説明

1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸の製造方法

【課題】2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸とホスゲンから、操作性良く1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸を製造する。
【解決手段】2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸を塩基性水溶液中でホスゲンと反応させる。得られた1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸の塩基性水溶液をpHが3〜4.5となるように鉱酸と混合して、1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸を析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸をホスゲンと反応させることにより、1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸を製造する方法に関するものである〔下記反応式(1)参照〕。このジカルボン酸は、ビオチン中間体等として有用である。
【0002】
【化1】

【背景技術】
【0003】
1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸を製造する方法の1つとして、2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸を塩基性水溶液中でホスゲンと反応させる方法が知られている。この反応により得られる1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸の塩基性水溶液からの該ジカルボン酸の取り出しは、該水溶液を酸と混合して酸性条件下に該ジカルボン酸を析出させる(以下、このように酸性条件下で析出させることを酸析ということがある)ことにより行うことができるが、その際、析出物がペースト状になり易いため、反応器に付着して取り出し難くなるという問題が生じることがある。
【0004】
このような問題を解決するため、例えば、特開昭55−102570号公報(特許文献1)には、塩素化炭化水素の共存下に酸析を行うことが提案されており、その際、pHは1以下とすることが開示されている。また、特開2004−43306号公報(特許文献2)には、酸析後、65℃以上の温度で析出物と母液を接触させることが提案されており、その際、pHは通常7以下、好ましくは2以下とし、また通常0以上とすることが開示されている。さらに、特開2004−43412号公報(特許文献3)には、65℃以上の温度で酸析を行うことが提案されており、その際、pHは上記同様、通常7以下、好ましくは2以下とし、また通常0以上とすることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭55−102570号公報
【特許文献2】特開2004−43306号公報
【特許文献3】特開2004−43412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、酸析の際、特許文献1の如く塩素化炭化水素を共存させなくとも、また特許文献2ないし3の如く65℃以上の高温操作を行わなくとも、析出物のペースト化を抑制して、操作性良く1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸を製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、上記1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸の水溶液を、所定のpHになるように酸と混合して、酸析を行うことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸を塩基性水溶液中でホスゲンと反応させ、得られた1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸の塩基性水溶液をpHが3〜4.5となるように鉱酸と混合して、該ジカルボン酸を析出させることを特徴とする、1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸とホスゲンから、操作性良く1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で原料に用いる2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸は、例えば、米国特許第2489232号明細書や、ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(Journal of the American Chemical Society)、(米国)、1978年、第100巻、p.1558−1563に記載される如く、2,3−ジブロモコハク酸をベンジルアミンと反応させることにより、調製することができる〔下記反応式(2)参照〕。
【0011】
【化2】

