説明

2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法。

【課題】
本発明の目的は、塗料や樹脂原料として有用であるラクトン環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしての2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、下記式(1)
【化1】


で示される反応工程を含むことを特徴とする2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料や樹脂の原料として有用であるラクトン環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしての2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクトン環を有する(メタ)アクリル酸エステルは近年半導体製造に使用されるフォトレジスト樹脂の原料としていくつか提案されている。例えば、特許文献−1,2などである。このような(メタ)アクリル酸エステルを樹脂に応用することにより、重合された高分子は構造上ラクトン環を側鎖に有することで金属などへの密着性が向上し、塗料や樹脂の原料として有用である。しかし、提案された(メタ)アクリル酸エステルでは機能上満足されない部分があり、本発明の(メタ)アクリル酸エステルである2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンはラクトン環にシアノ基を有することでその機能性は更に期待されるものがある。しかし、その2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンについては今まで効果的な製造方法の提案はなされていない。
【特許文献1】特開2000−026446号公報
【特許文献2】特開2001−242627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、塗料や樹脂原料として有用であるラクトン環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしての2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸を酸化剤により酸化することにより2−ヒドロキシ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−6−カルボニトリルが得られ、更に(メタ)アクリル化することで2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンが効果的に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【0006】
【化1】

で示される反応工程を含むことを特徴とする2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法を提供する。
【0007】
また本発明は、前記式(1)中に記載された反応工程において、酸化剤として過酸化水素を使用することを特徴とする前記記載の2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法を提供する。
【0008】
更にまた本発明は、前記式(1)中に記載された反応工程において、触媒としてタングステン酸を使用することを特徴とする前記記載の2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法を提供する。
【0009】
また本発明は更に、下記式(2)
【0010】
【化2】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
で示される反応工程を含むことを特徴とする前記記載の2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法を提供する。
【0011】
本発明は更に、前記式(2)で示される反応工程において、(メタ)アクリル化剤として(メタ)アクリルクロライドを使用することを特徴とする前記記載の2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法を提供する。
【0012】
本発明はまた、前記式(1)において示された化合物2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸は下記式(3)
【0013】
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
により示される反応工程によって製造されることを特徴とする前記記載の2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法を提供する。
【0014】
更に本発明はまた、前記式(3)において示された化合物2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸アルキルエステルは下記式(4)
【0015】
【化4】

