説明

(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンの製造方法

【課題】 環境にやさしく、簡便な操作で、収率よく(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンを製造する方法を提供すること。
【解決手段】 (Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンをオルトエステル類およびブロンステッド酸と反応させた後、フタルイミド化剤と反応させることを特徴とする、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗鬱薬として有用な、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−アミノメチルシクロプロパン塩酸塩およびその中間体の新規な製造方法に関するものである。さらに詳しくは、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンは、抗鬱剤として有用な(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−アミノメチルシクロプロパン塩酸塩の中間体である。従来、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンは、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンを塩化チオニルにより塩素化して、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−クロルメチルシクロプロパンとし、フタルイミド塩と反応して製造する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、2−オキソ−1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサンとフタルイミド塩とを150〜200℃の高い温度で処理して、(Z)−1−フェニル−2−フタルイミドメチル−シクロプロパン−1−カルボン酸とし、塩化チオニルで酸塩化物とした後、ジエチルアミンと反応させて得る方法が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、これらの方法はいずれも塩素化剤として塩化チオニルを使用している。塩化チオニルは反応時に二酸化硫黄を生成するために、アルカリ溶液などでトラップし、酸化して除害する必要がある。さらに、着色が生じやすい、塩化メチレンなどの環境汚染が懸念される低沸点ハロゲン化炭化水素を使用するなどの問題があった。
【0005】
また、特許文献2記載の方法は、反応に高い温度を必要とし、工業的に好ましい方法とはいえない。
【特許文献1】特許第2964041号公報
【特許文献2】特公平5−67136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗鬱剤の中間体として有用な(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンの製造法における上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、塩化チオニルなど二酸化硫黄を発生させる試薬や低沸点ハロゲン化炭化水素溶媒を使用することなく、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンを簡便な操作で、収率よく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンをオルトエステル類およびブロンステッド酸と反応させると、反応中間体としてN,N−ジエチル−(1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキシ−2−イリデン)イミニウム塩が生成し、これをフタルイミド化剤と反応させることにより、クロル化工程を要することなく、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンへと導くことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
[1] (Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンをオルトエステル類およびブロンステッド酸と反応させた後、フタルイミド化剤を反応させることを特徴とする、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンの製造方法。
[2] (Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンをオルトエステル類およびブロンステッド酸と反応させて、N,N−ジエチル−(1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキシ−2−イリデン)イミニウム塩を生成させ、これとフタルイミド化剤と反応させることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
[3] ブロンステッド酸がメタンスルホン酸である上記[1]または[2]記載の製造方法。
[4] オルトエステル類がオルト蟻酸アルキルエステルである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] オルト蟻酸アルキルエステルがオルト蟻酸トリエチルまたはオルト蟻酸トリメチルである上記[4]記載の製造方法。
[6] フタルイミド化剤がフタルイミドカリウムまたはフタルイミドと塩基である上記[1]〜[5]いずれかに記載の製造方法。
[7] 塩基がtert−ブトキシカリウム、ナトリウムメチラート、炭酸カリウムおよびトリエチルアミンから選ばれる1種以上である上記[6]に記載の製造方法。
