説明

1,2,3−トリクロロプロパンの製造方法

【課題】バイオディーゼルオイルの副産物として大量に生産されるグリセロールを原料とした1,2,3−トリクロロプロパンの製造方法の提供。
【解決手段】トルエン、キシレン、クロロベンゼンなどの芳香族系溶媒中、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N−メチルモルホリン、N−メチルピペリジンなどの第3級アミン化合物の存在下に、グリセロールにオキシ塩素化合物を反応させることで1,2,3−トリクロロプロパンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬などの原料として有用な化合物である1,2,3−トリクロロプロパンの製造方法に関する(例えば非特許文献1参照。)。
【背景技術】
【0002】
1,2,3−トリクロロプロパンの製造方法としては、アリールクロライドに塩素あるいはスルフリルクロライドなどの塩素化剤を作用させる方法(たとえば特許文献1参照。)が従来から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−68432号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Agric.Food Chem.,2004年、vol.52、1918-1922ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来公知の方法で使用されていた原料とは全く異なり、バイオディーゼルオイルの副産物として大量に生産されるグリセロールを原料にして1,2,3−トリクロロプロパンを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、第3級アミン化合物の存在下に、グリセロールにオキシ塩素化合物を反応させることを特徴とする1,2,3−トリクロロプロパンの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、副生原料を用いて、1,2,3−トリクロロプロパンを容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本反応で用いられるグリセロールは、例えば特開2005−206575号公報等に記載の公知の方法により製造することもできるし、市販品を用いてもよい。
オキシ塩素化合物としては、オキシ塩化リン、塩化チオニル、塩化スルフリルなどが挙げられる。好ましくはオキシ塩化リンが用いられる。
【0009】
オキシ塩素化合物の使用量は、通常はグリセロールに対して3モル倍以上であれば本発明の目的を達することができ、その上限は特にないが、経済性や操作性の点において、通常10モル倍以下である。好ましくは3〜5モル倍の範囲である。
第3級アミン化合物としては、直鎖状、分岐鎖状または環状の炭素数3〜20の炭化水素基で3置換された窒素原子を有する第3級アミン化合物が例示され、具体的には例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ(n−プロピル)アミン、トリ(n−ブチル)アミン、トリ(n−ペンチル)アミン、トリ(n−ヘキシル)アミン、ジメチル(n−オクチル)アミン、ジメチル(n−デシル)アミン、ジメチル(n−ドデシル)アミン、ジメチル(n−テトラデシル)アミン、ジメチル(n−ヘキサデシル)アミン、ジメチル(n−オクタデシル)アミン、ジ(n−ヘキシル)メチルアミン、ジ(n−オクチル)メチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジ(n−ブチル)ベンジルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジ(n−ブチル)アニリン、N,N−ジ(n−ヘキシル)アニリン、N−メチルモルホリン、N−(n−ブチル)モルホリン、N−(n−オクチル)モルホリン、N−(n−デシル)モルホリン、N−(n−ドデシル)モルホリン、N−メチルピロリジン、N−(n−ブチル)ピロリジン、N−(n−ヘキシル)ピロリジン、N−(n−オクチル)ピロリジン、N−(n−デシル)ピロリジン、N−(n−ドデシル)ピロリジン、N−メチルピペリジン、N−(n−ブチル)ピペリジン、N−(n−ヘキシル)ピペリジン、N−(n−オクチル)ピペリジン、N−(n−デシル)ピペリジン、N−(n−ドデシル)ピペリジン等が挙げられる。
【0010】
これらの第3級アミン化合物は、種々の化合物が市販されており、通常、容易に入手可能である。第3級アミン化合物の使用量は、通常は、オキシ塩素化合物に対して0.5〜1.5モル倍の範囲で使用される。
【0011】
本反応は、通常、有機溶媒の存在下で、グリセロールにオキシ塩素化合物と3級アミン化合物を作用させる。かかる有機溶媒としては、反応を阻害しないものであれば、特に限定されず用いることができる。例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;等が挙げられる。好ましくは、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒が用いられる。
【0012】
有機溶媒の使用量は特に制限されないが、容積効率等を考慮すると、実用的には、グリセロールに対して、通常100重量倍以下である。
グリセロールにオキシ塩素化合物と第3級アミン化合物を作用させる温度は、通常−20〜100℃の範囲である。
【0013】
試剤の混合順序は特に制限されず、通常、グリセロール、オキシ塩素化合物、第3級アミン化合物および必要により有機溶媒を、任意の順序で混合し、次いで、温度を調整することにより実施される。常圧条件下でグリセロールにオキシ塩素化合物と第3級アミン化合物を作用させてもよいし、減圧条件あるいは加圧条件下で作用させてもよい。
【0014】
グリセロールにオキシ塩素化合物と第3級アミン化合物を作用させることにより、グリセロールのクロル化反応が進行し、1,2,3−トリクロロプロパンが生成する。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。
【0015】
反応終了後の混合物には1,2,3−トリクロロプロパンが含まれており、例えば、蒸留等の手段により処理したり、必要に応じて生成した酸と第3級アミンとの塩をろ過したり、水および/または水に不溶の有機溶媒と混合して抽出処理し、得られる有機層を濃縮処理したりすることにより、1,2,3−トリクロロプロパンを単離することができる。得られた1,2,3−トリクロロプロパンは、例えば、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段によりさらに精製してもよい。
【0016】
ここで、水に不溶の有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;等が挙げられる。

【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0018】
実施例1
還流冷却管を付した100mLフラスコに、グリセロール2.0g、トルエン15gおよびオキシ塩化リン16.6gを仕込み、ここに、トリエチルアミン8.4gを室温で加えた。得られた混合物を、油浴温度80℃で3時間加熱撹拌した。反応後の混合物を室温まで冷却し、該混合物を水50gの中に加えた後、分液し、さらに、水層を10gのトルエンで2回抽出し、有機層を合一した。得られた有機層をガスクロマトグラフィー内部標準法にて分析したところ、1,2,3−トリクロロプロパンが2.6g含まれていた(収率81%)。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の製造方法により得られる1,2,3−トリクロロプロパンは、農薬などの原料として利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第3級アミン化合物の存在下に、グリセロールにオキシ塩素化合物を反応させることを特徴とする1,2,3−トリクロロプロパンの製造方法。
【請求項2】
オキシ塩素化合物が、オキシ塩化リンまたは塩化チオニルである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
芳香族系溶媒の存在下に、第3級アミン化合物の存在下に、グリセロールにオキシ塩素化合物を反応させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
芳香族系溶媒が、トルエン、キシレン、クロロベンゼンのいずれか、またはそれらの混合物である請求項3に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−180135(P2010−180135A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22373(P2009−22373)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】