説明

2−6族半導体材料をアニールするためのチャンバー、装置、及び、方法

【課題】2−6族半導体材料の汚染リスク低減とドーピングの正確性、再現性と信頼性を実現する。
【解決手段】2−6族半導体材料のアニールのためのチャンバー7は、周期表の第2B族元素を蓄えるための第1の領域8と、2−6族半導体材料を受けるように設計された第2の領域9と、を有する。チャンバー7は、中間領域13の高さに、分離パーティション12が備えられている。この分離パーティション12には通路開口部14が設けられており、通路開口部14は、第1の領域8から第2の領域9への気体状の周期表の第2B族元素の一方向の流れを確保する、ガス逆流止め装置15を備えている。このチャンバー7は、2つの領域8、9を個別に加熱することができる加熱手段6a、6bによって加熱される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期表の第2B族元素(element of group IIB of the periodic table)の第1の蓄積領域と、2−6族半導体材料(semi-conductor material of II−VI type)を受けるように設計された第2の領域とを有する、2−6族半導体材料をアニールするチャンバー(chamber)に関する。
【0002】
また、本発明は、このようなチャンバーを備える2−6族半導体材料をアニールする装置と、周期表の第2B族元素の存在の下で、このような装置を用いて2−6族半導体材料をアニールする方法と、に関する。
【背景技術】
【0003】
外因性(Extrinsic)のp型もしくはn型半導体材料は、特に、例えば、ダイオードもしくはバイポーラトランジスタといった半導体装置のp-nもしくはn-pジャンクション、又は、n−p−nもしくはp−n−pダブルジャンクションを形成するために用いられる。これらのp型もしくはn型の半導体は、従来においては、様々なドーピング方法によって得られてきた。特に、熱処理、又は、アニールは、周期表の第2B族元素を2−6族半導体材料の結晶格子の中に拡散させて、2−6族半導体材料の結晶格子欠陥を治し、特に、光電気特性を改善するために、行われる。
【0004】
テルル化カドミウム水銀(mercury cadmium telluride)の単結晶(HdCdTe、又は、MerCaTel、以下頭文字をとってMCTと記述する)といった、n型単結晶化合物は、固有赤外線検出器(intrinsic infrared detector)として用いることが特に適していた。これらは、外因性の電荷キャリアの濃度を調整し、2−6族半導体材料の導電性のタイプを制御することによって、得ることができる。MCT結晶の伝導性特性は、従来においては、乾性水銀圧力(dry mercury(Hg) pressure)の下でのアニールにより調整することができる。格子間の水銀原子は、ドナーとして振る舞い、水銀空孔(mercury vacancy)は、アクセプタとして振舞う。アニールは、MCT結晶の空孔を満たすように誘導し、空孔は水銀原子により満たされ、p型結晶と比べて良い光電気特性を示すn型HgCdTe単結晶を形成する。
【0005】
文献JP−A−9326404には、水銀の存在の下でMCTウエハを熱処理し、MCTの結晶性を改善させることが記載されている。図1に示すように、MCTウエハ1と液体水銀2とは、封入されたアンプル3に配置される。アンプル3は、所定のものとして形成され、且つ、アンプル3の周りに配置された加熱手段4により生成された所定の一定のアニール温度にさらされている。液体水銀2は、アンプル3の下部に、言い換えると、MCTウエハ1の反対側に、配置されている。液体水銀は蒸発し、ガス状(in vapor phase)の水銀5はMCTウエハ1に作用する。アニール温度は、MCTウエハ1の結晶格子の空孔がガス状の水銀5によって満たされるまで、所定のアニール時間の間、維持される。アンプル3に入れられる液体水銀2の量は、所望の電荷キャリア濃度に対応するように、非常に正確に見積もられる。
【0006】
