説明

13族窒化物結晶粒子およびその製造方法、ならびにこれを用いた蛍光体

【課題】 従来と比較して効率的であり、かつ量産化に適した表面修飾を施し得る13族窒化物結晶粒子の製造方法および得られた13族窒化物結晶粒子、ならびに当該結晶粒子を用いた蛍光体を提供する。
【解決手段】 アミノ基を有する有機化合物にジアルデヒドを反応させて前駆体を得る工程と、前記前駆体に13族元素ハロゲン化物を反応させてカルベン類似構造錯体を得る工程と、前記カルベン類似構造錯体を加熱処理して13族窒化物結晶粒子を得る工程とを含むことを特徴とする、13族窒化物結晶粒子の製造方法、ならびに、13族元素と窒素との結合を含む結晶粒子であって、修飾分子として脂肪族環状炭化水素基、炭素数4以上の鎖状アルキル基、芳香族炭化水素基の少なくともいずれかが前記窒素に化学結合している13族窒化物結晶粒子、それを用いた蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、13族窒化物結晶粒子およびその製造方法、ならびにこれを用いた蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶粒子表面に特定の機能を有する修飾分子を固着させて、結晶粒子の特性向上や新しい機能を付与する技術が知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、基材粒子表面の一部が、メタセシス重合性単量体からなる有機ポリマーで被覆されていることにより、耐溶剤性、分散性、絶縁性などの機能が付与されることが示されている。
【0004】
結晶粒子の応用例として、ナノサイズの半導体粒子がもつ量子サイズ効果によってバンドギャップを制御し、所望の発光色を得るナノ粒子蛍光体が知られている。近年では、安全および環境上の見地、あるいは従来より高効率な発光が期待できることを理由に、13族窒化物半導体を用いたナノ粒子蛍光体の開発が提案されている。
【0005】
ナノ粒子蛍光体の分野においても、表面修飾は新機能の付与や向上のため重要な技術であり、たとえば、特許文献2には、気相あるいはプラズマ中で反応生成された、表面修飾分子を有する13族窒化物半導体ナノ粒子が、有機媒体基材中での分散性および親和性に優れることが示されている。
【特許文献1】特開2003−313459号公報
【特許文献2】特開2004−307679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2の13族窒化物半導体ナノ粒子蛍光材料は、気相あるいはプラズマ中で反応生成されるため、純度が高く粒径分布が狭い。このため、発光特性は均一かつ高効率なものとなる。
【0007】
一方、気相あるいはプラズマ反応によるナノ粒子生成では、原料の利用効率が低く、大型で複雑な製造装置が必要となるため、低コストで大量生産することが難しい。
【0008】
しかし、窒化物半導体の結晶成長は、材料の化学安定性ゆえに高温かつ非平衡な成長条件が不可欠となり、上記の気相あるいはプラズマ反応による製造方法以外には効率的な生産手法が確立されていなかった。さらに、量産化に適した表面修飾の手法についても未確立であった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、従来と比較して効率的であり、かつ量産化に適した表面修飾を施し得る13族窒化物結晶粒子の製造方法および得られた13族窒化物結晶粒子、ならびに当該結晶粒子を用いた蛍光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アミノ基を有する有機化合物にジアルデヒドを反応させて前駆体を得る工程と、前記前駆体に13族元素ハロゲン化物を反応させてカルベン類似構造錯体を得る工程と、前記カルベン類似構造錯体を加熱処理して13族窒化物結晶粒子を得る工程とを含むことを特徴とする、13族窒化物結晶粒子の製造方法である。
【0011】
ここにおいて、前記ジアルデヒドはグリオキサールであることが好ましい。
また、本発明の13族窒化物結晶粒子の製造方法において、前記アミノ基を有する有機化合物は、以下の(1)〜(3)の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0012】
(1)アミノ基を有する脂肪族環状炭化水素(より好適には、シクロへキシルアミン)
(2)アミノ基を有する炭素数4以上の脂肪族鎖状炭化水素(より好適には、ターシャリブチルアミン)
