固体として回収される。
【0037】
本明細書では、キラル・ケトンS−3を用いて、サブスタンスPアンタゴニストを調製することができること、及びラセミ化が生じないことを説明するために、限定する訳ではなく、1つの用途を記載する。当業者にとって、ラセミ化合物に関する文献から、他のアルデヒド、イミンのための還元剤及び脱保護方法を想定することが可能である。このスキームの工程3は、例えばアルキルアミン、アリールアミン又はアリールアルキルアミンのような窒素含有有機アミンによるイミンの形成を含む。アルキルは、分枝鎖状又は直鎖状のいずれでもよい炭素原子1〜6個を含有することが好ましい。例は、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、イソブチル、ペンチル及びヘキシルを包含する。単独で又は組み合わせて用いる場合の“アリール”なる用語は、環炭素原子6、10、14又は18個と、全体で25個までの炭素原子を含有する芳香族化合物である。例は、フェニル、ナフチル等を包含する。好ましいアミンはベンジルアミンである。有機アミンを緩和なルイス酸の存在下で、その場で(in-situ)反応させて、イミンを形成し、次に、該イミンを当業者に知られた方法で、例えば貴金属触媒及び水素上での還元によって、対応アミンに還元する。このアプローチはS−3からS−4への転化中に可能なラセミ化を回避する。ブレンステッド酸の存在下でのイミン形成は、C−2における若干のラセミ化を生じた。ルイス酸を用いて、該イミン形成を触媒して、生じた混合物に対して還元を直接行なう場合には、エピマー化が観察されない。
【0038】
イミン形成反応に適した溶媒は、例えば、塩化メチレン、ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロエタンのような、任意のホモジネート炭化水素、又は例えば、非限定的にTHFを包含するエーテル溶媒及び非限定的にトルエンを包含する炭化水素のような、他の不活性溶媒である。適当なルイス酸は、アルミニウム・トリ−イソプロポキシド及びチタン・テトラ−イソプロポキシドを包含する。好ましいルイス酸は、アルミニウム・トリ−イソプロポキシドである。該ルイス酸は、イミンを形成するために有効な量で存在する。該窒素含有有機アミンがケトンS−3の量に対して少なくともほぼ等モル量で存在することが好ましいが、過剰なアミンが存在することも可能である。さらに、ルイス酸が、ケトンS−3からイミンへの転化を助けるために少なくとも触媒有効量で存在することが好ましい。特に、ケトンS−3が制限試薬(limiting reagent)である場合に、ルイス酸がケトンS−3の量に対して少なくともほぼ等モル量で存在することが好ましい。得られたイミンを標準方法によって、例えば貴金属触媒と水素を用いることによって還元する。該貴金属触媒は、種々な担体付きの白金及びパラジウム金属を包含する。好ましい触媒は炭素付き白金である。例えば、本発明の方法の1つの具体化された工程は、溶媒としてのテトラヒドロフラン中のS−3及びベンジルアミンと、ルイス酸としてのアルミニウム・トリ−イソプロポキシドとを混合することによって、行なわれる。イミン形成は好ましくは室温で3時間行なわれる。テトラヒドロフラン中の5%Pt/Cのスラリーを加えて、反応を水素圧75psiの水素雰囲気下で15時間撹拌する。光学活性S,S−4が反応から単離された。
【0039】
本発明の上記方法は、慣用的な古典的分割アプローチを超える有意な利益を達成する。分割工程、即ち、第1接触工程の収率は50%より大きく、これは典型的な分割によって達成されうる最大値である。好ましくない異性体は好ましい異性体に転化され、反応条件下で混合物から単離される。これは、スループットの増大と、費用節約をもたらす。単独エナンチオマーとしてのキヌクリジノンの使用は、種々なルートによる光学的に純粋な形でのサブスタンスPアンタゴニストの不斉合成を可能にし、後期分割に関連した問題を軽減する。還元アミノ化中のラセミ化に関連した問題は、イミン形成と、その場での接触水素化を触媒するためのルイス酸の使用によって解消される。
【0040】
本明細書に記載する方法は、キヌクリジノンのR異性体とS異性体の混合物からS,S−シス−2−ベンズヒドリル−3−ベンジル−アミノクヌクリジノンを調製するために有用である。R異性体はより多量で存在することもできる、又は逆もまた同様である。上記方法は、典型的に通常の出発物質であるラセミ2−ベンゾヒドロイル−3−キヌクリジノンから標題化合物の形成にも適用可能である。
【0041】
上記で特定した方法によって形成された生成物は実質的にエナンチオマー的に純粋である、即ち、任意の他の立体異性体、即ち、RR、RS又はSR生成物を実質的に含まない。好ましくは、これは、他の立体異性体からの不純物を10%未満含有する、より好ましくは、他の立体異性体からの不純物を約5%未満含有する、さらにより好ましくは、他の立体異性体を約1%未満含有する。
【0042】
このように形成された生成物はさらに、好ましくは実質的に純粋である、即ち、10%未満の不純物を含有する、より好ましくは5%未満の不純物を含有する。しかし、必要な場合には、このように形成された(S,S)−シス−2−ベンズヒドリル−3−ベンジルアミノキヌクリジンを、当該技術分野で知られた手法、例えば、HPLC分取クロマトグラフィー及び他のカラムクロマトグラフィーを包含するクロマトグラフィー、再結晶等によって、さらに精製することができる。
【0043】
以下の実施例は、本発明のある一定の好ましい実施態様の例示として意図するものであり、本発明の限定を意味するものではない。
実施例1
(2S)−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノンL−酒石酸塩
ラセミ2−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノン(52.45g、180mmol)を酢酸(10.4ml、180mmol)を含む変性エタノール(525ml)中に溶解して、L−酒石酸(27g、180mmol)を加えた。この混合物を12時間加熱還流させてから、室温に冷却させて、1時間維持した。固体を回収して、真空下、40℃において12時間乾燥させた。所望の塩の収量は69.9gであり、理論量の88%であった。
