説明

1,5−D−アンヒドログルシトールの製造法

【課題】1,5−D−アンヒドログルシトールを有機溶媒を使用せずに製造する方法を提供すること。
【解決手段】1,5−D−アンヒドロフルクトースを1,5−D−アンヒドログルシトールに変換する能力を持つ微生物と接触させて1,5−D−アンヒドログルシトールを生成させ、そして生成した1,5−D−アンヒドログルシトールを採取する1,5−D−アンヒドログルシトールの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,5−D−アンヒドログルシトールの微生物による製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,5−D−アンヒドログルシトール(以下1,5−AG)は、グルコースの1位の水酸基が還元された構造をもつポリオールであり、多くの動植物が生合成することから、食品中にも広く分布している物質である。1,5−AGは動物体内で代謝的に安定であり48時間の呼気に排出される量は全体の1%以下であるとの報告があり(非特許文献1参照)、低カロリーあるいはノンカロリー甘味料として利用できる。更に産業上、研究試薬や臨床検査試薬として利用されている。
1,5−AGの調製法としてはβ−D−グルコピラノースペンタアセテートからの化学合成法が報告されている(非特許文献2参照)。その合成法はβ−D−グルコピラノースペンタアセテートをエーテルに溶解後、臭化水素によるBr化、水素化アルミニウムリチウムによる脱アセチル化することにより行われる。
【0003】
その他の調製法としてプロテア種の葉から1,5−AGをエタノール、ヘキサン等の有機溶媒で1.5−AGの抽出、単離、晶析して1,5−AGを調製する方法も報告されている(非特許文献3参照)。
これらの化学合成や植物からの抽出は、プロセスが多段的で煩雑であり、エーテルやヘキサン等の有機溶媒を用いているため、1,5−AGを食品とするには、それらの分離、処理の必要性が生じる。更には安全性の点からも疑問が残る。
これらの問題点を解決する手段として、製造プロセスが簡略で、かつエーテル等の有機溶媒を用いない製造法が求められる。
【0004】
1,5−AGは大腸菌(Escherichia.coli)により生合成されることが報告されている(非特許文献1参照)。しかし、大腸菌(Escherichia.coli)による生合成は工業生産を目的としておらず、1,5−AG生成量はμg/L程度であり、工業生産的に満足できるものではない。
1,5−AGのその他の調製法として、パラディウム触媒存在下での1,5−AFへの水素添加が報告されているが(非特許文献4参照)1,5−AGのみならずその他の反応生成物が生じ、1,5−AGは反応生成物の1/5程度であり効率的に獲得することが困難である。
1,5−D−アンヒドロフルクトース(以下1,5−AF)は、澱粉などのα−1,4−グルカンをα−1,4−グルカンリアーゼで分解することによって調製できる糖質であり、近年、安価に大量に生産できる技術が提案された(特許文献1参照)。この1,5−AFを出発物質として利用し、製造プロセスが簡便で、更にエーテル等の有機溶媒を用いない製造法について検討した。
【特許文献1】特開2005−168454号公報
【非特許文献1】生化学第69巻 第12号,pp.1361−1372,(1997)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.72,4547−4553(1954)
【非特許文献3】Phytochemistry Vol.22,No9,1959−1960(1983)
【非特許文献4】Carbohydrate Research 337(2002)873−890
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記観点からなされたものであり、本発明の目的は、1,5−AFを出発物質として利用し1,5−AFから1,5−AGを生成する能力をもつ微生物を用いて製造する方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的および利点は以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意検討した結果、本発明者らは1,5−AFを1,5−AGに変換する能力を持つ微生物を見出し、単純なプロセスでしかも有機溶媒を用いないで1,5−AGを製造する本発明に到達した。
すなわち、本発明は1,5−AFを1,5−AGに変換する能力を持つ微生物と接触せしめて1,5−AFを1,5−AGに変換せしめ、生じた1,5−AGを採取することを特徴とする1,5−AGの製造法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機溶剤を使用することなく、1,5−AFから微生物培養法により1,5−アンヒドログルシトールを工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