G.L.Destefanisは、文献“Electrical Doping Of HgCdTe by Ion Implantation and Heat Treatment”(Journal of Crystal Growth、1988、n86、P.700-722)において、実際には、MerCaTelの単結晶の電荷キャリア濃度は、アニール温度(Tr)と、水銀蒸気分圧(PHg)に依存する、と説明している。図2に示される相平衡ダイヤグラム(phase equilibrium diagram)は、乾性水銀(Hg)圧力の下で行われるアニールの際の、式Hg0.8Cd0.2Teで示されるMerCaTelの単結晶の平衡領域を定義する。この文献は、n型又はp型の電荷キャリア濃度と、アニール温度(Tr)及びアンプル3中の平衡におけるHg蒸気の分圧に対応するアニール圧力(Pr)と、の関係を強調している。それゆえ、Tr/Prの対は、一定の濃度におけるラインLの沿った内部平衡の存在の下で、Hg0.8Cd0.2Teの単結晶のドーピングを調整する。従って、PrとTrのパラメータを調整することは、所望のドーピング率をMCT単結晶中の所定の電荷キャリア濃度に対応するようにするように得ることを可能にする。Pr、及び/又は、Trの変化は、Hg0.8Cd0.2Teの単結晶のドーピング率の変化を導く。
【0007】
アンプル3に入れられる液体水銀2の量は、平衡における理想気体についての以下の式(1)で計算することができる。
【数1】

式(1)中において、
Prはアニール圧力(単位:Pa)
Vは、ガス状の水銀5が占めるアンプル3の体積(単位:m
は、アンプル3に入れられた液体水銀2のモル数(単位:mol)
Rは、理想気体の気体定数であり、R=8.314472JK−1mol−1
Trは、アニール温度である(単位:K)
アンプル3に入れられる液体水銀2のモル数は、Hg0.8Cd0.2Teの単結晶の空孔を満たすために必要なものであり、以下の式(2)に従い電荷キャリア濃度を与えるものである。
【数2】

【0008】
水銀のモル質量ρ(200.59gmol−1)は公知であり、以下の式(3)から、アンプル3に入れられる液体水銀2の質量を推定することができる。
【数3】

【0009】
例としては、400℃(673.15K)のアニール温度Trにおいてアニールを行う場合には、電荷キャリア濃度1017at.cm−3であるHg0.8Cd0.2Teの単結晶を得るためには、図2の相平衡ダイヤグラムに従って、圧力Prは、10−1atm(1.01325×10Pa)となる。
【0010】
式(1)から、熱力学平衡における(Pr、Tr)の対に対応する水銀のモル数は、計算され、例えば、n=1.44×10−3mol、アニール圧力Pr=1.01325×10Pa(10−1atm)、アニール温度Tr=673.15K(400℃)となる。
【0011】
水銀のモル質量(200.59gmol−1)は公知であることから、8×10−4に対応するアンプル3の体積に対して、1017at.cm−3の電荷キャリア密度のために必要とする液体水銀2の量は、例えば、289mgの水銀と推定される。
【0012】
事前に、アンプル3に入れられる液体水銀の量は、正確に重量が測られ、アンプル3に入れられる。次いで、アンプル3は封入される、
それにもかかわらず、液体水銀2の重量の測定において、重量の数%におよぶ重量の不確かさを伴う、しばしばエラーが起きる。この不確かさは、アニール圧力Prと、それに続く、ドーピング率とにたいして、重大な影響を与える。このような装置におけるドーピングは、再現性を確保することが難しく、且つ、精度を欠くものである。さらに、アンプル3の中で得られる実際の圧力と論理的圧力との間の圧力差は、熱力学的平衡に到達して初めて測定することができる。このエラーは、アンプル3を壊すことによってのみ修正することができ、測定操作と、アンプル3の密封と、所望のアニール圧力Prを得るためにアニールすることと、を繰り返すこととなる。
【0013】
さらに、アンプル3に入れる前に、液体水銀2の重量を測定することは、しばしば汚染源となる。液体水銀2の重量を正確に測定することは、様々なハンドリング(handling)を必要とし、従来においては、シリンジ、スパチュラを用いて重量を調整する。ハンドリング動作がうまくいっても、反対のドーピング、又は、MCTウエハ1の所望しないドーピングを起こすことがある。
【0014】
