説明

1−ブロモ−3,5−置換ベンゼンの製造方法

【課題】四塩化炭素を用いることなく、1−ブロモ−3,5−置換ベンゼンを製造する方法の提供。
【解決手段】モノハロゲン化炭化水素(例えば、塩化n−ブチル)中、式(1)で示される化合物と臭素とを、ハロゲン化鉄の存在下で反応させ1−ブロモ−3,5−置換ベンゼンを製造する。


(式中、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、R、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1−ブロモ−3,5−置換ベンゼンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1−ブロモ−3,5−ジ−tert−ブチルベンゼン等の1−ブロモ−3,5−置換ベンゼンは、ポリラクチド等の製造に有用な化合物である(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
1−ブロモ−3,5−置換ベンゼンの製造方法として、例えば、四塩化炭素中、鉄粉末の存在下で1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼンと臭素とを反応させ、1−ブロモ−3,5−ジ−tert−ブチルベンゼンを得る方法が知られている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chemistry−A European Journal(2007年),第13巻,第4433〜4451頁
【非特許文献2】Organic Letters(2005年),第7巻,第5365〜5368頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記製造方法は、四塩化炭素を溶媒として使用するが、四塩化炭素の取り扱いには充分管理やそれに適合する設備等が必要である。
そこで、四塩化炭素を用いることなく、1−ブロモ−3,5−置換ベンゼンを製造できる新たな方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは1−ブロモ−3,5−置換ベンゼンの製造方法について鋭意検討した結果、本発明に至った。
即ち本発明は、以下の通りである。
〔1〕 モノハロゲン化炭化水素中、式(1)
【0007】
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、R、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で示される化合物と臭素とを、ハロゲン化鉄の存在下で反応させる工程
を有する式(2)
【0008】
【化2】

(式中、R及びRは上記と同義である。)
で示される1−ブロモ−3,5−置換ベンゼンの製造方法。
〔2〕 前記モノハロゲン化炭化水素が炭素数3〜12のモノハロゲン化炭化水素である〔1〕記載の製造方法。
〔3〕 前記モノハロゲン化炭化水素がクロロブタンである〔1〕記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、四塩化炭素を用いることなく、1−ブロモ−3,5−置換ベンゼンを製造できる新たな方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
式(1)及び式(2)におけるR及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基及びウンデシル基等の炭素数1〜12の直鎖状のアルキル基並びにイソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基及びネオペンチル基等の炭素数3〜12の分岐状のアルキル基が挙げられ、炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、例えば、シクロアルキル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及びシクロオクチル基等が挙げられる。
【0012】
及びRは、好ましくは、それぞれ独立に炭素数3〜12のアルキル基であり、より好ましくは、それぞれ独立に、炭素数3〜12の分岐状のアルキル基であり、さらに好ましくは、共にtert−ブチル基である。
【0013】
式(1)におけるR、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基を表す。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基等の炭素数1〜6の直鎖状のアルキル基並びにイソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基及びネオペンチル基等の炭素数3〜12の分岐状のアルキル基が挙げられる。
【0014】
、R及びRは、好ましくは、それぞれ独立に、炭素数1〜6の直鎖状のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基又はエチル基であり、さらに好ましくは、メチル基である。
【0015】
式(1)で示される化合物(以下、「化合物(1)」と記すことがある)としては、例えば、以下の式(1−1)〜式(1−50)で示される化合物が挙げられる。
【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

【0020】
【化7】

【0021】
化合物(1)としては、好ましくは、式(1−1)〜式(1−10)で示される化合物が挙げられ、より好ましくは、式(1−4)〜式(1−6)で示される化合物が挙げられ、さらに好ましくは、式(1−5)で示される化合物が挙げられる。
【0022】
式(2)で示される1−ブロモ−3,5−置換ベンゼン(以下、「化合物(2)」と記すことがある)としては、例えば、以下の式(2−1)〜式(2−10)で示される化合物が挙げられる。
【0023】
【化8】

