説明

2層式固形糊、およびこれを繰出用容器に充填してなる繰出式固形糊

【課題】固形糊がスライダーから脱落して固形糊を繰出用容器内に収容しにくくなる現象を防止することができる固形糊、およびこれを繰出用容器に充填してなる繰出式固形糊を提供する。
【解決手段】溶媒と接着成分とゲル化剤とからなる固形糊において、固形糊のスライダー側の硬さを塗布側の硬さよりも硬くし、2層式にしたことを特徴とする固形糊、および前記固形糊を繰出用容器に充填したことを特徴とする繰出式固形糊。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形糊、およびこれを繰出用容器に充填してなる繰出式固形糊に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、家庭内やオフィス内において、紙などの被着体を接着する糊としては、スティック状の糊と液体糊とがある。スティック状の糊は一般的に、接着剤高分子としての水溶性高分子、ゲル化剤としての脂肪酸石鹸、溶媒としての水および多価アルコールを配合した組成物からなる(特許文献1等)。
【0003】
スティック状の糊は、図1に例示したような繰出式の容器(1)に固形糊(7)を充填し、筒体(2)内を昇降させられるスライダーに、固形糊を装着して筒体より固形糊の前端を開口(8)から出没させうるようにした繰出式固形糊として利用されることが多い。繰出式の容器は、例えば、特許文献2〜4等に記載されており公知である。
【0004】
例えば、繰出式の固形糊用容器(1)は、図2に中央縦断面図を示すように、筒体(2)の後端に装着された尾栓(3)の回動により、尾栓(3)と一体に形成されたネジ杆(4)を筒体(2)内で回動させることによって、該ネジ杆(4)に螺合されたスライダー(6)を、筒体(2)の内周面に軸線方向に設けた案内突条(5)による案内により、軸線方向に移動させるようにし、かつ後端部をこのスライダー(6)に保持させた固形糊(7)の前端部を、筒体(2)から出没させるようにしてある。スライダーには糊抜け防止のために壁面に突起を設ける場合もある。
【0005】
かかる繰出式の固形糊用容器(1)においては、固形糊(7)を繰り出して使用した後、再び筒体(2)内に没入させる際に、内容物が筒体内壁に粘り着いてしまい、固形糊(7)の後端部がスライダー(6)から脱落し、尾栓(3)を回動させても固形糊(7)を筒体(2)内に収容できなくなることがある(これを糊抜け現象という)。糊抜け現象には、スライダーの突起部分で糊がちぎれてしまう(つまり、スライダーの厚みによってもしくは突起があることによって、糊の断面積が小さくなってしまうことでちぎれやすくなる)現象と、スライダーから糊がすっぽり抜けてしまう(突起に引っかかるはずの糊がちぎれてしまう)現象の2種類がある。
【0006】
しかしながら、かかる欠点を解消するために、スライダーを高くして固形糊保持量を多くすると、使用できない固形糊の量が多くなるといった問題がある。
【特許文献1】特公昭47−25448号公報
【特許文献2】特開平11−59080号公報
【特許文献3】特公平8−5502号公報
【特許文献4】実用新案登録第2534943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、固形糊がスライダーから脱落して固形糊を繰出用容器内に収容しにくくなる現象を防止することができる固形糊、およびこれを繰出用容器に充填してなる繰出式固形糊を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討した結果、固形糊のスライダー側の硬さを塗布側の硬さより硬くすることによって、塗布感を変えることなくスライダー部分で糊がちぎれる現象が防止され、固形糊が繰出用容器内に収容しにくくなる現象を防止できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、溶媒と接着成分とゲル化剤とからなる固形糊において、固形糊のスライダー側の硬さを塗布側の硬さよりも硬くし、2層式にしたことを特徴とする固形糊を提供する。また本発明は、前記固形糊を、繰出用容器に充填したことを特徴とする繰出式固形糊を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固形糊のスライダー側の硬さを塗布側の硬さよりも硬くし、固形糊を2層式にすることによって、塗布感触を変えることなく、スライダー部分で糊がちぎれる現象や、糊が容器内に収容されにくくなる現象を防止することができる。よって、固形糊を最後まで使い切ることができ、使用中に手が汚れることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る固形糊において、溶媒としては、水のみ、または、水および水と混合しうる有機溶剤の混合溶媒、または、水と混合しうる有機溶剤のみを用いることができる。有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0012】
