説明

1,1,2−トリクロロエタンの製造方法

【課題】塩化ビニルと塩素とを反応させて、TCEを製造する方法において、副生成物の生成を抑制し、高収率でTCEを製造する方法の提供。
【解決手段】塩化ビニルと塩素とを反応させて、1,1,2−トリクロロエタンを製造する方法において、モリブデン、ガリウム、チタン、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属もしくは金属化合物を含む系を触媒として用いることを特徴とする1,1,2−トリクロロエタンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニルと塩素とを反応させて、1,1,2−トリクロロエタン(以下、TCEという)を製造する方法において、副生成物の生成を抑制し、高収率でTCEを得ることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスバリヤー性に優れたポリ塩化ビニリデン系樹脂を製造するための原料として用いられる塩化ビニリデンモノマーは、一般に、塩化ビニルに塩素を付加させて、TCEを製造し、このTCEをアルカリ性水溶液、例えば、苛性ソーダまたは石灰乳等で脱塩酸することにより、塩化ビニリデンモノマーが得られることが知られている(例えば非特許文献1)。
また、TCEは、溶媒として四塩化炭素もしくはTCEを用いて、鉄製反応器に、塩化ビニルと塩素ガスを同時に吹き込み、TCEを得る。また、ガラス反応器の場合には、触媒として、塩化第二鉄または五塩化アンチモンを用いることが知られている(例えば、非特許文献2)。しかし、これらの触媒を用いた場合、その触媒活性は十分なものではなく、副生成物の生成が多く、高収率でTCEを得られるものではなかった。
【0003】
TCEの工業的製造方法として、副生成物の生成を抑制してTCEを高収率で得るために、触媒として、塩化鉄(FeCl)や塩化アルミニウム(AlCl)を使用し、反応熱を効率的に除去するための冷却器を備えた循環型反応器が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、本質的な改良には不十分である。
【非特許文献1】実用プラスチック事典編集委員会編集「プラスチック材料講座 塩化ビニリデン樹脂」日刊工業新聞社発行、昭和36年7月15日、p7〜p11)
【非特許文献2】神原周編集「単量体合成法 高分子実験学講座9」共立出版株式会社発行、昭和32年11月5日、p51〜p56)
【特許文献1】特開2003−246756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、副生成物の生成を抑制し、TCEをさらに高収率で得る製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上述の問題を解決するために鋭意検討した結果、モリブデン、ガリウム、チタン、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属もしくは金属化合物を含む系を触媒として用いることによって、副生成物の生成を抑制し、TCEを高収率で得ることを見いだし本発明に到達した。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
(1)塩化ビニルと塩素とを反応させて、TCEを製造する方法において、モリブデン、ガリウム、チタン、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属もしくは金属化合物を含む系を触媒として用いることを特徴とするTCEの製造方法。
(2)金属化合物として、塩化物もしくは酸化物を用いる、上記(1)のTCEの製造方法。
(3)反応温度を5〜60℃に保持しながら反応を行う、上記(1)又は(2)のTCEの製造方法。
(4)塩化ビニルと塩素との反応において、塩素/塩化ビニルのモル比を1.00より大きく1.10以下で反応させる、上記(1)〜(3)のTCEの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、塩化ビニルと塩素とを反応させてTCEを得る製造方法において、副生成物の生成を抑制し、TCEを高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において用いる塩化ビニルとしては、塩化エチレンの熱分解による脱塩化水素反応により製造したものを用いることが好ましい。
また、塩素としては、通常の塩素ガスであり、工業的には隔膜法又はイオン交換膜法等により食塩水溶液を電気分解して得られた塩素ガスを用いることが好ましい。
触媒としては、モリブデン、ガリウム、チタン、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属もしくは金属化合物を含む系を触媒として用いる。さらに、これらの金属もしくは金属化合物は、1種を用いるが、副生成物の生成の抑制をさらに効果的に行う場合には、2種以上を組合せて用いても良い。
【0008】
金属化合物としては、塩化物および酸化物を用いることが好ましい。より好ましくは、金属としては、モリブデン、ガリウム、チタン、塩化物としては、塩化モリブデン、塩化ガリウム、塩化チタン、塩化タングステン、酸化物としては、酸化モリブデン、酸化ガリウムを用いる。
使用する触媒量は、反応温度と反応継続時間により影響を受けるが、一般に塩化ビニル1モルに対し、金属原子として10−4モルから10−1モルの範囲が好ましい。さらに、好ましくは10−3モル〜10−2モル範囲である。
触媒の使用量は、塩化ビニルの反応率の観点から10−4モル以上、また、経済性の観点から10−1モル以下が好ましい。
【0009】
触媒の反応形式は、固定床、流動床、移動床および懸濁床をいずれの方法を用いてもよい。好ましくは、固定床を用いる。
塩化ビニルと塩素とを反応させる温度は、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜50℃である。
反応温度が60℃より高い場合には、副生成物が増加しやすく、TCEの収率が低下しやすい。また、5℃より低い場合には、発熱反応を制御して、温度条件を安定させることが困難であり、また、塩化ビニルの反応率が低下しやすく、TCEの収率が低下しやすい。
塩化ビニルと塩素とを反応させるモル比は、好ましくは1.00より大きく1.10以下、より好ましくは1.01〜1.03である。1.10より高いモル比の場合は、1,1−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン等をはじめとする副生成物が多くなりやすくTCEの収率が低下しやすい。また、1.00以下の場合は、未反応の塩化ビニルが多くなり反応率が低下しやすく、TCEの収率が低下しやすい。
【実施例】