(式中、Rは前記に同じ。)
により示される反応工程によって製造されることを特徴とする前記記載の2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、塗料や樹脂原料として有用であるラクトン環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしての2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンが効果的な方法により工業的に製造されることを可能とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本明細書において、メタクリルとアクリルを総称して(メタ)アクリルとして記載することがある。
[環化工程]
本発明の2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法は、前記式(1)で示される反応工程を含むことを特徴としている。この工程は原料である2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸(以降CN酸と呼ぶことがある)の2重結合を酸化エポキシ化することでフリーのカルボン酸とエポキシ基が反応して環化しラクトン環を形成し、2−ヒドロキシ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−6−カルボニトリル(以降、OH体と呼ぶことがある)を生成するものである。この工程を環化工程と呼ぶこととする。この環化工程においてエポキシ基を生成させる反応においては過酸または過酸化物が使用される。
【0018】
過酸としては、例えば、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸、モノペルオキシフタル酸などの有機過酸;過マンガン酸などの無機過酸が挙げられる。過酸は塩の形態で使用することもできる。有機過酸は平衡過酸(例えば、平衡過ギ酸、平衡過酢酸等)であってもよい。すなわち、例えば、ギ酸、酢酸などの有機酸と過酸化水素とを組み合わせて用い、系内で対応する有機過酸を生成させてもよい。平衡過酸を用いる場合、触媒として、硫酸などの強酸を少量添加してもよい。過酸の使用量は、例えば、CN酸1モルに対して、0.8〜2モル、好ましくは0.9〜1.5モル、さらに好ましくは0.95〜1.2モル程度である。
【0019】
CN体と反応させる過酸化物としては、例えば、過酸化水素、ペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ペルオキソ酸、ペルオキソ酸の塩などが挙げられる。過酸化水素としては、純粋な過酸化水素を用いてもよいが、取扱性の点から、通常、適当な溶媒、例えば水に希釈した形態(例えば、30重量%過酸化水素水)で用いられる。過酸化水素等の過酸化物の使用量は、CN酸1モルに対して、例えば0.9〜5モル程度、好ましくは0.9〜3モル程度、さらに好ましくは0.95〜2モル程度である。
【0020】
前記過酸化水素は触媒として金属化合物とともに用いる場合が多い。前記金属化合物としては、例えば、W、Mo、V、Mn、Reなどの金属元素を含む酸化物、オキソ酸又はその塩、硫化物、ハロゲン化物、オキシハロゲン化物、ホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物、リン化物、過酸化物、錯体(無機錯体及び有機錯体)、有機金属化合物などが挙げられる。これらの金属化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0021】
前記酸化物としては、例えば、酸化タングステン(WO2、WO3など)、酸化モリブデン(MoO2、MoO3など)、酸化バナジウム(VO、V23、VO2、V25など)、酸化マンガン(MnO、Mn23、Mn34、MnO2、Mn27など)、W、Mo、V、Mnなどの金属元素を含む複合酸化物などが挙げられる。
【0022】
オキソ酸には、タングステン酸、モリブデン酸、バナジン酸、マンガン酸等のほか、イソポリタングステン酸、イソポリモリブデン酸、イソポリバナジウム酸などのイソポリ酸;リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデンサン、ケイモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸等の前記金属元素と他の金属元素等とからなるヘテロポリ酸が含まれる。ヘテロポリ酸における他の金属元素等として、リン又はケイ素、特にリンが好ましい。
【0023】
オキソ酸の塩としては、前記オキソ酸のナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;遷移金属塩などが挙げられる。オキソ酸の塩(例えば、ヘテロポリ酸の塩)は、カチオンに相当する水素原子の一部を他のカチオンに置換した塩であってもよい。
【0024】
金属元素を含む過酸化物としては、例えば、ペルオキソ酸(例えば、ペルオキソタングステン酸、ペルオキソモリブデン酸、ペルオキソバナジウム酸など)、ペルオキソ酸の塩(前記ペルオキソ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、遷移金属塩など)、過酸(過マンガン酸など)、過酸の塩(前記過酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、遷移金属塩など)などが挙げられる。
【0025】
前記過酸化水素とともに用いる金属化合物の使用量は、例えば、CN酸1モルに対して、0.0001〜2モル程度、好ましくは0.0005〜0.5モル程度、さらに好ましくは0.001〜0.2モル程度である。
【0026】
CN酸と過酸又は過酸化物との反応は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、例えば、t−ブチルアルコールなどのアルコール;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ベンゼンなどの芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;エチルエーテル、テトラヒドロフランなどの鎖状又は環状エーテル;酢酸エチルなどのエステル;酢酸などの有機酸;水などが挙げられる。これらの溶媒は1種で、又は2種以上混合して用いられる。なお、不均一系で反応を行う場合には、溶媒として水、又は水を含む溶媒を用いる場合が多い。
【0027】
反応温度は、反応速度及び反応選択性を考慮して適宜選択できるが、一般には−10〜100℃程度、好ましくは0〜90℃程度である。反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行ってもよい。
【0028】
上記反応により、CN酸の二重結合のエポキシ化が起こり、CN酸の2重結合がエポキシ化されたエポキシ化合物が生成する。更にこのエポキシ基は分子内のカルボン酸と反応して、ラクトン環とヒドロキシル基を生成し、2−ヒドロキシ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−6−カルボニトリル(OH体)を生成する。
【0029】
反応で生成したOH体は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段により、又はこれらを組み合わせることにより分離精製できる。
[(メタ)アクリル化工程]
この工程は前記式(2)によって示されるように、2−ヒドロキシ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−6−カルボニトリル(OH体)と(メタ)アクリル化剤とからシアノ基及びラクトン骨格を有する(メタ)アクリル単量体である2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン(以降アクリル単量体と呼ぶこともある)を製造するものである。使用される(メタ)アクリル化剤によりその方法は例えば、以下に示すように(a)〜(c)の3つの方法が挙げられる。
【0030】
シアノ基及びラクトン骨格を有するOH体の(メタ)アクリル化工程は、例えば、(a)テトラヒドロフラン、トルエン、塩化メチレン等の溶媒中、前記OH体に、必要に応じてトリエチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等の塩基の存在下、(メタ)アクリル酸クロリド等の(メタ)アクリル酸ハライドや(メタ)アクリル酸無水物などの不飽和カルボン酸の活性な反応性誘導体((メタ)アクリレートアクリル化剤)を反応させたり、(b)前記と同様の溶媒中、式(2)で表される化合物に、チタンイソプロポキシド等のエステル交換触媒の存在下、(メタ)アクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステルを反応させたり、(c)前記と同様の溶媒中、式(2)で表される化合物を、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸等の強酸の存在下で(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸と反応させることにより得ることができる。
【0031】