接着成分としては、フィルム形成性の水溶性または水に分散しうる、天然または合成高分子を用いることができる。例えば、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、アクリルエマルジョン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、水溶性澱粉、エトキシ化およびプロポキシル化澱粉、カルボキシメチル澱粉等が挙げられる。これらの接着成分は単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。前記のアクリルエマルジョンを構成するポリマーとしては、アクリル酸またはメタクリル酸エステルの単独重合体または共重合体であって、具体的にはアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルを主体とし、これとメタクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル等とを共重合した共重合体等を挙げることができる。
【0013】
ゲル化剤としては、脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩が挙げられる。
【0014】
固形糊には、溶媒と接着成分とゲル化剤のほかに、本発明の効果を阻害しない範囲内で染料あるいは顔料、香料、防黴剤、防腐剤などを添加することができる。さらに助剤として、可塑剤、滑剤、湿潤剤、増量剤、保湿剤、例えばトリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ソルビット、マンニット、グルコース、低分子量ポリエチレングリコール等を添加することもできる。
【0015】
本発明に係る2層式の固形糊を調製する場合は、接着成分5〜40重量%、好ましくは20〜35重量%と、ゲル化剤2〜25重量%、好ましくは3〜8重量%(いずれも固形分換算)と、残余量の溶媒と、を40〜100℃に調整された混合機に投入し、100〜300rpmの撹拌速度で約10〜60分間混合し、均一な混合物を得て型注入用の材料(A)とする。材料(A)は従来の固形糊と同じである。
【0016】
材料(A)と別に、材料(B)を調製する。接着成分5〜40重量%、好ましくは20〜35重量%と、ゲル化剤3〜30重量%、好ましくは5〜20重量%(いずれも、固形分換算)と、残余量の溶媒と、を材料(A)と同様の方法で混合する。ただし、ゲル化剤の使用量は、材料(A)で用いた量よりも多くするが、該量は用いるゲル化剤の種類によって異なるため特に限定されない。一般には、材料(A)における使用量の約1.2〜3倍量のゲル化剤を使用するのがよい。均一な混合物が得られた後に、熱い材料(B)を型に注入する。次いで、その上に、上記の材料(A)を熱いうちに注入する。
【0017】
型に注入された材料(A)と(B)を、冷却しながら固化させて固形糊を得る。冷却時に、材料(A)と(B)が接着されることによって2層式の固形糊が得られる。なお、材料の冷却方法は、徐冷あるいは急冷のいずれであっても良い。
【0018】
型に注入された固形糊は、ゲル化剤の使用量が、材料(A)よりも材料(B)の方が多いために、下部が硬く上部が軟らかい2層式の固形糊となる。固形糊の下部の硬さは、上部の糊の硬さの1.2〜3倍の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは1.5〜2.5倍、特に好ましくは1.5〜2倍の範囲である。下部の硬さが上部の硬さの1.2倍未満の場合は、スライダーからの脱落を防止するのに不十分であり、一方、硬さが3倍を超える場合は、糊が硬くなりすぎて型にうまく注入できなくなる。固形糊における材料(A)と(B)の割合は特に限定されるものではなく、固形糊を装着する繰出用容器の形状に応じて設定することができる。
【0019】
固形糊の硬さは、一定の荷重を加えた先端直径1.5mmの針を糊表面に進入させたときの抵抗荷重の大きさから測定することができる。
【0020】
上記の方法で得られた2層式固形糊を、下部の硬い層が繰出用容器のスライダー側に、上部の軟らかい層(すなわち、通常の固形糊と同等の硬さの層)が繰出用容器の開口側になるように装着することにより、繰出式固形糊が得られる。塗布側に設けられた通常の硬さの固形糊は、筒体の開口よりそれの前端が出没するので、紙等の被着体に対する接着性は従来の固形糊と異ならない。スライダー側に設けられた通常よりも硬い固形糊は、スライダー部分でちぎれ難くなるため、結果的に、固形糊がスライダーから脱落して固形糊を繰出用容器内に収容しにくくなる現象を防止することができる。
