説明

2−アミノトロポン誘導体の製造方法

【課題】光塩基発生剤等として有用な2−アミノトロポン誘導体を、工業的規模で安全且つ低コストで製造する方法を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物を、アンモニア水中で加熱することを含む、下記式(2)で表される2−アミノトロポン誘導体の製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光塩基発生剤等として有用な2−アミノトロポン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−アミノトロポンは、トロポロンもしくはトロポロン誘導体と、アンモニアと、を反応させることにより製造できることは既に知られている。特許文献1には、トロポロンとアンモニア水を加圧条件下で加熱する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−217526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法は、トロポロン誘導体の水酸基を直接アミン化することにより2−アミノトロポン誘導体が合成できるという意味では簡便な方法であるが、耐圧容器中(加圧条件下)で極めて高い温度で反応させる必要がある。アンモニアは金属腐食性が強いので、そうした高温加圧条件は、安全上の問題が生じやすい上、設備費が嵩むため、工業的規模での製造は困難である。
【0005】
上述のものをはじめとする従来の製造技術では、2−アミノトロポン誘導体を工業的規模で製造することは困難であり、工業的規模で製造が可能な技術の提供が望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、2−アミノトロポン誘導体を、工業的規模で安全且つ低コストで製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の構造のトロポロン誘導体を用いることにより、2−アミノトロポン誘導体を、工業的規模で安全且つ低コストで製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は下記のとおりである。
[1]
下記式(1)で表される化合物を、アンモニア水中で加熱することを含む、下記式(2)で表される2−アミノトロポン誘導体の製造方法。
【化1】


(式(1)中、Rは、炭素数2〜3のアルキル基を表し、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、又はアミノ基を表す。R、R、R、R及びRは、それらのうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよく、それぞれ独立に、式(1)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有していてもよい。)
【化2】


(式(2)中、R、R、R、R及びRの定義は、式(1)と同じである。)
[2]
前記R、R、R、R及びRが、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、又はアリール基を表す、[1]の2−アミノトロポン誘導体の製造方法。
[3]
前記R、R、R、R及びRが、それぞれ独立に、水素原子又はイソプロピル基を表す、[1]又は[2]の2−アミノトロポン誘導体の製造方法。
[4]
前記アンモニア水中での加熱は常圧下で行う、[1]〜[3]のいずれかの2−アミノトロポン誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光塩基発生剤等として有用な2−アミノトロポンを、工業的規模で、安全且つ低コストで製造する方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施することもできる。
【0011】
本実施形態の製造方法は、下記式(1)で表される化合物を、アンモニア水中で加熱することを含む。
【0012】
【化3】

【0013】
上記式(1)において、Rは、炭素数2〜3のアルキル基を表す。
【0014】
が炭素数1のアルキル基、すなわちメチル基の場合は、式(1)で表される化合物の工業的製造が困難である。
【0015】
式(1)で表される化合物を得る簡便な方法としては、対応するトロポロン誘導体の水酸基をエーテル化する方法が挙げられるが、Rがメチル基の場合は、硫酸ジメチルやヨウ化メチルといった発癌性が高いメチル化剤を使用する必要があるため、工業的規模での使用は困難である。
【0016】
また、Rがメチル基の場合は、式(1)で表される化合物の水溶性が高いため、トロポロンのエーテル化反応の後処理工程において、水層からの抽出が困難であり、収率が極めて低いという問題もある。
【0017】
が炭素数4以上のアルキル基の場合は、アンモニア水中でのアンモニアとの反応速度が遅いため、工業的規模での製造が困難である。
【0018】
としては、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基などが挙げられる。それらの中でも、アンモニア水中での反応速度や、式(1)で表される化合物の製造容易性の観点から、エチル基及びn−プロピル基が好ましく、エチル基がより好ましい。
【0019】
式(1)において、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン原子、又はアミノ基を表す。
【0020】
アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ヒドロキシエトキシカルボニル基が挙げられる。それらの中では、製造の容易さの観点から、メトキシカルボニル基が好ましい。
【0021】
アシル基としては、製造の容易さの観点から、アセチル基が好ましい。
【0022】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。それらの中では、原料入手の容易性や性能の観点から、イソプロピル基が好ましい。
【0023】
アルケニル基としては、例えば、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基が挙げられる。
【0024】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、ベンジル基が挙げられる。
【0025】
アルキルスルファニル基としては、例えば、メチルスルファニル基、エチルスルファニル基、プロピルスルファニル基、2−メチルスルフィド−エチル基、3−メチルスルフィド−プロピル基が挙げられる。
【0026】
アリール基としては、製造の容易さの観点から、フェニル基が好ましい。
【0027】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が挙げられる。それらの中では、製造の容易さの観点から、メトキシ基が好ましい。
【0028】
ハロゲン原子としては、例えば、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、フッ素原子などが挙げられる。製造の容易さの観点から、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
【0029】
アミノ基は置換していなくても置換していてもよい。
モノ置換アミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ベンジルアミノ基、フェニルアミノ基が挙げられる。それらの中では、原料入手の容易性の観点から、メチルアミノ基が好ましい。
ジ置換アミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基が挙げられる。それらの中では、原料入手の容易性の観点から、ジメチルアミノ基が好ましい。
【0030】
上記式(1)において、R〜Rのうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよい。そのような飽和環、不飽和環としては、例えば、ピラゾール環、イソオキサゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環のようなアゾール環が挙げられる。
【0031】
また、R〜Rは、それぞれ独立に、上記式(1)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有していてもよい。
【0032】
上記式(1)において、R〜Rは上述のもののいかなる組合せであってもよい。式(1)において、R〜R組合せは限定されないが、好ましくは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基である。このような化合物はアンモニア水中での反応速度が優れており好ましい。同様の観点から、R〜Rが、それぞれ独立に、水素原子又はイソプロピル基を表すと更に好ましい。
【0033】
本実施形態の製造方法は、式(1)で表される化合物1種を単独で用いてもよいし又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
式(1)で表される化合物は公知の方法の応用で合成できる。例えば、大有機化学、第13巻、非ベンゼン系芳香族環化合物(小竹無二雄監修、朝倉書店(株)発行、1957年)に記載の方法を応用すれば、様々な化合物を合成することが可能である。それらの中でも、下記式(1a)で表されるトロポロン誘導体のアルカリ金属塩と、ハロゲン化アルキル(RX)を反応させることにより、式(1)で表される化合物を得る方法が簡便であり、好ましい。
【0035】
【化4】