(3)アミノ基を有する芳香族炭化水素(より好適には、2,6−ジイソプロピルアニリン)
本発明の13族窒化物結晶粒子の製造方法において、前記加熱処理は、アンモニア、尿素、ヒドラジンの少なくともいずれかを添加して行われることが好ましい。
【0013】
また本発明の13族窒化物結晶粒子の製造方法において、13族元素ハロゲン化物が13族元素ヨウ化物である場合には、前記加熱処理が400℃以下で行われることが好ましい。
【0014】
本発明はまた、13族元素と窒素との結合を含む結晶粒子であって、修飾分子として脂肪族環状炭化水素基、炭素数4以上の脂肪族鎖状炭化水素基、芳香族炭化水素基の少なくともいずれかが前記窒素に化学結合している13族窒化物結晶粒子を提供する。
【0015】
本発明の13族窒化物結晶粒子において、前記修飾分子が、シクロヘキシル基、ターシャリブチル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0016】
また本発明は、上述した本発明の13族窒化物結晶粒子を用いた蛍光体も提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来と比較して効率的であり、かつ量産化に適した表面修飾を施し得る13族窒化物結晶粒子の製造方法および得られた13族窒化物結晶粒子、ならびに当該結晶粒子を用いた蛍光体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の13族窒化物結晶粒子の製造方法は、〔1〕アミノ基を有する有機化合物にジアルデヒドを反応させて前駆体を得る工程(以下、「前駆体形成工程」と呼称する。)と、〔2〕前記前駆体に13族元素ハロゲン化物を反応させてカルベン類似構造錯体を得る工程(以下、「錯体形成工程」と呼称する。)と、〔3〕前記カルベン類似構造錯体を加熱処理して13族窒化物結晶粒子を得る工程(以下、「結晶粒子形成工程」と呼称する。)とを、含むことを特徴とする。以下、各工程について詳述する。
【0019】
〔1〕前駆体形成工程
まず、前駆体形成工程では、アミノ基を有する有機化合物にジアルデヒドを反応させて前駆体を形成する。本発明において用いられるジアルデヒドとしては、2個のアルデヒド基を有する化合物であれば特に制限されるものではなく、たとえば、グリオキサール(シュウ酸ジアルデヒド)、コハク酸ジアルデヒド、マロン酸ジアルデヒド、グルタルアルデヒド、ジアルデヒドセルロースなどを挙げることができる。中でも、13族元素へ配位しやすく、後述する〔2〕錯体形成工程における錯体の収率が最も高いことから、グリオキサールをジアルデヒドとして用いることが好ましい。
【0020】
また本発明において用いられるアミノ基を有する有機化合物としては、特に制限されるものではなく、アミノ基を有する脂肪族環状炭化水素、アミノ基を有する炭素数4以上の脂肪族鎖状炭化水素、アミノ基を有する芳香族炭化水素、アミノ基を有する有機金属化合物、アミノ基を有する有機ハロゲン化物、アミノ酸などを用いることができる。中でも、結晶粒子の粒径制御を容易とする観点からは、比較的分子量が大きく、さらには嵩高いものが好適であることから、アミノ基を有する脂肪族環状炭化水素、アミノ基を有する炭素数4以上の脂肪族鎖状炭化水素またはアミノ基を有する芳香族炭化水素を用いるのが好ましい。
【0021】
アミノ基を有する脂肪族環状炭化水素は、飽和、不飽和のいずれであってもよく、具体的には、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロペンチルアミン、シクロオクチルアミン、シクロドデシルアミンなどを挙げることができる。また、アミノ基以外の置換基(たとえばアルキル基、アルキレン基、イミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基など)をさらに含む脂肪族環状炭化水素を用いてもよい。上記中でも、分子量の大きい化合物が反応性が高く、また反応の安定性も高い観点から、シクロヘキシルアミンが特に好ましい。
【0022】
アミノ基を有する炭素数4以上の脂肪族鎖状炭化水素は、直鎖状であっても分子鎖状であってもよく、また飽和、不飽和のいずれであってもよい。なお、アミノ基を有し、炭素数が3以下の脂肪族鎖状炭化水素を用いると、反応性が低いため、錯体合成反応が進みにくいという不具合がある。また、反応性が高くなりすぎると製造工程の危険性が増し、またコストも高くなることから、アミノ基を有する脂肪族鎖状炭化水素は炭素数が12以下のものを用いることが好ましい。