【0044】
実施例2
(2S)−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノン(S−3)
先の実施例からのL−酒石酸塩(69.9g、158mmol)をトルエン(700ml)中に懸濁させ、氷水浴で冷却し、この間に炭酸水素ナトリウム飽和溶液(500ml)を、25℃の最高温度を維持しながら、滴加した。透明な二相混合物を25℃において20分間撹拌して、相を分離した。有機層を水(100ml)で洗浄し、層を分離して、有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥させた。有機層を濾過して、真空中で蒸発させて、所望の光学活性ケトンを無色固体、45.66g、99%収率として得た。mp.145〜146℃。
HMR(300MHz、CDCl)δ1.86−2.00(m,4),2.41−2.43(m,1),2.54−2.59(m,2),3.08(t,2),3.98(d,1),4.55(d,1),7.17(m,8),7.38−7.41(m,2).
実施例3
アルミニウム・トリ−イソプロポキシドによる(S,S)−2−ベンジルヒドリル−3−ベンジルアミノ−キヌクリジン(S,S−4)
窒素下で、(2S)−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノン(0.50g、1.0当量、1.72mmol)を無水THF(2ml)中に溶解した。次に、ベンジルアミン(0.21ml、1.1当量、1.89mmol)を加えた後に、無水THF2ml中のアルミニウム・イソプロポキシド(0.42g、1.2当量、2.06mmol)の溶液を加えた。この溶液を3時間撹拌した。この無色溶液に、次に、無水THF1ml中の5%Pt/C(0.063g、Degussa F101RA/W,約60%ウェット)のスラリーを加えた。この反応をParr反応器に入れ、75psiHに加圧し、室温において15時間反応させた。この反応混合物を2M HCl 15ml中に注入し、続いて、濾過し、1M NaOHで塩基性化し、メチルtert−ブチルエーテル(MTBE)50mlで抽出した。MTBE層をMgSOで乾燥させ、真空中で溶媒を除去して、白色結晶固体を残した。これは全てシス異性体(<2%トランス異性体)であると分析された、>99%ee(他のエナンチオマーのいずれも観察されなかった)。
【0045】
チタン・テトラ−イソプロポキシドによると:
(2S)−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノン(9.00g、30.9mmol)を無水THF75ml中に溶解した。この溶液を固定した水素化用ヘッドを有する300mlオートクレーブにポート(port)から、窒素のポジティブ流動(positive flow)を維持しながら移し入れる。水素化装置ヘッド上の同じポートから、300rpmで撹拌しながら,ベンジルアミン(3.7ml、33.9mmol)を加えて、続いて、チタン(IV)イソプロポキシド(10.9ml、36.9mmol)を加えた。ポートを閉じて、オートクレーブを圧力試験し(150psi窒素)、この間に反応混合物を300rpmで撹拌する。25℃における3.0時間後に、圧力を解除して、ポジティブ窒素流下で、THF3ml中の5%Pt/C(1.13g;59.4%ウェット)のスラリーを該ポートから注射器(14−ゲージ針)によって加える。追加のTHF(2ml)を用いて、残りの結晶をスラリー化して、反応に加える。該ポートを閉じて、オートクレーブを水素で75psiに加圧し、次に徐々に通気する。これを3回繰り返す。最終水素圧を75psiに調節し、反応混合物を一晩(12時間)、撹拌を600rpmに維持しながら、水素化する。次に、該オートクレーブを通気して、続いて、窒素で加圧して(100psi)、通気する。さらに3回、反応器を窒素で加圧して、通気する。
【0046】
ポジティブ窒素流下で、氷冷12.4%塩酸42ml(水28ml+37%HCl14ml)を徐々に加えて、反応混合物を窒素下、25℃及び900rpmにおいて1時間撹拌し、続いて、250mlエーレンマイヤー・フラスコ中に圧力移送する。水素化装置にトルエン(50ml)と10%塩酸30mlとを装入する。この混合物を900rpmで30分間撹拌して、続いて、エーレンマイヤー・フラスコ中に圧力移送する。一緒にした二相不均一溶液を真空下で1cmCeliteパッドに通して濾過して、Pt/C触媒を除去する。フィルターケーキを10%HCl水溶液(100ml)でさらにすすぎ洗いする。透明な濾液相が直ちに分離する、有機層を除去して、廃棄する。撹拌し、冷却しながら、トルエン50mlを加えて、50%NaOH(30ml)を徐々に加えて、pHを約13に調節する。二相スラリーを1cmCeliteパッドに通して濾過して、チタン塩を除去する。フィルターケーキをトルエン(2x50ml)で洗浄し、次に、層を分離して、トルエン層を80℃において、トルエン量が20mlに減少するまで、濃縮する。次に、n−ヘプタン40mlを加えて、混合物を徐々に2〜3時間にわたって10℃に冷却する(種結晶(seeds)0.5g(約5%)を55℃において加える)。沈殿を濾過し、トルエン/n−ヘプタン1/6(v/v)40mlで洗浄して、真空中、40℃において乾燥させる。無色固体の収量は7.3g、理論量の61%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S,S)−シス−2−ベンズヒドリル−3−ベンジルアミノ−キヌクリジンの調製方法であって、R−異性体とS−異性体との混合物を含有し、式:
【化1】

で示される化合物を、前記R−異性体を前記S−異性体の酸塩に転化させるために、有機溶媒の存在下の有効量のキラル有機酸及び有効量の有機カルボン酸と接触させる工程、前記有機溶媒はR−異性体とS−異性体との混合物を含有する前記化合物を可溶化させ、その一方で前記酸塩を沈殿させることができ、また前記有機カルボン酸は前記キラル有機酸とは異なるものである;
前記酸塩を塩基で中和して、式:
【化2】

で示されるキラルケトンのS−異性体を得る工程;並びに
