説明

123I標識放射性医薬品を安定化させるためのゲンチシン酸

本発明は、ゲンチシン酸又はその生体適合性陽イオンとの塩を含む安定剤を有する安定化123I標識放射性医薬品組成物に関するものである。安定化放射ヨウ素組成物の製造方法、並びに123I標識放射性医薬品を安定させるにあたっての、特定の放射能濃度範囲のゲンチシン酸の使用についても記載してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲンチシン酸又はその生体適合性陽イオンとの塩を含む安定剤を有する安定化123I標識放射性医薬品組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゲンチシン酸は、99mTcジホスホン酸放射性医薬品の製造に用いる凍結乾燥キットに用いる安定剤として開示されている[Tofe et al, J. Nucl. Med., 21, 366−370(1980)]。米国特許第4233284号及び米国特許第4497744号にも、似た内容が開示されている。
【0003】
米国特許第5384113号には、ゲンチシン酸、ゲンチシン酸アルコール、水溶性の塩、エステル及びそれらの混合物が、111In、67Ga、169Yb、125I、123I又は201Tlで放射標識されたペプチドの自動放射線分解を防止するうえで有用なこと開示されている。米国特許第5384113号の実施例1〜7には、111In標識ペプチドが、実施例9には、186Re標識ペプチドが開示されている。実施例8には、123I標識LH−RH(黄体ホルモン放出因子)の製造が記載されている。しかし、実施例8には、ゲンチシン酸が123I標識LH−RHの有効な安定剤であることを示す証左は何ら含まれていない。
【0004】
米国特許第6315979号には、腎機能撮影用の放射性医薬品として、また近接照射療法に用いる下式の放射ヨウ素標識フェノール誘導体が開示されている。
【0005】
【化1】

ここでm及びnは各々独立に0、1、2又は3であり、
Xは、生理的pHで負又は正に荷電した基であり、
R、R、R及びRは、各々独立にH又はC1−4アルキルであり、
は、123I、131I又は125Iである。
【0006】
米国特許第6315979号には、放射ヨウ素標識フェノールが、ベンジルアルコール、アスコルビン酸、ゲンチシン酸、システイン、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、クエン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、グリセロール、システアミン、スルファレム(sulfarem)、グルタチオン、トリプトファン及びヨードアセトアミド選ばれる各種の安定剤によって安定化できる可能性があることが開示されている。ゲンチシン酸を放射ヨウ素標識フェノールの安定化に使用することについては、何ら、具体的な開示はない。
【0007】
国際公開第02/04030号には、99mTc、131I、125I、123I、117mSn、111In、97Ru、203Pb、67Ga、68Ga、89Zr、90Y、177Lu、149Pm、153Sm、166Ho、32P、211At、47Sc、109Pd、105Rh、186Re、188Re、60Cu、62Cu、64Cu及び67Cu選ばれる放射性同位元素で放射標識された薬剤を含み、下式の化合物又はその薬学上許容される塩で安定化された医薬品組成物が開示されている。
【0008】
【化2】

ここで、EはNH又はOHであり、A、A、A、A及びAは各々独立にN、C(OH)又はCRであり、ただし、A、A、A、A及びAの少なくとも1つはCHではなく、各Rは各々独立にH、C(O)R、C(O)OR、NHC(=O)NHR、NHC(=S)NHR、OC(=O)R、OC(=O)OR、S(O)OR、C(O)NR、C(O)NROR、C(O)NRNR、NR、NRC(O)R、PO(OR)(OR)、S(O)NR、S(O)NRNR、S(O)NROR、0〜5個のRで置換されたC〜C10アルキル、0〜5個のRで置換されたC〜C10シクロアルキル、0〜5個のRで置換されたC〜C10アルケニル又は0〜5個のRで置換されたアリールであり、R、R及びRは各々独立にH、C〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、C〜Cアルケニル、ベンジル又はフェニルであり、あるいは、RとRは一緒になって、必要に応じてO、S、NH、S(=O)、S(O)、P(=O)(OH)、C(=O)NH、NHC(=O)、NH(C=O)NH又はNH(C=S)NHが介在するC〜C10シクロアルキル又はC〜C10シクロアルケニルを形成しており、各Rは各々独立にH、NH、OH、COH、C(=O)NH、C(=O)NHOH、C(=O)NHNH、NH(C=NH)NH、NH(C=O)NH、NH(C=S)NH、PO、SOH又はS(O)NHである。
【0009】
国際公開第02/04030では、Aが定義されていないようである。「非ペプチド」という用語は、主鎖中に3未満のアミド結合又は3未満のアミノ酸を有する化合物というふうに、極めて広く定義されている。明細書には、安定剤がゲンチシン酸ではないことが望ましいと記載されている。放射ヨウ素の放射性医薬品に対して、ゲンチシン酸を安定剤として使用することについて、具体的な開示はない。
【0010】
マリンクロッド(Mallinckrodt)は、123Iで標識したm−ヨードベンジルグアニジンの放射性医薬品製品[MIBG(I−123) 注射剤]を販売しており、この製剤は、ゲンチシン酸を約0.5mg/mlの濃度で含有している。製剤のpHは、4.0±0.5である。
【0011】
Eerselsら [J.Lab.Comp.Radiopharm., 48、241−257(2005)]には、123I標識放射性医薬品の製造方法が概説されている。254頁には、上記滅菌中の脱ヨウ素化を低減するうえでは、酸性の条件(pH3〜4の緩衝液)が好ましいが、化合物によっては、さらに、ラジカルスカベンジャーを使用して、脱ヨウ素化を抑制せねばならないことが述べられており、アスコルビン酸やゲンチシン酸のような古典的なラジカルスカベンジャーは、変色の問題があるので、蒸気滅菌の間は加えないとされている。ラジカルスカベンジャーであるチオ尿素、N−アセチルシステイン、o−ヨード馬尿酸(OIH)は、特定の化合物(123I標識R91150)の放射線分解を安定させるうえで十分な効果があったとされているが、これらのうち、OIHのみが、ニトの静脈内注射に用いる組成物への使用に適当だとされている(254〜55頁)。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