【0023】
アミノ基を有する炭素数4以上の脂肪族鎖状炭化水素は、具体的には、ノルマルブチルアミン、イソブチルアミン、ターシャリブチルアミン、ノルマルペンチルアミン、イソペンチルアミン、ヘキシルアミン、ステアリルアミン、オクチルアミン、ジアミノヘキサン、ジアミノペンタン、ジアミノブタン、ジベンジルアミン、ジイソプロピルアミンなどを挙げることができる。また、アミノ基以外の置換基(たとえばアルキル基、アルキレン基、イミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基など)をさらに含む炭素数4以上の脂肪族環状炭化水素を用いてもよい。上記中でも、反応安定性の観点から、ターシャルブチルアミンが特に好ましい。
【0024】
アミノ基を有する芳香族炭化水素は、具体的には、アニリン、メチルアニリン、ジメチルアニリン、トルイジン、キノリン、アミノインダン、アニシジン、フェネチジンなどを用いることができる。また、アミノ基以外の置換基(たとえば、アルキル基、アルキレン基、イミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基など)をさらに含む芳香族炭化水素を用いてもよい。上記中でも、分子量の大きい化合物が反応性が高く、また反応安定性も高い観点から、2,6−ジイソプロピルアニリンが特に好ましい。
【0025】
当該前駆体形成工程では、ジアルデヒドとアミノ基を有する有機化合物とを、好ましくは1:1〜1:10(物質量比)、より好ましくは1:2〜1:5(物質量比)となるように反応させるの好ましい。ジアルデヒド:アミノ基を有する有機化合物=1:1未満であると、ジアルデヒドが過剰となり、反応が阻害されやすい傾向にあるためであり、またジアルデヒド:アミノ基を有する有機化合物=1:10を超えると、アミノ基を有する有機化合物が過剰となり、反応が阻害されやすい傾向にあるためである。
【0026】
当該前駆体形成工程における反応条件は、用いる材料の組み合わせ、原料の総量、用いる反応容器の大きさや材質などによって適宜設定できるが、好ましくは−10〜25℃、より好ましくは0〜10℃の温度範囲で反応を行う。温度が−10℃未満であると、反応が進みにくい傾向にあるためであり、また温度が25℃を超えると、反応が過剰に進み、また原材料が揮発しやすい傾向にあるためである。また反応時間は、通常、3〜24時間程度である。
【0027】
当該工程で得られた前駆体は、いずれもイミド結合を有するキレート配位子を形成する。以下に、たとえば、グリオキサールとシクロヘキシルアミンを反応させた場合の反応スキームを例示する。
【0028】
【化1】

【0029】
〔2〕錯体形成工程
続く〔2〕錯体形成工程では、上述した〔1〕前駆体形成工程で得られた前駆体に、13族元素ハロゲン化物を反応させる。ここで、「13族元素」は、B、Al、Ga、In、Tlを含む、IIIB族とも呼称される元素を指す。また、「13族元素ハロゲン化物」は、上記13族元素のハロゲン化物を指し、具体的には、BF3、GaF3、GaF、InF3、InF、AlF3、TlF3、TlF、BCl3、GaCl3、GaCl、InCl3、InCl、AlCl3、TlCl3、TlCl、BBr3、GaBr3、GaBr、InBr3、InBr、AlBr3、TlBr3、TlBr、BI3、GaI3、GaI、InI3、InI、AlI3、TlI3、TlIなどを挙げることができる。中でも、反応の安定性、原材料のコストおよび合成する13族窒化物結晶の工業的有用性の観点から、GaCl3、InCl3、AlCl3、GaI、InI、AlI3を13族元素ハロゲン化物として用いるのが好ましい。
【0030】
当該錯体形成工程では、前駆体と13族元素ハロゲン化物とを、好ましくは1:1〜1:10(物質量比)、より好ましくは1:2〜1:5(物質量比)となるように反応させるの好ましい。前駆体:13族元素ハロゲン化物=1:1未満であると、13族元素ハロゲン化物が過剰となり、反応が阻害されやすい傾向にあるためであり、また前駆体:13族元素ハロゲン化物=1:10を超えると、前駆体が過剰となり、反応が阻害されやすい傾向にあるためである。
【0031】
当該錯体形成工程における反応条件は、用いる材料の組み合わせ、原料の総量、用いる反応容器の大きさや材質などによって適宜設定できるが、好ましくは0〜30℃、より好ましくは10〜25℃の温度範囲で反応を行う。温度が0℃未満であると、反応が進みにくい傾向にあるためであり、また温度が30℃を超えると、反応が過剰に進み、また原材料が揮発しやすい傾向にあるためである。また反応時間は、通常、3〜24時間程度である。