前記キラルケトンを有機アミンと、ルイス酸の存在下で、反応させて、対応するイミンを得て、前記イミンを還元する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記化合物がラセミ混合物として存在する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酸塩が(2S)−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノンの酒石酸塩である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記キラル有機酸がL−酒石酸である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
用いる前記キラル有機酸の前記有効量が少なくとも1当量以上である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒がアルコールである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記アルコールがエタノールである、請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記アルコールが変性アルコールである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記有機カルボン酸が酢酸、プロピオン酸又は酪酸である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記有機カルボン酸が酢酸である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
用いる前記有機カルボン酸の前記有効量が、前記化合物を基準にして、少なくとも1当量である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記塩基が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
25℃未満の温度を維持するために冷却しながら、pH約9に達するまで、前記塩基を加える、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記中和が二相性溶媒混合物の存在下で行なわれる、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記二相性溶媒混合物が第2有機溶媒及び水を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記第2有機溶媒がトルエン、酢酸エチル又はメチルt−ブチルエーテルである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記ルイス酸がアルミニウム塩である、請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記アルミニウム塩がアルミニウム・トリイソプロポキシドである、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記ルイス酸がチタン塩である、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記チタン塩がチタン・テトライソプロポキシドである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
該キラルケトンのS異性体を基準にして、少なくとも1当量以上の前記ルイス酸を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記イミンを貴金属触媒の存在下での還元剤との反応によって還元する、請求項1記載の方法。
【請求項23】
前記貴金属触媒が担持型パラジウム又は担持型白金触媒である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記貴金属触媒が炭素付き白金である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
前記還元剤が水素である、請求項22記載の方法。
【請求項26】
前記有機アミンがアリールアルキルアミンである、請求項1記載の方法。
【請求項27】
前記アリールアルキルアミンがベンジルアミンである、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記酸塩が50%を超える収率で製造される、請求項1記載の方法。
【請求項29】
前記収率が85〜90%である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記イミンの形成直後に、該イミンを還元する、請求項1記載の方法。
【請求項31】
実質的にエナンチオマー的に純粋である、2(S)−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノンの塩。
【請求項32】
酒石酸塩である、請求項30記載の塩。
【請求項33】
実質的にエナンチオマー的に純粋な2(S)−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノン。
【請求項34】
実質的にエナンチオマー的に純粋な、2(S)−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノンのイミン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S,S)−シス−2−ベンズヒドリル−3−ベンジルアミノ−キヌクリジンの調製方法であって、R−異性体とS−異性体との混合物を含有し、式:
【化1】

で示される化合物を、前記R−異性体を前記S−異性体の酸塩に転化させるために、有機溶媒の存在下の有効量のキラル有機酸及び有効量の有機カルボン酸と接触させる工程、前記有機溶媒はR−異性体とS−異性体との混合物を含有する前記化合物を可溶化させ、その一方で前記酸塩を沈殿させることができ、また前記有機カルボン酸は前記キラル有機酸とは異なるものである;
前記酸塩を塩基で中和して、式:
【化2】

で示されるキラルケトンのS−異性体を得る工程;並びに