1,5−AFを1,5−AGに変換する能力をもつ微生物としては、具体的にはサッカロマイセス属、サッカロマイコデス属、ウィリオプシス属、ブレタノマイセス属、カンディダ属、ガラクトマイセス属、ピティア属、チゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、ティレティオプシス属、ステリマトマイセス属、クルツマノマイセス属、リューコスポリディウム属、エリスロバシディウム属、フィロバシディウム属、トリコスポロン属、ココヴァエラ属、フェロマイセス属、ブレロマイセス属、クリプロコッカス属、ツチヤエヤ属またはオーレオバシディウム属に属する微生物が挙げられる。
【0010】
さらに具体的にはサッカロマイセス・セレビジエ、サッカロマイコデス・ルディジー、ウィリオプシス・プラテンシス、ブレタノマイセス・ブラキシレンシス、カンディダ・ヴァリダ、カンディダ・ケフィア、ガラクトマイセス・チトリ−アウランティ−、ピティア・アノマラ、チゴサッカロマイセス・ルキシ−、シゾサッカロマイセス・ポンベ、ティレティオプシス・ワシントネンシス、ステリマトマイセス・ハロフィラス、クルツマノマイセス・ネクタイレイ、リューコスポリディウム・スコッティ、エリスロバシディウム・ハセガワヌラン、フィロバシディウム・フロリフォルメ、トリコスポロン・キュータネウム、ココヴァエラ・タイランディカ、フェロマイセス・ポリボーラス、ブレロマイセス・アルブス、クリプロコッカス・アルビダス、ツチヤエヤ・ウィングフィールディまたはオーレオバシディウム・ミクロスティクタムなどの微生物が挙げられる。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に用いられる微生物としては、例えばサッカロマイセス属、サッカロマイコデス属、ウィリオプシス属、ブレタノマイセス属、カンディダ属、ガラクトマイセス属、ピティア属、チゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、ティレティオプシス属、ステリマトマイセス属、クルツマノセス属、リューコスポリディウム属、エリスロバシディウム属、フィロバシディウム属、トリコスポロン属、ココヴァエラ属、フェロマイセス属、ブレロマイセス属、クリプロコッカス属、ツチヤエヤ属及びオーレオバシディウム属に属し1,5−AFを1,5−AGに変換する能力を持つ微生物が挙げられる。
【0012】
上記微生物として、具体的にはサッカロマイセス・セレビジエ、サッカロマイコデス・ルディジー、ウィリオプシス・プラテンシス、ブレタノマイセス・ブラキシレンシス、カンディダ・ヴァリダ、カンディダ・ケフィア、ガラクトマイセス・チトリ-アウランティ−、ピティア・アノマラ、チゴサッカロマイセス・ルキシ−、シゾサッカロマイセス・ポンベ、ティレティオプシス・ワシントネンシス、ステリマトマイセス・ハロフィラス、クルツマノマイセス・ネクタイレイ、リューコスポリディウム・スコッティ、エリスロバシディウム・ハセガワヌラン、フィロバシディウム・フロリフォルメ、トリコスポロン・キュータネウム、ココヴァエラ・タイランディカ、フェロマイセス・ポリボーラス、ブレロマイセス・アルブス、クリプロコッカス・アルビダス、ツチヤエヤ・ウィングフィールディ及びオーレオバシディウム・ミクロスティクタムが挙げられる。
さらに、本発明に用いられる微生物としては具体的に、以下のような菌株が挙げられる。
【0013】
サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC 0210、サッカロマイコデス・ルディジー(Saccharomycodes ludwigii)NBRC 1043、ウィリオプシス・プランテンシス(Williopsis pratensis)NBRC 11015、ブレタノマイセス・ブルキシレンシス(Brettanomyces bruxellensis) NBRC 0628、カンディダ・ヴァリダ(Candida valida) NBRC 0159、NBRC 11015、カンディダ・ケフィア(Candida kefyr) NBRC 0432、ガラクトマイセス・チトリ−アウランティー(Galactomyces citri−aurantii) NBRC 10821 、ピティア・アノマラ (Pichia anomala) NBRC 0707、チゴサッカロマイセス・ルキシ−(Zygosaccharomyces rouxii)NBRC 1914、シゾサッカロミセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)NBRC 1608、ティレティオプシス・ワシントネンシス(Tilletiopsis washigtonensis)NBRC 6831、ステリマトマイセス・ハロフィラス(Sterigmatomyces halophilus)NBRC 1844 、クルツマノマイセス・ネクタイレイ(Kurtzmanomyces nectairei) NBRC 10118、リューコスポリディウム・スコッティ(Leucosporidium scottii)NBRC 1212、エリスロバシディウム・ハセガワヌラン(Erythrobasidium hasegawanurn) NBRC 1058 、フィロバシディウム・フロリフォルメ(Filobasidium floriforme)NBRC 1603、トリコスポロン・キュータネウム(Trichosporon cutaneum)NBRC 1198、ココヴァエラ・タイランディカ(Kockovaella thailandica)NBRC 10521、フェロマイセス・ポリボーラス(Fellomyces polyborus) NBRC 10120、ブレロマイセス・アルブス(Bulleromyces albus)NBRC 1192、クリプロコッカス・アルビダス(Cryptococcus albidus) NBRC 0434、ツチヤエヤ・ウィングフィールディ(Tsuchiyaea wingfieldii) NBRC 10204及びオーレオバシディウム・ミクロスティクタム(Aureobasidium microstictum) NBRC 32070等である。