説明

2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペンからの2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペンの気相合成

【課題】2,3.3.3-テトラフルオロ−1−プロペンの高効率、低廃棄物な製造方法の提供。
【解決手段】(a)2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンを含む出発材料とフッ化水素とを、アンチモンハロゲン化物、鉄ハロゲン化物、チタンハロゲン化物およびスズハロゲン化物からなる群から選ばれる第一の活性化触媒の存在下で接触させて中間組成物を製造し、(b)該中間組成物と活性炭の第二の触媒とを接触させて、最終生成物を製造することを含む2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを製造するための多工程プロセス。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
背景
発明の分野
本発明はハイドロフルオロオレフィン類を合成する方法に関する。より特定的には、本発明は2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンの触媒的合成に関する。
【0002】
関連技術の説明
ハイドロフルオロオレフィンである2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(HFO-1234yf)は低地球温暖化係数(GWP)の冷媒、発泡剤などとして使用されることができるが、これは塩化メチルとテトラフルオロエチレンまたはクロロジフルオロメタンのいずれかとの触媒的熱分解によって合成されてきた。例えば、US 2,931,840には55 cc/minのMeClと110 cc/minのCHClF2 とを約800℃に加熱された白金管(6 mm x 24 in)を同時に通過させることが記載されている。この方法で合成された気体の生成物は、HClを除去するためにスクラブされ、乾燥され、ほんの少しの量(14.8 mole %)の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンが得られる。この低い収率は、ほとんど90%の出発材料が反応触媒を不活性にする傾向があるカーボンブラックの有意な量を含む重要でない副生成物へと失われることに相関している。
【0003】
EP 328148は、式:CH2=CFRf [Rf= (パー)ハロアルキル基]]を有するフッ素含有オレフィン類がH2 ガスの存在下HOCH2CF2Rfなどのフルオロアルコールの高温脱フッ化水素反応および脱水素反応によって低コストで低毒性廃棄物生成量で調製できることを開示している。
【0004】
JP 06072925は、テトラフルオロエチレン、ホルムアルデヒドおよびHFをTiF4 触媒およびポリマー抑制剤としてのリモネンの存在下反応させることによって2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノールを合成することが記載されている。この2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノールは、順番に、2,3,3,3-テトラフルオロ-l-プロペン(HFO-1234yf)を合成するための出発材料として寄与することができる。JP 06072925の方法は、HOCH2(CF2)4HおよびH2 の1:3 (mol/mol)気体混合物を活性炭を充填して500℃に加熱した管状反応器に供給することを含む。4秒の滞留時間によってCH2=CF(CF2)3Hが64%のモノマー転化率および82%の選択率で生成する。これは高収率の方法であるが、高温でH2を工業的に取り扱うことは例外的に危険である。加えて、JP 06072925の方法は、コストのかかるH2のオンサイト生成を必要とする。
【0005】
それゆえに、より環境に配慮した危険が少ない出発材料を利用し、より高い転化率と選択性をもたらすHFO-1234yfを製造するための別の工業的製造方法が必要とされている。
発明の概要
本発明者等は、HFC-1234yfをHFO-1233xdから製造するための工業的に実行可能な方法を見出した。この方法は、90%を超える転化率と約80%にまでなる選択性をもたらす。より特定的には、本発明者等は、HFO-1234yfの2工程連続気相製法を見出した。この方法は、(1)比較的費用のかからないHFO-1233xdが第一の触媒の存在下HFと反応して、例えば、CF3CFClCH3および/またはCF3CF2CH3を含む中間組成物を形成し、(2)第二の触媒の存在下中間組成物を所望のHFO-1234yfを含む生成物に変換する。
【0006】
従って、本発明の一面は、(a)2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンを含む出発材料とフッ化水素とを、アンチモンハロゲン化物、鉄ハロゲン化物、チタンハロゲン化物およびスズハロゲン化物からなる群から選ばれる第一の活性化触媒の存在下で接触させて中間組成物を製造し、(b)該中間組成物の少なくとも一部と炭素を含む第二の活性化触媒とを接触させて2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを含む最終生成物を製造することを含む2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンの製造方法に関する。
【0007】
図面の簡単な説明
図1は、本発明に従った好ましい2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン合成法の概略図を示す。
【0008】
発明の好適な態様の詳細な説明