【0024】
化合物(2)としては、好ましくは、式(2−4)〜式(2−6)で示される化合物が挙げられ、より好ましくは、式(2−5)で示される化合物が挙げられる。
【0025】
本発明で用いるハロゲン化鉄としては、例えば、塩化鉄(III)(FeCl)、臭化鉄(III)(FeBr)及びヨウ化鉄(III)(FeI)等のハロゲン化鉄(III)並びに塩化鉄(II)(FeCl)、臭化鉄(II)(FeBr)及びヨウ化鉄(II)(FeI)等のハロゲン化鉄(II)が挙げられる。ハロゲン化鉄は、好ましくは、ハロゲン化鉄(III)であり、より好ましくは、FeCl又はFeBrであり、さらに好ましくはFeClである。ハロゲン化鉄は、無水物であってもよく、水和物であってもよい。ハロゲン化鉄は、市販品をそのまま用いてもよく、公知の方法に準じて精製して用いてもよい。ハロゲン化鉄の使用量は、化合物(1)1モルに対して、例えば、0.001モル〜1モルの範囲であり、好ましくは、0.002モル〜0.1モルの範囲であり、より好ましくは、0.05モル〜0.10モルの範囲である。
【0026】
本発明では、モノハロゲン化炭化水素を溶媒として用いる。モノハロゲン化炭化水素としては、好ましくは炭素数3〜12のモノハロゲン化炭化水素が挙げられ、より好ましくは炭素数3〜6のモノハロゲン化炭化水素が挙げられ、さらに好ましくは炭素数3〜6のモノクロロ炭化水素が挙げられ、さらに一層好ましくは、クロロブタンが挙げられる。モノハロゲン化炭化水素の使用量は、化合物(1)1重量部に対して、例えば1重量部〜50重量部の範囲であり、好ましくは2重量部〜20重量部の範囲であり、より好ましくは、3重量部〜10重量部の範囲である。
【0027】
モノハロゲン化炭化水素は、例えば、炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素、エーテル、ニトリル等の溶媒との混合物であってもよい。炭化水素としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン及びシクロヘプタンが挙げられ、芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン及びメシチレンが挙げられ、ハロゲン化芳香族炭化水素としては、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びブロモベンゼンが挙げられ、エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル及びシクロペンチルメチルエーテルが挙げられ、ニトリルとしては、例えば、アセトニトリル及びプロピオニトリルが挙げられる。炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素、エーテル、ニトリル等の溶媒の使用量は、化合物(1)1重量部に対して、例えば1重量部〜50重量部の範囲であり、好ましくは2重量部〜20重量部の範囲であり、より好ましくは、3重量部〜10重量部の範囲である。
【0028】
化合物(1)と臭素との反応(以下、「本反応」と記すことがある)は、例えば、−20℃〜60℃の範囲から選択される温度で行われ、好ましくは、−10℃〜40℃の範囲から選択される温度で行われ、より好ましくは、0℃〜20℃の範囲から選択される温度で行われる。本反応は、常圧下で行ってもよく、加圧下で行ってもよい。
【0029】
本反応は、モノハロゲン化炭化水素中、化合物(1)と臭素とハロゲン化鉄とを混合することにより行うことができ、それらの混合順序等は特に限定されない。本反応は、例えば、以下の(a)〜(f)のいずれか記載の方法により行うことができ、好ましくは(a)又は(b)記載の方法により行われる。
【0030】
(a)化合物(1)とハロゲン化鉄とモノハロゲン化炭化水素とを混合し、得られた混合物と臭素とをさらに混合した後、得られた混合物を所定の反応温度に調整する方法;
(b)化合物(1)とハロゲン化鉄とモノハロゲン化炭化水素とを混合し、得られた混合物を所定の反応温度に調整した後、所定の反応温度に調整した混合物と臭素とを混合する方法;
(c)化合物(1)とモノハロゲン化炭化水素と臭素とを混合し、得られた混合物とハロゲン化鉄とをさらに混合した後、得られた混合物を所定の反応温度に調整する方法;
【0031】
(d)化合物(1)とモノハロゲン化炭化水素と臭素とを混合し、得られた混合物とハロゲン化鉄を所定の反応温度に調整した後、所定の温度に調整した混合物とハロゲン化鉄とを混合する方法;
(e)ハロゲン化鉄と臭素とモノハロゲン化炭化水素とを混合し、得られる混合物と化合物(1)とをさらに混合した後、得られた混合物を所定の反応温度に調整する方法;並びに、
(f)ハロゲン化鉄と臭素とモノハロゲン化炭化水素とを混合し、得られる混合物を所定の反応温度に調整した後、所定の反応温度に調整した混合物と化合物(1)とを混合する方法。