【0032】
前駆体に、上述した13族元素ハロゲン化物を反応させることで、カルベン類似構造錯体が形成される。以下、、グリオキサールとシクロヘキシルアミンを反応させて得られた前駆体に、三塩化ガリウム(GaCl3)を反応させた場合の反応スキームを示す。
【0033】
【化2】

【0034】
ここで、本明細書中における「カルベン類似構造錯体」とは、下記で示されるように、キレート配位子の窒素原子が13族元素に2座配位した、カルベン錯体に類似した構造を有する錯体と定義される。
【0035】
【化3】

【0036】
〔3〕結晶粒子形成工程
続く、〔3〕結晶粒子形成工程では、上述した〔2〕錯体形成工程で得られたカルベン類似構造錯体を加熱処理して、13族窒化物結晶粒子を得る。当該工程における加熱処理は、200〜500℃の温度範囲内で行うのが好ましく、250〜450℃の温度範囲内で行うのがより好ましい。加熱温度が200℃未満であると、結晶化が十分に促進されない傾向にあり、また加熱温度が500℃を超える場合には、錯体のカルベン骨格が破壊しやすくなり、所望の化学反応が促進しない傾向にあるためである。なお、13族元素ハロゲン化物としてヨウ化物を用いた場合には、反応性が高く、カルベン骨格が破壊される虞があるため、400℃以下(より好ましくは200〜300℃)で加熱処理を行うのが好ましい。また、加熱処理はオートクレーブなどを用いて加圧状態で行ってもよい。
【0037】
当該結晶粒子形成工程では、窒素の欠損を補うため、窒素含有化合物を添加して上記加熱処理を行うのが好ましい。窒素含有化合物としては、たとえば、アンモニア、尿素、ヒドラジン、窒素を含む置換基(たとえば、アミノ基、イミノ基、ニトロ基など)を有する有機化合物、アゾ化合物などが挙げられ、中でも反応の安定性および原材料のコストの点から、アンモニア、尿素またはヒドラジンを添加するのが好ましい。
【0038】
窒素含有化合物の添加量としては特に制限されるものではないが、カルベン類似構造錯体と窒素含有化合物とが、1:0.01〜10(物質量比)であるのが好ましく、1:0.1〜1(物質量比)であるのがより好ましい。カルベン類似構造錯体:窒素含有化合物=1:0.01未満であると、窒素欠損の補完効果に乏しい傾向にあるためであり、また。カルベン類似構造錯体:窒素含有化合物=1:10を超えると、材料利用効率が悪い、窒素化合物が過剰となって反応が阻害されるなどのほか、反応容器の腐食が進みやすい傾向にあるためである。
【0039】
当該結晶粒子形成工程では、上述した〔2〕錯体形成工程で得られたカルベン類似構造錯体を加熱処理することにより、13族元素と窒素との結合が生じ、13族窒化物結晶粒子が微粒子として析出する。ここで、カルベン類似構造錯体は高い反応性を有するため、気相成長に比べて低温で13族窒化物結晶粒子を合成できるという利点がある。また、カルベン類似構造錯体は、GaとNとの配位結合を有するため、従来の気相成長と比較して、未反応のまま浪費される原料の割合が格段に少ないという利点もある。
【0040】
また、本発明においてキレート残基となる、アミノ基を有する有機化合物由来の脂肪族環状炭化水素基、炭素数4以上の脂肪族鎖状炭化水素基、芳香族炭化水素残基などは、窒化物結晶形成時に粒子径を制御する機能を有しており、分子量が大きく嵩高い残基は、13族窒化物の結晶の増大を阻害するため、粒子径を小さく保つことができるという利点がある。また、分子量が大きい残基は、化学反応を促進させるので低温でも結晶化が生じるという利点がある。
【0041】
本発明は、13族元素と窒素との結合を含む結晶粒子であって、修飾分子として脂肪族環状炭化水素基、炭素数4以上の脂肪族鎖状炭化水素基、芳香族炭化水素基の少なくともいずれかが前記窒素に化学結合している13族窒化物結晶粒子も提供する。このような本発明の13族窒化物結晶粒子は、上述した本発明の13族窒化物結晶粒子の製造方法によって製造されたものであっても、それ以外の方法によって製造されたものであってもよいが、上述した本発明の13族窒化物結晶粒子の製造方法によって製造されたものであるのが好ましい。
【0042】
本発明の13族窒化物粒子は、上述したようにB、Al、Ga、In、Tlから選ばれる少なくとも1種である13族元素と、窒素との結合を含む。当該13族元素と窒素との結合は、たとえば赤外吸収(IR、FTIR法)により当該化学結合の振動エネルギを測定する、X線マイクロアナライザ法(EPMA)あるいはX線光電子分光法(XPS)などによりケミカルシフトを測定する、というようにして13族窒化物結晶粒子から確認することができる。