[8] 2−オキソ−1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサンとジエチルアミンとを、アルカリ金属アルコキシドの存在下に反応させて得られた(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンを使用する上記[1]〜[7]いずれかに記載の製造方法。
[9]上記[1]〜[8]のいずれかに記載の方法によって製造される(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンをメチルアミン水溶液と反応させて、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−アミノメチルシクロプロパンを得、これを塩化水素で処理する工程を含む、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−アミノメチルシクロプロパン塩酸塩の製造方法。
[10] 式(I):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Aはブロンステッド酸の共役塩基を示す。)で表されるN,N−ジエチル−(1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキシ−2−イリデン)イミニウム塩(以下、イミニウム塩(I)ともいう。)。
[11] メタンスルホン酸塩である、上記[10]記載のN,N−ジエチル−(1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキシ−2−イリデン)イミニウム塩。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンを製造するに際し、従来法のようにクロル体または酸塩化物を経由しないため、反応時に亜硫酸ガスなどの有害ガスが発生するクロル化剤を使用する必要がなく、さらに環境問題が懸念されるジクロロエタンなどの低沸点ハロゲン化炭化水素溶媒を使用する必要がないため、環境にやさしい方法である。
また、クロル化剤を使用した場合と比較して、生成物の着色が抑えられるので、医薬品の中間体の製法として優れている。
また、従来、クロル化、フタルイミド化の2工程を要していた方法を、ワンポットにおいて行なうことができ、実質的に1工程簡略化できるため、経済的にも優れた方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンの製造方法は、第1工程として(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンをオルトエステル類およびブロンステッド酸と反応させることにより、N,N−ジエチル−(1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキシ−2−イリデン)イミニウム塩を生成させた後、第2工程としてフタルイミド化剤と反応させることを特徴とする。
【0013】
第1工程は、例えば溶媒中において、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパン、オルトエステル類およびブロンステッド酸を混合することによって行なうことができる。添加順序は特に限定はないが、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンにオルトエステル類を添加後、ブロンステッド酸を添加する方法が好ましい。
【0014】
本発明では、脱水剤としてオルトエステル類が好ましい態様として用いられるが、他の自体公知の脱水剤も使用可能である。
オルトエステル類としては特に制限はなく、入手容易なものを用いればよく、例えば、オルト蟻酸アルキルエステル(例えば、オルト蟻酸トリメチル、オルト蟻酸トリエチル等)、オルト酢酸アルキルエステル(例えば、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル等)、オルト酪酸アルキルエステル(例えば、オルト酪酸トリメチル、オルト酪酸トリエチル等)、オルト安息香酸アルキルエステル(例えば、オルト安息香酸トリメチル、オルト安息香酸トリエチル等)等が挙げられ、好ましくはオルト蟻酸アルキルエステルであり、より好ましくはオルト蟻酸トリメチル、オルト蟻酸トリエチルである。
【0015】
オルトエステル類の使用量は、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンに対して1〜10当量が好ましく、1.2〜2当量がより好ましい。オルトエステル類の使用量はこの範囲外でも可能であるが、この範囲より少ないと原料が残りやすくなり、また副生物が増加する傾向があり、多く使用しても見合う効果は得られ難い。
【0016】
ブロンステッド酸としては特に制限はなく、入手容易なものを用いればよく、例えば、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸、塩化水素などが挙げられ、メタンスルホン酸が反応性の観点より好ましい。
ブロンステッド酸の使用量は、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンに対して1〜10当量が好ましく、1〜1.5当量がより好ましい。ブロンステッド酸の使用量はこの範囲外でも可能であるが、この範囲より少ないと反応が完結しない傾向にあり、多く使用しても見合う効果は得られ難い。
【0017】
第1工程は、反応試薬として用いられるオルトエステル類を溶媒として用いるか、または他の溶媒中において行なわれる。使用する溶媒は反応を阻害しないものであればよく、例えばトルエン等の炭化水素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒などの単独または混合溶媒が挙げられる。当該溶媒の使用量は、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンに対して、5倍重量以下が好ましい。