放射性ヨウ素を含む放射性医薬品のインビトロでの脱ヨウ素化のメカニズムとして一般に認められているのは、水溶液中の造影剤の放射線分解である。水性溶媒では、放射能の減衰によって、有機分子と反応する反応性の高い酸素種が形成される。こうした反応性の種は、水性溶媒の分解によって生じ、例としては、ヒドロキシルフリーラジカルやスーパーオキシドフリーラジカルなどのフリーラジカルを挙げることができる。
【0013】
123Iの半減期は、13.2時間である。市販の123I標識放射性医薬品の場合、最初に製造した後、品質管理を行って梱包し、それから薬剤を病院まで配送して患者が使用するまでに、時間が経過する。流通と顧客への配送には、航空便に要する時間と、道路での配送に要する時間が含まれるので、製造地点から使用地点にたどりつくまでに経過する時間は、約24時間となる。つまり、123Iの半減期の2倍近い時間が経過しているわけである。その結果、工業生産時点での放射能濃度(RAC)は、放射能の減衰による放射能濃度の低下を見込んで、使用地点より、有意に高くする必要がある。さらに考慮しておかねばならないのは、製品として成功するうえでは、バッチサイズを大型化し、及び/又は前倒しで製造しておくことが必要となり、放射能の量を増やし、RACを高くしておかねばならないということである。こうした要因の結果、放射線分解の危険性が増大する。
【0014】
123I標識放射性医薬品の脱ヨウ素化速度は溶媒のpHを下げることで(pH3以下)抑制できることが多いが、pH(特にpH7以上)になると、脱ヨウ素化速度は上昇してしまう。しかし静脈内注射用の放射性医薬品製品は、生体適合性で、注射剤として不快感を感じないようなpHとして処方する必要がある。そのため、こうした製品は、通常、pH4.5〜8.5の範囲で所要され、RACが高い場合に、pHの低い溶媒を用いて脱ヨウ素化を抑制することは、放射性医薬品では利用できない方法である。また、放射性医薬品は、製品によっては、アルカリ性のpHでは、エステル基がpH8で加水分解してしまうなどして、化学的に不安定になる。したがって、静脈内注射に適した処方のpHでも安定となるようにした123I標識放射性医薬品が必要とされている。
【0015】
ゲンチシン酸は、これまでも、99mTc 放射性医薬品の安定剤として使用されてきたが、123I標識放射性医薬品との使用は、おそらく、以下の事実のために限定されてきた。
(a)溶液として静置すると変色し、褐色に着色する。
(b)溶液として加熱すると(すなわち、加熱滅菌の過程のような処理を行うと) 変色し、褐色に着色する。
【0016】
こうした変色は、患者の静脈への投与を想定している製品としては、明らかに不適切である。
【0017】
本発明は、変色の問題が解決された、ゲンチシン酸で安定化した123I放射性医薬品組成物、並びにその製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の第一の態様では、安定化放射性医薬品組成物であって、
(i)インビボでの投与時に哺乳動物体内の特定部位をターゲティングする、123Iで標識された合成化合物と、
(ii) 上記の123I標識合成化合物の放射線分解を安定化させるのに有効な量のゲンチシン酸又はその生体適合性陽イオンとの塩とを含む安定剤と、
(iii)水性の生体適合性担持溶媒
とを含み、
溶媒中の123Iの放射能濃度が8〜1000MBq/cmの範囲であり、生体適合性担持溶媒のpHが、4.5〜8.5の範囲であり、
ただし、哺乳動物体内の特定部位をターゲティングする合成化合物が、m−ヨードベンジルグアニジンの場合には、生体適合性担持溶媒のpHが5.0〜8.5の範囲である放射性医薬品組成物を提供する。
【0019】
「合成」という用語は、この用語の通常の意味、すなわち、天然原料、例えば、哺乳動物の身体から単離したのではなく、人造であることを意味するものである。こうした化合物には、製造過程や不純物のプロファイルを十分制御できるという利点がある。
【0020】
放射性医薬品の分子量は、5000Da以下とするのが適当であり、150〜3000Daの範囲とすることが好ましく、200〜1500Daとするのが特に好ましく、200〜500Daとするのが最も好ましい。
【0021】
こうした合成化合物は、哺乳動物の体内で、インビボで、生体ターゲティング特性を示し、この場合、当該領域での放射ヨウ素標識した化合物の取り込みが、診断上の有用な情報を得るうえで役に立つ。こうした薬剤として適当なものとしては、血流造影剤、例えば123I標識IMP又は123I標識HIPDM及び腎機能造影剤、例えば123I標識OIHを挙げることができる。合成化合物は、哺乳動物の体内にインビボで投与したときに、器官、例えば脳、心臓又は腎臓の機能に影響を及ぼすような生体の受容体又はトランスポーターをターゲティングするものとするのが好ましい。
【0022】
放射線分解を受ける危険性が最も高い合成ターゲティング化合物は、生体の受容体、酵素又は生体のトランスポーターを、インビボでターゲティングする化合物である。これは、こうしたターゲティング化合物が、通常、非放射性の担体化合物の量を最小限として使用されるからであり、これは、非放射性の化合物も生物学的に活性であるので、生体内の部位をめぐって、インビボで、123I標識放射性医薬品と競合するからである。こうした担体非添加又は特異的活性が高いレベルでは、RACがかなり高いこともあり、放射線分解の危険性が増大する。したがって、本発明の安定化組成物は、合成ターゲティング化合物が生体の受容体、酵素又は生体のトランスポーターをインビボでターゲティングするような放射性医薬品に対して、特に有用である。こうした生体ターゲットの例としては、ドーパミンD−1及びD−2受容体、脳のドーパミントランスポーター、コリン作動性の系、セロトニン受容体、ベンゾジアゼピン受容体、心筋の神経系、心筋の代謝(β酸化)及びメタロプロテイナーゼを挙げることができる。