【0012】
具体的には、上記両文献に記載の如く、2,3−ジブロモコハク酸をエタノール溶媒中でベンジルアミンと反応させた後、酸及び水を加えて酸性条件下に2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸を析出させ、次いで濾過等により取り出せばよい。
【0013】
また、水と分液可能な有機溶媒中で、2,3−ジブロモコハク酸をベンジルアミンと反応させた後、塩基性水溶液により2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸を抽出するという処方を採用することもできる。この処方によれば、晶析操作が省略できると共に、得られる2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸の塩基性水溶液を、原料溶液としてそのままホスゲンとの反応に付すことができて、有利である。ここで、水と分液可能な有機溶媒としては、2−ブタノン、3−メチル−2−ブタノン、4−メチル−2−ペンタノンの如き炭素数4〜8程度の脂肪族ケトンが好ましく用いられ、塩基性水溶液としては、無機塩基の水溶液、中でも水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの如き金属水酸化物の水溶液が好ましく用いられる。なお、この処方により調製される2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸の塩基性水溶液には、未反応のベンジルアミンが含まれることがあり、かかる水溶液をホスゲンとの反応に付すと、続く酸析の際に析出物がペースト状になり易い傾向にあるが、本発明によれば、かかる水溶液を原料に用いた場合でも、析出物のペースト化を抑制して、操作性良く1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸を製造することができる。
【0014】
上記の如く調製される2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸を、塩基性水溶液中でホスゲンと反応させることにより、1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸の塩基性水溶液を得る。
【0015】
ホスゲンとしては、液体のものを使用してもよいし、気体のものを使用してもよい。また、塩基性水溶液としては、無機塩基の水溶液、特に水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの如き金属水酸化物の水溶液が好ましく用いられる。
【0016】
反応は、2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸の塩基性水溶液に、ホスゲンを導入すると共に、上記の如き塩基を導入しながら、該水溶液のpHが9〜14、好ましくは10〜12に保たれるように行うのがよい。反応温度は通常0〜50℃程度である。なお、この反応は、例えば特許文献2や3に記載の如く、水と分液可能な有機溶媒の共存下に油水二相系で行ってもよい。また、上記塩基性水溶液中には、必要により水溶性有機溶媒が溶解していてもよいが、その量は通常、該水溶液中に存在する水に対し0.1重量倍までである。
【0017】
こうして反応混合物として得られる1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸の塩基性水溶液を、次いで鉱酸と混合して、酸性条件下に1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸を析出させるが、本発明では、この酸との混合後のpHの終点を3〜4.5とする。このようにpHの終点をあまり低くしないことで、析出物のペースト化を抑制することができ、操作性良く1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸を製造することができる。
【0018】
鉱酸としては、例えば、塩化水素、硫酸、硝酸、臭化水素、燐酸等が挙げられ、通常、その水溶液として使用される。1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸の塩基性水溶液と鉱酸との混合は、該塩基性水溶液の中に鉱酸を加えることにより行うのが望ましい。また、混合温度は通常0〜50℃程度である。
【0019】
析出した1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸は、通常、濾過やデカンテーション等により分離され、必要によりさらに水洗や乾燥等の操作に付される。回収量が少なめの場合は、母液を濃縮して析出させるのも有効である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。例中、濃度を表す%は特記ないかぎり重量基準である。
【0021】
参考例1
(2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸の調製)
2Lフラスコに、2,3−ジブロモコハク酸196gと4−メチル−2−ペンタノン400gを入れて攪拌した。この中に、ベンジルアミン519gを40℃にて1時間かけて滴下した後、80℃で2時間、次いで100℃で2時間、保持した。得られた反応混合物に49%水酸化カリウム水溶液360gと水155gを加え混合後、油層と水層とに分離した。水層を4−メチル−2−ペンタノン200gで2回洗浄し、2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸を17.5%、及びベンジルアミンを3.8%含むpH14の水溶液961gを得た。
【0022】
実施例1
(a)ホスゲンとの反応
参考例1で得られた2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸を含む水溶液805g〔2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸141g(0.429モル)含有〕とトルエン407gを、2Lフラスコに入れて32℃に保持した。この中にホスゲン142gを6時間かけて吹き込んだ後、32℃で0.5時間、保持した。また、この吹き込みと保持の間、反応液のpHが10.8に保たれるように、49%水酸化カリウム水溶液615gを加えた。得られた混合物をろ過して固体を除去した後、濾液を油層と水層とに分離して、水層として、1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸を10.6%含むpH12の水溶液1263g〔1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸134g(0.378モル、収率88%)含有〕を得た。
【0023】
(b)酸析
得られた1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸を含む水溶液180g〔1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸19.1g(0.0538モル)含有〕を、500mLフラスコに入れて撹拌し、この中に25℃で20%塩酸67gを滴下して、混合物のpHを3.5とした。その結果、1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸が、フラスコの壁面や撹拌器に付着することなく、析出した。この析出物を濾取し、常温で減圧乾燥して、純度70%の1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸23g〔純分16.1g(0.0454モル、回収率84%)〕を得た。
【0024】
比較例1
実施例1(a)で得られた1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸を含む水溶液105g〔1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸11.1g(0.0314モル)含有〕を、500mLフラスコに入れて攪拌し、この中に25℃で20%塩酸65gを滴下して、混合物のpHを1.7とした。その結果、1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸が、ペースト状になって、フラスコの壁面や撹拌器に付着して、析出した。この析出物をかき取って濾取し、常温で減圧乾燥して、純度76%の1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸13g〔純分9.9g(0.0279モル、回収率89%)〕を得た。
【0025】
比較例2
実施例1(a)で得られた1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸を含む水溶液500g〔1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸53g(0.150モル)含有〕を、1Lフラスコに入れて攪拌し、この中に25℃で20%塩酸309gを滴下して、混合物のpHを1.7とした。その結果、1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸が、ペースト状になって、フラスコの壁面や撹拌器に付着して、析出した。次いで、混合物を65℃に加熱して、1時間保持したが、析出物はフラスコの壁面や撹拌器に付着したままであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸を塩基性水溶液中でホスゲンと反応させ、得られた1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸の塩基性水溶液をpHが3〜4.5となるように鉱酸と混合して、該ジカルボン酸を析出させることを特徴とする、1,3−ジベンジル−2−オキソイミダゾリジン−4,5−ジカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
2,3−ジブロモコハク酸を水と分液可能な有機溶媒中でベンジルアミンと反応させた後、塩基性水溶液と混合し、得られた2,3−ビス(ベンジルアミノ)コハク酸の塩基性水溶液を、前記ホスゲンとの反応に付す請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−241091(P2006−241091A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60331(P2005−60331)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)