【0043】
また本発明の13族窒化物結晶粒子は、修飾分子として飽和脂肪族環状炭化水素基、炭素数4以上の脂肪族鎖状炭化水素基、芳香族炭化水素基の少なくともいずれかが前記窒素に化学結合していることを特徴とする。このような修飾分子は、当該13族窒化物結晶粒子が上述した本発明の13族窒化物結晶粒子の製造方法によって製造されたものである場合には、アミノ基を有する有機化合物由来のキレート残基の一部によって形成される。すなわち、このようなキレート残基は、本発明の13族窒化物結晶粒子が生成した後も結晶粒子の窒素に化学結合していることで、結晶粒子に固着しており、修飾分子として機能する。
【0044】
本発明の13族窒化物結晶粒子は、上記修飾分子が固着してなることで、有機溶媒(たとえば、アセトン、エチルアルコール、メチルアルコール、キシレン、トルエン、イソプロピルアルコール、ポリビニルアルコール、エチレングリコール、ヘキサメチレングリコール)や樹脂(たとえば、エポキシ、アクリル、シリコン、フェノール、ポリカーボネート、ポリプロピレン、メラミン、ポリイミド、ポリアミド)などの有機媒体に対し高い親和性を示す。また、本発明の13族窒化物結晶粒子は、上記修飾分子が固着してなることで、上述した有機溶媒や樹脂への高い分散性を有する。また、上記修飾分子は固着してなることで、13族窒化物結晶粒子が凝集するのが防止されるため、当該結晶粒子をフィラーとして用いる場合には、フィラーの均一性が向上する。
【0045】
本発明の13族窒化物結晶粒子において、前記修飾分子は、シクロヘキシル基、ターシャリブチル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0046】
本発明の13族窒化物結晶粒子は、意図しない不純物を含んでいてもよく、また低濃度であれば、ドーパントとして2族元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)、ZnあるいはSiの少なくともいずれかを意図的に添加していてもよい。濃度範囲は、価電子による電気特性や光物性を制御できる点から、1×1016cm-3〜1×1021cm-3が好ましく、1×1017cm-3〜1×1019cm-3がより好ましい。また、特に好適なドーパントとしては、13族窒化物中で適度な不純物準位エネルギを形成するドナーあるいはアクセプタとなりやすいことから、Mg、Zn、Siが挙げられる。
【0047】
本発明の13族窒化物結晶粒子のうち、13族元素と窒素から構成される部分は、単一の13族元素と窒素からなる単一組成粒子(たとえば、GaN、AlN、InN)であってもよいし、複数の13族元素と窒素とからなる混晶粒子(たとえば、InxGa1-xN、AlxGa1-xN、AlxInyIGazN(ここで、0<x<1、0<y<1、x+y+z=1))であってもよい。さらに、13族元素と窒素との結合を有する層を外側に有し、当該層の内側に異なる組成の材料(たとえば、Ga23やIn23などの13族元素の酸化物粒子や硫化物粒子、ZnOやSiC、ZnSなどの半導体粒子、Ga、In、Al、Au、Pt、Niなどの13族元素あるいはその他の金属粒子)を有する積層構造を有してもよい。上記積層構造を有する場合、修飾分子は外側の層に含まれる窒素に化学結合していることになる。このような積層構造を有する13族窒化物結晶粒子は、たとえば、錯体形成工程において複数の13族元素にそれぞれ異なる前駆体が配位したカルベン類似構造錯体を形成しておき、これらを結晶粒子形成工程で同じ反応容器に入れて加熱処理すればよい。カルベン構造類似錯体の構造によって最適な反応温度が異なるため、温度制御によって当該積層構造が成長する。あるいは、当該異なる組成の材料微粒子を、当該カルベン類似構造と同じ反応容器に入れて加熱処理すれば、当該異なる組成の材料微粒子を核として結晶粒子形成が進行する。
【0048】
本発明はまた、上述した本発明の13族窒化物結晶粒子を用いた蛍光体も提供する。上述したように本発明の13族窒化物結晶粒子は、窒素と修飾分子とが化学結合してなることによって修飾分子が固着されてなるが、これによって上述した分散性や親和性の向上という効果以外にも、粒子表面の結晶欠陥を被覆するという効果も発揮される。またさらに、修飾分子は、励起光エネルギーを吸収して13族窒化物に移動させる機能も有するため、発光効率が向上する。