【0023】
脳のドーパミンD−2受容体をターゲティングする123I標識合成化合物の例としては、123I標識エピデプリド(Epidepride)及び123I−IBZMを挙げることができ、これらは、de Paulis [Curr.Pharm.Design, , 673−696(2003)]に記載されている。
【0024】
ドーパミントランスポーターについては、適当な薬剤としては、123I標識トロパン、好ましくは123I標識CIT、123I標識CIT−FP(DaTSCAN(登録商標))及びAltropane(登録商標)を挙げることができる。これらは、Morgan及びNowotnik [Drug News Perspect., 12(3), 137−145(1999)]に記載されている。
【0025】
コリン作動性の系については、ムスカリンアセチルコリン系の撮影は、123I標識キヌクリジニルベンジレー(QNB)を用いて行うことができる[Minoshima et al, Semin.Nucl.Med., 34(1), 70−82(2004)]。
【0026】
セロトニン受容体については、適当は薬剤は、123I標識5−HT(2A)受容体アンタゴニスト、例えばR91150である[Eersels et al, J.Lab.Comp.Radiopharm., 48, 241−257(2005) ]。
【0027】
ベンゾジアゼピン受容体については、適当な薬剤は、123I標識イオマゼニル(iomazenil)である [Minoshima et al, Semin.Nucl.Med., 34(1), 70−82(2004)]。
【0028】
心筋神経系については、適当な薬剤は、123I標識MIBG である[Wafelman et al, Appl.Rad.Isot., 45(10) 997−1007(1994)及びKulkarni et al, Semin.Nucl.Med., 20(2), 119−129(1990)]。心筋の代謝の撮影については、適当な薬剤として、脂肪酸、好ましくはBMIPP及びIPPAを挙げることができる[Corbett et al, Semin.Nucl.Med., 29(3), 237−258(1999)]。
【0029】
合成化合物がベンズアミドを含む場合、好適なベンズアミドは、IBZMである。対応する好適な放射性医薬品は、123I−IBZMである。
【0030】
【化3】

123I−IBZM は、脳内で、インビボで、ドーパミンD−2受容体をターゲティングする。123I−IBZMの合成については、Bobeldijkら[J.Lab.Comp.Radiopharm.、28、1247−1256(1990)、Kungら [J.Nucl.Med.、32、339−342(1991)]及びZea−Ponceら [Nucl.Med.Biol.、26、661−665(1999)]に記載されている。
【0031】
合成化合物は、非ペプチドとすることが好ましい。「非ペプチド」という用語は、ペプチド結合、すなわち、2つのアミノ酸残基間のアミド結合をまったく持たない化合物のことをいう。
【0032】
123Iは、γ線を放出するヨウ素の放射性同位元素で、半減期は、13.2時間である。123Iは、合成化合物のフェニル基 又はビニル基に結合していることが好ましく、これは、炭素原子がsp混成しているC−I結合は、インビトロでも、インビボでも、炭素原子がsp又はsp混成しているC−I結合より安定で、したがって、代謝されたり、脱ヨウ素化されたりしにくいからである。123Iが結合したフェニル基が、さらに、1以上の「活性化基」を含む場合は、化合物はさらに脱ヨウ素化されやすいので、したがって、本発明の安定剤組成物は、特段に有用である。「活性化基」(X)の例は、−OH及び−NHから選ぶことができる。
【0033】
「安定剤」という用語は、反応性の高いフリーラジカル、例えば、水の放射線分解の際に生じる酸素含有フリーラジカルを捕捉することによって、分解反応、例えば酸化還元のプロセスを阻害する化合物のことをいう。本発明の安定剤は、ゲンチシン酸(すなわち2,5−ジヒドロキシ安息香酸)及びその生体適合性陽イオンとの塩から選択することが適当である。
【0034】
【化4】

本発明の安定剤は、123I標識合成化合物の放射線分解を安定化させるのに有効な量を含有させる。このことは、安定剤が主たる安定化の手段であって、他の安定剤を含有させることもできるものの、ゲンチシン酸安定剤が安定化の主要な手段であり、すなわち、それ以外の安定剤は、いずれも、それ自体で安定化を実現する効果はない量を含有させるということを意味している。放射性医薬品組成物には、ゲンチシン酸安定剤のみを安定剤として含有させることが好ましい。ゲンチシン酸安定剤は、0.02〜1.0%(w/v)の濃度で使用することが適当であり、0.03〜0.4%の濃度で使用することが好ましく、0.05〜0.2%の濃度で使用するのが特に好ましく、0.1%で使用するのが最も好ましい。ゲンチシン酸の濃度を上昇させると、組成物のpHが下がる傾向があるので、安定剤の濃度が高い場合には、pHの調整又は緩衝液の使用が必要となる場合もある。
【0035】
「生体適合性陽イオン」という用語は、イオン化した負に荷電した基とともに塩を形成する正に荷電した対イオンであって、この正に荷電した対イオンが、毒性がなく、哺乳動物、特にヒトの体内に投与するのに適しているもののことをいう。適当な生体適合性陽イオンの例としては、アルカリ金属であるナトリウム又はカリウム、アルカリ土類金属であるカルシウム及びマグネシウム、並びにアンモニウムイオンを挙げることができる。生体適合性陽イオンは、ナトリウム及びカリウムが好ましく、ナトリウムが特に好適である。本発明の安定剤としては、ゲンチシン酸及びゲンチシン酸ナトリウムが好ましく、これらは、単独で使用することも、組み合わせて使用することもできる。
【0036】