【0036】
式(1a)中、R〜Rの定義は、式(1)と同じであり、Xは、ハロゲン原子、又はスルホニル基を表す。
【0037】
ハロゲン原子としては、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、フッ素原子などが挙げられる。スルホニル基としては、脱離能がある官能基であればよく、例えば、ベンゼンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基、アルキルスルホニル基などが挙げられる。
【0038】
上記エーテル化の反応条件は、特に制限されず適宜に好適な条件を採用できる。反応温度は、特に制限されず、適宜に決定できる。反応温度は、好ましくは30〜120℃であり、より好ましくは40〜100℃である。反応温度をこの範囲にすることで、実用的な反応速度を得ることができ、且つ非プロトン性極性溶媒の熱安定性を保つことができる。
【0039】
反応時間は、特に制限されず、適宜に決定できる。反応時間は、好ましくは1〜24時間であり、より好ましくは1〜12時間である。反応時間をこの範囲にすることで、実用的な反応速度を得ることができ、且つ効率的な反応を実施できる。
【0040】
上記エーテル化の反応溶媒は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒;メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、などが挙げられる。
【0041】
あるいは、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)、N−メチルピロリドン(NMP)及びγ−ブチロラクトンなどの極性溶媒を用いることもできる。
【0042】
上記した溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上からなる混合溶媒として用いてもよい。
【0043】
本実施形態の製造方法では、式(1)で表される化合物をアンモニア水中で加熱する。水溶液中で反応を行うことにより、環境にも優しく、かつ反応場のアンモニア濃度を高められるので反応速度を高めることができる。しかもアンモニア水という安全且つ安価な原料を利用することができる。
【0044】
式(1)で表される化合物を、アンモニア水中で加熱するときの温度は、制限されないが、10〜100℃が好ましい。アンモニアの溶解度と反応速度とのバランスから、20〜90℃がより好ましく、30〜90℃がさらに好ましい。
【0045】
式(1)で表される化合物を、アンモニア水中で加熱するときの圧力は、制限されず、常圧条件下、加圧条件下のいずれを採用してもよいが、常圧条件下でも容易に反応が進行するので、あえて加圧条件下で反応を行う利点は少ないため、常圧条件下で反応を行うことが好ましい。
【0046】
本実施形態の製造方法において、式(1)で表される化合物に対するアンモニアの使用量は制限されないが、反応速度及び経済性の観点より、モル比で1:1〜1:100であることが好ましく、1:2〜1:80であることがより好ましく、1:5〜1:70がさらに好ましい。
【0047】
アンモニア水溶液の濃度は限定されないが、取扱い容易性の観点より、5〜50質量%であることが好ましく、7〜40質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0048】
本実施形態の製造方法において、必要に応じて触媒等の他の成分を反応溶液に添加してもよい。触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸等が挙げられる。
【0049】
式(1)で表される化合物は、エーテル構造(RO−)を有するトロポロン誘導体である。従来、水酸基(Rが水素原子)を有するトロポロン誘導体を原料とし、その水酸基を直接アミン化することで2−アミノトロポンを得る方法等が行われていた。これに対し、本実施形態は、エーテル構造を有するトロポロン誘導体を原料とし、そのエーテル基をアミン化することで、温和な条件でありながら、高い収率で2−アミノトロポン誘導体を得ることができる。特に、式(1)のRが炭素数2〜3のアルキル基であることにより、効率よく上記アミン化を進行させることができる。
【0050】
反応場における反応物質濃度を高めることが、上記アミン化の反応速度を向上させるために重要である。本実施形態の製造方法においては、水溶液中で反応を実施するので、水相が主な反応場となる。本実施形態の製造方法においては、反応物質の1つであるアンモニアが元来水への溶解性が高いことに加え、もう一方の反応物質である式(1)で表される化合物も、水への溶解性が高い。その結果、反応場における2つの反応物質濃度を高めることができる。これにより、反応速度を相乗的に高めることができる。従って、本実施形態の製造方法においては、高温・高圧の過酷な条件を採用しなくても、マイルドな条件で実用上十分な反応速度を得ることができる。
【0051】
本実施形態の製造方法は、式(1)で表される化合物をアンモニア水で加熱した後に、有機溶剤で抽出することが好ましい。有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールモノエーテル類(いわゆるセロソルブ類);メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、シュウ酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;N−メチルピロリドンなどのピロリドン類;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの鎖状又は環状飽和炭化水素類、その他の有機極性溶媒類が挙げられる。さらには、有機溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、及びその他の有機非極性溶媒類が挙げられる。これらの有機溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
本実施形態の製造方法は、式(1)で表される化合物と、アンモニアとの反応によって得られる2−アミノトロポン誘導体の収率が高いため、簡便な後処理であっても十分な純度の2−アミノトロポン誘導体を得ることができる。もちろん、より高純度の2−アミノトロポン誘導体を得る場合、カラムクロマトグラフや、再結晶等を行ってもよい。
【0053】
本実施形態の最終目的化合物は、下記式(2)で表される2−アミノトロポン誘導体である。
【0054】
【化5】