他の公知の方法では、過剰な水銀の存在の下でアニールすることを提案する。文献US−A−3723190では、特に、p型Hg1−xCdTe材料に温度勾配を与えることによって、式Hg1−XCdTe(0<X<1)を持つn型MCTを準備するための方法が記載されている。熱処理は、一様な材料を得るためのMCTの固相線温度(solidus temperature)よりも低い温度での第1の処理と、次いで、材料の化学量(stoichiometry)と、それに続く導電型とを調整するために、過剰な水銀の存在の下での第2の処理と、を備える。第2の熱処理は、n型材料中の自由電子の集中を減らし、又は、p型材料がn型に変化することを減らす。それにもかかわらず、第2の熱処理を経た過剰な水銀の存在は、MCTウエハを構成する元素(element)の一部を凝固(fix)し、その結果、ガス状(gaseous phase)の水銀を介して、これらの元素が、分解又は沈殿する。この2番目の影響は、ドーピングの質に作用する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、従来技術の欠点を改善する2−6族半導体材料のアニールのためのチャンバーを提供することである。特に、本発明の目的は、汚染のリスクを減らしつつ、2−6族半導体材料のドーピングが、正確に、且つ、再現性と信頼性があるものとして実施することができるチャンバーを提案することである。
【0016】
さらなる本発明の目的は、2−6族半導体材料のアニールのための装置を提供することであり、この装置は、このような装置において用いられる周期表第2B族元素が存在する下でのアニール方法をも提供するチャンバーを備える。
【0017】
本発明によれば、この目的は、以下のクレームによる、チャンバー、アニール装置、アニール方法によって、達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来技術による2−6族半導体材料のアニール装置の断面を示す図である。
【図2】式Hg0.77Cd0.23Teのテルル化カドミウム水銀におけるアニール温度に対する水銀分圧を示す相平衡ダイヤグラムを示す図である。
【図3】本発明による2−6族半導体材料のアニールのための装置の特有な実施形態の断面を示す図である。
【図4】図3のアニール装置を使用した、周期表中の第2B元素の存在の下での2−6族半導体材料のアニールの方法の異なる工程を示す断面図である。
【図5】図3のアニール装置を使用した、周期表中の第2B元素の存在の下での2−6族半導体材料のアニールの方法の異なる工程を示す断面図である。
【図6】図3のアニール装置を使用した、周期表中の第2B元素の存在の下での2−6族半導体材料のアニールの方法の異なる工程を示す断面図である。
【図7】図3のアニール装置を使用した、周期表中の第2B元素の存在の下での2−6族半導体材料のアニールの方法の異なる工程を示す断面図である。
【図8】図3のアニール装置を使用した、周期表中の第2B元素の存在の下での2−6族半導体材料のアニールの方法の異なる工程を示す断面図である。
【図9】水銀の液体/気相ダイヤグラムを示す図である。
【図10】V=8×10−4の体積を持つチャンバー中の熱力学平衡における、温度に対するガス状の水銀のモル数の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
他の利点及び特徴は、本発明の特定の実施形態についての下記の説明により、さらに明らかにされる。本発明の特定の実施形態は、単なる例示であって、本発明を限定するものではない。本発明の特定の実施形態は、添付の図面により示される。
【0020】
図3に示されるように、周期表の第2B族元素の存在する下で2−6族半導体材料をアニールするための装置は、2−6族半導体材料をアニールするチャンバー7と、加熱手段6aと6bと、加熱温度を制御する手段と、を備える。チャンバー7は、特に、2−6族半導体材料としてのテルル化カドミウム水銀(HgCdTe)のアニールに特に最適なものである。
【0021】
テルル化カドミウム水銀は、化学式Hg1−XCdTeの化合物であり、Xは、厳密には0と1との間である(0<X<1)。
【0022】
周期表の第2B族元素は、有利には、水銀である。水銀は、周期表の他の第2B族の元素と比べて低い分圧を持つという利点を持つ。
【0023】
