説明

1,3,5−トリアジン誘導体,その製法およびそれから成る薄膜

【課題】有機電界発光素子用の有機材料などとして期待される新規な1,3,5−トリアジン誘導体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】例示的には2,6−ビス[4,6−ビス(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレン等で表されることを特徴とする1,3,5−トリアジン誘導体、その製法、及びそれからなる薄膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3,5−トリアジン誘導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1,3,5−トリアジン誘導体は、有機電界発光素子用の有機材料、医農薬中間体などとしての用途が期待される化合物である。例えば、特許文献1、2、3および4には、1,3,5−トリアジン誘導体を発光層および電子輸送層に用いて素子を構成したディスプレイ装置が開示されている。
【0003】
2つの1,3,5−トリアジン環をリンカーで結合した化合物は、例えば特許文献1、2、3および4や非特許文献1および2に開示されているが、リンカー部位がp−フェニレン基、m−フェニレン基、4,4’―ビフェニレン基に限定されており、ナフチレン基であるものはこれまでに報告がない。
【0004】
【特許文献1】特開2004−63465号公報
【特許文献2】米国特許第6057048号明細書
【特許文献3】米国特許第6229012号明細書
【特許文献4】米国特許第6225467号明細書
【非特許文献1】Izvestiya Natsional’noi Akademii Nauk Respubliki Kazakhstan,Seriya Khimicheskaya、1993年、第2号、13−20ペ−ジ
【非特許文献2】Die Makromolekulare Chemie,1975年、第176巻、849−858ペ−ジ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、有機電界発光素子用の有機材料や医農薬中間体などとして期待される新規な1,3,5−トリアジン誘導体およびそれらの製造方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、一般式(1)および(2)で表される1,3,5−トリアジン誘導体が、一般式(3)で表される置換ベンゾニトリル類と一般式(4)または(5)で表される置換ナフタレンジカルボン酸ジクロリド類とをルイス酸の存在下で反応させることにより得られる一般式(6)および(7)で表される1,3,5−オキサジアジニウム塩を得、次いでこれをアンモニア水と反応させることにより極めて簡便かつ高収率で一般式(1)および(2)で表されるリンカー部位が置換ナフチレン基の1,3,5−トリアジン誘導体へと転換できることを見出した。また、一般式(1)および(2)で表される1,3,5−トリアジン誘導体が、真空蒸着法、スピンコ−ト法、塗布法、インクジェット法などで成膜することが可能であり、有機電界素子として用いるために必要な高い表面平滑性、アモルファス性、耐熱性、電子輸送能、正孔ブロック能、酸化還元耐性、耐水性、耐酸素性などをもつことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、一般式(1)
【0008】
【化1】

[式中、nは0又は1から3の整数を示し、Xは置換していてもよい炭素数1から4のアルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、又はハロゲン原子を示し、nが2又は3の時はXは同一又は相異なっていてもよく、mは0又は1から5の整数を示し、Yはフェニル基、炭素数1から8の置換していてもよいアルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、又はハロゲン原子を示し、mが2から5の整数を示す時はYは同一又は相異なっていてもよい。]、又は一般式(2)
【0009】
【化2】

[式中、pは0又は1から4の整数を示し、qは0、1、又は2を示し、X、m、Yは前述と同様を示す。pが2から4の整数を示すとき及び/又はqが2を示すときは、Xは同一又は相異なっていてもよい。]で表されることを特徴とする、1,3,5−トリアジン誘導体である。
【0010】
また本発明は、一般式(3)
【0011】
【化3】

[式中、m、Yは前述と同様を示す。]で表される置換ベンゾニトリル類と、一般式(4)
【0012】
【化4】

[式中、n、Xは前述と同様を示す。]、または一般式(5)
【0013】
【化5】

[式中、p、q、Xは前述と同様を示す。]で表される置換ナフタレンジカルボン酸ジクロリド類とを、ルイス酸の存在下で反応させることにより、一般式(6)
【0014】
【化6】