前記キラルケトンを有機アミンと、ルイス酸の存在下で、反応させて、対応するイミンを得て、前記イミンを還元する工程
を含む方法。
【請求項2】
化合物がラセミ混合物として存在する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酸が(2S)−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノンの酒石酸塩である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記キラル有機酸がL−酒石酸である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
用いる前記キラル有機酸の前記有効量が少なくとも1当量以上である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒がアルコールである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記アルコールがエタノールである、請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記アルコールが変性アルコールである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記有機カルボン酸が酢酸、プロピオン酸又は酪酸である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記有機カルボン酸が酢酸である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
用いる前記有機カルボン酸の前記有効量が、前記化合物を基準にして、少なくとも1当量である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記塩基が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
25℃未満の温度を維持するために冷却しながら、pH約9に達するまで、前記塩基を加える、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記中和が二相溶媒混合物の存在下で行なわれる、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記二相溶媒混合物が第2有機溶媒及び水を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記第2有機溶媒がトルエン、酢酸エチル又はメチルt−ブチルエーテルである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記ルイス酸がアルミニウム塩である、請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記アルミニウム塩がアルミニウム・トリイソプロポキシドである、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記ルイス酸がチタン塩である、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記チタン塩がチタン・テトライソプロポキシドである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
該キラルケトンのS異性体を基準にして、少なくとも1当量以上の前記ルイス酸を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記イミンを貴金属触媒の存在下での還元剤との反応によって還元する、請求項1記載の方法。
【請求項23】
前記貴金属触媒が担持型パラジウム又は担持型白金触媒である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記貴金属触媒が炭素付き白金である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
前記還元剤が水素である、請求項22記載の方法。
【請求項26】
前記有機アミンがアリールアルキルアミンである、請求項1記載の方法。
【請求項27】
前記アリールアルキルアミンがベンジルアミンである、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記酸塩が50%を超える収率で製造される、請求項1記載の方法。
【請求項29】
前記収率が85〜90%である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記イミンの形成直後に、該イミンを還元する、請求項1記載の方法。
【請求項31】
実質的にエナンチオマー的に純粋である、2(S)−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノンの塩。
【請求項32】
酒石酸塩である、請求項31記載の塩。
【請求項33】
実質的にエナンチオマー的に純粋な2(S)−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノン。
【請求項34】
実質的にエナンチオマー的に純粋な、2(S)−ベンズヒドリル−3−キヌクリジノンのイミン。

【公表番号】特表2006−506368(P2006−506368A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544849(P2004−544849)
【出願日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【国際出願番号】PCT/US2003/032275
【国際公開番号】WO2004/035575
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【出願人】(504235919)ディーエスエム・ファーマスーティカルズ・インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】