【0018】
第1工程の反応温度は、通常0〜100℃であり、好ましくは20〜40℃である。反応時間は、通常1〜24時間であり、好ましくは1〜10時間である。
【0019】
第1工程の終了後得られる反応混合物中には、使用したブロンステッド酸の共役塩基を対イオンとするN,N−ジエチル−(1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキシ−2−イリデン)イミニウム塩、すなわちイミニウム塩(I)が含まれ、第2工程にそのまま使用することができ、いわゆるワンポット反応で行なうことができる。その場合、第1工程終了後の反応混合物を濃縮して、溶媒を交換したものを用いてもよい。
また、イミニウム塩(I)は、溶媒を減圧除去することにより単離することができる。必要に応じて、有機溶媒によるデカンテーション、クロマトグラフィーなどの慣用の手段により精製してもよい。
【0020】
第一工程で生成または単離されるイミニウム塩(I)は新規化合物であり、抗鬱剤である(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−アミノメチルシクロプロパン塩酸塩の有用な合成中間体である。イミニウム塩(I)としては、メタンスルホン酸塩が好ましい。
【0021】
第2工程は、例えば溶媒中において、第1工程終了後の反応混合物または単離したイミニウム塩(I)とフタルイミド化剤を混合することにより行なうことができる。添加順序は特に限定はないが、フタルイミド化剤に第1工程終了後の反応混合物を滴下する添加方法が好ましい。
【0022】
フタルイミド化剤としてはフタルイミド塩が用いられ、例えば、フタルイミドカリウム、フタルイミドナトリウム、フタルイミドトリエチルアミン塩等が挙げられ、フタルイミドカリウムが好ましい。フタルイミド化剤の使用量は、第1工程の(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンに対して1〜10当量が好ましく、1〜2当量がより好ましい。フタルイミド化剤の使用量はこの範囲外でも可能であるが、この範囲より少ないと反応が完結しにくく、多く使用しても見合う効果は得られ難い。
【0023】
当該フタルイミド塩は、フタルイミドと塩基とから反応系中で生成させてもよい。この場合使用される塩基としては、tert−ブトキシカリウム、ナトリウムメチラート、炭酸カリウム、トリエチルアミン等の少なくとも一種以上が挙げられる。当該塩基の使用量は、フタルイミドに対して、対して1〜10当量が好ましく、1〜2当量がより好ましい。
【0024】
第2工程は、好ましくは溶媒中において行なわれ、当該溶媒としては、非プロトン性極性有機溶媒(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルピロリドンなど)、プロトン性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなど)などの単独または混合溶媒が挙げられ、反応性の観点より、非プロトン性極性有機溶媒が好ましく、なかでも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。当該溶媒の使用量は、第1工程の(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンに対して、1倍重量〜50倍重量が好ましい。
【0025】
第2工程の反応温度は、通常0〜150℃であり、好ましくは20〜80℃である。反応時間は、通常1〜20時間であり、好ましくは1〜5時間である。
【0026】
第2工程の終了後、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンの単離精製は常法により行なうことができる。例えば、反応混合物に水等を加え、析出した結晶をろ過、洗浄するか、あるいは、有機溶媒で抽出、水洗、濃縮することによって、単離することができ、さらに結晶化、クロマトグラフィーなどにより精製してもよい。
【0027】
本発明により得られる(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンは、自体公知の方法によって、抗鬱剤として有用な(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−アミノメチルシクロプロパン塩酸塩に導くことができる。例えば、特公平5−67136号に記載されているように、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンをメチルアミン水溶液と反応させて、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−アミノメチルシクロプロパンを得、これを塩化水素で処理することにより(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−アミノメチルシクロプロパン塩酸塩に導くことができる。
【0028】
本発明の原料である(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンは、公知化合物であり、例えば、特開平2−262558号公報に記載されているように、2−オキソ−1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン(Synthesis,1978,304〜305参照)とジエチルアミンをルイス酸アミン錯体の存在下反応させることにより製造することができる。しかしながらこの方法では、ジクロロエタン等の低沸点ハロゲン化炭化水素を必要とするため、同様に環境上の問題がある。