[式中、n、X、m、Yは前述と同様を示し、Zは陰イオンを示す。]、または一般式(7)
【0015】
【化7】

[式中、p、q、X、m、Y、Zは前述と同様を示す。]で表される1,3,5−オキサジアジニウム塩またはその溶液を得、次いでこれとアンモニア水を反応させることを特徴とする、一般式(1)又は一般式(2)で表されることを特徴とする、1,3,5−トリアジン誘導体の製造方法である。
【0016】
さらに本発明は、一般式(1)又は一般式(2)で表される1,3,5−トリアジン誘導体から成ることを特徴とする薄膜である。以下に本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明において、炭素数1から4のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基およびシクロプロピルメチル基が例示される。
【0018】
また、これらのアルキル基は、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、炭素数1から4のアルキルオキシ基、カルボキシ基、炭素数1から4のアルキルオキシカルボニル基およびハロゲン原子で一個以上置換されていてもよく、具体的にはヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、1−ヒドロキシイソプロピル基、2−ヒドロキシイソプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、アミノメチル基、2−アミノエチル基、3−アミノプロピル基、2−アミノプロピル基、1−アミノイソプロピル基、2−アミノイソプロピル基、4−アミノブチル基、3−アミノブチル基、メルカプトメチル基、2−メルカプトエチル基、3−メルカプトプロピル基、2−メルカプトプロピル基、1−メルカプトイソプロピル基、2−メルカプトイソプロピル基、4−メルカプトブチル基、3−メルカプトブチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、2−メトキシエチル基、カルボキシメチル基、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、1−メトキシカルボニルエチル基、1−エトキシカルボニルエチル基、2−エトキシカルボニルエチル基、2−クロロエトキシメチル基、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロイソプロピル基、2−クロロエチル基、3−クロロプロピル基および3−フルオロプロピル基等が例示される。
【0019】
一般式(1)、(2)、(4)、(5)、(6)および(7)のXは、置換していてもよい炭素数1から4のアルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、又はハロゲン原子のいずれでもよいが、例えば有機電界発光素子用の有機材料としての性能が良い点で、メチル基、エチル基、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、アミノメチル基、2−アミノエチル基、メルカプトメチル基、2−メルカプトエチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、カルボキシメチル基、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、1−メトキシカルボニルエチル基、1−エトキシカルボニルエチル基、2−エトキシカルボニルエチル基、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロイソプロピル基、2−クロロエチル基、3−クロロプロピル基、アミノ基、シアノ基、塩素原子、もしくはフッ素原子、又はn=0もしくはp=q=0が望ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロイソプロピル基、もしくはフッ素原子、又はn=0もしくはp=q=0がさらに望ましい。とりわけn=0もしくはp=q=0が望ましい。
【0020】
本発明において、炭素数1から8のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、シクロプロピルメチル基、ペンチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、イソブチル基、シクロブチルメチル基、2−シクロプルピルエチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、イソヘキシル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,2,2−トリメチルプロピル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、シクロヘキシル基等があげられる。
【0021】
またへプチル基、イソヘプチル基、1−メチル−1−シクロプロピルプロピル基、2,2−ジメチルペンチル基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピル基、1−エチル−1,2−ジメチルプロピル基、1,1,3−トリメチルブチル基、1,3,3−トリメチルブチル基、1−エチルシクロペンチル基、2−エチル−1−メチルブチル基、2,2−ジエチルプロピル基、2−エチルペンチル基、1,2−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2,2−ジメチルペンチル基、1−プロピルブチル基、シクロヘプチル基、1−エチル−1−メチルブチル基、1−エチル−2−メチルブチル基、1−エチル−3−メチルブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、1−メチルシクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−メチルシクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、オクチル基、シクロオクチル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基等があげられる。