構成する元素の1つの蒸気圧の下でアニールすることによりドーピングの調整するCdTe、GaAs、GaP、又は、InPといった他の半導体でも、用いることができる。
【0024】
特有の実施例によれば、2−6族半導体材料は、テルル化カドミウム水銀であり、周期表の第2B族は、周囲温度下での液体水銀2である。
【0025】
図3に示されるように、チャンバー7は、液体水銀2の第1の蓄積領域8と、MCTを受けるように設計された第2の領域9とを有する。後者は通常のMCTウエハ10を形成する。チャンバー7の内壁に固定された格子11は、MCTウエハ10を支持し、同時に、MCTの表面を最大限さらす(exposing)ものである。
【0026】
チャンバー7は、さらに、中間領域13の高さにある分離パーティション12を備える。分離パーティション12は、通路開口部14が設けられており、通路開口部14は、第1の領域8から第2の領域9へのガス状の水銀5の一方向の流れを確保するためのガス逆流止め装置15を備える。分離パーティション12は、それぞれ第1の領域8と第2の領域9とに対応する、体積VとVとの輪郭を形成する。
【0027】
ガス逆流止め装置15は、チェックバルブ(逆止め弁)によって形成されることができ、好ましくはボールチェックバルブである(図3)。
【0028】
他の実施形態によれば、ガス逆流止め装置15は、機械的なシステムによって形成することができ、その開閉は、手動をきっかけとする。
【0029】
チャンバー7は、有利には、中間領域13の高さにおいて、狭められた(reduced)内部断面を有する。チャンバー7は、石英で形成されることが好ましく、例えば、中間領域13の高さにおいて狭くなっている、石英アンプルである。この構造の特徴は、第1の領域8と第2の領域9との間の熱交換を減らすことにある。チャンバー7の壁は、好ましくは、中間領域13の高さにおいて、断熱材(thermal insulation)16を備える。従って、第1の領域8と第2の領域9とは、互いの熱を遮断する。チャンバー7の外周全体は、例えば、中間領域13の高さにおいて、断熱材を形成するロックウールで囲むことができる。
【0030】
チャンバー7は、有利には、蓋密封部材(plugging and sealing member)17(図3中の上部)を備え、蓋密封部材は、チャンバー7をしっかり閉める。蓋密封部材17が密封することによってチャンバー7が閉められる前にチャンバー7中の真空が形成されることによって第1の領域8に液体水銀2が入れられる後において、チャンバー7を、減圧することができる。
【0031】
従って、第2の領域9の体積Vは、その上部については蓋密封部材17によって、チャンバー7の側壁によって、及び、その下部については分離パーティション12とボールチェックバルブ15とによって、輪郭が形成される。
【0032】
液体水銀2の存在の下でMCTウエハ10をアニールする装置は、チャンバー7と、加熱手段6a及び6bと、第1の領域8と第2の領域9の加熱温度を、互いに独立して制御することができる、不図示の制御手段と、を備える。
【0033】
様々なMCTウエハ10は、第2の領域9に並べられ、又は、格子11の上のウエハの上に、互いに離して、配置される。
【0034】
加熱手段(図3中の6a及び6b)は、第1の領域8及び第2の領域9を個別に加熱し、特定の異なる温度を維持できるようにするものである。
【0035】
例えば、制御信号Aは、第1の領域8の加熱手段6aを制御し、一方、制御信号Aは、個別に、第2の領域9の加熱手段6bを制御する。
【0036】
図3に示される特有の実施形態によれば、加熱手段6a及び6bは、それぞれ第1の領域と第2の領域9とを覆う、少なくとも2つの加熱手段により形成することができる。各加熱手段は、有利には、一様な温度を得ることができる領域に対応する、チャンバー7の外周部全体を覆うものである。加熱手段6a及び6bは、領域8と領域9と中間領域13とにおいて、一定、且つ、一様な温度を得ることができるように、配置される。チャンバー7中での濃縮を妨げるために、コールドスポットの存在は避けるべきである。
【0037】
制御手段による加熱手段6a及び6bの温度制御は、同時に、及び/又は、連続して、第1の領域8及び第2の領域9を加熱することによって、チャンバー7中の温度傾斜を使いこなすことができる。
【0038】