【0055】
(式(2)中、R、R、R、R及びRの定義は、式(1)と同じである。)
【0056】
なお、式(2)で表される化合物は、式(3)で表される互変異性体を取り得る。この場合、式(2)と式(3)は等価である。このように、本実施形態の製造方法において、目的化合物として式(3)で表される互変異性体が混在していてもよい。
【0057】
【化6】

【0058】
本実施形態の製造方法においては、必要に応じて、有機溶剤を更に含有してもよい。有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールモノエーテル類(いわゆるセロソルブ類);メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、シュウ酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;N−メチルピロリドンなどのピロリドン類;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどの鎖状又は環状飽和炭化水素類、その他の有機極性溶媒類が挙げられる。さらには、有機溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、及びその他の有機非極性溶媒類が挙げられる。これらの有機溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
本実施形態の製造方法では、より高純度の目的化合物を得る目的等から、必要に応じて、他の分離工程や精製工程を行うこともできる。本実施形態の製造方法では、効率よく2−アミノトロポン誘導体を分離できるため、その他の分離工程や精製工程での時間、労力及びコスト等を軽減できる。例えば、精製工程としてカラムクロマトグラフィーや再結晶操作を行うこともできるが、本実施形態では純度の高い目的化合物を効率よく得ることもできるので、精製工程における負担を軽減できる。この観点からも、本実施形態の製造方法は、工業的規模での製造方法として好適である。
【0060】
本実施形態の製造方法により得られる2−アミノトロポン誘導体の用法や用途は制限されず、幅広い分野に用いることができる。例えば、電子材料や医薬品の中間体等として有用である。例えば、アニオン硬化性樹脂などに配合できる光塩基発生剤又はその合成中間体として用いることもできる。
【0061】
また、2−アミノトロポン誘導体に紫外線を照射すると分子内環化反応を起こすことができ、これにより得られる構造骨格を有する化合物は消炎作用を有する医薬として有用である。
【0062】
本実施形態の製造方法は、2−アミノトロポン誘導体を工業的規模で効率よく製造し得る技術として用いることができる。特に、式(1)で表される化合物をアンモニア水中で反応させる際に温和な条件で反応させることができ、且つ高収率で2−アミノトロポン誘導体を得ることができる。これにより、簡便な後処理でもって高純度の2−アミノトロポン誘導体を得ることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例によって本実施形態の製造方法を更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
<液体クロマトグラフ分析条件>
カラム:Inertsil C4(4.6mm×150mm)
展開溶媒:10mM−KHPO、1mM−EDTA2Na、HO/CHCN=60/40(体積比)
流速:1.0ml/min
【0065】
[実施例1]
ヒノキチオール(旭化成ファインケム(株)製)と臭化エチル(東京化成工業(株)製)より、公知の方法で製造したヒノキチオールのエチルエーテル(2−エトキシ−4−イソプロピルトロポンと2−エトキシ−6−イソプロピルトロポンの混合物)2.88g(15mmol)と25質量%アンモニア水100gを混合し、常圧、80℃で10時間加熱、撹拌した。25℃に冷却した後、反応物にトルエン100mlを加え、生成物をトルエン相に抽出した。トルエン相を液体クロマトグラフで分析した結果、2−アミノ−4−イソプロピルトロポンと2−アミノ−6−イソプロピルトロポンの混合物の収量は、2.33g(14.3mmol)であった(収率95%)。目的化合物の確認は、NMRによって行った。
【0066】
[実施例2]