これらの方法における反応条件は、通常のエステル製造法と同様である。例えば、前記(a)の方法において、不飽和カルボン酸の活性な反応性誘導体の使用量は、OH体1モルに対して、例えば1〜1.5モル程度、塩基の使用量は、不飽和カルボン酸の活性な反応性誘導体1モルに対して、例えば1〜3モル程度(大過剰量であってもよい)であり、反応温度は、例えば、−20℃〜50℃程度である。また、前記(b)の方法において、不飽和カルボン酸エステルの使用量は、OH体1モルに対して、例えば1〜10モル程度(大過剰量であってもよい)、エステル交換触媒の使用量は、OH体1モルに対して、例えば0.0001〜1モル程度であり、反応温度は、例えば0〜150℃程度である。さらに、前記(c)の方法において、不飽和カルボン酸の使用量は、OH体1モルに対して、例えば1〜5モル程度(大過剰量であってもよい)、強酸の使用量は、OH体1モルに対して、例えば0.0001〜1モル程度であり、反応温度は、例えば0〜150℃程度である。なお、これらの反応の際、重合を抑制するため、ハイドロキノンモノメチルエーテルなどの重合禁止剤や酸素を導入することもできる。
【0032】
反応で生成したシアノ基及びラクトン骨格を有する多環式エステルであるアクリル単量体は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段により、又はこれらを組み合わせることにより分離精製できる。
[加水分解工程]
前記の環化工程での原料化合物として使用されるCN酸は、2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸アルキルエステル(以降CNエステルと呼ぶこともある)のエステル基を加水分解することで製造される。前記式(3)で示される反応式によるものである。
【0033】
加水分解工程は水の存在下、加熱することによって実施することができる。その時に、触媒を使用することは効果的である。加水分解に用いられる触媒としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、金属酸化物、金属炭酸塩;マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、金属酸化物、金属炭酸塩;アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アミン;塩基性イオン交換樹脂;塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸およびその部分中和塩、タングストリン酸、モリブドリン酸、タングストケイ酸、モリブドケイ酸等のヘテロポリ酸、およびその部分中和塩、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機スルホン酸、酸性イオン交換樹脂等のプロトン酸等が挙げられる。
【0034】
反応は有機溶媒の存在下で実施することもできる。使用される有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;アセトニトリルなどのニトリル類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族有機溶媒などが挙げられる。
【0035】
加水分解終了後、使用された触媒は無機酸などにより中和することもできる。中和に使用される無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などであるが、水溶液として使用することは効果的である。中和は無機酸を滴下しながら、中和熱を冷却により除去することも好ましい。
【0036】
加水分解反応の温度は、例えば、10〜150℃である。中和の時は加水分解温度と同じでもよいし、それより低くすることも可能である。
【0037】
使用される触媒は原料として使用されるCNエステル1モルに対して、例えば、0.1〜10モルである。また、中和に使用される無機酸の量は、加水分解反応液を中性以下にするように使用されることが好ましい。
【0038】
加水分解工程で製造された2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸(CN酸)は例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段により、又はこれらを組み合わせることにより分離精製できる。
[ディールスアルダー反応工程]
前記の加水分解工程での原料として使用される2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸アルキルエステル(CNエステル)は前記式(4)で示されるように、シクロペンタジエンと2−シアノアクリル酸アクリルエステルとによるディールスアルダー反応によって製造される。
【0039】
シクロペンタジエンと2−シアノアクリル酸アルキルエステルとの反応は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、例えば、酢酸エチルなどのエステル;酢酸などの有機酸;t−ブチルアルコールなどのアルコール;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;エチルエーテル、テトラヒドロフランなどの鎖状又は環状エーテルなどが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上混合して用いられる。
【0040】
反応速度や反応の選択性(立体選択性等)を向上させるため、系内にルイス酸を添加してもよい。ルイス酸としては、例えば、AlCl3、SnCl4、TiCl4、BF3、ZnI2などが例示されるが、これらに限定されない。反応温度は反応原料の種類等に応じて適宜選択できるが、一般には−80℃〜300℃程度、好ましくは−70℃〜250℃程度である。反応は常圧又は加圧下で行われる。反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行ってもよい。生成した化合物(CNエステル)は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段により、又はこれらを組み合わせることにより分離精製できる。
【0041】
2−シアノアクリル酸アルキルエステルであるアルキルエステルのアルキル基は炭素数1から4のアルキル基であるが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基であり、プロピル基及びブチル基はイソ、セカンダリー、ターシャリーなどの異性体を含む。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1
2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸エチルエステルの合成
攪拌機、冷却器、滴下ロートを備えた500ccの丸底フラスコに2−シアノアクリル酸エチル50g(0.40モル)をトルエン200mlに溶解させ、35℃以下の温度で冷却しながら、1,3−シクロペンタジエン45g(0.68モル)を滴下して加えた。1時間撹拌後、濃縮することにより、2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸エチルエステル(粗生成物)を72g得た。
実施例2
2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸の合成
攪拌機、冷却器、滴下ロートを備えた2Lの丸底フラスコに、25重量%水酸化ナトリウム水溶液435gと実施例1で得られた2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸エチルエステル400g(2.09モル)を添加し20〜40℃で2時間攪拌した。その後、同温度で35重量%塩酸を滴下ロートよりpHが1以下になるまで攪拌しながら滴下した。反応液を分液ロートに移し、トルエン1000gを添加して充分に混合し、有機層を分離し、水層に再度トルエン1000gを加え充分に攪拌し、有機層を分離した。分離した有機層を合わせてエバポレーターにて約900gになるまで減圧で濃縮した。濃縮後、内温を約40℃にしてヘプタン2300gを添加し、35〜40℃で1時間静置した。次いで、2℃以下まで冷却し、更に5時間静置した。析出した固体はろ過により分離し、ヘプタン400gでリンスした。固体を減圧乾燥することにより、2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸300g(1.84モル;収率88%)が得られた。
実施例3
2−ヒドロキシ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−6−カルボニトリルの合成
攪拌機、冷却器、滴下ロートを備えた2Lの丸底フラスコに、実施例2で得られた2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸270g(1.65モル)と水420g、タングステン酸12.4g(0.05モル)を加え70℃に昇温し、30重量%過酸化水素水280g(過酸化水素として(2.47モル)を滴下ローとより2時間かけて滴下し、更に同温度で4時間攪拌を続けた。その後、2℃以下まで冷却し析出した固形物をろ過し、水200gでリンスし、固体は減圧乾燥により乾燥することで2−ヒドロキシ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−6−カルボニトリル178g(0.99モル;収率60%)が得られた。
[2−ヒドロキシ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−6−カルボニトリルのスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3) δ:4.52-4.54(1H), 3.69-3.73(2H), 2.54-2.55(1H), 2.29-2.35(2H), 2.13-2.16(1H), 1.85-1.88(1H)