2つの触媒的反応を含む2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを製造するための多工程の方法が提供される。好ましくは、本方法の2つの触媒的反応は、連続して配置された別個の反応器で行われる。図1を参照して、ここに示された2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン合成1のための好適な方法は、HFC-1233xdおよびHFの1以上の供給流れ10を含み、これら流れは第一の触媒床14を有する第一の反応器12に導入されて例えば、CF3CFClCH3および/またはCF3CF2CH3を含む中間組成物の流れ20を生成する。この中間組成物の流れ20は第一の反応器12から出て、その後NaF、KF、Al2O3などのHFスカベンジャー26を充填したカラム26を通過し、第一の反応器12を出た未反応のHFの大部分、好ましくは実質的に全て、を除去する。得られたクリーンな中間組成物の流れ21は、その後、第二の触媒床24を有する第二の反応器22へと供給されてHFO-1234yfを含む最終生成物の流れ30を生成する。第二の反応器22から回収された最終生成物の流れ30は、場合によっては、例えば、KOH溶液36を含むスクラバー38を通過させてその流れからHFおよび/またはHClをスクラブ(scrub)してもよく、これによってクリーンな最終生成物の流れ31が生成する。
【0009】
第一の反応のための好ましい触媒としては、以下に限定されないが、アンチモンハロゲン化物、鉄ハロゲン化物、チタンハロゲン化物、スズハロゲン化物などが挙げられる。より好ましい触媒は、SbCl5、FeCl3、TiCl4、およびSnCl4である。好ましいアンチモンハロゲン化物としては、例えば、アンチモン五ハロゲン化物が挙げられ、特に、式:SbX5(式中、Xは独立してClおよびFから選ばれる。)を有するものが挙げられ、SbCl5が最も好ましい。好ましくは、第一の触媒は炭素などの基材に支持される。また好ましくは、触媒は第一の反応器の内部に置かれた床として配置される。
【0010】
非常に好ましい態様において、第一の触媒は、合成反応に使用する前にCl2 および/またはHFで前処理され(即ち、活性化され)、より好ましくはCl2 およびHFの両方で前処理される。例えば、炭素基材上に支持されたSbCl5触媒が、その触媒を50 g/hのHFに65℃で4時間曝露し、その後約50 g/hのHFと約200 sccmのCl2 の組み合わせに約65℃で約4時間曝露することによって、活性化されることができる。
【0011】
前処理の後、遊離塩素は触媒表面から除去されることが好ましい。例えば、前処理の後、約50 sccmのN2 を触媒床にわたり約40分間通過させて遊離塩素の実質的に全てを除去することができる。
【0012】
中間組成物の流れが第一の反応器を出た後、その流れから残留および/または未反応のHFが除去されるように処理されることが好ましい。例えば、中間組成物の流れをNaF、KFまたはAl2O3を充填したカラムを通過させることができる。充填カラムの温度は約50〜75℃に維持されることが高いHF吸収効率のために好ましい。
【0013】
第二の反応のための好ましい触媒は活性炭である。許容できる活性炭としては、例えば、Takeda Chemical Industries (SHIRO SAGIの商品名で市販)、Calgon Carbon Corp. (Carbosorb(登録商標)の商品名で市販)、Norit Americas Inc.、Aldrich(DARCO(登録商標)の商品名で市販)などが挙げられる。第二の触媒は、第二の反応器の内部に置かれた床として配置されることが好ましい。
【0014】
一つの態様において、反応器を通過する材料の流れはコントロールバルブを介して第二の反応器からの出口ガスの流れを統制することによって制御され、これによってシステムにわたる圧力降下が確立する。即ち、そのシステムにわたる材料の流れは最後の第二の反応器を出る材料の量を制限することによって制御され、これによってシステム内の続く部材間の制御された圧力降下が達成される。好ましくは、第一の反応器内の圧力は約40〜約100 psigに維持され、より好ましくは約40〜50 psigに維持される。一方、第二の反応器内の圧力は、好ましくは約0〜約100 psig、より好ましくは約5〜10 psigに維持されるが、第二の反応器内の圧力は第一の反応器内の圧力よりも低いことを条件とする。
【0015】
好ましくは、第一の反応器の温度は約140〜200℃に維持され、より好ましくは約150〜185℃に維持される。第二の反応器の温度は好ましくは約400〜600℃に維持され、より好ましくは約450〜550℃に維持される。
【0016】
実施例
本発明のある面が以下の実施例によってさらに説明されるが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0017】
実施例1
第一の反応器として使用する22-inch (1/2-inch 直径) Monel管状反応器に約120 ccの50-wt% SbCl5/C 触媒を装填した。この反応器を加熱器の内部に設置して反応温度を維持した。反応温度はその反応器の内部中央に設置した熱電対によって監視された。反応器の入口は電気的な予備加熱器に接続してその入口を300℃に維持した。反応器の内側の圧力は約45 psigに維持した。
【0018】
70℃、150 sccmのHFO-1233xfの流れをシリンダーからレギュレーター、ニードルバルブ、ガス質量流量計を通過して第一の反応器へと供給した。この供給流れは電気的加熱によって73℃の一定温度に保ち、凝縮を回避した。
【0019】
液体HFの流れをN2で45 psigの一定圧で圧力をかけたシリンダーから供給した。液体HFは流れてディップ管、ニードルバルブ、液体質量流量計、リサーチコントロールバルブ、ゲートバルブを通過し、その後50 g/hの割合で反応器へ流れ込んだ。
【0020】
全ての供給シリンダーはオンスケール(on scales)で搭載されて差によってそれらの重量を監視した。