これらの菌株は、デパートメント・オブ・バイオテクノロジー ナショナル・インシュティテュ−ト・オブ・テクノロジー・アンド・エバーリュエーション(Department of Biotechnology National Institute of Technology and Evaluation) 住所C/OIncorporated Administrative Agency,5−8,Kazusa−kamatari 2−chome,Kisarazu−shi,Chiba,292−0818 Japan)から入手可能である。本発明に用いられる微生物は、1,5−AFを1,5−AGに変換する能力を有する微生物であれば全てが使用可能であり、上記微生物に限定されるものではない。
【0014】
例えば本発明で用いられる微生物は、前記の微生物を、紫外線照射、N−メチル−N−ニトロソグアニジン(NTG)処理、エチルメタンスルホネート(EMS)処理、亜硝酸処理、アクリジン処理等に付して変異させた変異株、あるいは細胞融合もしくは遺伝子組み換え法などの遺伝学的手法により誘導される遺伝子組み換え株などの菌株であってもよい。
【0015】
微生物培養のための1,5−AFを含む培養液としては、通常の炭素源、窒素源、無機イオン、更に必要に応じて有機栄養源を含む培地を用いることができる。炭素源としては、例えばグルコース等の炭水化物、グリセロール等のアルコール類、有機酸、その他が適宜使用される。有機栄養源としては、例えばビタミン、アミノ酸等を含有する酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、カゼイン分解物、その他などが適宜使用される。無機イオンとしては、例えばマグネシウムイオン、リン酸イオン、カルシウムイオン、その他などが適宜使用される。その培地に、別にフィルター滅菌した1,5−AF水溶液を添加して1,5−AG採取用の培地を調製することができる。
培養条件は特別な制限もなく、例えば好気条件下でpH3〜7及び温度20〜40℃の範囲で行い、適当なpHと温度を保ちながら2〜7日程度培養を行うことができる。
【0016】
このようにして培養液中に生成した1,5−AGを通常実施される周知の手段で培養物より分離、精製する。具体的には、遠心分離、珪藻土ろ過で菌体及び固形物を除去した後、活性炭で脱色、イオン交換樹脂で脱塩し、濃縮してシロップ状とする。次いでイオン交換や吸着、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分離などの操作を適宜組み合わせて1,5−AGを分離、濃縮し、冷却して結晶化させて取得することができる。更に得られた結晶を水に溶解し再結晶させて多面体様の白色結晶として得ることができる。このサンプルの高速液体クロマトグラフィー(以後HPLC)、核磁気共鳴スペクトル(以後H−NMR)及びエレクトリスプレーイオン化マススペクトロメトリー(以後ESI−MS)での測定結果から、この結晶は1,5−AGであると同定された。
【0017】
培養液中の1,5−AG生成量はHPLCで速やかに測定することができるので、1,5−AG生成量が最高に達した時点で培養を終了することができる。HPLC測定の詳細条件を以下に示す。
分離カラム:ShodexSP810−MCIGELCK08S連結 (昭和電工(株)、三菱化学(株)製)、移動相:蒸留水、流速:1.0mL/分、カラム温度:40℃、検出:示差屈折率検出器、サンプル供与量:20μL。具体例として市販標準試薬の1,5−AG と1,5−AFを含む培地でサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC 0210を5日間培養した培養液の測定結果を(図1)に示す。
【実施例】
【0018】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以後の説明中に用いる%は、特に断りがない限り容量(w/v)%である。
【0019】
実施例1
グルコース1.0%、ペプトン0.5%、酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.3%、pH6.0の培地を1Lの培養フラスコに500mL分注し、120℃、20分間加熱滅菌した。
【0020】