【0032】
本反応の進行度合いは、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、NMR等の分析手段により、確認することができる。本反応の反応時間は、特に限定されず、例えば、5分〜20時間の範囲であり、また、例えば、1時間〜6時間の範囲である。
【0033】
本反応の終了後、例えば、得られる反応混合物と水とを混合し、必要に応じて、水と非混和性の有機溶媒と混合した後、分液処理に付すことにより、化合物(2)を有機層として取り出すことができる。水と非混和性の有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン及びシクロヘプタン等の炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン及びメシチレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びブロモベンゼン等ハロゲン化芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル及びシクロペンチルメチルエーテル等のエーテル;並びに、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチル等のエステルが挙げられる。
【0034】
取り出した化合物(2)は、例えば、中和処理、濃縮処理等に付した後、カラムクロマトグラフィー等の精製処理に付してもよい。
【実施例】
【0035】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
【0036】
実施例1
<1-ブロモ−3,5−ジ−tert−ブチルベンゼンの合成>
4つ口フラスコ(100mL)に、1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼン5.0g(20.29mmol)、塩化鉄(III)39mg(0.24mmol)、塩化n−ブチル18.8gを加え、得られた混合物を2℃に冷却した。その後、塩化n−ブチル2.15gと臭素3.81g(23.86mmol)とを混合して臭素溶液を調製し、この臭素溶液を、前記混合物に、2℃を保ちながら2時間かけて滴下した。滴下終了後、反応混合物を1〜2℃に保ち、そこへ、塩化鉄250mg(1.54mmol)を3回に分けて添加し、2時間攪拌した。その後、反応混合物を20℃まで昇温し、1時間攪拌した。反応終了後、得られた反応混合物に冷水10gを流入し、分液した。得られた有機層を15%亜硫酸ナトリウム水20gで洗浄した後、1−ブロモ−3,5−ジ−tert−ブチルベンゼン3.86g含む有機層34.54gを得た。有機層中の1−ブロモ−3,5−ジ−tert−ブチルベンゼンの含量は、以下のガスクロマトグラフィー分析条件により分析した。収率は71%であった。
【0037】
1H−NMR(CDCl)δ:7.33(3H、s),1.31(18H,s)
【0038】
<ガスクロマトグラフィー分析条件>
カラム:DB−5、0.53mmφ×30m,1.5μm
(J&W Scientific社)
流速:10mL/min(ヘリウム)
検出方法:FID
カラム温度:
時間(分) 0 10 28 50
温度(℃) 100 100 280 280
【産業上の利用可能性】
【0039】
1−ブロモ−3,5−ジ−tert−ブチルベンゼン等の1−ブロモ−3,5−置換ベンゼンは、ポリラクチド等の製造に有用な化合物である。本発明は1−ブロモ−3,5−置換ベンゼンの製造方法として産業上利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノハロゲン化炭化水素中、式(1)

(式中、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、R、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で示される化合物と臭素とを、ハロゲン化鉄の存在下で反応させる工程
を有する式(2)

(式中、R及びRは上記と同義である。)
で示される1−ブロモ−3,5−置換ベンゼンの製造方法。
【請求項2】
前記モノハロゲン化炭化水素が炭素数3〜12のモノハロゲン化炭化水素である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記モノハロゲン化炭化水素がクロロブタンである請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−1676(P2013−1676A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134135(P2011−134135)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】