したがって、本発明者らが提案する2−オキソ−1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサンとジエチルアミンとを、アルカリ金属アルコキシドの存在下に反応させる方法が好ましい。
【0029】
当該方法は、例えば、溶媒中で、2−オキソ−1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサンと、ジエチルアミンと、アルカリ金属アルコキシドとを混合することにより行われる。
【0030】
ジエチルアミンの使用量としては、2−オキソ−1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサンに対して、通常、1.0〜10当量、好ましくは、2.0〜4.0当量である。
【0031】
アルカリ金属アルコキシドとしては、炭素数1〜4のアルコールのアルカリ金属塩、例えば、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムt−ブトキシド等が挙げられるが、好ましくは、ナトリウムメトキシドまたはカリウムメトキシド、特に好ましくは、ナトリウムメトキシドである。
アルカリ金属アルコキシドの使用量は、2−オキソ−1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサンに対して、通常、1.0〜5.0当量であり、好ましくは1.5〜4.0当量である。
上記のアルカリ金属アルコキシドの形態は特に限定されず、例えば、固体として使用しても、溶液を使用してもよい。溶液を使用する場合は、好ましくは、使用するアルカリ金属アルコキシドに対応するアルコール溶媒の溶液が選択される(例えば、メタノール中のナトリウムメトキシド)。なお、このアルコール溶媒は、反応溶媒の一部として含まれる。
【0032】
使用する溶媒の種類は、反応を阻害しないものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、トルエン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは1種以上を組み合わせて使用される。
溶媒の使用量は、2−オキソ−1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン1gに対して、通常、1〜10ml、好ましくは、3〜5mlである。
【0033】
反応温度は、通常、0〜100℃、好ましくは、20〜80℃、特に好ましくは、20〜30℃であり、反応時間は、反応量により異なるが、通常、3〜30時間である。
【0034】
反応終了後は、例えば、溶媒による抽出、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、減圧蒸留、再結晶等の当該分野で公知の精製法のいずれかまたは組み合わせによって、原料である(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンを採取することが出来る。
【実施例】
【0035】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0036】
製造例1:(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパン
2−オキソ−1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン(198.8g,1.14mol)とトルエン(198.8g)の混合溶液に、ジエチルアミン(250.4g,3.42mol)を加え、次いで、28%ナトリウムメトキシド/メタノール溶液(660.4g,3.42mol)を、20〜30℃にて滴下した後、8時間攪拌した。攪拌終了後の反応溶液を、水(554.8g)とトルエン(596.4ml)の混合溶液に滴下し、続いて、酢酸(226.0g)を滴下し、分液を行った。得られた水層より、さらにトルエン(397.6ml)で再抽出を行った。有機層を混合し、水洗浄した後、減圧濃縮し、表題化合物を50%トルエン溶液として得た。
(HPLC分析(HPLC:島津製作所製 LC−10Avp、ODSカラム 4.6mm×150mm)により、表題化合物が265.3g含まれていることを確認した。収率93.8%)
【0037】
実施例1:(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパン
反応容器に(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパン(20.0g, 0.081mol)を含むトルエン溶液(40.0g)にオルト蟻酸エチル(14.4g, 0.097mol)を加え、15〜35℃でメタンスルホン酸(9.5g, 0.089mol)を1時間かけて滴下した。1.5時間攪拌した後、40℃に昇温し減圧下濃縮した。N,N−ジメチルホルムアミド(20ml)を加え、同条件でさらに濃縮し、濃縮液(47.1g)を得た。
別途、反応容器にフタルイミドカリウム(18.7g, 0.101mol)と92mlのN,N−ジメチルホルムアミドを加え、40℃で先の濃縮液を2時間かけて滴下し、1時間攪拌した。
約20℃まで冷却し、水(67.5ml)を3時間かけて滴下した。ろ過し、水(67.5ml)で洗浄した後、減圧下、約60℃で乾燥し、表題化合物(28.8g)を白色結晶として得た。収率93.2% 純度98.6%
物性値:1H-NMR(CD3OD, 400MHz) δ: 0.62(3H, t, J=7.0Hz), 1.11(1H, dd, J=5.2, 8.8Hz), 1.17(3H, t, J=7.0Hz), 1.63(1H, dd, J=5.2, 6.0Hz), 2.25(1H, m), 3.18(1H, m), 3.30-3.43(3H, m), 3.67(1H, m), 4.07(1H, dd, J=5.0, 14.2Hz), 7.21-7.34(5H, m), 7.80-7.89(4H, m).