【0049】
本発明の蛍光体においては、上述したように本発明の13族窒化物結晶粒子が単一粒子で形成される場合には、13族元素と窒素との結合を有する部分をコアとし、修飾分子をシェルとして機能させることができる。シェルは、2層以上形成されていてもよく、この場合は、内殻側から第1シェル、第2シェル、…と呼称される。この場合、上述した積層構造を有する場合の13族窒化物結晶粒子を、最内の部分をコアとし、修飾分子も含めたそれ以外の部分を外側に向かうにつれて順に各シェルとして機能させることができる。またシェルは内殻を全て包含している必要はなく、またコア以外の層のみに分布があってもよい。
【0050】
当該結晶粒子を用いた蛍光体コアのバンドギャップは、1.8〜2.8eVの範囲になることが好ましく、赤色蛍光体として用いる場合には1.85〜2.5eV、緑色蛍光体として用いる場合には2.3〜2.5eV、青色蛍光体として用いる場合には2.65〜2.8eVの範囲が特に好ましい。シェルのバンドギャップは、コアよりも大きいことが好ましい。なお、上記バンドギャップは、たとえば13族窒化物結晶粒子を、複数の13族元素で構成される混晶粒子とし、13族元素の組成比を変えることで、それぞれ上記範囲内に調整することができる。また上記バンドギャップは、当該結晶粒子を用いた蛍光体が発する発光スペクトルのピーク波長をエネルギに換算することで算出された値を指す。
【0051】
本発明の蛍光体において、13族窒化物結晶粒子の粒径は、0.1nm〜10μmの範囲であることが好ましく、0.5nm〜1μmの範囲が特に好ましく、1〜20nmの範囲がさらに好ましい。13族窒化物結晶粒子の粒径が0.1nm未満であると、バンドギャップが可視発光に相当するエネルギより大きくなり、かつ制御が困難となる傾向にあるためであり、また、13族窒化物結晶粒子の粒径が10μmを超えると、当該蛍光体表面での光散乱が大きくなり、発光効率などの特性の劣化が生じやすい傾向にあるためである。また、本発明の蛍光体において、13族窒化物結晶粒子は、粒径がボーア半径の2倍以下となると量子サイズ効果により光学的バンドギャップが広がるが、その場合でも上述のバンドギャップ範囲にあることが好ましい。勿論、上記2つの制御手段を共に用いて調整してもよい。
【0052】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
<実施例1>
グリオキサール54gとシクロヘキシルアミン81gを、200mlのメタノールに溶解し、0℃に保持して24時間反応させ、下記に示す反応スキームによって、前駆体であるN,N’−ジシクロヘキシルエチレンジイミンを得た。
【0054】
【化4】

【0055】
得られた前駆体5.6gと3塩化ガリウム9gをジクロロメタン150mlに溶解させ、下記に示す反応スキームによって、カルベン類似構造錯体を得た。
【0056】
【化5】

【0057】
得られたカルベン類似構造錯体をベンゼン300mlに溶解させ、オートクレーブを用いて温度430℃、圧力24.2MPaで13時間反応させて加熱処理を行った。反応物を濾過および洗浄して得られた粒子の結晶評価を行ったところ、X線回折パターンより六方晶の窒化ガリウム(h−GaN)であることが確認された。
【0058】
<実施例2>
結晶粒子形成工程において、アンモニア0.5mlを添加した以外は実施例1と同様にして結晶粒子を得た。
【0059】
ピーク波長248nmのKrFエキシマレーザを励起光に用いてフォトルミネッセンススペクトルを測定することで実施例1、2の結晶粒子の発光特性を評価したところ、いずれも室温において365nmにピークを有する窒化ガリウムの発光特性が確認されたが、実施例2で得られた結晶粒子の発光強度は、実施例1で得られた結晶粒子と比較して10倍であった。
【0060】
<実施例3>
グリオキサール145gとターシャリブチルアミン146gを混合した後、0℃に保持して24時間反応させ、下記に示される反応スキームによって前駆体であるN,N’−ターシャリブチルエチレンジイミンを得た。
【0061】
【化6】

【0062】
得られた前駆体4.3gと3塩化ガリウム9gをジクロロメタン150mlに溶解させ、下記に示される反応スキームによってカルベン類似構造錯体を得た。
【0063】
【化7】

【0064】
得られたカルベン類似構造錯体をベンゼン300mlに溶解させ、オートクレーブを用いて温度430℃、圧力24.2MPaで13時間反応させた。反応物を濾過および洗浄して得られた粉末の結晶評価を行ったところ、X線回折パターンより六方晶の窒化ガリウム(h−GaN)であることが確認された。