「生体適合性担持溶媒」 は、流体、特に液体であって、この溶媒に、標識合成化合物を懸濁又は溶解させて、生理学的に許容される、すなわち、哺乳動物の体内に毒性や不必要な不快感を示すことなく投与できる組成物を形成する。生体適合性担持溶媒は、注射可能な液状担体、例えば滅菌パイロジェンフリー注射用水、塩類溶液のような水溶液(注射剤用の最終生成物が、等張液又は非高張液となるよう調整することが望ましい)又は一種以上の張性調整用物質(例えば、血漿の陽イオンの生体適合性対イオンとの塩)、糖(例えば、グルコース又はスクロース)、糖アルコール(例えば、ソルビトール又はマンニトール)、グリコール(例えばグリセロール)又は他の非イオン性ポリオール物質(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、など)の水溶液とするのが適当である。生体適合性担持溶媒は、生体適合性有機溶剤、例えばエタノールを含むものとすることもできる。こうした有機溶剤は、親油性の度合いの高い化合物や製剤を可溶化するうえで有用である。生体適合性担持溶媒は、パイロジェンフリーの注射用水、等張塩類溶液又は水性エタノール溶液とすることが好ましい。こうした水性エタノール溶液は、各種の組成とすることができるが、最終組成物は、エタノールを5〜10%とするのが好適である。上述したように、静脈内注射用の生体適合性担持溶媒は、pH4.0〜10.5の範囲とするのが適当である。本発明の123I標識放射性医薬品には、生体適合性担持溶媒は、pH4.5〜8.5とするのが適当であり、pH4.6〜8.0とするのが好ましく、pH5.0〜7.5とするのが特にこ好ましい。
【0037】
123I標識放射性医薬品が123I−IBZMの場合には、生体適合性担持溶媒は、5〜10%のエタノールと残部の緩衝水溶液の混合溶剤溶液とすることが好ましい。123I−IBZM用の生体適合性担持溶媒として最も好適なのは、8%エタノールと92%緩衝水溶液のものである。
【0038】
溶媒中の123Iの放射能濃度(RAC)は、8〜1000MBq/cmの範囲が適当であり、18〜500MBq/cmの範囲が好適である。RACが高いほど、放射線分解の危険性が高く、したがって、本発明の有効な安定剤の重要性が高い。通常のかたちで実施した場合、製造時のRACが最大で、放射能が減衰するため、RACも、処方、試験、梱包、顧客への配送の各段階では、相当程度低減しているわけである。
【0039】
本発明の放射性医薬品組成物は、滅菌状態を十分保ちつつ、皮下針で単回又は複数回穿刺するのに適した封止部材(例えば、圧着された隔膜封止部材)を備えた臨床等級のシリンジ又は容器に入れて供給することが適当である。こうした容器は、患者の一回分の用量(「単位用量」)又は複数回分の用量の入るものとすることができる。適当な容器としては、滅菌状態及び/又は放射能に関する安全性を十分保持しつつ、シリンジによる薬液を出し入れも可能な密封容器を挙げることができる。こうした容器として好適なのは、気密な封止部材が、オーバーシール(通常はアルミニウム製)とともに圧着されている隔膜封止バイアルである。こうした容器には、上部空間の気体の交換や溶液の脱気を行うために必要に応じて内部を減圧しても、そうした減圧に耐えることができるという利点もある。
【0040】
放射性医薬品を、複数回分が入る容器で供給する場合、好適な容器としては、複数の患者に投与するのに十分な量の放射性医薬品が入るシングルバルクバイアル(例えば容積10〜30cm)を挙げることができる。この場合、バイアルに入った製剤の使用可能な期限内の任意の各種の時点で、臨床の状況に応じて、患者の1回分の用量を臨床等級のシリンジに吸入する。
【0041】
したがって、ヒトの単回分の用量、すなわち「単位用量」を封入するよう設計された放射性医薬品のシリンジは、ディスポーザブルなシリンジ、あるいは、他の臨床用途のシリンジとすることが好ましい。こうしたシリンジは、必要に応じて、作業者を放射線被曝から保護するためのシリンジシールドを備えたものとすることもできる。こうした放射性医薬品シリンジとして適当なものは、当業界で公知であり、各種のデザインのものが市販されている。鉛又はタングステンを含むものが好適である。
【0042】
放射性医薬品組成物は、必要に応じて、さらに別の成分、例えば、抗菌保存剤、pH調整剤、充填剤などを含むこともできる。「抗菌保存剤」という用語は、有害な可能性のある細菌、酵母、カビなどの微生物の成長を抑制する物質のことである。抗菌保存剤は、用量によっては、ある程度、殺菌剤としての特性を示してもよい。本発明の抗菌保存剤の主要な役割は、放射性医薬品組成物中のそうした微生物すべての成長を抑制することである。適当な抗菌保存剤としては、パラベン類、すなわち、メチル、エチル、プロピル、またブチルパラベン又はそれらの混合物、ベンジルアルコール、フェノール、クレゾール、セトリミド及びチオメルサールを挙げることができる。好適な抗菌保存剤は、パラベンである。
【0043】
「pH調整剤」 という用語は、放射性医薬品組成物のpHを、確実に、ヒト又は哺乳動物に投与する際の許容範囲内(pH約4.0〜8.5)とするうえで有用な化合物又は化合物の混合物のことを意味するものである。適当な、pH調整剤としては、製薬学的に許容しうる緩衝液、例えば、トリシン、リン酸緩衝液又はTRIS[すなわち、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン]、並びに製薬学的に許容しうる塩基、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム又はそれらの混合物を挙げることができる。123I−IBZMについては、好適な緩衝液は、リン酸緩衝液である。
【0044】
「充填剤」という用語は、製品の製造時に材料の取り扱いを容易にしうるような製薬学的に許容しうる増量剤のことをいう。適当な充填剤としては、無機塩、例えば塩化ナトリウム及び水溶性の糖又は糖アルコール、例えばスクロース、マルトース、マンニトール、あるいはトレハロースを挙げることができる。
【0045】
ゲンチシン酸及びその塩、例えば、ゲンチシン酸ナトリウムは、多くの供給業者から市販されている。
【0046】