実施例4
2−メタクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの合成
攪拌機、冷却器、滴下ロートを備えた2Lの丸底フラスコに、実施例3で得られた2−ヒドロキシ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−6−カルボニトリルを23g(0.13モル換算)をテトラヒドロフラン(THF)252gに溶解させ、トリエチルアミン16.9g(0.17モル)、ヒドロキノン0.2gを加え、5℃で冷却しながら、メタクリル酸クロリド18.3g(0.18モル)を滴下して加えた。反応混合液に水300mlを加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を炭酸水素ナトリウム水溶液及び水で順次洗浄した後、有機層を濃縮し、濃縮物をジイソプロピルエーテルで晶析することにより、2−メタクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンを14g(0.057モル;収率44%)を得た。
[2−メタクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンのスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3) δ:6.12(d, 1H), 5.69(d, 1H), 4.83(1H), 4.69(1H), 3.82-3.83(1H), 2.78(1H), 2.27-2.45(3H), 2.04(1H), 1.93(3H)





【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

で示される反応工程を含むことを特徴とする2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法。
【請求項2】
前記式(1)中に記載された反応工程において、酸化剤として過酸化水素を使用することを特徴とする請求項1記載の2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法。
【請求項3】
前記式(1)中に記載された反応工程において、触媒としてタングステン酸を使用することを特徴とする請求項1記載の2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法。
【請求項4】
下記式(2)
【化2】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
で示される反応工程を含むことを特徴とする請求項1記載の2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法。
【請求項5】
前記式(2)で示される反応工程において、(メタ)アクリル化剤として(メタ)アクリルクロライドを使用することを特徴とする請求項4記載の2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法。
【請求項6】
前記式(1)において示された化合物2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸は下記式(3)
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
により示される反応工程によって製造されることを特徴とする請求項1記載の2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法。
【請求項7】
前記式(3)において示された化合物2−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸アルキルエステルは下記式(4)
【化4】

(式中、Rは前記に同じ。)
により示される反応工程によって製造されることを特徴とする請求項1記載の2−(メタ)アクリロイルオキシ−6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナンの製造方法。

【公開番号】特開2008−81404(P2008−81404A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259843(P2006−259843)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】