【0065】
<実施例4>
結晶粒子形成工程において、尿素3.6gを添加した以外は実施例3と同様にして結晶粒子を得た。
【0066】
上述と同様に、実施例3、4の結晶粒子の発光特性を評価したところ、いずれも室温において365nmにピークを有する窒化ガリウムの発光特性が確認されたが、実施例4で得られた結晶粒子の発光強度は、実施例3で得られた結晶粒子と比較して5倍であった。
【0067】
<実施例5>
グリオキサール75.6gと(2,6)ジイソプロピルアニリン200gのエタノール溶解液をギ酸中で混合して24時間反応させ、下記に示される反応スキームによって、前駆体である3−(ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)ジアゾブタジエン)を得た。
【0068】
【化8】

【0069】
得られた前駆体を9.63gと3塩化ガリウム9gをジクロロメタン150mlに溶解させ、下記に示される反応スキームによってカルベン類似構造錯体を得た。
【0070】
【化9】

【0071】
得られたカルベン類似構造錯体をベンゼン300mlに溶解させ、オートクレーブを用いて温度430℃、圧力24.2MPaで13時間反応させた。反応物を濾過および洗浄して得られた粉末の結晶評価を行ったところ、X線回折パターンより六方晶の窒化ガリウム(h−GaN)であることが確認された。
【0072】
<実施例6>
結晶粒子形成工程において、ヒドラジン2gを加えた以外は実施例5と同様にして結晶粒子を得た。
【0073】
上述と同様に、実施例5、6の結晶粒子の発光特性を評価したところ、いずれも室温において365nmにピークを有する窒化ガリウムの発光特性が確認されたが、実施例6で得られた結晶粒子の発光強度は、実施例5で得られた結晶粒子と比較して5倍であった。
【0074】
<実施例7>
実施例5において得られた前駆体9.63gと3塩化インジウム9.63gをジクロロメタン150mlに溶解させ、下記反応スキームにより、カルベン類似構造錯体を得た。
【0075】
【化10】

【0076】
得られたカルベン類似構造錯体をベンゼン300mlに溶解させ、常圧下温度300℃で13時間反応させた。反応物を濾過および洗浄して得られた粉末の結晶評価を行ったところ、X線回折パターンより窒化インジウムInNであることが確認された。
【0077】
<実施例8>
実施例5において得られた前駆体9.63gと3塩化ガリウム9gおよび3塩化インジウム3gをジクロロメタン200mlに溶解させてカルベン類似構造錯体を得た後、ベンゼン300mlに溶解させ、オートクレーブを用いて温度300℃、圧力10MPaで13時間反応させた。反応物を濾過および洗浄して得られた粉末の結晶評価を行ったところ、X線回折パターンにより窒化ガリウムと窒化インジウムの混晶(InGaN)であることが確認された。
【0078】
<実施例9>
金属ガリウムとヨウ素をベンゼン中で温度50℃に保って12時間反応させ、ヨウ化ガリウム(GaI)のベンゼン溶液を作製した。実施例5において得られた前駆体9.63gと上述のヨウ素ガリウムのベンゼン溶液と混合してカルベン類似構造錯体を得た後、オートクレーブを用いて温度300℃、圧力10MPaで13時間反応させた。反応物を濾過および洗浄して得られた粉末の結晶評価を行ったところ、X線回折パターンにより窒化ガリウムとGaNであることが確認された。なお、同様の合成を温度400℃、圧力20MPaで行ったところ、オートクレーブ内壁に腐食が見られ、GaNは生成しなかった。
【0079】
<実施例10>
実施例9と同様の手法で、金属インジウムとヨウ素を反応させ、ヨウ化インジウム(InI)のベンゼン溶液を作製した。実施例5において得られた前駆体9.63gと実施例9とヨウ化ガリウムのベンゼン溶液および上述のヨウ化インジウムのベンゼン溶液と混合してカルベン類似構造錯体を得た後、オートクレーブを用いて温度300℃、圧力10MPaで13時間反応させた。反応物を濾過および洗浄して得られた粉末の結晶評価を行ったところ、X線回折パターンより窒化ガリウムと窒化インジウムの混晶(InGaN)であることが確認された。
【0080】
<実施例11>
実施例10と同様の手法で、ヨウ化インジウムおよびヨウ化ガリウムの混合比を変えると共に、アミノ基を有する有機化合物の種類を変えることによって、3種類の13族窒化物ナノ粒子蛍光体を作製した。
【0081】