【0022】
また1,2−ジメチル−1−シクロプロピルプロピル基、1−プロピルシクロペンチル基、2,2,4−トリメチルペンチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、1−メチルシクロヘプチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、1,2−ジメチルヘキシル基、1−エチル−1−メチルペンチル基、1−プロピル−2−メチルブチル基、1−プロピル−1−メチルブチル基、1−エチル−3−メチルペンチル基、1,5−ジメチルヘキシル基、1−エチルヘキシル基、1,1,2−トリメチルペンチル基、1,1,4−トリメチルペンチル基、1−エチル−1,2−ジメチルブチル基、1−エチル−1,3−ジメチルブチル基、1,2,3−トリメチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、1−エチルヘキシル基、1,2−ジエチルブチル基、4−エチルシクロヘキシル基、2,5−ジメチルシクロヘキシル基、2,6−ジメチルシクロヘキシル基、3,3−ジメチルシクロヘキシル基、3,5−ジメチルシクロヘキシル基、2,3−ジメチルシクロヘキシル基、又は2,4−ジメチルシクロヘキシル基等が例示される。
【0023】
また、これらのアルキル基は、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、炭素数1から4のアルキルオキシ基、カルボキシ基、炭素数1から4のアルキルオキシカルボニル基またはハロゲン原子で一個以上置換されていてもよく、具体的にはヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、1−ヒドロキシイソプロピル基、2−ヒドロキシイソプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、5−ヒドロキシペンチル基、4−ヒドロキシペンチル基、6−ヒドロキシヘキシル基、5−ヒドロキシヘキシル基、4−ヒドロキシシクロヘキシル基、アミノメチル基、2−アミノエチル基、3−アミノプロピル基、2−アミノプロピル基、1−アミノイソプロピル基、2−アミノイソプロピル基、4−アミノブチル基、3−アミノブチル基、5−アミノペンチル基、4−アミノペンチル基等があげられる。
【0024】
また6−アミノヘキシル基、5−アミノヘキシル基、4−アミノシクロヘキシル基、メルカプトメチル基、2−メルカプトエチル基、3−メルカプトプロピル基、2−メルカプトプロピル基、1−メルカプトイソプロピル基、2−メルカプトイソプロピル基、4−メルカプトブチル基、3−メルカプトブチル基、5−メルカプトペンチル基、4−メルカプトペンチル基、6−メルカプトヘキシル基、5−メルカプトヘキシル基、4−メルカプトシクロヘキシル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、2−メトキシエチル基、カルボキシメチル基、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、1−メトキシカルボニルエチル基、1−エトキシカルボニルエチル基、2−エトキシカルボニルエチル基、2−クロロエトキシメチル基、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロイソプロピル基、2−クロロエチル基、3−クロロプロピル基および3−フルオロプロピル基等が例示される。
【0025】
一般式(1)、(2)、(3)、(6)および(7)のYは、フェニル基、炭素数1から8の置換していてもよいアルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、又はハロゲン原子のいずれでもよいが、有機電界発光素子用の有機材料としての性能が良い点で、フェニル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、アミノメチル基、2−アミノエチル基、メルカプトメチル基、2−メルカプトエチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、カルボキシメチル基、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、1−メトキシカルボニルエチル基、1−エトキシカルボニルエチル基、2−エトキシカルボニルエチル基、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロイソプロピル基、2−クロロエチル基、3−クロロプロピル基、アミノ基、シアノ基、塩素原子、もしくはフッ素原子、又はm=0が望ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロイソプロピル基、もしくはフッ素原子、又はm=0がさらに望ましい。
【0026】
本発明において一般式(1)および(2)で表される化合物は、上記のXとYから任意に選ばれた置換基の組合せで表される1,3,5−トリアジン誘導体のいずれでも良いが、中でも2,6−ビス[4,6−ビス(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレン、2,6−ビス[4,6−ビス(4−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレン、1,4−ビス[4,6−ビス(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレンおよび1,4−ビス[4,6−ビス(4−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレンが、例えば有機電界素子用の有機材料としての性能が良い点で望ましい。
【0027】
本発明の製造方法において、一般式(3)で表される置換ベンゾニトリル類と、一般式(4)または(5)で表される置換ナフタレンジカルボン酸ジクロリド類のモル比は1:100〜100:1の広い範囲で高い収率が得られるが、量論量でも充分に反応は進行する。
【0028】