ヒノキチオール(旭化成ファインケム(株)製)と臭化n−プロピル(東京化成工業(株)製)より、公知の方法で製造したヒノキチオールのn−プロピルエーテル(2−n−プロポキシ−4−イソプロピルトロポンと2−n−プロポキシ−6−イソプロピルトロポンの混合物)3.09g(15mmol)と25質量%アンモニア水100gを混合し、常圧、80℃で10時間加熱、撹拌した。25℃に冷却した後、反応物にトルエン100mlを加え、生成物をトルエン相に抽出した。トルエン相を液体クロマトグラフで分析した結果、2−アミノ−4−イソプロピルトロポンと2−アミノ−6−イソプロピルトロポンの混合物の収量は、2.20g(14.3mmol)であった(収率90%)。目的化合物の確認は、NMRによって行った。
【0067】
[比較例1]
ヒノキチオール(旭化成ファインケム(株)製)と臭化n−ブチル(東京化成工業(株)製)より、公知の方法で製造したヒノキチオールのn−ブチルエーテル(2−n−ブトキシ−4−イソプロピルトロポンと2−n−ブトキシ−6−イソプロピルトロポンの混合物)3.30g(15mmol)と25質量%アンモニア水100gを混合し、常圧、80℃で10時間加熱、撹拌した。25℃に冷却した後、反応物にトルエン100mlを加え、生成物をトルエン相に抽出した。トルエン相を液体クロマトグラフで分析した結果、2−アミノ−4−イソプロピルトロポンと2−アミノ−6−イソプロピルトロポンの混合物の収量は、1.35g(8.3mmol)であった(収率55%)。目的化合物の確認は、NMRによって行った。
【0068】
[比較例2]
ヒノキチオール(旭化成ファインケム(株)製)2.46g(15mmol)と25%アンモニア水100gを混合し、常圧、80℃で10時間加熱、撹拌した。25℃に冷却した後、反応物にトルエン100mlを加え、生成物をトルエン相に抽出した。トルエン相を液体クロマトグラフで分析した結果、2−アミノ−4−イソプロピルトロポンと2−アミノ−6−イソプロピルトロポンの混合物の収量は、0.073g(0.45mmol)であった(収率3%)。目的化合物の確認は、NMRによって行った。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、光塩基発生剤等として有用な2−アミノトロポン誘導体を、工業的規模で安全且つ低コストで製造する方法として利用できる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を、アンモニア水中で加熱することを含む、下記式(2)で表される2−アミノトロポン誘導体の製造方法。
【化1】


(式(1)中、Rは、炭素数2〜3のアルキル基を表し、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、又はアミノ基を表す。R、R、R、R及びRは、それらのうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよく、それぞれ独立に、式(1)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有していてもよい。)
【化2】


(式(2)中、R、R、R、R及びRの定義は、式(1)と同じである。)
【請求項2】
前記R、R、R、R及びRが、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、又はアリール基を表す、請求項1記載の2−アミノトロポン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記R、R、R、R及びRが、それぞれ独立に、水素原子又はイソプロピル基を表す、請求項1又は2に記載の2−アミノトロポン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記アンモニア水中での加熱は常圧下で行う、請求項1〜3のいずれか一項に記載の2−アミノトロポン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2010−254593(P2010−254593A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104256(P2009−104256)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】