【0038】
実施例2:(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−アミノメチルシクロプロパン塩酸塩
(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパン(18.2kg,48.4mol)に、水(35.0kg)およびトルエン(79.0kg)を加え、この混合物に40重量%モノメチルアミン水溶液(37.7kg,485mol)を滴下し、20℃で20時間攪拌した。反応混合物を分液後、水層をトルエンで2回抽出した。有機層を混合し、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過後、減圧濃縮した。濃縮残渣に酢酸エチル(67.1kg)およびイソプロピルアルコール(9.0kg)を加えた溶液に4N−塩化水素−酢酸エチル(12.5kg,55.9mol)を滴下した。得られた結晶を濾過、酢酸エチルで洗浄、乾燥を行うことにより、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−アミノメチルシクロプロパン塩酸塩の白色粉末(11.9kg)を得た。収率86.9%
物性値:1H-NMR(D2O, 400MHz) δ:0.87(3H, t, J=7.0Hz), 1.08(3H, t, J=7.0Hz), 1.72-1.84(3H, m), 2.43(1H, m), 3.25-3.44(4H, m), 3.71(1H, m), 7.13-7.28(5H, m), 8.80(3H, br-s).
【0039】
実施例3:N,N−ジエチル−(1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキシ−2−イリデン)イミニウム メタンスルホネート
実施例1と同様の方法により得られたフタルイミド化前の濃縮液より一部を採取し、減圧乾固した。残渣にn−ヘプタンを加え、デカンテーションする操作を数度繰り返し、さらに減圧乾固することにより、表題化合物を水溶性の淡黄色オイルとして得た。(純度:98.6%)
物性値:1H-NMR(D2O, 400MHz) δ: 0.26(3H, t, J=7.2Hz), 0.71(3H, t, J=7.2Hz), 1.14(1H, m), 1.90(1H, m), 2.18(1H, m), 2.24(3H, s), 2.75(1H, m), 2.95(1H, m), 3.13(2H, m), 4.30(1H, d, J=9.6Hz), 4.57(1H, dd, J=4.8, 9.6Hz), 6.93-7.00(5H, m).
LC-MS(ESI, 移動相: アセトニトリル/ 0.1% aq. CF3CO2H) M+1: 344 (トリフルオロ酢酸塩として検出)
CI-MS: M+1 326

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンをオルトエステル類およびブロンステッド酸と反応させた後、フタルイミド化剤と反応させることを特徴とする、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンの製造方法。
【請求項2】
(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンをオルトエステル類およびブロンステッド酸と反応させて、N,N−ジエチル−(1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキシ−2−イリデン)イミニウム塩を生成させ、これとフタルイミド化剤と反応させることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ブロンステッド酸がメタンスルホン酸である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
オルトエステル類がオルト蟻酸アルキルエステルである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
オルト蟻酸アルキルエステルがオルト蟻酸トリエチルまたはオルト蟻酸トリメチルである請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
フタルイミド化剤がフタルイミドカリウムまたはフタルイミドと塩基である請求項1〜5いずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
塩基がtert−ブトキシカリウム、ナトリウムメチラート、炭酸カリウムおよびトリエチルアミンから選ばれる1種以上である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
2−オキソ−1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサンとジエチルアミンとを、アルカリ金属アルコキシドの存在下に反応させて得られた(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−ヒドロキシメチルシクロプロパンを使用する請求項1〜7いずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法によって製造される(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−フタルイミドメチルシクロプロパンをメチルアミン水溶液と反応させて、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−アミノメチルシクロプロパンを得、これを塩化水素で処理する工程を含む、(Z)−1−フェニル−1−(N,N−ジエチルアミノカルボニル)−2−アミノメチルシクロプロパン塩酸塩の製造方法。
【請求項10】
式(I):
【化1】


(式中、Aはブロンステッド酸の共役塩基を示す。)で表されるN,N−ジエチル−(1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキシ−2−イリデン)イミニウム塩。
【請求項11】
メタンスルホン酸塩である、請求項10記載のN,N−ジエチル−(1−フェニル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキシ−2−イリデン)イミニウム塩。

【公開番号】特開2006−232802(P2006−232802A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145875(P2005−145875)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】