本発明の放射性医薬品は、無菌的な製造条件で製造することによって、所望の滅菌されたパイロジェンフリー製品を得ることができる。また、非滅菌状態で製造しておいてから、最後に、ガンマ線の照射、蒸気滅菌、乾熱滅菌、膜による濾過(滅菌濾過と称されることもある)、化学的処理(例えばエチレンオキサイドを用いた処理)などによって滅菌を行うこともできる。本発明の放射性医薬品組成物は、後述する第三の形態のようにして製造することが好ましい。123I標識合成化合物は、前駆体から製造するのが適当である。この「前駆体」は、合成化合物の非放射性の類似体であって、その化学構造内に(Y)を含んでいて、適当な化学様態の123I 放射性同位元素との化学反応が、このYで生じるようなものとするのが適当であり、この化学反応が、最小限の工程数(理想的には、1工程)ですみ、有意な精製工程を必要とせずに(理想的には、それ以上精製を行わずに)所望の放射性生成物を得ることができるものとすることが適当である。この前駆体は、合成物であるため、良好な化学純度で得られ、好都合である。適当な前駆体及びその製造方法は、Bolton, J.Lab.Comp.Radiopharm., 45, 485−528(2002)に記載されている。
【0047】
123I源は、ヨウ化物イオン及びヨードニウムイオン(I)から選択する。化学様態としては、通常、標識合成時に酸化性物質によって求電子性の化学種に転化されるヨウ化物イオンが好ましい。
【0048】
前駆体は、ゲンチシン酸安定剤を含まない組成物とするのが好ましい。好適な前駆体としては、Yが、求電子性又は求核性ヨウ素化を生じる誘導体又は標識ずみのアルデヒド又はケトンと縮合する誘導体を含むものを挙げることができる。第一のカテゴリーの例としては、下記のものを挙げることができる。
【0049】
(a)有機金属誘導体、例えば、トリアルキルスタンナン(例えば、トリメチルスタニル又はトリブチルスタニル)又はトリアルキルシラン(例えば、トリメチルシリル)、
(b) 活性化して求電子性ハロゲン化した芳香環(例えば、フェノール化合物)、及び活性化して求核性ハロゲン化した芳香環(例えば、アリールヨードニウム、アリールジアゾニウム、ニトロアリール)。
【0050】
Yは、非放射性ハロゲン原子前駆体、例えば、アリールヨウ化物又は臭化物(放射性ヨウ素との交換を行う)、活性化アリール環前駆体(例えば、フェノール基)、有機金属化合物前駆体(例えば、トリアルキル錫又はトリアルキルシリル)又は有機物前駆体、例えばトリアジン又は求核性置換用の良好な脱離基、例えばヨードニウム塩を含むことが適当である。123Iの導入方法は、Bolton [J.Lab.Comp.Radiopharm., 45, 485−528(2002)]に記載されている。放射性ヨウ素を付加させることのできるアリール基前駆体(Y)の適当な例としては、以下のものを挙げることができる。
【0051】
【化5】

これらは、いずれも、放射性ヨウ素による芳香環の置換が容易な置換基を含んでいる。もっと別の放射性ヨウ素を含む置換基は、例えば、放射性ハロゲンによる交換を介しての直接的なヨード化によって合成することができる。
【0052】
【化6】

「前駆体」は、必要に応じて、固相担体マトリクスに共有結合させることもできる。こうすると、所望の放射性医薬品が溶液中に形成されるのに対し、出発物質と不純物は、固相に結合したままとなる。したがって、カートリッジを含むキットを用意し、このカートリッジを、対応する適当な自動合成装置に挿入できるようにしておくことも可能である。カートリッジは、固相担体に結合させた前駆体の他に、不要な放射活性ヨウ化物イオンを除去するためのカラム、反応混合物を蒸発させて、生成物を必要に応じて処方できるようカートリッジに接続した適切な容器を備えるものとしてもよい。合成に必要な反応物質、溶剤、他の消耗品も、放射能濃度、容量、送達時間などについて顧客の要求にあったかたちで合成装置を運転できるようにするソフトウェアを収載したCDとともに、キットに含めることができる。キットの構成要素は、すべて、ディスポーザブルなものとして、各回ごとに汚染が生じる可能性を低減し、滅菌状態及び品質を確保するのが好都合である。
【0053】
本発明の第二の態様では、第一の形態のゲンチシン酸安定剤の、生体適合性担持溶媒への溶液を含む、滅菌した安定剤の原液を提供する。この溶液は、酸素ガスを除去した環境に保持されている。
【0054】
「生体適合性担持溶媒」と、その好適な態様については、第一の形態に記載したとおりである。
【0055】
「酸素ガスを除去した環境」という表現は、酸素のレベルを絶対的制定レベルに保つべく適切な処置を講じたことを意味する。
【0056】
(a)安定剤が溶液の場合には、酸素ガスを溶液から排除し、溶液の上部空間を酸素を含まない状態に保つ処置を講じる。これは、環境が、溶液そのものと、溶液が接触する気体雰囲気の双方を含むからである。
【0057】
(b)安定剤溶液を調製するときには、酸素を含まない溶液と、反応容器を使用する。
【0058】
(c)安定剤が固体状態の場合には、固体の周囲を、酸素を含まない雰囲気に保つ。
【0059】
酸素ガスの除去は、生体適合性担持溶液を、化学的に非反応性のガスで長時間にわたって置換して、溶存酸素をすべて排除する方法、生体適合性担持溶液を化学的に非反応性のガスとともに凍結融解して脱気する方法、非反応性のガスを雰囲気として使用しつつ凍結乾燥する方法など、当業界で公知の各種の方法によって実施することができる。
【0060】
ゲンチシン酸の安定剤を従来技術にしたがって使用した場合に見られることのある褐色の変色の問題については、本発明の発明者らは、ゲンチシン酸が酸化される際にキンヒドロン複合体が形成されるためだと考えている。[T.J. Holmes et al, J. Org. Chem., 49, 4736−4738(1984)]
「化学的に非反応性のガス」という用語は、当業界で公知の「不活性雰囲気」を実現するために化学において用いられる気体のことである。こうした気体は、(例えば、酸素や水素のように)容易に酸化又は還元されることはないし、(例えば塩素のように)有機化合物と各種の化学反応を生じることもない。したがって、こうした「化学的に非反応性のガス」は、多岐にわたる合成化合物とともに使用することができ、長期(長時間、場合によっては、何週間にもわたる)保存時にも、気体と接触している合成化合物と反応を生じることがない。こうした気体として適当なものとしては、窒素又は不活性ガス、例えばヘリウム又はアルゴンを挙げることができる。化学的に非反応性のガスは、好ましくは窒素又はアルゴンである。特に好ましくは、化学的に非反応性のガスは、空気より重く、安定剤組成物をブランケット状態で包みこむことのできるものである。したがって、化学的に非反応性のガスとして好適なのは、アルゴンである。酸素を除去ずみの溶液に再度酸素ガスが侵入することがないよう、安定剤上部の空間に加圧した非反応性ガスを充填するか、あるいは、安定剤を(上述のように)気密容器に入れて、上部の空間に化学的に非反応性のガスを充填する。製薬用途の等級の化学的に非反応性のガスは、市販されている。