反応に用いる溶媒は、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼンなどが例示できる。収率が良い点で、ジクロロメタンが望ましい。
【0029】
ルイス酸としては、三フッ化ホウ素、三塩化アルミニウム、三塩化鉄、四塩化スズ、五塩化アンチモンなどが例示できる。収率が良い点で、五塩化アンチモンが望ましい。
【0030】
一般式(6)および(7)の塩は単離することもできるが、溶液のまま次の反応操作に供してもよい。塩として単離する場合、一般式(6)および(7)のZは、陰イオンであれば特に限定はないが、一般式(6)および(7)の陽イオン部分を中和するのに必要な価数を持つ陰イオンであれば単一の陰イオン又は複数の陰イオンの組合せであってもよく、上に挙げたルイス酸にフッ化物イオンまたは塩化物イオンが結合したテトラフルオロホウ酸イオン、クロロトリフルオロホウ酸イオン、テトラクロロアルミニウム酸イオン、テトラクロロ鉄(III)酸イオン、ペンタクロロスズ(IV)酸イオンまたはヘキサクロロアンチモン(V)酸イオンを対陰イオンとして得ると収率が良い。
【0031】
用いるアンモニア水の濃度に特に制限はないが、5〜50%が好ましく、市販の28%でも反応は充分に進行する。
【0032】
反応温度には特に制限はないが、−50℃〜溶媒還流温度から選ばれた温度で反応を行うことが好ましい。また反応時間は、反応温度とのかねあいによるが、0.5時間〜24時間である。
【0033】
一般式(1)および(2)で表される1,3,5−トリアジン誘導体は、薄膜とすることができ、それにより例えば有機電界発光素子の一部として用いることができる。薄膜の製造方法に、特に限定はないが、例えば真空蒸着法による成膜が可能である。真空蒸着法による成膜は、汎用の真空蒸着装置を用いることにより行うことができる。真空蒸着法で膜を形成する際の真空槽の真空度は、有機電界発光素子作製の製造タクトタイムや製造コストを考慮すると、一般的に用いられる拡散ポンプ、タ−ボ分子ポンプ、クライオポンプ等により到達し得る1×10−4〜1×10−7torr程度が望ましい。蒸着速度は、形成する膜の厚さによるが0.005〜1.0nm/秒が望ましい。また、本発明の1,3,5−トリアジン誘導体は、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン等に対する溶解度が高いため、汎用の装置を用いた塗布法、スピンコ−ト法、インクジェット法などによる成膜も可能である。
【0034】
本発明の一般式(1)および(2)で表される1,3,5−トリアジン誘導体の薄膜は、高い表面平滑性、アモルファス性、耐熱性、電子輸送能、正孔ブロック能、酸化還元耐性、耐水性、耐酸素性などをもつため、有機電界発光素子用の有機材料として用いることが可能で、とりわけ電子輸送材、正孔ブロック材として用いることができる。従って、一般式(1)および(2)で表される1,3,5−トリアジン誘導体は、有機EL材料としての使用が期待される。
【発明の効果】
【0035】
本発明により、有機電界発光素子用の有機材料や医農薬中間体などとして用途が期待される1,3,5−トリアジン誘導体を高収率で製造することができる。
【実施例】
【0036】
次に本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)2,6−ビス[4,6−ビス(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレンの合成ならびに融点およびガラス転移点
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロリド253mgとp−tert−ブチルベンゾニトリル637mgを80mLのジクロロメタンにアルゴン下で溶解した。得られた溶液に、5塩化アンチモン598mgを0℃で滴下した。混合物を室温で1時間攪拌後、12時間還流した。室温まで冷却後、減圧下で低沸点成分を除去し、2,2’−(2,6−ナフチレン)−ビス(4,6−ジ−tert−ブチル−1,3,5−オキサジアジニウム)−ビス[ヘキサクロロアンチモン(V)酸]を、黄色固体として得た。得られた黄色固体をアルゴン気流中で粉砕し、これを0℃で28%アンモニア水溶液にゆっくりと加えた。得られた懸濁液を室温でさらに1時間攪拌した。析出した固体をろ取し、水,メタノ−ルで順次洗浄し、シリカゲルカラム(溶離液ジクロロメタン−ヘキサン)を通し、さらにトルエン溶液から再結晶して2,6−ビス[4,6−ビス(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレンの白色粉末(収量310mg、収率38%)を得た。
【0038】
H−NMR(CDCl,ppm)
δ1.36(s,36H),7.57(d,J=8.5Hz,8H),8.19(d,J=8.6Hz,2H),8.68(d,J=8.5Hz,8H),8.79−8.87(m,2H),9.32(brs,2H).
13C−NMR(CDCl,ppm)
δ31.3(CH×12),35.1(q.×4),125.7(CH×10),128.9(CH×8),129.6(CH×2),129.8(CH×2),133.6(q.×4),135.3(q.×2),135.6(q.×2),156.1(q.×4),171.2(q.×2),171.7(q.×4).
融点を表1に示した。また、明確なガラス転移点は観測されなかった。
【0039】
(実施例2)2,6−ビス[4,6−ビス(4−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレンの合成ならびに融点およびガラス転移点
実施例1と同様にして、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロリド506mgとp−ブチルベンゾニトリル1.27gから目的物である2,6−ビス[4,6−ビス(4−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレンの白色粉末(収量944mg、収率58%)を得た。
【0040】
H−NMR(CDCl,ppm)
δ0.91(t,J=7.3Hz,12H),1.27−1.43(m,8H),1.56−1.71(m,8H),2.67(t,J=7.7Hz,8H),7.32(d,J=8.2Hz,8H),8.11(d,J=8.6Hz,2H),8.63(d,J=8.2Hz,8H),8.75−8.79(m,2H),9.21(brs,2H).