第一の反応器を出たガス混合物のサンプルはオンラインGCおよびGC/MSによって分析してそれらの組成を決定した。中間組成物は主にCF3CF2CH3およびCF3CFClCH3を含むことがわかった。約148〜175℃で変化させた温度(表A参照)に応じて、HFO-1233xfの転化率は約50〜約100%であり、CF3CF2CH3 およびCF3CFClCH3の合計選択率は90-97%であった。
【0021】
第一の反応器から出た生成物の混合物はNaFを含む充填カラムを通過させてその流れからHFを分離した。充填カラムは高いHF吸収効率のために50-75℃に維持された。
このようにして得られたHFを含まないガスの流れはその後120ccのCalgon 活性炭を含む第二の22-inch (1/2-inch直径) Monel管状反応器を通過させた。この反応器の内部温度は400〜550℃の異なる温度(表A参照)に維持された。第二の反応器の圧力は約 6 psigに維持された。
【0022】
第二の反応器からの出口ガスはその後20-60-wt%KOH水溶液のスクラバー溶液を通過させてHFまたはHClをトラップした。スクラバーからの出口ガスはドライアイスで冷却したシリンダー内に凝縮した。生成物はその後蒸留によって単離した。
【0023】
これらの試験の結果を表Aに示す。
【0024】
【表1】

表Aに与えられたデータに見られるように、本明細書に記載された方法を使用してHFO-1234yfをHFO-1233xfから90%を超える転化率と約80%の選択性で製造することができる。
【0025】
第一の反応器から出るガスの流れからHFを分離することは高い選択性を達成する上で非常に好ましい。第一の反応器を出たガスの流れを直接第二の反応器に送ったときには、ほんの49%のHFO-1234yf選択率しか得られなかったが、これと比較してHFの分離を行ったときには79 %の選択率であった。
【0026】
本発明のいくつかの特別な態様を説明してきたが、本明細書に含まれる教示に鑑みて、特に記載されていない様々な変更、変形および改良が許容され、本発明の範囲内にあることは当業者に明らかである。そのような変更、変形および改良は、本明細書に明確に述べられていないにもかかわらず、この開示によって明らかであり、この記載の一部であることを意図し、本発明の精神および範囲であることを意図する。従って、前述した説明は例示的なものであり、限定的なものではない。本発明は、添付の特許請求の範囲およびその均等物に定義されるようにだけ制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンを含む出発材料とフッ化水素とを、アンチモンハロゲン化物、鉄ハロゲン化物、チタンハロゲン化物およびスズハロゲン化物からなる群から選ばれる第一の活性化触媒の存在下で接触させることによって、該出発材料をフッ素化して中間組成物を製造し、
該中間組成物と炭素を含む第二の活性化触媒とを接触させることによって該中間組成物の少なくとも一部を脱ハロゲン化水素反応させて2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを含む最終生成物を製造する、
ことを含む2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンの製造方法。
【請求項2】
該フッ素化が第一の反応器内で行われ、該脱ハロゲン化水素反応が第二の反応容器内で行われる、請求項1の方法。
【請求項3】
該中間組成物がCF3CFClCH3および CF3CF2CH3 の少なくとも1つを含む、請求項1の方法。
【請求項4】
該中間組成物がCF3CFClCH3および CF3CF2CH3 の両方を含む、請求項1の方法。
【請求項5】
該第一の触媒がアンチモンハロゲン化物、鉄ハロゲン化物、チタンハロゲン化物およびスズハロゲン化物からなる群から選ばれる、請求項1の方法。
【請求項6】
該第一の触媒が炭素上に支持されている、請求項5の方法。
【請求項7】
該第一の触媒がSbCl5、FeCl3、TiCl4、およびSnCl4からなる群から選ばれる、請求項6の方法。
【請求項8】
該第一の触媒がアンチモン五ハロゲン化物である、請求項6の方法。
【請求項9】
該アンチモン五ハロゲン化物が式:SbX5(式中、Xは独立してClおよびFから選ばれる。)を有する、請求項8の方法。
【請求項10】
該アンチモン五ハロゲン化物がSbCl5である、請求項9の方法。
【請求項11】
該第一の触媒がCl2およびHFの少なくとも1つに曝露することによって活性化される、請求項1の方法。
【請求項12】
該第一の触媒がCl2およびHFに曝露することによって活性化される、請求項11の方法。
【請求項13】
出発材料を接触させることが約100〜約300℃の温度および約10〜約200psigの圧力で行われる、請求項1の方法。
【請求項14】
該中間組成物と活性炭触媒とを接触させる前に該中間組成物から未反応のHFの少なくとも1部を除去することをさらに含む請求項1の方法。
【請求項15】
該除去することが該中間組成物とNaF、KFまたはAl2O3の少なくとも1つとを約20〜100℃の温度で接触させることを含む、請求項14の方法。
【請求項16】
該最終生成物とスクラバーの溶液又は充填カラムとを接触させて該最終生成物からHF および/または HClを除去することをさらに含む請求項1の方法。
【請求項17】
該酸スカベンジャーが水酸化カリウム溶液である、請求項16の方法。
【請求項18】
該出発材料を接触させることおよび該中間組成物を接触させることが気相中で行われる、請求項1の方法。
【請求項19】
該方法が該2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンの少なくとも約80%の転化率および2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの少なくとも約55%の選択性を有する、請求項1の方法。

【公開番号】特開2009−137945(P2009−137945A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−287911(P2008−287911)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】