【0061】
安定剤の原液として好適な生体適合性担持溶媒は、静脈経由の投与に適したpHの水溶液を含むものである。水溶液として好適なのは、緩衝液であり、特に好適なのは、リン酸緩衝液である。放射性医薬品が、123I−IBZMの場合、緩衝液を加えた原液は、pH5〜8とするのが適当であり、pH5.4〜7とするのが好ましく、pH5.7〜6.3とするのが特に好ましい。上述のように、ゲンチシン酸溶液には、変色しやすいという問題がある。本発明では、適切な処置を講じて、環境内の酸素ガスを減らせば、1年以上保存しても変色しない滅菌ゲンチシン酸の水性緩衝液への溶液を調製できることを見いだした。原液は、非滅菌条件で調製し、最後に、例えばγ線の照射、蒸気滅菌、乾熱滅菌、化学的処理(例えばエチレンオキサイドを用いた処理)などを使用して滅菌することができる。原液は、また、無菌的な製造条件で製造して、所望の滅菌されたパイロジェンフリーの製品を製造することもできる。滅菌原液は、最後に滅菌することによって製造するのが好ましく、蒸気滅菌を用いることがさらに好ましい。こうした蒸気滅菌では、121℃を超える温度で蒸気加熱が行われ、こうした条件では、望ましくない化学反応が生じることも十分考えられる。安定剤として、ゲンチシン酸でなくアスコルビン酸を用いた場合、アスコルビン酸は、緩衝液中での、こうした加熱滅菌には耐えられない。したがって、こうした条件のもとでも、ゲンチシン酸が変色しないことは、予想外である。一方、酸素を除去せずにゲンチシン酸溶液の蒸気滅菌を行った場合には、目に見える変色が進行し、褐色の溶液が得られ、この溶液は、時間の経過とともに、色が濃くなる。
【0062】
原液は、放射性医薬品について上述したように、密封容器に入れて使用する。ゲンチシン酸の原液は、無酸素溶媒への溶液とするのが、変色の問題なしに使用できるため、123I標識放射性医薬品の安定剤として、はるかに有用かつ汎用性がある。したがって、本発明の滅菌安定剤溶液は、無色又はほぼ無色であり、これは、ゲンチシン酸の酸化生成物、特にキンヒドロンを含まないためである。調製後、ゲンチシン酸の原液は、暗所で2〜8℃で保存することが好ましく、これは、こうした保存状態が変色防止に役立つからである。
【0063】
非放射性の原液には、前もって、調製、検定、品質管理を行っておいて、滅菌状態で保存し、異なる時刻及び/又は日に、異なるバッチの123I標識放射性医薬品を製造する際に使用できるという利点がある。こうすれば、各バッチごとに時間をかけて製造する必要がなくなり、このことは、当該製品の半減期が13.2時間であることからも、重要である。原液中でのゲンチシン酸の濃度は、HPLCなどの標準的な方法で調べることができる。
【0064】
本発明の第三の態様では、第一の形態の安定化放射性医薬品組成物の製造方法を提供する。この方法は、以下の滅菌溶液:
(i)第一の形態の123I標識合成化合物の生体適合性担持溶媒への溶液、及び
(ii)第二の形態のゲンチシン酸原液の一部
を混合する工程を含み、
得られた混合溶媒中の123I標識放射性医薬品生成物の放射能濃度が8〜1000MBq/cmの範囲であり、得られた放射性医薬品組成物中の生体適合性担持溶媒のpHが、4.5〜8.5の範囲である。
【0065】
(i)及び(ii)で用いる「生体適合性担持溶媒」は、同じものを用いても、異なるものを用いてもよく、第一及び第二の形態、並びにその好適な側面に関して上述した通りである。したがって、工程(i)で、溶媒として100%エタノールを用い、これを、工程(ii)で緩衝水溶液で希釈して、最終エタノール性緩衝水溶液組成物とすることができる。放射性医薬品が123I−IBZMの場合、溶液(i)の溶剤は、エタノールとすることが好ましく、溶液(ii)の溶剤は、リン酸緩衝液とし、最終組成物のエタノール含量が5〜10%となるようにすることが好ましい。安定剤の好適な形態は、第一の形態に上述した通りである。安定剤の原液(ii)の、適切な安定剤濃度などの他の側面については、第二の形態に関して述べた通りである。
【0066】
なお、123I標識合成化合物は、前もって調製し、精製して不純物(例えば過剰な反応物質など)を除去しておいてから、ゲンチシン酸安定剤との混合を実施することが好ましい。これは、放射性同位元素源として、123Iをヨウ化物から導入する方法では、大抵、酸化剤を使用するためである。ゲンチシン酸は還元剤であり、その結果、放射標識を妨害したり、望ましくない酸化還元反応生成物や変色を生じたりする可能性もある。
【0067】
安定剤を導入するタイミングは、123I標識化合物の製造後のなるべく早い時点で安定剤を混合するようにすべきであり、これは、123I標識合成化合物が安定剤なしに溶液中に存在する時間が長くなればなるほど、放射線分解の危険性が高くなるからである。123I標識化合物が精製ずみで、生体適合性溶媒(例えばエタノール)に溶解されている場合には、この点は、さほど必須ではない。というのも、精製化合物が、100%有機溶剤の溶媒に溶解している場合には、比較的安定だからである。
【0068】
安定剤の溶液[溶液(ii)]は、酸素ガスが除去された環境で提供することが好ましい。酸素ガスを除去する方法については、上記の第二の形態について記載した通りである。溶液(i)と放射性医薬品製品も、必要に応じて、酸素ガスが除去された環境に保つことが好ましいが、この点は、溶液(ii)の場合にのみ、極めて重要である。
【0069】
本発明の第四の態様では、第一の形態に記載した123I標識合成化合物の生体適合性担持溶媒への溶液であって、溶媒中の123Iの放射能濃度が8〜1000MBq/cmの範囲であり、生体適合性担持溶媒のpHが、4.5〜8.5の範囲である溶液の放射線分解を安定化させるにあたっての、ゲンチシン酸又はその生体適合性陽イオンとの塩の安定剤としての使用を提供する。