まず、実施例7と同様にして、InIを得、電子顕微鏡観察により粒子径を確認したところ、4nmであった。この蛍光体に励起光を照射したところ、650nmの赤色発光を呈した。
【0082】
次いで、実施例1における前駆体を、実施例8と同様に3塩化ガリウムおよび3塩化インジウムと反応させてカルベン類似構造錯体を得た後、加熱処理を行って、InGaNナノ粒子結晶を得た。組織分析および電子顕微鏡観察の結果、混晶比はIn0.3Ga0.7Nで粒子径は10nmであった。この蛍光体に励起光を照射したところ、550nmの緑色発光を呈した。
【0083】
次いで、実施例5における前駆体を、実施例10と同様にヨウ化ガリウムおよびヨウ化インジウムと反応させてカルベン類似構造錯体を得た後、加熱処理をおこなってInGaNナノ粒子結晶を得た。組成分析および電子顕微鏡観察の結果、混晶比はIn0.2Ga0.8Nで粒子径は8nmであった。この蛍光体に励起光を照射したところ、480nmの青色発光を呈した。
【0084】
上記赤、緑および青色蛍光体をエポキシ樹脂に所定の割合で混合し、樹脂硬化後に励起光を照射したところ、白色発光が得られた。
【0085】
今回開示された実施の形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を有する有機化合物にジアルデヒドを反応させて前駆体を得る工程と、
前記前駆体に13族元素ハロゲン化物を反応させてカルベン類似構造錯体を得る工程と、
前記カルベン類似構造錯体を加熱処理して13族窒化物結晶粒子を得る工程とを含むことを特徴とする、13族窒化物結晶粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ジアルデヒドがグリオキサールであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミノ基を有する有機化合物が、アミノ基を有する脂肪族環状炭化水素であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アミノ基を有する有機化合物が、シクロへキシルアミンであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アミノ基を有する有機化合物が、アミノ基を有する炭素数4以上の脂肪族鎖状炭化水素であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記アミノ基を有する有機化合物が、ターシャリブチルアミンであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記アミノ基を有する有機化合物が、アミノ基を有する芳香族炭化水素であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記アミノ基を有する有機化合物が、2,6−ジイソプロピルアニリンであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記加熱処理が、アンモニア、尿素、ヒドラジンの少なくともいずれかを添加して行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
13族元素ハロゲン化物が13族元素ヨウ化物であり、前記加熱処理が400℃以下で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
13族元素と窒素との結合を含む結晶粒子であって、
修飾分子として脂肪族環状炭化水素基、炭素数4以上の脂肪族鎖状炭化水素基、芳香族炭化水素基の少なくともいずれかが前記窒素に化学結合していることを特徴とする13族窒化物結晶粒子。
【請求項12】
前記修飾分子が、シクロヘキシル基、ターシャリブチル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項11に記載の13族窒化物結晶粒子。
【請求項13】
請求項11または12に記載の13族窒化物結晶粒子を用いた蛍光体。

【公開番号】特開2007−70207(P2007−70207A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262452(P2005−262452)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(505195384)国立大学法人奈良女子大学 (15)
【Fターム(参考)】