【0021】
スライダー側に設けられる通常よりも硬い固形糊は、硬さの程度としては、9〜15×10−5N/cmの範囲であることが好適である。このようにスライダー側の糊を硬くすることによって、糊がスライダーから脱落し難くなる機構は明らかではないが、上述した糊抜け現象から推察すると、糊を硬くすることによって糊のちぎれを防止することができると共に、突起にしっかりと引っかかる糊ができるため、糊抜けを防止できると考えられる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例等において、特に言及しない限り「部」は「重量部」を意味する。
【0023】
(実施例1)
撹拌機を備えた混合機にて、表1に示す配合割合で各配合成分を撹拌しながら、約90℃に加熱し、十分に均一な材料が得られるまで撹拌した。次いで、熱材料(B)約1.5gを内径16mmの型に注入し(図2で説明すると矢印の高さまで注入)、その上に熱材料(A)約9gを注入した。その後、冷却して2層式固形糊を得た。
【0024】
(実施例2〜3)
下部材料(B)の成分を表1に示す配合割合とした以外は、実施例1に準じて、2層式固形糊を得た。
【0025】
(比較例1)
下部材料(B)の成分を表1に示す配合割合とした以外は、実施例1に準じて2層式固形糊を得ようとしたが、わずかに冷えただけでも固化が始まり、充填が困難であった。
【0026】
(比較例2)
実施例1で用いたものと同じ熱材料(A)のみを、内径16mmの型に注入し、冷却して固形糊を得た。
【0027】
【表1】

【0028】
得られた2層式固形糊を、図2に示すような繰出用容器に充填し、以下の方法によりスライダーから糊が抜けるかどうかを検証した。
【0029】
[往復試験]
120°ひねって戻す作業を手作業で往復30回行い、糊もどりの状態を以下の基準で評価した。◎:良好、×:不良。
【0030】
[繰り出し試験]
往復試験で糊抜けしなかったサンプル5本を使用して、スライダー部分までの繰り出しと繰り戻しを往復5回行い、糊抜けの状態を観察した。
◎:試験したサンプル全て糊抜けしない。
○:試験したサンプルのうち、1サンプル糊抜け。
△:試験したサンプルのうち、半分未満が糊抜け。
×:試験したサンプルのうち、半分以上が糊抜け。
【0031】
得られた2層式固形糊の各層の硬さおよび評価結果を、市販の固形糊の評価結果とあわせ、表2にまとめて示す。
【0032】
【表2】

【0033】
[糊硬さの測定方法]
レオメーター(レオテック社製FUDOUレオメーターRT2002D・D)にて、400g重の荷重を加えた先端直径1.5mmの針を固形糊の表面に進入させたときの抵抗加重を測定した。
【0034】
表2の結果から、下部の糊の硬さが上部の糊の硬さの1.5倍から2.5倍の範囲にあるときに、著しい糊抜けの減少が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る固形糊は、繰出用容器に装着して繰出式固形糊とした際に、固形糊がスライダーから脱落して固形糊を容器内に収容しにくくなる現象を防止できるため、家庭、オフィス、工場、店舗、学校、各種施設などにおいて都合よく使用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】固形糊用容器の分解斜視図である。
【図2】図1において、キャップを筒体に被せた状態の中央縦断面図であり、固形糊を繰出用容器に装着した状態の中央縦断面図である。
【符号の説明】
【0037】
(1)固形糊繰出用容器
(2)筒体
(3)尾栓
(4)ネジ杆
(5)案内突条
(6)スライダー
(7)固形糊
(8)開口
(9)キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒と接着成分とゲル化剤とからなる固形糊において、固形糊のスライダー側の硬さを塗布側の硬さよりも硬くし、2層式にしたことを特徴とする固形糊。
【請求項2】
固形糊のスライダー側の硬さが、塗布側の硬さの1.2倍〜3倍である請求項1記載の固形糊。
【請求項3】
請求項1または2記載の固形糊を、繰出用容器に充填したことを特徴とする繰出式固形糊。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−12193(P2009−12193A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173287(P2007−173287)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000134589)株式会社トンボ鉛筆 (158)
【Fターム(参考)】