上記培地に、斜面培地(グルコース1.0%、ペプトン0.5%、酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.3%、寒天粉末1.5%、pH6.0)で培養したサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC 0210を1白金耳採取し、25℃、3日間振盪培養した。これを種培養液とした。上記と同じ組成を有する培地5Lを容量10Lのミニジャーファーメンターに入れ、孔径0.45μmフィルターを通し除菌処理した1,5−AF水溶液を最終濃度2.5%となるように添加した。その1,5−AFを含む培地に、前記種培養液500mLを加え、攪拌速度200rpm、通気量1L/分、25℃で5日間振盪培養して1,5−AGを含む培養液を得た(図1)。その培養液から菌体を遠心分離(3,000rpm−10分)と珪藻土ろ過で菌体及び固形物を除去した後、活性炭(蒸気炭)とイオン交換樹脂(SK−1B:SA10AP=2:1 三菱化学(株)製)で脱色、脱塩を行った。この精製した溶液を濃縮後、Na型イオン交換樹脂(UBK530 三菱化学(株)製)を固定相として用いたカラムクロマトグラフィーに供し1,5−AGを分離した。再度、糖濃度45%以上まで濃縮後、4℃で冷却し結晶を析出させ、その結晶を更に蒸留水に溶解して再結晶化させて、多面体様の白色結晶を4.5g得た。この結晶をミリ−Q水に溶解しHPLCで分析した結果、単一なシンメトリーピークとなり、この結晶が単一成分であることが確認できた。更にH−NMR、ESI−MSで以下の条件で分析し物質同定を行った。
【0021】
H−NMR
市販標準試薬の1,5−AGと先の白色結晶を、観測周波数:499.8MHz、溶媒DO、濃度10mg/700μL、基準TSP−d((CHCDCDCOONa)、温度:25℃、観測幅:5KHz、データ点:64K(128Kでフーリエ変換)、パルス幅:30°、パルス繰り返し時間:10sec、積算回数:8回で測定した結果、市販標準試薬の1,5−AGと先の白色結晶は同一スペクトルを示した(図2)。
【0022】
ESI−MS
先の白色結晶をミリ−Q水に50nmol/mlとなるように溶解し、最終濃度30%(V/V)となるようにメタノールを添加した。その後、0.1%(V/V)ギ酸を添加してイオン化電圧:850Vで質量分析を実施した結果、イオン質量電荷比:165(m/z)のスペクトルを得た(図3)。これは、m=164(1,5−AGの質量)+1(プロトン1個分の質量)、z=1(電荷数)である。m/z=(164+1)/1=165となり、先のHPLC(図1)、H−NMR(図2)、ESI−MS(図3)の結果から、白色結晶が1,5−AGであると同定された。
【0023】
実施例2
グルコース1.0%、ペプトン0.5%、酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.3%、pH6.0の培地を試験管に5mlづつ分注して、120℃、20分間加熱滅菌後、表1に示す斜面培養菌体をそれぞれ1白金耳摂取し、25℃、3日間、100rpmで振盪培養した。これを種培養とした。上記と同組成培地45mlを300ml振盪フラスコに分注し、先の種培養液を5ml添加して25℃で6日間、100rpmで振盪培養した。培養終了後培地から遠心分離で菌体を除去した後、1,5−AGの生成量をHPLCで測定した(1,5−AF無添加:1,5−AF(−))。それとは別に上記の種培養と同じ条件で表1に示す斜面培養菌体をそれぞれ1白金耳摂取し25℃、3日間振盪培養した。同組成培地45mlを300ml振盪フラスコに分注し、孔径0.45μmフィルターで除菌処理した1,5−AF水溶液を2.5%となるように添加した。この培地に、前記種培養を5ml添加し25℃で3〜6日間、100rpmで振盪培養した。遠心分離で菌体を除去した後、HPLCにて培養液中に生成した1,5−AGを定量し生成量が最大に達した時点で培養を終了した。(1,5−AF添加:1,5−AF(+))培養液中の1,5−AG量は1,5−AFを添加群では3.5〜11.4g/Lであったのに対して、1,5−AF無添加群では、いづれも1,5−AGは検出されなかった。その結果を表1に示す。また、具体例としてサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC 0210の1,5−AF添加、無添加で5日間培養した培養液中のHPLC測定結果を図4に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例3
グルコース1.0%、ペプトン0.5%、酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.3%、pH6.0の培地を1Lの培養フラスコに500ml分注し、120℃、20分間加熱滅菌した。先の実施例2で1,5−AG以外の反応生成物が認められなかった菌株:ガラクトマイセス・チトリ−アウランティー(Galactomyces citri−aurantii)NBRC 10821の斜面培養(グルコース1.0%、ペプトン0.5%、酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.3%、寒天粉末1.5%、pH6.0)菌株を1白金耳採取し、25℃、3日間振盪培養した。これを種培養とした。上記と同じ組成を有する培地5Lを容量10Lのミニジャーファーメンターに入れ、孔径0.45μmフィルターで除菌処理した1,5−AF水溶液を最終濃度2.5%となるように添加した。