13C−NMR(CDCl,ppm)
δ14.0(CH×4),22.4(CH×4),33.4(CH×4),35.8(CH×4),125.6(CH×2),128.7(CH×8),129.0(CH×8),129.5(CH×2),129.7(CH×2),133.8(q.×4),135.2(q.×2),135.4(q.×2),148.0(q.×4),171.1(q.×2),171.5(q.×4).
融点を表1に示した。また、明確なガラス転移点は観測されなかった。
【0041】
(実施例3)1,4−ビス[4,6−ビス(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレンの合成ならびに融点およびガラス転移点
実施例1と同様にして、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジクロリド506mgとp−tert−ブチルベンゾニトリル1.27gから目的物である1,4−ビス[4,6−ビス(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレンの白色粉末(収量746mg、収率46%)を得た。
【0042】
H−NMR(CDCl,ppm)
δ1.35(s,36H),7.55(d,J=8.6Hz,8H),7.61(dd,J=6.7,3.4Hz,2H),8.50(s,2H),8.65(d,J=8.6Hz,8H),9.05(dd,J=6.7,3.4Hz,2H).
13C−NMR(CDCl,ppm)
δ31.2(CH×12),35.1(q.×4),125.7(CH×8),126.6(CH×2),126.9(CH×2),128.9(CH×8),129.3(CH×2),132.0(q.×2),133.5(q.×4),137.5(q.×2),156.3(q.×4),171.5(q.×4),174.2(q.×2).
融点およびガラス転移点を表1に示した。
【0043】
(実施例4)1,4−ビス[4,6−ビス(4−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレンの合成ならびに融点およびガラス転移点
実施例1と同様にして、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジクロリド506mgとp−ブチルベンゾニトリル1.27gから目的物である1,4−ビス[4,6−ビス(4−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレンの白色粉末(収量401mg、収率25%)を得た。
【0044】
H−NMR(CDCl,ppm)
δ0.90(t,J=7.3Hz,12H),1.27−1.43(m,8H),1.55−1.70(m,8H),2.68(t,J=7.6Hz,8H),7.33(d,J=8.3Hz,8H),7.61(dd,J=6.7,3.4Hz,2H),8.49(s,2H)8.63(d,J=8.3Hz,8H),9.04(dd,J=6.7,3.4Hz,2H)
13C−NMR(CDCl,ppm).
δ14.0(CH×4),22.4(CH×4),33.4(CH×4),35.8(CH×4),126.6(CH×2),126.9(CH×2),128.9(CH×8),129.1(CH×8),129.3(CH×2),132.0(q.×2),133.7(q.×4),137.5(q.×2),148.3(q.×4),171.5(q.×4),174.2(q.×2).
融点を表1に示した。また、明確なガラス転移点は観測されなかった。
【0045】
(実施例5)真空蒸着法により製造した2,6−ビス[4,6−ビス(4−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレンの表面平滑性評価
抵抗加熱用タングステンフィラメントに装着されたアルミナルツボ内に実施例2で合成した2,6−ビス[4,6−ビス(4−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレンを入れて、真空槽を1.4×10−6torrまで減圧した後ルツボを加熱して真空蒸着を行った。基板は25mm角の石英ガラスを用い、表面をイソプロピルアルコ−ル、UV/オゾンで順次洗浄した。蒸着速度は0.05〜0.1nm/秒とした。触針式膜厚測定装置で測定した結果、蒸着膜の膜厚は120.2nmであった。このように作製した薄膜を、室温にて1×10−1torr程度の真空下で10〜20日間保管した。その後、原子間力顕微鏡(Digital Instrument社製NanoscopeIIIa、タッピングモ−ド測定)で表面平滑性を評価した。二乗平均粗さおよび算術平均粗さは、薄膜の平均的な表面形状と判断した5μm×5μmの視野範囲で得た。測定写真を図1に示す。図1より明らかなように、極めてアモルファス性の高い膜であった。二乗平均粗さおよび算術平均粗さの値を表2に示す。
【0046】
(実施例6)真空蒸着法により製造した1,4−ビス[4,6−ビス(4−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレン薄膜の表面平滑性評価
実施例4で合成した1,4−ビス[4,6−ビス(4−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]ナフタレンを実施例5と同様の方法で真空蒸着を行った。触針式膜厚測定装置で測定した結果、蒸着膜の膜厚は122.1nmであった。このように作製した薄膜を、室温にて1×10−1torr程度の真空下で10〜20日間保管した。その後、実施例5と同様の方法で表面平滑性を評価した。原子間力顕微鏡の測定写真を図2に示す。図2より明らかなように、極めてアモルファス性の高い膜であった。二乗平均粗さおよび算術平均粗さの値を表2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例5で得られた原子間力顕微鏡写真を示す図である。
【図2】実施例6で得られた原子間力顕微鏡写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