さらに、第1の領域8と第2の領域との間の熱交換を最小限にする断熱材16は、第1の領域8と第2の領域9とに対する、熱制御、及び/又は、冷却を改善する。
【0039】
好ましい実施形態においては、加熱手段6a及び6bと、互いに独立した第1の領域8と第2の領域9との加熱温度の制御手段と、は、有利には、2つのゾーン炉によって形成される。
【0040】
周期表の第2B族元素の存在における2−6族半導体材料のドーピングは、上記のアニール装置を用いるアニール方法の手段によって行われる。
【0041】
図4から図8に示される特有の実施形態によれば、方法は、アニール装置の第1領域8に、室温下の液体水銀2を入れる第1の工程を備える。この工程の間、蓋密封部材17は、第1の領域8にアクセスできるように、チャンバー7から離される。
【0042】
汚染の問題と、ドーピング元素を構成する液体水銀2の必要な重量測定と、を避けるために、過剰な液体水銀2は、ドーピング元素としてチャンバー7に供給される。過剰な量とは、上記の式(3)から計算された水銀2の量と、MCTウエハ10の所定のドーピング率を得るために必要な量と、を考慮したものである。ドーピング率は、第2の領域の定義された体積V中の気体状の水銀5のモル数nrに対応するものである。従って、8×10−4の体積Vと、1.44×10−3モルと等しいモル数nrと、400℃及び10−1atmにそれぞれ対応する(Tr、Pr)の対と、において、ドーピング率1017at.cm−3を得るために必要な液体水銀2の量は、289mgの水銀である。
【0043】
実際には、液体水銀2を調整するためのドーズ前のアンプルは、市販されているものを用いることができる。アンプルを調整することによって、例えば、300mgよりも大きい、好ましくは、この値よりはるかに大きい、過剰な液体数銀2を、アンプル7の第1の領域8に入れることを可能にする。例えば、500mgから5000mgの液体水銀2を入れることができる。液体水銀2は、有利には、その初期調整されたアンプルからチャンバー7の第1の領域8に移動する。この移動は、ハンドリング、又は、液体水銀2の汚染源となりうるいかなるものとの接触を伴わずに行うことができる。
【0044】
ガス逆流止め装置15がボールチェックバルブである場合には、液体水銀2の注入は、通路開口部14を開放するために、一度ボールチェックバルブ15をそのハウジングから除去してから行う(図4)。
【0045】
図5に示されるように、ボールチェックバルブ15は、通路開口部14を密封するためにそのハウジングに戻される。MCTウエハ10は、格子11の上に配置され、チャンバー7内の圧力がゼロに近くなるように、チャンバー7内に真空が形成される。真空は、公知の方法によって形成される。例えば、チャンバー7は、真空チャンバーの中に配置することができる(不図示)。
【0046】
図示していない他の実施形態によれば、事前に真空を形成し、ポンピング工程(pumping step)の間、水銀を凝固させる(freeze)ために、チャンバー7を液体窒素によって冷却する。
【0047】
従って、蓋をして、及び/又は、密封する部材17は、例えば、シーリングによって、チャンバー7を密封するために、同じ位置に戻される。
【0048】
加熱手段は、手動で制御され、又は、互いに独立した第1の領域8及び第2の領域9の加熱温度制御手段による自動プログラミングにより、制御される。
【0049】
従って、第1の領域8と第2の領域9とは、同時にもしくは連続に、同じ所定の温度Tに加熱され、気体状の水銀5が、第1の領域8から第2の領域9へ移動するようにすることができる(図6)。これは、体積VとVとが等しい場合、特定の信号A=A=A(T)を加熱手段6a及び6bに与えることにより得ることができる。
【0050】
第2の領域9中の所望の水銀のモル数nrを得るために、温度Tは見積もられる。このモル数nrは、与えられた体積において公知の化学量を有するMCTウエハ10の気体状の水銀5のドーピング率を参照する。モル数nrは、図2に示されるダイヤグラムに従って決定される(Tr,Pr)の対に対する所望の電荷キャリア濃度に対応する。例えば、電荷キャリア濃度1017at.cm−3のためには、(Tr、Pr)の対は、(400℃、10−1atm)と等しく選択される。
【0051】