【0010】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)塩化ビニルの反応率は、ガスクロマトグラフィー(GC)により、反応液中の未反応塩化ビニルを定量し、以下の式より算出した。
(C)(%)={((Vin)−(Vout))/(Vin)}×100
(C) :塩化ビニル反応率(%)
(Vin) :供給した塩化ビニルのモル数(モル)
(Vout):未反応塩化ビニルのモル数(モル)
(2)TCEの収率は、GCを用いた内部標準法により、生成したTCEのモル数を定量し、次の方法により算出した。
(Yt)(%)=(T)/(Vin)×100
(Yt) :TCE収率(%)
(T) :生成したTCEのモル数(モル)
(Vin) :供給した塩化ビニルのモル数(モル)
【0011】
GC測定の代表的な条件は以下のとおりである。
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
(カラム仕様:内径3.2mm、長さ3m)
カラム充填剤:ジーエルサイエンス(株)社製シリコンDC−550(商品名、25%フェニルメチルシリコン)
カラム温度:60℃から220℃まで5℃/分で昇温する方法を用いて、測定対象化合物の分離を行った。
インジェクター温度:250℃
検出器温度:250℃
キャリアーガス:窒素(流量30ml/min)
【0012】
実施例には、次の触媒を用いて行った。
(1)酸化モリブデン(MoO) ・・・触媒(A)
(2)塩化モリブデン(MoCl) ・・・触媒(B)
(3)塩化ジルコニウム(ZrCl) ・・・触媒(C)
(4)塩化チタン(TiCl) ・・・触媒(D)
(5)塩化タングステン(WCl) ・・・触媒(E)
(6)塩化ガリウム(GaCl) ・・・触媒(F)
(7)塩化第二鉄(FeCl) ・・・触媒(G)
(8)塩化アルミニウム(AlCl) ・・・触媒(H)
【0013】
[実施例1]
温度計を備えた内径15mmの80mlガラス製の冷却ジャケットを有する固定床式反応管中に、TCEを溶媒として用い、触媒(A)1.0gを充填し、反応管のジャケットに冷却水を通すことで反応熱を抑制しながら、反応管内部温度を50℃とした。原料の塩素と塩化ビニルのモル比を1.01(標準状態換算)とし、塩素は7.90mmol/min、塩化ビニルは、7.82mmol/minで供給した。反応液をGCにより分析し、収率を計算した。結果を表1に示す。
【0014】
[実施例2]
反応温度を、70℃とした以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0015】
[実施例3]
反応温度を、10℃とした以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0016】
[実施例4]
塩素/塩化ビニルのモル比を1.03とした以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0017】
[実施例5]
反応温度を、10℃で、塩素/塩化ビニルのモル比を1.03とした以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0018】
[比較例1]
触媒(G)を充填した以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0019】
[比較例2]
反応温度を、70℃で、触媒(G)を充填した以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0020】
[比較例3]
触媒(G)を充填し、反応温度を、10℃とした以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0021】
[比較例4]
触媒(H)を充填した以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0022】
[比較例5]
触媒を充填しないこと以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0023】
[実施例6]
触媒(B)を充填した以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0024】
[実施例7]
触媒(C)を充填した以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0025】
[実施例8]
触媒(D)を充填した以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0026】
[実施例9]
触媒(E)を充填した以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0027】
[実施例10]
触媒(F)を充填した以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0028】
[実施例11]
触媒(B)と(F)をそれぞれ0.5gずつ充填した以外は実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、塩化ビニルと塩素とを反応させて、TCEを製造する方法において、好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニルと塩素とを反応させて、1,1,2−トリクロロエタンを製造する方法において、モリブデン、ガリウム、チタン、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属もしくは金属化合物を含む系を触媒として用いることを特徴とする、1,1,2−トリクロロエタンの製造方法。
【請求項2】
上記の金属化合物として、塩化物もしくは酸化物を用いることを特徴とする、請求項1に記載の1,1,2−トリクロロエタンの製造方法。
【請求項3】
反応温度を5〜60℃に保持しながら反応を行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の1,1,2−トリクロロエタンの製造方法。
【請求項4】
塩化ビニルと塩素との反応において、塩素/塩化ビニルのモル比を、1.00より大きく1.10以下で反応させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の1,1,2−トリクロロエタンの製造方法。

【公開番号】特開2006−36686(P2006−36686A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218438(P2004−218438)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(303046266)旭化成ライフ&リビング株式会社 (64)
【Fターム(参考)】