【0070】
安定剤、合成化合物及び生体適合性担持溶媒の好適な側面は、第一の形態について上述したとおりである。
【0071】
この使用は、放射性医薬品としてヒトに投与するのに適した状態、すなわち上述ような滅菌状態の水溶液とするのに、特に有用である。
【実施例】
【0072】
本発明を、以下の実施例によって、さらに詳述するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。アスコルビン酸で安定化した123I−IBZMは、オランダのGEヘルスケアから市販されている。実施例1では、ゲンチシン酸による123I−IBZMの安定化を、従来技術の安定剤であるアスコルビン酸の場合と比較する。その結果、ゲンチシン酸を用いた場合には、使用時の放射性医薬品製剤の主要な放射化学的不純物(すなわち、遊離123I標識ヨウ化物)が、約4〜5%から2〜3%へとほぼ半減した。123I標識ヨウ化物は、血液脳関門を通過することはないものの、こうした改善によって、患者に投与される放射化学的不純物が低減する。
【0073】
実施例2は、0.06〜0.34%(w/v)の濃度範囲では、ゲンチシン酸が有効な安定剤であり、0.13〜0.34%(w/v)の範囲では、極めて似た結果が得られることを示す。実施例3は、121℃でのオートクレーブ(すなわち蒸気)滅菌工程によって滅菌したゲンチシン酸原液が、123I−IBZMに対する安定剤として、有効であることを示す。実施例4及び図1は、123I−IBZMの安定化に関しては、ゲンチシン酸安定剤の安定効果が飽和する濃度があることを示す。実施例5は、ゲンチシン酸が123I標識MIBGの安定化にも効果があり、ベンジルアルコールよりはるかに低い濃度で効果が得られることが示す.
実施例1:ゲンチシン酸(GA)対アスコルビン酸(AA)による、123I−IBZMの安定化
123I−IBZMは、Bobeldijkら[J.Lab.Comp.Radiopharm., 28, 1247−1256(1990)]の方法によって調製した。123I−IBZM溶液の小系列の調製を、各バイアルに、200μlの123I−IBZMのEtOH溶液(925MBq/cm)を加え、その後、必要に応じて安定剤を含む2.3mlのリン酸緩衝水溶液を、エタノール含量が8%となり、キャリブレーション時点での放射能濃度が74MBq/cm(2mCi/ml)となるように加えることによって行った。
【0074】
各バイアルを周囲温度で保存し、放射化学的純度(RCP)を、リン酸緩衝液による希釈時と、その後24時間及び48時間が経過した時点で、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって測定した。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

実施例2: 123I−IBZMの安定化に対する、ゲンチシン酸の濃度の影響
123I−IBZMのEtOH溶液を、実施例1と同様の手順で調製した。123I−IBZM溶液の小系列の調製を、各バイアルに、120μlの123I−IBZMのEtOH溶液(925MBq/cm)を加え、その後、1.38mlの安定剤含有リン酸緩衝水溶液を、エタノール含量が8%となり、キャリブレーション時点での放射能濃度が74MBq/cm(2mCi/ml)となるように加えることによって行った。各バイアルを周囲温度で保存し、RCPを、リン酸緩衝液による希釈後24時間及び46時間の時点で、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって測定した。結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

実施例3:ゲンチシン酸を用いた123I−IBZMの安定化に対する滅菌原液の影響
表に示す安定剤の原液を調製し、アルゴンガスで置換し、アルゴン中で、テフロン(登録商標)コーティングしたゴム栓を装着した、隔膜封止バイアル中に封入した。溶液は、121℃で15分間上記滅菌することによって滅菌し、その後、周囲温度まで冷却させてから使用した。
【0077】
123I−IBZM溶液の小系列の調製を、各バイアルに、123I−IBZMのEtOH溶液(925MBq/cm)を加え、その後、下記の表3に示す1.38mlの安定剤含有リン酸緩衝水溶液を、エタノール含量が8%となり、キャリブレーション時点での放射能濃度が74MBq/cm(2mCi/ml)となるように加えることによって行った。各バイアルのRCPを、調製の3時間後及び室温で51時間の保存後に測定した。
【0078】
【表3】

実施例4: 123I−IBZMの安定化に対する原液中のゲンチシン酸の濃度の影響
工程(a):ゲンチシン酸溶液
リン酸緩衝液(300ml)を各50mlの6本のバイアルに分け、0%、0.024%、0.050%、0.10%、0.20%及び0.39%の濃度(w/v)に相当する量のゲンチシン酸をそれぞれ加えた。pHをチェックし、必要に応じてNaOHを加えて調整し、pHを5.8(±0.1)とした。バイアルは、テフロン(登録商標)コーティングしたゴム栓をして、121℃で15分間滅菌した。
【0079】
工程(b)123I−IBZM溶液
123I−IBZMのエタノール溶液(活性濃度(REF):925MBq/ml(25mCi/ml))を6本のバイアルに分け、それぞれに、工程(a)で調整した6本のゲンチシン酸の緩衝液を加え、合計活性分が185MBq(5mCi)、RACが74MBq/ml(2mCi/ml)、エタノール含量が8%の最終溶液を得た。バイアルは、テフロン(登録商標)コーティングしたゴム栓をして、室温で保存した。RCPを、EOS後の各時点で測定した。代表的な結果を図1に示す。
【0080】
実施例5: リン酸緩衝液中でのゲンチシン酸の123I標識mIBGに対する安定化効果