温度Tは、図9に示される、公知の水銀の液相/気相転移ダイヤグラムから決定される(クラペイロンの式)。熱力学的平衡においては、気体状の水銀5は、液体水銀2と、水銀の飽和蒸気圧(saturating vapor pressure)PVSに対応する水銀分圧Pと、の平衡状態にある。
【0052】
式(2)を適用することによって、例えば、8×10−4といった与えられる体積V2と、図9に示される公知の相ダイヤグラムから、熱力学的平衡における、気相中に示される水銀のモル数の連続する曲線は、温度に対してプロットすることができる(図10)。従って、第2の領域9に存在する気体状の水銀5のモル数は、温度Tによって全体的に制御される。
【0053】

例えば、それぞれ400℃、10−1atm(図2)に対応する(Tr、Pr)の対に対して、式(2)に従ってモル数nrは計算され、事前に定義された値としては、1.44×10−3モルとなる。
【0054】
図10のダイヤグラムにプロットされた曲線に、この値nrを移動させることによって、242℃の温度Tは、決定される。この242℃の温度は、チャンバー7の温度に対応するものであり、特に、第1の領域8及び第2の領域9は、飽和水銀圧PVSと等しい熱力学的平衡における水銀の分圧Pにさらされることとなる。242℃と等しい温度Tにおいて、気体状の水銀5のモル数nrは、1.44×10−3モルと等しく、第2の領域9の体積Vは、8×10−4となる。
【0055】
図6に示されるように、気体状の水銀5が第1の領域8に放射されることによって、ボールチェックバルブ15は持ち上げられ、気体状の水銀5は、第2の領域9に入る。同じ温度Tまで第1の領域及び第2の領域を加熱することは、チャンバー7の全体の水銀分圧Pが、所望のドーピング率のための飽和水銀圧PVSの対応する値に到達するまで、気体状の水銀5を第1の領域8から第2の領域まで移動させる。特に、中間領域13において、コールドスポットの形成を妨げるために、温度は、有利には、一様である。
【0056】
加熱手段が加熱炉である場合には、加熱の間、チャンバー7中に位置するコールドスポットの形成と、その結果である水銀の濃縮とを妨げるために、チャンバー7は、要求に応じて、加熱炉中に移動させることができる。
【0057】
図7に示されるように、熱力学平衡において、気体状の水銀5は、過剰な液体水銀2と平衡状態にあり、チャンバー7全体を満たす。チャンバー7中の圧力は、水銀の飽和蒸気圧PVSと等しい。第1の領域8及び第2の領域9において、圧力は一様である。その結果、ボールチェックバルブ15は、そのハウジングに戻り、通路開口部14を密封する。
【0058】
従って、MCTウエハ10は、Tよりも高いアニール温度Trで、少なくとも第2の領域9を加熱することによって、アニールされる。アニール温度Trは、与えられる値の中のアニール圧力Prによって定義される(図2)。第2の領域9中に存在する気体状の水銀5は、(Tr,Pr)の対に対応する式(3)に従って計算された水銀のモル数nrを含む。
【0059】
第1の領域8の加熱は、アニール・ステップの間、中断される。有利には、アニール・ステップの間、第1の領域8は、ボールチェックバルブ15の密閉性を改善するように、Tより低い温度に冷却される。この工程の間、中間領域13は、体積Vの中にコールドスポットが形成されることを妨げるために、好ましくは、温度Tである。
【0060】
所望のドーピングレベルに対応するアニール温度Trに加熱することは、有利には、第2の領域9にのみに対して行う。これは、信号A=A(Tr)及びA=0により達成される。図8に示されるように、第2の領域9中の圧力Prは、第1の領域8のものよりも高く、冷却は、領域8の気体状の水銀5の凝集を起こす。閉められたボールチェックバルブは、気体状の水銀5が、第2の領域9から第1の領域8へ戻ることを妨げる。
【0061】
アニール温度Trは、通常数日間にわたる所望のドーピング率に到達するために必要なアニール時間の間、維持される。
【0062】
特有の実施例によれば、不図示の圧力センサは、チャンバー7の内側に配置され、実際には、アニール圧力Prが所望の圧力になっているかをチェックするために、第1の領域8と第2の領域9との圧力を測定できるように構成されている。
【0063】
従って、周期表の第2B族元素2の存在の下で、2−6族半導体材料10をアニールのための方法は、以下の連続するステップを備える。