その1,5−AFを含む培地に、前記種培養500mlを接種し、攪拌速度200rpm、通気量1L/分、25℃で6日間振盪培養して、1,5−AG以外の反応生成物を含まない培養液を得た(図5)。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、1,5−AFを出発物質として微生物を利用することで1,5−AGを単純な操作でしかも有機溶媒等を使用せずに、食品として工業的に生産することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】1,5−AFを含む培地で5日間、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC 0210を振盪培養した培養液の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)スペクトル。
【図2】標準1,5−AG試薬と実施例1で得られた結晶品の500MHz H−NMRスペクトル(核磁気共鳴スペクトル)。
【図3】同上結晶品のESI−MSスペクトル(エレクトロスプレーイオン化マススペクトル)。
【図4】1,5−AFを含む培地(1,5−AF(+))と1,5−AFを含まない培地(1,5−AF(−))で5日間、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC 0210を振盪培養して得られた培養液の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)スペクトル。
【図5】1,5−AFを含む培養液で5日間、ガラクトマイセス・チトリ−アウランティー(Galactomyces citri−aurantii) NBRC 10821を振盪培養した培養液の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)スペクトル。
【符号の説明】
【0028】
1,5−AF:1,5−D−アンヒドロフルクトース
1,5−AG:1,5−D−アンヒドログルシトール
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
H−NMR:プロトン−核磁気共鳴スペクトル
ESI−MS:エレクトロスプレーイオン化−マススペクトロメトリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,5−D−アンヒドロフルクトースを1,5−D−アンヒドログルシトールに変換する能力を持つ微生物と接触させて1,5−D−アンヒドログルシトールを生成させ、そして生成した1,5−D−アンヒドログルシトールを採取することを特徴とする1,5−D−アンヒドログルシトールの製造法。
【請求項2】
前記の微生物が、サッカロマイセス属、サッカロマイコデス属、ウィリオプシス属、ブレタノマイセス属、カンディダ属、ガラクトマイセス属、ピティア属、チゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、ティレティオプシス属、ステリマトマイセス属、クルツマノマイセス属、リューコスポリディウム属、エリスロバシディウム属、フィロバシディウム属、トリコスポロン属、ココヴァエラ属、フェロマイセス属、ブレロマイセス属、クリプトコッカス属、ツチヤエヤ属またはオーレオバシディウム属に属するものである請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
前記微生物がサッカロマイセス・セレビジエ、サッカロマイコデス・ルディジー、ウィリオプシス・プラテンシス、ブレタノマイセス・ブラキシレンシス、カンディダ・ヴァリダ、カンディダ・ケフィア、ガラクトマイセス・チトリ−アウランティ−、ピティア・アノマラ、チゴサッカロマイセス・ルキシ−、シゾサッカロマイセス・ポンベ、ティレティオプシス・ワシントネンシス、ステリマトマイセス・ハロフィラス、クルツマノマイセス・ネクタイレイ、リューコスポリディウム・スコッティ、エリスロバシディウム・ハセガワヌラン、フィロバシディウム・フロリフォルメ、トリコスポロン・キュータネウム、ココヴァエラ・タイランディカ、フェロマイセス・ポリボーラス、ブレロマイセス・アルブス、クリプロコッカス・アルビダス、ツチヤエヤ・ウィングフィールディまたはオーレオバシディウム・ミクロスティクタムである請求項1記載の製造法。
【請求項4】
1,5−D−アンヒドログルシトールを微生物培養法により製造するための1,5−D−アンヒドロフルクトースの使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−54531(P2008−54531A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232708(P2006−232708)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(390015004)日本澱粉工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】