[式中、nは0又は1から3の整数を示し、Xは置換していてもよい炭素数1から4のアルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、又はハロゲン原子を示し、nが2又は3の時はXは同一又は相異なっていてもよく、mは0又は1から5の整数を示し、Yはフェニル基、炭素数1から8の置換していてもよいアルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、又はハロゲン原子を示し、mが2から5の整数を示す時はYは同一又は相異なっていてもよい。]、又は一般式(2)
【化2】

[式中、pは0又は1から4の整数を示し、qは0、1、又は2を示し、X、m、Yは前述と同様を示す。pが2から4の整数を示すとき及び/又はqが2を示すときは、Xは同一又は相異なっていてもよい。]で表されることを特徴とする、1,3,5−トリアジン誘導体。
【請求項2】
n=0又はp=q=0であることを特徴とする、請求項1に記載の1,3,5−トリアジン誘導体。
【請求項3】
Yがフェニル基、もしくは炭素数1〜8のアルキル基、またはm=0であることを特徴とする、請求項1または2に記載の1,3,5−トリアジン誘導体。
【請求項4】
一般式(3)
【化3】

[式中、mは0又は1から5の整数を示し、Yはフェニル基、炭素数1から8の置換していてもよいアルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、又はハロゲン原子を示し、mが2から5の整数を示す時はYは同一又は相異なっていてもよい。]で表される置換ベンゾニトリル類と、一般式(4)
【化4】

[式中、nは0又は1から3の整数を示し、Xは置換していてもよい炭素数1から4のアルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、又はハロゲン原子を示し、nが2又は3の時はXは同一又は相異なっていてもよい。]、または一般式(5)
【化5】

[式中、pは0又は1から4の整数を示し、qは0、1、又は2を示し、Xは前述と同様を示す。pが2から4の整数を示すとき及び/又はqが2を示すときは、Xは同一又は相異なっていてもよい。]で表される置換ナフタレンジカルボン酸ジクロリド類とを、ルイス酸の存在下で反応させることにより、一般式(6)
【化6】

[式中、n、X、m、Yは前述と同様を示し、Zは陰イオンを示す。]、または一般式(7)
【化7】

[式中、p、q、X、m、Y、Zは前述と同様を示す。]で表される1,3,5−オキサジアジニウム塩またはその溶液を得、次いでこれとアンモニア水を反応させることを特徴とする請求項1に記載の一般式(1)
【化8】

[式中、n、X、m、Yは前述と同様を示す。]、又は一般式(2)
【化9】

[式中、p、q、X、m、Yは前述と同様を示す。]で表されることを特徴とする、1,3,5−トリアジン誘導体の製造方法。
【請求項5】
n=0又はp=q=0であることを特徴とする、請求項4に記載の1,3,5−トリアジン誘導体の製造方法。
【請求項6】
Yがフェニル基、もしくは炭素数1〜8のアルキル基、またはm=0であることを特徴とする、請求項4または5に記載の1,3,5−トリアジン誘導体の製造方法。
【請求項7】
一般式(1)
【化10】

[式中、nは0又は1から3の整数を示し、Xは置換していてもよい炭素数1から4のアルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、又はハロゲン原子を示し、nが2又は3の時はXは同一又は相異なっていてもよく、mは0又は1から5の整数を示し、Yはフェニル基、炭素数1から8の置換していてもよいアルキル基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、又はハロゲン原子を示し、mが2から5の整数を示す時はYは同一又は相異なっていてもよい。]、又は一般式(2)
【化11】

[式中、pは0又は1〜4の整数を示し、qは0、1、又は2を示し、X、m、Yは前述と同様を示す。pが2から4の整数を示すとき及び/又はqが2を示すときは、Xは同一又は相異なっていてもよい。]で表される1,3,5−トリアジン誘導体から成ることを特徴とする薄膜。
【請求項8】
n=0又はp=q=0であることを特徴とする、請求項7に記載の1,3,5−トリアジン誘導体から成る薄膜。
【請求項9】
Yがフェニル基、もしくは炭素数1〜8のアルキル基、またはm=0であることを特徴とする、請求項7または8に記載の1,3,5−トリアジン誘導体から成る薄膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−225322(P2006−225322A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41147(P2005−41147)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000173762)財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】