− 過剰な周期表の第2B族元素2を第1の領域8に導入し、
− チャンバー7中に真空をつくり、
− 前記チャンバー(7)を密封し、
− 水銀の飽和蒸気圧PVSにおいて、第1の領域8と第2の領域9との間の平衡圧力が得られるまで、第1の領域8と第2の領域9とを同じ所望の温度Tに加熱し、
− Tよりも高いアニール温度Trに第2の領域9を加熱することにより、2−6族半導体材料10をアニールする。
【0064】
例えば、直径10cmの石英アンプル7は、高さ10cmの第1の領域8と、高さ10cmの第2の領域を有し、格子11が設けられ、その上には、厚さ10μm、表面積36mm×38mmのHg0.8Cd0.2Teウエハが配置される。アンプル7は、調整用アンプルから直接移動した5gの液体水銀2で満たされる。中間領域13は、1.5cmの狭められた内部断面と、5cmを超える高さを持つ。石英の分離パーティション12は、直径1cmの石英のボールチェックバルブ15を支える。アンプル7は、液体窒素により冷却され、圧力0.1Paに到達するまで、真空が形成される。アンプル7は、ブロウパイプを有する石英プラグ18により密閉されることで、しっかりと閉められる。次いで、アンプル7は、AET Technologyにより市販されたハロゲンランプを有する2ゾーン炉に配置され、プログラムされた温度傾斜を伴って加熱される。熱力学的平衡に到達するまで、第1の領域8と第2の領域9とは、温度241.3℃のTに第1加熱される。次いで、第2の領域9は、1日の間、400℃のアニール温度Trにまで加熱される。アニール・ステップの間、第1の領域8の加熱は中断される。得られる電荷キャリア濃度は1017at.cm−3である。
【0065】
第2領域9の温度を調整することは、熱処理を中断すること、及び、チャンバー7を開けることを、伴わずに、アニール圧力Prを、最適化することを可能にする。温度T、及び/又は、Trの変化は、nr、及び/又は、圧力Prを最適化することとなり、従って、ドーピング率の最適化することとなる。このアニール装置のおかげで、2−6族半導体材料のドーピングは、単に、温度制御及び調節から行うことができる。
【0066】
しかしながら、温度は、制御することが簡単であり、アニールの間、例えば、熱電対によって、調整することができる。さらに、温度測定における不確かさは、液体水銀2の重量測定よりかなり低いものである。モル数nrの不確かさは、実際には、以下に式(4)から計算される。
【数4】

【0067】
例えば、1.44×10−3のモル数と、1K以下のエラーマージン(margin of error)を持つアニール温度673.15Kと、に対しては、モル数のエラーマージンΔnは、10−5モルとなり、言い換えると、0.14%であり、それに対して、重量を測定した場合には数%となる。従って、増幅率(gain)は、ファクター10よりも大きくなる。
【0068】
上記のアニール装置は、有効であり、且つ、加熱処理の間、2−6族半導体材料のドーピングの品質に影響を与えるようなハンドリング操作を減らすことができる。さらに、従来の製造方法とは異なり、本発明によるアニール方法は、簡単に行うことができる温度T及びTrの制御及び調節に基づき、高い再現性を伴うドーピング率の制御を、フレキシブルに、且つ、補償し、さらに、低い汚染率とするものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−6族半導体材料のアニールのためのチャンバーは、周期表の第2B族元素を蓄えるための第1の領域(8)と、2−6族半導体材料を受けるように設計された第2の領域(9)と、を有し、
前記チャンバーは、中間領域(13)の高さにある分離パーティション(12)を備え、前記分離パーティション(12)は、通路開口部(14)が設けられており、前記通路開口部(14)は、前記第1の領域(8)から前記第2の領域(9)への気体状の前記周期表の前記第2B族元素の一方向の流れを確保するガス逆流止め装置(15)を備えている、
ことを特徴とするチャンバー。
【請求項2】
前記ガス逆流止め装置(15)はチェックバルブで形成されることを特徴とする請求項1に記載のチャンバー。
【請求項3】
前記チェックバルブはボールチェックバルブであることを特徴とする請求項2に記載のチャンバー。
【請求項4】