123I標識mIBG溶液(2系列、それぞれバイアル5本)の調製を、各バイアルに、新たに調製した123I標識mIBGの(安定剤なし)のリン酸緩衝液(360MBq/cm)への溶液を加え、その後、下記の表4に示す安定剤含有リン酸緩衝水溶液2.0cmを加え、混合することによって行った。この最終混合物は、加熱滅菌しなかった。1バイアルあたりの合計活性は、185MBqで、RACは74MBq/mlであった。比活性は、mIBG 1gあたり、992GBqであった。バイアルA1〜E1は40℃で保存し、バイアルA2〜E2は20℃で保存した。RCPを、EOS(合成終了時点)並びに、その後3、20及び45時間が経過した時点で測定した。結果を表5に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】この図は、123I−IBZMの安定剤の濃度が、製造後の各時点での放射化学的純度に及ぼす影響を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化放射性医薬品組成物であって、
(i)インビボでの投与時に哺乳動物体内の特定部位をターゲティングする、123Iで標識された合成化合物と、
(ii)上記の123I標識合成化合物の放射線分解を安定化させるのに有効な量のゲンチシン酸又はその生体適合性陽イオンとの塩とを含む安定剤と、
(iii)水性の生体適合性担持溶媒
とを含み、
溶媒中の123Iの放射能濃度が8〜1000MBq/cmの範囲であり、生体適合性担持溶媒のpHが、4.5〜8.5の範囲であり、
ただし、哺乳動物体内の特定部位をターゲティングする合成化合物が、m−ヨードベンジルグアニジンの場合には、生体適合性担持溶媒のpHが5.0〜8.5の範囲である放射性医薬品組成物。
【請求項2】
合成化合物が非ペプチドである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
哺乳動物体内へのインビボでの投与時に、合成化合物が脳又は心臓をターゲティングする、請求項1又は請求項2記載の組成物。
【請求項4】
合成化合物が、生体の受容体、酵素又は生体のトランスポーターをインビボでターゲティングする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
合成化合物がIBZMである、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
123Iが合成化合物のフェニル基又はビニル基に共有結合している、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
フェニル基が、1以上の活性化基(X)(式中のXは、−OH及び−NHから選ばれる)で置換されている、請求項6記載の化合物。
【請求項8】
安定剤として唯一含まれているのがゲンチシン酸又はその生体適合性陽イオンとの塩である、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
安定剤がゲンチシン酸又はゲンチシン酸ナトリウムを含む、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
生体適合性溶媒が水溶液を含むものである、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
組成物が適当なシリンジ又は容器に入った状態で提供される、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
組成物が酸素ガスが除去された環境で提供される、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の組成物。
【請求項13】
溶媒中の安定剤の濃度が0.02〜1.0%(w/v)の範囲である、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の組成物。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載のゲンチシン酸安定剤の生体適合性担持溶媒への溶液を含み、この溶液が、酸素ガスが除去された環境中に保持されている滅菌安定剤原液。
【請求項15】
上部空間が化学的に非反応性のガスで充填された適当なシリンジ又は容器に入った状態で提供される請求項14に記載の原液。
【請求項16】
加熱滅菌法によって滅菌された、請求項14又は請求項15記載の原液。
【請求項17】
無色である請求項14乃至請求項16のいずれか1項記載の原液。
【請求項18】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の安定化放射性医薬品組成物の製造方法であって、以下の滅菌溶液:
(iii)請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の123I標識合成化合物の生体適合性担持溶媒への溶液、及び
(iv)請求項14乃至請求項17のいずれか1項記載のゲンチシン酸原液の一部
を混合する工程を含み、
得られた混合溶媒中の123I標識放射性医薬品生成物の放射能濃度が8〜1000MBq/cmの範囲であり、得られた放射性医薬品組成物中の生体適合性担持溶媒のpHが、4.5〜8.5の範囲である方法。
【請求項19】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の123I標識合成化合物の生体適合性担持溶媒への溶液であって、溶媒中の123Iの放射能濃度が8〜1000MBq/cmの範囲であり、生体適合性担持溶媒のpHが、4.5〜8.5の範囲である溶液の放射線分解を安定化させるにあたっての、ゲンチシン酸又はその生体適合性陽イオンとの塩の安定剤としての使用。
【請求項20】
溶液が、放射性医薬品としてヒトに投与するのに適した形態である請求項19に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−500441(P2009−500441A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520932(P2008−520932)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001215
【国際公開番号】WO2007/007021
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】