前記チャンバー(7)は、前記中間領域(13)の高さにおいて、狭められた内部断面を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のチャンバー。
【請求項5】
前記チャンバー(7)の壁は、前記中間領域(13)の高さにおいて、断熱材を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のチャンバー。
【請求項6】
前記チャンバー(7)は石英から形成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載のチャンバー。
【請求項7】
前記チャンバーは蓋密封部材(17)を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載のチャンバー。
【請求項8】
前記2−6族半導体材料は、一般式Hg1−XCdTeのテルル化カドミウム水銀であり、Xは0から1の間であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載のチャンバー。
【請求項9】
前記周期表の前記第2B族元素は水銀であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載のチャンバー。
【請求項10】
周期表の第2B族元素の存在の下で2−6族半導体材料をアニールのための装置であって、
前記装置は、1から9のいずれか1つに記載の前記チャンバー(7)と、加熱手段(6a、6b)と、前記第1の領域(8)と前記第2の領域(9)との加熱温度を、互いに独立して制御することができる制御手段と、を備えることを特徴とする装置。
【請求項11】
前記加熱手段(6a、6b)と、互いに独立した前記第1の領域(8)と前記第2の領域(9)との加熱温度の前記制御手段とは、2ゾーン炉により形成されることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
2−6族半導体材料(10)のアニールのための方法であって、周期表の第2B族元素(2)の存在の下で、請求項10又は11に記載の前記アニール装置を用いる方法において、
− 2−6族半導体材料の決められたドーピング率を得るために必要な周期表の第2B族元素(2)の量に対して、過剰であると見積もられた、過剰な周期表の第2B族元素(2)を前記アニール装置の前記第1の領域(8)に導入し、
− 前記装置の前記チャンバー(7)中に、真空をつくり、
− 前記チャンバー(7)を密封し、
− 前記チャンバー(7)中の前記第2B族元素の蒸気分圧Pが、所望のドーピング率の前記第2B族元素の飽和蒸気圧PVSに対応する値に到達するまで、前記第1の領域(8)と前記第2の領域(9)とを所定の温度Tに加熱して、気体状の前記第2B族元素(5)を、前記第1の領域(8)から前記第2の領域(9)へ移動させ、
− Tよりも高いアニール温度Trに前記第2の領域(9)を加熱することにより、2−6族半導体材料(10)をアニールする、
連続なステップを備えることを特徴とする方法。
【請求項13】
前記第1の領域(8)の加熱は、アニール・ステップの間、中断されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
アニール・ステップの間、前記第1の領域(8)は、Tよりも低い温度に冷却されることを特徴とする請求項12又は13に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−283345(P2010−283345A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−121300(P2010−121300)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(510225292)コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ (97)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】Batiment Le Ponant D,25 rue Leblanc,F−75015 Paris, FRANCE